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第十一話・震える空 【投稿日 2006/03/12】

第801小隊シリーズ


「結局兄貴はオギウエにお熱なわけね~。」
「はあ?何だよその言い方。」
「だってさ~、形見の渡しちゃったんでしょ~?」
ニヤニヤ笑いながら兄の方を見るケーコ。
「んー、あー、預けただけだって。」
ササハラは少し恥ずかしそうに妹から視線をそらす。
「はあ?なんでよ。」
「ん、大切に預かっといてって頼んであるんだ。
 おまじないみたいなもん。もうオギウエさんが戦場に出てこないよう──。」
「ふーん。やっぱお熱なんじゃん。」
「あー、もういい。俺は行くよ。」
「あ、逃げんなよ~。」
笑いながら二人は食堂から出て行く。

ケーコは兄とした会話を思い出していた。
私、何にも出来なかった・・・。
オギウエを止めなけりゃいけなかったのに。
兄貴の気持ちわかってたつもりなのに。
いまだ押し寄せる異常な感覚に苦しみながらも、自分のした事を悔いた。
スパイなんて・・・なんて嫌な仕事なんだろう。
おそらく相手は自分の情報を下に待ち受けていたのだろう。
しかし、後悔をしてももはや遅い。
涙を流しながら、ケーコは唇をかんだ。
「畜生・・・。」
周りの人に、その言葉の真意は伝わらなかっただろう。

『・・・オギウエ様ですな?』
荒野の鬼は先ほどまでと打って変わって紳士的な言葉を紡ぐ。
ジムを弾き飛ばし助けた、ジムキャノンと黄色のグフは面と向き合い、睨みあう。
「?私の名前を知っている?もしかして・・・その声・・・ナカジマの家の・・・。」
聞いた事があった。ナカジマの家の執事さんは、歴戦の軍人でもあると。
父親が個人的に部下で置いておきたいがために使用人としても雇っているのだと。
その歴戦の相手が相手ということだ。そして、もう一つ。
「ナカジマがいるの?!」
オギウエは少し声を上ずらせ、叫ぶ。
『・・・そうでなければ私はここにはいないでしょう。
 いや、それ以前にあなたはここにいたはずだ。お忘れで・・・?』
頭が痛む。
いつから記憶が途切れている?
そういえば、私はなぜあのMAに乗っていた?
配属された後の記憶が凄く曖昧になっている。
私はどこの基地で、どういう仕事をしていた?
「うっ・・・。」
呻き声をあげる。それを思い出さないよう何かがシャッターをかけている。
『・・・まあいいでしょう。お嬢様に会われればすべて思い出すでしょう。』
「ま、まさか、私が目的で・・・?」
『・・・・・・その通りです。帰りましょう。あなたの居場所はそこではない。』
そういって一歩グフは踏み出す。
「・・・いやです。この後あなた方は皆を殺すのでしょう?」
『・・・・・・そうですな。この基地の所在を知られた以上は。』
「・・・なら、私が守らなきゃいけないんです!私が原因ならなおさら!」
『いいでしょう!実力の違いを思い知るといい!』
叫ぶと、グフは勢いよくジムキャノンへと飛び出した。

中距離戦向きのキャノンでは、接近戦に分はない。
それは誰でもわかるMSの常識だ。
オギウエもその事は重々承知で、距離をとっていた。
しかしだ。
「は、速い!」
グフはブーストをかけたかのような突進力でキャノンへと迫る。
ゆうに200m以上あったはずの距離は一瞬で縮まる。
『これが、フライトタイプの技術応用ですぞ!』
脚部に内蔵されたフライトシステムを、突進力に変化させる。
荒野の鬼専用のグフはフライトタイプをベースとしたものだった。
その使用にはおそらく並でない技術と経験が必要だ。
そのままキャノンへと体をぶつけるグフ。
キャノンはそのまま吹っ飛ばされ、後ろにあった岩山へと激突する。
「ぐぁ・・・!」
呻き声をあげ、気絶しそうになるオギウエ。
しかし、何とか気力を振り絞り、意識を保つ。
「・・・な、なんて突進力だ!」
息を整えながら相手の動きに惑うオギウエ。
『少々手荒になりそうですが、勘弁していただきますぞ!』
「く、くそぉ!」
キャノンの砲台を構え、グフへと向けるオギウエ。
ドォン!ドォン!荒野に砲声が響く。
『ははは!当たるものですか!』
それをフライトシステムを応用しながらかわすグフ。
そして再び接近する。
ガシィ!
両手を押さえ、動けないようにする。
『これで縛っておきますか・・・。』
ワイヤーを体から出し、キャノンを縛るグフ。
『これで、もう動けないでしょう。観念なさい。』
「く、くそぉおおおお!」
オギウエの叫びが荒野にこだまする。

