第七話・密林の戦い(後編) 【投稿日 2006/02/15】

第801小隊シリーズ


前回のあらすじ。
「敵新型兵器の行方を捜索せよ!」
指令を受けた第801小隊は、
すでに皇国軍が撤退したはずの密林を突き進む。
川のほとりで食事をし、束の間の休息を楽しむ面々。
しかし、そのとき敵の接近を告げる警報が・・・。
ゲリラ戦法を得意とする敵軍は、密林へと小隊を誘う。
先走ったササハラが一人密林へと突撃し、
システムを起動させ二機までは撃破するが、
三機目に攻撃を仕掛けたところで罠にはまる。
動かなくなった機体。迫る敵機。
「う、動け!動けーーーーーーーーーーーーーー!!」
密林に、ササハラの叫びがこだました。

ザクのヒートホークがコクピットに狙いを定める。
「うわーーーーーーーーーーー!!」
動かない機体をそれでも必死に動かそうとするササハラ。
叫び声が悲痛なものになっていた。
振り下ろされるヒートホーク。
ジャラララララララララ・・・・・。
その刹那、鎖のようなものが伸びる音がした。
ブヅン!
何かが千切れるような音がした後、
ササハラは機体の右手だけが自由になったのが分かる。
「うわああああああ!!」
元々振りかぶっていた右手が、そのままヒートホークの軌道に移動する。
グシャ!
右手が切り落とされたのがわかる。しかし、機体そのものは大きな損傷は無い。
「はあ、はあ。」
しかし、いまだ動けないのに変わりは無い。
他の三肢は固定されたままなのだから。
目の前のザクは何かが起こったことをわかっているようだが、
当面はササハラを撃墜することにしたようで、
再びヒートホークを構え、攻撃を仕掛けてくる。
ドゥン!
ビームライフルの射撃音が響くと、ザクの上半身を貫いていた。
両肩を損傷したようで、腕が機能不能になったようだ。
『大丈夫?ササハラ君!』
「はぁ、はぁ、うん・・・。今のコーサカ君が?」
『うん。ちょっとしたギミックでね。』
ジャララララ・・・・。
鎖が引きずられるような音がする。

ササハラの両端にいた二機のザクは、敵増援に気付き、
まず手負いのジムにマシンガンを構え、挟撃の形をとる。
「くっ!」
ザクの両手からワイヤーが離れたため、自由に動けるようになる。
しかし、多勢に無勢。しかも右腕は損傷している。
ドダダダダダダダダダダダ・・・。
ザクのマシンガンをかわそうとするも頭部センサーが破壊される。
ディスプレイから周囲の映像が途絶える。
「しまった!」
『もう少し耐えて!もうちょっとで到着する!
 混戦になってるからライフルじゃ狙えない!』
コーサカの声に、逃げ回るしかないと判断したササハラ。
しかし、センサーは利かない。
「くそ!」
ベキキッ!
コクピット前のハッチをはがし、ササハラは肉眼で周囲を把握しようとする。
二機のマシンガンは相変わらずジムを周到に狙う。
「くそ、くそ!」
情けない!
そんな感情を抱きつつも、必死に逃げ回るササハラ。
そこに、黒い影が一機のザクに接近していた。
『待たせたね!』
ビームサーベルを構えたコーサカのガンダム。
頭部を破壊し、武器を破壊。ザクはあっさりと沈黙した。
「コーサカ君!」
そのままコーサカのガンダムはもう一機のザクに狙いを定める。
腕を前方に伸ばすと、腕の上部からチェーンのようなものが飛び出す。
ジャララララララララ・・・。
チェーンは高速でザクの体を貫く。そのままチェーンを手繰るガンダム。
チェーンの先が広がり、抜けずに固定される。
そのまま引っ張られた15t以上あるはずのザクの機体が浮く。
ズシン・・・。
そのまま、動かなくなるザク。パイロットが気絶してしまったようだ。
『・・・大丈夫?』
「・・・うん。すごいね。そんな武器持ってたんだ。」
とりあえず周囲に敵がいなくなったようで、一息つく二人。
チェーンをザクから抜いて、巻き戻すコーサカのガンダム。
この間もジムのプレジデント・システムはスイッチオンのままだった。
あまりに必死で、情報が入ってたのかどうかもササハラは覚えてはいなかったが。
『・・・大丈夫ですか?』
心配そうな会長の声が響く。
「・・・はい。またよろしくお願いしますね・・・。」
『・・・はい。ではまた。』
そういいながらスイッチを切ったササハラは少し自嘲めいた笑みを浮かべる。
『これ、実は僕が設計したんだ。工作用MSを参考にしてね。』
「・・・へぇ・・・。」
『だから、他にもいろいろ仕込んでるんだ。
 どこに何があるかは多分僕しか把握し切れてない。』
コーサカが自機の説明をはじめるも、ササハラは気もそぞろ。
『そういう意味で、僕はこいつをガンダム・クラフトって名づけたけどね。』
「ふーん・・・。あ、そうだ、他の皆は?」
『大丈夫、無事だよ。ササハラ君のおかげで敵の統率が乱れたようだから。』

