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その五 決戦前夜【投稿日 2006/02/06】

カテゴリー-4月号予想


タイトルは実はハッタリで、物語は合宿翌日の9月12日、即ち笹原が荻上さんの部屋を訪れる日の、約束の時間の数時間前から始まる。

朝から荻上さんは忙しく立ち働いた。
年末の大掃除並みのレベルの掃除を行ない、念の為に簡単な料理の用意もした。
そして笹原に見せる例のものを整理した。
そしてこういう時にも関わらず、いやこういう時だからこそ身だしなみにも気合が入った。
まずひと通り準備が出来ると、風呂に入って体を清めた。
まさかそんなことが必要な展開にはならないだろうが、気持ちの問題で下着も新品を出し、服装も何時もよりはオシャレっぽい(だけど地味)ものにした。
化粧は迷ったが、結局いつも通りのスッピンにした。
(どのみち化粧するなら買いに行かねばならないし)
そして髪型は…いつも通りの筆にした。
この髪型は心もち顔の皮膚や筋肉が引っ張られる感じがするので、今日のような決戦の日にはピッタリなのだ。

約束の時間より2時間近くも前に呼び鈴がなった。
いくら何でも、こんなに早くは来ないだろう。
じゃあ誰だ?
怪訝に思いつつ、玄関の戸を開ける荻上さん。
扉の前に立っていたのは恵子だった。
恵子「(軽く手を上げ)ちゅーす」
某バスケ漫画のような挨拶をする恵子にあ然とする荻上さん。
恵子「ちょっと顔貸してくれる?」

2人は荻ルームの近所の喫茶店に入った。
コーヒーだけの荻上さんに対し、恵子はしっかりスパゲッティを頼んだ。
注文の品が届く前に、荻上さんの方から切り出した。
荻上「あの、本題に入っていただけませんか?(腕時計見つつ)もうすぐ…」
恵子「でーじょーぶだって。アニキ来る時間まで、まだ2時間はあんだろ」
荻上「何でそれ知ってるんですか?」
恵子「(あっさり)アニキの携帯見た」
荻上「(赤面)なっ、何てことするんですか!」
恵子「しゃーねーだろ。昨日帰りにアニキの部屋寄ったんだけど、あたし居ても携帯チラチラ見てるんだから。気になるだろ、普通」
荻上『そっか、笹原さんも落ち着かないんだ…』
恵子「それよりあんた、今日アニキにホモマンガ見せるんだろ?」
荻上「(赤面)なっ、何故それを!」
恵子「いや、昨日姉さんたちと話してるの立ち聞きしたから。ホモマンガってのはヤマカンだけど、当たっちゃった?」
赤面で俯く荻上さん。
恵子「それもひょっとしてアニキがネタのホモマンガ?」
最大赤面で俯く荻上さん。
恵子「やっぱそうか。中学ん時とおんなしことしちゃったわけだ」
席を立とうとする荻上さん。
その腕を掴む恵子。
恵子「ちょっと待てよ。あたしゃ別に責めてないから。それにまだ本題に入ってないし」
何時に無くマジ顔の恵子を見て、再び座る荻上さん。
恵子「そんで本題だけど…」
言いかけたところで注文の品が来た。
恵子「ちょっと待ってね。すぐ食べ終わるから」
そばかうどんを食べるように、皿に顔を寄せてズルズルとスパを食べる恵子。
早食い競争のような勢いで、あっという間に平らげた。
一方荻上さんはコーヒーに目もくれない。

