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ブラックアウト 【投稿日 2006/02/02】

カテゴリー-荻ちゅ関連


ここは東北、2000年の春。
中学校の廊下に貼られた紙に、生徒が群がっている。
中島「荻上ー、3年は一緒のクラスだねぇ」
荻上「えー、ほんとー?」
人だかりに入っていけなくて、少し離れた所に居た荻上は、後ろから突然
肩を抱かれたてたものの、同時に手の感触で同じ文芸部の中島だと気付いて、
特にびっくりしたり叫んだりすることも無かった。
中島「なんか文芸部が集まってるみたい。楽しい1年になりそうだぁ」
荻上「2年は私、一人だったからなァ」
中島「寂しかったよねー。カワイソ」
荻上「ん………」
中島「ま、荻上はうちの部の秘密兵器だからね!私としても、手元に置いておきたいわけよ!フフフフ…」
荻上「また悪の黒幕女ごっこ? でも私なんも出来ないしナァ…分厚い眼鏡だし」
中島「ま~たぁ!爆弾発言と絵、楽しみにしてるよ~、萌・え・る・の!」
荻上「………!!」
中島「それに眼鏡がいいんじゃないの。眼鏡っ子萌えが最新流行だべ」
そう言いながら、荻上の眼鏡を奪うと自分にかけてみる中島だった。
荻上は中島に眼鏡を抜かれる間は無抵抗だったわけだが…。
中島「うっわぁ、何だコレ、目ぇ痛てぇ」
荻上「け、けぇしてよー」
中島「あははは!ゴメンゴメン。じゃ、またあとで教室でね~」
眼鏡を荻上に手渡して去っていく中島を目で追い、しばし立ち呆ける荻上だった。
荻上『中島とかぁ。嬉しいな。私なんてちんちくりんで眼鏡で、人とも話せないし、文芸部なのに文もあんま上手くないし』
    『その点、中島は美人だし、優秀だし、頼れるし…。そこに痺れる!憧れるゥ!ってかぁ』
嬉しそうにニマっと笑うと、人が少なくなってきたクラス分け表の方に向かっていった。

まだ寒さの残る下校の道すがら、女生徒の一群は騒がしい。
藤本「今日の中島の新作、すごい良かった~。爽やかに萌えるというか。」
三編「主人と召使の関係かと思ったら熱い友情って設定が中世というかファンタジー?」
藤本「あれは題材アレでしょ、イギリスの……」
三編「指輪盟王物語ね~。今度、映画になるみたいよね~」
中島「まぁ私はもう2回読破してるけどね。で、今は荻上に貸してるんだけど」
荻上「………主人の方が攻めかと思ったら受け、というか主人公総受けだべ」
中島「うは!出た!荻上の審判が下ったべな(笑)」
藤本「うわー読んだの?あれ、1巻の途中で辞めちゃったよー。長そうだし面白くなってこないし」
中島「あれはね~、1巻過ぎると面白いんだよ。荻上は根性あるからね!」
荻上「はは………」
荻上『中島に借りて、読めなかったなんて言えないサァ』
三編「私は映画だけ見る~」
中島「もー文芸部らしくない発言だァ。世界の名作だよ?」
三編「中島先生には敵いませんわ~」
藤本「ところでさ、もう1ヶ月経つけど新しいクラスの男子、どう?カップリングできてねぇ?」
中島「あぁ、坊主(仮名)と巻田ねぇ。ずっとつるんでるよね」
三編「二人組みなら他にも居るけど」
中島「ははっ!それは――――」
荻上「……萌えるカップリングじゃないと認定できね」
中島「うん、鋭いね!そうなんだよねぇ。線が細いというか綺麗というか……」
三編「成績も優秀なんだべさ~」
藤本「お母さんが教育熱心で有名なんだよ!」
荻上「………」
藤本「巻田ってさ、荻上とずっとクラス一緒じゃねぇ?」

荻上「うん、そうだけんども……」
藤本「何かと近いでしょ。仲良く無いの?」
出席番号が、巻田は男子で最後、荻上は一番前なので、行事などの際には近くに居る事が多いはずだった。
三編「荻上ちゃんにもロマンスがっ!?」
荻上「ふへっ??そ、そんな……」
中島「やめなよー 荻上をからかうんじゃないの!私のなんだからね……なーんちゃって」
荻上は赤面して歩みを早めると、自転車にまたがった。別れ道に差し掛かったところだ。
藤本「じゃ、ばいばい」
荻上「んーー」
そうしてまた数日が過ぎる。



昼休みともなると、廊下で、運動場で、遊びまわる生徒が多い中…。
文芸部一派と一部の男子生徒インドア派は教室内に居た。
そこへ戻ってきた、荻上と巻田。
巻田「お疲れ様、次の実験が楽しみだよ」
荻上「え?そう――」
坊主「おかえり、理科係のご両人―――」
中島「オギウエー。早くこっち来なよ~」
荻上「え?何~?」
小走りに、女子の一群に向かう荻上を、苦笑交じりに眺める巻田と坊主だった。
中島はといえば、満足げな様子で荻上を迎え入れた。
見ると、三つ編みの子は中島の手によってウェーブがかったポニーテールに改造されている。
中島「こっち座りナよ」
荻上「ちょ、やめてよー」
中島「荻上ー、髪型そろそろ変えないの?」
荻上「えー」
中島「次の文芸部の本の表紙って何の絵にするのさー?」
荻上「それは………」
言いながらも、荻上は大人しく中島に髪を解かれているのだった。
無邪気にじゃれあう女生徒たち…といった風景に、周りの男子達も和んでいた。
しかし連れションの姿に噂を立てられているとは、男子中学生には思いもよらないのだった。