ササハラはその光景を黙ってみてるしかなかった。
否、動こうとはしていた。
しかし、ササハラはその影響を長時間受けたため、
ものすごい脱力感、疲労感、倦怠感に見舞われていた。
視力、聴覚、味覚、嗅覚、触覚、全ての感覚が弱まっている。
頼りのシステムも、会長は狂いそうなほどの悲鳴を上げていた。
なんとかシステムをきる事は出来たが、それが精一杯であった。
しかし、目の前で捕まるオギウエを、黙ってみていられるはずもない。
「う、うあああああ!!」
叫びながらジムの操作管を握る。しかし、それに力が入る事はなかった。
「くそ、くそ、どうすれば・・・。」
大きな声を出しているつもりでも声は小さくしか出ない。
そのとき、目の前に黒いMSが現れた。
「コーサカ君!?」

コーサカは何とか動く事は出来た。
普段の何割も力を削られている事は実感できたが、この間も二機を撃破。
そして、この場に現れたのである。おそらく、会長の叫びを感知したのだろう。
「離してもらう!」
コーサカはそう叫びながらグフへと襲い掛かる。
『ほう!ガンダムタイプか!』
嬉々とした叫びが荒野にこだまする。
「グフ・・・フライトタイプ!」
その外観で相手のMSがどういうものかを見抜くコーサカ。
下手に離れると逆に危ない。
『ククク・・・よもやガンダムタイプと一戦交えられるとは!』
先ほどの紳士とは打って変わり、戦士の声に変わる荒野の鬼。
「くそ、思うように動かない・・・!」
兵器の影響は免れないコーサカは、苦悶に顔をゆがめる。
『とはいっても・・・、まともな勝負にはなりそうもないな。』
「・・・それはどうかはやってみましょうか!」
コーサカは叫ぶと、ガンダムの左腕から何かを取り出した。

「これで・・・。どうだ!」
ドオン、ドオン!
煙が上がる。どうやら取り出したのは煙幕のようなものらしい。
『ぬおお?』
一面が砂嵐に混じった煙幕によって視界がなくなる。
『しかし、それではお前も何も見えまい!』
視界のないその先に向かってグフから声が走る。
しかし、反応はない。少し、間が空く。戦場とは思えない奇妙な静寂。
ごう、ごうと砂嵐の音だけが響く。
じゃっ!
鎖のこすれあうような音が聞こえたと思うと、グフの前を一本の鎖が通過した。
『おおお?』
目の前に通過していく鎖を少しのけぞりつつかわす。
しかし、鎖の先は軌道を変え、グフを縛るよう回転を始める。
『なんとぉ!』
そのまま鎖は回転し、グフの動きを封じ込める。
「大体の場所がわかれば追尾可能なんですよ。」
そういいながら姿を現すガンダム。煙は収まってゆく。
鎖の先端に一種の金属探知機のようなものがついており、
それが反応するとそちらへ方向を変える。
後はうまく操作をすればこのようになるわけだ。
『なるほど・・・。しかしガンダムにしては小手先だな。やる事が。」
「なに?」
もうすでに勝利を確信していたコーサカに嫌な予感が走る。
『ほうりゃ!』
叫ぶと、鎖はあっさりと断ち切られる。
「馬鹿な!これはそんな簡単に・・・!」
『はははあ!普通のMSと一緒にしてもらっては困る!これは鬼なのだよ!』
そのまま千切れた鎖でコーサカにつながっているものをつかむと、思いっきり引っ張る。
「う、うわぁあああ!!」
そのまま引き寄せたガンダムをサーベルで真っ二つに破壊する荒野の鬼。
『終わりだな!ガンダム!まともな状況ならまた違ってたかもしれんがな・・・。』

