事後・side荻上 【投稿日 2006/03/06】

カテゴリー-笹荻


薄暗闇の中、ふと目が覚める。
隣に人の気配。それは間違いなく現実のもの。確かな形と熱を持ってそこにいる。
「笹原さん…」
囁きかける。答えは無い。穏やかな寝息だけが聞こえる。
体を少し起こす。素肌に夜気が冷たい。顔を覗き込む。穏やかな寝顔。
自分がそうであるように、かれも生まれたままの姿で、同じシーツに包まっている。
それが嬉しい。
昨夜の事を思い出す。
互いの名を呼び合い、ひたすら求め合った。彼にしがみつき、ねだった。
「笹原さん、もっと、もっとしてください」
夢現の中、そう言ったことを思い出し、赤面する。頬が火照る。
思い切って半身を起こし、夜気にさらす。寒さが心地よい。

もう悪夢は見ない。夢のなかの笹原さんはいつも強気で、悪夢と、弱くてずるい私を倒して、私を救ってくれる。
都合のよい夢だと思う。
結局、わたしは弱くてずるいままで、ただ笹原さんにすがっているだけかもしれない。
笹原さんなら「それでもいい」と笑って受け入れてくれるだろう。
でも、それじゃいやだ。
強くなりたい。傍に居れるように。共に歩めるように。いつか私が笹原さんを助けられるように。
『運命に負けない力を』
どこかで聞いた言葉を思い出す。
運命。もし笹原さんと出会ったことが運命なら、それはいつからだろう?

体が震える。思ったより長い間考え込んでいたようだ。ずいぶん体が冷えてしまった。
笹原さんに抱きつく。それは熱い位で、冷えた私を暖める。
笹原さんも私を抱きしめる。起きてはいないのだろう。息は穏やかなまま。腕にも力は入っていない。
彼の胸に擦り寄る。鼓動が聞こえるような気がする。
彼の鼓動に包まれて、再び眠りに落ちた。

…はじまりは、何だったのだろう。
運命の歯車は、いつ回りだしたのか。
時の流れのはるかな底から
その答えを拾い上げるのは
今となっては不可能に近い…
最終更新:2006年03月08日 01:22