第十話・オギウエ出撃 【投稿日 2006/03/06】

第801小隊シリーズ


「何・・・?」
怪訝そうな顔で、ナカジマは向かい合う初老の男性を睨む。
ここは例の兵器を回収した部隊の基地。
「宇宙へ出ろ・・・、と?」
「はい、お嬢・・・いえ、ナカジマ大佐。
 上層部から、兵器を持ち本体に合流せよとの命令が下っております。」
「・・・しかし、まだパイロットがいない。これでは動かせまい。」
ナカジマはくるりと体を反対に向け、ディスプレイを見る。
「・・・私も操作出来ない訳じゃございませんが・・・。」
「オギウエでなくてはいけないのだ!」
思わず激昂し、語彙が荒くなるナカジマ。
「・・・・・・大佐、少しあのパイロットにこだわりすぎでは・・・。」
「・・・なんだ、私が私情を挟んでいるというのか?」
睨みをさらに利かせるナカジマに、男はたじろぎもせず言葉を出す。
「・・・いえ、そんな事は決して・・・。」
「じい。私をいつまでも子ども扱いするな。
 それに、あのMAの新兵器はオギウエでないと操作できん。
 ・・・いや、操作し続けられん。そういうものなのだ。」
再び男の方に向き直ると、ナカジマはにやりと笑った。
「それに、例の部隊が近づいているらしい。
 情報を少し漏らした甲斐があったというものだ。
 ・・・・・・おそらく、あの部隊にオギウエはいる。」
「・・・・・・了解いたしました。我々はその捕獲に全力を挙げましょう。」
「頼んだぞ。父上が生きていた時代からお前は信頼できた。
 ・・・・・・フフ・・・。フフフ・・・・・・。」
虚空を見なが笑いを漏らすナカジマ。その光景に、少し、歯噛みをする男。
「・・・・・・では失礼いたします・・・。」
踵を返し、廊下へと進む。その姿が闇へと消えた。

「ウマ~~~~~~~~~~~!!」
食事の席にて、またもや大声を出すマダラメ。
「・・・あれ?突っ込んでくれんの?」
ニヤリと笑いながら咲へと顔を向ける。
「・・・・・・もう飽きた。」
「それは酷いな~~!!」
そういいながらも楽しそうにマダラメは笑う。
「あんたねえ・・・。まあ、いいか。」
「そういえば、もうすぐ到着なんでしたっけ?」
ササハラが食事の手を一旦休め、誰に聞くともなく言葉を漏らす。
「ああ、そうだ。第209部隊からの情報からだと、
 この付近にあるあの兵器を回収できそうな大規模な基地はそこぐらいらしい。」
タナカが同じように手を休め、返事をする。
「ま、まあ、く、クチキも頑張ってたって事だね・・・。」
クチキの活躍によって得られたデータが情報源である。
「で、肝心のクチキ君は・・・。」
コーサカがその話題の人物を考え、苦笑いをする。
「懲罰房行き、と。盗撮はいかんからねー。骨折もしとるし、丁度いいんじゃないか?」
マダラメもつられて苦笑い。
「ま、明日には出すさ。女性の方々からきつ~いお仕置き受けたしな。」
「あはは・・・。」
あの日から、すでに3日。
あの後言葉にするのも恐ろしいようなお灸を据えられたクチキは、一応懲罰房に入っている。
「・・・・・・で、どうすんの?基地の近くまで来たら。」
ケーコがどうでもいいような口調で聞く。
「・・・まあ、一応攻勢に出ざるを得ないだろうな。
 兵器の発見、捕獲が目的であるわけだし・・・。」
「・・・そ、そうだね。こ、この部隊としては初めての攻勢側での任務か。」
タナカとクガヤマが次々に言葉を発する。その口調は少し重い。
「・・・・・・まあ、そうなるわな。」
マダラメが苦い表情で呟く。
「あーら、隊長さん。気弱なんだ?」
「ちげーよ。ちょっとな。色々あんだよ。」
サキの挑発をするような発言に、少し癇に障るマダラメ。
「・・・・・・何があるんだか・・・。」
「・・・そりゃ・・・。まあ、何だ・・・。」
口ごもるマダラメに、サキは鼻で笑う。
「なんだ、やっぱビビッてるだけじゃん。」
「・・・・・・あー、もう、そういう事でいいわ。
 あー、みんな、明日には交戦区域に入るだろう。体は休めとけよ。」
それだけいうと、一人席から離れ、廊下へと出て行くマダラメ。
その姿を見ながら、サキはきょとんとした顔をしていた。
「・・・何?あれ?」
「サキちゃん、人にはね、触れられたくないことってあるんだよ。」
コーサカが少し戒めるように話す。
「えー、でもさー。なんかあるの?あいつ。」
その光景を見ていたタナカが重い口調で話し出した。
「・・・・・・昔あった宇宙での皇国との戦いの最中の話だ。
 攻撃をしていたのはこちらだったんだが、かなり優勢だった。
 だが、追い詰められた皇国軍が用いたのが味方もろとも消し飛ばす兵器でな。
 その光景を俺も、クガヤマも・・・そして、マダラメも見てるんだ。
 戦いを始めるって事は、そういうすさまじい事を呼び起こすことがあるのさ。」
「・・・あ、あの後、け、結構キツかったよね・・・。
 せ、戦争ってああも簡単に仲間までも殺せるもんなんだなって。
 い、今でもたまに夢を見るよ。」
クガヤマもそれに続いて話す。
「・・・・・・そう。そんな事があったんだ。」
サキ、ケーコ、オギウエだけ、驚いた表情になる。
「だからな、あまりこういう任務は乗り気じゃないんだ。俺らはな。」
タナカはそういうと、すこし、自嘲気味に笑った。

