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卒業式前日・後編 【投稿日 2006/02/16】

卒業式シリーズ


 コン、コン。
「入るよー」
春日部さんの声だ。
ガチャリ。ドアが開き、笑顔で春日部さんが入ってくる。
「高坂待ったー?あれ、斑目?久しぶり。アンタまだ部室来てたの?」
「あ…ああ、うん」
動揺を隠せない斑目。
(何じゃ、このご都合主義な展開は!?)
驚いている横で、高坂はすっと席を立ち春日部さんに向かって言う。
「咲ちゃん、僕トイレ行ってくるね。ここで待っててくれる?」
「ん?わかった。待ってる」

 春日部さんと入れ替わりに部室を出る高坂。
机の上にカバンを置き、斑目の左の椅子に座る。
その間ずっと心臓バクバクの斑目。

「はー、明日で終わりだと思うと、この部屋に来れなくなるのも名残惜しい気がするね」
「………へーーー!春日部さんの口からそんな言葉が出るとはね!」
「何よ。似合わないって?何だかんだ言っても4年も出入りしてたわけだし、情が沸くのも当然じゃない?」
「ま、そうだな」
「だからあんたも未だにココ来るんでしょ?」
「あ、ああ、まあな」
…それだけじゃねーけど。

「でも春日部さん、高坂がいなかったらこんなに通わなかったっしょ?」
「そりゃ、そうだけどさ」


「…卒業しても高坂と仲良くやれよ」
「え?あんたらしくない言葉。どうしたの?」
「いやハハ…明日から会えなくなるし、感傷的になってんのかなー…」
「大げさねえ、一生会えなくなるわけじゃないし」
「…でももうあんまり来ねーだろ?」
「当たり前じゃん。誰かと違って忙しくなるからね」
「………」
「…? どうしたの。本当に変だよ」
「いや俺…春日部さんに言いたいことが」
「は?何、改まって。前フリ?ツッコんでやるから言ってみな」

「……………謝ろうと思って」
「え?」


 謝る?斑目は自分で言った言葉に驚いていた。
「俺、口悪いから色々嫌なこと言ったかなーって…特にあの、活動停止で、部室使用禁止になった時とか」
「うっ…思い出させんなよ」
「いやあの、あの時俺ちょっと言い過ぎたからさ」
「はぁ?何よ今さら。そんなこと気にしてたの?」

 あの時。
泣かせておいてただオロオロしていた自分と、フォローしてみせた高坂。
自分のふがいなさに改めてヘコんだ。

「俺、春日部さん好きだったのに、あんな言い方して…」
「え?」
「だから、その…悪かったなーと……」

最後の方は声が出なかった。


………言っちまった!!!
うわ、顔が上げられねえ…

「………へっ?え!?」
驚く声。春日部さんの顔がまともに見れない。

「え?あ、ああー…そんな気にしないでよ…ってそうじゃないか。え?
あんた私のこと好きだったの?」
「……………」
「……………」

 沈黙に耐え切れなくなり、斑目は勢いで喋りだした。
「………やーーーその、ねえ!それはいいんですよ!別に俺二人の邪魔したいとか思ってないし!
ただ単に、その…もう会えんからね…」
「………」
「…………いや、スマン…」


 言わなきゃ良かったかな…春日部さんを困らせるぐらいなら…

「…そんな、謝らないでよ。それにこっちも謝りたいことあるし」
「…へ?何を」
思わず顔を上げる。
「よく口ゲンカしたじゃん、オタクがどうこうって。…アレ、八つ当たりだったんだよね」
「…八つ当たり?」
「コーサカにはぶつけられない疑問とか苛立ちとか、全部アンタらにぶつけてたからさ。
…昨日、コーサカと初めて喧嘩したんだ。その時コーサカに言われたんだ。
やっと僕に向かって不満を言ってくれたね、って。
そう言われて、初めてそのことに気がついたんだ。
でもこれからもコーサカとやってく以上、それじゃいけないなあって。
…だからまぁ、アンタには迷惑かけたかな、って」
「いや別に迷惑じゃねーし。口ゲンカもある意味楽しかったしな」
「アハハ、そうだね」


