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キモハラグロの城・3 【投稿日 2006/05/02】

マダラメ三世



キモハラグロ伯爵と大公家の娘オギウエの結婚式の日がやってきた。
しかし、久我山大僧正を乗せた車は、結婚式を一目見ようと押し掛けた車列に巻き込まれ身動きが取れないでいた。

「ほ ほかの道は、な ないのかな。遅れてしまうぞ」
焦る久我山。運転手の沢崎は車体を半分芝生に入れながら、大渋滞の脇を通り抜ける。
「公国政府の方に連絡を入れましたが、ヘリが迎えにくるには時間が掛かるとかで……あぁっ!」
前方に、ビーチパラソルをさしてくつろいでいる女性の姿が見えて思わず急停車する。

「どいてくれ、通れないじゃないか!」
思わず怒鳴る沢崎は、立ち上がったブロンド女性の姿に息を飲む。上は腰履きのジーンズをルーズにはいて、上はビキニブラ一枚。
『この先は崖崩れよ。復旧にはどうしたって時間が掛かるわ。のんびり待った方が楽よ』と、ボストンから観光でやってきたアンジェラは脳天気に語った。

「そ そんな……」
途方にくれる久我山のもとに、民族衣装を着た女性が2人近付いてきた。スージーを連れたオオノだ。
オオノが、「なんねぬしどんな大僧正様じゃなかね。どうかこん女の子に祝福ばくださらんな?」と語り掛ける。
「し 祝福って、キ キリスト教と間違えてるんだな。でもまあ、い 祈ってあげるよ……ナンマンダブナンマンダブ」
うやうやしく頭を下げるオオノと、「?」と小首をかしげるスー。運転席の沢崎が話し掛ける。
「土地の者かい? ほかに道はないのかね?」
「山道ばってん城に通じる道があるとよ」と語るオオノは、さっそく案内すると誘った。

その横でスーは、車の前に立っていたグラマラスなアンジェラをやぶにらみする。アンジェラがニッコリと微笑むと、スーは口に手を当てて「ク~クック…」と笑う。
何かを察したアンジェラが、スーの前にしゃがみ込んで、「ケロケロケロ…」と問いかけると、スーは、「クルクルクル…」と返して、「……キョウメイ×2」と呟いた。

スーがオオノの服の裾を引っ張って何やら話しかける。オオノは、ちょっと嫌な予感がした。

沈黙を破って、「異議あり!」と、大音響でマダラメの声が響いた。

「この婚礼は欲望と汚れに満ちている!」

参列者の眼前の大仏が、音を立てて胴体から切り落とされた。地響きを立てて崩れ落ちる大仏像。うろたえる参列者。

チリーン……チリーン……

辺りが暗くなり、大仏像の影から、ヨレヨレのスーツ姿のタナカと、和装のオオノが現れた。包帯でぐるぐる巻きになったマダラメを輿に乗せている。

「地下牢の亡者を代表して参上した……花嫁をいただきたい……オギウエ、迎えに来たよ」

報道席では、コーサカがテレビカメラを向けてマダラメ一味をクローズアップ。
そこにサキが、「大変なことになりました! マダラメです! マダラメが現れました」と叫ぶ。

「マダラメが出たぞ、出動ォ!」
車内のテレビを見ていた北川警部が号令し、パトカーと機動隊トラックが茂みの中から現れ、城への突入を開始した。

「オギウエ……かわいそうに……薬を飲まされたね」輿の上のマダラメが語り掛ける。
直後、キモハラグロの指図で、「影」の無数の剣がマダラメをメッタ突きにしてしまう。どよめく場内。

「!」惨状を見たオギウエの瞳に正気の色が戻る。
「オタクさんっ!」
駆け寄ろうとするが久我山大僧正に引き止められた。
勝ち誇り高笑いするキモハラグロ伯爵は、タナカとオオノを一瞥して、「愚かなりマダラメ。そいつらを片付けろ!」と、影に命じる。

「……泣くんじゃないオギウエ」
オギウエの耳元でマダラメの声が聞こえる。ハッとするオギウエ。

串刺しで晒されたマダラメがいきなり破裂すると、大量の紙片が場内に舞い散った。参会者が手にすると、それは18禁モノの萌え絵だ。マダラメの笑い声が響く。

「気に入ってくれっかなァ伯爵。俺のプレゼントだ。お前さんの作ったニセ同人の絵だよ。メガネの代金に受け取ってくれぇ!」

「奴を探せ! この中にいるはずだ!」
いきり立つ伯爵の背後で、金銀のメガネが盗まれた。その手の主は久我山大僧正。久我山が自ら“化けの皮”を剥ぐと、そこにはマダラメの顔があった。
伯爵「おのれぇ、ふざけたマネをしおって!」
マダラメ「やかないやかないロリコン伯爵ぅ!」

