いちばん美しい物語 【投稿日 2006/02/20】

カテゴリー-童話パロ


その日はオギーちゃんの誕生日の日でした。その女の子はオギーちゃんと呼
ばれていますが、もちろん、ほんとうの名前ではありません。その家の女の
子は、なぜかオギーちゃんと呼ばれるのです。その理由を知る人は家族にも
いません。お母さんも、お父さんも知りません。

家族やお友達、親しい人たちが集まって、オギーちゃんのお誕生日をお祝い
するために、『名付け親』のうちに集まりました。オギーちゃんはおばあち
ゃんからもらった服を着ています。おばあちゃんもそのお母さんからもらっ
たということです。『名付け親』はおばあちゃんのお母さんのお友達でした。

その日はオギーちゃんのために、たくさんの贈り物がテーブルに置かれてい
ました。そこにはオギーちゃんの大好きなマンガ本やイラスト本、絵本があ
りました。でもどんな物語よりもすばらしいものは誕生日を祝福してもらう
ことです。

「一日、一日、生きていくことがとても楽しいわ!」
オギーちゃんは言いました。

『名付け親』はそれを聞いて、これこそいちばん美しい物語だと言いました。


『名付け親』は楽しそうにはしゃいで飛び回るオギーちゃんを、古ぼけた丸
メガネの奥から、目を細めて、うれしそうに見つめました。でもオギーちゃ
んには不思議なくせがありました。お友達の男の子達が仲良くしていると、
ジーとそれを見て、顔を赤らめるのです。

『名付け親』が聞きました。
「オギーちゃん、何をお絵かきしているの?見せてくれる?」

「絶対見せてあげない!」
そう言って、オギーちゃんは筆のように束ねた髪をピョコピョコふりながら、
顔を赤らめて立ち去るのです。

『名付け親』はオギーちゃんのお友達にもプレゼントを用意してました。プ
ラモデル、新しいゲーム、『名付け親』の家には何でもありました。


「僕、このゲームよりおじいちゃんのお父さんが作ったプシュケーのレアゲ
ームがほしいや!」
と、女の子のように可愛らしい男の子が言いました。
男の子のお母さんは男の子を叱りました。その子のお母さんは『名付け親』
のとてもよく知っている人にそっくりでした。

もちろん、『名付け親』は何でも持ってます。本棚には名作アニメから名作
マンガまで、ずらりと並んでます。でも子供に見せられないものは、部屋の
奥に隠してます。さらにその奥には古ぼけた一枚の写真が誰の目にも触れず
に隠されています・・・。


暖炉のほのおにあたりながら、『名付け親』は言いました。
「ほのおが、わしのために、古い思い出を読んでくれる!」

オギーちゃんにもほのおの中に、いろいろなものが見える気がしました。

「このアニメや本の中には、世界で起こることのすべてが描かれているのだ
よ!」
そう言う『名付け親』の目は、よろこびに明るく輝きました。この目も、む
かし、若いころには、泣いたこともあるのです。

「だが・・・あれもまた、あれでよかったのだ・・・」
『名付け親』は続けました。
「あれは、神様が、ためされるときだった。あのころは、、なにもかもが、
灰色に見えたものだ・・・」
「ところが、いまは、わしのまわりにも、わしの心の中にも、お日様がかが
やいている。」

「一日、一日、生きていくことが、とっても楽しいわ!」
とオギーちゃんは言いました。

家中の人が同じことを言いました。そして『名付け親』もまた言いました。
『名付け親』はこの中で誰よりも長生きです。若いころの知り合いも、遠い
昔に、いなくなっていました。そして世の中のことを、誰よりも知っており、
いろいろな物語を知っていました。

その『名付け親』が、オギーちゃんの筆頭を、シビビと弾きながら、言いま
した。
「人生こそ、いちばん美しい物語だよ!」
最終更新:2006年02月25日 01:19