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卒業式前日・前編 【投稿日 2006/02/14】

卒業式シリーズ


 「こんばんはーーーーー!!」
突然笑顔で現れた高坂に、斑目は度肝を抜かれた。

 最近斑目は昼休みには部室に顔を出さず、会社が終わってから夜に来るようになっていた。
昼間に来れないのには理由があった。
笹原は卒業を目前に控え、あまり大学には来なくなっていたが、たまに部室で顔をあわせると必ず荻上さんと一緒に来る。
二人は付き合っているのだから当然なのだが、そこに自分もいるとどう考えても邪魔者、というか疎外感を感じるので、昼休みに部室に寄りづらくなったのだ。

 それで今は会社帰りに寄っているのだった。未だに部室に来るのを止められないのが悲しい。
何故かまっすぐ家に帰る気にはなれないのだった。


(明日は笹原たちの卒業式だ。高坂も、…春日部さんも)

これを機に部室に寄るのは終わりにしようと決めた。
…だから、せめて明日までは、ここに来ようと思ったのだ。
何をするわけでもないが、会社では広げられないエロゲー雑誌を読んだり部室にしか置いてないゲームをやったりして、小一時間ほどで帰る。
(俺は何やってんだろな)
自分でももうよく分からなくなっている。

(…なんだか最近心が重い。何をやっていても楽しくない。
でも、それを誰かに吐き出すことも出来ないまま、今日まで来てしまった。
だれも来ない部室で、いったい何がしたいんだろう。
…ま、それも明日までなんだが。)


そこへ、高坂がいつもの満面の笑みで現れたので、それはもうびっくりしたのだった。

「…やあ高坂君、久しぶり」
「お久しぶりですー」
言いながら高坂はカバンを下ろし、一番奥の席(会長席)に座っている斑目の右の椅子に座る。
「…今日はどうしたん?あ、荷物取りに来たとか?」
「いえ、荷物はないですけど、なんとなくです」
「ふーん?」
「ちょっと時間があいたし、部室に来てみたくなって」


「そっか。明日で卒業だしな」
「ええ。…やっぱり寂しいもんですね」
「ふむ。まー卒業した後でも来るやつはいるけどな、俺とか(苦笑)」
「僕も来たいんですけどね、ここ居心地いいし。でも、仕事先がけっこう遠いんで。まぁ長期休暇が取れるんで、その時には顔出しに
来ますけど」
「へえ、そんなのあんの?」
「その代わり納期前は数ヶ月休みなしとかですから」
「うわ、キッツイなー。家にも帰れないとか?」
「ええ、実際すでにやりましたしね。夏に仕事入ったときに泊まりこみしたんで」
「あーあー!合宿のときか!
…じゃあ仕事始めたら、春日部さんとあんまり会えなくなるんじゃないか?」
「そうですね…」


 高坂は言葉を止め、少し考え込んだ。
彼なりに思うところがあるようだ。

「斑目さん」
「うん?」
「咲ちゃんのこと好きですよね?」
「ぶっ!!!」

 高坂のあまりに突然な問いかけに、斑目は思わず噴いた。

「え…は?な………………えええええ!?」
「すいません、いきなり聞いたりして」
「は???え??何で知って…じゃなくて!何が?ええ!????」
パニックになり、ごまかすこともできない。
「…なんとなく、そうかなって思ってました」


(他の部員には気づかれてないのに、何で高坂は気づいてんだ!?)
焦った頭で考えてみてもさっぱり分からない。

「実は僕、斑目さんが、咲ちゃんのコスプレしたときの写真を買ったことを知ってたんです」
「ええ!?」
「斑目さんがあの後カメコに写真を頼んでいる所を聞いてしまって。…聞く気はなかったんですが」
「ああ…そうなんだ…」
今まで他の部員が気づいてないのを考えると、高坂は誰にもそれを言ってなかったのだろう。


「でも確信したのは、斑目さんの家にみんなで行ったときです」
「うっ」
…あの時のことか。
「あのとき斑目さんが必死に引き出しを守ろうとしたんで、コスプレ写真が入ってるのかと思って咲ちゃんを止めたんです」
「………………」

 『きっと本当に見ないほうがいいと思うんだ』

高坂の言葉を思い出す。
確かに、春日部さんに写真のことがばれたら顔あわせづらくなってたと思うが。
…あのときにはもう、冗談やごまかしで流せる程度の気持ちじゃなかった。