伯爵、タナカ、オオノがハモって「ロリコンはお前だろ」と突っ込む。

「そこは流せよ。とにかくヤケドすっぞお!」
マダラメが久我山ボディの袈裟を広げると、ロケット花火が一斉に発射された。
それを合図に戦闘の口火を切るマダラメ一味。タナカが対戦車ライフルで影の鎧ごと吹き飛ばす。
オオノは「くじアン」の如月香澄の刀に由来した銘刀「残雪」を振りかざして応戦した。
マダラメはオギウエを小わきに抱いたまま、ロープで天井へと飛び、城外へ脱出を図った。


パニックに陥る場内。逃げまどう参列者を押しのけるようにして、北川警部と機動隊が突入してきた。
「マダラメは仏壇の下だ~!」と指揮する北川。その姿をサキがノリノリで実況する。
「さあ突入してきたのは北川警部率いる機動隊。仏壇に向かって猛進しています。あ、キモハラグロ衛士隊が来ました!」

「後方確保!正義は我にあり!」北川の号令に応じて機動隊が衛士隊とぶつかり合う。

機動隊と衛士隊の乱戦から抜け出した北川警部は、報道席のサキに合図を送る。コーサカのカメラが俯瞰で北川を捉えた。その指は仏壇の下から露になった階段を指し示している。

「あ、階段です。地下に通じる穴があります。ここにマダラメがいるのでしょうか? カメラもそこへ行ってみましょう!」

「ああああ、き 北川君何をやってるんだぁ」
インターポール本部でテレビ中継を見ていた日本の“委員長”は顔面蒼白だ。ほかの委員も慌てふためいている。
「命令無視だ呼び戻せ!」「これは衛生中継だよ。もう遅い」


地下へ通じる階段を下り切った北川とサキ。ニセ同人誌の印刷工場が、サキのカメラのフレームに捉えられた。
北川警部がそれを見渡す様なゼスチャーをして、いかにも芝居臭く話し始める。

「な、何だここは、まるでミナミ印刷ではないか!(棒読み」

北川(もうヤダ!何よミナミ印刷って、ハズカシイ!)
サキ(黙って打ち合わせ通りにやんなさいよ!)
どうやら段取りはサキが組んだらしい。

「あ、そこにあるのは……ありゃ~日本の同人誌。これはニセ同人だあ(棒読み」
北川警部は両手いっぱいにニセ同人誌を抱えて、サキの構えるカメラの前に立った。表情が読み取れないほど真っ赤になっていた北川だが、最後の力(?)を振り絞って叫んだ。

「見て見て~、色んな年代のニセ同人が……。マダラメを追っててとんでもないものを見つけてしまったぁ。ど お し よ う (棒読み」


もみ合う機動隊と衛士隊。その中央で、朽木と衛士長がにらみ合いを続けていた。
「仏像の下の階段見せろってんだよ」
「はあ? 関係ねーだろお前には。何の権利があんだ?」
「権利がどうこうって話じゃなくてね。仏像の下見せてください(はあと」
「うわバカだコイツ。会話成立しねーよ消えろ」
「おや逆ギレですか。あーそうですか」

朽木の頭の中で、カキンとロックの外れる音がした。(き……キレた…、ボクチンの頭の中で何かがキレた……決定的な何かが……)
ゴン! 朽木と衛士長は、ヘルメットと兜を擦り合わせるようにして睨み合う。
「逆ギレ勝負なら負けたことねーよ!」「はあ? んだソレ!」

ギリギリギリと頭を突き合わせていた衛士長が、スッと頭を引いた。直後、頭突きが振り下ろされる。
危うく横へと避けた朽木。衛士長の頭(兜付き)は、朽木の後ろで敵を必死に抑えていた木村の後頭部にヒットした。
目を剥いて倒れる木村。衛士長が朽木の姿を見失い慌てた隙に、朽木は腰のスタンガンを鎧の脇に刺すようにして突き付けた。
「ガガガガガガッ!」衛士長は泡を吹いて崩れ落ちた。
朽木は、「“鎧通し”の要領だ。日本の武士ニャめんなよ!」と叫ぶと、再び乱戦の輪に加わった。


