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もう一つの未来 【投稿日 2006/02/04】

カテゴリー-斑目せつねえ


「ムシャムシャ、ムグムグ・・・。」
合宿の次の日、斑目は一人現視研部室にいた。
社会人とはつらいもので、長期休暇をとった後は確実に仕事だ。
いっそのこと四連休にすればよかったのかもしれないが、
新人の斑目にそんな勇気はなかった。
別に誰も咎めはしなかっただろうが。
いつものペースで食事をしている。
「んぐ・・・、んぐ・・・。」
最後にお茶の一気飲み。
「ぷは~~~。」
誰もいない部室で、一人たたずむ斑目。
合鍵は相変わらず持っている。
誰もそのことを注意しては来ない。
(俺が悪いやつだったらどうするんだろうね・・・。)
信頼されているということなのだろうか。
はたまたそんな度胸はないと思われているのだろうか。
残っているお茶をすすりながら、ぼんやりと昨日までの事を考える。
今日は誰も来ないと考えていた。
今日ばかりはそれを望んで来ていた。
(流石にみんな疲れてるだろうからな・・・。)
一人に、少しなりたかった。

昨日までのことは大体聞いた。
まあ、オタクに似合わない恋愛模様だ。
正直、苦手だ。
笹原はいいやつだし、幸せになるならそれでいいと思う。
荻上さんも、一応後輩だし。
でも、驚いた。
笹原が・・・、告白だって?
・・・最初見たとき、情けないやつだと思っていた。
自分らのようにオープンになれないやつだったから。
だけど、入ってきてから変わった。
少しづつ開き直りっていうのかな?
堂々とし始めたなとはおもっていたんだ。
それがはっきり見えたのはあいつが会長就任してから。
最初は、驚きとともに成長したなとうれしく思った。
・・・今は、どっちかというとうらやましく思う。
だからといって嫌うかというとそういうのでもない。
柄にもなく合宿のとき応援しようかとも思ったし。
空気が悪くならないよう気も使ったし。
まあ、なんというか・・・。
追い抜かれたというか・・・。実は違う人種だったのかなって。

「はあ・・・。」
そこまで考えて、斑目はため息をつく。
「ま~~、そんなこと考えてもしょうがないんだけどさ。」
独り言をつぶやく。
自分がなんでいまだここに来ているのか。
それを考えるにいたり始めていた。
(まだ、会いたいのかね?俺は・・・。)
いつもいるわけでもないし、そんな会えるわけでもない。
しかし、確率で言えば、ここが一番高いわけで。
最初は職場に居場所がないって言う理由があった。
だが、だんだんとないわけでもなくなってきた。
徐々に打ち解け始める。人っていうのはそういうものだ。
(いつまで・・・。俺は・・・。)
もうすぐ、会えなくなるだろう。
それが、終わりなのかもしれない。
だが、これ以外の道を考えることは出来ない。
もう一歩を踏み出す勇気、それはないのだ。
(どうせ・・・。っていうのもあるしな。俺と笹原は状況が違う。)
あいつが俺の状況ならどうするだろうか?
一回聞いてみたいとも思った。
ほかの連中にも聞けるもんなら聞きたかった。
(まー、それも出来るわけがないけどな。)
少し皮肉めいた笑い方をする斑目。

ガチャ。
ドアが開く。誰かと思ったら。
「あれ?斑目じゃん。今日も来てたんだ。」
咲だ。斑目にとってはよりにもよっての相手。
「・・・ん、んー、ああ、まあ、仕事だしね・・・。」
「え~、こんな誰もきそうもない日に来なくてもいいのに・・・。」
「いや、まあ、ここがなんだかんだで一番落ち着くんですよ。」
「そりゃそうだろうけどさ・・・。いまだに合鍵持ってるんだ?」
そういいながら咲も椅子に座る。
「ん、まあね・・・。」
「ふーん。」
咲はノートパソコンを立ち上げ、何か作業を始めた。
「どうなの?お店のほうは順調?」
普段聞かないようなことを斑目は聞いてみた。
「ん?まあね~。あともうちょっとで目途が立つかな。」
「ふーん、そいつはよかったねえ・・・。」
少し皮肉が混じったような言い方。
こういう言い方しか出来ない自分が、斑目は嫌いだった。
「え、なに。うまくいかないとでも思ってた?」
「い、いや~、私にはその辺のことはよくわかりませんからねえ。」
そのニュアンスを悟られてしまい、とっさに取り繕おうとする。
「まあ、春日部さんならうまくいくのではないデスカネ?」
「う~ん、ほめ言葉として受け取っとこうかな?」