恵子「ごめんね。マジ腹減ってたんだ。(ナプキンで口をぬぐい)そんで本題だけど、実は合宿に行く前の日、あんたのホモマンガ見たんだ」
荻上「えっ?」
恵子「まあ女のあたしが見る分には、なんつーか萌えーって感じだけど、男のアニキが見たら多分キモイと思うよ」
荻上「(怒って最大値で赤面)そっ、そんなことはあなたに言われるまでも無く分かってます!」
恵子「まあ落ち着きなよ。何も喧嘩売る積もりは無いんだから」
荻上「じゃあ何なんですか?」
恵子「あたしが確認したかったのは、あんたがそのことを自覚してるのかどうかなんだよ。まあ軽井沢ん時の話でそうだとは思ってたけど」
荻上「どういうことです?」
恵子「つまりさあ、あんた自身が他人が見たらキモイと分かってるもんアニキに見せる以上、アニキがキモイと思うことは許してやれって言いてーんだよ、あたしは」
荻上「…」
恵子「だってそうだろ?考えてもみろよ。そういう趣味の無い人間がホモマンガ見て気持ちいいわけねーだろ?」
荻上「…そうですね」
恵子「逆にアニキが、自分がネタのホモマンガ見て萌え萌えしてたらキモイだろ?」
荻上「それはそれで…(ワープしかけて我に返り)何でもねっす!」
恵子「アニキは多分キモイと思っても言わねーと思うし、それで逃げたりはしねーと思う。だけど顔には出るかもしれねー」
荻上「…」
恵子「そこであんたがキレたり逃げたりしたら、全てオジャンになっちまう。うちらが心配してるのはそこなんだよ」
荻上「うちら?」
恵子「春日部姉さんも大野さんも、あとの男連中もひっくるめてみんなだよ!」

いきなり頭を下げつつ、両手を合わせる恵子。
少したじろぐ荻上さん。
恵子「頼むよ。頼むからアニキのこと信じてやってよ。どんな反応しようと、アニキがあんたのこと好きな気持ちはぜってー変わんねーから。あたしが保証するよ」
荻上「保証?」
恵子「泊めてもらった時に聞いちゃったんだけど、アニキ寝言であんたのこと呼んでるんだよ。荻上さんって」
荻上「(最大赤面)えっ?」
恵子「そんだけ惚れてんだから、たとえあんたの趣味がどんなに悪くたって気持ちは変わんねーと思うよ」
しばし沈黙。
荻上「お兄さん思いなんですね」
恵子「(赤面し)そっ、そんなんじゃねーよ。たださあ、アニキが落ち込んでるとこ見たくねーんだよ。昔さあ、アニキが中学ん時ふられて凄く落ち込んだ時があったんだよ」
荻上「(驚いて)笹原さんが?」
恵子「まあそん時はあたしも小学生だったんで事情は知んなくて、後で付き合った彼氏がたまたまアニキの同級生だったんで分かったんだけどね」
荻上「…」
恵子「マジあん時のアニキの落ち込みようはひどかったよ。もうあんな姿は見たくないな」

荻上さんの手を両手で握る恵子。
ひるむ荻上さん。
恵子「アニキ幸せにしてくれよ、千佳姉さん」
荻上「姉さん?」
恵子「(腕時計を見て)おっとそろそろ時間だ。じゃ、あたし行くね。アニキには言わないでよね、あたし来たこと」
出て行く恵子。

荻上さんは恵子の言葉を反芻していた。
言われてみればその通りだ。
自分が自己嫌悪に陥るものを人に見せて平気でいてもらいたいと願うなんて、考えてみれば虫のいい話だ。
それを見てもなお隣に居てくれる、それでいいじゃないか、それ以上何を望む?
恵子に会ったことで、荻上さんの中にわだかまっていたものが解決したような気がした。
もう迷うことなく、部屋で笹原さんを待とう。
そう決心して荻上さんは、冷め切ったコーヒーを飲み干すと喫茶店を出ようとした。

「またやっちゃったか」
恵子は帰り道の途中で、自分の分を払ってないことに気が付いた。
「最近姉さんやアニキに奢ってもらってばっかだったから、クセになっちまってるなあ。まあいいか、千佳姉さんあとよろしく。そしてガンバ!」
1人つぶやく恵子だった。