マダラメ一味はオギウエを連れて、城側からローマ水道橋へ渡る手前の小さな風車塔へと逃げ込み、てっぺんの物見櫓に陣取る。
マダラメが水道橋に逃げる用意をしながら、「ひとまず城外へ脱出だ。頼むぜ、タナカ、オオノさん」と声を掛けた。

オギウエが2人に駆け寄る。
「皆さん、どうかお気を付けて……、無事に戻ってきてくださいね。ご恩は一生忘れません」
オオノは(いやーん、可憐!)と、思わず自分の趣味の世界に走りはじめた。
「無事に戻ったら、コスプレをして下さいますか?」
「なっ!?」
オギウエは、マダラメ一味のせいでコスプレさせられたというサキの言葉を思い出した。
「嫌だぁ、そっだらこと!」
高貴な姫君に似つかわしくない東北弁が口をついて出てくる。
「……じゃあテキトーに気をつけて。タナカ様も…」
2人が(テキトーかよ)と脱力する中、オギウエはティアラを脱いで走り去った。

ロープをつたって降りようとするマダラメの手元に、チュン!と、追っ手の弾丸が着弾した。
「タナカ!左舷弾幕薄いぞ、何やってんの!」
マダラメはお約束を叫びながら、オギウエを背負って水道橋へと降りて行った。

「…タナカ様、だと…」「…ドレス…似合ってましたね」
タナカは頬を染めながら、「…オ、オオノさんのは俺が…作るからさ」と照れくさそうに呟く。オオノは真っ赤になった。
「ち、違いますよタナカさん! オギウエさんのコスプレを激しく妄想しちゃいまして……」
ガガガッ! ダダダダッ! チチュン!
風車塔への銃撃が激しくなってきた。無駄話はさせてくれないらしい。タナカはオギウエの脱いだティアラを頭にかぶって叫んだ。
「おっぱじめようぜ!」

タナカの援護射撃に続いて、オオノが塔の下に群がる「影」のまっただ中に飛び下りた。瞬間、剣閃が闇を切り裂き、影どもの鎧を断ち切った。
月夜に照らされて、刀刃と黒い瞳が光る。オギウエに萌えた分だけ余計に気合いが入っているオオノ。

「今宵の斬雪剣は一味違います!」

オオノを取り囲んでいた影が思わず後ずさる。
しかし、1人だけ動じずにオオノと対峙している影がいた。半分切り取られたマスクを棄て、素顔を月明かりにさらしたナカジーは、冷たい瞳でオオノを睨み返した。

「オギウエは私のもんだ。あいつを奪い取る奴は、あんたでもマダラメでも……伯爵でも殺す」
「マキタとかいう人を追い落としたのも、あなたですね?」
「あいつはオギウエを受け止めるには器の小さい男だ!」

叫ぶなり飛びかかったナカジーのカギ爪を紙一重でかわして、オオノが残雪を振り下ろす。
もう一方の爪で残雪を受け止めるナカジー。
「!」
「オギッペは、誰にもわださねぇ!」


水道橋の上を渡り、息を切らしながら走ったマダラメとオギウエは、時計塔までやってきた。
「つ……つ、つらいかい?」
「いいえ!」
マダラメの方が息も絶え絶えだ。

「時計塔を越えたら合図を送る。ササハラが迎えに来るから」
「はい!」

時計塔を登ろうとしたマダラメは、はるか上の文字盤に刻まれた巨大なメガネのレリーフを見てふと気付いた。
懐に持っていた金ブチと銀ブチのメガネを取り出す。2つのメガネのフレームを正面から向かい合わせてみた。
「つなぎ目に文字が彫ってあるな。光と影を……う~ん、擦り減っててよく読めないなあ……」

「……光と影を結び時つぐる、デカきメガネの陽に向かいし眼に我を収めよ……。昔から私の家に伝わってる言葉です。お役にたちますか」
「たつよね……じゃなかった…、立ぁちます立ちます謎ァ解けたぜ!」

その時、湖から2人を追ってきたキモハラグロ伯爵の蒸気船が迫ってきた。船から銃撃を始める。
「行こう!」マダラメとオギウエは、時計塔の横をつたって、時計塔の機関部へと逃げ込んだ。
船から降りた伯爵と、銃を持った水夫が数名追ってきた。マダラメは、時計内の巨大な歯車を必死で取り外して落とし、水夫の足を止めた。

