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*その四 それなんてエロゲ【投稿日 2005/12/26】 **[[カテゴリー-3月号予想>http://www7.atwiki.jp/genshikenss/pages/84.html]] 何で逃げてんだ私… …今更戻れねえし… 顔も合わせられねぇ… 謝れねぇ…けど… 謝らねえと…そして… …また傷つけるのか…? …だめだ、私じゃ… 迷惑だって… 最低だ… 俺何で走ってるんだ? そりゃ荻上さんを連れ戻しに… でもさっき振られたばっかなのは もう分かりきってるけど… 何て話せば… …いや そんなことより…ついさっきまで寝てたのに… あのままじゃ風邪ひいちゃう… 放っておいたら何処に行くのか分からないし… まさか…川に飛び込んだり… ……! 荻上 「笹原さん……」 笹原 「…ハァ、ハァッ……」  ようやく追い付いた橋の上で、荻上さんが振り返る。 名前を呼ぼうとしても、喉がひりついて声が出ない。全速力で走ったのなんて、何年ぶりだろう。 荻上 「……何しに来たんですか…」 笹原 「……ハァハァ……何って……」 荻上 「……」  言葉が続かない。 連れ戻しに来た、なんて言った所で、今の彼女が素直に頷いてくれるだろうか。 それが先程あんな事を言った相手だったら、尚更だ。 荻上 「さっき言ったじゃないですか… 私は男の人とはつき合わないって…」  改めて聞かされると堪(こた)える。 拒絶されてる以上、一体俺に何が言えるんだろう。無力感が募る。 笹原 「あ……ごめん……」  結局反射的に漏れる言葉。自分で自分が情けない。 荻上 「……なんで謝るんですか」  だって荻上さん、そんなに辛そうな顔をしているのに。  今は目の前にいる君を、ただ安心させてあげなきゃいけないのに。  何も出来ない。 なんの言葉も浮かばない。  今謝ったって何にもならないのは分かっているけれど。 荻上 「悪いのは私です」 笹原 「…どうして!?」  俺の視線から少し目をそらしつつ、荻上さんが答える。 荻上 「せっかく優しくされても……、………また裏切っちまう…」  …一体何の話だろう?  ……荻上さんが?裏切る?誰を? 荻上 「もう怖いんです…」 笹原 「え?……」 荻上 「…もう私の所為で、人を傷つけるのは怖いんですっ!!」  今にも壊れてしまいそうな声で、荻上さんが叫ぶ。 荻上 「私と関わったら、ロクなことにならねえっす!!間違いないです!絶対に…!」  今立っている場所からほんの数歩歩けば、荻上さんの場所まで行ける筈なのに。  今の俺と荻上さんの距離が、ものすごく遠く感じる。  この人は、ずうっと今までこうして、人との距離を測りながら生きてきたんだろうか。  まるで、自分のトゲで仲間を傷つけないよう、臆病に生きるハリネズミのように。  そんなの、あまりにも辛すぎる。 荻上 「絶対に…」 笹原 「そんなことあるもんかっ!!」  思わず叫んでしまった。  荻上さんは驚いた目で、俺の目を見つめる。 笹原 「こ、コミフェスで、荻上さんを見てたときっ…」  視線があってドギマギしてしまい、舌が思うように廻らない。 笹原 「どれだけ、…どれだけ嬉しかったか!!」  相手の目を見つめ返しながら、あの時の気持ちを。  少しでも、ほんの少しでも、自分の気持を伝えられたら。  そう心の底から思いながら、言葉を口にする。 荻上 「ふっ…は、ははっ」 笹原 「何も可笑しくなんかっ!…」 荻上 「嬉しいんす」 笹原 「え?」 荻上 「笹原さんの気持ち、嬉しいんです」  ドクン。  一瞬、心臓が飛び跳ねる音が聞こえた気がした。  微笑みを浮かべながら、荻上さんが話す。  さっきコテージで見せた、どこかで何かを諦めきっているような、哀しい微笑み。 