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*その五 笹荻怒りの鉄拳【投稿日 2005/12/03】 **[[カテゴリー-2月号予想>http://www7.atwiki.jp/genshikenss/pages/55.html]] 物語は1月号の330P、大野さんの「何としても笹原さんに荻上さんを幸せにしてもらいます、絶対!!」の直後から始まる。 最初はハードなトラウマ話に引いていた恵子だったが、咲ちゃんの「他の女たちはお咎め無し?」という問いに対する荻上さんの答えを聞いたあたりから段々表情が険しくなってきた。 そして荻上さんが泣き出し、前述の大野さんの発言の直後、低い声を出した。 恵子「・・・せねえ」 咲「ん?どした?」 恵子「ぜってえ許せねえ!」 驚く咲ちゃんと大野さん。 荻上さんも泣き止む。 恵子「そりゃあたしゃこれまでいろいろハンパなことやってきたよ。だけど、いじめだけはぜってえやんなかった。あんなことやる奴あ、ぜってえ許せねえ!」 咲「あんたも昔何かあったの?」 恵子の表情の一瞬の変化が、それが図星であることを示していた。 恵子「んなこたあどうでもいいよ!今問題なのは、その中島とかいう糞女はぜってえ許せねえってことだよ!」 咲「で、許せなきゃどうすんのよ?」 恵子「そりゃ当然、ゲンコでボコる!」 咲「こいつこんな熱い奴だっけ?やっぱ兄妹だねえ」 大野「咲さんの影響だと思いますよ」 咲ちゃんは内心少し感心していた。 一見何事にも冷めていて無気力に見えた恵子にも、こういう熱いところがあったことを好ましいと感じた。 だが彼女の怒りは純粋な反面、あまりにも単純過ぎて危ういものに見えた。 それだけで済むのなら自分もひと口乗ってもいいが、そうも行かない以上ここは止め役に徹することにした。 恵子「あんたらこの子の話聞いて何とも思わないのかよ!」 咲「そりゃ腹立たしいし、荻上かわいそうだと思うよ」 大野「あたしもそうです」 恵子「だろ?だったらグダグダ言ってねえでやっちまえばいいんだよ!」 咲「気持ちは分かるけど落ち着けよ。荻上の話聞く限り証拠無さそうだし、今さらそれやっても何にもなんないよ。荻上の心の傷にとっても、巻田君って子にとっても」 恵子「だってくやしいじゃねえか!(荻上に)あんただってそうだろ?」 荻上「・・・だって絵え描いたの私だし、それに・・・友だちだし・・・」 恵子「どこまでお人好しなんだよ!いいか、ダチってのは嬉しい時や楽しい時に一緒に笑い、悲しい時一緒に泣いてやる奴のことを言うんだよ! 初恋をこんな形で潰す奴らなんざ、ダチな訳ねえだろ!」 荻上「(泣きながら)やめて下さい!悪いのは私なんです!私さえあの時描かなきゃ・・・」 荻上さんの涙にたじろぐ恵子、咲ちゃんの方を救いを求めるように見る。 咲「そういうことだ。ここは引けよ」 恵子「(荻上さんの肩を抱き)わーったよ。もう言わないから、あんたも自分責めんなよ」 大野「そうですよ荻上さん。それよりもこれからのこと考えましょう」 そして翌日。 二日酔い気味の荻上さんと、その介抱係の笹原を残してみんなは出かけた。 いや正確には外に出ただけで、荻上さんの寝てる女子の寝室の外壁に集結して聞き耳を立てていた。 (ここから田中も合流して付き合う破目になる) 朽木「ここからなら寝室の物音がバッチリ聞けますにょー」 咲「お前まさか・・・」 朽木「とんでもない、わたくしは聞けるスポットを探しただけで・・・」 斑目「まあまあ、ややこしくなるからそゆことにしとこよ、春日部さん」 大野「荻上さん、がんばって!」 聞き耳を立てる一同。 恵子が怒声を上げた後、女だけの作戦会議が出した結論は、荻上さんのトラウマを笹原に話すことだった。 もちろん荻上さんは拒否した。 