※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

「星の声~distance~」 【投稿日 2006/03/20】

MとSの距離


MとSの距離  その5 「星の声~distance~」  

 店内ではずっと、ボサノバのけだるげな音楽がかかっている。
コーヒーの匂いが充満していて、どこまでも落ち着いた雰囲気が漂う。
咲は、とあるコーヒーショップで高坂を待っていた。
今日は久々に高坂と会える日だ。本当に、久しぶりだ。
電話やメールは常にしていたが、顔を見るのは三週間ぶりだ。
電話でもすでに話していたのだが、今日はあのことを直接、高坂に話したいと思っていた。

告白されたこと。告白の理由が、『ただ言いたかったから』だということ。
高坂が好きな私が好きだと言われたこと。だから別れて欲しいと言うつもりもない、と言われたこと。

そんな風に言われたのが単純に嬉しくて、『何かで返したい』と思ったこと。
『借り』を返すために一緒にご飯を食べに行ったこと。

(高坂、まだかな………。)
咲は腕時計を見た。高坂との待ち合わせ時間より、まだだいぶある。

咲はぼんやり考えていた。
(私は『強がってる』のかな………。)
あのとき言われた言葉を思い出す。
そう言われれば、そうなのかも知れない。
でも、それが普通だと思っていた。強くありたいといつも思っているから。

 『そんなに気をはっていたらしんどくないか?』
(…別に、あんたに心配してもらわなくても………。)

 『無理に笑うから、平気そうに見えるから、なかなか周りが気づいてくれないのに』
(………………………)
この言葉に、はっとした。動揺しそうになった。
無理に笑っている自覚はあった。でも。
(私は、本当は『気づいて欲しい』って思ってたんだろうか?
…思ってて、でも素直に言えなかったんだろうか?)

なんだか確信を突かれた気がした。だから、『友達』だからと、わざと突き放した。
それ以上踏み込まれるのが怖かったのだ。

(あれから一度も部室には行ってないな。忙しいせいもあるけど。
あいつには『部室に顔出せ』と言っておきながら、勝手だよな…。)
でも今は会いたくなかった。…何故かはわからないけど。


………………………


 斑目は最近、また昼休みに部室に行くようになっていた。
仕事が忙しくなったため、前のように毎日というわけにはいかないが、行ける日はできるだけ行くようにしていた。
秋も深まり、朝晩は冷えるようになった。でも日中はまだまだ暑い。
大学に向かう間も、強い日差しが照りつけてくる。
Yシャツを長袖に変え、上着を着ていたのだが、暑いので上着は脱いだ。

部室のドアをノックする。「どうぞ」と、抑揚を抑えた声が中から聞こえた。
ドアを開けると、そこには荻上さんが一人。
斑「や、こんちは」
荻「あ…、どうも」
荻上さんは、何故か少し驚いた顔をする。最近の荻上さんは前に比べ、表情豊かになった。
笹原と付き合うようになって変わったなと思う。…いや、元々こっちが彼女の本来の姿なのだろう。
荻上さんは今日も原稿を描いている。
いつも思うが、よく飽きずに描き続けられるもんだと感心する。自分には無理な芸当だ。

斑「…今日は他に誰か来た?」
荻「さっきまで大野先輩がいました。朽木先輩は…最近来てないです」
斑「あ、そうなんだ」
…ちょっと、がっかりする。春日部さんは今日も大学に来てないのだろうか。
(もう必要な単位も少しだって言ってたしな…。)

斑「………」
荻「………」
妙な間があく。斑目が何か言おうとしたとき、先に荻上さんが喋り始めた。
荻「…あ、あの………!」
斑「ン?」
荻「…いや、その、春日部先輩のこと、なんですけど…」
斑「!…あ、あー…、うん」
荻「すいません、さっき、大野先輩から聞いて………」

なんとなく予想はしていた。春日部さんのことだから、周りの人に話していてもおかしくはない。
今までのことを考えても。
(お互いだけの秘密にしといてくれないのが、春日部さんらしいというか…)
思わず苦笑する。