少しの間。咲が言葉を発した。
「相変わらずアニメみたり、ゲームやったりしてるの?」
「へ?・・・ん、まあね。そう変わらないかね・・・。」
なんでそんなことを聞かれているのかよくわからない斑目。
咲はそれにかまわず言葉を続ける。
「へえ。やっぱそういうの関係ないんだね、性格とかには。」
「は?」
「いやね、会った頃に比べて変わったじゃん、斑目さ。」
「変わった・・・?俺が・・・?」
意外なことを言われて、斑目は驚きで顔が変わる。
「なんか言葉一つ一つにとげあったしさー。」
「それはあなたもそうでしたよ?」
「あはは・・・。お互い様?でもね、今そうでもないでしょ。」
「自分ではよくわからんなあ・・・。」
「そういうもんかもね。私もよくわからないもん。」
少し、咲は笑う。
「丸くなった、っていうのかな?」
「そいつは・・・。ほめ言葉なんかね?」
「そりゃそうでしょ。話しやすくなったのは確かだよ。」
PCの画面から目を離さず、咲は話を続ける。
「ふーん、そりゃうれしいね・・・。」
「あら、何か気に障った?」
「春日部さんが俺をほめてくれるとは思わなかったからね。
 驚いたダケデスヨ?」
「あれ?今までほめたことなかったっけ?」
「ないね!一片もね!」
そういいながら笑う斑目。
「あら、そりゃごめんなさいね。」
咲もつられて笑う。
「でも、あんたも含めてここのやつらには感謝してるんだよ?
 あの高坂といまだ付き合ってられるのも、分ってきたからだと思うし。」
「分かってきた?」
「うん、ああいうのとの付き合い方。
 高坂優しいし、いろいろ気遣ってくれる部分はあるんどけどサ。
 ああいう関係のものになるとそっちに夢中でしょ?
 最初戸惑ってた部分もあるんだけどさ・・・。」
「あー・・・。」
高坂のことを語る咲はどことなく嬉しそう。
一応相槌は打つもののそれをみる斑目の胸中は穏やかではない。
「言葉で言ってくれない部分があるし、理解も不能なんだけどさ。
 まあ、ああいう趣味もあって、それに熱中する気持ちもあるんだなと。
 そういう点じゃあんたらのほうがわかりやすくてね。」
「ふーん。」
「そういうものも含めて付き合っていたいかといわれればそうだからさ。
 スルーする方向で行くほうがいいのかなってね。」
「まあ、そうだろうね。」
(付き合っていたい。やっぱりそうなんだな。)
最後の望みが立ち消えになったようで。かすかな望みが。
「だから、感謝してるわけ。」
「なるほどねえ。でも、理解は出来なんでしょ?」
「私の感性に合う部分も全く無いわけじゃないしね。
 そういうところは多少触れられてよかったかなっていうのもあるね。」
そういって少し作業をする手を休め、PCの上に手を出して、
指で小さいものをはさむようにする咲。
「こ~~~んくらいちょっとだけどね。」
「そんくらいでもたいした変化じゃんよ。」
そういってお互いに斑目と咲は笑う。
「ん、だからね。まあ、ここにいてよかった部分もあるってこと。」
「まー、そういっていただけると私としても嬉しいですケドネ。」
正直、つらくなってきた。
今日は、会いにこようと思ってたわけじゃなかった。
覚悟が出来てなかったといえばそれきりなのだが。
こういう会話を、あとどれだけ続けられるのか。
自分はこのままでいいのか。
葛藤が続く。
がたっ。
立ち上がって咲のほうを見る斑目。
「?なに?どうかした?」
ちょっと様子の違う斑目に、少し驚いた咲。
「あー・・・。そのさ。」
「?なに?」
「・・・も、もう帰るわ。」
「え?いつもより早くない?」
「そうでもないよ?もう昼休み終わりなんだ。それじゃあね。」
「ん、じゃあね。」
斑目はごみを持って外へ出て行く。
入れ替わりに大野が入ってきた。
「今、斑目さん出て行きましたか?」
「ん。昼休み終わるって。」
「え?ちょっと早くないですか?」
「んー、そうは思ったけどね。本人がそういうならそうなんでしょ?」
「まあ、そうですね。」
そういいながら、二人はいつもの会話に戻っていった。

帰りがけのコンビニでごみを捨てていくのが日課となっている。
コンビニのゴミ箱の前で少し立ち止まる。
(ん・・・。やっぱり無理だわ。)
笹原の行動に当てられて、考え込んでいた自分。
しかし、それは無理だ。やったところでどうなるもんでもない。
(まあ・・・。潮時かもしれんね・・・。)
もういい加減、あきらめようか。
あきらめるきっかけは何かないか、探していた部分はあった。
仕事場に行く道に進む斑目。
結局はいつもの自分でいる事を選ぶのだった。

次の日。どうやら二人はうまくいったようだ。
「まあ、なんだ、よかったじゃねえか。」
笹原はすげえな。正直思った。
朽木の持ってきたCDROMを持ちながら、
次の合宿の話題を聞き流す斑目。
(次は・・・。俺もいかねえかもな・・・。)
そして、自分の今後を考える。
(来年の俺は、何してるかな・・・?)