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その七 合宿その後 【投稿日 2006/02/12】

カテゴリー-4月号予想


(あやしい)
大野はあごに手をあてながら思う。合宿直後、けっこういいムードになっていた笹原と荻上。
しかし、今の二人はと言うと、
荻上をちらちらと見ながら漫画を読む笹原
笹原を意識的に無視してイラストを描く荻上
という、まるで夏コミ前の様子だった。

「いったいどうしたんでしょうね?あの二人」
大野の突然の囁きに驚きながら、咲は読んでいた漫画から目線を上げて二人を見て、囁き返す。
「あんなもんだろ、あの二人なら。いきなりベタつきだしたらその方が変だって」
「でも…」
「なら直接聞いてみれば?」
「そうですね…」

「ねえ、荻上さん?これから時間あいてます?」
(決断早っ!)咲の驚きをよそに荻上に話し掛ける。
「あいてますけど」「じゃあ大事な話があるので来てもらえます?」「ここじゃできないんですか?」
「はい、できません」「…いったい何をたくらんで…」「いやですねえ、そんなことしませんよ?」
あとはいつもどおり。押せ押せに荻上は屈し、気が付けば大野の部屋に連れ込まれていた。

テーブルで向かい合う二人。その前にはなぜか缶ビール。
「なんでビールなんですか?」
「あれ?ワインとかのほうが良かったですか?」
「そうじゃなくて!」
「まあまあ、そう言わずに…はい、ちゃんと持って…かんぱーい!!…ノリが悪いですよ、荻上さん」
「帰ります」
「そういわず一口でも飲んでいってください~。口を開けちゃっているんですから~」
すでに二本目を開けている大野にあきれながら、口をつける。

「あ、おいしい」
「そうでしょ~、某所の地ビールなんですけど…」
大野の満面の笑みに押されながら、もう一口。
「これはどうです?」「こっちは?」「こういうのもあるんですけど」

気が付けば回りは空き缶が多数転がり、据わった目の荻上が大野の作った水割りをなめている状況
だった。
「…それで、笹原さんをうちに呼んだんです」
「ほうほう、それで?」
一方、大野は顔こそ赤くしているが、ほとんど変化が無い。
「…最初に中学の頃に作ったやつを見せたんです…捨てたくても捨てられなかった、あの…」
「それで?」
内罰モードに入りかける荻上を引き戻す。
「…受け入れて、くれました。…それで、今まで書き溜めた分を見せる事にしたんです…」

「…最初は笑って見てました…でも、だんだん真顔になってきて…怖くて、見ていられなくなって…」
「…部屋を出ようとしたんです…そしたら手をつかまれて…最後までいてくれ、って…」
「…ずいぶん長い間かかったと…最後の一冊を読み終わって、笹原さんが言ったんです…」
水割りをなめながら、荻上の独白は続く。
大野は内容よりも、どんどん濃い水割りを要求する荻上の体の方が心配になってきた。

「…笹原さんは言ったんです…『うん、読んだ。それで?』って…酷いと思いません!?こっちが聞きたいのに!!…」
「…そしたら、笹原さんは…『俺だって荻上さんでいやらしい妄想をしたことある。最低だと思う。』」
「…『でも、妄想は誰にも止められないし…俺と荻上さんの違いは、それを表現する能力があるか、無いかでしかなくて…ああ、くそ。そんな事を言いたいんじゃなくて』…」
「…『俺は、こんな妄想をして、絵に描いてしまう、荻上さんが、好きです』…」
「…そう言ってくれたんです…」
「よかったじゃないですか!」

大野は心からの祝福を送る。ついでに笹原の評価を少し上げた。
棚からとっておきのブランデーを引っ張り出すと、新たなグラスに注ぐ。
「それでなんて答えたんです?」
「…私も笹原さんが好きだ、って…」
「それで?」
「…そしたら、笹原さんが夏コミで見せたような、本当にうれしそうな顔をして…」
「ほうほう?」
「…私を…抱きしめて…くれたんです…」

「それからどうしたの?」
(いくら酔っていたとしても、ここまでばらされた以上最後まで聞く義務がある。理論武装終了)
大野の追及は続く。
「…そしたら、押し倒されて…」「ベッドに?」「…いえ、床に…」「なんて大胆な!」「…体ぶつけたらしくて、痛かったし、重かったし…驚いたし、怖かったけど…少し嬉しくて…」「ほほう!」
ひたすら盛り上がる大野。しかし荻上はじっとグラスを見つめている。持つ手にも力が入りだす。
「…じっと目を閉じて待ってたんです…でも、何もされなくて…不安になって目を開けたら…」
「目を開けたら?」
さすがに大野も変化に気がつく。荻上のグラスの酒に波紋が起こる。押し寄せる不安。
「…笹原さん…寝てました…」

(あ の ヘ タ レ が ~ ! ! !)
大野の心に馬鹿な上官の所為で作戦を台無しにされた某指揮官の叫びに似た声が響き渡る。
笹原の評価は地に落ちた。地に落ち、踏みにじられ、消し飛ばされた。
「え~と、荻上さん?」
心の中で笹原を虐殺しながら、話し掛ける。
「…あの日、私は、年末並みの大掃除をして…三回もシャワーあびて…秘蔵の下着なんかつけて…服なんか半日もかけて選んだんですよ?…化粧だってしたのに…」
「あの~、荻上さ~ん」
「…ぐーすかぐーすか、人の上で…寝顔はかわいかったけど…違うさ!!」
「荻上さん!」
大野の声に荻上は顔を上げる。目線が大野の顔から下がって止まる。胸だった。
「んなに、おらにおんなのみりょぐがねえがーーーー!!!」
立ち上がって叫ぶと、一息にグラスをあおる。そして…ばったりと倒れたのだった。

その後。
大野は荻上を吐かせた後、服を脱がして洗濯機にいれ、丁寧に体を拭き、田中謹製の「蓮子ちゃんパジャマ」を着せると、ダブルのベッドに寝せた。
まだ怒っているのか、それとも苦しいのか、荻上の眉間にしわがよっている。
その隣に入り頭をなでてやる。次第にこわばりもきえ、穏やかな寝息を立てだした。
(全く、手のかかる人ですねえ)
まどろみのなかで思う。いつの間にか自分の腕をだいて寝ている荻上に微笑む。
(いずれにせよ、笹原さんにはお仕置きが必要ですね)
一瞬邪悪な笑みを浮かべると、大野も眠りに落ちた。

おまけ。
①【荻上入室禁止】と書かれた張り紙のされた現視研部室。
②大野の説教。(無音)
③恵子のあざけりと、咲の忠告。(無音)
④部室の床に正座している笹原。「わかりましたか?」「はい」という応答
 モノローグで「なんで?」