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ノートブック 【投稿日 2006/04/16】

カテゴリー-ハルコさん


※改編版です

雨待ち風続編 終章

第一幕 郊外の病院

初秋の昼下がり時、一人の老人が郊外の「ある」専門の病院を訪ねた。この病院
に入院している親密な老婦人に会う為だ。

老婦人「昨日もいらっしゃったのに、今日もまた来られたのね」
老婦人は微笑んで、この老人を迎えた。
老人「ああ、あなたに昨日の物語の続きを読んであげたくて・・・」
老婦人「わたしもあなたのお話を、とても楽しみにしておりましたのよ、それで
あの娘さんは・・・」
老人「ええ、ちょっとお待ちください」
そう言って老人は鞄から古びたノートブックを取り出した・・・

第二幕 イベント会場

ハルコ「さて・・・約束通りこの行列に並んでいただこうかしら!」
そう言って、ハルコはニヤニヤと意地悪そうな表情を浮かべて、春日部の顔を覗
きこんだ。
春日部「はあ・・・やっぱりやらなきゃ駄目?違う罰にしようよ・・・」
ハルコ「ふふっ、駄目よ 男らしくないわねえ それに例の『放火』事件の後の
ボランティア活動の時にも、コミフェスで同人誌買った事あったじゃない!たい
した事ないでしょう」
春日部「『放火』とは人聞きの悪い!それにあの時は、女性向の同人誌は惠子ちゃ
んの手伝いで買ってもらったし・・・」
ハルコ「だ め で す ! 覚悟決めて!さあ」
春日部「ぜってー、楽しんでるよね・・・ハルコさん・・・分かりましたあ・・」
渋々と春日部は行列の後尾に並んだ。
ハルコ「いい事!このサークルのヘウレカセブンとデスブックは二冊買いよ!二
冊!」
春日部「はい・・・」
ハルコ「えっ?声が小さい!聞こえたの?」
春日部「仰せののままに~」
ハルコ「ププッ・・・よっよろしい・・・」
他の女性客のじろじろ見る視線に耐え切れず、顔を真っ赤にして上を見上げる春
日部の様子に、ハルコは笑いを堪えきれず、肩を震わせて腹を抱えていた。

春日部「ひでえよ、ハルコさん・・・」
そう言って春日部はやっとこさ購入した女性向の同人誌をハルコに手渡した。
ハルコ「はい、ご苦労様。じゃあ次は・・・」
春日部「ええ、これで終わりじゃないの?まだ買うものあるの?」
ハルコ「当然です!今日一日、春日部君は私の下僕です!」
春日部「んが・・・そんな・・・」
(ふふ、困ってる、困ってる、そろそろこの辺にしてあげようかな・・・)
本気で落ち込んで肩を落としている春日部が可笑しかった。ハルコはそろそろ許
してやろうかと思って、春日部に声をかけようとした。
ハルコ「嘘よ・・・じゃあ・・・」

真琴「あら!春日部君!それにハルコさん!」
二人は声のする方に一緒に顔を向けた。

春日部「あっあれ?真琴、今日仕事って言ってなかったっけ?どうしてここに?」
真琴「依頼先の都合で、納入日や企画が変更になって、新企画が確定するまで時
間が空いて・・・。だから今日は急にお休みになっちゃって・・・。春日部君こ
そ・・・。お邪魔だったかしら?」
そう言って、いつもの無邪気な笑顔で笑いかけてから、くるりと向きを変えて立
ち去った。

春日部「あ!真琴!ちょっと!」
追いかけようとして、春日部はハルコの方を向いて、困った表情を浮かべた。
ハルコ「・・・私はいいから早く追いかけてあげなさい・・・」
春日部「ハルコさん、すまない!埋め合わせは必ず!」
そう言って春日部は駆け出した。

ハルコはその春日部の背中を目で追い、思わず手が伸びた。
「あ・・・」かすれたような声が口からもれた。
(やっぱり、わたしのそばにいて!)
誰の耳にも入らない言葉に出来ない叫びが心の中だけに響いた。やがて春日部の
背中は雑踏に消え、ハルコの視界から姿を消した。

