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現聴研・第七話 【投稿日 2006/04/30】

現聴研


斑目「えー緊急夏フェス対策、曲目全然決まってねぇよ会議を始めます~。」
今日は居並ぶメンバーを前に、斑目が会長席に座る。現聴研に珍しく
緊迫した雰囲気だ。全員揃って…いや、クッチーは逃げている。
斑目「え~~~(汗)、ここに至る経緯は置いといて!これからどうするか
     話し合いましょう!で、今から選曲して何曲出来るの?」
笹原「あと2週間じゃ、やりたい曲というよりバンド譜が存在する曲を選んだり、
     俺がデータ作成済みで荻上さんも弾ける曲を選ぶしか無いですよね。
     ただ、バンドで出るのに今から現聴研の人に頼むの厳しいですよ。」
斑目「……という事ですが、どうですか久我山さん?」
久我山「………て、ていうか、言いだしっぺが楽器未経験って無理あるよね。」
斑目「だからそれは置いといてね!」
部室にさらに気まずい雰囲気が流れる。
笹原「だから、就活で忙しい久我山さんの選曲優先で、って言ってたじゃないですか?
     荻上さんなんて久我山さんが選びそうだからって、UNDER-13の曲の
     ギターもう10曲コピーして来たんですよ?たぶん1週間掛ってないですよ!」
ヒートアップしていく笹原。隣で荻上は気まずく目を伏せている。
笹原「で、選曲絞れないからって、無理って言ったのに、俺に選ばせましたよね?
     好きに選べっていうから、宇佐実森と鈴木翔子から4曲で音源作ったら
     案の定全ボツで、なんて言ったか覚えてますか!?
     『ベース音聴き漏らし有るし、パーカスおかしいし。あとUNDER-17は外せないよね』
     って、それだったら自分で最初に指定しとけって話ですよ!」
激昂して机をバンバン叩く笹原に、荻上はビクッとする。

久我山「あー、そ、それは俺が悪かった……。で でもさ、俺が言いたいのは
     も もっと根本的な所で、ふ 二人の温度差みたいなもんだけど。」
笹原「なんですかそれ。もともとやりたくなかったって事ですか?」
久我山「い、いや『だんだんやる気が失せてきた』」
笹原「………それは俺のせいナンデスカ?」
久我山「お、俺も忙しいし、結局、笹原がやりたいってだけなら、バンドじゃなくって、
     ぜ ぜ、全部の音を一人で打ち込んだら良いんじゃないの?」
笹原「何言ってんですか!現聴研としてマイナーな曲をバンドで大勢に
     聴かせたいんじゃないですか!」
久我山「バンドでや、やりたいって言っても、さ 笹原は舞台で演奏しないのにな。
     …自分の趣味とか会長としての実績に、げ、現聴研を利用したいんじゃないの?」
笹原「……そんなに言うんだったら、もう久我山さん、やらないならやらないって
     スッパリ今、言ってください。」
やばい雰囲気を察して斑目が割り込む。
斑目「まーまーまー!ここは建設的にね!現聴研として、奏るのかやらないのか、
     やるならどんな形式で何の曲をやるか、どーよ?」
久我山「バ、バンドじゃなくって笹原だけで出るんなら良いんじゃないの。」
笹原「それじゃ現聴研で出す意味無いですよね、辞めましょうか。」
笹原も久我山も憮然とした様子で、現聴研に沈黙が続く。
荻上が、意を決して口を開いた。緊張の面持ちで笹原たちを見る。
荻上「あ、あの―――。私が何でも頑張って伴奏しますから、シンプルな構成になっても
     奏りたい曲で、頑張ってやりましょうよ。」
しかし笹原はスッパリと断ってしまう。

笹原「いや、それじゃ現聴研でやる意味ないから!それに荻上さんだけに
     負担がかかるのはおかしいよ。荻上さん一人で抱えなくていいから。」
荻上「………そーですか―――。」
荻上は、目に力を失って、座るのだった。
笹原「こうなったら、久我山さんは出演されないっていうことですけど、ドラム
     サンプリングしてでも加わったら良いんじゃないスか?
     これからスタジオで録音しに行きましょうか。」
久我山「ふーん…結局、人を利用するのな。な なんか笹原ってハラグーロみたいだよね。」
笹原「………それは言いすぎでしょう?」
久我山「そ そうでもないんじゃない?」
さっきから、久我山と笹原しか喋っていない。現聴研の面々は俯いている。
笹原「久我山さん、今やらなかったら楽器やってる意味無いんじゃないですか?
     というより、通しで人前でやったこと無いというか、やれないんですよね。」
久我山「笹原だってやれないのに、人にそんな事言えた柄かよ!」
笹原「楽器出来なくても機械でやってるでしょう!久我山さんこそ楽器やってる意味無――。」
荻上「グスッ。」
ふと見ると、荻上が大粒の涙をその大きな目から、溢れさせていた。
グスッ、グスッ………。
荻上の涙をすする音が、部室に響く。
激昂していた笹原と久我山も、気まずくなって黙ってしまった。
やがて春日部が立ち上がって、荻上にハンカチを渡しながら笹原に話しかけた。
春日部「笹原、その楽譜と音源リスト見せてみ。」
笹原「あ、うん…。」
と、笹原から楽譜と音源リストを受け取った春日部は、ぺらぺらと楽譜をめくる。
春日部「じゃあ笹原と久我山とそれに荻上、あと大野がキーボードとコーサカがベース!
     何でも良いからすぐ出来る曲、今、4つ選びなさい!」

笹原「え……?あと2週間しか無いのに……出来る曲って言っても―――。」
春日部「ずっと聴いてたんだから知らない曲じゃないでしょ!
     これから2週間、スタジオ毎日通って、空き時間は自主練しなさい。
     2週間それ『だけ』一緒にやってりゃ上手く合わせられないわけないよ。
     責任取れって言ってんだよ!!」
あっけに取られる現聴研の面々だった。話が感情的にこじれていただけで、
そうすれば良かった道をパッと示された体だった。
春日部「じゃあ選曲会議、だらだらするんじゃないよ。30分以内ね。見張ってるから!」
パンパンと手拍子をして、動きの止まっていた場を急き立てる。
そうして春日部は荻上に耳打ちするのだった。
春日部「ステージでやりたかったんでしょ。いざとなったら一人で弾き語りでもやっちゃえ。」
荻上「いえ、別に自分がやりたかっただけじゃ―――。」


それから2週間、スタジオで、ドラムを叩き、部室で、熱心に雑誌を叩く久我山や、
ギターを弾く荻上、ベースを笑顔でこなす高坂、キーボード前で指をワキワキしてほぐす
大野の姿や、スタジオの隅でマイクを持つ斑目の姿などが見られた。
そして夜遅くまで笹原の部屋に集まり、ヘッドフォンを回しながら、ああでもない
こうでもないと議論が続く続いて、2週間が過ぎた。
そしてスタジオで―――。
笹原「じゃ、今から4曲通しで仕上げ行きまーす。」
その合図に合わせて久我山がスティックを打ち鳴らして拍子を取り始めた。
淀みなく、たとえ間違えても全体でノンストップで4曲一気にやり終える。
一部失敗のあった事での苦笑混じりながら、充実した笑顔が皆の顔に浮かぶ。
明日はいよいよ夏の野外音楽フェスティバル本番だ。
その頃、田中も自室のミシン台前で舞台衣装を仕上げ、充実したいい笑顔を浮かべていた。