「・・・・・・タナカさんは、いまだにその夢を見ますか?」
食事が終わった後に、タナカとオーノは二人連れ立って歩く。
「ん・・・。まあね。俺もその当時はMSに乗ってたからね。
 あの戦いで操縦恐怖症になったからさ・・・。」
「はい・・・。それは知ってます・・・。」
俯くオーノに、タナカは笑う。
「はは。気にしないで。今はこの仕事楽しくやってはいるんだ。
 ・・・それに、何かと支えもあるし・・・。」
そういって、オーノのほうを向くタナカ。
「それって・・・。」
「ははは、なんか恥ずかしい言葉言っちゃったね。」
少し顔を赤らめながらタナカは再び前を向く。
「いえ・・・。そうなっているのなら嬉しいです・・・。」
「それよりも心配なのはマダラメだ。あいつはどうも一人で考え込むやつだからな。
 支えがいたほうがいいのはあいつの方なんだよ・・・。」
そういって苦い表情で友を思うタナカ。
「でも、マダラメさん、いつも明るく元気ですし・・・。」
「あいつ、キャラ作るからね。いい隊長を演じようとしてるんだろう。
 本当は、とても気弱で、寂しがり屋なんだよ。
 そういう面では、部下が増えたのはいい事だ。」
「ササハラさん、クチキさんが来てからマダラメさん楽しそうで。」
「ああ。そうなんだ。それはよかった。作戦行動でも覇気が出ている。
 でも、今回の作戦、一番乗り気じゃないのもあいつだ。
 人を失うことに怯えている。・・・それがあいつのいい所なんだが。」
「・・・マダラメさん、大丈夫ですかね・・・。」
「・・・・・・きっと、ね。」
苦笑いをする二人。分かれ道に差し掛かる。
「あ、じゃあ、整備があるからここで。」
「はい。頑張って下さいね。」
そういうと、オーノはタナカの頬にキスをする。
「あはは・・・、頑張るよ。じゃ。」
そういって、タナカは整備室へと向かっていった。

