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キモハラグロの城・2 【投稿日 2006/04/28】

マダラメ三世



「何で帰還しなけりゃいけないんですか!」

キモハラグロ城内の質素な控室で、北川警部の怒号が響き渡る。
彼女はインターポール本部に電話を掛けて怒り狂っていた。本部通達の帰還命令が腑に落ちないのだ。
「ナニ?……伯爵が気に入らないから“チェンジ”だぁ?……私はホステスじゃないんですよ!」
後ろで機動隊員の朽木と木村が顔を見合わせる。
(こんなホステス、俺らもチェンジしたいよな……)
ガッ!と、電話を叩き付けるように切った北川に、思わず直立状態になる朽木と木村。北川は、「伯爵に話をつけてやる!」と、一人で駆け出して行った。

……だがその後、北川警部は行方が分からなくなり、機動隊員は城を出て撤退することとなる……。


オギウエの召使いとして潜入しているサキは、城内でスパイ活動を続けていた。
伯爵のオフィスへの抜け道を歩き、資料庫らしき場所で書類を物色していたが、彼女の背後に人影が忍び寄る……。
「動くな!」と、人影の手がサキの肩を掴もうとした。

ガスッ!
振り向きざまのサキのグーパンチは、見事に背後の男を捉えた。
そこには、吹き出る鼻血を抑え、メガネをかけ直しながら、「ごふっ…こ、こ~んばんは春日部さん」とあいさつするマダラメがいた。
よほど効いたのか、ヨロケそうな体はササハラに支えられていた。

「あっマダラメ? うわゴメン……って、もうこんな所まで来ちゃったの?」
手を合わせるサキに、マダラメは愛想笑いで返し、「春日部さんこそ、こんな所にいるなんてね。……こ、コーサカは元気?」とたずねる。
「私らの事よりも、花嫁の居所が知りたいんでしょ?」

マダラメは、(そんなことはないんだけどな…)と思いつつ、「あらら、知ってたの?」とおどけて見せた。

マダラメとササハラは、サキから北の塔への侵入路や、「オギウエルーム」からの脱出路を教えてもらい、塔へと向かった。
ササハラ「なんか、“原典”と話が違いませんか?」
マダラメ「そこは流せ。俺に城壁と屋根を登らせたいのか?」


北の塔の部屋の中で、オギウエは明かりもつけずにうなだれていた。ただ一人で、(私にはこんな暗がりがお似合いなんだ)と思いを巡らせていた。
何度か抵抗し逃げようともしたが、それもかなわなかった。今の境遇は“好きになった人”を傷付けたことへの報いなのだと、自分を責め続けていた。

ふと、緩やかな風が頬に当たっている事に気付いた。誰かが部屋に入ってきている……?
「誰?」
「オタクです。こんばんは、花嫁さん」
暗がりの中からマダラメが現れ、「忘れ物ですよ」とオギウエに銀ブチのメガネを手渡した。驚くオギウエ。
「あ、ところで…さっきからちょいと気になってるんだけど」
マダラメは部屋の隅にある小さな机を指差す。トレス台に描きかけの漫画原稿が置いてあり、机の下の段ボールには製本された同人誌が……。
「今描いてるの、それ801っすか?」
「あ(やべ、見られた)」
製本された同人誌は、どうやらオギウエの作品らしい。
「あの、見ても……」
「ダメです!」と即座に拒否するオギウエは、「こッ、こんな所にまでわざわざメガネを返しに来たんですかッ!?」と話題を強引に切り変えた。

「あーあー、そうそう!……どうかこのオタクに盗まれてやってはくれませんか?」と、マダラメは本来の目的を伝える。
しかし、「はぁ…?」と生返事で無表情のオギウエ。
マダラメは、汗をしたたらせ、(あれ、あれれ? 俺なんか段取り間違えたか~?)と動揺した。