そこで3人は彼女に更に酒を飲ませつつ粘り強く説得を続け、「あくまでも先輩に悩みを相談することでトラウマを克服する」という方向で話すことを納得させるのに成功した。 そして荻上さんが酔い潰れた後、笹原に彼女がトラウマを話すことを伝えた。 当初あらかじめその内容を教えようとしたが、笹原はそれを拒否してこう答えた。 笹原「それは彼女から直接聞くよ。彼女から聞きたいし、もし話さないのなら話すまで待つさ。でないと、この問題に決着をつけることが出来ないと思うんだ」 その言葉を「何があろうと荻上さんが好きな気持ちは変わらない」と受け取った3人は納得し、全ての決着を笹原に託すことにした。 ベッドに寝てる荻上さんが体を起こす。 笹原が駆け寄る。 笹原「大丈夫?無理に起きなくていいよ」 荻上「大丈夫です。それより・・・笹原先輩に聞いて欲しいことがあるんです」 そして荻上さんは、中学のトラウマを話し始めた。 話が終わると、荻上さんは昨夜のように涙を流した。 黙って聞いていた笹原、話が終わった途端に星飛雄馬のような怒涛の涙を流した。 その涙を見た荻上さんは、夏コミで笹原の笑顔を見た時のようにドキリとした。 荻上「笹原先輩?」 笹原「(自分の涙に気付き)あっゴメン(袖で涙をぬぐい)かっこ悪いとこ見せちゃったね」 荻上「いえ・・・そんな・・・」 笹原「だけど、ほんと悲しかったんだ。荻上さんが、どんなにつらい思いをしてきたか、いろいろ想像しちゃて、そしたらつい泣けてきちゃって・・・」 荻上さんの脳裏に、昨夜恵子が言ってた「ダチってのは嬉しい時や楽しい時に一緒に笑い、悲しい時に一緒に泣いてやる奴のことを言うんだよ」という言葉が浮かんだ。 笹原「ねえ荻上さん」 荻上「はい」 笹原「君の背負ってきたもの、俺にも背負わせてくれないか?」 荻上「えっ?」 笹原「1人じゃ重過ぎる荷物でも、2人なら何とかなるかもしれないじゃないか」 あの夏コミの時のような笑顔を浮かべる笹原。 再びドキリとする荻上さん。 笹原「俺は頭も良かないし、スポーツだって得意じゃない。背も高くないし、顔だってごらんの通りだ。就職ったって所詮は派遣社員だからバイトと大して変わんない」 荻上「そんな・・・」 笹原「俺はただのオタクだ。君にしてあげられることと言えば、嬉しい時や楽しい時に一緒に笑い、悲しい時に一緒に泣くことぐらいだ」 荻上さんの鼓動が高鳴った。 そしてそれは笹原も同様だった。 笹原「こんな俺でよかったら、ずっと一緒にいさせてくれないか?(不意に背を向けて赤面し)つまり・・俺と付き合ってくれないか?」 笹原の涙と告白で、荻上さんは自分が今まで大きな勘違いをして来たことに気付いた。 自分が男の人と付き合うということは、自分のトラウマと厄介な自分自身を相手に一方的に背負わせて負担をかけることだと、いつの間にか思い込んでいたのだ。 笹原に対する愛ゆえの過大評価と、自分嫌いゆえの自己過小評価のミスマッチが、恋愛関係を保護者被保護者の関係のように錯覚させた為だ。 だが笹原の涙は、それが間違いだったことを悟らせた。 笹原もまた、自分と同じように弱い部分を持った1人の人間だという、当たり前の事実に気付いたのだ。 ちょっと冷静になって考えてみれば分かることに、トラウマで視野狭窄になっていた為に気付けなかったのだ。 そして思った。 自分は今は笹原先輩に助けられなければ前に進めないかもしれない。 だけど笹原先輩だって、この先つらいことや悲しいことはあるだろう。 その時、自分は彼を励ましたり慰めたり出来る人間でありたい。 少なくとも一緒に泣いて上げたい。 そしてその為には、彼と一緒にいなければ。 もっともこんな思考は後付けの理屈だ。 もっとシンプルな、「笹原先輩とずっと一緒に居たい」という欲求を細かく具体的に解析するとこうなるというだけだ。 