「うおら!」
マダラメのザクがヒートホークを振り下ろす。
しかし、敵ザクには避けられてしまう。
「なにぃ!?接近戦で俺と戦おうってかぁ!?」
かち合うヒートホーク。鍔迫り合いの様になる。
「ヒヒヒ・・・。やるじゃねえか。」
思いのほか得意の接近戦で均衡しているため、軽い口を叩かないと気が紛れない。
「く、こいつ・・・、本当にやるな!」
力の均衡が続く。少し静けさが広がる・・・。
ガサッ!
そこに現れたのは敵増援のザク。
「ま、マジか?」
マダラメがあせったため、力の均衡が破れる。
「うおっつ!」
間一髪振り下ろされたヒートホークをかわすが、かすり傷を負う。
「二人の戦いに水をさすのは野暮ってもんじゃねえかぁ?」
とは言いつつも、戦場では数が強力な武器であることも理解している。
地面に突き刺さる敵のヒートホーク。
もう一機のザクは見た目が両方ともザクのため、
その上暗い夜の密林のためにどちらが友軍機なのかを見分けられない様子だ。
「うおら!」
その隙を見逃さず、腕を切り落とすマダラメ。
両腕をもがれたザクは、体を持ち上げ、体をぶつけてこようとする。
その間に、もう一体のザクは、識別信号で敵を判断したようだ。
マダラメに向けてマシンガンを向けるザク。
ズダダダダダダダダダダ・・・!
「うお・・・!」
かわすマダラメ。その銃撃が腕なしザクに当たる・・・!
「・・・馬鹿野郎!味方に誤爆覚悟で撃つんじゃねえ!!」
マシンガンに蜂の巣にされたザクは、沈黙した。
言い知れぬ怒りを込めてマダラメは残ったザクに襲い掛かる。
「・・・味方殺してどうすんだよ!」
ヒートホークを振りかざし、マシンガンをかいくぐる。
ズダダダダダダダダダダ・・・!
むこうも必死なのだろう。ひたすらマシンガンを連射してくる。
「おらあ!」
接近し、ヒートホークが当たる距離まで来ると、
マダラメはまず拳で相手のバランスを崩す。
動きが鈍る。相手パイロットに直接のダメージを与えたのだ。
そのまま、敵機を抱え投げ飛ばす。
ズシン・・・。
生えていた木に背中からぶつかるザク。
パイロットの意識が飛んだようだ。ザクが機能を停止する。
「・・・はあ・・・。」
気分が悪くなる。味方殺し。
「うう・・・。」
吐き気がこみ上げる。ザクのコクピットのハッチをすぐに開ける。
周囲に敵がいないことを確認してから、コクピットから出るマダラメ。
「う、うげえええ・・・。」
思いっきり先ほど食べたものを吐き出すマダラメ。
「はあ、はあ・・・。いまだに・・・。ダメだな・・・。」
そういいながら口を拭い、空を見上げる。
高い木がうっそうと茂っているため、空は見えない。
まるで、自分には見せてくれないかのように。
「・・・宇宙は・・・遠いな・・・。」