荻上 「でも駄目なんです」 笹原 「…」 荻上 「もう、決まってるんです」 笹原 「荻上さん、何を言って…」  荻上さんの言葉と表情に気を取られていた俺は、すぐに後悔することとなる。  気付いた時には、荻上さんが橋の柵を跨いだ後だった。 荻上 「来ちゃ駄目です!それ以上来たら…」 笹原 「だっ、駄目だよ、荻上さん…!」  手を膝ほどの高さの柵の手摺りに引っ掛けて、つま先だけ地面に乗せながら、 こちらを今にも泣きそうな目で睨んでくる。いつ川に転落してもおかしくない。  ここからもし落ちれば、一体どの位の高さなのか。荻上さんから目を逸らせず、確かめようも無い。 山の奥から、激しい滝の音が聞こえる。  追いかけて来た時の嫌な考えが頭をよぎった。 笹原 「何で…!なんで、そんなにっ、荻上さん…、自分を…」  なんて上ずった声だろう。一瞬自分の声か分からなかった。 荻上 「だって、…わがんねえんです!…」 笹原 「……」 荻上 「嬉しくても…駄目なんです…」 荻上 「もう、私、どしたらいいか…!」 (笑えば良いと思うよ)  突然、ふっと頭の中に例のフレーズが浮かんでくる。 笹原 「わ…わら…」 (…こんな時に何浮かんでんだよっ!!馬鹿っっ!!) 笹原 「笑わなきゃ…!」 荻上 「えっ…?」 笹原 「そんな…嬉しいんだったら…笑わなきゃ…!」 笹原 「そういえば荻上さん…あんまり笑ったことないよね…」 荻上 「…」 笹原 「ずっとそうやって…、周りに壁作ってたの?」  自分でも何を言っているか分からない。  恥ずかしさを抑えるように、一気に話しかける。 笹原 「確かに、ヌルい部活だけどさ…」 荻上 「…」 笹原 「俺ら同じ部活仲間じゃん」  いつもなら絶対言えないような言葉だと思う。  俺じゃない別の誰かが喋っている感じだ。 笹原 「皆だって荻上さんのこと…好きだと思うし…」  振られたことが頭をかすめて、とっさに”俺”を”皆”に置き換える。  言っていることに間違いはないと思うけれど。  荻上さんはまだ俺の方から目を離さないでくれている。  話し掛けながら、気付かれないよう少しずつ、足を近づけていく。 笹原 「そんなに、自分のこと…責めないでよ」 荻上 「!」  荻上さんの表情が変わった。  自分の言葉が空回りじゃなかったと思えて、少しほっとする。  あと一歩歩けば荻上さんに届く場所まで近づいた。 笹原 「とりあえず…、戻らない?…皆の所へ」  そういいながら、そっと手を伸ばしてみる。 荻上 「…、……」  荻上さんの視線が、俺の頼りない手へと落ちていく。  そして。  彼女の手が、だんだんと近づいて… 荻上 「ひゃっっ?!」 笹原 「!!」  突然足場の土が崩れて、荻上さんがバランスを失う。  近づいてきた手が、今までと反対の方向へ離れていく。  まるでスローモーションのように。 笹原 「荻上さんっ!!」  すぐに離れた手を追いかける。  次の瞬間には二人とも地面から離れていた。  相手の手を掴む。  水が激しく跳ねる音がした。  何も見えない中で、腕を引っ張り手繰り寄せる。  身体の何処かが擦れたような痛みが走った。  とにかくがむしゃらに水を掻く。 笹原 「っぱ、はぁ、ハァっ…、」  水中から顔を出して、息を吸い込む。  荻上さんは…。  腕の中を確認する。  きちんと、その存在があった。  彼女を抱えたまま急いで、川原へと移動した。 荻上 「……ぷぁ、はっっ、ごほっ…っ、がはっ…」 笹原 「だっ、大丈夫!!?」 荻上 「…はっ、あ、いえ…、……ちょっと、水飲んだだけっす…」  俺の呼び掛けに、荻上さんは答えた。  どうやら、怪我らしい怪我も無いようだ。 笹原 「…は……良かったぁ…」 荻上 「…!!笹、原さ…」 笹原 「…ん?」 荻上 「…ち、…血が…」  そう言われてから鉄くさい匂いに気付き、慌てて自分の顔に手を当てる。  赤い。  もう一度顔を触る。  いったい何処から。  しばらく出血場所を探すと、額の左上から目尻にかけて傷が走っていた。  