だが、時計塔内部を熟知したキモハラグロ伯爵が迫ってくる。鉄パイプでサーベルに応戦するマダラメ。
マダラメは意外にも伯爵のサーベルをかわして、パイプでその兜と叩き落とす。
「こちとら何度も春日部さんのパンチ喰らってんだ。ナマクラのサーベルなんか効くかい!」


伯爵はニヤリと笑うと、懐に手を入れ、中から一冊の同人誌を取り出した。
マダラメ……いや、“マムシ72歳”お気に入りの「くじアン」本だ。

「一言いっておくぞマダラメ。この同人誌は贋作ではない、本物だ」
そう言うと伯爵は同人誌を歯車の下へと放り込んだ。
「あーーーーーーーーーッ!」
マダラメの目は思わず同人誌を追う。簡単に背中を見せたマダラメを、キモハラグロが軽く蹴った。
「あれ、あれれ、あれぇ~!」と、同人誌を追うように転落していくマダラメ。

「オタクさん!」
オギウエの叫びに振り向いたのはキモハラグロだった。
時計塔内を上へ上へと逃げていくオギウエだが、上に行くほど逃げ場はない。やがて時計の文字盤まで出てきてしまった。
メガネの奥の細い目をさらに細めながら、オギウエを針の先端まで追うキモハラグロ。オギウエにもう逃げ場はない。

「イヘヘヘヘヘヘ……どこまでいくのかなオ~ギウ~エ!」

足下はおぼつかない針の上だ。オギウエはキモハラグロを睨み据える。
「さあさあどうした。お前はニセ同人の原画師にしたかったがな……もういい、死ねオギウエ」

「待て伯爵。取り引きだ!」

マダラメが現れた。手にはしっかりと「くじアン」本が。根性で拾ってきたのだ。
「メガネの謎を教えてやろう。お宝はどうしようとお前の勝手にするがいい。しかしその娘はあきらめろ。自由にしてやれ……見ろ、あの文字盤のメガネを」

時計の12時の部分に大きなメガネのレリーフがある。

「あれが“陽に向かいし時つぐるメガネ”だ。両方の目に二つのメガネをはめる穴がある。このメガネはくれてやる。しかしその娘を殺せば湖に捨てて……お前を殺す!」

針の軸に2つのメガネを置き、長い針の先端へと歩いていくマダラメ。その反対側、短い針の上に伯爵とオギウエが立っている。
伯爵は、「ようし、分かった!」と言うや、手甲の指の先端をロケットにして発射。バランスを崩したマダラメは壁に取り付くのが精いっぱいだった。

「マダラメ、切り札は最後まで取っておくものだ!」
メガネを奪ったキモハラグロは、「確かに本物だ……メガネは受け取ったぞ、謎解きの代金を受け取ってくれ」と、もう片方の手甲を突き出した。
「危ない!」と、オギウエがキモハラグロの腕を掴んでダイブを敢行した!
「オワ、離せ!」剣を支えにして何とか踏んばるキモハラグロは、オギウエの筆頭をブーツで踏み付けて蹴り落とす。

マダラメはとっさに、(加速装置ッ!)と脳内でオタネタを叫び、壁をダッシュで駆け降りる。落下するオギウエに追い付くと、彼女を抱きとめたまま湖に落ちた。


キモハラグロは文字盤を上り、足場を伝ってメガネのレリーフまでたどり着いた。
レリーフのくぼみに金ブチと銀ブチのメガネをはめ込むると、レリーフが内部へ引き込まれ、続いて時計の歯車が動き始める。

レリーフのくぼみをつかんでぶら下がるキモハラグロ伯爵は、両側からやってきた2つの巨大な針に挟まれた。
(やっぱり周りを使って人や金を動かしてた方が良かったカモ)
後悔先に立たず。時計の針は“12時”になった。

ゴォォォン…ゴォォォン…ゴォォォン…!