「ほおおおおおおお!」
奇声を発しながらクチキがジムキャノンの砲を敵に向けながら発射する。
ドオン!ドオン!
240mmの砲弾が敵ザクに襲い掛かる。が、見事にかわされる。
「な、なんですと!」
クチキはあせりながら次の攻撃を準備する。
しかし、その間も敵はクチキに向かってマシンガンを放ってくる。
「ひょおおおおおお!!!」
再び奇声を発しながらかわすクチキ。
まるで軟体生物のような動きでかわしまくる。
これによって逆にあせったのは敵機のほう。
マシンガンを捨てて、ヒートホークを持ち、接近戦を仕掛けてくる。
「ひほ!?」
接近武器を通常装備していないジムキャノンは、
接近されると頭部バルカン以外に武器は無い。
クチキもそれは理解しているので、接近してくるザクに対して240mm砲を放つ。
ドオン!ドオン!
一発がザクの腕に命中するも、武器を持っているほうではない。
「ひゃあああああああ!!!」
接近され、頭部バルカンを放つも、相手の頭部センサーを破壊するにとどまる。
そのまま振り下ろされるヒートホーク。
ドオーン!
響く大きな砲弾の音。
その砲弾は見事にザクに命中していた。
『だ、大丈夫か、クッチー・・・。』
「は、は、助かったであります!」
クチキがその音の元を見ると、クガヤマのガンタンクⅡが、
少しはなれたところでその砲身をこちらに向けてたたずんでいた。

「あ、後二機かな・・・。」
今までの連絡の内容を聞いている限り、残り敵機数は2。
『そうでありますね・・・。』
その瞬間。二機のザクがクガヤマの上方から落下してきた。
木によじ登って好機を狙っていたのだろう。それほど太い木がここにはある。
「な、なんだって!」
『ひいいい!!!!』
驚愕するクガヤマ、叫ぶクチキ。
接近戦能力の皆無なガンタンクⅡには、この距離は危険だ。
叫びながらもクチキは援護のために砲身をザクに向ける。
クガヤマもキャタピラを動かし牽制をしようとするが、
場所が密林なだけに、うまく動けない。
キュルルルルルル!メキメキメキ!
木を踏むキャタピラの音が響く。
ザクはその間もクガヤマ機に向かいヒートホークで襲い掛かる。
ドオン!ドオン!クチキの砲弾が一機のザクに命中する。
うまく急所に当たったのか、機能が停止される。
しかし、もう一方のザクはヒートホークを振り下ろした。
「う、うわ・・・。」
衝撃がクガヤマに伝わる。どうやら右腕を破壊されたようだ。
「く、くっ・・・。」
なんとか距離をとり、ミサイルランチャーを飛ばせる射程に持ってくる。
残った左腕から発射されるミサイル。三連装だ。
ドンドドン!
命中するミサイル。しかし、機能を停止するには至らない。
ボロボロになった機体で接近してくるザク。
「ぐ、せ、せめて両手あったら・・・。や、やばい!」
ズガシ!衝撃音が聞こえたかと思うと、停止しているザク。
『ふう・・・、間に合ったようだな。』
そこにはヒートホークを構えた赤いカラーリングのザク。
すなわちマダラメが到着していた。

