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ヨモギ 【投稿日 2006/05/04】

カテゴリー-笹荻


仕事を始めてすぐの、春の休日のとこ。
笹原が家で午後になっても昼寝をしていると、呼び鈴が鳴った。
しかし起きない笹原。鍵が開く音がして、荻上が入ってきた。
「笹原さん、お疲れですね………。」
布団の中の笹原をみて呟く。
その時、笹原が薄く目を開けた。
「あ…ごめん、荻上さん。おはよう。」
「―――!すみません、起こしちゃいましたね。」
布団から起き上がって、笹原は伸びをした。
「いや~、寝すぎても疲れるからね。………ありがとう。」
まだ少し寝ぼけ気味の笹原は、はっと思い出した。
「そういえば、おやつ買ってきてあるから一服しよう。」
「じゃあ今、お茶淹れますね。」
台所に荻上が向かうと、草餅の4個入りパックが放置されていた。
勝手知ったる笹原宅。やがて笹原のデスクの隅に、熱い緑茶の
湯呑み2つと、草餅のパックが置かれていた。
「ふぅ…お茶ありがとう。草餅って、春の味だねぇ。」
「そうですね、子供の頃、母が手作りしてくれてましたよ。」
そう言いながら、草餅をぱくぱくと食べる荻上。
「それはもっと、田舎っぽいというか、ヨモギの味が強かったですけどねぇ。」
「やー、これスーパーの特売品だから…。」
お茶をすすりながら、笹原は苦笑いだ。
「そうだ、天気も良いし、ヨモギ取りに行きましょうか。」
「え?今から?…っていうかヨモギって生えてるところ有ったっけ?」
「大丈夫ですよ、雑草が生えてるような所なら。」

大きな河の河川敷にやってきた荻上と笹原。
犬の散歩をしている人や、家族連れでやってきて走り回る子供も居る。
「いい天気だねぇ。」
「黄砂で遠くが霞んでて、なんか幻想的ですね。」
そんな会話をしながら、土手を降りて草地を歩く二人。
「あの辺の、整地されてないあたりが良いですね。」
指差して、綺麗に草が刈られてない辺りへやってきた。
「これ、ヨモギです。裏が白いんですよ。」
「なるほどねぇ。匂いも特徴的だよね。」
「あと、大きいのは固いので、若いのだけ取るんですよ。」
草むらの横の土手の、草丈の低い所のあちこちに、濃い深緑のヨモギが見える。
「ちょっと季節が遅かったですかねぇ。」
「そうなの?まだ春まっさかりだけど。」
そう言う笹原の視線の先には、草丈の高い草むらの中の黄色い小さな花を
転々と巡るモンキチョウが舞っている。
「土筆が終わっちゃってますから、そう思ったんですよ。」
「あー、あれ、大変だけど嵩が減るらしいねぇ。」
「そうなんですけどね(苦笑)。」
二人並んで、コンビニ袋にヨモギを入れる。
「笹原さん、それ大きいですよ。」
「あー、ごめん。」
「でもまぁ、かき揚げにでもしましょうか。」
草むらの向こうの灌木のあたりからは、ウグイスの声が聞える。
「子供の頃に山菜取りしたぐらいで、俺はヨモギを取って食べた事は無いんだよね。」
「私も大きくなってからは全然でしたよ。懐かしい感じでした。」
そんな調子で小一時間、二人はヨモギを摘み終えた。

笹原が荻上の部屋に座っていると、台所の方から電話をする声が
聞えてくる。普段聞くことが無いほどの東北弁だ。
「餡から作るのは、無理だっぺやー。」
「え?や!ちげぇって!そんなんじゃないさァ!」
やがて荻上が部屋に戻ってきた。
「実家に電話するの久しぶりでしたけど、母に作り方聞きましたよ。」
「盛り上がってたね(笑)。」
「いえ、そんなの作るの珍しいって吃驚されて……。」
と、赤面する荻上だった。
その日の夜は、ヨモギ入りのかき揚げと、食後に草の香り高いヨモギ餅。
翌日は春日部さんのお店をデートがてら二人で訪ね、お婆ちゃんっ子だった
春日部さんに、ヨモギ餅の手土産は絶賛されたのだった。
「いい奥さんになれるよ、というよりいいお母さんになれるねっ!」
褒め言葉なのかどうか微妙な台詞を受けて、笑顔も微妙な荻上であった。