※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

嬉し涙 【投稿日 2006/02/11】

カテゴリー-笹荻


嬉し涙(笹荻成立後。トラウマ克服後の話)

笹原が部室に顔を出すと、春日部さんがいた。
「よー!笹原。」
「やあ、高坂君は?」
「ん、今日はなんか会社から呼び出しかかったらしくて。もう帰っちゃったよ。」
「そうなんだ。」
(…用がないのに部室に来るなんて、春日部さんも変わったなあ…)
「…で、どうよ?荻上とは。仲良くやっちゃってんの?」
「ハハ…まあ…」
「うわそのデレデレ顔。ムカつくー!!」
最近春日部さんに会うたびに言われる。
嫌味だなあと思っていたが、最近高坂君がずっと忙しくてかまってくれないのが、きっとさみしいんだなと気づいた。
…荻上さんと付き合うようになってからだ。こんなことに気づくようになったのは。

「でも…」
笹原の顔が少し曇る。
「ん?どしたの?」
「…荻上さんが…よく泣くんだ。」
「…アンタ、無神経なこと言ってんじゃないでしょうね」
「…そんなことしてないと思うんだけど…。ただ普通にご飯食べてて『おいしいね』とか話してる時に涙ぐんだりするんだ」
「へえ?何で泣くんだろね」
「わからない。僕も理由聞くんだけど、『何でもないです』っていうばっかで…」
「ふーん…気になるね。」
春日部さんは、からかいはしても、荻上のことを人一倍心配している。
「でも俺、気づかないうちになんかしたのかも…よかったら春日部さんも聞いてみてくれないかな?」
「わかった。」


「…て、笹原がいってたんだけどさ」
「……」
またからかわれるのかと身構えていた荻上は、心配そうに荻上を見る春日部さんに、むしろ動揺していた。
「笹原が心配してたけど…『俺なんかしたのかな』って」
「笹原さんは悪くないです!」
荻上はショックだった。また私、笹原さんに心配かけて…
「…じゃあ、なんで?」
「……」
荻上は恥ずかしそうに横を向く。
「…嬉し涙なんデス」
「へ?」
「ああ幸せだなって実感したときに、つい…」
「あー、何だ、そうなんだ。良かった!」
「…え?」
「いやまた一人で悪いほうへ悩んでるんかと思ってさ。…それならそうと、笹原にいってやんなよ。安心させてやりな」
春日部さんは安心したように笑う。この人も、何故こんなに心配してくれるのだろう、そう思うとまた泣きそうになった。


「…嬉し涙…」
「…だから、笹原さんは悪くないデス」
荻上の部屋で、笹原は荻上に話を聞いた。
「ん、そっか。安心したよ。…荻上さんって意外と感激屋?」
「そ、そんなことないと思いますけど。ただ嬉しくて。笹原さんといられることが」
「……」
(荻上さん…それだけで嬉し泣きしてくれるんだ…)
笹原は胸が熱くなった。

抱きしめたくなった。……でも急にそんなことしたら怖がられるかもしれない。そう思うとできなかった。
今まで何度そう思ったろう。付き合って2週間たつが、未だにこんなんだ。我ながら情けない。
(…手つなぐくらいなら)
そう思って荻上さんの横に寄り、手をつないだ。
何とかして今の気持ちを態度で表したかった。


笹原が近くに寄ってきたのでどきっとした。
気づいたら手をつながれていた。
(………笹原先輩の手、あったかい)
つながれたほうの手に目が行く。
すると笹原と目が合いそうになり、恥ずかしくて思わず下を向く。
視界の端のほうに笹原のあごや口元がみえる。

(……キスってどんな感じなんだろ)
ふと思った。思ってすぐに赤面する。
(うわーーーーーー!!私何考えてんだァ!?いや別にそんなこと思ったわげでねくて…って誰に言い訳してんだ私!!)
顔がどんどんほてっていくのが分かる。


