※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

笹荻BADEND3 【投稿日 2006/04/28】

笹荻BADEND


手を繋いだまま屋上へ続く階段を上る。

荻上の手は痛いくらいに笹原の手を強く握り締め、その手は汗ばんで震えている。
手だけではない。体中汗をかき、息は荒く、顔は青く、今にも倒れそうだ。

「大丈夫?やっぱりここに残る?」
その様子を見た笹原は心配そうに顔を覗き込みながら言ったが、
荻上は小さく「大丈夫です」と答えるだけだった。

後、少し、後少しで終わる。
明日からはまた平和な日々に戻るんだ。

だからこれ以上このことで、笹原に迷惑をかけたく無い。

「行きましょ。」


青ざめた顔のまま荻上はそう言って笹原の手を引く。
そんな荻上の様子に、酷く危ういものを感じながらも留める理由が無い笹原は
荻上に引かれるまま屋上に向かった。




階段を上がりきり、屋上に出る。

外周に沿って段差があるだけで、柵や仕切りは無い。
いくつかの貯水タンクがある他は何も無い、ただ広いだけの屋上。
落ちかけた日がその屋上を赤く染めている。

高さがあるからか随分と風が強い。

中島はその階段と正反対の端の角。
先ほどまで居た部屋の丁度上にあたる場所の段差にうなだれたように座っている。
距離があるし逆光になっている為、表情は伺えない。


「行こう…。」
今度は笹原が荻上を促す。荻上は笹原の手を強く握り返す。

二人はゆっくりと歩を進める。その間、中島は微動だにしなかった。

笹原はいっそのこと死んでてくれてれば楽なのにと思う。
正直、もう一度あの表情と面と向かう勇気は無い。
それ程、あの時の中島を恐ろしいと思った。


後5mと言う所で笹原と荻上どちらも歩が止まる。



笹原はもう一度荻上の手を強く握り直す。それが合図だった。

2人同時に歩き始めた時、中島がピクリと動いた。

ぞっとする笹原。目を逸らさずにいられたのは荻上がいたからか。
だが、顔を上げてこちらを向いたその表情はあの時の恐ろしいものでは無かった。

「オギ…。」

笹原と荻上の手が強く握られているのを見た中島の顔が悲しそうに笑う。
「そう…あんたも結局、私から去っていくのね…。」

その表情も、声色も、本当に悲しそうで、今にも泣き出しそう。

荻上はまるで高校までの自分がそこにいるように感じた。
自分から周りを傷つけ、それでも傷ついた相手が去ってしまうことが悲しい。


荻上は何も言う事ができなかった。
彼女を見捨てることは、かつての自分を見捨てることのような気がした。
それでも、ここで生きることはできない。



笹原に身を寄せる。それが彼女が示せる精一杯の答えだった。



それを見て、中島の顔がすっと暗くなる。
笹原の体がこわばる。荻上も何かを感じたのか笹原の腕にすがる。

「そう…いいわよ。どこへだって行けば。」
俯いてそう呟くと、中島は外周の段差、巻田が最後に身を投げたと言う場所に立つ。
「だけど覚えておくことね。」

風が一際強く吹く。
赤い夕日を背にし、髪を振り乱し、あの時のように常軌を逸した表情を浮かべた中島。
「あんたはあんたの罪から逃れられないし、私の呪縛からも逃れられない。」
そのままゆっくりと後ろに倒れていく中島。


「っ待て!」
「ナカジ…!!」
その意図を察した荻上が動き、中島の表情に体が固まっていた笹原が一瞬遅れる。
それでも十分に間に合う距離だった。




「じゃあね…。」
重力に引かれて落ちていく中島。


彼女を止めなければ、ただそれだけの気持ちで走り出した私の視界に
あるはずの無いものが映り、私の体が意思に反して動きを止める。

中学の時の巻田と、死に向かったやつれ果てた巻田、
中学の時の自分と、高校の時の自分。

皆一様に、恨み、憎み、蔑む視線でこちらを見ている。

その口が言葉を紡ぎだす。
『自分だけ幸せになってるなんて。』

「っ!!!!!!!!!」
心臓が壊れたかと思う程の激痛。
膝から力が抜け、崩れ落ちる所を笹原に受け止められる。


その肩越しに見た中島が、同じ視線でこちらを見ながら落ちて行った。

最後に
「人殺し。」
と一言、言い残して。


ガシャンと何かが壊れる音がした。


「今日は暖かいね。」
「あ。そう言えば斑目さん、ようやく結婚するらしいよ。」
「これでようやく、当時のメンバー全員家庭持ちだ。」
「田中さんちは子沢山で大変らしいよ。頑張るよね、あの人。」


知る人ぞ知る穴場の大きな桜の木の下。
満開を過ぎ花が散り始める、最も美しくもの悲しい時期。

彼女は静かに車椅子に座っていた。



あの時の中島の言葉は正に呪いだった。

最初は少しの違和感と疲労感。
あれだけのことがあったのだから、仕方が無い。
ゆっくり休めば直る、誰もがそう楽観していた。


気付いた時は既に手遅れだった。誰もそうなるまで気付けなかった、
それ程、緩慢にそれでも確実に、彼女の心は壊れていった。

幻聴にうなされ、幻覚に襲われ、
悪夢と現実の境すら失い、ただ磨耗していくだけの日々…。

いっそのこと狂ってしまいたい、そう泣きながらも何度も何度も繰り返し、
だが決して彼女自身の罪の意識がそれを許さなかった。


その果てに彼女がたどり着いた静寂。



例えそれが、生きるものが全て死に絶えた砂漠のそれであっても。



せめてその静寂の日々が続けばと願う。


...END