第五話・女スパイ潜入 【投稿日 2006/02/10】

第801小隊シリーズ


「はいはい、分かってますって。」
そういって私は通信機の電源を切る。
「ったく、一回聞きゃわかるっつ~の。馬鹿じゃないんだから。」
そうぼやいてみるが、クライアントに直接文句が言えるわけはない。
「しかしまあ・・・。とんでもない秘境だね。」
周りに広がるジャングルを見つめて、またボヤキがもれてしまう。
「もうちょっとでつくはずだね。まあ、楽な仕事だし。
 とっとと済ませてこんなとこおさらばしよ。
 うーん、早くお金もらって買い物したいなー。」
私はジープの速度を上げ、目的の場所へ急ぐ。
場所は、B-801地区、連盟軍第801小隊の基地だ。
仕事の内容は、中の詳しい情報と、人員について調査し伝えること。


「ああ、君が今度配属されることになった情報処理担当だね。」
「はい、そうです。よろしくお願いします。」
なんか軍人ぽくないヒョロっとしたおっさん・・・、
って言うかあなた年齢よく分からないんですけど・・・。
ここの大隊長って言う人に挨拶。スパイは初印象が大事だしね。
「最近ここらも物騒なことがあってね。
 今のところ何も起きてないんだけど、まあ、いざって時の人員補強だ。
 普段はのんびりしてるといい。」
「はい。」
ふーん。物騒なことね。
まあ、よくわかんないけど、それに関係あるのかな、今回の仕事は。
「では、みなにも紹介しよう。」
「いえ、自分で挨拶に回ってきます。」
まずはこの基地の中を一人で見て回らなきゃ。
ふふふ。私こう見えても凄腕スパイなんだから。
まずは情報。それが大事よね。
「ああ、そう。でも、勝手なことはしないようにね。」
「へ?」
その言葉に正直ドキッとする。真剣な目でこちらを見る大隊長。
ま、まさか私の正体が・・・。
「勝手にご飯食べたりすると、怒られちゃうから。気をつけてね。」
「は?はあ。わ、分かりました。」
びびらせるなっつーの!ご飯!?食うかっつーの!
こいつぼけてんじゃないの!?
・・・まあ、いいか。とりあえず基地を見て回ろう。

取り合えず廊下に出て、今もらった地図をみる。
うわ~、小さ~。これでマジで基地?
なんか小さな民宿みたいな大きさじゃん。
とりあえず、隊員の個室エリアからかな・・・。挨拶もしといたほうがいいしね。
印象一つで仕事のやりやすさも違うし~。
・・・結構ストレス溜まんだけどね~。
私はすたすたそっちのほうに進んでいく。
2分もするとそのエリア・・・、
っていっても何か境があるわけじゃないんだけど。
まあ、それについたわけ。
「・・・お前誰だ?」
ビクッ!
後ろから声をかけられて振り向くと、そこには眼鏡の男。
「え・・・っと、今日から配属になりましたケーコ・ササハラ二等兵です!」
本名は名乗ることにいつもしている。
私はいざというとき偽名に反応できないからだ。
・・・私の唯一といっていい弱点だ。
・・・・・・他にはないからね!
「おう。そうか。おれはマダラメ。中尉で一応小隊長なんつーもんをやってる。
 ほかの連中はここにはいねえから、挨拶行くなら他いきな。って・・・ササハラ?」
え?隊長さんなんか聞いたことあるよーな顔してるけど・・・。
もしかして私の名前って知れ渡ってる?やば、スパイってバレちまうじゃんかー!
「は、はい!分かりました!またあとで!」
急いでそこから離れる私。
「お、おい・・・。」
変に思われたかもしれないけど、ここでばれたらかなわないし!
とりあえず駆け足で他の場所へと向かうことにする。

