サークル棟の怪談 【投稿日 2006/03/14】
ちょっと聞いてよ。
え、なに、急いでるって?
いいじゃん、急いでるっていったってどうせサークルでしょ?
どうせっていうな?
まー、とにかく聞いてよ。
そうそう、聞いてくれればそれでいいの。
あのさ、私幽霊に・・・。
ああ!行かないでよ!
冗談じゃないんだって。
昨日さ、夜にサークル棟に行ったわけ。
え?あなたサークル入ってないじゃないって?
えー・・・、まあ、いろいろあってね。
その前に、夜は入っちゃいけない?
もちろん、入っていい時間だよう。
夕方って言った方が良かったかな。
7時ぐらい。そう。
今はまだ明るいじゃん?そうなんだよ。
そこでね。姿は見てないんだけど・・。
女の人の、叫び声がね・・・。
幻聴だって?難しい言葉使うねえ。あんたみたいなのって皆そうなの?
まあいいや。
そういうこと。
だからさ、夕方、自治委員会室の近くには行かない方がいいよ。
うん、そう。
その辺りだったんだよ。
・・・あ、怖くなってきたんでしょ。
だから、早めに帰れば大丈夫だよ。それ言っときたかったの。
友達だしね。
え?まあ、同じ教室で勉強してるしさ。隣になる事も多いし。
いいじゃん。そういうことで。
あ~、そうだ、あんた髪型変えれば?もっと良くなると・・・。
あああ、行っちゃった・・・。
「え?幽霊?」
大野が持ち出した話に咲は少し眉を吊り上げる。
「ええ。最近、サークル棟で幽霊の叫び声が聞こえるそうですよ?」
そうニコニコと笑いながら話す。今は7月の終わり。
夏コミまで後20日を切ったある日の事。たしかに、そういううわさで構内は持ちきりだった。
「なんだよそれ~。中学や高校じゃないんだからさ~。」
そう興味なさげ、といった表情で咲はパソコンへと目を移す。
「でも、たくさんの人が聞いてるのは事実だそうですよ。」
そう、荻上も発言する。
「私も・・・、聞いたって言う人から話聞きましたし。」
「マジで?どの辺でよ。」
「自治会室らしいですが。」
「はあ?北川さんも、その相手もとっくに卒業してるからそういうこっちゃねーだろうしな・・・。」
その咲の発言にはてなマークを出す荻上。
「まあ、その線ではなさそうですね・・・。」
昔だったら「咲さん下品!」とか言ってそうなものだが、その辺は成長したということか。
「それで?なんでまたそんな話題をさ・・・。」
「私としては、早く帰ったほうがいいと・・・。」
荻上がした発言に、咲はすこしの間をおいて同調する。
「・・・そうだね。そのほうがいいかも。なんか妙な事かもしれんね。」
「え~、咲さん、そういうの信じるんですか~?」
大野が意外、といった表情で咲を見る。
「いや、そうじゃなくてさ。リアル怖い人がいたりとか・・・。」
「ああ、そういうことですか・・・。」
大野は、なるほどと得心したような顔をした。
「そういうことなら早めに帰るようにしようか。」
そこまで黙った聞いてた笹原が苦笑いしながら話す。
「でも、笹原さんがいれば安心じゃないですか?ねえ、荻上さん。」
と、大野は少し笑みを浮かべた顔で荻上を見る。
「・・・そこでなんで私に話を振るんですか。」
「いいえ~、別にぃ~?」
睨む荻上に、ニコニコ顔の大野は視線をそらした。
ああ、その事は真実だ。
大学闘争というのは知っているかね?
ああ、そうだ。自由を勝ち取るために一部の学生が蜂起したあの一連のな。
あの事件で、一人の女性がな・・・。
ん?何、その人とは一緒に話したりした事があってな。
もう昔の話だよ。
その人は別に闘争に参加しているわけじゃなかったのさ。
ただ、平和な大学に戻って欲しかった。
その最中だ。
事故であの人は死んでしまった。
事故なのか、と?そうだな、私は見ていたから。
たまたま部屋に入ってきた石に当たってしまってな。
その部屋が、丁度今のサークル棟、自治会室の場所、ということらしい。
ん?幽霊?
馬鹿いっちゃいかん。
あの人が死んでしまったときに、闘争は止まった。
彼女は、犠牲になってしまったが、望む形にはなったのだ。
だから、彼女が誰かを恨むとは思えん。
・・・叫び声が?
