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あやしい2人 【投稿日 2006/02/04】

カテゴリー-その他


笹荻無事成就してから2ヶ月ほど後のある日曜日、笹原と荻上さんは神田神保町の古書店街に出かけた。
2人のお目当ては、今度新たにオープンした同人ショップだ。
付き合い始めた頃は、待ち合わせの場所と時間を決め、各々1人で買い物していた2人だったが今ではすっかり打ち解け、それぞれの買い物にもう1人が連れ添う形になっていた。
もっとも目的の同人誌が見つかると、見つけた方も連れ添った方も赤面してるあたりは相変わらずだ。

その店は思ったよりも品揃えが良く、2人ともコミフェス並みの分量を買い込んだ。
2人が戦利品を背負って店の外に出ると、見慣れたひょろ長い男の姿があった。
朽木「おや、これは笹原先輩と荻チンじゃないですか」
2人は一瞬硬直したが、冷静に考えてみれば現視研公認のカップルである2人が慌てることもないことに気付き、多少ぎこちないが挨拶を交わした。
笹原「やあ、朽木君」
荻上「こっ、こんにちは」
朽木「お2人揃って、お買い物ですかな?」
笹原「うん、ここ新しくオープンしたんで様子見に来たんだけど…」
ここまで言いかけた時、クッチーの後方から声がかかった。
「朽木くーん、お待たせ!」
声の主は児童文学研究会(以下児文研)の会長(以下児会長)だった。

クッチーは去年の新人勧誘の一件以降、児文研の部室に出入りするようになった。
児文研の部室からだと現視研の部室の中がよく見えるからだ。
勧誘の一件以来大野さんや荻上さんと気まずくなり、なるべく2人きりにならないようにする為の、彼なりの気遣いだった。
児会長に正直に事情を話してお願いしたところ、クッチーが形だけでも児文研に入会することを条件に部室の使用を快諾したくれた。
(児文研もまた昨年は入会ゼロで存亡の危機に立たされていたのだ)
その後そのことが発覚し、却って大野さんたちの誤解を招いて危機に立たされたクッチーだったが、事情を説明してその危機を救ってくれたのが児会長だった。
(この辺りの詳しい事情はリレーSSのクッチーと児会長の項参照)

一宿一飯の恩義を忘れない男クッチーは、それ以来児会長を尊敬し崇拝するようになった。
珍獣として面白がっているのか、本質的にはいい奴だと見抜いているのか、児会長もクッチーのことを妙に気に入って何かと世話を焼いた。
先ずはこんなアドバイスをした。
児会長「あなたの言動は個性的ではたいへん面白いけど、普段はなるべく大人しく物静かにしていた方がいいと思うの」
朽木「やっぱりわたくしウザいですかね?」
児会長「そういうことじゃなくて、あなたの個性は非日常的なハレの場でこそ生きると思うのよ」
朽木「とおっしゃいますと?」
児会長「つまり現視研で言えば、コミフェスとか、学祭とか、コンパとか、そういう場にエネルギーを取っておいて、普段は出来るだけ自分を抑えるの」
さらに児会長は続けた。
児会長「刀というものは普段は鞘に仕舞っておかないと、いざという時に切れ味を発揮出来ないのよ。分かる?」
朽木「そうか!ギャグもそれと同じで、ここぞというところで言ってこそウケるんだ!分かりました、お師匠様!」
何時しかクッチーは児会長のことを「お師匠様」と呼ぶようになっていた。

次に児会長は、「この機会に、形だけでなく本格的に児童文学に親しんでみては」と様々な本を薦めた。
本のセレクトは、クッチーの趣味に合わせたのか最初は漫画やアニメやゲームのノベライズ版から始めて、次第に本格的なファンタジーや童話に移行していった。
最初はお師匠様からの課題図書という義務感から読み始めたクッチーだったが、次第に児童文学の面白さに目覚めてのめり込んでいった。

こうした児会長の教育により、クッチーのかつてのウザイ意味不明トークは、非日常的なイベントの場以外ではいつしか影を潜め、秋頃には無口な読書青年に変貌していた。
最近では部室で「銀河鉄道の夜」を黙々と読んでいて、咲ちゃんたちを「クッチーが宮沢賢治?」とドン引きさせたりしていた。