一人部屋にて考え込むマダラメ。あの日、起こった惨劇を思い出す。
大きな閃光の中で、人の命が消えていくあの瞬間を。
敵も、味方もそこにはなく、ただただ、死があった。
自分らが攻めた事によって起きた惨劇。
自分が、その中心にいて、引き金を引いた部分があった。
いまでも、その事を思うと夜も眠れず、嘔吐する事もあった。
星空を見ると、今でもその事を思い出していしまう。
「・・・くそ・・・。弱ぇなあ、俺は・・・。」
そのまま拳を壁に叩きつけるマダラメ。隣はクチキの部屋だ、誰もいない。
コン・・・。コン・・・。扉を叩く音がする。
「なんだ?こんな時間に・・・。はい、はい、なんだぁ~?」
ガチャ。扉を開けると、そこには思いもよらない人物が。
「・・・今大丈夫?」
「・・・カスカベ二等兵?・・・ああ、まあ大丈夫だけど・・・。」
サキはそのまま部屋に上がりこむ。
その唐突に起きたその事にマダラメは驚きを隠せない。
「実はさ・・・、あんたの昔の事聞いちゃってさ。」
サキは少し気まずそうに言葉を発する。
「ごめん!なんか考え無しの事言っちゃって!」
「・・・ん、ああ、何だそんなことか、気にするなよ、あはは・・・。」
「でもさ、この作戦だって、やらなきゃもっと被害大きくなるんだろ?
 だったらさ・・・、躊躇せずやらなきゃいけないんじゃない?」
サキの言葉に、はっとさせられるマダラメ。
「だからさ・・・、まあなんといいますか、頑張れと。それだけ!」
「・・・ん、あんがとさん。わかった。頑張るよ。はは・・・。」
そういって笑うマダラメ。その心に、何かが灯ったような気がした。
「じゃあ、わたしはもう行くね。それだけだから・・・。」
「おう。しっかり寝ろよ。明日は大変になりそうだから。」
「あんたもね。しっかりしてよ、隊長さん。」
そういってウインクして出て行くサキ。
マダラメは、それに苦笑いして、とりあえず寝る事にした。

「そう。思い出せない事があるんだ。」
ササハラはオギウエと二人、まだ食堂にいた。
「ええ・・・。なんか、その部分だけすっぽり抜け落ちてるような・・・。」
「ふーん・・・。オーノさんに相談してみた方がいいかもね・・・。」
「はい・・・。その事を思い出そうとすると、頭も痛くなるし・・・。」
そういって俯くと、不安げな表情になるオギウエ。
「・・・あまり気にしないほうがいいよ。」
その表情に、わざと笑顔を作るササハラ。
「はい・・・。」
重い返事に、すこし気を紛らわせようと話題を振るササハラ。
「皇国軍か・・・。どんなところなのかな。想像もつかないや。」
「普通ですよ。よく話す仲間もいましたし。」
「へえ・・・。」
「一人、軍の上層部の娘さんが友達にいましてね。
 一緒に軍に入った仲間の一人なんですけど・・・。
 お父さんが病気で亡くなられてからすぐにその代わりに出世しちゃいました。
 跡取りがその子しかいないらしくて。世襲制なんですよ、そういう部分は。
 その後、私が配属された先がその子の部隊でびっくりしました。
 ん・・・?あれ・・・?またなんか忘れてるような・・・?」
頭を抱えて俯くオギウエ。
「あ、ごめん。変な話題振っちゃったね。」
ササハラはそういうと、その話題を断ち切った。
「いえ・・・。・・・明日、皇国と戦うんですよね・・・。」
「うん・・・。もしかしたら、その中にはオギウエさんの仲間もいるかもしれないね・・・。」
少し、ばつが悪そうに頭を掻くササハラ。
「・・・しょうがありません。それも、戦争です。
 さっきの、マダラメさんたちのお話聞いて、それが再認識できました。
 正義なんてないんですね。どっちにも。」
オギウエにまっすぐな目で見つめられ、ササハラも、真剣な目で返す。
「うん。だから、終わらさなきゃいけない。・・・もう寝ようか。明日も早いし。」
「・・・はい。」
そういって、立ち上がり、食堂から二人は出て行った。