「あ~~~何ということだろう!」
焦ったマダラメは両手を大きく広げ、小芝居を打ちはじめた。
「その女の子は、悪いキモオタの力は信じるのに、いいオタクの力を信じようとはしなかった。その子が信じてくれたなら、オタクはサーバーを飛ばすことだって、ジョッキの青汁を飲み干すことだってできるのにぃ……」

「信じなくてもデキマス」

ピシャリと言われて立つ瀬がないマダラメだったが、おもむろに、「…う、うううう…!」と苦しみ出した。
最後の手段だ。
意味不明のオタクを冷徹につっぱねていたオギウエも、思わず心配そうに見守る。
マダラメはゆっくりと、オギウエの目の前に拳を突き出し、ポンッ と小さなピンクのバラを出してみせた。
彼女に手渡すと、そこからパラパラパラと赤い糸につながる万国旗を取り出して行く。だが、糸がやけに長い。マダラメはいつまでも糸と旗をくり出してオギウエから離れて行く。

「あ、あの…どこまで?」
オギウエが尋ねた時、マダラメは部屋の柱の一つまで後ずさっていた。柱の向こうから誰かの手が伸びて、マダラメはその手に糸を渡した。
月が再び雲間から現れ、月明かりが部屋の中を照らす。柱の陰に隠れていた男が照らし出される。
オギウエの瞳は大きく見開かれ、驚きの声をあげようとした口を両手で覆った。
そこには、苦笑するササハラの姿があった。

「…今はこれが精いっぱい…」と、マダラメ。
オギウエが立ち上がり、ササハラの元へ駆け出そうとした瞬間。部屋の明かりが灯され、窓にシャッターがおろされた。


城下町でマダラメを襲った「影」の群れが現れ、オギウエを引き離し、ササハラとマダラメを取り囲んだ。部屋の中央で背中合わせに影に対峙する2人。
「ど、どうしますマダラメさん……」
「………」

「いや~、わざわざメガネを届けてくれて悪いねマダラメ~」と、笑みを浮かべて、影の間からキモハラグロが現れる。
「早速だが君には消えてもらおう」
「やめて!、その人を傷つけてはいけません!」オギウエが叫ぶ。
「大丈夫だよお嬢さん、オタクの力を信じなきゃ」とマダラメ。
「ササハラさんっ!」
(あ、そっちね……)と赤面するマダラメ。瞬間、足下の床が開き、マダラメとササハラは深い穴の中に落ちてしまった。

両手で顔を覆うオギウエ。影どもが退き、キモハラグロが近付いてくる。
「ツンのフリをして、もう男を引き込んだか。わが妻にふさわしい」
「ひとでなし! あなたは人間じゃないわ」
「そうとも。ま、僕は自分では手はくださないけどね。でも君もそうさ。自分の描いた801絵で許嫁を傷つけてしまったじゃないか。
それを知らんとは言わさんぞ。お前は重度の腐女子だ。その体には俺と同じキモいオタクの血が流れている。結婚したら好きなだけ同人誌を描かせてやるからな…」

耳を塞ぐオギウエ。伯爵がオギウエの手首を掴み、その手に握られたメガネを手元に引き寄せる。
「ごらん、我が家に伝わる金ブチのメガネと、この君の銀ブチのメガネが1つに重なるときこそ、秘められた財宝が蘇るのだ」

その時、銀のメガネから、落とし穴に落ちたはずのマダラメの声が聞こえてきた。

『あ、聞いちゃった聞いちゃった~お宝目当ての結婚式。ニセ同人作りの伯爵の、言うことやること全てウソ!』

直後、『僕にも言わせてくださいよ!』と、ササハラの声が割って入った。
『ゴホンッ……お、女の子はとっても優しい素敵な子……』ササハラの声だ。オギウエがメガネに、「ササハラさん! オタクさん!」と話しかける。