話を神保町の4人に戻そう。
笹荻のご両人は、今度こそ本格的に硬直した。
児会長「あら笹原君と荻上さん、お久しぶり」
荻上「こんにちは…」
笹原「ども、ご無沙汰してます」
児会長「今日はおデートかしら?」
笹原「まあ、そんなとこです」
赤面する笹荻。
児会長「よろしいですわね、お若い方は」
笹原「いやお若いって、歳そんなに変わんないですし…」
荻上「あの、会長さんと朽木先輩は…」
朽木「わたくしはお師匠様のお供だにょー」
笹荻「お師匠様?」
児会長「彼、私のことそう呼ぶのよ。大げさだから会長でいいって言ってるのに…」
朽木「何をおっしゃる!わたくしに人の道と児童文学の奥深さを教えて下さった方をお師匠様とお呼びするのは当然ですにょー」
児会長「(苦笑)ハイハイ」
笹原「それでその、お2人は今日は…」
児会長「時々この辺に買い物に来るんだけど、いつもたくさんまとめ買いしちゃうから重くってね、大抵は宅配便で家に送っちゃうんだけど…」
朽木「それを知ったわたくしが荷物係を志願した次第であります」
荻上「そんなに古書を?」
児会長「まあ児童文学系の原書とか買うこともあるけど、メインは矢倉書店よ」
笹原「矢倉書店って、ドラマや映画のシナリオのたくさん置いてあるあの矢倉書店ですか?」
朽木「お師匠様は院に上がられて児童文学の研究をお続けになる一方で、シナリオの執筆もなさっているのです。その為の勉強用の資料として、シナリオを多数買われるのです」
児会長「まあそういうこと」
笹荻「(尊敬)へー」

しばし歓談の後、児会長が切り出した。
児会長「さあさあ朽木君、何時までも若いお2人の邪魔しちゃ悪いわよ」
朽木「そうですな、後は若い方どうしで」
荻上「仲人さんじゃあるまいし」
笹原「ハハッ」
朽木「でもお師匠様、矢倉書店が開くにはまだ早いですな」
児会長「そうね。(同人ショップを見て)朽木君、ここ寄りたい?」
朽木「まあ寄りたくないことも無いですが、お師匠様は興味あるのですか?」
児会長「朽木君の話を聞く限りでは、なかなか面白そうな世界のようですね、同人誌って。ちょうどいい機会ですからヤオイというものを見てみましょう」
笹荻『(赤面し)会長がヤオイ?』
朽木「それならば解説はわたくしめにお任せ下さい。わたくし最近、ヤオイの道にも目覚めましたので」
笹荻『(最大赤面)クッチーがヤオイ?』
児会長「それは頼もしいわね。ぜひお願いするわ」
朽木「お任せ下さい。不肖朽木学、ループで鍛えた眼力でお師匠様にとっての直球ど真ん中の逸品を探し出してみせます」
児会長「それではお二方、わたしたちはこれで」
朽木「それでは朽木学、任務に戻ります」
笹荻のご両人は、同人ショップの店内に消えるあやしい2人を呆然と見送った。

咲「クッチーが彼女とデート?!!」
翌日、部室では咲ちゃんがサークル棟中に響き渡りそうな大声を上げた。
笹荻の2人には、別に昨日のクッチーのことを広める積もりも隠す積もりも無かった。
ただ昨日の笹荻デートの話からの流れでクッチーのことが出てきただけだった。
だが縁結びに異常な執念を燃やす見合い婆さんのDNAを21世紀に引き継ぐ咲ちゃんは、当然この話題に食い付いた。
笹原「いやまあ、まだデートと決まったわけじゃないし」
荻上「彼女と決まったわけでもないですから」
咲「いやそれって普通にデートだろ?なあ大野」
大野「うーん、どうでしょう…何か天変地異でも起きなきゃいいんですけど」
笹原「まさか…」
大野「いーや分かりませんよ。地震や台風は最近あったから…例えばこの冬例年に無い大雪が降って、この辺でも何十センチ単位で積もるとか…」
荻上「やめて下さい!ここらでそんなんになったら、豪雪地帯のうちの田舎だと死人が出ますよ!」
一瞬雪ん子オギーを思い浮かべてしまう笹原。
咲「でも言えてるかも。あたしの店の出資者の1人がデイトレで1発当てたここの学生なんだけど、株暴落したりして…」
咲ちゃんと大野さんの心配は、年末から年始にかけて的中してしまうがそれは後の話。
ちなみに斑目は我関せずと黙々と昼飯を食べていた。
そこへ入ってくるクッチー。
朽木「こにょにょちわー」
咲「(ニンマリと笑い)クッチーあんた、児文研の会長と付き合ってるってホント?」
朽木「何をおっしゃる!わたくしとお師匠様との関係は、そのような世俗的な男女の関係ではございませんぞ!」
咲「じゃああんたは会長の何なのよ?」
朽木「わたくしは、お師匠様が進む真理への道にお供する使徒に過ぎません!」