荻上さんは決心した。 夏コミで自分の同人誌を売ることを決めたあの日、トラウマを抱えつつも一生ヤオイ道を進むことを決心したように。 それに続く2度目の大きな決心。 恋もするしヤオイも続ける、さしずめ乙女道を進むことを。 荻上「昨夜、妹さんが似たようなこと言ってました」 笹原「恵子が?」 驚いて振り返る笹原。 荻上「嬉しい時や楽しい時に一緒に笑い、悲しい時に一緒に泣いてやるのが本当の友だちだって」 笹原「へー、あいつがそんなことを・・・」 荻上「私も恵子さんの言う通りだと思います。友だち以外の人間関係でも、家族とか、仲間とか、(不意に背を向けて赤面し)こっ、恋人の条件も同じだと思いますよ」 笹原「えっ、それじゃあ!」 外のメンバーは、ほっと一安心していた。 咲「やるじゃない、笹やん」 高坂「よかったね、咲ちゃん」 斑目「まあ、よかったじゃないか・・・」 涙ぐむ大野さん。 バンダナを渡す田中。 恵子「ったく、手間かけさせやがって(涙ぐむ)」 ハンカチを渡す咲。 咲「お手柄じゃないか。やっぱ兄妹だな」 恵子「(苦笑して)偶然だよ偶然」 朽木「オロロローン!(男泣き)」 咲「お前もかよ!」 合宿の後、笹荻は今までの遅れた分を取り返すかのようにデートを繰り返した。 もちろん密かにげんしけんメンバーたちも、その度にこっそり付いてきた。 「そこだ、一気に押し倒せ!」「何やってんだ、そのまま連れ込んじまえ!」 決して本人たちには聞こえない野次を受けつつ、何度目かのデートで遂に2人は唇を重ねるところまで進展した。 (何度かお互いの部屋には行ってるが、泊まってないので最後の一線を越えたかは不明。ちなみにクッチーが盗聴を試みようとしたが、さすがに止められた) そして学祭。 今回は笹荻成就記念という意味合いで、カップルでのコスプレ撮影会となった。 お題は荻上さんの希望を入れて「ハレガン」となった。 大野・田中カップルは、大野さんが巨乳の人造人間コス、田中はハゲヅラを被って大食いの人造人間コスをやることになった。 (ちなみに田中はこの2年ほどで何故か痩せたので、胴体はかなり綿入れしてボリュームを出している) 本来なら咲・高坂にもやってもらう予定だったが、高坂が急ぎの仕事の為に来れないので、結局咲ちゃん1人で目付きの鋭い女性の軍人さんコスで受付をやることで落ち着いた。 (笹荻成就記念の縁起物という名目で、大野さんに押し切られた) その代わり(なのか?)斑目も殉職して准将になったメガネの軍人さんコスで受付その他を手伝うことになり、上司を密かに慕う女軍人と愛妻家の軍人の珍カップルの受付と相成った。 久我山は仕事だったが、時間があったら立ち寄るとのことだった。 恵子は来る予定だが、寝坊したので後で来るとのことだった。 そして我らが笹原・荻上カップルは、笹原が火とんの術使いの大佐コス、荻上さんは赤いコートに義手の主人公の錬金術師のコスをやることになった。 ちなみにクッチーは、主人公の弟の鎧コスでプラカードを持って学内を練り歩いていた。 そしていよいよ笹荻の出番。 金髪の三つ編みのヅラを被った荻上さんには、自分嫌いを克服したことによる自信に裏打ちされた妙な迫力と、不思議な可愛らしさが同居していた。 笹原も不思議と軍服が似合い、ちょっと顔を引き締めると今にも焔を出しそうな雰囲気を醸し出していた。 田中「いやーここまで似合うとは思わなかった」 大野「2人とも素敵ですー」 咲「笹やん男前が上がったじゃん」 斑目「荻上さんも・・・何か似合うね」 撮影会を待っていたカメコたち(女性もけっこういる)からも歓声や溜め息が聞こえた。 「荻上?」 聞き慣れない声が響いた。 いや、正確には「笹荻2人以外には」と頭に付けるべきか。 声の主は中島だった。 傍には夏コミの時に一緒にいた帽子の女と、肥った眼鏡の女がいた。 