ササハラはその様を見ているしか出来なかった。
コーサカ乗るガンダムは上半身が崩れ落ち、もはや機能していない。
コクピットのコーサカの生死も定かではない。
「くそ・・・何も出来ないのか・・・?」
歯を食いしばろうにも力が出ない。
この最中で動けていたコーサカはやはり何かが違うのだろう。
無気力さに、情けなさに顔をゆがめる。
その時。胸が青く光る。
「え・・・?」
不思議な光に胸をまさぐる。ペンダントが光っている。
そして、その後に。体が軽くなるのが分かる。
「どういうことだ・・・?」
しかし、この機会を逃す手はない。
システムを恐る恐るオンにするササハラ。
『・・・大丈夫ですか?!』
いつにない興奮した声を出す会長に、あくまで冷静に答える。
「・・・大丈夫です。・・・いけそうですか?」
『はい・・・。』
「では、行きますよ!」
そういうと、すぐさまグフへと向かうササハラ機。
ビームサーベルを構えながら突進し、振り下ろす。
『む!?』
少し油断していた荒野の鬼は、それをかわそうとするが、腕を破壊される。
『なんと、動けるのか!?・・・こやつら・・・。何者なのだ!?』
再三にわたる攻勢に、焦りだした荒野の鬼。
「はぁ、はぁ、オギウエさんを離せ!」
動けるようになったとはいえ、完全復調ではない。
息も荒いながらも、システムとの同調をしっかりと果たしていた。
『もう少しです!』
「はい!会長、お願いします!」

『はは!楽しませてくれる!』
心からの哄笑を言葉に含みながら、荒野の鬼は動く。
片手になった腕にヒートサーベルを持ちながら、ジムを迎え撃つ。
高速移動を巧みに行いながらジムへと接近する。
『右!』
その言葉に反応しながらグフの攻撃をかわすササハラ。
「そこぉ!」
サーベルを振るうササハラ、それを受け止めるグフ。
ヒートサーベルは切り落とされるが、それをあっさり手放す。
そして、左手の隠しマシンガンを放つ。
ドダダダダダダダ!!
「うわあ!」
ササハラは予測できなかった隠し武器に驚き、回避する。
脚部の付け根に当たり、関節の動きが悪くなる。
「くっ!」
しかし、悠長な事はいってられない。そのままサーベルを持ちかぶりを振る。
『いけない!!』
その目の前には、グフが突進してきていた。そのまま衝撃を受けるササハラ。
『ははぁ。楽しませてくれる・・・。ぐぅ・・・。』
しかし、彼の方もかなり兵器の影響を受け、かなり疲労が蓄積していた。
『そろそろ片をつけんとな・・・。』
腰から落ちているジムに向かって、最後の攻撃を仕掛けようとする。
隠し持っていたヒートロッドを左手で持ち、接近する。
「うわああああ!!」
ヒートロッドの先がササハラのジムへと向かう。間一髪、かわすが頭部が破壊される。
センサーが破壊され、ディスプレイには何も映らなくなる。
「くそ!くそ!」
歴戦の猛者であろう相手に、何かの影響はあるにせよまるでかなわない。
悔しさに歯噛みするササハラ。腕で、コクピットの前板をはがし、視界を広げる。
『もうその辺にしておけ。何がお前をそうさせるのかは分からんが・・・。』
「・・・それでも!守りたいものがあるんだ!」
ササハラのジムは何とか立ち上がる。しかし、動く事は出来なかった。
「・・・そうか・・・。」
もはや動く事もままならないジムへと最後の一太刀を浴びせようと荒野の鬼は動く。
そこに連絡が入る。
『じい。捕獲はできたか?そろそろ上がらないと上の連中がうるさくなってきた。』
ナカジマである。上がるというのは宇宙へ、ということだ。
「・・・今すぐですか?他に生き残ってる兵もおりますが・・・。」
『安心しろ、大体戻ってきている。』
いっている事が本当なのかは分からない。
自分がそういうことを気にするだろうと嘘をついているのかもしれない。
しかし、逆らうわけにもいかず、疑うわけにもいかない。
「・・・了解いたしました。」
そういうと、捕捉してあるジムキャノンを肩に担ぐと、動けないジムを一瞥する。
「・・・・・・面白かったよ、貴様らと戦えた事は。もう二度と会う事もないだろうがな。」
『な、なに!?』
大きな駆動音が響く。上空には巨大な輸送船。あのとき、兵器を回収したあの船だ。
「我々はこのまま宇宙へと上がる。それが可能なのだよ。」
重力圏離脱すら可能というその艦船は、空に振動を響かせながら降下してきた。
「それではな。」
二本のワイヤーが降りてくる。それにジムキャノン、そして自機をくくりつける。
『ササハラさん、ササハラさん!!』
オギウエの叫びは先ほどからずっと響いていた。
それでも、やめるわけにはいかなかった。私は・・・。あの方にお仕えする身なのだから。
例え・・・何かしらに歪んでいるとしても。それは関係はない。
『オギウエさん、オギウエさん!!』
しかし、少しの自己嫌悪が走る。これでいいのか?よかったのか?
ジムの叫びを聞きながら、そのまま引き上げられる二機。
そして、二機を収納した後、艦船は徐々に、徐々に上昇していく。