「ふう・・・。何とかごまかせたかな・・・。」
そういって私は食堂の近くに通りかかる。
「ねえ・・・。今日はいいんでしょう・・・?」
「うん。」
ん?女の声と男の声だ。
なんか言葉の響きが妖しいので、食堂を覗いてみる。
ああああ!いい男!
「じゃあ、今日はゆっくりしてようよ~。」
「えー。僕医務室に行きたいんだけど・・・。」
「またMS話しにいくの~。たまにはかまってよ~。」
なんだ・・・。女がいるのか・・・。チィ!
でも、私の魅力があれば落とすことも難しくはないよね~。
フフフ。仕事以上に頑張らなきゃね。
「おい・・・。」
ビクッ!
声がかかって後ろを振り向くと、そこには小隊長さん・・・。
「シーッ!」
隊長さんに声を出さないように伝えた後、私は中を見るように合図を送る。
声出されたら覗き見してたことばれちゃうじゃん!
「何だっていうんだよ・・・。うあ!」
思わず声を上げてしまった隊長さん。な、何かあったのかな?
そう思って私も中を覗き見る。
「うわ・・・。」
中では先ほどの男女が濃厚なキスシーンの真っ只中だった。
こりゃ声も出るわ・・・。
「おい・・・。こんなもん見せてどうしようってんだよ・・・。」
あ、やばい。隊長さん怒ってる?
怒ったような口調で私に問いかけてくる。
「いや、なんていいますか・・・。」
「・・・まあ、いいか。もう終わったようだし、行くぞ。」
「は、はい。」

食堂の中に入った隊長さんが二人に紹介をしてくれた。
「えー、今度配属されたケーコ・ササハラ二等兵だ。」
「へー。よろしく。」
「仕事的にはカスカベさんの同僚になるから、よろしく。」
「はいはい、わかったよ。」
この女・・・。出来る・・・。
遠目じゃ分かんなかったけど、近いとオーラっての感じるのよね。
むう・・・。無理かな・・・。
「よろしくね、ケーコちゃん。僕はコーサカ。」
「コーサカさんって言うんですか~。よろしくお願いします~。」
いや!諦めるには惜しすぎる!
やっぱ男は顔だよね~。なんといってもさ~。
そう思いながら私はコーサカさんの手を握る。
スキンシップがまず落とすための第一歩だよね!
「こら、離れんか!」
カスカベさんが私の行動をやめさせようと手を離させる。
「あんた・・・。もしかしてとは思うけど・・・。」
「は、はい!?」
胡散臭そうな目で私を睨むカスカベさん。
やば!またばれそう?うそうそ!?
「よし、次いくぞ。次は医務室だ。」
ナーイス!隊長さん!いやー、空気読めない人って貴重だねー。
隊長さんはカスカベさんの言葉を聞かないで私を次へ案内しようとする。
「・・・はーい!」
隊長さんが外へ出て行くので、私は渡りに船とついていく。
でも、この人終始機嫌悪そうだったけど何でなんだろ・・・。

「だからさ、ジムの駆動系はそこが弱くてさ・・・。」
「い、いや、ドムもそうは変わらんでしょ。」
「なんといっても、駆動系はザクが一番であります!」
医務室の前を通りかかると、にぎやかな声が聞こえてきた。
「ったくあいつら・・・。」
隊長さんがぼやきながら中に入っていく。うるさくしてるのが気に食わないのかな?
結構厳しいんだね、この隊長さん。
「お~、マダラメきたか~。ってその子誰?」
「ん、あ~、新しく配属されたケーコ・ササハラ二等兵だ。」
「よろしくお願いします!」
ビシッと挨拶を決めて、とりあえず印象だけは確保!
「まあ、それはおいといてだ。」
あ、まさか怒るのかな?怒るとかそういうの嫌いなんだけどな~。
「なぜ俺を待っててくれね~んだよ~。」
はあ?
「すまんすまん。クチキが駆動系の話題を出してきたもんだから・・・。」
「だからよ、駆動系に関しちゃザクシリーズが最高、
 って言うのは俺とクッチーの共通見解でよ。」
「だがな、マダラメ。ドムの駆動系もまたいいぞ~。」
「い、いや、お、俺としてはジムを押すね。」
こいつら・・・。MSマニアか!
「あ、あの~。」
「おう、すまんな、後は勝手に回ってくれ!後二人だけだからよ。」
か、勝手な人~!もうなんかわけわからん話始めてるし~。
「うふふ・・・。ごめんなさいね。」
「あ、あの・・・。」
髪の長い女の人が一人話題にも入らずにニコニコしながら座っていた。
「いつもここで話てるんですよ、こんなこと。
 あ、私はオーノ。医務係です。よろしくお願いしますね。」
「は、はあ・・・。」
その笑顔に圧倒される私。こ、この人も出来るな・・・。油断ならないね・・・。
「残りのお二人はベランダのほうにいると思いますから」