時計台の鐘が数百年ぶりに鳴り響いた。
つかみ合いの喧嘩状態になっていた機動隊と衛士隊も、
背中合わせに影と対峙していたサキと北川も、
乱戦をハンディカムで撮り続けていたコーサカも、
皆の騒ぎを見てはしゃいでいたアンジェラも、
物見櫓でライフルの弾を装填していたタナカも、
刀とカギ爪をかち合わせていたオオノとナカジーも、
争いを止め、時計台の方へと視線を移した。

鐘が何度目かに、まるで断末魔のような大きな音を打ち鳴らすと、時計塔はゆっくりと崩れ落ちた。
続いて、水門から水が溢れ出してきた。

オオノと対峙していたナカジーは、時計塔の方を向いてひざまづく。
「これで全ての秘密が露見してしまったら、キモハラグロ公国も終わりだ。私がオギウエに注いだことの全ても……終わりだ」
うなだれて、「斬れ……」と声を絞り出す。もはや力なくうずくまった彼女は、“ナカジマ”に戻っていた。

オオノは残雪を鞘に納めた。
「無益な殺生はしないわ……」


城内を水浸しにした湖水は、やがてみるみるうちに引いていった。

気を失っていたオギウエは、まばゆい光に包まれて目を覚ます。
「気がついたかい」マダラメが声を掛ける。朝が訪れていた。
2人は、湖を見渡せる高台から、湖水が引いてしまった後の景色を見渡した。
湖底だった場所には、ローマの街が遺されていた。

街の遺跡に降りてみたマダラメとオギウエ。
「隠された財宝か……」と、マダラメがため息。隣を歩くオギウエは、「湖の底に、ローマの街が眠っていたなんて……」と感嘆する。

マダラメが、ふとその街並を見渡して気付いた。中央にひときわ広い建物がある。
「これはまるで……“トライヤヌスの大浴場”だ」
「大浴場?」
「そうだ。皇帝トライヤヌスがすべてのローマ人が楽しめる浴場を建設した。それに良く似ている」
なぜそんなものがあるのか、理解できないオギウエだが、(オタクは余計なことには詳しいらしい)とは思った。

「そこで風呂に入るだけじゃない。男達はおしゃべりをしたり、マッサージを受けたり、庭で全裸でくんずほぐれつのレスリングを楽しんだり……何か思い浮かばないか?」

思い浮かぶも何も、すでにオギウエの頭の中では801ハーレムの妄想が展開していた。そこにはマダラメが居てササハラが居てタナカが居て大僧正もいて……。

「……さん、オギウエさん!」「あっ、……スミマセン」

ワープからいきなり引き戻されたオギウエ。
「まあ、ローマ人がトライヤヌスを模して大浴場を作り、この地を追われる時に水門を築いて沈めたのを、あんたのご先祖さまが密かに受け継いだんだな。
ご先祖さまも801ネタを護りたかったのかも……まさに腐女子の宝ってわけさ。俺のポケットには大きすぎらぁ」


丘の上に登るマダラメとオギウエ。
空を見上げると、飛行機から無数のパラシュートが、城に向かって降りてくるのが見えた。
インターポールが重い腰を上げたのだ。

「……行ってしまうの?」
「恐~いおじさん達がいっぱい来たからね」
「私も連れてって」
「はあ?」
「……同人ドロはまだ出来ないけど、きっと覚えます。わたし、わたし、マキタくんやナカジマ……たくさんの人を不幸にして、このままここに居られない……」

マダラメは苦笑いしながらオギウエの肩に触れ、軽くため息をついた。
「馬鹿なこと言うんじゃないよ。また同人界の闇の中に戻りたいのか。やっとコミフェスに本を出せるんじゃないか」
ハッとするオギウエ。
「お前さんのオタ人生は、これから始まるんだぜ。俺みたいに(←マゾラメと呼ばれるほど自分の気持ちを隠して)薄汚れちゃいけないんだよ」

その時、丘の向こうから、「オギー!」と呼ぶ声がした。
スーが走ってくる。その後ろにササハラとケーコの姿も見えた。
「ササハラさん!」
思わず駆け出したオギウエは、スーに抱きつかれて再会を喜び合う。
続いて、ササハラの方を見つめると、迷わずその胸に飛び込んだ。衒うことなく抱きしめるササハラ。
ケーコはそれを見つめ、腕を組んで二度三度と頷いた。

オギウエの様子に、(それでいいんだよ)とマダラメは優しく微笑み、丘の下の農道へ向かって駆け出す。そこにタナカの運転するボロボロのスバル360が走り込んできた。エンジン音に気が付いたオギウエが振り向く。
マダラメは、「またな~!」と手を振り、車に乗り込もうとするが、それを押しのけるように後部座席のオオノが顔を出した。
「今度来た時にはコスプレ撮影会しましょうね。たくさん用意してきますから!」