その場で傷を洗い、箇所をこする。うっすらと水で薄められた赤色。  …どうやら浅い傷みたいだ。  それほど大した痛みもない。 笹原 「…大丈夫、ちょっとこすっただけ…」  ツー…  荻上さんの目から、涙が頬を伝って落ちる。 荻上 「…う…うぅっ…」  とうとう声を出して、泣き出してしまった。  目を腕で隠しながら、必死に声を抑えようとして、嗚咽を漏らす。  きっとこんな状況になってしまい、また自分を責めているのかもしれない。  …こんな時、泣いている女の子に対して、一体どうすればいいのだろう。  以前どこかで見たことがあるような気がする。  何時だったかの、高坂君と春日部さんの姿がちらついた。 笹原 「ごめっ…」 荻上 「!!」 (声でねぇぇっ…)  行動に移すべきか考える前に、体が先に動いてしまった。  荻上さんの頭を抱え込む。   笹原 「ご、ごめんねっ…」 荻上 「うっ、ひぐっ、なんであやっ、まるんす、かっ…」 笹原 「いや、その…」 荻上 「わたすの、せいでっ……けが」 笹原 「…じゃなくて!…そうじゃなくて…」  そうじゃなくて…何か言わないと…  ……あの時、高坂君はなんて言ってただろう?  ………  そういうこと?  …そういうことなのか。 荻上 「わげ、わがんねっ…」 笹原 「荻上さんのこと!」 笹原 「気付いて、あげっ、あ、あげられなくて」 笹原 「ごめ…」 荻上 「…っう、うぅ…ぁあっ、うわあっ…」  全て言い終わる前に、彼女は泣き崩れた。 荻上 「うーっ…、ぁう…ひぐっ…ぁっ…ひはっ…」  背中に、彼女の腕が廻ってくる。  自分の腕の中で泣きじゃくる声に、胸が痛む。 荻上 「はぁ…も、怖くでぇっ…はっ…ぅあ…」 笹原 「…うん」  ただ頷くことぐらいしかできない。 荻上 「えぐっ…ひぃ、う…」 ……… ~~ ~~ ……… 笹原 「お、…落ち着いた?」 荻上 「…」  辺りが静かになり、  今まで意識へ入ってこなかった音に包まれた。  ひゅう、と風の音が聞こえる。 荻上 「寒…」 笹原 「あ…」 荻上 「い、いや!何でもないっす…」  周りには何も風避けになるようなものがない。  彼女の頭に回していた腕を背中に回す。  少しでも寒さをしのげるように自然と力がこもる。 荻上 「先輩…苦しい」 笹原 「あっ…ごめ…」  そう言われ、とっさに腕を放す。  密着している状態じゃ息もできない。当たり前だ。  …セクハラまがいのことをしてしまったのでは。  急に不安になる。 荻上 「…さっきから…、謝って、ばっかりですよ…」  腕を放した筈なのに、荻上さんと俺との距離は離れない。  荻上さんの腕は俺の背中に廻ったままになっている。  …もしかして、ものすごくありえない状況では。  そういえばお互いの服がびしょ濡れのままだ。  シャツが腕に張り付いて気持ち悪い。  ……。  やはり荻上さんの服も…。  …さっきから胸の辺りに感じるやわらかいようなものは…  ………。 笹原 「は…、早くもどろっか!か、風邪引いちゃうし…」 荻上 「…りたくねっす」 笹原 「え!?」  一瞬自分の耳を疑う。 荻上 「戻りたくないです…」 笹原 「…でも…」 荻上 「…もう少し、こんまま…」 笹原 「!…?!」  背中から、力が服越しに伝わってくるのが分かる。 トクン  自分の心臓の音が聞こえる。…それしか聞こえない。 ドクン  こんな大きな音、相手にも伝わってしまうんじゃないか。 笹原 「お、荻上さん!?」 荻上 「先輩…」  か細い声を漏らしながら、荻上さんが上目で見つめてくる。  …こんな表情、見たことが無い。 笹原 「…荻上…さん…」  名前を呼びながら、彼女の肩に手を乗せる。  改めて、小さな身体だと分かり、何だかとても愛おしくなる。  ずっとこの小さい身体で、周りに虚勢を張りながら頑張って来たんだろうか。  …もう、無理しなくたって大丈夫だよ。  