オーノさんにいわれてあの妙な部屋からやってきたのはベランダ・・・。
ベランダって言っても屋根の上に張った板ってだけ。一応柵はあるけどね。
「ったく・・・。本当にボロだね・・・。」
その入り口に差し掛かると男女の声が聞こえてきた。
「いやー、いい天気だね。洗濯物もよく乾きそうだ。」
「そうですね・・・。」
ん??どこかで聞いたことある声だな?男のほう。
「よし、っと。これで最後だね。」
「はい。・・・でも別に手伝ってくれなくても良かったのに・・・。
 これはお世話になってる私の仕事ですから・・・。」
「いいのいいの。この量一人でやるのも大変だろうしさ。」
「・・・アリガトウゴザイマシタ。」
んんんん?やっぱり聞いたことあるぞ?そう思って、ベランダのほうを見てみると・・・。
「あ、兄貴!!!???」
私の驚いた声に反応してこちらを見る男・・・。その顔は紛れもなく・・・。
「け、ケーコ!お前なんでこんなところに・・・!」
「そりゃこっちの台詞だよ!」
やべーよ!やべーよ!仕事にきた場所に兄貴だって!?
「前会ったの1年前か・・・。何してたんだよ・・・。心配、一応したんだぞ・・・。」
「まあ、いろいろあってね・・・。今は軍人さん。」
「ふーん。お前がねえ。まあ、簡単に死ぬようなタイプだとは思ってないけどな。」
ひでー!相変わらず兄貴ひでー!
でも、兄貴がいると私の本性バレバレじゃん!印象とかどうでもよくなっちゃうじゃん!
「まあ、会えて嬉しくなくはないけどな。」
・・・私もね。
「じゃあ、一緒に戻ろうぜ。医務室にみんないるだろ?」
「うん・・・。さっき会った。」
「じゃ、いこうか。オギウエさんも。」
「・・・あ、は、はい。」
今まで私と兄貴の会話に戸惑ってたそのオギウエさん・・・。
その言葉に顔を赤くする。この二人、よもや?
兄貴、こんなとこで女手に入れるってどうよ?

「やーっぱりそうだったのかー。」
隊長さんが私が兄貴の妹だって聞いて納得したような声を出した。
「あのな、さっきも苗字聞いて、
 どこかで聞いたことあったなーって思ってたんだけどな。」
医務室に戻ってきたとき、コーサカさんとサキさんも集まっていた。
「あはは・・・。そうだったんですか。」
兄貴がその言葉に苦笑いする。
なんだよ・・・。あの時不思議そうな顔してたのってそういうことだったのかよ。
まったく・・・。逃げて損した・・・。
「まあ、そういうわけで、最強はザオニック系ってことで。」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」
兄貴がそこに食いつく。・・・おいおい。あんたもMSマニアになったのか。
前はそういうのあまり好きじゃなかったのに。
士官学校はいるのも人を助けたいからっていってたのにさ。
「だから、ジム系が一番いいって何度言えばいいんですか!」
「そ、そうだよな。サ、ササハラはいいこという。」
「いやいや、ドム。シィマッドの技術はもっと注目されてもいいんだよ。」
ああ~、もうわけわからん!
まあ、コーサカさんはこういうのには参加しない・・・。
「そうそう。シィマッドいいですよね~。僕としてもドムを押したい。」
ええええええええ!!!!!?????
コーサカさーん・・・。で、でも顔は良いし!
「まったくいつもの会話が始まりやがったね。」
カスカベさんがあきれたようにため息をつく。
「まあまあ、楽しそうだしいいじゃありませんかー。」
相変わらずニコニコのオーノさん。
「・・・まあ、それもそうですね・・・。」
オギウエって子もうらやましそうな目でやつらを見る。
「で、そうそう、兄貴、聞こうと思ってたんだけどさ。」
「なんだよ。」
「なんで子供が基地にいるの?」
「はあ?オギウエさんのことか?」
兄貴があきれたように私のほうを見る。
「そうそう。私より年下でしょ?」
「私はもう大人です!!!」
あ、やべ~。そうなんだ・・・。
オギウエさんはかなり怒った調子で私のほうを見る。
「お前の年より一つ上だよ・・・。」
兄貴があせったような顔で私に合図を送る。
あ や ま れ !
そういっているのが分かる。流石は兄妹だね!
・・・とかいってる場合じゃないか。
「すいませんでした~。」
「・・・まあ、いいですけど。」
つんとした表情でそっぽを向くオギウエさん。
心狭い人だね。それくらいでさ~。
「しかしま、そろそろ戦争終わるってのはいいニュースだよなー。」
ぼそり、と隊長さんがいった言葉に、みな笑顔を浮かべる。
「そうですねー。ようやくですもんね。」
「一つの戦争が一年近く続くっていうのは、
 今までの歴史の中でもそうないことらしいからな。」
兄貴も、タナカさんも、みな嬉しそうに戦争が終わることを語る。
・・・私は、戦争が終わるって事を考えたことがなかった。
「一応、われわれも終わらせるために奮闘してきたようなものですからね!」
「まあ、大した戦果があるわけじゃないけどな。」
クチキさんの発言に隊長さんがこたえ、それに皆が笑う。
「ま、まあ、ち、ちょっとくらい役にはたったんじゃない?」
「そうですね。そうだといいですよね。」
その言葉に、少し、自分の今までを思い返してしまった。