中学の文芸部のメンバーだ。 笹荻の顔色が変わる。 他の一同も異変に気付く。 中島「何そのかっこ、コスプレ?もしかしてハレガン?」 帽子「へー似合ってるじゃん」 眼鏡「わーすごーい」 中島「ヤオイの方は相変わらずと思ったら、今度はコスプレ?あんたも好きだねえ」 その口調には揶揄が感じられた。 咲「どうする?追い出すか?」 斑目「まあ待ちなよ、騒ぎになったらまずい。それに・・・」 咲「それに?」 斑目「あいつらの顔見なよ」 笹荻両人の表情は硬かったが、決して中島たちに怯えた様子は無かった。 斑目「ここはしばらく2人にまかせてみよう。(カメコたちに)すんませーん、ただ今取り込み中ですので、大佐たちの方はしばらくお待ち下さい。(大野と田中に)ちょっと間もう1回出ててよ」 撮影会場に再び出る大野さんと田中。 カメコA「あのーすんません、出来たら准将と中尉もお願いできますか?」 斑目「俺?」 咲「准将と中尉って?」 斑目「俺と春日部さんのこと!しゃあない、時間稼ぎだ、出るぞ!」 咲「えっ?ちょっ、ちょっと!」 斑目にしては珍しく、強引に咲ちゃんの手を取ってカメコたちの前に出る。 咲「ちょっ、ちょっとだけタンマ。(携帯を取り出して操作し)あっクッチー、今どこにいる?・・・随分端まで行ったな。まあいいや、急いで戻って来て!・・・後で話すから!今こっち取り込み中で人手足んねえんだよ!急げ!」 撮影会場の片隅で対峙する笹荻と中島軍団。 荻上「今度会った時に訊こうと思ってたんだけど・・・」 中島「なーに?」 荻上「あんたら巻田君のこと、どう思ってんの?」 固まる帽子と眼鏡。 中島「まきた?(しばし沈黙)あー巻田君ね。あれは笑ったわよね。ちょっと洒落んなってねけど」 同意を求めるように連れの2人を見る中島。 帽子「そっ、そうよね。笑っちゃうよね」 眼鏡「洒落なってねよね」 荻上さんの目付きが険しくなった。 この中島たちの返事で、荻上さんの中で5年前の出来事への決着がついた。 あの出来事が中島たちの仕業なのか不幸な事故なのかは、もうどっちでもよかった。 ただ彼女たちが巻田に対して、少しでも反省や後悔や同情の念を持っていてくれていれば、もうそれは問わず全て水に流そう、そして全ての罪は私が負って生きていけばいい、そう思っていた。 中島たちにとっても、巻田は大事な友だちだったはずだ。 その友の為に少しでも泣いてくれる気持ちがあれば、そんな僅かな希望を持っていた。 だが彼女たちにとって、巻田は遠い過去の他人事に過ぎなかった。 荻上「悪いけど帰ってくれる?」 中島「えっ?」 荻上「ここはあんたらみたいな、一般人だかオタだか分かんない半端な腐女子が来るとこじゃない。ここは一生オタク道を行く覚悟を決めた連中の集まるげんしけんなの。もう私とあんたらは、住んでる世界が違うのよ」 さすがに戸惑う帽子と眼鏡。 帽子「荻上―何言うのよー」 眼鏡「そーよー、友だちでねの、あたしら」 中島も明らかに戸惑っていた。 一言二言何か言ってやれば水面の木の葉のように心を揺らす、玩具のような存在と認識していた荻上さんからの思わぬ強気発言は、全くの想定外だった。 中島「(笹原をチラリと見て)何よ、何で今さら巻田君の名前なんて出すのよ。いいの?カレシの前で昔のことなんか言って・・・」 笹原「(中島の言葉尻に被せるように)知ってるよ、荻上さんから聞いた」 中島「何?あんた荻上がヤオイだって知ってて付き合ってるの?」 笹原「いけない?」 堂々とした笹原の態度に、またもや意表を突かれる中島。 ここで「今日はこの辺にしといてやるよ」ってな感じでクールビューティー気取って退散すれば、全て丸く収まったかもしれない。 だが相手を見下して余裕たっぷりな態度の悪役ほど守勢に回ると打たれ弱いという、古今東西多くの悪役に当てはまる法則に中島も該当した。 