ハルコ「・・・」
ハルコはその場にうつむいて静かにしばらく立っていたが、やがて駅に向かって
うつむいたまま歩き出した・・・。

第三幕 笹原と荻上と惠子

惠子「千佳さん、晩飯まだー?」
笹原「あのなあ・・・月末の休日になると必ず押しかけやがって。遠慮という言
葉はお前の辞書に無いのか?」
惠子「いいじゃん、ケチケチしないでさー 高給取りなんだから!金無いのよ、私」
笹原「全然、高給取りじゃないよ、特にお前にタダメシ食われているからな!」

荻上は最近休日には、笹原の家で夕食を一緒にすることが多かった。外食するお
金もそうそうあるわけでも無いので、もっぱら一緒に食事を作る。仲が良いんだか
悪いんだか分からない笹原と惠子の毎月のこのやり取りも、最近は慣れてきた。

笹原「お前、春日部君のショップの開店の手伝いするんじゃないのか?」
惠子「開店準備は専門業者の仕事だから、わたしは下働きの手伝いだけ!まだそ
んなに忙しく無いのよー。春日部さんは別だけど。でも今日はコソコソどっか行
くとか言ってたなー。」
荻上「それ・・・やおいのイベントですか?同人誌関連の知人がイベント会場で
春日部さんとハルコさん見かけたとかメール入ってて・・・」
笹原「ええー、春日部君がやおいのイベントに?それこそ見間違いじゃないの?」
荻上「ええ、私もそう思ったんですけど。でもハルコさんも今日休みとイベントの
日程合ったのに、誘ってくれなかったし・・・」
惠子「たぶん見間違いじゃないと思うよ、ハルコさん、春日部さんに気がある
し・・・」

笹原・荻上「ええ!仲の悪いあの二人が!まさかあー!」
惠子「これだから・・・オタクは・・・」
笹原「にしては、お前落ち着いてるね。一途に何年も春日部君を追いかけてきた
お前が!ハルコさんは敵じゃないって?それとも諦めた?」
惠子「なわけ、無いだろ、馬鹿兄貴!」
荻上「まあまあ、でも恵子さんも何年も春日部さんを慕ってるなんて凄いですよ
ね」
笹原「ほんと、意外。乙女だよなー」

(乙女なわけねーだろ!勝算あると思うから、付きまとってるんだって!)

これは惠子の自信過剰では無かった。顔で男を選んで、失敗している分、直感的
に春日部と真琴はうまくいかない、遅かれ早かれ別れると思っていた。春日部へ
の借金だって、その時一緒にいるための口実のようなものだった。恵子はいい男
が好きだ。だけど中身もある男もほしい。春日部はめったにいない『本物』だと
思った。

でもそういう男は競争も激しい。フリーになった時に身近にいれば有利だと言う
打算もあった。これは趣味の問題とか、二人に問題があるとかそういうことでは
なく、なんとなくそう感じた。予想外に長続きしてるが・・・。

春日部が真琴に一途なのも『本物』だと思った。恵子は真琴が嫌いだった。自分
を眼中に置いていない余裕の態度が。これは惠子の僻みだと言う事は惠子自身分
かってはいた。

笹原「でももしそうなら、大野さんの話は余計なお世話かな?」
荻上「スーと一緒に来日したアンディーがハルコさんと交際したくて、デートの
セッティング頼まれている件ですよね」
笹原「春日部君は真琴さん一筋だしねえ・・・」
惠子「・・・・」
(きっと、春日部さんもハルコさんの事が・・・)

言いかけて恵子は口をつぐんだ。誰にも言わない方がいい。春日部本人さえ無意
識で気付いていない事を穿り出して、墓穴をほってもしようがない・・・。でも
この事に気付いている人間はもう一人いる。真琴だ。あの女は直感で自分が春日
部に浮気以上の相手にされないだろう事を知っている。

同様の直感でハルコに対しては心穏やかではいられないのだ。真琴のその態度で、
春日部の心に恵子も気付いた。『女』として真琴にもハルコにも負けているとは
思っていない。春日部とは趣味だって体の相性だってピッタリだという自信はあ
る。でも違うのだ。愛が無くても、男には女は抱ける。そういう事では無いのだ。

惠子の目の前では、笹原と荻上が仲睦まじげに夕食の準備をしている。笹原が目を
ウロウロさせて何かを探していると、荻上がそれを察するように黙って調味料を手渡す。
その光景をぼんやりと眺めながら、「ちぇっ」と舌打ちした。
(潮時かな・・・)
惠子「あーあ、どっかにいい男いないかなー」

