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影踏み 【投稿日 2006/01/19】

カテゴリー-笹荻


初冬にさしかかろうという、ある乾燥した日の朝、笹原は唸りながら、目覚
めた。
笹「さむ!!むっ」
喉が痛い。頭痛もする。肩や足も筋肉痛がする。
(風邪か?昨日、ヒーターつけたまま、コタツでうたたねしちまったから
な・・・)
むくむくと布団からはい出し、四つんばいで、がさごそ部屋を漁り始めた。
(体温計・・・あれ、くそ!どこに片付けたっけ?めったに使わねーから
な・・・救急箱・・・。ああ、あったよ・・・はは、押入れのエロゲーの雑
誌の下敷きになってら・・・)
布団にごろんと横になり、体温計で体温を測り始めた。
(・・・38度2分・・・。けっこうあるな・・・)

笹原は布団にもぐりこみ、掛け布団に丸まった。
(寝てりゃ直るかな・・・どうせ講義も無いしな。風邪薬・・・ありゃ使用
期間過ぎてるよ!大丈夫か?)
笹原はそんなに頻繁に病気になる人間ではない。薬関係も大学入学時に購入
したきりだ。服用しても問題ないような気がしたが、不安になってやめた。
汗が止まらない。熱がさらに上がったようだ。

(・・・惠子・・・あいつ今日はどこだ?メールで・・・)
笹原はなれない手つきで、惠子にメールする。
「風邪ひいたみたいだ。動けない。風邪薬とか買ってきてくれ」
なかなか返事が返ってこない。じりじりと笹原は待つ。やっと返事がくる。
「兄貴 悪い 今横浜のダチの家に遊びにいってる 無理」
笹「くそ!」
笹原は携帯を壁に投げつけた。熱で気が立っている。八つ当たりすることで
は無い。最近、惠子もここには寄り付かなくなった。惠子なりに気を使って
いるのだ。しかたがないことだ・・・。
(荻上さん・・・)
荻上の顔が脳裏に浮かんだ。だがすぐにかぶりを振った。駄目だ。かっこ悪
い。最近ようやく、甘えてくれ頼りにしてくれるようになったのに・・・。
こんなことで、迷惑はかけられない。自分でなんとか・・・。

しかし、思ったより笹原の症状は重かった。着替えて、よろよろと外出を試
みようと、扉の鍵を開けた。その時点で立ちくらみして、歩ける状態じゃ無
い事に気付いた。次第に意識が薄れてきた。
(やばい!マジでやばい!こんな一人で洒落にならない・・・)
笹原はかろうじてメールで荻上にメッセージを送った。
「風邪ひきました」
これだけ送信して、普段着のまま布団にもぐりこみ、そのまま寝入った。

次に笹原が目を覚ました時、そばには心配そうな表情の荻上がいた。
笹「荻上さん?どうして?」
荻「どうしてじゃないですよ!メールで風邪ひいたって送られてきたから、
返信して症状聞いても、一向に返事返ってこないし、心配になって見舞いに
来て見たら、ドアは開いたままで、声かけても出てこないし・・・」
笹「はは、そのまま寝入っちゃったみたいで・・・」
荻「死んじゃったのかって驚きましたよ!何回か声かけても目を覚まさなか
ったし・・・」
荻上の顔は動揺して、目は涙目になっている。

笹「心配かけたね、ごめん・・・」
荻上のその表情に胸が痛んだ。
荻「とにかく、着替えてください!汗だらけです。着替えはどこです?」
笹「ああ・・・そこ衣装ボックスに・・・あっ自分でやるから・・・」
荻「こっこれですね、体が冷えると危険ですから、急いで!」
荻上は笹原の下着とパジャマを手に取り、すこし顔が赤らんでいる。
笹「うっうん。」
荻「まだ、熱はありますね。少し寝てて待ってください。必要なもの買い揃
えてきます」
笹「悪い・・・」
荻「まあ、前にお世話になりましたからお互い様デス」

荻上は買出しに出かけた。笹原は布団の中で、ふーと安堵の声を上げた。正
直、一人で病気になった時、これほど不安な気持ちになるとは思ってもいな
かった。目を覚ました時に、荻上がそばにいてくれた事が、どんなに嬉しか
ったか分からない。

