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せんこくげんしけん2 【投稿日 2006/02/27】

せんこくげんしけん


現視研部室のテーブルを挟んで向き合った2人の班目。2人は確かに同一人物でありながら、雰囲気は全く違っていた。

“部屋にいた班目”は、目は細くやや目尻が下がって優しい印象を与え、口はだらしく緩んでいる。白のワイシャツの襟裳とネクタイも緩ませていて、全体的に温和な感じがある。
しかし、“後から入ってきた班目”の髪型はおかっぱで、顔の輪郭はやせ細って頬がこけ、メガネの奥から無愛想なまなざしが鋭く相手を凝視している。
さらに四肢はクモの足のように細い。一方の班目も体の線は細いが、それとは違った印象だ。例えるなら「妖怪」といった風体なのだ。

「妖怪」は、しばらくの沈黙の後で、「だ、誰?」とだけ呟いたが、2人の班目は向き合った瞬間すでに、「俺の前に居るのは俺」だと直感していた。
それは本能というべきか、魂の共鳴というべきか、それとも、説明描写を避けたがっているというべきか……。

温和な顔立ちの班目は内心、「俺ってこんな顔だったっけ」と思いつつ、愛想良く作り笑いをしながら語った。
「み、見ての通り、俺はお前なんだよね。ななっ…何ていうかなぁ、3年後のお前なんだよ、たぶん。言わば、“班目2005年バージョン”ってこと?」
腰が低い。そして、事の経緯を自分の理解できる範囲で説明してみた。

「妖怪」班目は耳を傾けている間、動揺した表情を見せていたが、「未来から来たってか? フン、“ネコドラくん”じゃあるまいし。それなら俺はさしづめ、“班目2002”だな」と言い放った。

班目02(2002Ver)は、低姿勢の班目05(2005Ver)を睨み、一拍置いて話掛けた。
02「俺の誕生日は?」
05「10月25日、O型だ」
02「誕生日をガン●ム占いで占ったら?」
05「ジオ●グ」
02「好きなアニメは」
05「万に一つの神隠しとか嫌ダモンとか、それとハレガンかな」
02「ハレガン?」
05「あ、すまん、それは未来での話だ」
02「同人誌購入のポリシーは?」
05「値段を見ない」

今度は班目05の方から語り掛ける。
05「お前らは今、アニ研と“交戦中”だろ。味方は漫研のヤナぐらいだ。アニ研の近藤に何言われたかは知ってるぞ。でも、将来アニ研にもお世話になることがあるんだからさ、ほどほどにしとけよ」

班目02は、「ほお、さすが未来人。新入りが増えたことは知ってるだろ。高坂はアニ研に引き抜かれてないだろうな? あいつはルックスもいいし戦力になる。この戦い、まだだ、まだ終わらんよ!」と胸を張る。

「何だこの根拠のない自信は……」班目05は、さすがに自分の「イタさ」がいたたまれなくなってきた。
顔中に汗をしたたらせ、「戦力って何の……、敵ばっかり作ってさー」と吐き捨てた。
班目02が窓の方を向いた。キャラを作っている素振りだ。
「まあ、それはしょうがない。何せ……」と語りはじめた瞬間、班目05が間髪入れずに指摘した。

05「次にお前は“俺の前世はヘビだ”と言う」
02「俺の前世はヘビだからな……ってオイ!」
イタイのはお互い様だったようだ。


部室内では、班目同士の奇妙な会話が続いていた。
05「何て付き合いにくいんだ、俺ってイタすぎる……」
02「お前自分に向かってイタイはないだろうに」
05「お前とは何だよ、一応俺は年上で社会人だぞ」
02「同じ自分のくせに……って、仕事してるのか? 情けない。時間がもったいない!」
この“もったいない”とは、オタクライフが仕事で割かれることを指すらしい。
05「……確かに、バイトしてでも生きていけると思った時が、僕にもありました(汗」

のんきに自分同士で語らっていたものの、事態は尋常ではない。もうすぐ田中や久我山たちが部室に来るだろう。2人は話題を切り替えた。
02「それで、未来から何のためにやってきたんだ? もうすぐ人が来るんなら、用件は早く済ませた方がいいぞ」

班目05は、別に用があって来たわけではないが、ある思いが浮かんでいた。
この日は、咲が部室に高坂の事で相談をしにきた日。班目の「チューしたれ」発言で、カップルが成立した日だ。
班目05「まあ、大きな声でもなんだ。こっちに来てくれ」
班目02は呼ばれるままに、すぐ側まで寄ってきた。
「あのさあ、春日部さんのことなんだけど……」と、ヒソヒソと小声で語りかける。班目02は一瞬、「春日部さん」というフレーズにムッと嫌な顔をした。