第四幕 デート

大野のセッティングで、ハルコとアンディーのデートが都内の某所で催された。
出席者は大野と田中、ハルコとアンディー、春日部と真琴だった。笹原と荻上は
笹原の方が仕事の都合で参加できないので、荻上も辞退した。

ここまで、話を持っていくのに大野は苦労した。ハルコが消極的で、英語喋れな
いし、外国人との交際は無理だのとグズグズ言ったからだ。アンディーは日本語を
マスターしたから大丈夫、別に会うだけだと諭しても、煮えきらず、誰か好きな
人でもいるのかと聞けば、そんな人はいないと言う。引き受けた友人への体面もある。
とうとう切れて、ここまで無理矢理ハルコを引っぱってきた次第だった。

大「えー、本日はお日柄も良く・・・」
春日部「大野!お見合いかよ!」
春日部が茶々を入れる。春日部も何故か終始不機嫌である。
田中もカチコチに緊張した面持ちで、アンディーを紹介している。
田「えーと、前に来日して面識はあると思いますが、アンディー君は大野さんの
在米中の友人で、スポーツマンな上、大変な親日家でもあります。日本文化、特
にサブカルチャーへの造詣が・・・」
春日部「要はアメリカのオタクって事だろ!むこうじゃなんていうんだっけ?」
あまりの行儀の悪さに、春日部は真琴に頬をつねられた。
大野「とっとにかく、アンディーは片言だけど日本語喋れるようになったし、分
からない事は私と春日部君が通訳しますから、気楽に、気楽に、ね!」
春日部「えー、俺もかよ!俺そのために呼ばれたの?」

ハルコは顔を赤らめ、高い背を気にして、猫背気味にうつむいている。アンディ
ーは大柄だが朴訥で誠実そうな青年で、穏やかで優しい表情で、そんなハルコを
見つめている。
そして春日部はその様子を横目で忌々しげに見ていた。

真琴「お二人さん、お似合いね!」
と真琴は笑顔でそう言った。
春日部「そうかー?」

その後の会食は和やかな雰囲気で進んだ。アンディーの話題は、ジャパニメーシ
ョンの現状から、ディズニーの中国を舞台にしたアニメの原典の出自や、古典を
アニメ化した『偏屈王』の監督の批評、絵画論、文化論まで大野が通訳に苦労す
る内容まで話していた。ハルコも真琴もそういう話も好きなので、興味深く耳を
傾けていた。また最近の時事ネタもジョークも入れた。

真琴「面白いわね、彼の話。趣味も合うし、あの二人雰囲気いいわね」
春日部「ぜんっぜん、話の内容分かんね!ギャグもつまんねー、文化の相違だ
な・・・」
真琴「はいはい、ハルコママが取られちゃうのが、嫌なのね!」
春日部「なっ!」

結局この会食の後、アンディーとハルコはアンディーの滞在期間中、交際を続け
ることになった。

第五幕 笹原と荻上と春日部

春日部「それでそいつの帰り際のセリフ!『私は貴方が思ってる以上に貴方の事
を分かっているつもりです』だとさ!」
笹原「はは・・・(汗)」
荻上「それじゃあ、滞在後も交際が続くなら、ハルコさんアメリカに行っちゃう
んですか?」
春日部「いや、何でもこっちに研究員としての仕事の当てがあって、日本に住み
たがっているとか。来るなと言いたいんだが。ハルコさんには合わないよ!」
笹原と荻上は顔を合わせて、怪訝そうな表情をした。
笹原「あの・・・春日部君はハルコさんが好きなわけ?」
春日部「いや、嫌い」
笹原・荻上「・・・・(汗)」
春日部「あの女は俺が会った女の中で最高に性格悪いね!」
笹原「じゃっじゃあ、別にハルコさんが誰と付き合おうと・・・」
春日部「誰と付き合おうと、不幸になるのは目に見えている!」
笹原は頭を抱え、荻上はポカーンと口をあけて、呆れた顔をした。
春日部「大体、真琴も俺をマザコン呼ばわりしてるけど、どちらかと言えば俺の
母親に似てるのは真琴の方だ!いや、だからってマザコンじゃねえぞ!」

(あれ?そういや、お袋と親父が離婚したのって、親父が浮気したからだっけ?)