斑「ま、ね。フラれたんだよね。まー、大方の予想を裏切らない形といいますか………。」
腕を組みながら、照れたように笑う。
荻「………」
斑「別に、今までと変わらないっつーか……。言ったら俺も吹っ切れたし!」
少しだけ嘘をつく。
斑「そんだけ。もうケリはついたからさ。」

また、心の奥が痛むのを感じる。
荻「いえ、あの、そういう話じゃなくて………」
荻上さんは、言いたいことを整理できない、という様子で、言葉を捜している。

荻「今回のことを大野さんから聞いて、あの、これは個人的な意見なんですけど…。
他の人がどうかは、実際わからないんすけど………。」
そう前置きして、荻上さんは言った。

荻「好きって言われて嬉しくない女子なんていません!」
そう一気に言って、再び小声になる。
荻「…その…、自分という人間を、全面的に肯定してもらえた気分になります。
いい面も悪い面も含めて、受け入れてもらえたんだという気になります。
誰かに好きだって言われることで、自分でも自分を好きになれます。」

荻「それに、自分の見たくない部分、弱い部分や嫌いな部分にも向き合うことができるようになります。
…すごく、勇気をもらえるんです」
斑「………………」

荻「えっと…、つまりですね………。『今までと変わらない』ってことは、ないと思うんです。
実際付き合えるかどうかは、状況によると思うんですけど………。
…すいません。全然根拠とかないんですけど、私にはそう思えるんです。
なんかうまく言えなくて、もどかしいですけど………わかりにくい言い方しかできなくて…」
荻上さんは目を伏せがちにしながら、必死に言葉を紡いだ。
斑「………いや、そんなことは…。わかるような気はするよ」

 そうは言ったものの、荻上さんの言うとおり、『個人的な意見』だとは思う。
春日部さんにも『嬉しかった』とは言ってもらえたが、自分の言葉にそれほどの影響力があるとは思えない。
自分の言いたいことを言ったに過ぎないし、『言いたかったから言った』というのも、こちらの都合でしかない。
何より、春日部さんに一番影響力があるのは高坂だろう。

そう思うのだが、荻上さんがこうして励ましてくれようとしているのは嬉しかった。
いい子なんだなと思う。
斑「そんな風に言ってもらえると、救われた気がするよ」
荻「いえ…」
荻上さんは少し顔を赤くしていた。
斑目は寂しそうに笑った。

会社に戻りながら、斑目は考えていた。
(もし荻上さんが言ったように、少しでも、ほんの少しでも春日部さんのためになっていたのならいいんだけれど。
俺にできることはそのくらいしかないし………。)

(もう、これ以上は届かないんかな………。)


………………………


 ふと店の入り口を見ると、ちょうど高坂が入ってきたところだった。
手をふると、こっちに気がついて、笑顔で手を振り返してくる。
先にコーヒーを買う、としぐさで合図してから、カウンターで注文していた。
やがて咲が座っているテーブルのほうへとやってくる。
高「お待たせ。待った?」
咲「遅ーーーい、なんてね。時間通りじゃん」
高坂はニコニコしながら向かいの席に座る。
いつもの高坂だ。咲は、高坂の姿が見れたことにほっとする。
…今日まで、なんだか不安だったのだ。

咲「あー、久しぶりに高坂の顔が見れたよ」
高「最近ずっと会えなかったからねー」
咲「仕事、ようやく一段落ついたんでしょ?よかったね」
高「うん、納期間に合って本当によかった!!」
咲「…うん、それも良かったけどさ、これからしばらく休みなんでしょ?」
高「一ヶ月くらいはのんびりできそうだよ。その後また新しい企画に入るみたいだから」
咲「へえ、頑張るねえ………。」
高「うん、次の企画はね、すごくやってみたかったから、是非参加させてもらえるようにって上の人に頼んだんだ。楽しみだよー。」
咲「仕事熱心だねえ。高坂って、大学のほうは今年の前期で単位全部とっちゃったんだっけ」
高「そう、あとは卒論だけ。もうだいたいまとまってきてるし。」
咲「高坂ってそういうトコすごいよね。」

