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*雪の華 【投稿日 2005/12/25】 **[[カテゴリー-笹荻>http://www7.atwiki.jp/genshikenss/pages/47.html]] 笹原と荻上は冬コミが始まる前の週、東京近郊の自然公園に足を運んだ。 今年は例年にない寒波で関東一帯に大雪が降った。交通網がマヒし、慣れな い大雪に歩行者が足を取られて転ぶありさまの中を二人は、自然公園へ向か った。 そこは山桜の名所で有名な場所であったが、季節が季節だけに人はまばらで 寂しげであった。 笹「寒くは無い?」 荻「わたしは大丈夫です。笹原さんは?」 笹「俺は大丈夫・・・」 しかし寒気は思いのほか厳しく、二人が会話すると、二人の吐く息は白くな り、少し風が吹くと地面の粉雪が舞い散り、顔に吹きかかった。アスファル トで舗装された道を外れると、霜柱が土を盛り上げ、踏むとシャリシャリと 音を立てた。 荻「面白いですよ!土を踏んづけると、バリバリ、シャリシャリ音を立てて、靴が沈んでいくんです!」 荻上は何ということも無い事に、普段とは違って笑顔でキャッキャッとはし ゃいで駆け回っていた。笹原は普段通りの表情で微笑み、目を細めてそれを 眺めていた。 荻「こっちです!先に行きますよ!」 荻上は小走りにタッタと小高い丘に駆けていった。 笹原はゆっくりとした足取りで荻上の後を追った。今日は荻上が雪の華を見 たいと言うので、この公園に来ていた。笹原の卒業までに二人で会える時間 は少ない。出来るだけ可能な限り出かけられる所に二人で出かけてみたかっ た。 (あまり外に出歩きたがらず、自分の希望は極力口にしない彼女にしてはめ ずらしい願いなのだ。かなえてあげなければ・・・でも運動不足で息が切れ る。だらしないなあ・・・) 笹原はふうふう言いながら、どんどん先に進む荻上の後を追っかけていった。 すると丘の上を先に歩いていた荻上が急によろめいて、倒れそうになった。 笹「ととっ」 笹原は慌てて荻上の腕を支えた。 荻「すっすいません!思わずはしゃいで馬鹿しちゃいましたね!」 笹「ははっ、でも全然元気だよ!俺なんか息切れだよ!」 荻「わたしもですよ、この辺なら雪景色や雪の華がきれいでしょうね!」 笹「じゃあ、この辺に腰掛けようか」 荻「そうですね!」 二人は小高い丘の中腹に腰掛け、まわりの景色に目を見やった。あたり一面 うっすらと真っ白な雪化粧でおおわれていた。木々の枝は網の目のようにな っており、その上に白い雪が枝を覆っている。風が吹いて、枝が揺れると小 雪がまるで白い花びらのように舞い降りる。その様子はまるで雪の華のよう であった。 荻「きれいですね!」 荻上は目を輝かせて言った。 笹「そうだね・・・」 笹原は雪の華よりも、それを見つめる荻上の大きな深い透明な黒色をたたえ た瞳に見つめていた。その瞳は雪の乱反射にキラキラ輝き、希望と歓びに満 ち溢れた色をたたえていた。 かつてその瞳は深い絶望と虚無の深い漆黒の色を帯びて、笹原を見つめてい たのだ。そしてその瞳が涙に濡れるのを、笹原は胸が引き裂かれる思いで見 たのだった。 (彼女は普段は気丈で弱いところを見せようとはしない。でも時々、瞳が憂 いの色に沈む時がある。そんな時俺は何をしてやれるのか・・・) 荻「きれいですね!この雪景色のように清らかなままでいられたら、どんな に素晴らしいでしょうね・・・」 笹「(自分はそうでは無いと言いたいの?)・・・そうだね・・・。あっほら、 山桜の冬芽だ!」 荻「こんなに寒いのに生きてるんですね!」 笹「そう、この赤い芽は堅い殻に覆われているけども、きれいな花をさかせようと懸命に生きてるんだね。でも根本がとても脆くて、触ると壊れてしまいそうだ・・・(まるで君のようだ・・・)」 荻「動物に食べられちゃうんでしょうか?」 笹「そんなことは無いさ!食べられてもその後から新しい芽が出るしね!」 荻「かっこ悪いですね・・・食べられちゃうなんて・・・」 笹「いっ生きる事自体、こんな風にかっこ悪くて、無様でなさけない姿さら していくようなもんだよ!俺みたいに・・・。でも春になったらきっと、き れいな花を咲かせると思うよ!一緒にまた見に行こう!」 荻「かっかっこ悪くて、無様なのはわたしも一緒です・・・。また一緒に見に行きましょうね」 自然と二人は手を握り合っていた。 笹「俺・・・何も君にしてやれてないな・・・。漫画描けるわけでも無いし・・・田中さんみたいな特技があるわけでもないし・・・」 荻上は微笑んで笹原に言った。 荻「一緒にいてくれるだけでいいです。それだけで十分です」 そうして二人は寄り添って、丘を降りていった。