『はーい元気ですよー。女の子が信じてくれたからねー、空だって飛べるさぁ』
「くそっ…そのメガネか。よこせ!」
オギウエからメガネを奪い取ったキモハラグロ。メガネからは続けてマダラメの声が聞こえてくる。
『やい伯爵よく聞け。本物のメガネは俺が預かってる。その子に指1本触れてみろ、大事なメガネはぁこうだ!』
ポンッと、ニセのメガネが景気よくはじけた。


頭上には吊るされた死体が、足下に骸骨が散乱している地下。その一角で、マダラメとササハラが座り込んでいた。
本物の銀ブチメガネをもっているからには、追っ手がくるだろう。マダラメは、その時が脱出のチャンスだと考えていた。

誰も居ないはずの空洞の向こうから誰かが近付いてくる。
警戒したマダラメだったが、それは伯爵に抗議しに行って、まんまと落とされていた北川警部だった。
彼女は視界にマダラメが映ると、ササハラには目もくれずに駆け寄ってきた。
「マダラメ~! 出口はどこ? 何処から入ってきたのアンタ!?」
「ごめん北川さん、俺らもさ、落っことされてきたんだ」
がっくりとうなだれ、その場に座り込む北川。
「その様子じゃだいぶ歩き回ったんだな。足の方は大丈……」
「うるさい!」と、マダラメの言葉をかき消した北川は、足を悩ますアレの話題をごまかすように話を切り出した。
「…そ、それにしてもどうなってるのここ?」
「北川さん、そこの壁、ちょっくら見てみな…」
北川は骸骨をおそるおそる足でどけてから、壁に掘られた文字を凝視した。

『帝國陸軍漫画研究調査部 高柳少佐ここに眠る』

「うわ~、ナンマンダブナンマンダブ~」
思わず手を合わせる北川。
「ただの城じゃぁないと思っていたけど、これほどまでにして守る秘密とは…。あなたの狙いもそれなの?」
「それをやってんのは春日部さん。ホトケさんになんなきゃいいけどね……。まあ、ジタバタしても始まらないさ。ひと休みひと休み…」


しばらくして、地下室の水路を、メガネを取り戻しに「影」が泳いできた。
影が地下室の一角で眠っているマダラメとササハラを見つけて近づいてきた時、物陰から北川警部が飛び出してきた。
「ゴラァ!このキモオタの手下がァ!」
ビビる影を3人がかりで叩きのめし、逃げる相手を追ったマダラメが、水路の出口を見つけた。
マダラメと北川、ササハラは地下室を脱出し、棺桶が並ぶ部屋の隠し扉から出てきた。

そこで彼らは、まるで印刷所のような部屋を見つけた。
人の気配がないことを確認して、3人は部屋を探索する。そこには大量の同人誌が製本され、梱包されていた。驚く北川警部とササハラ。
マダラメは梱包を破って、各年代の同人誌を見つけては2人に向かって投げ入れた。
「CCさくら…、キャポ翼…、ラム…、うおー、メルモちゃんまであるぜ!」

同人誌を山のように抱え、わなわな震える北川は、「…これがこの城の秘密なの?」と叫ぶ。
マダラメが答えた。
「そうさ。かつて本物以上と称えられたゴート本の心臓部がここだ。動乱の影に必ずうごめいていた謎の萌え絵。
ヨーロッパに日本の春画のニセモノを広め、某凶悪犯がオタクであるとの過熱報道の誤解を生み、“キャポテン翼”の画風をコピーして801同人ブームの引き金にもなった。
オタ史の裏舞台、同人界のブラックホール……ゴート本。その震源地を探ろうとしたものは、一人として帰ってはこなかった」

「うーむ…、噂には聞いていたが、まさか独立国家が営んでいたとは…」
「北川さんどうする? 見ちまった以上後戻りはできねえぜ」
「わかってるわ。こういうクズのために貴重な紙資源が浪費されるのか、私には許せない!」
目を血走らせる北川警部。