そんなことを思う。  …自然と、顔が近づいていく。 荻上 「…だ…駄目っすよ!」  荻上さんの突然の制止に、ふと我に返る。 荻上 「さ、さっき…、吐いたばっかですしっ!」  そういいながら二人の間に腕を挟み、押し返される。  少しだけ距離が離れる。 荻上 「っ…、何でそんなこと言わせるんですか…」  泣きそうな顔で、そう俯きながら零す。  濡れた髪のせいか、曇りがちの表情がより健気に見えた。  まるで落ち込んだ子犬みたいだ。  …可愛い。 笹原 「…ごめん」 荻上 「え…?」 笹原 「…もう我慢できないや」  そういいながら、目をつむって顔を近づける。  ほのかに唇に当たる感触。 高坂 「なんてことになってたり」 斑目 「…それ何つーエロゲー?」 咲  「……ちょっと…キャラが違うような…」 大野 「高坂さん仕事のしすぎじゃ?」 恵子 「…ハハ……」 朽木 「タイトルは"おぎちん"とかドーデスカ?」 田中 「ありそーで嫌だな…」 朽木 「名前に引っ掛けてふたなりモノなんかイケそーな」 男一同「…………」 恵子 「何それ?」 咲  「…さぁ?」 大野 「…ちょ//……ちょっと!」 朽木 「… (うゎ、ハズしちゃったかにょー…)」 斑目 「朽木ー、後ろ、後ろ…」 朽木 「…はい?」 笹荻 「……………」 朽木 「……(大汗」 一同 「………………………」 荻上 「人が居ない所でなんの話してるんですかっッッ!!!!」 咲  「…何で二人とも濡れてんの?」 荻上 「へ?…!! …/////や、…あの、そのっ…」 笹原 「…ふぁっ……ックシュン!!」 翌日。 大野 「そんな曇り顔じゃ駄目ですよ荻上さん!」 荻上 「でも…私が原因で…」 咲  「いーからいーから!!笹原は男共に任せとけって!」 大野 「そこじゃ映りませんよ!せっかく可愛いワンピースなんですから!!」 荻上 「先輩、ちょっ…、引っ張っちゃ…」 恵子 「おーい、撮るよー」            『パシャッ』
*その五 夢を見る方法【投稿日 2005/12/28】 **[[カテゴリー-3月号予想>http://www7.atwiki.jp/genshikenss/pages/84.html]] 朽木が笹原から少し時間をおいて追跡すると、遠くで言い争う… いや、一方的に怒っている荻上の声が聞こえた。 そして、向こうから荻上が走ってきた。 朽木のことは完全に無視で横を駆け抜けていった。 といっても、息も絶え絶えだ。 「ゼハ・・・ゼハ・・・」 そして、触るなという強い壁を身に纏っている。 ロッジに戻っていくのだが、朽木にも追いかけるのがためらわれた。 道の向こうの方には、道端にうなだれて座り込む笹原の姿が見える。 朽木『う………むしろ、あっちの方が 離れておいた方が良いよね』 ロッジに入ると、またしても怒っている荻上の声だ。 叫んでこそいないが、とりつくしまも無い。 荻上「よりによって、笹原さんをけしかけて…! 周りで介抱とか…仕組んで!」   「私は誰とも付き合わないんですよ、なんで解からないんですか!」 大野「荻上さん、聞いて――!」 荻上「つきあったら、傷つけるんですよ、絶対に。それに私に資格なんて無いのに…」   「断るしかないのに!……断るしか!」 大野「そんな事ないでしょ――」 荻上「それなのにあんな優しい…笹原さんまでさっき、断るしかなくて……もう」   「もう、帰ります……そして、みなさんサヨウナラです………」 着替えもせずに荷物だけ掴んで、ロッジから飛び出す荻上。 流石に咲や田中、高坂も留めようとするが、駄目だった。 力ずくでなら小柄で弱っている荻上を止めることなど容易だろうが 触ったところから壊れてしまう、そんな雰囲気であった…。 流石にスゥェットは駅で着替えたが、帰りの新幹線では 二日酔いのにおいが漂う虚ろな少女の隣に座る人は居ない。 