高「ところでさ、今日、話したいことあるって言ってたよね?」
咲「ああ、まあだいたい電話で言ったことと同じなんだけどさ…。」
咲はそう言うと、例の話を始めた。

要約して、斑目にあの日言われたことを話した。
そしてご飯を食べに行ったことも。
そして、「でもまあ、『友達だから』って、ちゃんと言ったよ。きっとあいつも分かってくれたと思う。
あいつに、『高坂と別れて欲しいと思ってるわけじゃない』とも言われたし。」
とつけ加えた。
高坂に、それを言っておきたかったのだ。
きちんと言っておかないと、不安だったのだ。

『無理に笑うから、平気そうに見えるから…』
あの言葉は伏せておいた。

咲「そんな感じ。今まで全然気づかなかったからさ、言われた日はびっくりしたけど。」
高「ふうん…。」
咲「きっとまた、前と変わんない状態に戻れると思う。きっと。」
そう望んでいる。…そう思いたい。

咲「…さて!この話はもういいんだ。昨日電話で言ってた知り合いの話なんだけどー…」

咲は違う話を始めた。
高坂が相槌をうつ。

高坂はずっと聞き役に徹している。
咲は話を続けながら、ふと、さっき自分が言った言葉を思い出していた。

(今まで全然気づかなかったよなー…。告白されるまで。
………今思うと、分かりやすい反応してたのに。
何で気づかなかったのか、自分でも不思議………。)

ご飯の帰りに、新宿から電車に乗った。おもわずぶつかったときのことを思い出す。
(あんなに顔赤くしてさ………。ホント分かりやすい…)

高「…きちゃん、咲ちゃん」
咲ははっとして高坂を見る。
いつの間にか黙り込んでしまっていたようだ。
咲「あ、ごめん!ちょっと考えごとしてた」
(うわー、今そんなこと考えてる場合じゃなかった…)
慌てて、さっきまでの話を思い出す。

 咲は、飲みかけのコーヒーの入った紙コップを手にとった。
口に運ぼうとして、先に言葉を続ける。
咲「えーと、何の話だったっけ?そうそう、その知り合いがさー…」
高「斑目さんのこと考えてたの?」


パシャッ

咲の手から紙コップがすべり落ちた。
中身がこぼれ、小さなトレイの中に広がっていく。

「………………………」

咲は呆然とした顔で高坂を見た。
高坂はひどく悲しそうな笑顔で咲のほうを見ている。



咲「なんでそんなこと言うの………?」

言いながら、どうして自分はこんなに狼狽しているのだろう、と思った。



………………………


 荻上さんと話をしてから、三日が過ぎた。あれからまた部室には顔を出していない。
斑目は外で晩飯を済ませてから、家に帰ってきたところだった。
最近残業もするようになったので、晩飯を食べて帰って着たら家に着いたのが9時過ぎだった。
斑「はーーー…。」
とりあえず椅子に座る。
(そういえば、この椅子に春日部さんが座ったんだよな………。)

あの日のことを思い出す。
春日部さんの肩に手を置いて、思いを全部吐き出したことを思い出す。

(もう、やれることは全部やってしまったんだろうか。
荻上さんに、「もう吹っ切れた」と言っちまったけど、自分の中ではまだまだ全然吹っ切れてない…。
…でも、今思い返してみれば、晩飯を一緒に食べた日、はっきり『友達』って言われてしまったし………。)
少し落ち込む。

「………………………」

胸の奥が、ことあるごとに疼く。
もう平気だ、と思った次の瞬間にまた痛み出す。


そのとき、自分の携帯が振動を始めた。


(誰だ………?)
のろのろとした動きで携帯を取り出し、待受け画面を見る。
そこには「春日部さん」という文字が見えた。


斑「!!!!!」
慌てて携帯を開く。慌てすぎて通話ボタンがなかなか押せない。

斑「はっ、はい!!」
咲「あ、私だけど…………。」
斑「やっ、やあ!どしたの!?」
咲「いや、どうしたっていうか………。」
春日部さんは黙り込んでしまう。
斑「………??」
咲「その…。斑目、いまどこにいる?」
斑「え、家だけど………。え?」
咲「…そりゃそうか。もう9時過ぎだもんね………。」
(………?なんだろ。春日部さんらしくないな………。)
斑「………何かあった?」
咲「うん………。あのさ…、今から会える?」
斑「えっ、うん、大丈夫だけど」