「よし!全員揃ったな!目標の基地は目の前だ!」
マダラメの檄が飛ぶ。昨日と打って変わった元気な姿にほっとする者もいた。
ひそひそ声で、タナカとクガヤマが話す。
「おい、なんか吹っ切れたみたいだな。キャラ作りとはなんか違う。」
「あ、ああ。よ、よかった。あ、あいつがあのままじゃ・・・。」
「ああ、死んでいった仲間に悪いからな。」
そういって二人で笑いあう。
「おい!そこ無駄話するな!」
そういってその二人に向かって注意をするマダラメ。
「「すいませんでした!」」
二人がそれに素直に敬礼で反省の言葉を上げる。
「ったく。気合入れろよ。これが最後の任務かもしれんからよ。」
「え??」
声を上げたのはササハラ。
「あー、今日の朝、大隊長から連絡があってな。
 そろそろ宇宙で皇国軍本拠地への攻勢が始まるそうだ。
 あの第100特別部隊がいるそうだから、問題ないだろ。
 我等は、ここであの兵器を破壊さえすれば、もうやる事はない。」
「へー。よかったじゃん。戦争も終わるわけだ!」
能天気な声を出して、ケーコが両手を上に挙げて喜ぶ。
「ま、そういうわけだ。気合入れていくぞ!」
「「「「「了解!」」」」」
それぞれが自分のMSの乗り込む。ただし、クチキは骨折のためお留守番だ。
『クチキ一等兵、船の方頼んだぞ!』
『了解であります!この間は私が守るでありますよ!』
そんな通信を聞きながら、ササハラはシステムを起動する。
『・・・落ち着いていらっしゃいますね。』
「そ、そうですか?あはは・・・。ちょっと、考える事がありましてね。」
『・・・そうですか。・・・では頑張りましょう。』
「はい、会長!よろしくお願いします!」
それと同時に、マダラメのいつもの言葉が響く。
『それでは第801小隊、出撃する!全員、生きて帰るぞ!』
『『『『了解!』』』』

目の前には、大きな岩山があった。そこの空洞の奥に、基地はあるらしい。
付近はちょっとした荒野。ジャングルが開けた寂れた土地だ。
『敵影、レーダーでキャッチ!10機いるね!』
サキが輸送船のコクピットから声を出す。
「10機・・・ね。そう多くはないな。」
マダラメがコクピットで少し緊張をほぐす。
『いやいや、結構多いと思うんですが・・・。』
ササハラの突っ込みに、ニヤリと笑って答えるマダラメ。
「なに、この規模の基地なら20はいてもおかしくはないからな。
 正直つらいかもしれんが、やるしかないな。」
『頑張りましょう。・・・これで終わりになるといい。』
そのニュアンスには他の事も含まれてるようなコーサカの言葉。
しかし、その事は流して小隊4機のMSは敵影付近へと接近する。
『近づいてるよ!気をつけな!』
サキの叫びにも近い通信が聞こえたかと思うと、目の前に一つの影が現れた。
「お!きやがったな!」
目の前に現れたのは黄色に塗装されたグフ・・・。
「き、黄色!?ま、まさか・・・。『荒野の鬼』か!?」
『ようこそ、連盟軍諸君。その搭乗しているMSが君らの墓標になるようだ。』
外部スピーカーから発しているのだろう、よく通る低めの渋い声が響く。
「へ、洒落たこと言いやがって・・・。クガヤマ、ササハラ、コーサカ!
 あの黄色いのは俺が抑える。残りは頼んだぞ!」
『了解!隊長、気をつけてくださいね!』
『任せてください。やつは頼みました!』
『き、気をつけろよ・・・。』
マダラメの赤いザクが、荒野の鬼に向かい加速する。
コーサカ機、ササハラ機はそれに続くように左右に展開し、他のMSへと目標を定める。
クガヤマ機は固定砲座の形をとり、移動せず、そこから敵を狙う。
風の強い荒野の中で、戦いの火蓋は切って落とされた。