荻上『ああ、なんて事…… 大事な居場所を無くしちまった……』   『笹原…さん……本当はありがとうと言い尽くしても足りないのに……』 とめどなく涙が溢れる。嗚咽が漏れるのが止められないので ダッシュでトイレに駆け込んだ。 荻上『でも、私なんかと付き合うより、これで良かったんだ』   『私の罪は私だけのものだもの』 しかし、そんな考えのさらに奥の気持ちが別の声を叫ぶ。 荻上『また新しい罪を犯しちまってどうする!?まだ間に合う、引き返すんだ!』   『本当はどう思ってるの?そうじゃないでしょう?本当は笹原さんと―――』 それ以上は荻上は自分の心を聞けなかった。涙で塗り潰す東京までの帰路となった。 後期の授業が始まったが荻上は履修の手続きすら気が乗らなかった。 今まで真面目に単位を取得していた荻上は、必修以外の授業は受けなくても 通常の学生と同じペースに並ぶだけなのだが、ほぼヒキコモリになってしまった。 荻上『出席の返事以外、1ヶ月誰とも話してないわ…』 たぶん、声の出し方すら忘れたんじゃないかと思う。 荻上『まあ、中3から高校の時も一人みたいなもんだったし、慣れてるもんさ』 短期のアルバイトと仕送りで生活していたが、バイト代は夏コミで使い果たした。 仕送りだけで暮らすと、月の食費は5000円ぐらいしか無いが、なんとかなるものだ。 米は実家から送られてくるし、何しろ漫画しか描いてない。 今日も午後からの必修授業だけ受けて帰ってきた。 荻上『寂しいもんだなぁ、なんだかんだ言っても』   『……でも、こんな私でも笹原さんに愛されていた、その思い出だけで生きていける、かな』 あの時必死に拒否する荻上に、それでもなんとか笑顔を作りながら笹原が最期に言ったのは 笹原「忘れないでよ、ずっと好きだから…荻上さんの見たい夢を見守りたいから」 荻上「いえ、私の事は忘れてください。それが私の一番の願いです」 それが最期の会話だった。 荻上『駄目だ!あの時の会話は思い出しちゃ駄目だって……』 駄目も何も、何枚笹原の絵を描いたんだろう。 801以外のオリジナル漫画は全て描きかけだが、どれも暗い恋愛ものだが 話として進まないので完成したものは無い。 荻上『私の見たい夢って、漫画家になる事なのかな……』 げんしけんのメンバーとはすれ違いそうになるルートは通らないし、 見かけても視線を動かさない。今日も遠くに大野が居るのは分かったが 無反応で通してきた。 笹原も4年の後期なのでほとんど来ないだろう。 げんしけんは今はどうなっているのだろうか?しかし 荻上『もう行けるわけがねぇんだ。どの面下げて……だいたい笹原さんも居るし』 生活リズムが狂って夕方から寝ていた荻上は、また悪夢で目が覚めた。 巻田が飛び降りる所では終わらずに、今度は落ちるとまた自分になり 助けに来た笹原を屋上から突き落とすのだ(何故かまた屋上に居る)。 荻上『ひでぇ…本当はこんな夢じゃくて、笹原さんと―――』 思いかけて、やめた。 荻上『いや、考えんのもいけねぇな、それは……』 起き出してTVをつけても深夜の通販しかやっていない。 PCを起動して、何の気なしに巻田の名前でgoogle検索してみる。 と、ずばりヒットする項目がある。 荻上『え…?』 思わずクリックしてサイトを見てみると、まさしく巻田のブログだった。 普通は実名じゃないと思うのだが、内容はオサムシの収集に関するブログ。 研究目的の真面目なサイトには実名のものが時々有る。 昆虫採集の様子の写真を見てみると、どうみても本人だった。 荻上『………どうしよう』 謝ることも出来ずに別れたのだ、許されたいと思うのもおこがましいが 謝ることだけはしたいと思う。そして出来れば今どうしてるのか まだあの本のことは気にしてるのか……。メールを送ろうか……。 荻上『返事、期待しても駄目だな。謝罪を送るだけ送って、    帰ってこなくても悔いの無いように書いて送ろう。』 最悪の場合、巻田がショックを受けすぎてサイト閉鎖とかしたら またしても罪を重ねてしまう。