タマネギ 【投稿日 2006/03/22】

カテゴリー-斑目せつねえ


部室の昼。いつものように斑目がいた。しばらくして、咲が一人で現れた。軽くあいさつ。(あぁ、2人だけだ)斑目はため息をついてお茶を飲み干した。
「斑目さあ、会社ちゃんと行ってるの?」
「行ってますよー……」
「これからもずうっとココに来るの?」
「まさかぁ。ただ俺は……」
「ただ…何よ?」と聞かれ、後の言葉が出ない。斑目は(今日こそは)と再び口を開いた。

「あーそうそう春日部さん、タマネギって知ってる?」
「知らない方がどうかしてるよ」
「じゃあ、タマネギ剥いたら何があるか知ってる?」
「は? 剥いても剥いても同じじゃないの」
「そうだよ、剥いても何も無い」
「それがどうしたの?」
「でも“何も無い”ってことだけは分かるよな。何もせず放っておいたら、ただ腐ってしまうだけ……まあ、例え話だよ」
「いつもまどろっこしいねー斑目は。だから何がいいたいのよ?」
「ゴメン。こういう言い方でしか伝えられないし、このまま腐らせたくないと思ったから……春日部さんのことさ、好きだったんよ……俺」
「はい?」
「いやーははは、脈がないのは自分でも分かってるんだ。でも、このまんまじゃ、ね」
「でも私は……」
「分かってるよ」
「ゴメン、気持ち……嬉しいけど……」
「気にすんなって。俺の気持ちの問題だから。あー…良かったよ。4年近くかけて皮を剥いてきた気分だ」

「何も無い」ことが分かった斑目は、たぶん明日から、部室には来なくなるだろう。
その夜、咲は一人、部屋のキッチンに立っていた。まな板の上でタマネギを転がす。ふと包丁を入れて、真ん中から切った。
「馬鹿だねアイツ。ちまちまと剥いてないで、思った時にスッパリ切ればすぐに分かることじゃないの……」

何も無いって。

「そのために……、4年もかけてさ……」
ほろほろと、涙がこぼれて落ちた。
タマネギを切ったためでは無かった。
最終更新:2006年03月27日 00:46