私は、何をしてきたんだろうか。
いたずらに戦渦を広げることを手助けしていたような気がする。
両親が戦争に巻き込まれて死んだ時、
兄貴は士官学校も卒業だから、そのまま軍隊に入ったのは知ってけど・・・。
私は親戚の家に預けられたけど、そこも戦火にまみれて・・・。
そのまま私は独りで生きることになった。
それで手っ取り早くお金を得るためにはじめたのがスパイだったんだけど・・・。
かなり割が良くて、この半年間結構楽しんできた。
あるときはお水になって連盟の交換から情報を引き出したり。
男と仕事のために寝たこともある。
他にも、いろいろ女の武器で切り抜けてきた。
顧客は大体が皇国軍。
それが、自分の国に対する反逆だって知ってはいたけど。
それ以外に私の生きる道はなかったから。
でも、私は正しかったのかな?
私が渡した情報のせいでまた私のようなのが生まれてるかもしれない。
・・・なんか難しくなってきたから、考えないほうがいいのかもしれない。
私は決して頭のいい子じゃない。それは分かってるから。

「ケーコ?どうかしたか?」
兄貴のその声にはっとする私。
「ん、いや。あ、そうだ!」
ちょっと思いついたことがあったので、発言してみよう。
「コーサカさん、戦争終わったらご一緒しません?
 いいお店知ってるんですよ~。」
「やっぱりか~!」
ゲシッ!
コーサカさんにむかっていった私の発言に、
カスカベさんは私にチョップをくれた。
「いった~、何すんのさ!」
「さっきも思ってたけど~。コーサカに気があるね!」
「何が悪いって言うのさ!」
なんだ~。この人のも違ってたのかよ~。
やっぱり私って名前まだ知れてないんだね・・・。
「今度コーサカに色目使ったらひどいよ~。」
「な、何するって言うのさ・・・。」
この人、目がマジだ。怖いよ~。兄貴助けて~。
私がヘルプのサインを兄貴に送る私。
帰ってきた兄貴のサインは・・・。
あ き ら め ろ
うあー、やっぱ役にたたねーこの兄貴!
「フフフ・・・。」
カスカベさんが笑う。・・・しかし諦められるか!
しょうがない。兄貴もいるし仕事は適当にやっとこう。
そこまで、私も職業意識が強いわけでもないし。
もう本性ばれちゃったみたいだからやりづらいしね!
こーなったらコーサカさん落とすことだけに専念してやる!

「・・・で、この報告書か。」
皇国軍のナカジマ基地である。
「はい。まあ、あまり腕は良いわけではなさそうですが・・・。」
「潜入できたのがこいつだけってことらしいな・・・。」
報告書を見ながらため息をつくナカジマ。
「人員・・・工作員を除いて9名か。あの規模にしては多いな。」
「・・・何か気になることでも?」
「もしかしたらとは思うのだがな・・・。潜入を続行させろ。」
ケーコのあげた報告書は基地の地図、人員の数とその役目が記入されていた。
名前は全て偽名になっている。彼女が「適当」にした部分だ。
「・・・私の推測があっているなら・・・。」
にやりとナカジマは笑った。

次回予告
上層部から第801小隊に指令がでた。
「敵新型兵器の場所を特定せよ!」
彼らは敵のいないはずの元皇国領を突き進む。
しかし、そこには皇国軍ゲリラの罠が・・・。

次回、「密林の戦い」
お楽しみに。
最終更新:2006年02月12日 04:08