「よ~し、生き残った敵兵はこれで全員だな。」
翌朝。後ろ手を縛った敵兵を集め、河原に集める隊員たち。
「・・・こ、今回もここで放置?」
「まあな。あと二時間もしたらほどけるようにしたからな。
 後は自分らで何とかしてもらわにゃ。」
ふふん、とマダラメが笑う。
「いつもこんなことしてんだ。大変だね。」
「でもま、殺すわけにもいかんでしょ、ほっとくわけにもいかんし。」
「まあね。かなり見直したよ、あんたらのこと。」
サキがにこりと笑って、マダラメに言う。
「・・・あはは。今まではダメだったわけね・・・。」
「いままで接してきた軍人が軍人だったからねえ。」
そこに、相手MSの回収をしていたタナカがやってくる。
「回収、終了したぞ。今回は大漁だな。」
「へへ。使えそうなパーツはありそうか?」
「まあ、今回の修理分にはなるだろう。
 特にササハラのがひどいからな。ジム用に調整せんとね。」
そのササハラはというと、回収作業を手伝いながら、
どこか気が抜けたような顔をしていた。
「・・・そうだな。あと、ガンタンクⅡの腕は?」
「あれは、元がほとんど残ってるからすぐ治る。
 すぐ直らんのはジムだけだ。」
そういいながら苦笑いするタナカ。
「まあ、よほどの戦いだったんだな。」
「・・・ササハラがつっこまにゃ、劣勢だったとは思うがな。
 しかし、アレじゃ死ににいくようなもんだ。」
すこし顔を強張らせてマダラメはササハラのほうへ向かった。
「・・・ササハラ。」
「・・・あ、はい!」
マダラメの声がかかるまで、接近に気がつかなかったササハラ。
先日の疲労もあるのだろう。ものすごく眠そうである。
「・・・わかってるな?」
「・・・覚悟は出来ています。」
そういいながら河原のほうへ出てくる二人。
その雰囲気に周りの注目が集まる。
「な、何が始まるんですか?」
心配そうな声を上げ、オーノに質問するオギウエ。
「・・・軍隊式のけじめですよ。」
そういって、少し怒った表情を見せるオーノ。
その表情に緊張するオギウエ。
「修正だ!いくぞ!」
「はい!」
バキッ!
二人の叫び声の後、マダラメは思いっきりササハラの顔を殴った。
「えっ・・・!」
その光景に両手で口を覆い顔を強張らせるオギウエ。
「な、なんで!」
「・・・命令違反ですから。
 それに、命を捨てに行くような戦い方はマダラメさんの一番嫌いな事なんです。」
そういって真剣な面持ちでオーノは二人を見つめる。
「ササハラさんも、覚悟はしてたみたいですね。」
オーノの表情が少し緩む。
「・・・軍隊ってまったく・・・。殴りゃいいってもんじゃないでしょうに・・・。」
サキがあきれたような表情でその光景を見る。
「サキちゃん、アレは重要なことなんだよ。」
「・・・なんで?」
コーサカの言葉に不思議そうな表情をするサキ。
「軍隊って言うのはね、統率が乱れることが一番危険なんだ。
 ササハラ君の行動は結果的にはOKだったけど、
 命令違反は命令違反だ。そこはケジメつけないとね。
 隊、ってものに纏まりがなくなっちゃうから。」
「ふー・・・ん。」
「へー、やっぱりコーサカさんは物知りですねーv」
「だあ、離れろ!」
「あいた!」
ここぞとばかりにコーサカに接近するケーコにサキはチョップを加えた。
「ありがとうございました!」
完全にはれた顔で、ササハラはマダラメに敬礼をする。
「・・・マジで勘弁しろよ。あまり好きじゃねえの知ってるだろ?修正。
 まあ、結果オーライだったけどよ。死にに行くような真似はするんじゃねえ。
 それに・・・。お前一人で戦ってるわけじゃねえんだからよ。」
そういって強張っていた顔を緩ませ、にやりと笑うマダラメ。
「・・・はい!」
ササハラはその言葉に思う。
(何を思い上がってたんだろう。一人でやらなきゃって思い込んでたけど・・・。
 俺にはまだそんな力は無い。システムに頼り切って強くなった気分でいたけど・・・。
 頼り切ったらダメなんだ。俺自身が強くならなきゃ。
 それに・・・。皆もいる。そうだ・・・。皆で戦ってるんだ!)
「だ、大丈夫ですか・・・?」
オギウエが早速ぬれたタオルを持ってきてササハラに渡す。
「あはは・・・。ありがとう。まあ、自業自得なんだけどね・・・。」
それを受け取って、頬に当てるササハラ。
「で、でも・・・。頑張ったのに・・・。」
「んー・・・。それでも、ここはひとつの隊だからさ。
 それを乱したらいけないんだよ。」
「そうですね・・・。それに、絶対に死なないで下さい。」
その言葉に、ドキッとするササハラ。
「え・・・?」
「私を守るっていってくれましたけど、死んでしまったらダメです。
 それだけは・・・。私、許しませんから。」
先ほどオーノから聞いた話からササハラの行動がどんなものかを知り、
泣きそうな表情で話すオギウエに、自分の愚かさを知る。
(そっか。俺が死んだら悲しむ人達がいる。
 ・・・考えたことが無かった。俺も、昔悲しんだ一人なのに。)
「ありがとう・・・。」
「・・・いえ・・・。」
二人に優しい風が吹く。
「おーい、そろそろ行くぞー。」
タナカが叫ぶ。
「あ、はーい。いこうか、オギウエさん。」
「・・・はい!」
二人は母船に向かって駆け出した。


次回予告
タナカ達がジムの修理に追われる中、
オギウエは洗濯物の中から、ロケットタイプのペンダントを見つける。
一方、ササハラもそれをなくしたことに気付き、探し始める。

次回、「ペンダント」
お楽しみに。
最終更新:2006年02月16日 00:08