咲「じゃあ、えーと…」
斑「ど、どこで会う?」
咲「…そっち行っていい?もう近くまで来てるからさ………。」
斑「ええ!?」
咲「迷惑だったら………」
斑「い、いや!!全然大丈夫!!」
咲「じゃ、あと15分くらいで付くから…。急でごめん」
斑「い、いや!!全然平気!!」
咲「じゃ、あとでね」
斑「…はーい………」

携帯を閉じ、茫然自失になる。
しばらく固まり、はっと我に返る。
(うわーーーーー!また来る!また春日部さん来る!
えーーーーと、えーーーーと、あっそうだ、片付けないと!!また嫌な顔されんぞ!!)

慌ててその辺に積み上げていた同人誌を抱え、適当に押し入れにブチ込む。
(………それにしても)
特にエロいのから順番に押し入れの奥に突っ込みながら、電話での春日部さんの様子を思い出した。
(なんか、元気なかったような………?一体どうしたんだろ………。)


ピンポーン。
玄関のチャイムが鳴る。
(来た………!!)
斑「はい!!」
急いで玄関のカギを開ける。
そこには春日部さんが立っていた。
咲「………」
斑「こ、こんばんは」
咲「ごめんね、急に来たりして………。」
斑「いやいや、大丈夫!ど、どうぞ」
咲「お邪魔します」

春日部さんは明らかに元気がなかった。
(ど、どうしたんだろう?)
斑「あ、えーと、お茶………」
この前のようにお茶を出そうと、冷蔵庫のほうに行きかける。

そのとき、春日部さんが斑目の袖口をつかんだ。
斑「………?春日部さん?」
咲「いいよ」
斑「…あ、お茶いい?」
咲「ちょっとごめん」
そう言うと、春日部さんは斑目の胸に顔を当ててきた。

(………え?………え?………アレ?)
斑目は今の状況が飲み込めずにいた。
春日部さんが自分に寄り添っている。
(え、何だこの状況……………)

春日部さんの肩は震えていた。
(泣いてる………?
もしかして、高坂と喧嘩でもしたのか………?)

斑「春日部さん………………?」
咲「………………」
斑「高坂と何かあった?」
咲「………っ!」
春日部さんはこらえきれずに嗚咽をもらした。

斑「………え、喧嘩したとか………」
咲「別れた」
斑「え?」
咲「3日前に別れた」

 頭が混乱している。
(高坂と………別れた?…何で?)
ありえないはずのことが起こっている。
斑「何で…」
咲「私が悪いんだ」
春日部さんは声を搾り出すように、ようやく言った。
咲「私がっ………」

(何で?春日部さんのどこが悪いんだ………?
いつもあんなに努力してたのに。何で春日部さんが泣かなきゃいけないんだ?)

斑「な、なんか良くわかんねーけど…春日部さんは悪くないと思うぞ、多分」
咲「ううん、私が………」
斑「だから、何で?」
咲「私があんたのことばっか考えてたから!」



耳を疑った。
(今、なんて言った?)
急な展開に頭がついていかない。



咲「高坂に悪いことした。なんで私………」
春日部さんはなおも言葉を続ける。

斑目は呆然としていた。
(春日部さんが?俺のことばっかり…?
え、何だ?これ夢?夢見てんの?)
漫画的お約束で、思わず自分の頬を思い切りつねってみる。痛い。

(もしかして、俺見込みあるってことなのか……!?)

(でも…『高坂に悪いことした』って何だ?というか、別れたこと後悔してんじゃないか?
高坂のこと、まだすごい好きなんじゃないか………?)

(春日部さん、迷ってる、のか?
え、そうなのか!?お、俺、何か言ったほうがいいのかな!?うわ、なんて言おう!?)

必死に言葉を探すが、いい言葉が見つからない。
(あーーーもう!こんなときに気の利いた言葉一つ言えんのか俺は!
多分、最初で最後のチャンスなのに!!)