 そうか。だからあの時、久我山や田中の家では止めなかった春日部さんの行動を止めに入ったのか。
「でも、出てきたのはSMのDVDだった。
それで咲ちゃんのことが好きなんだってわかったんです。」


「…何で?普通それで結びつかねーじゃん…」
「だってあれ、本当の『最後の砦』じゃないですよね」
「うぐっ!」
「一番隠したいものがあんなに見つけやすいところにあるのは変だし、何より見つかった後の斑目さんの反応が、なんだかホッとし
ているように見えたので」
「うーわーバレバレ…」
「だから、そこまでして隠し通したいんだな、って。本当に、咲ちゃんのことが好きなんだろうなあと」
「も、もう…、その辺でヤメテ…」

斑目は顔から火を噴きそうなほど、恥ずかしかった。
(バレてたのか…いや、写真を買ったことを知ってたんなら当然か…)
高坂の率直すぎる言葉に面食らいながら、もう認めざるを得ないと腹をくくる。


「…春日部さんには黙っててくれな。頼むから」
「…それでいいんですか?」
「え?」
「僕は言いません。でも斑目さんは言わなくていいんですか?」

斑目は驚いて高坂を見る。
高坂の顔からは何の表情も読み取れない。

「いや言っても仕方ねーし…だいたい春日部さんは」
「咲ちゃんじゃなくて斑目さんの気持ちですよ」
「そんなこと言って、引かれてもヤだしよ…」
「斑目さん」
高坂は斑目の言葉を遮って言う。

「僕は咲ちゃんを信頼してるんです」


「…………はい?」
高坂の言葉がよく分からずとまどう。
かまわず高坂は言葉を続ける。

「だからこそ、エロゲー会社に就職することを決められたし、咲ちゃんも折れてくれましたしね」
「…でもお前、春日部さんはすごく悩んだと思うぞ」
「…分かってます。でもそれは、咲ちゃんが乗り越える問題ですから」

 高坂の言葉に再び驚く斑目。
こんな突き放した言い方をするとは思わなかった。


「僕は咲ちゃんのやり方を否定しないし、咲ちゃんに好きなものを強要しない。
だから咲ちゃんにもそうであって欲しいんです。」
「……それはお前のエゴじゃないか?」

 それは高坂の我が儘だ。
さすがにムッとした斑目は、それを隠そうともせずに言った。

「そうですね。でもそれが僕ですから」
「…春日部さんだってそんなに強いわけじゃねぇだろ」
「そうですね。でも僕は咲ちゃんが好きだから、信じたいんです」
高坂はきっぱりと言い切った。


「それが僕の気持ちです」
「…それ、春日部さんにいってやれよ」
「ええ、昨日言いましたから」
「…ああ、そうかい」
斑目はもう苦笑いするしかなかった。春日部さんも大変だな。

「…で?俺にも言えと?春日部さんに」
高坂は黙ってこっちを見ている。表情が読めない。
「…言っていいのか?彼氏としてどうよ?…その、万が一にも…」
絶対にないと自分でもわかってて、こんなことを言ってるのが空しい。
「僕は咲ちゃんを信じてますから」
高坂は再び繰り返した。
「………そうか、わかった」
これ以上何も聞くことはない。

(言うなら明日しかないか…今晩で覚悟決めるか…) 


 高坂はジーパンのポケットから携帯をとりだして時間を見る。
「もうすぐかなぁ」
「…ん?何が」
「もうすぐ咲ちゃんがここにくるんですよ」
「はいぃ!?」
「あ、メールきた。今、校門の前まで来たそうです」
「えっ、ちょお、待て、え!???」
「今日僕がここ来るって言ったら、咲ちゃんも来たいって言ってたので」
(何コレ?ドッキリ?
いやいやいや、高坂はそんな冗談をやる奴じゃねーし。
というかいつも全開で本気だ。
えっじゃあマジ?え?もうすぐ来るって???)

 部室の外からかすかに足音が聞こえ、だんだん近づいてドアの前で止まる。

「…咲ちゃんは引いたりしませんよ」
「えっ!?」
聞き返そうとしたとき、ドアをノックする音が聞こえた。

                             前編 END




後編予告:斑目と春日部さんが…