その瞬間、またしても部室のドアが開いた。

(…しまった!)班目05は忘れていたのだ。
この日、咲が部室を訪れるのは「2度」。最初はコーサカを探しにきていたことを……。


「コーサカいないかー……あれ、なんだ班目だけかぁ」
咲だ。咲が来た!
咲が、「あれ……?」と班目を凝視する。
「どどっ、どーしたの?」
「さっき、班目が二重に見えた」
「……疲れてるんじゃねーの、ハハハ」
顔中汗をかいて愛想笑いしているのは、班目05の方だ。
班目02は咲が入って来た瞬間、長い手足を窮屈に折り畳んでテーブルの下へ潜り込んでいた。後の海水浴の時にも立証されているが、班目の危険回避能力は高い。

02(なんで俺が隠れなきゃいかんのだ)
05(なんで俺が出てなきゃいかんのだ)

だが、要領は悪かった。

咲はまだ班目との付き合いも短く、風体の違和感を感じつつも詮索まではしない。むしろ無関心というべきか。
「まあ、あんたがこの狭い部屋に2人もいたら、さすがにオタ菌が空気感染するわ。ハハハ!」
(何だよオタ菌って)心の中でツッコミを入れた。あくまでも心の中で。この時期の咲に普通にツッコミを入れたら、どんな仕打ちを受けるかわからないからだ。
実際、部屋に入って来てすぐに班目を見た咲の一瞥に、(目ぇキッツイなあ)とも思ったが、これも心中の声だ。

「で、何でネクタイしてんだ? まあいいや。コーサカはいねーのか……」
挨拶もなく黙って行こうとする咲。班目05は思わず、「あ、ちょっと……」と呼び止めてしまった。
班目05「……」
咲02「なに? 用があるなら早く言ってよ」
班目02(……何やってんだこのバカ!)



班目05は、自分の行き当たりばったりな言動を後悔した。しかし何か言葉を掛けたい。ひょっとすると未来を変えられるかもしれない。と、思ったのだ。

今、班目05の脳内のモニターでは、ゲーム画面に変換された咲と背景が映し出された。

(高坂のこと忘れて俺……)……そんなこと絶対に言えない。

心臓のバクバクという鼓動が外にも漏れそうだ。伝える言葉のハードルを低く設定してみた。カーソルが選択肢を選んで右往左往している。

(今後は班目に優しくしてね)……いや、それは逆効果だろう。
(鼻毛はちゃんと処理してね)……コロサレル、しかも秒殺で。
(タバコは控えた方がいいよ)……コレダ!火事を未然に防げる。

「あのさ、タバ……」
しかし、班目はその言葉ですら途中で飲み込んだ。タバコについては触れない方がいいと直感したのだ。
(……ボヤ騒ぎがなくなれば、学園祭での「会長コスプレ」が見られなくなるんじゃないか? 映画みたいに、「最後の砦」の写真から咲のコス姿が消えてしまうかも!)
(……俺はどうしたいんだ?)
(どうしたい……)


班目05「……こ……」
咲「あ?」
班目05「……高坂、今日は一緒じゃないのか? しっかりキープしとかんとイカンだろ……イケメンなんだからさー……」
咲は意外な言葉にキョトンとした。
「何だソレ? 気持ち悪いな……そりゃあ分かってるけどさぁ……」
咲の表情は陰うつだ。
勝負を賭けたせっかくのデートが、「秋葉原の0時売り」の前に砕け散ったばかり。しかも高坂の部屋には無造作にエロゲーやその筋の雑誌が散らかっているのにようやく気付いて鬱になっていたのだ。

そのことを、「3年後の班目」は知っている。
班目05「そ、相談事が……あったら、また後で部室に来たらいいよ? みんな居るから」
咲「何だよホントに気持ち悪いなあ。確かにコーサカは分かんないこと多いからなぁ。でもお前らじゃあ……」
班目05「さっ、笹原が後で来るから。俺らの中じゃマトモな方だろ」
咲「ああ、まあね。後で居たら相談してみるか。じゃ、いくわ」
班目05「あいよ」
部屋を出かかった咲が、ドアから半身を出して振り返る。
「……あ、とりあえずさ ありがとう」

班目05は、少し照れた笑いを浮かべながら、「あ、ああ。じゃ、また……」とだけ答えた。


咲が部室を去った直後、ドカッと勢いよく班目02がテーブルの下から現れた。
班目02「あぶねえ、あぶねえ。おい、用件は何だ?」
班目05は呆けた表情で、「ああ……それね、もう終わったよ」とだけつぶやいた。
さっきまで咲がいた場所を見つめている。顔が紅潮していた。
班目02「……ん? オイまさかお前、あの女に!」
さすがの02も、察しがついたらしい。

班目02「勘弁してくれよ! 誰があんな暴力女に! 俺は二次元しか愛さないって誓ったんじゃなかったのか! 俺のくせに軟弱者!」
この言葉には、班目05もカチンときたらしい。キッと昔の自分を睨み、反撃した。
班目05「ウルセー! 今のうちに教えてやるがな、数年後のお前の部屋にはな、AVが10本近くあるんだぞ。しかもSMだ! このマゾラメが!」
自分で自分を罵倒する行為こそ、究極のマゾかもしれない。
班目02は蒼白になり、ワナワナと震え出した。