ササハラは叫ぶ。空を震わすほどの大きな声で。
「ああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
何が守るだ!何が戦場へ出さないだ!
兵器の影響がなくなった荒野に、慟哭が響いた。

「・・・そうだ!コーサカ君!」
少し呆然とした後、あの攻撃を受けたコーサカに意識が移る。
とりあえず生死を・・・、いや、きっと生きてるはずだ。
コクピットから飛び降りると、崩れ落ちたガンダムのほうへと向かう。
「コーサカ君!コーサカ君!」
「だ、大丈夫・・・。」
声が漏れる。その声の元へ近づくと。
どうやら、間一髪コクピットの直撃は免れ、下半分の方に彼は座っていた。
とはいえ、破片でぶつけたのか頭から血が出ていた。
「コーサカ君!」
「大丈夫、軽いよ。それよりも途中で反応が消えたらしい隊長の方が心配だ・・・。」
すると、機能の生きていた通信機器に連絡が入る。
『お前らこれるか!?』
その声の主はタナカだった。非常に緊迫した声だった。
「は、はい!」
『あの船がいなくなって、あの変な感覚がなくなったってことは終わったんだな!
 はやくこい!マダラメがやばい事になってる!』

ザクのところに走ってたどり着いた二人が見たのは無残にもコクピットがつぶれた光景だった。
クガヤマはガンタンクⅡで乗り付け、すでにタナカと共に作業をしていた。
「ま、マダラメさんは!?」
「わからん!早くこじ開けんと!」
そういったタナカは作業用の道具をあれこれ渡し、すぐに全員で捜索に移る。
「くそ、くそ!」
この上、死者まで出たら!その感情をぶつけながらひしゃげた金属を引き剥がしていく。
「どうだ!?いないか!?」
コクピットの椅子が見えてきたにもかかわらず、姿が見えない。
「ゥ・・・。」
「声が!!」

よく見ると、コクピットのしたのスペースにマダラメががもぐりこんでいる。
おそらくあの瞬間に体を滑り込ませたのだろう。しかし・・・。
「手が!」
右手が金属の破片に挟まってしまい、ひじ下から潰れていた。かなりの出血だ。
他にも破片が体に埋まり、全身が血で覆われていた。
「速く!速く医務室へ!!」
田中が叫ぶ。そこに、丁度第801小隊の母艦が到着した。

「・・・大丈夫です。容態は安定してます。」
あの後、すぐさま担ぎ込まれたマダラメは、腕の縫合、輸血と治療が施された。
しかし、腕の方は元には戻らないだろうと、オーノはいった。
医務室の前の廊下にて、皆は沈んだ表情になる。完全な敗北。そういってもいい。
様々なものを失ってしまったのだ。
「あの状態だと・・・。あと2、3日目を覚まさないと思います・・・。」
オーノは悲しそうな表情で皆に伝えた。
「・・・ちゃんとした治療受けさせないとな・・・。」
タナカが苦い表情で呟く。
「・・・なんなんだよ、あの変なのは!!」
皆が思っていた怒りを吐露するサキ。
「・・・・・・おそらくあのMAに搭載されていた兵器だよ。
 オギウエさんが大丈夫だった理由もここにあったのかもしれないね・・・。
 パイロットである彼女だけには耐性があるのかもしれない・・・。」
きわめて冷静に、コーサカはおそらく当たっているだろう予想を述べた。
「・・・そういうことか。あいつらがオギウエさん狙った理由は・・・。」
ササハラが悔しそうに壁を叩く。その姿に皆は目を伏せるしかない。
「でも、ササハラ君、動けてたよね。何で?」
「え・・・。ああ、これ。オギウエさんからもらったの。これが光ったら・・・。」
「それって・・・。」
そのペンダントをまじまじ見るコーサカ。
「・・・これ、借りてもいい?大丈夫、ちゃんと返す。」
「・・・うん。」
いつにない真剣な表情を浮かべるコーサカに、それを渡すササハラ。