荻上は小さい体に両手に大きな買い物袋を抱えて、戻ってきた。
笹「色々買ってきたね!」
荻「ええ、薬のほかに、スポーツドリンク、レトルトのおかゆ、あと食材も
少々・・・」
笹「そんなに・・・悪いよ・・・」
荻「いえ!前に風邪の看病してもらったじゃありませんか。わたしもすこし
勉強しましたから」
笹「薬飲んで寝てりゃ直るよ・・・そんな大げさな・・・」
荻「ヒスタミン系の薬は強いですけど、強い解熱剤は回復を遅くします。飲
んでも漢方薬系の薬で、水分と栄養を補給する事が一番です!水分もただの
水では体力を奪いますから、スポーツドリンクを飲んで汗をかいて安静にす
るんです。寝ててください」
笹「うっうん。わかった」
笹原は荻上の迫力に気おされて、大人しく寝た。

荻上は台所で何かしている。
笹「ゲホ ゲホ 何してるの?」
荻「空気、乾燥してますよね。風邪に良くないですから、やかんでお湯を沸
かしてます。加湿器無いですもんね」
笹「そうなんだ・・・。昨日もヒーター付けっぱなしで、空気乾燥させたし・・・」
荻「何か食べれます?」
笹「そうだね、おかゆとか軽いものなら・・・」
荻「そうですか。じゃあ、これ・・・」
荻上はレトルトのおかゆに添え物にゆずを刻んだものを出した。
笹「これは?」
荻「実家から送られたものです。ゆずを刻んで蜂蜜と砂糖、酢で漬け込んだ
ものです。おかゆとからめて食べると美味しいですよ」
笹「ああ、ほんと!ゆずの香りが食欲そそるね!甘くて美味しい・・・」
荻「あと、生姜湯もあります。それとネギを刻んだ湯豆腐・・・。あの・・・
この前の・・・アイスクリームのお返しで・・・」
荻上は顔を赤らめて、油豆腐をれんげに取って、笹原の口に運んだ。
笹原も顔を赤らめて、それを口にした。
笹「あっありがとう」

満腹になると、笹原は睡魔に襲われて、寝入った。そして夢を見た。それは
合宿の黄昏の空の色だった。浅い眠りの夢うつつの中、笹原は考えていた。
あの時と逆だな・・・。こんなにも病気が人の心を弱くするとは思ってなか
った・・・。荻上さんもこんな不安な気持ちでいたのかな・・・。俺・・・
そんな彼女につけこんだみたいだ・・・。あの時の彼女の寝顔をずっと見守
っていきたいって気持ちには偽りは無いのだけれども・・・。

笹原が目を覚ますと、となりで荻上もうたたねしていた。
荻「あっ!わたしもうっかり寝ちゃってました!」
笹「・・・ねえ、合宿の時、君、俺に『何でここにいる』のかって聞いたよ
ね。こんなこと・・・聞くなんて・・・男らしく無いと思うんだけど・・・
何故君は俺のそばにいてくれるの?」
荻「何故って・・・だって・・・笹原さんは・・・わたしが一番いてほしい
と思った時にそばにいてくれたじゃありませんか・・・それだけです・・・」
笹原は顔を見せたくなくて、背を向けて布団をかぶった。
笹「俺も・・・今そんな気持ちだよ」

荻上は気恥ずかしさに場をはずして、窓辺に目を向けた。
荻「ああ、ここからつつじの木が見えるんですね。春になったら花が咲くん
ですね。今は散ってますけど・・・。わたし夢を見てました。子供の頃です。
幼馴染と影踏みとかして遊んでるんです。キャッキャ飛び跳ねて、夢中にな
って遊んで、黄昏時になってもやめないんです。でもあたりが薄暗くなり、
わたしが振り向くと友達の顔や影が見えなくなってるんです。あんなに仲良
く遊んだのに顔が思い出せないんです・・・」
笹「・・・そうだね。でも俺も君も影じゃないし、今たしかにここに・・・
いるし、消えたりは・・・しないよ。・・・うまく言えないけど・・・二人
でいれば散らない花も見れると・・・思う・・・ははっまだ熱があるみたい
だ!こんな恥ずかしいセリフ!」
荻「そうですね。熱のせいにしましょう。元気になって良かったデス!」