予想外の回答に戸惑う一同。
咲「じゃあさあ、その真理への道であんたら何やってんの?例えばこの間神田にいた日って他に何してたの?」
朽木「あの日は買い込んだ台本をお師匠様の家まで運んで、晩御飯をご馳走して頂きました」
大野「ご馳走って、それ会長さんの手料理ですか?」
朽木「ええ、お師匠様って料理も上手いんですよ」
しばし無言の咲ちゃんと大野さん。
咲「なあクッチー、会長と2人で会ってたのって昨日が初めて?」
朽木「最近は日曜や祭日のたびにお誘いがありますなあ」
咲「『お誘い?向こうからかよ!』それで誘われて何してたんだ?」
朽木「何とおっしゃられても…図書館や映画館に行くことが多いですな」
咲「2人で映画?」
朽木「お師匠様は脚本も執筆なさるので、その勉強の一環として映画をよく鑑賞なさるのです。それも古い映画がお好きなので名画座で見ることが多いです」
咲「映画の後は?」
朽木「映画の後は、いろんなとこに立ち寄りますよ」
咲「例えば?」
朽木「えーとこの間はレストランで食事、その前は酒飲みに行ったかな。お店はえーと確か…」
クッチーが名前を出した店を咲ちゃんも知っていた。
いい店だが高い店だ。
咲「それでお前ちゃんと金払ったのか?」
朽木「いえ、お師匠様ってけっこうお金持ちで、いつも奢って頂いてます」
咲・大野「……」
朽木「まあ奢ってもらってばかりでは心苦しいですから、せめてものお礼にわたくしもアキバを案内したり、アニメのビデオや漫画をお貸ししたりしてますがね」
突如部室に、甲高い笛の音に似た「ピピピピー!!」という音が3度響いた。
朽木「(携帯を出して)おっとお師匠様が呼んでる」
咲「マグマ大使かよ」
朽木「ではわたくしはこれで」

クッチーが部室を出た後も「第1回クッチーは児文研の会長と付き合っているのか会議」は続いた。
咲「映画に食事に酒に自宅に招待って、これってどう見てもデートだろ?」
大野「まあ後はピーがあるかどうかですね」
咲「あの2人のピーねえ…ちょっと想像しにくいな」
笹原「ハハッ」
荻上「それにしてもあの会長さん、朽木先輩のどこが気に入ったんですかね?」
一同「うーむ…?」
それまで黙々と昼飯を食べていた斑目が口を開いた。
斑目「あそこの会長って、確か俺が1年の時にはもう会長やってたな」
笹原「斑目さんが1年の時ですか?」
斑目「ああ、ドッキリに引っかかった後、初代会長から紹介された。(顔面蒼白で)あっ…」
咲「ん?どした?」
斑目「俺たちが1年の時って、ハラグーロが掛け持ちな関係もあって、ヤナ以外の漫研の会員もよくここに出入りしてたんだよ」
咲「?」
斑目「何かの話の流れで出た話なんでうろ覚えなんだけど、確かそん時3年生だった漫研の会長が言ってたんだよ」
咲「何を?」
斑目「児文研の会長って、漫研の会長が入学した頃から会長やってたって…」
部室に「ザワッ」という音が轟いた。
笹原「ちょ、ちょっと待って下さい」
大野「えーと、斑目さんが1年の時に3年生の人が1年の時に会長ということは…」
荻上「それじゃいったいあの会長さんっていくつ…」
咲「言うな!」
斑目の顔を見据える咲ちゃん。
咲「斑目、今の話忘れろ!(みんなに)私たちも、聞かなかったことにしよう!」