夏コミで会った時には自分の精神攻撃でどうにでもなると思っていたヌルそうな男と、かつてはその心を玩具にしてズタズタにして楽しんだ女。 その2人が、凛とした態度で受けて立っているという全くの想定外の事態に彼女の脳の冷徹な悪魔回路がショートし、彼女らしからぬ露骨な悪態をつき始めた。 中島「何よ、あんたこの女がどんな女か知ってるの?抜け駆けして男作るような奴だよ!そんな女の言うこと信じてるんだ。男たらし込む為に嘘ついてるに決まってるじゃない!バッカじゃないの?」 笹原「何だと・・・」 笹原の大佐そっくりのマジ顔にビビる帽子と眼鏡。 帽子「なっナカジ・・・」 眼鏡「まずいよ」 中島「荻上も荻上さ。あんたみたいなキモい趣味の腐女子と付き合う男なんて、ただやりたいだけのロリコンの変態に決まってるじゃないか!」 荻上「なっ・・・」 いつの間にか撮影会は中断され、げんしけんメンバーもカメコたちも、ことの成り行きを見守っている。 荻上さんと笹原は、同時に中島との間の距離を詰めた。 格闘技漫画などによく出てくる、双子キャラのように息の合ったタイミングだった。 それを招いたのは他ならぬ中島だった。 彼女は2つ間違いを犯した。 1つ目は先に笹原に噛み付いたことだ。 比較的温厚で落ち着いていて女を殴ることにタブー意識の強い笹原は、言われた瞬間にはキレなかった。 一方荻上さんは言われた瞬間にキレた。 その瞬間に笹原も一瞬遅れてキレたので、結果的にダブルでキレることになった。 2つ目の間違いは、笹原に荻上さんの、荻上さんに笹原の悪口を言ったことだ。 笹原は荻上さんを嘘つき呼ばわりしたことに、荻上さんは笹原を体目当てのロリコン扱いしたことにそれぞれキレた。 自分になら何を言っても構わない、だが、愛する人を悪く言うことだけは許さない。 愛の戦士と化した2人は、凄まじい加速を伴って中島に迫った。 2人が間合いに入り、怒りの拳を振り上げた瞬間、横合いから走り込む影があった。 恵子だった。 それに気を取られ、勢いをそがれて停止する笹荻。 恵子「なかじまー!」 恵子はその走る勢いの殆どを右拳に乗せて、怒りの絶叫と共に中島の横っ面に叩き込んだ。 中島はきれいに壁まで吹き飛んだ。 その傀儡の帽子と眼鏡は完全にビビって固まっていた。 恵子「感謝してよね!あたしが殴んなかったら、あんたあの2人にフクロにされてたよ!」 上半身を壁に預ける格好で、呆然と恵子を見上げる中島。 恵子「2度と2人に近付くな!!今度てめえら見たら、マジブッ殺す!!」 サムダウンのポーズと共に、啖呵をきる恵子。 悲鳴を上げて電流に打たれたように立ち上がり、出口に逃げ出す中島。 帽子と眼鏡も後に続く。 続いて恵子も出口に走り、廊下を走り去る3人に追い討ちをかけるように絶叫する。 恵子「お台場にも来んなよ!!来たらす巻きにして東京湾に放り込んでやるからな!!顔は覚えたからな!!」 その恵子の横を、何故か鎧コスのクッチーが走り去り、3人が消えた方へと向かった。 騒ぎがあった時、クッチーはちょうど撮影会場に戻ってきたところだった。 突然出口から見知らぬ女が3人出てきて走り去り、その後を追って出てきた恵子が何か叫んでる。 構ってもらったり、命令されたりすることに喜びを感じる、そんなクッチーは精神構造が犬に似ていた。 そのせいか物事や人の善悪には意外に鼻が利いた。 新人勧誘の際にコス泥棒に気付いたのもその為だ。 (まあそのくせ自分の言動の善悪には無頓着なのがクッチーのクッチーたる所以だ) そんなクッチーには、逃げた3人は追うべき対象に見えた。 それに元々犬には、自分の目の前で走る者を追う習性がある。 こうしてクッチーの大追跡が始まった。 中島軍団はライトな腐女子だからハレガンぐらいは知っている。 