しかしそんな日々も変化を迎える。
夕方、神社にて――――。
巻田「呼び出しちゃったりして、ごめんね(苦笑)」
荻上「ううん」
荻上『え?え?なんで?ひょっとして?でもそんなわけないし』
巻田「その……つ……つき………」
荻上「…………」
荻上『つきあうって?いや、そんな、私の訳が無いじゃない?背が低くて、眼鏡で、地味で、暗くて――』
巻田「いや、うん……と、友達から…友達からでいいから、付き合って貰えないかな?」
荻上『うわーっ!?わ、私で良いの?えーーっ、でも…でも…巻田君なら……いいかな』
    『んだども、恥ずかしいべ……みんな、なんて言うか…私なんかに、か、彼氏が出来たら!?』
荻上「……し しばらくみんなに 黙ってんなら」
巻田「ほんと!?良かった~。ありがとう…」
荻上「ううん」
荻上『まだ、なんか信じらんね』

信じられなかったのも束の間。翌日から帰りの神社での逢瀬は日課となった。
巻田「それでね、昨日のNHKでやってたガイアに乾杯って番組で――」
荻上「へ~~~」
荻上『普通に男の子と話せてるっていうか、巻田君って穏やかで話し易いなぁ…』
巻田「荻上さん、今度、こないだ言ってたアレ持ってくるから貸してあげるよ」
荻上「え?ほんと?読んでみるわ~」
荻上『これが恋ってもんなのかな?ううん。解からない。けど……』
荻上「ありがとう、巻田君」
巻田「いいっていいって」
荻上「そうじゃなくって、ね」
巻田「うん?何が?」
荻上「ふふ、内緒(笑)」
はははと笑いあう二人だった――――。


しかし……。業の深さか、計略か。
遅い夕暮れ時のこと、ライトもつけず、スカートの捲くれも気にせず
自転車で疾走する女生徒の姿があった。荻上だ。
頭の中には、さっきまでの校長室での先生方の視線の刺さる感覚。
そして巻田の母の台詞が渦巻いていた。
「信じられない!こんな気持ち悪いものを…!」
「可哀そうにもう、寝込んで…部屋から出て来れないんですよ?」
「あなた恥ずかしく無いの?クラスメイトのこんな――」
「全く理解できないわ。なんでうちの子に近づいたの?」
「私はあなたのご両親に会いに行きますけど、絶対うちに来ないで下さいね」
「とにかくもう、このまま転校させますから」

自分の心もぐるぐると渦巻き始める。
『何が起こったの?』
『アーア、最悪ノ事態ダナ。自業自得ジャナイノ』
『これからどうしよう…どうしよう…』
『時間ガ戻レバ良イノニネ。りせっとぼたん探シタラ?』
『なんで巻田君に渡ったの?』
『ソリャ中島に渡シタンダカラ他ニ可能性ナイヨ』
『そんな、そんな、信じられない…信じてたのに…友達なのに…』
『ソーダソーダ、中島を憎メ。楽ニナルゾ』
『描いたのは私だ!なんで?なんで描いたの?私―――』
『自分モ楽シンデ描イタジャナイカ。何ヲ言ッテルンダ』
『そうだ何を言ってるんだ何を考えてるんだもう終わったんだ終わったんだ』
『終ワリジャナイヨ始マリダヨ』
『終わってるよ、明日からの事なんてもう終わってるよ!』
『自分ダケ苦シムノハ納得シテルノ?』
『あーもう!あーもう!あーもう!』

その時、神社の前を通りがかった。
思わず自転車を止める荻上。
自転車のスタンドも立てずに倒したまま、ヘルメットも被ったまま境内へ。
いつものように、そこに巻田が立って、待っている気がした。
頼りないような、ひたすらに優しい笑顔。
荻上「巻田君――」
薄暗い神社に自分の声だけが吸い込まれていく。
声に出してしまって激しく後悔した。
居るわけが無いのだ。
荻上『そうだ、もう二度と会えないんだ。巻田君は転校するんだ』
    『私のせいだ。私が傷つけて、私が裏切って、私が―――』
    『お母さんじゃなくて、巻田君に謝りたいっ………』
    『感謝していたのに、本当なのに』
    『もう会えないんだ』
よたよたと歩きながらいつも立っていた手水あたりまで来た。
先週までと同じ光景のはずなのに、何もかもが違っていた。
荻上「………ごめんなさい」
声に出してみた。
何の反応も無い。
しかし、荻上には声に出して、此処で、謝る。それしか出来なかった。
荻上「――ごめんなさい―――ごめんなさい―――ごめんなさい――」
全てを投げ出して倒れても、延々と、それだけを言い続けた。