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手をつなごう 【投稿日 2006/03/21】

カテゴリー-笹荻


残暑か初秋か微妙な頃。まだ日中は汗ばむなか、笹原と荻上は
小店舗が並ぶショッピング街を連れ立って歩いていた。
笹原は率先して歩きながらも、振り返っては荻上に話しかけている。
「荻上さん、今日はけっこう本買ったね。荷物持つよ」
「あ、有難うゴザイマス」
照れたような笑顔で答える荻上。
そして荻上のトートバッグを肩に掛ける笹原。ズシリと重い。
『荷物持ってもらうなんて、付き合ってるみたい…じゃなくって付き合ってるんだった』
荻上はまだ、状況に馴染んでいない様子だ。
「笹原さんは今日は目当てのものは買えましたか?」
「はは…もうちょっと回ろうか」
何故かちょっと赤くなると笹原は、すこし左右を見てまた歩き出した。
優柔不断なところは見せまい、といったところだろうか。
荻上は横に並ぶより、ちょっと恥ずかしそうに後ろをついて歩いている感じだ。
まぁいわゆる書店やグッズの巡回、オタク的な買い物だが
二人で出かけるということは、初デートと言っていいだろうか。
『これはデート、これはデート……』
荻上はといえば、見た目にはわからないが舞い上がっている。
やはりそれはそれ、これはこれなのだろう。
道行く他のカップルは、腕を組んだり手をつないだり、暑苦しい事この上ない。
『手をつないだりしてこないのかな、笹原さん?
 私から言わなくてもわかって欲しいんだけんども』
ふと洋品店の長いショーウィンドーに映った笹原と自分が目に留まる。
『笹原さん、カッコイイなぁ…。それに比べて私は大丈夫かな?前髪ちょっと切ったの大丈夫?』
歩きながらも荻上は前髪のチェックをする。

笹原が荻上から見てカッコイイのは欲目だから気にしなくていいし、
荻上の前髪も別段切りすぎてはいない。
むしろ、今日はアンテナが若干短くなり、跳ね角度が高くなっているかもしれない。
ふと気が付くと、前方で笹原が少し微笑んで振り返り、立ち止まっている。
荻上は歩きながらガラスに映った自分を見ていたつもりが、いつのまにか
立ち止まっていたみたいだ。
「あ、すみませんっ」
はっと気付いた表情になり、手櫛で前髪をちょっと掻き分けながら
焦って小走りに笹原に駆け寄る荻上だった。
「中に飾ってあった洋服のコーディネート良かったね。
 秋物だけど、ああいう上着とスカートも似合うんじゃないの?」
「は?ええっ、スカートですか?」
「荻上さん、スカートも履いてみたらいいのに」
「持ってないわけじゃないんですけどね(苦笑)」
そんな会話をしながら、並んで歩く二人。
前方から早歩きのビジネスマンが、その間に割って入って通過する。
『やっぱり手をつないで歩いた方がいいんじゃないかなぁ』
割って入られて、少し気を害した荻上だったが、会話は続く。
「スカートっていってもさ、その、ミニスカートとかロングスカートは……」
「持ってませんネ。ミニは恥ずかしいですし、ロングは似合わない気が―――」
荻上は自分の足元、今日も履いているカーゴパンツを見ながら答える。
「ミニは……見てみたい気がするけど、他の奴らに見せるのは勿体無いかな(苦笑)」
笹原も荻上のズボンに目を遣る。
「………!! じゃ、じゃあコスプレさせられるのも止めてくださいよ!」
「あーーー そうねぇ、まあでも、あれはあれで」
「………笹原さんもコスプレ見たいんですね」
荻上はジトっと笹原を睨む。

「やー、だってほら、か、可愛いし……あ!ロングも似合うよきっと」
誤魔化すように顔を背け、右折していく。
それに気づいた荻上が追いかけて曲がる。
『うーん、しかし手を繋ぐっていっても、握手するみたいに握るのか……
 こう、互いにしっかり指を組むのか、私が指を握る感じでとか……?
 もしくは腕を組むのが良いのか……そしたら肘同士なのか……
 いやいや、身長差があるよな?』
もんもんと考え始めた荻上だった。
『長袖だったら私が笹原さんの袖口をつまんだり、上着の裾を掴んだりしたら
 可愛い感じがする、萌える、と聞いた事は有るけど、それは周りから見られて
 恥ずかしい姿な気がするしなぁ』
などと考えながら歩いていると
『あれっ!?』
横に歩いていたはずの笹原の姿が無い。
荻上はキョロキョロと焦って周りを見回すが、見つからない。
『携帯電話で………』
カーゴパンツの前後のポケットを手でポンポンと探るが見つからない。
『鞄の中か――――!!』
ガックリと青ざめる荻上だった。。。