(荻上さん嫌がってないな、良かった……ん?)
ふと荻上さんの顔を見ると、真っ赤になってきつく目をとじたままうつむいている。
「お、荻上さんどうしたの?あ、手つなぐの嫌だった?」
慌てて手を離そうとするが、逆に手をつかまれる。
「いや違うっす…嫌じゃありません!大丈夫です!」
予想外の行動にでる荻上に、笹原はびっくりする。
そしてだんだん嬉しさがこみあげてくる。
「…ほ、ほんとに大丈夫?…どうかした?」
変わらず真っ赤になって目を合わせない荻上を見て、心配になる。
「何でもありません!」
「…言ってくれないとわからないよ」
荻上は焦る。(い、言えねーーーーーーー!!)
「…ほ、ほっといてください!」


(…しまった…)
またやってしまった。またキツい言い方してしまった。
沈黙の中で、荻上は後悔にかられ、うなだれる。
(私はいつもこうだ。変なプライドが邪魔して頑なに拒絶する。)

現視研にくる前を思い出す。孤立しがちな荻上に、手をさしのべてくれる人は何人もいた。
だがいつも頑なに拒んできた。拒まれた側は、ある人は傷ついた顔をし、ある人は怒りに顔を歪め、ある人は誰よりも冷たくなった。
仕方がないと思っていた。私はどうしてもきつい言い方しかできない。変えられないのだと。
(でも)
また泣きそうになる。
(好きな人にさえ、こんな風にしか言えないのか私は)


(…いや、だめだ。こんなんじゃ)
荻上はぐっと涙をこらえる。
(私は変わらないと。そうじゃないと笹原さんに申し訳ない)
暗いほうにばかり傾いていた気持ちに歯止めがかかる。
笹原さんが、まだ手をつないだままでいてくれるから。

「…さ、笹原さん……」
「落ち着いた?」
笹原は荻上のほうを向く。いつもと変わらぬ笑顔。
ああもう、この人は本当に………
「…あの、私、その…ごめんなさ…」
動揺して言葉が紡げない。
「荻上さん、ごめん」
「えっ?」
何が?と思った瞬間、笹原の顔が近づいてきた。


「ーーーーーーっ!」
真っ赤になってうつむく荻上を、笹原が抱きしめた。
(………へ?)
「いや…その、泣きそうになってる荻上さん見てたらつい…」
言い訳しながら抱きしめる笹原の言葉が直接頭に響いてくる。
(なんか………すごく安心する)
「だ、だから…急に、ごめん」
「言わなくていいですよ」
「え?」
「何も言わなくていいです…」
荻上の体からどんどん力が抜けていく。笹原にもたれるように体重をあずける。
(伝わってるかな、私の気持ち…)


荻上の強ばっていた体から力が抜けていくのを感じ、笹原は心底ほっとした。
(…嫌がってないってことかな。というか、甘えられてる…?)
くすぐったいような気分になる。
(こんな簡単なことだったんだな…。勇気出して良かった)
こんなことで、荻上さんを安心させられるんだ。

しばらくして笹原は体を離した。
「ふう…なんか満足した。ありがとう」
「え…」
「ん?」
「いえ…」
荻上はまた何か言いたそうな顔をして横を向く。


「何?言ってみてよ」
「言いません」
「言わなきゃわかんないよ」
「察してください」
「そんな、ニュータイプじゃないんだし…あ、もしかしてもうちょっと抱きしめて欲しかった…とか?」
「えっいや、そうでなくてあの…………何でもないデス」
(さっき考えたことは、まだ秘密にしておこう…)
「ええーーーー?」
子供のようにがっかりした声を出す笹原に、少しおかしくなって噴き出す。
「ふふっ…」
なぜ笑うんだろう?と思ったが、つられて笹原も笑う。
「あはは…」
ふと見ると、また荻上さんは涙ぐんでいる。
「…嬉し泣き?」
思わず聞くと荻上さんは頷いた。
「そうデス」
         END