マダラメがニヤリと笑い、「じゃあ、ここから逃げ出すまで、一時休戦にすっか?」と提案した。
「いいでしょう。でも脱出した後には必ずアンタを逮捕するからな!」
「上等だ。ほんじゃまぁー、握手と」
北川警部は思わず握手をしてしまう。
ハッとして思わず手を引っ込め、「フ、フンだ! 馴れ合いはしないんだからね!」とソッポを向いた。
その姿を見たササハラが苦笑いする。
「……北川警部、ツンデレの要素アリじゃないスか?」
北川「!!」


北の塔の部屋。トレス台にひじをかけ、窓の外をボンヤリと見て佇むオギウエがいた。
(地下室があるって聞いたけど、ササハラさん、あのオタクさんと2人っきりで地下にいるのね……寂しさを紛らわすためにお互いの……キヤーーーッ!)
思わず「笹×斑」でワープをして、ハッと我に帰る。
(いかんいかん! ほだなこったから……でも……)
おもむろに鉛筆を握り、シャッシャとノートにササハラの顔を描き始める。

ササハラは、彼女が大公家に居た時から、とても優しく、フランクに接してくれる使用人だった。そう…許嫁だった他国の貴族の息子マキタが、彼女の「絵」のせいで行方をくらませて以来、ササハラはオギウエの心の傷をやわらげてくれる存在だった。
ま、それでも妄想のネタであることに変わりはないが。
強気攻めのササハラの似顔絵を描き終わった。
「うっわー、無理あるー……じゃ次は流され受けの……」

そこでふと、人の気配を感じたオギウエ。
すぐ隣に、ニヤついた表情で見下ろすサキが居たのに気付き、顔面が蒼白になった。

「なーんにも見てないよ、私」ニヤニヤしたまま、聞かれてもないことを否定するサキ。しかし、コホンと咳をしてから、「ごめんねオギウエさん。潮時が来たんでお別れを言いにきたの」と告げた。
「は?」
「本当はワタシ、この城の秘密を探りにきた女スパイなの。もうチョットいるつもりだったけど、マダラメが来たでしょ。メチャクチャになっちゃうからもう帰るの」
「あのオタクの人を知ってるの?」
「うんざりするほどね。時には味方、時には敵……。コスプレを見られた時もあったかな……」
サキのような綺麗な女性の口から「コスプレ」という単語を聞き、驚くオギウエ。

「コスプレしたの?」
「まさか。させられたの!」

サキは超不機嫌そうに答えた。どうやら彼女にとってコスプレはトラウマらしい。
「マダラメ一味は根っからのオタクよ。まあアンタも中身は変わらないかもしれないけど、気をつけてね」
「わっ、私はそんな…」

オギウエが反論しようとした時、場内にサイレンが鳴り響き、オギウエの部屋の落とし穴の隙間から煙が漏れはじめた。
「マダラメね、始まったわ!」


ニセ同人誌の山に火を放ったマダラメたちは、消火に来た衛士たちを押しのける様にして逃走した。抜け道を駆け上がると、なんと大仏像の裏に出てきた。
「仏堂だ。どういう趣味してんだあのハラグロ?」
3人はさらに、庭へと出て階段を駆け上がり、城のヘリポートに止まっているオートジャイロを奪取。マダラメ、ササハラ、北川の3人が無理矢理乗り込んで飛び立った。

オギウエが囚われている北の塔にたどり着くと、マダラメは操縦をササハラに任せてオートジャイロから飛び下りた。
塔の屋根に降り立ったマダラメは、天井の扉を明けて、サキとオギウエに声を掛けた。2人をロープで引き上げると、ササハラの慣れない操縦で右往左往するオートジャイロを誘導する……。

瞬間、マダラメは背後から銃撃を受けた。弾が背中から胸へと貫通する。同時に狙撃を受けて爆煙をあげるオートジャイロ。
前のめりに倒れ、屋根の上を滑り落ちるマダラメを、サキが体を投げ出して止めた。