ガチャ。
閉まっていたはずの医務室の扉が開いた。
「ま、マダラメさん!」
「何をしてるんですか!安静にしててください!」
「お、お前ら・・・戦況は・・・。」
オーノの制止を振り切り、マダラメは青い顔で睨みを利かせる。
「・・・ガンタンクⅡを除き三機全壊。
 また、ジムキャノンで出撃した・・・オギウエさんがそれごと拉致されました。」
ササハラがすぐに報告を行う。オギウエの事を言う瞬間に少しためらいがあったが。
「死者は・・・?」
「一番危ないのは隊長です!安静にしててください!」
そう叫ぶササハラ。しかし、マダラメはさらに睨みを利かす。
「・・・おとなしくしてられるか・・・!拉致、されたんだろう!
 追いかけるぞ!どこにいったんだ奴らは!」
「上・・・です。」
そう、コーサカは呟く。
「上・・・?宇宙、か!?」
マダラメは驚愕の表情を浮かべる。
「まさか、重力圏からの離脱が可能なのか?」
「ええ、敵の輸送艦は可能だったようです・・・。そのまま上に・・・。」
「くそ!」
動く手の方で扉を叩くマダラメ。そこに、サキが口を挟む。
「・・・宇宙には、いけないの?」
「・・・無理だな。我々にはその手段がない。・・・・・・本部からの許可が出ない限り。」
重力圏からの離脱、というのは口で言うほど生易しいものではない。
普通ならば、シャトル台、HLVというものを使う必要性がある。
そのようなものは、今現在宇宙への侵攻が進んでいる現在易々と借りられるはずもない。
「・・・無理じゃないよ。」
ビクゥ!とその場にいた全員が驚く。声がした方にはいつもの大隊長。
「だ、大隊長!いつの間に!」
驚きのあまりに口をパクパクさせるマダラメに、大隊長はにっこり笑う。
「君はとりあえず寝てなさい。」

「ど、どういうことですか?」
もう、大隊長がなぜいるかはどうでもいい。
ササハラにとって「宇宙にいける」事実の方が重要だった。
「うんそう、我々は宇宙に行くんだ。」
ササハラの焦る顔に大隊長はいつもの飄々とした言葉使いで返す。
「え、それって・・・。」
「とりあえず西の砂漠、ニッポリシャトル基地へ向かおう。
 細かい事は道々、ね。あ、そうそう、マダラメ君。」
「はい!なんでしょう!」
何かの指示かと緊張した面持ちで敬礼するマダラメ。
「早く寝なさい。」
そういうと、大隊長はゆったりとしたペースで去っていく。
その言葉に緊張の意図が切れたのか、がっくりと崩れ落ちるマダラメ。
「早く戻りましょう!」
「ああ・・・。すまん・・・。」
オーノとタナカに抱えられ、マダラメは医務室へと戻っていく。
そして、他の皆は大隊長の後についていくしかなかった。


「フフフ・・・久しぶりだね、オギウエ。」
「ナカジマ・・・!!あんた・・・。」
後ろ手を縛られたままオギウエはナカジマの前につれてこられた。
すでに艦は宇宙へと達しており、今、皇国の本隊へと移動しつつあった。
「フフ・・・。話に聞いたよ?記憶、飛んでるそうだね。
 これでも思い出さないかな・・・?『お帰り、チカ』。」
「・・・ああ!ああああああああ!!」
オギウエの顔が驚愕、そして悲痛な表情に変わる。
「記憶、やっぱり封印されてたんだね。博士、やってくれる・・・。」
そうはいうものの、その顔は笑みで歪む。
「博士は!マキタ博士はどうした!?」
そう叫ぶと、オギウエはナカジマを睨む。
「安心しな?一番心の休まる場所に行ってもらったからね?
 あんたを兵器ごと逃がしたその日にね。相棒も一緒に・・・ね。」
「ま、まさか・・・!」
「フフフ・・・。あと、向こうの連中に変なこと吹き込まれたみたいだね?
 大丈夫だよ、貴方の望む貴方にしてあげるから・・・。」
そういうと、オギウエを抱きしめるナカジマ。
涙ぐむオギウエは、力も入らない。
「さあ、この子を研究室へ。遠慮はいらない。この子が望んでいるのだから。」
そう、部下に冷酷な表情に変え指令を出すナカジマ。
オギウエには解っていた。このあと何が起こるのかも。
しかし、それは他人を犠牲にしてまで戦いから逃げようとした自分の罪なのかもしれない。
それでも。
「ササハラさ・・・ん・・・。助けて・・・。」
オギウエの胸元では、ペンダントが揺れていた。

次回予告

砂漠のシャトル基地へとたどり着いた第801小隊を待っていたのは
なかなか発射しないシャトルだった。
ようやく発射が迫るころ、皇国軍『砂漠サソリ』の襲撃が始まる。
基地の防衛隊がやられていく。
その最中、唯一動くガンタンクⅡでクガヤマは飛び出す。
次回、「孤軍、奮闘」
お楽しみに。