う・・・む・・・。
ん?気になる事でも、と?
そうだな、ぶつかった瞬間に彼女は大きな声を上げていたのも事実だ。
空を劈くような声をな。
万が一、ということは、もしかしたら・・・。いや、ありえんな。
そうだ、そんな話はどうでもいい。
お前、9月の卒業まであと一年だぞ?
就職とか考えているのか?
まったく・・・なんかよく分からんカッコばかりしとるそうじゃないか。
・・・一応考えはある?そうか。ならいい。それではな。
「でも、いわくつきなんですよ~、あそこ。」
「え、マジで。」
大野が発した言葉に心底嫌な表情をする咲。
「ええ、聞いた話なんですがね。あそこで一人の女性が死んだと・・・。」
「マジっすか・・・。」
荻上も青ざめている。
「ちょっと気になりません?」
「いやあ、まあ、そりゃあ・・・。」
「気にはなりますけど・・・。怖いっすよ・・・。」
咲と荻上が続けて言葉を返した。
「あら~、意外と臆病なんですね~、皆さん。」
大野は相変わらずのニコニコ顔で話を続ける。
「丁度夏も本番になってきましたし、肝試しでもと思ったんですが・・・。」
「「絶対反対!」」
咲と荻上がはもって返す。
「でも、幽霊なんていませんよ~。」
「だからいったろ?変なのが出るかもって。
ああいう怪談の類って言うのは大概そういうもんが曲がって伝えられたもんだし。」
「そういうよね。あまり危険なまねはしなういほうが・・・。」
性格同様慎重な笹原はそう進言した。
「大丈夫ですよ!そういう事件は起こったなんて話聞いた事ありませんし!」
「私らが第一号になるって可能性があるだろうが!」
「そうですよ。そんなことしたくはありません。」
咲と荻上の反論に、眼が光る大野。
「あ~、そうですか、そうですか。
フフフ・・・私があなた方の弱みを握っている事をお忘れで・・・?」
ビクッ、と二人の体がはねる。
笹原は不思議そうにその様子を見ていた。
「あ、あんた・・・。」
「せ、先輩・・・。」
「いいですね?明日、いきますよ~!!」
え、詳しい話を聞かせてだって?
うーん。あんまり思い出したくないんだけどね。
なんていうのかなー、ものすごく悲しげでね?
よくさ、絹を切り裂くような叫び声って言うだろ?
あんな感じ。
金切り声とも言うけど。
そう、びっくりしちゃってさー。
マジで北川先輩に連絡入れようかと思ったぐらい。
え、しなかったのかって?
するわけないじゃん。
したら怒られるよ。
今普通に結婚して大学の事なんて気にしてられないでしょ。
そこは何とかこらえたって訳。
でさ、その声って必ず夕方7時ぐらいから始まるの。
絶対って訳じゃないんだけど。
人が多いときは特に。
え?多い方が起こり易いのかって?
そうなんだよ。
幽霊らしくない?そういわれればそうかもな・・・。
でもさ?姿が見えないんだぜ?
やっぱ幽霊かもなって・・・。
自治室、いけなくなっちゃったよ。
後輩達が可哀想だけどさ・・・。
鍵?持ってるよ。
ああ、そういうことか。そういうことなら渡してもいいや。
頼むよ。
後輩達のためにもさ。な。
「皆さん、ちゃんと来たようですね~!」
満面お笑顔で、大野は皆を見渡す。現視研部室内である。
「来たよ、来たさ!」
「・・・うう・・・。」
もはややけくそと言う感じの咲と、おびえる荻上。
今時刻は19時。まだ外は少しだけ明るい。
しかし、映る夕闇で逆にサークル棟は不思議な怪しさを醸し出す。
オレンジ色に染まる構内は不思議な光と影のコントラストを放ち、
噂のせいもあるだろうが、大学自体のないこの時期には人も少ない。
そんな何かが起こりそうな幻想的でかつ異次元へと引き込まれそうな不思議な時間。
それがこういう時間帯だ。
「で、なにをするのか俺はまだ聞かされてないんだが・・・。」
ワイシャツ姿でその輪の中にいる斑目は、なにが始まるのかとドキドキしていた。
「まあ、肝試しです!」
「き、肝試しぃ?そんなラブコメで使い古された事を・・・。」
「今噂があるんですよ!女性の叫び声が聞こえるって・・・。」
「ま、マジか?!」
そういわれて顔に冷や汗が出る斑目。
「大丈夫ですよ!」
なぜか自身たっぷりに言い放つ大野に、田中も苦笑い。
「た、田中~、どういうことよ~。」
「いや、俺もね、さっき聞かされたばかりなんだよ。」
急に呼び出されてさ、と付け加えた。
「では、ルールの説明をします!」
「ルール?皆でいくんじゃないの?」
咲は怪訝そうな顔をする。
「いーえ、それでは何にも面白くないじゃないですか!」
大野の言うルールはこういうものだった。
二人づつ行く事。身の安全を考え、男女のペアで。
「自治会室の前にある『自治会への意見アンケート』持ってきて戻ってくればOKです!」
いや、最初はマジか?と思ったよ。
確かに聞こえるんだ。
そう、叫び声がさ。
なんていうのかな、昔あったじゃん、怪談物のアニメ。
そっちじゃない。
そうそう、原作がないほう。
あれでさ、なんとか、って化け物出てきただろ。
えーと、ああ、そうそう、それ。
それだよ、その声にそっくりだった。
・・・嘘でもついてると思うのか?