慎重に書かねば―――。 結局、翌日は授業が無いとはいえ、メールを送ってから徹夜してしまった。 神経が昂ぶって眠れなかったし、眠りが浅いと悪夢を見そうだったから。 昼前まで無理やり起きていると、寝すぎないように夕方に目覚ましと 携帯のアラームを仕掛けると、泥のように眠り込んだ。 と、思ったらもう時計が鳴っている。 ああ、全く夢を見なかったんだ。良かった…。 起きてシャワーを浴びると、胃が動いていない。 メールチェックをするが、巻田からの返信は無い。 今のうちに買い物に行くか、という事でスーパーに行って 納豆と海苔佃煮、秋の安売りで1尾95円だったサンマを買ってきた。 グリルではなくコンロに載せる蓋付きの焼き網でサンマを焼くと 簡単に食事を済ませた。 荻上『ま、今日は豪勢なほうだなぁ』 食事が終わり、またメール受信をするが、迷惑メールの類しか来ていない。 荻上『ま、返事は無理だよな…いや、まだ早いはず』 そしてメールチェックを繰り返すうちに夜中になり、ついに返信が来た。 荻上『来ちまった…!!』 自分で出しておいて返信が来ちまったも無いものだが、開封するのは恐かった。 「お久しぶりです。突然でびっくりしました。なんだか懐かしい気もしますね。  椎応大で東京に出てるなんてびっくりです。すっかり都会人なんでしょうね。  僕の方は、東北からは出てません。大学ではまだ研究室に分属してませんが  昆虫学をやり、もう山に採集に出たり、標本を作ったりしている日々です。  最近流行のオタク、昆虫オタクとでも言うのかな。昆虫は流行ってないけどね。  さて、前置きはこれぐらいにしてお返事します。  あの時の事を謝られてますが、確かにかなり吃驚しました。  それにショックで、理解も出来なかったです。  正直に書いて来られてるので僕も正直に書きますが  今でも気持ち悪いと思っていますし、理解できません。  それに君と親しくしていたのに、あんな事を考えていたなんて  正直裏切られた気がしましたし、今でも引きずってないかと言えば  まだ多少、女性が恐い気がします。  全員が全員、あんな趣味の女性じゃないとは思いたいです。  許してもらう気は無いと書かれていますが、奇麗事を言わなければ  お互い、許さず、許されずで良いんじゃないでしょうか。  荻上さんにとってああいう趣味が止められない、生きる習性そのもの  だとしたら、僕とは相容れない関係だったという事でしょう。  僕が好きな虫のひとつ、マイマイカブリはカタツムリを食べるしかないし  カタツムリとしてはマイマイカブリを恨むしかないし、一生会わずに  過ごせば幸運だったと思うでしょう。  生き物の世界ってそんなもんじゃないでしょうか。  自然の摂理に沿って考えれば全ては無罪で、全ては有罪の生き物です。  僕がカタツムリだったということでしょう。  面と向かってたら、良いから気にしてないとか言いそうだけど  メールだからか、素直に語れた気がします。  まあ、30歳か40歳で同窓会ででも会えば宜しくです。  さようなら。」 荻上『………なんだ?』 意外な形で全く別種のオタクと遭遇したことに頭がついていけないが 思ったよりサバサバしたメールに拍子抜けした気がした。 荻上『許されてない、巻田君は気にしてる、罪は消えない…』 再確認しただけだが、なんだか大きな荷物だと思っていたものが 体の一部になって、自由に動き出せそうな気がした。 だがしかし―――。 荻上『笹原さんへの片想い人生、か―――。こりゃ長い旅路だわ。』   『なにしろ、もう目が無いどころじゃないもんな、一生』 自虐的な笑みを(ニヒ)と浮かべると、発売日になった雑誌を 並べ始めた深夜のコンビニに出かける荻上だった。 メガネ分は少ないが、おおフル(おおきくフルスイング)は外せない。 とある分厚いオマケ付き雑誌を買うと、荻上は店を出て暗い夜道を歩き帰る。 