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現聴研・第二話 【投稿日 2006/04/07】

現聴研


いつものように部室では、笹原がギター専門誌をパラパラと眺めている。
別に買いたいわけではない。彼は演奏ができない。
興味がないわけではない。はじめてこの部室に来た時には、退室したフリをした斑目たちにドッキリを仕掛けられ、誰も居ない部室で「エアギター」を弾いているところを目撃されている……。

傍らで自分のギターをいじっていた荻上は笹原に、「現聴研にはほかにも楽器のできる人はいないんですか?」と尋ねた。

「ああ、いるよ。久我山さんと高坂くんができるでしょ……」
「高坂さんは何でもできそうですものね」
「うーん、でも彼はね……天然だから」
「はあ……」
   ※    ※

荻上が入部するずっと前の2002年。現聴研部室に、斑目、田中、久我山、笹原がいつものようにタムロしていた。
斑目は部室のコンポで、10年以上昔の打ち込み系テクノバンド「ソフトバレー」のファーストアルバム「アース・バーン」を流して聞き入っている。
傍らでは久我山が自分のギターを持ち込んで何度もコードを練習している。しかし、彼が実際に一曲弾いたところはまだ誰も見たことがない。

田中は笹原に、LPレコードのジャケットを手にもって、ウンチクを垂れていた。海外の有名バンド「女王」の代表作「世界に告げる」だ。
「どうだ笹原、このSF小説のような世界観を感じさせる絵柄! ピングーフロイドの“原始心母”のように、不可解なジャケットから物語を感じないか?」
「でも女王はメジャーでしょう。うちはマイナーな音楽が専門じゃないんですか?」
「一般人が存在を知っていても、その奥深いところにも目を向けるのが俺らみたいな人種だよ」
「でも田中さんCDも持ってましたよね?」
「LPジャケットは一幅の絵なんだよね~、質感が違うんだよ。……見比べてみる?」
カタンとデスクの上に同じ絵柄のCDが置かれた。

斑目は音楽を止めて、「え~第245回、ソフトバレー復活ライブ見に行きたいな会議~」とおもむろに会議を招集した。
笹「この夏に復活したばかりなのに、そんなに回数重ねてるんですか?」
田「そこは流せ」
斑「いやまあ、あの3人が再結成するとは夢にも思わなかったけどなあ」
久「あ、ひょっとしてモダンチェキチェキズと共演したりして。夫婦つながりで……」
田「ありえねえ!方向性違い過ぎ」

そんな中、ガチャリと部室のドアが開き、春日部さんがやってきた。「うお」「何だ?」春日部さんは驚く彼らを一瞥した後、笹原を手招きした。
「ササヤンちょっと相談あるんだけど」
「え、俺っすか?」
「うん、あんたが一番まともそうだから……ってなんで敬語なのよ。タメでいいよ」と語り、聞き耳を立てる他3人をにらみ付けてから、本題に入った。

「高坂の部屋で、“椎菜へきる”って奴のCDが散乱してるのに気付いたんだよ……」

   ※    ※
荻「椎菜……へきる……ですか……」
笹原の話を聞いて、さすがに荻上も微妙な顔をした。
   ※    ※

舞台は再び2002年。
笹「あー、椎菜へきる。声優ね」
春「いやデパートは関係ないよ」
(それは西友だろ)と心の中で突っ込む斑目。春日部さんは、周りの4人の反応が鈍いのを見て憤る。
「何?あんたらの世界ではフツーなのそれ? エムネミとかザザンとか平井拳を聞かないの?」
田「俺らも一応ヒットチャートは押さえるよ」
久「は 始ちとせは、いいと思うな……」

しかし斑目は、「俺聞いたことねーよ。ここ数年の巷のヒット曲なんて」と、ボリボリとケツをかきながら呟いた。思わず固まる周囲。

   ※    ※
荻上は、「なんか、高坂さんがどうとかって話じゃないですね、もう……」と汗を拭う。笹原も、はははと情けなく笑うしかなかった。
(この現聴研部室に集う人間は、みな一癖も二癖もあるのだ)荻上は、この世界はまだまだ奥が深そうだと感じた。