第六幕 郊外の病院 その2

医師「あの人また来てるね」
看護士「はい・・・認知症のリハビリに今日も来てます」
医師「あの病例は回復が難しいからねえ 回復したら奇跡だよ」
医師はせせら笑った。

老婦人「あら、じゃあその娘さんは外国の方と一緒になるのね?」
老人「寒くはありませんか?」
老婦人「ええ、大丈夫。それにしても青年と娘さん以外の方々のお話は何時聞い
たのでしょう?」
老人「ええ、青年が後日、色々な人から聞いた話と、予想が入っているそうです」
老婦人「そうですか」
老人「では続きを・・」

第七幕 アンディーとハルコ

アンディーとハルコは、アンディーのたっての希望で都内の有名な日本庭園を
一緒に見学していた。

アンディー「日本の四季は美しいですね」
ハルコ「そうですか?」
アンディー「そしてあなたも」
ハルコ「・・・アンディーは日本にも私にも幻想を持ってるんじゃないんですか?」
アンディー「そうとも言えるし、そうじゃないとも言えます」
彼はやはり大きな体を揺さぶりながら優しげに語った。
ハルコ「それはどういう意味ですか?」
アンディー「誰も自分の事は分かりません。人によって気付かされるものです。
海外の人が日本を日本人以上に愛する例も多いですよ 同様に人によって人は
変わります」
ハルコ「それはそうかもしれません・・・」
アンディー「そしてわたしが美しいと言えばあたなは美しくなる」
ハルコは照れくさげにうつむいた。こんな事を言ってくれる人はいなかった。
結局、愛される事が女性にとって一番幸せということなのだろうか・・・。

アンディーとハルコは日本庭園内にある食事処に場所を移して、昼食をとった。
そして、一緒に懐石膳を頼んだ。
アンディーはハルコの食事をとる姿を眺めて、うっとりとした表情を浮かべた。
アンディー「やはり美しい。特に箸を使う仕草はエレガントです!」
ハルコ「え?は?はは・・・」
(ただ単に貧乏くさいだけなんだけど・・・)
アンディー「それに服装も装飾品で着飾ることなく、質素でけばけばしさが無い・・・。
清楚そのものです。物を大事にする姿はアメリカ女性には見られません」
ハルコ「いや、まあ、はは・・・」
(それも同人誌や欲しい物に給料つぎ込んで、食費や生活費切り詰めてるだけ
なんですが・・・。もっとも服や化粧品は以前に比べて・・・。春日部君に
言われてからは・・・)
ふと春日部のことを思い出し、沈んだ表情になった。

アンディー「どうされました?」
ハルコ「いえ・・・。アンディーはどうしてわたしなんか?アメリカにも素敵な
女性はたくさんいるでしょうし・・・。それに日本でも可愛いといえば大野さんや
真琴ちゃんみたいな子の事を言うんですよ・・・」
アンディー「そんなことはありません!第一わたしはそんなにもてません。図体
が大きいのに、気が弱くて・・・それで小さい頃は物語やアニメばかり見て・・・
今でこそ、アメリカンフットボールしてますがね。それに失礼だがカナコは素敵な
女性だが、アメリカではむしろ貴方のようなスレンダーなスタイルの女性が知的で
エレガンスと思われていますよ。ご自分に自信を持ってください!」
ハルコ「そんな・・・」と顔を赤らめた。

アンディー「それに映画やアニメの話ばかりして、女性には呆れられる事も多い
ですし」
そう言って、アンディーも照れくさそうに笑った。
アンディー「日本のアニメがきっかけで、日本の美意識や文化を知りました。
『ブシドー』も読みました!ヤマトナデシコ、サムライ!わたしは貴方のサムライ
になりたいのです」
その熱心で素朴に飾らない姿にハルコはアンディーを本当にいい人なんだなと思った。
(それに比べてあの男は・・・)
ハルコは春日部と一度だけ二人きりで食事した時の事を思い出した。

夜の雑踏で、友人達と雑談している春日部の姿を見つけた時、昼間と同様
気付かない振りして立ち去ろうかと思った。だが春日部の方が先に気付いて、
こっちの方を向いて手を振ったので、その方向を友人達も向いた。そして友人達も
ハルコの姿を見たので、無視するわけにもいかず、彼らの方に向かって歩いた。

ハルコ「やっやあ」
そう声をかけると、春日部の友人達はジロジロと観察するような目で、ハルコを見た。
日中は男友達ばかりだったが、今度は女友達ばかりだった。昼間は装飾品をジャラ
ジャラ付けたストリート系の風体した男達が怖くて逃げだし、それで春日部と喧嘩
になったのだが・・・。