「!」
血が屋根をつたって流れ落ちてくる。サキは、(やだ、冗談やめてよマダラメ!)と、思わず顔をしかめる。


ライフルを構えたナカジーとキモハラグロ伯爵が塔の物見に立っていた。
「サキ、お前には後でたっぷり聞くことがある。ナカジー、マダラメにトドメを刺せ」

オギウエが2人の前に立ちふさがる。
「“ナカジマ”やめて、撃ってはダメ!」
躊躇するナカジー。伯爵が鼻で笑い、目を細める。
「見上げた心掛けだオギウエ。メガネを取り戻してここへ来い。大人しく僕の妻になればマダラメの命は助けよう」
オギウエは、マダラメの懐から銀ブチのメガネを取り出し、キモハラグロの方へと歩き出した。

「撃ちます?」ナカジーがささやく。
「メガネが来るまで待て」
そこへササハラの操縦するオートジャイロが煙をあげながら現れ、ガラガラと屋根を破壊しながら降りてきた。慌てるナカジーの銃撃を避け、サキが倒れたマダラメを抱きかかえてオートジャイロに飛び乗る。
4人も人を乗せたオートジャイロは大きく揺らぐが、炎と煙を煙幕にして飛び去って行った。
捕らえられたオギウエは、涙を浮かべながらそれを見送るしかなかった。


城の動きを監視していたタナカとオオノが不時着したオートジャイロからマダラメとササハラを救出した。
サキはその場からすぐに去り、北川警部もまた、状況を説明すべくインターポールのパリ本部へと向かった。

そしてマダラメは、ササハラ兄妹と“ある少女”が暮らす家で手当てを受けて眠っていた。

マダラメが眠る部屋のドアが開き、食物を持ってササハラがやってきた。
「どうですか、具合は?」
「熱は下がったみたいだ…ササハラのお陰だよ」と、タナカが頭を下げた。
「礼ならあの少女に言ってください。誰にも懐かぬ堅物が、マダラメさんから離れようとしない。そうでなければ皆さんをここまで匿ったりはしなかったですよ…」

ベッドで死んだ様に寝るマダラメのそばに、目つきの悪い金髪の少女が片時も離れずに座っていた。マダラメはやがて、少女の刺すような視線に気づいて目を覚ました。

「よう…、スージー」

「気がつきやがった!」「マダラメさん、傷はどう?」
タナカとオオノが声をかける。
マダラメは、2人に目を向け、「タナカ、オオノさん、卒業式以来だなぁ」と呟く。
「何言ってるんだよ」「傷による一時的な記憶の混乱ね」
再びマダラメは少女に目を向け、「スー、今日はあの筆頭の子と一緒じゃないのかい?」と語りかけた。
ササハラが、「どうしてその女の子を知ってるんです? スーというあだ名は、僕とケーコのほかはもう、オギウエさんしか知らないはずだ」と問い掛けた。

「オギウエ? そうかぁ…お前の友達はオギウエっていうのか…オギ…」
記憶が蘇ってきたマダラメは、目を大きく見開いてベッドから飛び起きた。
「タナカァ! 今日は何日だ、あれから何日経った!?」
「み、み、3日だよ」
「じゃあ結婚式は明日じゃねーか。こうしちゃあ……イデエ!」
うずくまって傷の痛みに耐えるマダラメは、絞り出すような声で呻いた。
「同人だ~、同人誌もってこい!」

一同「はぁ?」 

「“成分”が足りねえ~。ツルぺタでもメガネでも何でもいい、ジャンッジャン持って来い!」
呆れるタナカとオオノだが、ササハラは意を決して立ち上がった。
「俺が何とかしましょう。……俺のは、ツルペタは少ないですが…」
タナカは思わず、「持ってんのかい!」と突っ込んだ。


マダラメは、ササハラが用意した同人誌の山をガツガツとむさぼるように読みふけっていたが、急に動きが止まった。

タナカ「どうした。ティッシュか?」
オオノ(……あ、何か嫌な空気……)
マダラメは倒れる様にベッドに潜り込み、鼻息が荒いまま眠りについた。
タナカ「…読んだから寝るって…」