「はよカエレ!」思わず罵倒するオギウエだった。

スバル360はどこまでも続く高原の道を走り去り、次第に小さくなっていく。それを見守るオギウエの後ろから、誰かが走り込んできた。
北川警部だ。
「くそー! 一足遅かったか。マダラメめ、まんまと盗みおって」
「いいえ」オギウエは首を振り、「あの方は何も盗らなかったわ。私のために戦って下さったんです」とかばった。

「いや、奴はとんでもないものを盗んでいきました…………あなたの“同人誌”です」

「は?」

なりゆきを見ていたササハラが何かに気付く。
「あ、オギウエさん背中……」
ドレスの背中には1枚の紙が貼ってあった。ケーコがそれを剥がして読む。
「どれどれ、えーと……北の塔の段ボール箱から、“あなたのとなりに”1冊いただきますた。マダラメ三世……だって」

「えぇーーーーーーッ!?」

ワナワナと震えるオギウエ。北川はポンポンとその肩を叩くと、「では、失礼します!」と、敬礼して駆け出した。
農道に停まったパトカーに乗り込み、「マダラメを追え、地の果てまで追うんだ!」と叫ぶ。パトカーに続いて走り出したトラックの荷台からは、朽木や木村をはじめとする機動隊員たちが手を振っていた。
ケーコは無邪気に手を振り返し、投げキッスまでサービスする。その隣でオギウエは機動隊員たちの姿を凝視した。
何とクチキたちまでが、オギウエの同人誌を手にして、またはソレを振りかざしているではないか!


サークル「雪見庵」初発行誌
「あなたのとなりに」
発行部数50 盗難数38


走り去る彼らを見送る3人。「何と手癖の悪い連中だろう」と、ササハラが腕を組んで苦笑いした。
一方のオギウエは頬を引きつらせながら無理矢理笑顔を作った。

「わたし、ずっと昔からあの丸メガネを知っていたような気がするの。マダラメ、きっと……きっとまた会えるわ(←それまで憶えてろよ!)」


スバル360の車内で、ボーッと黄昏れるマダラメ。
「いいツンデレだったなあ……」とタナカが声を掛ける。彼はオギウエ用の衣装を作る気満々のようだ。
マダラメがため息をついて口を開いた。

「……ところで、後部座席のこのひと、どこまで付いてくるのよ?」

後部座席、オオノの隣にはアンジェラがニコニコしながら座っていた。マダラメが自分のことを話題にしていると気付くと、後ろからマダラメの体に手を回して微笑んだ。
「わ、何すんだオイ!」
真っ赤なマダラメ。オオノが笑いながら、「アンジェラ、メガネフェチですから、マダラメさんのご活躍にハァハァモノだったそうですよ」と通訳する。

スバルの隣に並走する影が見え、コーサカの運転するオープンカーが現れた。助手席のサキがマダラメに声を掛ける。
「あら、お楽しみ中?」
「違う! 違うよ春日部さqあwせdrftgyふじこlp…!」
「?……それより見てよマダラメ。私の獲物!」

マダラメがオープンカーの後部に目を移すと、今にも印刷可能な下版された原稿や製本された同人誌が……。
「あ、それニセ同人の原盤じゃないの! うわうわ、お友達になりたいわ~」

サキはニコリと微笑む。「だぁめ。こんな物は 叩 き 割 っ て 直接破棄するのよ(はあと」
隣のコーサカが、「もったいないなあ」と、ちっとも惜しくないような笑顔で呟く。
「じゃあね~」
サキはウインクし、彼女を乗せた車は加速して走り去った。

「ちょwww おまwww!! タナカ、春日部さんを追え、地の果てまで追うんだ!」

走り去るサキ。車内で叫ぶマダラメ。抱きつくアンジェラ。後ろからは北川警部率いるパトカーと機動隊トラックが追い付いた。
彼らは追いつ追われつ、彼方へと走り去っていった。

<完>

♪…幸せをたずねて 私は行きたい
  「イバラの道」も「最後の砦」も
  1人で抱えて生きたい
  キモオタのイタい心を 誰が抱いてあげるの
  誰が妄想を叶えてくれる
  悶々と萌え盛る 私のロリ愛
  春日部さんには 知られたくない
  部室で私を包んで…♪