ガキィ!
ヒートホークとヒートサーベルがぶつかり合う。
『はは!赤いザクとはな!趣味の悪い!』
スピーカーからあざけるような言葉を投げかける荒野の鬼。
『荒野の鬼さんは、そんな事でいちいち突っ込みいれてくださるんだなあ!』
同じようにスピーカーからそれに答えるマダラメ。
『ほう・・・。その二つ名を知ってるものが連盟にいたとはな!』
『こちとら情報が生命線なんでねえ!あんたに会わないように考えてたのさ!』
そう叫ぶと蹴りを入れようと足を上げるザク。
それに対し荒野の鬼は、体を中に入れる事でそれをかわす。
『くぅ・・・。』
『はは、接近戦には慣れているようだが、私に敵うはずもない!』
それだけ言うと、力任せにヒートサーベルごとザクを押し倒す。
「ぐはっ!」
背中に衝撃が来る。そのままヒートサーベルを押し付けようと力を込めるグフ。
『その判断は賢明だったようだな。ここで会った為にお前は死ぬ!』
『そいつはどうかなあ!』
その体勢のまま足を上げ、巴投げの要領でグフを放り投げる。
『うおおおお!!?』
ドシン・・・。衝撃音と共にグフは背中から落ちる。
『どうよ!?』
『フフフ・・・。やりおるな!久々に燃える相手だわ!』
そして、両者は再びにらみ合う。

その間も、コーサカ、ササハラ両機は一体づつ敵を撃破していた。
『うーん、視界が悪いね・・・。』
「うん。だんだん風が強くなってる・・・。」
砂嵐の中にいるように、ディスプレイには茶色一色しか映っていない。
『き、気をつけろよ・・・。』
しかし、敵は五里霧中。残りは荒野の鬼を入れて8機となった。

基地内部にて、ナカジマが部下へと指令を出す。
「よし・・・。兵器を起動させろ・・・。」
「え!?あの中には我が軍の兵も・・・。」
「かまうものか。敵兵が動かなくなるのだから関係あるまい。
 それに、じいには耐性のつくよう装備を整えてある。完全ではないがな。」
そういうと、ナカジマはニヤリと笑った。
「あの中にいるならば・・・。すぐにわかるはずだ・・・。」

妙な感覚が走ったとは思った。
コーサカは二機目のザクを撃破したときに、違和感を感じた。
(こ、これは・・・。)
自分が普段感じている広い空間認識に障害が出てる。
彼はそう、ニュータイプだ。宇宙で人が生きるために得た世界を知る力。
だが、それにいま、非常に強い力が加わっているのだ。
「ううっ!」
頭が痛くなってくる。感覚が阻害される。目も、耳も、肌も。
全ての感覚が阻害されていくのだ。
『な、何だコリャ・・・。』
それを感じているのは自分だけではないらしい。
自分の感覚がぬきんでているために、人より先に感じたようだ。
『か、会長!?ううっ、何だこれ・・・。』
どうも、ササハラ機のシステムにも障害が出たようだ。
それも当然だ、感覚が阻害される力が発生しているのならば、
それに特化したあのシステムに障害が出ないはずがない。
「ま、まさか!これが皇国の新兵器の威力なのか!?」
驚きを隠せないコーサカだったが、感覚が阻害され、まともに動けなくなってしまった。

『・・・こんな形の決着は私としても不満だがな・・・。』
荒野の鬼がマダラメ機に近づく。
「ぐっ・・・。」
斑目に苦悶の表情がにじむ。五感が麻痺したようで動かない。
『せめて、一思いに・・・。ぐ・・・。やってやる・・・。』
相手も完全にまともに動けるわけではないようだが、それでも動ける。
「く、くそ、くそぉおお!!」
振り下ろされるヒートサーベル。まともにザクのコクピットに直撃する。
そして沈黙するザク。もはやピクリとも動かない。
『・・・すまんな。お前とはしっかりと戦ってみたかった・・・。』
それだけ言うと、次の獲物を狙い荒野の鬼は動き出した。