タナカとオオノは、ササハラからオギウエの話を聞いていた。
「オギウエさんはもともと絵の好きな子だったのですが、当時の許嫁が行方不明になったときから、頑なに自分の本心を隠すようになったと聞いています……」
「許嫁の行方不明ですか。その後大公夫妻も死んでるし、解せないですね」とオオノ。
「キモハラグロが関わっているのかもしれません。それでオギウエさんはスーを危険な目に遭わせないように僕にあずけて…」
ササハラが視線をスージーに移す。彼女はずっとマダラメのベッドのそばを離れない。
タナカが、「そうか…この子は、マダラメの体にオギウエさんの匂いを嗅ぎつけたってわけか…」と呟いた。

ササハラ「なんでマダラメさんはスーのことを知っていたんだろう…」
タナカ「さあな…何しろロリコンだからな」

「そんなんじゃねえよ」と、眠っていたはずのマダラメが、ポツリと口を開いた。
「もう何年も昔だ。俺は1人で売り出そうと躍起になっているA-Boyだった。バカやってイキがった挙句の果てに、俺はゴート本に手を出した。“ジリオス”のアップルちゃん本でイイのがあったからな……」

……キモハラグロ城に侵入したマダラメはすぐに見つかり、逃亡途中に背中に矢を受け、湖へと転落した。何とか泳ぎ切り、大公邸の庭へと逃げ込んだが、庭木の陰で力なく横たわった。
気が付くと、スーが倒れたマダラメを見つめていた。そこに、メガネをかけた幼いオギウエがやってきた。
オギウエはマダラメを見つけ、驚いて逃げて行く。
「どうやら年貢の納め時がきやがった…」
しかし、マダラメの目の前に、水の入ったコップが差し出された。オギウエだ。
「震える手で水を飲ませてくれたその子の顔に、あのメガネの銀ブチが光っていた…。恥ずかしい話さ。メガネ見るまで、すっかり忘れちまってた…」


回想していたマダラメの横で、スーが立ち上がった。
屋根に近い小窓を睨む。そこから、口紅のキスマークがついた新聞の切抜きがヒラヒラと舞い落ちてきた。

タナカが手にして、「春日部さんだ……。なになに…“明朝結婚式のため、高野山から久我山大僧正が来る”ってさ」と、切り抜きを読み上げた。
「あ…、た、タナカ…俺にも読ませて…」マダラメが必死に手を伸ばす。
「お前は安静にしてろよ」と、タナカは切り抜きを丸め、暖炉に投げ入れた。

(あーーーーーーーっ! そりゃないぜタナカ!)
心の中で悲鳴をあげたマダラメ。「サキのキスマーク入り」の切り抜きをゲットし損なったのであった。


パリのインターポール本部でキモハラグロの悪行を訴えた北川警部だったが、各国代表の反応は鈍かった。
「これは高度に政治的な問題なんだよ」と言われたものの、北川は納得いかない。思わず(エロ絵の本を掴まされてんじゃねーのか?)と疑った。

出動はなくなり、マダラメ担当の任務も解かれることになった北川警部は、オフィスで飲んだくれて、眠りこけていた。

ジリリリリリリリリリリ……!

古びたダイヤル電話が鳴り響く。北川は目を閉じたまま受話器を取る「私もう降りるわよ……、サキ!?」
思わず目を覚ます北川。
「え? マダラメが結婚式を襲うの?」

「そうよ警部。マダラメが相手なら、天下御免で出撃できるでしょ」
電話を掛けたのはサキだった。彼女は、北川にある提案をして同意を得ると、携帯電話を切った。
「準備OKね、コーサカ」と、隣でハンドルを握る優男に笑顔を見せた。

オギウエの望まれぬ結婚式に向けて、マダラメ一味が、サキが、北川警部と機動隊が、行動を開始しようとしていた。

<つづく>