(…いや、でも)
自分の胸で泣く春日部さんを見下ろしながら、思った。
(春日部さんに任せよう。これが最初で最後であっても。)

斑目はそっと春日部さんの背中に腕を回した。
春日部さんを初めて抱きしめた。その温もりを感じた。
もう、これが最後かもしれない。そう思うと、切なさで胸がいっぱいになる。
せめて、少しでも長く、こうしていられたら。

咲「…ありがと」
春日部さんは、斑目の胸から体を離す。
斑「落ち着いた?」
咲「うん…」
もう少し抱きしめていたかったな、と思った。
斑「………………」

咲「…高坂に言われたんだ」
斑「え?………なんて?」
咲「あんたのことばかり考えてる、って…。
自分で気づかないなんて、バカだ私………。」

斑「………………」
咲「高坂に言われて気がつくなんてさ………。
悪いことしたな………。」

(春日部さんが俺のこと………)
再び、頭が真っ白になる。

咲「別れてから、3日間、ずっとそのことばっか考えてた。
でもわかんなくて、はっきりさせたくて、今日会いにきたんだ。そんで………。」
春日部さんは斑目のほうを向いた。化粧が崩れたのを気にして、手で顔を隠しながら。

咲「今日からよろしく、って話なんだけど………」
斑「………………………………………………………………………」
咲「………嫌なの?」
斑「!? い、いやまさか嫌なんて!!!こちらこそ!!!
はーーーー!そうなんだ!なんかもうびっくりしてさあ!あはははは!!」
あまりのことに動転する。頭がおかしくなりそうだ。
斑「いやあ、ホントに急ダネ………ホントにびっくりしててさー………」
咲「ごめん」
斑「いや、謝らんでも…………。」
あははは、とまた照れ笑いをする。

(そうか…春日部さんと付き合えることになったのか………)
今ごろになって現実感がわいてくる。
ようやく手が届いたのだ。ようやく、想いが届いたのだ。
じわじわと嬉しさが込み上げてくる。

咲「…でさあ………」
斑「ん?」
咲「今日泊まっていい?」


三度、頭が真っ白になる斑目。
斑「………うん」
咲「…あの、なんか着替え貸してくれない?あと、シャワーつかっていい?」
斑「………どうぞ」
咲「いや、だから、着替え………」
斑「あ!あーそうか。ちょっと待ってて。確か新しいパジャマあったような………」

本当にテンパると、妙に冷静になるのだということを悟った斑目であった。

斑「はい。あ、あとタオル」
咲「ありがと。…じゃ、借りるね」
春日部さんはそう言って、風呂場のドアを閉める。
しばらくして、シャワーを使う音が聞こえる。


斑目は、もう何度目かの思考停止に陥っていた。
(………ん?泊まるんだよな、春日部さん。
泊まるってことは一緒に寝るんだよな。
一緒に寝るってことはその………………………。
うん、ちょっと待て。ちょっと待て!!

何だこの  急    展    開  は!!!!!!)


部屋の中をぐるぐる歩き回る。
(いや、え?マジで?いやマジだろ!何たって付き合ってるんだからな!!
うわーーー!ど、どうしよ???
いや何をどうしたらいいのかはわかってんだけど、いやそういうことじゃなくて、いやだから○△×※□………………)

春日部さんが風呂場から出てきた。
咲「斑目、ドライヤーない?」
斑「………あ、ちょっとまって、今出すから…」
咲「?なんか疲れてない?あんた」
斑「いや平気。全然大丈夫………………。はい」
咲「ありがと。あんたも入れば?」
斑「そうさせてもらうわー…。」
斑目はよろよろと風呂場に向かう。

(な、なんか、期待よりも不安のほうが大きいんですけど………。
…いや、テンパってたら駄目だろ!心頭滅却!心頭滅却!)
シャワーを浴びながら、滝に打たれているような気分になる。

(とりあえず、心を落ち着けろ!!戦場に出るのはそれからだ!!)
自分でもよく分からない台詞で自分を激励する。

そうしてようやく、行ける所まで行ってやる…神の領域まで…な心境に達してから、風呂から上がったのであった。

(なんか、足がフラフラする………。)
どうやら緊張はとけたものの、頭が熱い。いや、体中が熱くて、フラフラする。
咲「斑目、大丈夫?なんかすごい顔赤いよ」
斑「大丈夫、大丈夫………」
そうしてフラフラと春日部さんの近くまで来て、バターン!!とぶっ倒れた。