じゃあ、このあと行ってみればいいよ。
行くんだろ?もちろんな。
自治会室の近く、って言ってたからそれまで油断してたんだけどさ。
そうじゃなかった。
いやあ、もちろんさ、自治会室の近くだったらまだ分かるんだけどさ。
いや、聞こえてきても嫌だけどさ。
納得は出来るじゃん?
そうだろ?
でもさ・・・。
まったく違うところで聞こえてきた訳。
周りに人がいなくてさ、それがまた怖いわけ。
大野さんもびっくりしちゃってさー。
とりあえず自分で言い出した事だろ?
早めに自治会室行ってアンケートとってすぐに戻ってきたわけ。
え?大野さん?なんか分からないけど怒ってるよね。
俺もさ、妙には感じたんだけど・・・。
まあ、いいや。
とにかく気を引き締めていきな。
「ちょ、ちょっと早く行き過ぎないでよ。」
咲はビビりながらも斑目の後をついてくる。
クジの結果、一番手大野・田中、二番手咲・斑目、三番手荻上・笹原となった。
すぐに出発した大野・田中組だったが、なんと本当にその声に遭遇してしまったらしい。
そこでやめればいいものを、なぜか機嫌の悪い大野は続行を言い放った。
「大野さん、なにムキになってたんだろうなあ・・・。」
斑目はそういいながらも歩を進める。咲の声は聞こえていないようだ。
「だから!早くいくなって言ってんだろ!」
咲に後頭部を叩かれる。
「いてぇ!何すんだよ!」
「話聞けっての!」
「あ・・・、スミマセン・・・。」
「うむ、素直でよろしい。」
そういって二人は並んで歩を進めていく。
「・・・あー、やっぱ高坂は来れんかったんだ。」
「まあね・・・。缶詰だってさ。」
寂しそうな咲の横顔に少しいじけた気持ちになる斑目。
「でもさ、春日部さん意外とこういうの苦手?」
「・・・ああ。子供のころね、肝試しで思いっきり人に脅かされてね。
それ以来、駄目。分かっててもお化け屋敷も駄目。」
咲が身震いをしながら歩く。
その意外な一面に少し顔を赤らめる斑目。
ザザザザザザ・・・・・・。
「キャ!」
叫び声を上げてその音にびっくりする咲。拍子で、斑目の手に縋り付く。
胸が、腕に当たる。やわらかい。
「ちょ、ちょっと春日部さん!」
「あ、ご、ごめんね。び、びっくりしちゃって・・・。」
「外の木が風に揺れた音だって。あはは・・・。意外だな、本当。」
「う、うるさいなー。」
ちょっと幸せな斑目だった。
ん?
ああ、そうだな、この辺ではそういうケースも少なくないかも。
まあな、そういうことも・・・。
え、そういう時は?
うーん・・・。そうだなあ。
え、そういう漫画があったって?
なるほどなあ、よく分かってる人が描いてるのかもな。
そうだな、まず、刺激しないこと。
あと、場所が問題なければほっとくことだ。
いずれ子離れするときに放置される。
そうさなあ、天井裏とか?そうだなあ。
叫びに似てる、っていうのは確かだよ。
昔はだな、その声を地獄の叫びだとかもな。
え?