「まーお互い様ってことで、気にすんな」
「………その、気づかなくて悪かったね…」
「へっ!?いや、それもまあ、気にすんな!!」
「…悪い気はしないかな?アンタに言われるなら」
「え!?いや、は、ハハハハ…」
「あははは…」
二人して照れ笑い。

「……まぁ俺、良かったよ。春日部さん好きになって」
さらっと言ったつもりだったが、ふと見た春日部さんの顔がみるみる赤くなっていく。
「…へ?」
うつむいてしまった春日部さんを見て何事かととまどう。


 その時、ポン、と春日部さんの手が斑目の左肩に乗る。
思わずビクッとする。

「……こんな風にしか言えないけどさ。ゴメン」
下を向きながら申し訳なさそうに笑う。
肩に乗った手はすぐに離れた。

一瞬の温もり。余韻。


触れたい…

唐突にそう思った。
抑えていた感情が一気に膨れ上がる。


 ブルルルルルッ   ブルルルルルッ

突然くぐもった音が響き、二人はビクッとする。

「……あ」
 春日部さんは、机の上に置いたカバンの中から携帯を取り出す。
「コーサカからメール…」
「あ?あーー、そう」
『コーサカ』の名前に、一瞬後ろめたいものを感じる。
しかしさっきから、何でこんなにタイミング良く…

「そういや、トイレ行くって出て行ったきり戻ってきてないな」
「あっ…そだね」
「………高坂、何て?」
「校門で待ってるから、話が終わったら降りてきてね、って」


 春日部さんは慌てて立ち上がる。
「じゃ、ゴメン、私行くわ」
「ん」
「今日、話できて良かったよ。…明日の卒業式には顔出すんでしょ?」
「おう、そのつもりだけど」
「…じゃ!また明日!」
「ん、じゃあな」

 バタン。ドアが閉まる。早足で遠ざかる足音。

 しばらくの間呆けていた。
さっき一瞬だけ、肩に手を置かれたときの感触を思い出す。
俺あの時なんて思った?思い出して赤面する。体中が熱くなる。

(…引かれなかったな。高坂の言うとおり)
深い安堵のため息をつく。
そして気づいた。心がすごく軽くなっていることを。


 校門の外にいるコーサカを見つけ、早足で歩いていた咲は走り出した。
「おかえり」
「へ?」
おかえり?コーサカの言葉の真意がわからずとまどう。
二人はゆっくりと歩き出した。

「…あの、さっきのメール…話が終わったらってあったけど、ドアの外で聞いてたの?」
「うん、というか知ってたんだ。斑目さんの気持ち」
「えっ、そうなの!?………あれ?…今日呼び出したのって…」

 何やら考え始めた咲が気づく前に、コーサカは答える。
「僕ね、斑目さんにきっぱり諦めてもらおうと思ったんだ」
「え…」
「咲ちゃんのことを」


「………なんかコーサカらしくないね」
「そう?僕は僕だよ。自分のしたいように行動しただけ」
「だからって、なんで斑目に告白…?」
「そしたら、咲ちゃんがスッパリ振ってくれると思ったから!」
「…………………」
「ん?」
「…コーサカも、ヤキモチ焼くこととかあんの?」
「あるよ」
コーサカはいつもの笑顔で即答する。
「…へえ、コーサカがねえ…」
ふだん分かりにくいコーサカの感情を垣間見れたことに、喜びがこみあげてくる。
「コーサカ」
「ん?」
「私のこと好き?」
「好きだよ、咲ちゃん」

自然に手をつなぐ二人。
それ以上何も言わず、二人はゆっくりと歩いていった。