友人「誰?」
春日部「ああ、彼女の友人・・・」
友人「ああ、オタクの彼女のね・・・」

ハルコは春日部の友人達に軽く会釈した。早く立ち去りたい気分だった。
春日部「じゃあ、俺はこれで!」
友人「じゃね!」
ハルコ「?!」
春日部「ハルコさん、メシ食った?どっかで一緒に食ってくか?」
ハルコ「もっもういいの?彼女達?」
春日部「ああ・・・あいつら用事あんだとさ・・・」
ハルコ「そっそう・・・」

ハルコが春日部の女友達の方を振り返ると、女友達達もハルコ達の方を見て、
何か喋っている。
(何喋ってんだろ・・・わたしの服野暮ったかったかなあ・・・笑われてるのかも・・・)
春日部に指摘されてから、大分服のセンスはましになったとは思う。でもああいう
派手な女性たちの前では、少し卑屈になってしまう。昼間の男友達の時にも、
品定めされるような目で見られたらたまらないと思ったから・・・。
春日部はそんなハルコの気持ちもお構いなしに、鼻歌歌いながらズンズン先に
早足で歩いている。
(少しは察しろよ・・・馬鹿ぁ~)
ハルコは少し哀しい気持ちになった。

春日部「あ?少し歩くの、速かった?」
ハルコ「・・・あの女友達の事・・・真琴ちゃん知ってるの?」
春日部「は?何を処女くさ・・・ゴッゴホン、真琴も知ってる友達だよ!」
ハルコ「そっそう・・・」
春日部「ハルコさんだって、男友達多いじゃない!」
ハルコ「あいつらはわたしのこと女だって見てないだけだって!」
春日部「そんなこと無いよ。初めて会った時に比べて、服のセンスとかも良くなったし」
ハルコ「本当?」
春日部「ああ・・・」
ハルコは少し嬉しくなった。ちょっと前まで哀しかったのにこのくらいで単純だなと
自嘲気味に思った。

回転寿司で二人は夕食を食べた。春日部は平気で高いネタをガンガン頬張っている。
ハルコはイカとかタコとか安いネタばかり選んで食っている。
春日部「・・・おごるよ・・・だから・・・」
ハルコ「遠慮します。いくら金あるか知りませんけど、おごってもらって喜ぶ
女ばかりじゃありませんから!」
春日部「自意識過剰だよなあ・・・そんなにお金無いの?」
ハルコ「まあ・・・ちょっと高い漫画のイラスト集買っちゃって・・・」
春日部「相変わらずだなあ」
ハルコ「こちとら筋金入りの腐女子ですから!」

春日部「うわ!嫌な言い方!女子と言えば・・・どう?女性の就職状況の方は・・・」
ハルコ「んー、実は今日もOGに相談に行ったけど、景気が上向いたとは言え、
女子には関係無いわー」
春日部「厳しいよなー」
ハルコ「春日部君は?アパレルのお店経営するんだっけ?」
春日部「まあ、親父の資金援助でね・・・」
ハルコ「いいわねー」
春日部「・・・なかなか本当は色々ありましてね・・・」

春日部は少し暗い表情になった。ハルコは少し気になったが、深くは聞かなかった。
食事が終わり、会計の段になると春日部が言った。
春日部「やっぱり、おごるよ!」
ハルコ「いいって!年下の後輩におごられるほど、落ちぶれちゃおりません!ああ!!」
そう言いながら、ハルコが財布を覗くと、しわくちゃの千円札が一枚と小銭がパラパラ
入っているだけだった。
ハルコは火が出るほどの恥ずかしさで顔が真っ赤になった。
そばでは春日部がニタニタ笑って財布を覗き込んでいた。そしてハルコから注文票を
ひったくって、さっさと会計をすませてしまった。
ハルコ「かっ必ず返すから!」
その時の寿司代はいまだに返しそびれている・・・

帰りの電車で、二人の前の席があいた。
春日部「ん!ほら!」
ハルコ「何?座れって?本当に男尊女卑ね!」
春日部「ここで普通、素直な可愛い女はキャーありがとうって言うんだよ」
ハルコ「可愛くなくてすみませんね!」
そう言ってハルコは座った。
帰りの電車のゴトゴト鳴る音だけが今も耳に残っている・・・
(本当にあいつは偉そうで生意気で・・・)
そう思いながらも、顔は自然にほころんでいた。