それでも鎧の弟君コスが「にょにょにょー!!」と奇声を上げながら追いかけて来れば怖い。だから必死で学外まで逃げた。そうなればクッチーも意地になって追う。 鎧コスのハンディの分なかなか追いつけないが、振り切られることも無くクッチーは1時間以上も3人を追い回し続けた。 そして見失った時には道に迷ってしまい、結局近くの交番に保護された。 笹原「恵子・・・」 荻上「あのー・・・」 咲「ほんとにやっちまったな、このバカ」 恵子に近付く笹荻と咲ちゃん。 恵子「おっと、礼も説教も聞かないよ。あたしはあたしの気持ちのまんまのことをやっただけだ。やり方は知んねーけど、気持ちは間違ってない。だから礼には及ばないし、説教される筋合いも無い。」 笹原「そうか・・・ならいい」 咲「お前が後悔してないなら、それでいいさ」 無言で進み出て、義手を模した右手を差し出す荻上さん。 恵子もそれに応えて右手を差し出して握手する。 恵子「痛てて!」 互いに手を引っ込める2人。 荻上「大丈夫?」 恵子の右の拳は軽く出血していて、よく見ると腫れていた。 鍛えていない拳で思い切り殴ったので傷めたのだ。 (空手家ですら、人の頭を殴ると拳を傷めることがよくある) 殴った時はアドレナリンが分泌していたから痛くなかったのだ。 恵子「(拳を見て引き)・・・見なかったことにしよう」 一同「するのか!!!」 廊下の方から喧騒とドヤドヤという足音が聞こえてきた。 恵子「(廊下を見て)やべっ、自治会の連中だな。トンズラしなきゃ。(カメコたちに)いいかお前ら、あたしはたまたま通りがかって話を聞いて、ヤマカンで悪い方を決めてブン殴った部外者だ。ここの連中とは全く関係ねえ。分かったか?!」 カメコA「・・・あれっ、今のってアトラクションですよね?」 カメコB「そうですよね、いやー迫力のある芝居でしたね」 カメコC「そうそう、新手のドッキリだよね?」 ニヤリと笑うカメコ一同。 どうやら彼らなりに事情を悟り、このサークルが迷惑しないようにという恵子の意図を理解したようだ。 恵子「(カメコたちに)サンキュ!(笹荻に)じゃ後はよろしくなアニキ!千佳姉さん、アニキのこと頼んだよ!」 走り去る恵子。 それを笑顔で見送る一同。 カメコたちの証言のフォローもあって、この事件はげんしけんの届け出無しのアトラクションとして、後で自治会から厳重に注意されたが、さしたるペナルティも無く無事に処理された。 これでもう2度と中島たちは笹荻の前に現れることは無いだろう。 仮に現れても笹荻は自力で撃退するだろう。 いや、それ以外のあらゆる障害や困難に対しても、2人は果敢に立ち向かえるはずだ。 何故なら2人は、お互いの為になら何時でも愛の戦士になれるのだから。
*その六 夢を見た【投稿日 2005/12/04】 **[[カテゴリー-2月号予想>http://www7.atwiki.jp/genshikenss/pages/55.html]] 皆が寝てしまった深夜のロッジだが、荻上は一人起きていた。 過去を語って泣いてしまったあと、他の者には気丈に振る舞い、 男性メンバーも交えて談笑したあと就寝となったのだが、やはり眠れないのだ。 ノートを取り出し、過去の友人や今の仲間の絵を描いている。 といっても泥酔近いのでぐちゃぐちゃだ。それを直して…という事を繰り返している。 荻上「私が駄目だったんだァ…。でももう引き返せね…。」 独り言まで出ているが、ワインをかなりのスピードで飲み トイレに行ってはリバース。なんという飲み方だろう。 今時の体育会系でもそんな技を実践している所は少ない。 小柄な割りにリセットを多用したこともあり、また肝臓が強いのだろう、 明け方に咲がトイレに起きた時、まだ荻上は飲んでいた。 