荻上は少し引き返したり、道沿いの店を覗いてみたりして
笹原を探す。
『いねぇ………』
財布は持っているし、知らない土地でもない。が、急に不安感が増す。
『このまま見つからなかったら、どうしよう?
 笹原さんはいつまで私を探すのか……
 私もいつまで探して帰るのか……
 駅で待つか?でも改札も一つじゃないし』
笹原がこの後、行きそうなところも考えてみたが分からない。
『まだ買うもの有りそうだったけど、なんだろ…?』
少し誤魔化すような態度だった気がしてきた。
『まさか18禁同人誌とかエロゲ買ってて姿を消したとか??』
そんな理由ではぐれたのか?、、、と考えると
荻上の眉間のシワが深く、目は鋭くなってくる。
『買うのは良いんだべ。でもはぐれるのって、
 私をほったらかしっていうか……あーもう!』
額の汗をぬぐいながら、ぷんぷんと怒りが顕わになってくる。
『だいたい暑いし……地球温暖化のせいでっ』
と、その時、向こうを歩く人影に早歩きで近づく荻上。
しかし背格好が似ているだけで人違いだった。
『あーー焦った…声掛けなくて良かった…(汗)』

とぼとぼと駅へ向かって歩く荻上。
そこへ、向こうから走ってくる笹原が見えた。
荻上は一瞬驚き、笑顔になるが、すぐに不機嫌な顔に戻り、その場に立ち止まる。
笹原はといえば汗だくで駆け寄り、荷物を肩から下ろす。
「ゴメン!!いつのまにかはぐれちゃって……携帯も俺が持ってたね(汗)」
「………どこに行ってたんですか?」
拗ねた態度の荻上に、笹原は苦笑しきりだ。
「うん、ちょっとね」
『私を見ていてくださいよ!なんて言えない……けど、分かって欲しい、けど…』
「……………」
荻上は無言でうつむく。
「これ、何かペアのもの記念に買いたくって」
「へ?」
紙袋を渡された荻上は、なんだろうという表情になる。
「ペアになってる小さなリングの付いたストラップなんだけど……
 で、見ている時に、荻上さんが居ないのに気づいて、買ってから
 荻上さんを探したんだけど―――」
「もう、そんなのではぐれてちゃ、本末転倒ですよ!」
「うん、そうだね、ほんとゴメン」
叱られてしょげる笹原と、拗ねた様子の荻上は、駅へと歩き始めた。
夕方になり、人込みがごったがえしている。
その時、荻上はぱっと手をとられた。笹原の汗ばんだ熱い手だ。
周りの人の流れではぐれないように、荻上は引き寄せられていった。
荻上は、てのひらに、腕に、笹原の汗を感じる。
『こんなに汗だくになるぐらい、探してくれたんだな……』

感激してくるが、今更、拗ねた態度は崩せない。
「はぐれないように、ね」
「ええ、そうですね……」
ホームで次の列車を待ち、行列に並ぶ二人。
「今度から、はぐれないように手を繋いでたいんだけど、駄目かな?」
「………いえ…・・・・・・駄目じゃないです」
「あ、良かったよ」
ほっと溜息をつく笹原。
「荻上さんって、恥ずかしがりでしょ?だから駄目かと思って」
「いえ、私も―――大学とかでは駄目ですけどね」
「はは、そうだね。現視研のみんなに見られたら、何かと大変だしねぇ(苦笑)」
列車が到着し、手を繋いだまま乗り込む。
「あ、バッグちょっと良いですか」
手を離してトートバッグを受け取る荻上。
笹原は手が離れたのが残念なような微妙な表情だ。
その間にも、ゴソゴソと荻上はハンドタオルを取り出す。
「これ使って汗を拭いてください」
「え?ああ、うん、ありがとう」
受け取ると、汗で冷えた首や顔をぬぐう。
そして荻上はバッグを右手に持ち床に下ろすと、
左手で笹原の手をとる。
「手を繋いで、離さないでくださいね」
「そうだね、別の事を考えてても、はぐれないしね(苦笑)」
「まあ、そうですね……あと、さっきのペアストラップ、ありがとうございます」
「あ、うん、でもごめん」
「いえ、もういいですから」
荻上の表情はようやくほぐれてきた。

『ペアのストラップか…離れてても、繋がってると思えたら良いな…』
「離れてても、手を繋いでるつもりで居れたら、ね」
笹原に言われて、同じ事を考えてたことに驚いて顔を上げる荻上。
「………」
じっと笹原を見つめる。
「なかなか難しいけどねぇ(苦笑)。ともかく、頑張るよ」
そんな笹原の手のひらを、荻上はグッと握り直し、笹原の存在を確認する。
「二人の時間を、こうやって、手に、にぎって行きましょう、ね」
「二人の時間、ね……うん、そうだね」
笹原は優しい眼差しを荻上に向ける。
『笹原さん、今日はこのあとうちに来るよね…絶対』
てのひらから伝わる感触と眼差しで、荻上は確信して赤面した。
『列車の中じゃなかったら、キス……してきてそうなタイミングだし……!!』


そして列車の人込みの向こうで、ギラリとした視線でニヤリと微笑み、
その二人を見つめる女性の姿が有った。
目立つ黒髪は纏められ、今日は帽子も被っているので分かりづらいが大野だ。
左手にはマスクが握られている。
「はー会話は聞こえないけど、萌える……」
田中のうちから大学に帰っている途中での偶然の遭遇に、
喜びが隠せない会長だった。
携帯カメラでラブラブな二人を撮影し、学祭のコスプレを
強要するネタにしようと邪悪な計画が発動中であった。