アンディー「ハルコさん?」
ハルコ「ああ、ごめんなさい!ボーとしちゃって!これじゃまるでオギーね!
オギーはご存知よね。あの子ったら・・・」
ハルコはおしゃべりでその場を誤魔化した。
アンディーは静かで穏やかな表情を浮かべ、ハルコの話に耳を傾けながら、目を閉じ、
少し寂しそうな表情をした。

第八幕 春日部と真琴

春日部の新宿のマンションで春日部と真琴は口論していた。

真琴「だから私が自分の趣味やイラストの仕事をやめることはないわ」
春日部「だから止めろなんて言ってないよ!ただ・・・」
真琴「無理する事は無いのよ、もう」
春日部「無理なんて・・・」
真琴「あなたはお父さんの真似をしたくないと思ってるだけ。あなたはお父さん
の浮気が原因で離婚したと思ってるんでしょうけど、先に再婚したのはどっち?」
春日部「お袋の方だった・・・親父は今も一人・・・」
真琴「先に愛が無くなったのはお父さんの方じゃなかったのよ。本当はあなたはお父
さんが嫌いなんじゃなく、好きなの。大好きなお父さんが愛してる人を裏切った事が
許せなくて、そっくりな自分も同じ事をするんじゃと恐れているだけなの・・・。
ご両親の関係をなぞっているだけ・・・。でもあなたはあなた自身なのよ。
      • もう自分の心が分かったでしょう?」
春日部は呆然として立ちすくんだ。
真琴は部屋に春日部を置いて、さっさと自分の荷物をまとめて出て行った。
真琴の目には涙がうっすらと浮かんでいた。

真琴「日本もつまらないわね。しばらく外国に行こうかな でもその前に・・・」

真琴はハルコに会いに行った。ハルコはちょうど携帯で誰かと電話しているとこ
ろだった。

ハルコ「真琴ちゃん!どうしたの?」
真琴「ええ、海外に行こうと思いまして・・・ただその前にけじめとして」
真琴はハルコの頬を思いっきり平手打ちした。ハルコのメガネが地面に吹っ飛ん
だ。呆然とした表情でハルコは真琴を見つめた。
真琴「お幸せに!」
にこやかに真琴は立ち去った。

第九幕 アンディーと真琴(間奏)

真琴がハルコを引っぱたいて立ち去って後、真琴が海外に出国するのに数日を要した。
今、請け負っている仕事の調整等があり、すぐには出かけられなかった。真琴は
手際よくスケジュール調整やその他の出国の準備を終わらせた。パソコンがあれば、
仕事の一部は海外でも出来た。おっとりしているように見えて、真琴はそういう
手際や要領や決断力は極めて優れていた。

必要最小限度の荷物だけを持ち、タクシーから颯爽と飛び降りて、空港のロビー
に入ると、待合室のベンチに見覚えのある外国人の大男がしょぼくれた様子で
座っていた。

真琴「アンディーじゃない?どうしたの?日本の滞在はもう少しあるんじゃ?」
アンディー「ああ、たしかハルコさんの友人のマコトさんですね」
真琴「そうよ、どうしたの?」
アンディー「ハルコさんとの交際は駄目になりました・・・。断りの電話を
貰いまして・・・」
真琴「そう・・・。でも失礼ね、ハルコさんも。直接じゃなく電話で断るなんて!」
アンディー「いいえ、私から電話で聞いたのです。面と向かって聞く勇気があり
ませんでしたから・・・。ハルコさんは本当に申し訳ないと・・・心から・・・
分かってましたから・・・ハルコさんの心に誰かがいるということは・・・」
真琴「・・・・」

アンディー「ああ、でもやはりハルコさんは私が思っていた通りの人でした。
一途にただ一人を想い続けるなんて・・・。彼女に想われている人がうらやましい
      • 。彼女の騎士に・・・サムライになりたかった。私も一途に人を想いたい
ものです・・・」