咲 「うわ、オギーまだ飲んでたんだ(汗)」 荻上「あー、ろうも…なんふぁ眠れなふて…」 咲 「ついててやるから、もう寝なよ」 荻上「すみあへん…」 ろれつが回っていない。そして表情はとても暗かった。 ぐにゃぐにゃになっている荻上に水を飲ませ、ベッドまで荻上を 連れていくと、嘔吐窒息予防で横向けに寝かせた。 咲 「大丈夫かい、飲みすぎだよ」よしよし… 荻上の頭をしばらく撫でている咲だが、 荻上「すいあせん…もうらいじょぶですから…ひとりで…」 と繰り返す荻上に、逆に落ち着かないか…と思って一旦離れた。 荻上はその後、独り涙を流しながら眠りに落ちていったのだった―――。 翌朝、というか1時間後。 田中が始発近い新幹線に乗ってやってきた。 皆が起きても、荻上は眠りについてすぐだ。しかも在庫の酒を 空にしてしまっている。 今日は起きれないことは明白だったし、起きたら介抱が必要だろう。 大野は、昨夜の話と、泣きながら眠る荻上を見て、今すぐ 笹原に荻上を救出させねば!と決意を固くして、笹原を ロッジの外へ連れ出した。 大野「笹原さん、荻上さんはこのままじゃ幸せになれません!」    「そんな訳にはいかないんですよ!」 笹原「え、ちょっとどうしたの…?まあ介抱は必要だけどさ」 大野「もう、何を呑気な…。いいですか、笹原さん…」 過去のいきさつを説明する大野。 笹原「なるほどね…」 笹原『そうか…避けられてたのは、そういう事か…』    『性格だと思ってたなんて、俺は―――。』 大野「どうなんですか、笹原さん。荻上さんの事が」 今まで淡々と語っていた大野だが、抑えていたものが溢れる。 大野「荻上さんの事が、好きなんでしょう?」 真剣な眼差しが笹原を射る。 笹原「うん、好きだよ。何があっても。」 笹原の方も真っ直ぐな視線で…いや、より強い意志が瞳に宿っている。 大野は安心と同時に、弱すぎると思っていた 笹原の強い瞳に少し驚き、後ろを向いてロッジに帰り始めた。 大野「じゃあ今日は、荻上さんの事、任せましたよ」 笹原『何があっても…。そう、荻上さんが幸せになるには、望んでいるのは何なのか。』    『初恋と、自分の業、そして傷つけた罪の意識、か―――。』 森を見やる笹原。夏空がその上に広がる その後、田中と大野、高坂と咲と恵子、斑目とクッチーが それぞれ出かける姿があった。 見送っているのは笹原が一人。 3人で出かける咲を見て、心なしか斑目は気が楽になった表情だが それは一瞬のことで誰も見る者は無かった。 いや、見られる斑目では無いだろう。 皆を見送った笹原は、荻上の傍に座っていた。 眠りが浅いのか、寝返りをうったり何やら寝言が漏れたりしている。 夢でも見ているのだろうか。 手持ち無沙汰になった笹原は、ふと荻上の眼鏡を掛けてみた。 笹原『うわ、クラクラするな(汗)!これはかなり度がきつい』 そんな事を思いつつも、荻上の眼鏡は少し嬉しい笹原だった。 真剣に悩んでいても、嬉しいものは仕方ない。 経験が無いぶん、未だに思春期真っ盛りか。 いや、触れられる事だけで嬉しい、これが原動力でも有るだろう。 その頃、荻上は夢の中に居た………。 801コピー誌事件のあと、荻上は家族内でも一度叱られたあとは 責められ続けはしなかったが、家庭も居心地の悪いものだった。 そして全校生から「ホモ上」。かつての文芸部仲間とも 表面的には親しくしていても、しこりは消えるものでは無い。 そんな時、転校した巻田が何故か学校に戻って来た。 夢の中なので整合性は取れてないが、転校した立場だがここに居る。 荻上はとにかく謝りたかった。 荻上「あ…あの、巻田君…。」 話しかけようとすると、巻田は冷たい視線で遠ざかってしまう。 しかも、周りの同級生達も、近づく事を妨害してくる。 男子「ホモ上、お前なにしてんだぁ。」 女子「ホモ上さん、あんた今更ずうずうしいべ。」 