ああ、そうだな、どこかに穴はあるだろう。
部屋の外をしっかり探してみるといい。
夕方くらい?
そうだな。
でも、危険もあるぞ。
ああいうのは病原菌ももっとるから慎重にな。
まあ、お前のようなタイプは大丈夫か。
でも、そんな事聞きに来るなんて興味あるか?
・・・ない?そうか、残念だ。
ここの校舎は文系だからなあ。少し先生も寂しいんだよ。
ははは。冗談だよ。
まあ、就活頑張れな。
「ここですね・・・。」
戻ってきた斑目と咲には、何も起こらなかったらしい。
続けて出てきた笹原と荻上も、順調に自治会室前に到達できた。
「今日は誰もいないようですね・・・。」
荻上は静まり返った自治会室の様子を覗う。
「あー、今日は休みなんだって。知り合いの自治会員が言ってたよ。」
「はあ・・・。」
意外と平然としている笹原を見て、少し心が落ち着いていた荻上。
いつものような調子に変わっている。
「じゃ、これ持って帰りましょう・・・。」
そう、荻上が言った瞬間。
ぎぇぃいいえええええええ!!!
「ヒィ!」
荻上はその声に驚き、体をビクつかせた。
「も、もしかしてこれ!?」
すぐさま荻上は笹原の近くに移動した。おびえきった荻上を横に、笹原は少し笑う。
いまだにその声は続いている。
「あー・・・。やっぱりそうなのかなあ・・・。」
「な、何平然としてるんですか!?は、早く帰りましょう!」
「お、荻上さん、興奮して服引っ張らないで・・・!」
荻上は笹原のTシャツを引っ張りながら帰る方向へ歩き出そうとしている。
「俺、この部屋調べてみるから、荻上さん、先戻っててもいいよ。」
そう笹原は言うと、鍵を取り出した。
「ええ!?何言ってるんですか!取殺されますよ!」
「いやいや、これ幽霊じゃないでしょ、きっと。」
そう苦笑いすると、部屋へと入るために扉に近づく。
「ほ、本気ですか!!」
「ちょっと思い当たる事があってさ。だから、嫌なら先に・・・。」
「待ってください!笹原さんが危険な目にあったらどうするんですか!」
「大丈夫大丈夫。」
「だから・・・。私も、付いて行きます!」
ああ、そう、鍵はその知り合いからね。
え、そうだね、今は収まってるね。
なんで、そう思ったかって?
そうだねえ。
たまたま、なんだけどさ。
サークル棟に入ろうとしたときに、よく黒い影が見えたんだよ。
その影、サークル棟に向かうんだけど、途中で消える。
それが見え初めてからなんだよね、噂が流れるようになったの。
うん、そう。
昔見た漫画にね、そういうオチのがあったんだ。
そんな漫画みたいな話って?
そう、俺もそう思ったんだけどさ。
そういうのに詳しい先生に話を聞いたら、ありえなくはないってさ。
うん、そう。
だからね、確認してみようって。
なんで、こんな時間かって?
ああー、今日休みって聞いてたしね。
昨日はまだ俺も確証なくてさ。
今日なんだよ、その先生から話聞いたの。
春日部さんのいってた事もありえなくはなかったから一応反対したんだけどさ。
で、今日確信したから肝試しのついでに見ちゃおうかなって。
うん、そう。
ああ、窓の外。
そうそう、あそこ、穴あるね。
ああいうところに入っちゃうんだって。
回り、木が少なくなってるからねえ。
そうだ、あそこ、開きそうだね、天井。
見てみるね。
うん、大丈夫だって。無茶はしないよ。
「やっぱりかあ。」
笹原は天井裏を覗き、懐中電灯を照らしながらぽそり、と呟いた。
「え、本当にいたんですか?」
「うん、小さいカラス四羽と、親。いるね。」
そういうと、天井裏に入れていた顔を下に戻した。
三脚から降りてくる笹原。
「やっぱり、カラスの鳴き声だったんだねえ。」
笹原は前からトリのような黒いものがサークル棟に向かいながらも、
消えるのを何度か目撃していた。そして、この事件である。
「昔読んだ事がある漫画にそういうネタがあってさ。
女性の叫び声が!って実はカラスの鳴き声だっていう。
変に反響してこうなる事もあるんだってさ。」
こんなことあるんだね、と付け加えた。
「はあ、びっくりしましたよ。笹原さん、怖いもの知らずかと・・・。」