暖かな風の匂いが強くなる。雨が近いかも知れないが傘は無い。 そこでバッタリ。 真正面から笹原に会ってしまった。 荻上『えっ!?近所じゃないのに……どうしよう!?』 笹原「や、やあ荻上さん、こんばんは」 どうやら笹原も動揺している。 荻上「………ど」   「…………こ、こんばんは」 すれ違っていく二人だった。 荻上『……ごめんなさい笹原さん』 荻上の笹原への罪の意識からすると、荻上からは話しかけられない。 意を決して振り返り、声を掛けたのは笹原だった。 笹原「荻上さん、ちょっと話、いい?」 荻上「…っ!!」 話しかけられた背中が跳ね上がる。 荻上の家まで歩きながら、途中の児童公園の水銀灯の下に寄る。 笹原「携帯にも出ないし、訪ねても出ないって、現視研のみんなも心配してるよ」 荻上「すみませんけど、もう…」 笹原「いや、大野さんも強引だったって反省してたし……」 荻上「いえ…」 笹原「俺も、…あのときはごめん」 荻上「えっ…そんな」 荻上『それって、やっぱりもう、私の事……』   『そりゃ、自分でそう言っておきながら想い続けて欲しいなんてわがまま過ぎんだな』 荻上「そんな、謝らないで…下さい……」 そう言いつつ、荻上は足元が無くなるような感覚に襲われた。 笹原「いや、俺って大学で少しはマシになったかと思ったけど、情けないね」 荻上「そんなことありません」 笹原「でも…でも、さ」   「ストーカーっぽいけど、断られても、まだずっと」 荻上の鼓動が大きくなりはじめる。 呆然とした感じに笹原の顔を見続けてしまう。 深夜だし二人っきりとはいえ、完全に無防備だ。 笹原「…好き、だし …守りたい」   「荻上さんの夢を一緒にみていきたいと思う」 荻上『…っ!いけない、私はこんな事は許されない、許せないんだ、自分が』 荻上「わ、私の…夢?…ゆ―――」 夢なんて悪夢しか見ない、そう言い掛けた時に ザアッ――――――――― 大粒の雨が辺りを叩き始めた。温暖前線のようだ。 荻上「キャッ!」 雷まで鳴り始め、最近では珍しくなってきた電話ボックスに 二人で駆け込み雨宿りをする。 雨音が強くなり、電話ボックスの屋根は騒音を立てている。 そして稲光と轟音。 笹原「大丈夫?」 雷に反応して思わずその場で縮こまる荻上に優しく手を回す… なんて事は笹原には出来ない。 笹原「しばらくしたら、通り過ぎると思うから」 とはいえ、雷が恐いのは生理的なもので、鳴り響くたびに荻上は過剰反応をし いつしか笹原に寄り添っていた。 おびえる子を突き放すことも出来ないし、その服の下の細い肢体の感触に惹かれ どさくさ紛れ気味に荻上の背中に腕を回す笹原だが、その行動は正解だった。 荻上『私の夢、私の欲しかったものはこれだったんだ……』 笹原の腕の中で荻上は、ようやく自分の心の底の声に耳を向ける事が出来た。 自分の思考だけでは辿りつけなかったが、体からの声も手伝った。 荻上「私の夢は…」 笹原「ぅん?」 笹原の胸に顔を伏せたままで荻上が喋り始めた。 荻上「私の夢は、同人やヤオイや一般作も自由に描ける漫画家になることです」 笹原「うん!」 荻上「それと…… それと、笹原さんと一緒に居たい事…です……」 荻上『バカ……今更、あんな笹原さんを傷つけたのはなんだったの?図々しい…!』 荻上の肩、いや体は震えていた。寒さのせいではない。 笹原「うん…ずっと一緒だよ」 荻上の震えを止めようとするように、笹原はそっと回していた腕に力が入る。 荻上『―――許された、私は許されたんだ』 そう思うとともに、荻上の目から大粒の雫があふれ出した。 荻上「私も…好きです…」 か細い声だし、雨音がうるさいが笹原の耳には直結しているようにクリアに伝わった。 もう二人に言葉はいらない。 あとしばらく、電話ボックスは雨に包まれているだろう。

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