「う…う、嘘だあぁぁぁーーーーーーーーッ!」
静かだったサークル棟の一角に、班目(02)の絶叫がこだました。



自分同士の罵り合いの後、班目05は部屋を出ることにした。このままだと他のメンバーが来て、面倒なことになる。
班目05は昔の自分に、「春日部さんが来た時の会話レジュメ」を大筋でメモ書きして渡した。「二次元の素晴らしさ」について熱弁を振るい、対立する内容だ。
そして、「俺のことは気にするな、むしろ忘れろ。未来はお前が作るんだ。将来、春日部さんと親しくなるという、恐ろしい目に遭いたくなければ、今の自分を思いっきり出せよ」と、班目02に言い含めた。

(これで、春日部さんが笹原に相談を持ちかければ、こいつがかき回して、高坂が登場して……)

「いいのか?」と尋ねる班目02に、班目05は、「そうだな……これでいいんだ」と自分に言い聞かせるように呟いた。
(高坂と春日部さんがくっついてくれたら、これからも現視研に居てくれる。コスプレもしてくれる。皆で一緒に海に行ける……)

脳裏に、みんなが部室で談笑している風景が浮かんだ。
その中に咲がいた。
涙が出そうになった。
心中は複雑だが、未来の風景を守ったのだ。

部室を出る時、05は、「もし元の時間に帰れなかったら、アパートに泊めてくれ。金ないからメシおごってくれよな」と伝えた。

おごってもらっても、結局自分の金だが。


サークル棟を出た班目05は、「さて……これからどうしたものかな」と呟きながらトボトボと歩く。
「あ……あいつに先のことをチョット教えてやればよかったかな」と思った。班目02は、この年の冬コミで大ケガを負うのだ。
「ま、いいか……少し痛い目に遭った方がいい。無傷だったら、サンタバージョンのプレミアムカードをゲットするタイミングがズレるかもしれんしな」
自分に対してヒドイ言い様である。

気付くと、ゴミ捨て場の前に来ていた。約1年後、ここでボヤ騒ぎが起きる。
ゴミ捨て場のわきに、アルミの空バケツが転がっていた。もともと消火用水だったのかもしれない。
班目はバケツに水を注いで水道のそばに置いた。
「ここに水があれば、ボヤ騒ぎの時にちょっとは役に立つかもしれん」

あの時の火の勢いは凄かった。このくらいの水は気休め程度だろう。
(でも、ウチの誰かが水をかける姿を、北川さんが目にしてくれたら、年末ペナルティのボランティアが軽減されて、冬コミぐらいは行けるんじゃないかなあ)
密かな期待を抱きつつ、班目は歩き去った。しかし……

我々は、このバケツを知っているッ!
いや、バケツの中の水を知っているッ!
咲が大野にブッカケたこの水をッ!

まさにこの水が、大野の風邪(その後のマスク愛用)のきっかけになってしまう……。なにしろバケツの水は1年間放置され、水は腐っ(以下略
そんなことは、燃え盛るゴミ捨て場の方だけを向いていた班目は知る由もなかったのだ。

ある意味、咲コスプレ実現の決定打でもあった。
班目グッジョブ。


話は遡るが……。班目(2005)が2002年にやってくる少し前に、もう1人、この時代に迷い込んだ人物がいた。
「これって、一体どうなってるんだべか?」筆頭を下ろし、度の厚いメガネを装着して「変装」した荻上だ。

荻上は班目と違って、部室内でパニックになることはなかった。もともと彼女は3年前の部室を知らない。
廊下で感じた強烈な違和感。そして部室内で目にする情報が全て「古い」ことから、状況を確認するために周囲を見て歩き、図書館の閲覧新聞で、今いる時代が、「2002年」であることを確信した。

ショックは大きい。だが、荻上の人並みはずれた妄想力は、自分の置かれた状況を、あたかも物語の設定を組み立てるかのように整理して対処をはじめた。
「あの猫背の男をもう一度みつけたら何か分かるかも?」
しかし、学内を歩いて顔を知られるのは後々マズイと感じた。すでに在籍ている現視研メンバーや、学部の講師に会うかもしれない。
荻上は化粧室に駆け込むと、髪を下ろしてコンタクトを外す。とっても都合よく持っていたメガネをかけた。

そして今、彼女は校内をさまよい歩いている。

歩きながら、(今ごろ、“自分”は何をやってたっけ……)と思い起こすが、ぶるるっと頭を振って忘れるよう努めた。彼女にとってある意味、過去は、地獄だ。
笹原と出会ったことで救われている自分であることを、心の中で反芻し、「帰らなきゃ!」とつぶやいた。
「そういや、平成14年っていったら、先輩方も在学中で、笹原さんや春日部先輩も1年生か……」
ちょっと見てみたいなと思い、口元がニヒヒ、とにやける。やがて、学内の長い廊下にさしかかった。

その向こうから、まさに1年生の笹原が歩いてきていることなど、ド近眼は気付く訳がなかった。
<つづく>


せんこくげんしけん予告
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心優しきオタクたち
彼ら 現代視覚文化研究会

最終回「私だけの十字架」にご期待ください!