「み、皆さん、大丈夫ですか!?」
輸送船のコクピットでは、オギウエを除いた皆がその障害に苦しんでいた。
「お、オギウエ・・・、あんたなんでまともに・・・。」
サキが苦しそうにオギウエに話しかける。
「解りません・・・。はっ!じゃあ、出撃してる皆さんも!」
「そうみたい・・・。ああ!マダラメの反応が!!」
そう叫ぶケーコ。その言葉にオギウエの表情が青くなる。
「・・・わたし、出ます。」
「な・・・。なにいってんの・・・、やめなさい・・・。」
「そうだにょ・・・。それは駄目にょ・・・。」
クチキも何とか舵を取りながらオギウエを制しようとする。
「でも!まともに動けるの私だけですし!MSの訓練も受けました!
 ・・・・・・やるだけやります!」
「駄目!」
ケーコが苦しみを抑えながら叫ぶ。
「兄貴がさ・・・。あんたをもう二度と戦場に出したくないって・・・言ってたんだよ!
 うう・・・。だからあんたにあのペンダントも渡したんだ・・・。
 だから、駄目!出ちゃ駄目だ!」
「・・・・・・ありがとうございます。でも、私に出来る事をやるって、決めたんです。」

「く・・・やめろ、オギウエさん!」
ジムキャノンへと向かうオギウエを、タナカも、近くにいたオーノにも止められなかった。
「大丈夫です!みんな助けてきます!」
「や、やめてくださ・・・うう・・・。やめて・・・。」
オーノの叫びもむなしく、ジムキャノンへと乗り込むオギウエ。
ジムキャノンを起動させたオギウエは、コクピットの中であのペンダントを握る。
「・・・今助けに行きます。待っててください。」

『・・・・・・その状態でよく・・・。』
荒野の鬼がササハラ機を見つけたときには、
まともに動かない同士で戦ったザクを倒していたところであった。
「くぅ!新手か!?」
しかし、その視力も、頼りの会長も、まともに機能していない。
『・・・あああああ!!く、苦しい!』
「うう・・・。くっ!どうする!!?」
荒野の鬼は、そのままジムに近づく。
『・・・すまんな。せめて一瞬で逝け。』
ヒートサーベルを振り上げるグフ。
「う、うああああああ!!?」
その瞬間、ジムの機体が横に飛ばされる。
何とか見えた視界の中で見えたのはジムキャノンの姿。
「く、クチキ君か・・・?」
しかし、聞こえてきたのはそうであってほしくない人の声。
『ササハラさん・・・、大丈夫ですか・・・?』
「お、オギウエさん!?」

「敵のうち、一機、まともに動いています!!」
その報告を聞いて、ナカジマは座っていた椅子から飛び上がる。
「ははは!!やはりいたのか!!オギウエ!!」
大きな、そして恍惚に満ちた笑い声が基地内に響き渡る。
「この兵器を動かすための実験体であるお前以外、
 この電磁流の中で動けるものはいないからな!!!
 ようやく帰って来るんだ・・・。じい!そいつを捕獲しろ!」
『・・・了解いたしました・・・。』
基地内に響く荒野の鬼の声。
「あははははははははっははははは!!!」
ナカジマの笑いは途切れることなく、基地内に響き渡った。

次回予告
ついに戦場へと戻ってしまったオギウエ。
その狙いが自分にある事など知らず、荒野の鬼と戦う事になる。
しかし、実力の差は歴然だった。捕獲されそうになるオギウエ。
その最中、ササハラがもつ青いペンダントが光を放つ。

次回、「震える空」
お楽しみに。
最終更新:2006年03月08日 01:31