ちょっと頼もしかったな、と心の中で思いつつ。
「いやあ、俺も幽霊とかマジで出られたら怖いけどさ。
十中八九これだと確信あったし。まあ、怖くはなくもなかったけどね。」
苦笑いしながら、荻上の前だからこそ平気だったのかもしれないと思った。
「じゃ、帰りましょう。答えをお土産に。」
「そうだね。よかったよかった。」
そういいながら自治室から出て行く笹原と荻上。
鍵を閉め、部室へと向かおうかと思ったその矢先。
ボヤー・・・・。
変な影が、廊下の向こう側に見えるのが分かった。
もうすでに日も落ち、周囲は暗い。
「へ!?」
気付いた笹原が、素っ頓狂な声を出した。
「ヒィ!」
同様におびえる荻上。そして、接近する白い影。
「お、荻上さん!」
笹原は、荻上の手を引き、反対の方向に逃げ出した。
いや~、なんですか、大変でしたよ~。
あの暑い中、こんなの着て待ってるわけですから。
ええ、そうですよ。
もちろん、会長のご意思には逆らえませんからなあ。
いやいや、そうじゃないですよ。
私めは、自分の役目というものをですね・・・。
ええ、まあ、悪い事というか・・・。
イベントじゃありませんか。
声が響いたときは怖かったですがね・・・。
聞き耳立てるとカラスだと。
え?
なんであなた方だけをって?
そりゃ、そう言われたからですよ。
ええ、そうですよ。
あああ、そう怒らずに。
私としても、楽しめましたしですね・・・。
いやいや、本当、悪気があった訳では・・・。
本当ですって。
でも、流石ですなあ。
いや、あの姿、かっこよかったですよ。
少し、手をとって走って逃げた後。
荻チンを後ろに回して私を迎え撃つ形になって。
え?お世辞言ってもしょうがないって?
まあ、そうですよね・・・。
ええ、そうですよ。
足がひっかかりましてね。転びましたよ。
頭が微妙に痛いんですよ。打ったみたいで。
え、許してくださる?
ああ、さすがお優しい。
・・・で、いつまでお二人手を握ってらっしゃるのですか?
ああ、すみません、野暮なことでしたね。
「大野先輩・・・!!」
怒りに満ちた荻上と、苦笑いした笹原、そして頭を抱えた朽木が登場したのは、
20時を回った辺りだった。
「あ、あはは~・・・。ばれました?」
作り笑いをしながら大野は視線をそらす。
「朽木先輩使ってこんなこと企んでたんですね!」
「まあ、まあ、いいじゃないですか~。」
そういいながら、大野は荻上の肩を叩いた。
「へえ、だからあんなに積極的だったのか。」
咲はあきれるような顔をしながら、パソコンを弄くっていた。
「まあ、あと、原因も分かったよ。カラスが自治会室に巣くってただけ。」
「はん、そんなもんだよな。幽霊の、姿を見たり、枯れススキってな。」
斑目が、いつもの皮肉そうな顔で言う。
「あ、そうだ!朽木君!」
大野は思い出したように叫ぶ。
「はい?」
「私達のときに、何かしたでしょう!!」
「いーえ?」
大野の怒りに、朽木は心底見に覚えがない、といった表情をした。
「だって、カラスが原因なら、なんで私達はあんなところで声を!」
「私め、自治会室の近くから動いてませんから・・・。」
その言葉に嘘はないのだろう。嘘をつくなら、この男は分かりやすい。
「じゃ、じゃあ、あの声は・・・!」
顔が青ざめてくる大野。荻上も、咲もその怯えきった声に顔が青ざめる。
「ま、この世の中不思議な事のほうが多いよね・・・。」
そう笹原がぼそり、と呟いた。
おお、どうした。
ああ、そのことな。
わかった、そういう事になるわけだな。
うむ、それでいいと思ったならそうしなさい。
ああ、そうだ。
前に話したあのことだがなあ。
え、カラス?
らしいなあ。
話に聞いて、やはりか、と得心したものだよ。
しかもなあ。
場所だよ、場所。
あの事件が起こったの、違うんだよ。
勘違いしててなあ。
あの人はな・・・。
ん?
ああ、そうだ。
なんで知ってるんだ?
そこだよ、そこ。
そこでなくなったんだ。
ん?
どうした、顔が青いぞ。
まあ、そういうことだ。
最終更新:2006年03月16日 00:13