真摯な表情でそう語るアンディーの表情を真琴は無言で見つめた。

真琴「・・・そろそろチェックインの時間じゃない?ねえ、わたし海外初めてなの!
案内してくれませんか?」
アンディー「え?しかし・・・」
真琴「あら?騎士様がか弱い女性を置き去りにするのかしら?」
アンディー「はっはあ・・・」
そう言って真琴は戸惑うアンディーの腕をつかんで引っぱっていった。傍から見れば、
小さい女性に大男が引っ張られていく姿は滑稽に見えた。

(わたしはいつも心のままに生きてきた。そしてその選択に間違いは無かった。
春日部君と付き合った事も、この仕事を選んだ事も、そして春日部君と別れた事も・・・)
真琴はまたしても『正解』を選び取ったと確信した。

第十幕 ハルコと春日部

ハルコの部屋を春日部が訪ねた。
春日部「ハルコさん、開けてくれない!」
ハルコ「何しに来たわけ?また狼藉働きにきたわけ?」
春日部「しないよ、開けてくれないと騒ぐよ」
ハルコ「近所迷惑だからさっさと入って!」
春日部は部屋に入れてもらい、ハルコの顔を見て驚いた。
春日部「どうしたの、ほっぺたはらして!」
ハルコ「どうしたもこうしたも、さっき真琴ちゃんが来て、私を引っぱたいてっ
たの!」
春日部「真琴と別れた・・・つうか振られた・・・」
ハルコ「!!そっそれがどうしたの?そのとばっちりで私叩かれたわけ?いい迷
惑だわ!」
春日部「アンディーとはハルコさん、合わないよ・・・」
ハルコ「キミに関係無いでしょう!それに・・・さっき交際断ったし・・・」
春日部「じゃあ・・・」
ハルコ「それとこれとは別!出てってくれる?」

春日部「ねえ、ハルコさん、欲しい物があったら値札見る?」
ハルコ「まさか!即買いよ!って何言わせるの?」
春日部「じゃあ、今も自分の心に聞いてみてよ。」
ハルコ「それこそ・・・無理だよ・・・違いすぎる・・・私たちは。住む世界も
環境も、価値観や性格だって・・・」
春日部「そりゃ、違うさ。俺たちはこれからも喧嘩ばかりするよ。俺はわがまま
でだらしないし、ハルコさんは強情で意地悪だ。でも何十年たって自分の隣にい
るのは誰だ?誰にいてほしい?死が二人を別つまで傍にいたいのは誰だ?」
ハルコ「それは・・・それは・・・でも私は背も高くてやせっぽちで、真琴ちゃ
んみたいに可愛らしくないし・・・」
泣き出しそうな表情で、ハルコは言った。
春日部「そんなものは求めていない」

第十一幕 郊外の病院 その3

老婦人「美しい話ね・・・。二人はその後どうなったの?」
老人はノートブックから絵葉書を一枚取り出した。それはアメリカから送られた
もので、写真にはアメリカ人と日本人夫婦の姿が写っている。
老人「その前に・・これは二人の共通の友人の写真です。この物語の数年後に送られて
きました。」
老婦人はメガネをかけて、その写真を見た。
老婦人「あら・・・この人たちどこかで見た事あります・・・どこだったかしら?」
老人「さて・・・二人はその後、一緒になりましたとも。旦那の方は女癖が悪く、
友人の妹さんと浮気もしたりもしましたが・・・」
老婦人「まあ!悪い旦那さんね!」
老人「奥さんは奥さんで、時々高い買い物を衝動買いして、旦那さんに怒られた
りもしましたが・・・」
老婦人「奥さんも駄目ね」
老人「ええ、欠点の多い二人でした。そのたびに喧嘩しては、許し合いました。
しかし二人はお互いの心を裏切る事だけはしませんでした」
老婦人「・・・どこかで聞いた話・・・これは・・・これは私たちね!私たちの
物語ね!」
老人「ああ、思い出したんだね!神様が私たちの時間をお返しくださった!」
老婦人「ああ、キミの事を忘れていたなんて!」
老人「私たちの愛に不可能は無いさ」
老人と老婦人はハラハラと涙をながしながら抱擁しあった。

終幕 ノートブック

抱擁しながら二人は語り合った。
ハルコ「ずっと、ずっとこうして抱しめてもらいたかった。いつの頃からか、
キミに振り向いてもらいたくて、かまってもらいたくて・・・気がついたら、
知り合ってからこんなに無駄な時間が立ってしまったわ・・・」
春日部「これから先の永遠に近い無駄な時間に比べれば、たいした事無いさ・・・」

終劇