…どうやら、のぼせたらしい。ベッドに横になって、天井を見つめる。
さっきから天井が回りっぱなしだ。
咲「はい」
春日部さんがぬれタオルを持ってきて、斑目の額に当てる。
冷たくて気持ちがいい。

咲「ごめんね、疲れてたのに、泊まるって言い出して…」
春日部さんが、やさしく言葉をかけてくれる。
咲「なんか無理させた?」
斑「いや、そんな…」

(情けねーな、俺…。春日部さんに気つかわして………。
というか、のぼせるまで入るなよ俺………。)
さっきまでテンションのメーターがいっぱいに振り切っていたが、今度はぐんぐん下がっていく。

(いいのかな俺で………)
弱気になる。本当に春日部さんは俺が好きなんだろうか?一時の気の迷いじゃないのか?
そう聞きたい。でも、聞くのが怖い。傷つくのが怖い。
(ここまで来て……。どんだけ臆病なんだ、俺………。
春日部さんが、せっかく距離をつめてくれたのに………………)

思わず、目頭が熱くなる。感情に歯止めが利かない。
慌てて額のタオルを目のところまで下げる。
抑えようとしたが駄目だった。
嗚咽が漏れないようにぎゅっと口を結ぶ。

咲「斑目?」
斑「………………………」
返事ができなかった。

どうしていいかわからない。とにかくこの激情をやり過ごすしかない。
右手でタオルを押さえ、顔を隠すようにしていた。
こんな姿見られたくない。

そのとき、自分の右手が何かに包まれた。
春日部さんが両手で包み込んだのだ、と感触でわかった。
ゆっくりと自分の右手を、春日部さんは自身の方に引き寄せた。
緊張して硬くなっていた右手の力が抜けていく。
胸に暖かいものが流れる。

その後、自分の口が何かに塞がれるのを感じた。


(!?)
思わず左手でタオルをずらして見る。
春日部さんの顔が離れていくのを視界にとらえる。

(………………!? い、今!)
あわてて体を起こして春日部さんを見た。
春日部さんは真剣な顔でこっちを見ていた。


「………………………」
言葉が出てこない。でも、言葉は要らなかった。

そのままキスした。
柔らかい感触に頭がぼうっとなる。
しばらくそのままでいた。

唇を離すと、一瞬視線が交差する。思わず下を向いた。
…でも、離れると、また求めたくなる。

体を引き寄せ、もう一度キスする。
唇を少しだけ離しては、また合わせる。その繰り返し。

(あーーー、もーーーー!!)
急にまたテンションがMAXまで上がり、勢いで押し倒す。
「!!」
突然の大胆な行動に、春日部さんはびっくりして目を見開く。
咲「ちょっとあんた、具合悪いんじゃなかったの?」
斑「ウルセーーー!あんなやらしーチューしてたら具合悪いのなんか吹っ飛んだわい!!」
咲「やらしいって…ちょっと舌入れただけじゃん………」
いまいちズレた会話を繰り広げながら、………………………………

やることは一つなので以下略!


………………………


 朝、斑目はいつもより早く目が覚めた。
ぼんやりした視界の中で、何故今朝はこんなに満ち足りた気持ちなんだろうと考えてみる。
ふと横を見ると、そこには眠る春日部さんの姿があった。

もし夢だったら、どうしようかと思った。春日部さんの想いも、肌の温もりも、
起きたら全て幻だった、なんてオチだったら。

春日部さんはこんなに近くにいる。手を伸ばせば届く距離に。

実際に手を伸ばし、春日部さんを抱き寄せた。
その肌の柔らかさを感じる。昨日のことを思い出す。


今日という日を絶対に忘れない、と誓う。…絶対に。


斑「…春日部さん」
呼びかけると、春日部さんは「んん………」と言って目をこすり、薄目を開けた。


                「星の声~distance~」END   続く。