*華風 【投稿日 2005/12/29】 **[[カテゴリー-笹荻>http://www7.atwiki.jp/genshikenss/pages/47.html]] 関東地方の桜の花の満開の時期が終わりを告げた翌週末、笹原と荻上は冬に 一度訪れた自然公園を再び訪ねた。花の散るのは早く、もう所々の木々にし か花びらは残っていない。散った花のあとからはもう新緑が芽吹いている。 笹「すっかり、花見頃の時期をはずしちゃったねえ」 荻「いいデス、花見の時期の騒がしいのは嫌いですから」 笹「でもなあ・・・。散り終わった見苦しい時期の桜なんて・・・」 荻「酔っ払いの姿も見るのは嫌ですから・・・」 笹「ははっ、見苦しいといえば俺達もだったね・・・(汗)」 荻上のその言葉に笹原は合宿での出来事を思い出した。荻上も同様に合宿で の出来事を思い出しているらしく、顔を赤らめている。あの時の出来事はお 世辞にもかっこいいと呼べるものではなかった。 あの時・・・。 周囲の林からヒグラシの鳴く音が鳴り響く中、笹原は荻上に追いついた。 笹「・・・やっと追いついた!」 荻「・・・どうして追っかけてくるんです!?」 笹「どうしてって・・・、心配だから・・・」 (違うだろ!春日部さんと大野さんにせかされて追いかけただけなの に・・・俺は・・・不甲斐ない・・・) 荻「・・・かまわないでください!やさしくしないでください・・・お願いだから・・・」 そう言って荻上は肩を震わし、泣き崩れてしゃがみこんだ。 笹原はこの後に自分に起こった変化について、言葉で説明する事が出来なか った。というか夢の中の出来事のようで、現実感の無い出来事のようにも思 えた。目の前にいとおしいと思っている女の子が泣き崩れている。苦しみの 声をあげている。なぜ苦しんでいるのか分かっている訳ではない。だがその 心からの苦痛の叫びは笹原の心に直接響いていた。 (ずっと側にいて何故気付いてあげられなかったのだろう・・・) 己の無神経、無理解、不甲斐なさが口惜しく感じられ、その心からの真実の 苦しみを和らげる手だての無い自分の無力さに腹を立てた。 笹「あ・・・」 言葉が続かなかった。光陰が交差し、その変化は一瞬に訪れた。笹原の両の 目からは涙がこぼれ落ち、目の前を見ることが出来なかった。この肩を震わ せ泣き崩れる、この世で最も小さき存在が実はこの地上で最も力強い力を持 っていることを初めて知り、その力は地上のどんな堅固なものも破壊できる 力を持っており、その力によって自分の心が打ち砕かれた事を知った。 (たぶん、二人ともその時しゃべった事も聞いた事もよく覚えていないと思 う。とてもゲームやドラマで語られる気のきいたセリフは一言も出てこなか ったはずである。支離滅裂で、意味不明な事を泣きながら、無様にしゃべっ てたんだと思う・・・) 荻「・・・離して下さい・・・わたし汗臭いです・・・」 荻上もやはり泣きじゃくって言葉になってない。 笹「ごめん、気付いてやれなくて・・・」 どのくらい時間がたっていたかも覚えていない。思い出すのも恥ずかしい格 好の悪さだった。荻上がようやく安堵の表情を取り戻して、笹原にもたれか かった後でも、ぐすぐすと泣いて鼻水まで出て、くしゃくしゃな有様だった。 二人で連れ添って、別荘まで戻り、荻上が女性陣に引き取られてた後でも、 笹原はぼんやりしていた。惠子からは「かっこ悪るすぎ!」と笑われる始末。 斑目からも気楽に「まあ、これでハッピーエンドか?」と慰められた。 (エンドなもんか!) その後二人でこうして会っていても、不安はよぎる。彼女は本当に苦しみか ら解放されたのか?幸せなのか?もっと自分に色々要望してくれた方がど んなに安心できるだろう。甘えてわがまま言ってくれたほうがどれほど楽 か・・・。 笹「約束通りじゃなかったね・・・」 荻「何故そんな事を言うんです?とても楽しいですよ!」 荻上は笑ってそう言った。 笹「君に十分な事をしてあげていると思えないんだ・・・」 荻「そんなことはありません。この季節を清明って言うんだそうですね。す べてが生まれ変わって、洗い清められる季節です!わたし好きですね!」 笹「ならいいんだけど・・・」 荻「じゃあ・・・じゃあ一つだけ約束してもらえますか?」 笹「なに?」 荻「・・・わたしの前から姿を消さないでください!いなくならないでくだ さい!もう・・・もう失うのは嫌なんです・・・。失うくらいなら最初から・・・。 わたしももう逃げませんから!泣きませんから!」 体を震わせて荻上は言った。 笹「ん・・・約束するよ」 笹原はグッと泣けるのをこらえた。それしか言えなかった。彼女が泣かない と言うのに泣いては情けない。それに彼女にとって自分がどうであるかを考 えるのはどうでもいいことだ。先の事は誰にもわからないのだ。自分の心は 決まっている。それだけで十分だ。 ただ彼女は心では泣いていたと思う。だって春の風が桜の花びらを舞い上げ た時、その花びらがまるで彼女の涙のように見えたのだから・・・。

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