悲嘆に暮れる荻上は、階段の踊り場で坊主の同級生に声をかける。 坊主「俺もオメの事、許せないし気持ち悪いと思ってる。    けんど、謝りたいっていうのはよく解った。    呼んでくるから待ってろ。」 階段で待ち続ける荻上だが、息苦しさがどんどん増してくる。 誰がどう見ても、倒れる寸前だ。しかし巻田は来ない。 ついに荻上は気が遠くなり、その場に座り込んでしまった。 巻田「あ…!荻上さん、大丈夫・・・!? 保健の先生呼んでくるから」 荻上はその声を遠くに聞いたように感じた。 荻上「あ、巻田くん…。」 不意に発せられた声に笹原は驚いた。 眼鏡をかけたまま、見ると荻上がこちらを見ている。 荻上「巻田くん、運んでくれてありがとう」 笹原『巻田君って、中学の…!しかし寝ぼけてるんだよな…?』 荻上「やっと話を聞いて貰えて良かったぁ。」 笹原「大丈夫?荻上さん。寝ぼけてる?」 荻上「や…私は大丈夫…。それよりも、話を聞いて。」 笹原『どうしよう…。いや、気がすむなら…話を合わせよう。』 笹原「うん、話してよ、荻上さん。」 ぼんやりとしか見えない笹原を巻田と勘違いした荻上は、 夢の中の続きのままに話しかけ続けた。酒も抜けてない。 目はなんとなく笹原に向いているが、ほとんど見えてないだろう。 荻上「ほんと、私のせいで…私の絵で、ひどい事しちゃってごめんね。    謝って済むもんじゃないし、言い訳も出来ないし。」 笹原「うん…。いいよ。」 笹原『どうする…?夢の続きかも知れないけど、荻上さんは今、    中学時代に戻ってる。俺は巻田君か。』 荻上「ううん、よくないよ。気持ち悪いよね。でも、あれが私…    本当の私なの。」 笹原『中学の時の後悔している事を、和らげられたら良いんだけど…。    せめて今の眠りの中だけでも。』 荻上「こんな事なら、巻田君から付き合ってって言われた時に    断っておけば良かったね。こんな気持ち悪い子。」 笹原「そんなこと…。」 荻上「今、大丈夫になった?今でも傷ついたままだったらどうしよう…    そればっかり気になって…。」 笹原『これは、もう大丈夫としか言う他ないな…』 笹原「うん、もう気にしてないから心配しないでよ。」 荻上「良かったぁ…!ほんとごめんね。それでもやっぱり、ありがとう。    こんな私でも、付き合ってって言われて嬉しかった。」 笹原「うん、そりゃ…好きだから。荻上さんこそ大丈夫?」 笹原は、自分の気持ちと、巻田に対する気持ちが複雑に胸中で渦巻く。 汗が滲んでいるのは冷や汗だろうか。 荻上「うん、ありがとう。私、もう大丈夫だから…。安心したから…。」 笹原『どうなんだ?荻上さんが中学生だとしたら…何を望んでいるんだ?』 笹原「良かったらさ、また仲良くしてよ。一緒に帰ろう。」 荻上「え…!」 しばしの沈黙。 笹原『あれ?どうしたんだ…?目が覚めたか寝ちゃったかな?』 荻上「巻田君は…転校先で幸せになってるんだよね?私は…私も…。」    「私も、好きな人が出来たんだよ…!まだ憧れてるだけだけど…。」 笹原『ええーーーっ!!』 荻上「私みたいな趣味の子から巻田君は離れられるんだから、幸せになってよ。」 笹原「え、いや…うん。」 荻上「私はどうなるか解らないけど、ひょっとしたらって…。」    「や…どうにもならなくても…ほんとに好きなものは離れられないし…。」 笹原「荻上さん…。」 どう受け答えしたものか、笹原にはどうしようも無くなってしまった。 荻上「………スー…スー…」 荻上はちょうど、また眠り始めたようだ。 笹原は溜息をついた。汗びっしょりである。 眼鏡を拭いて横に戻した。 笹原『巻田君が今、幸せになってるかどうか俺には解らないけど…。』    『癒えない傷じゃないと信じたいな。せめてその後一生801に無縁なら…。』 眠る荻上の肌布団をかけ直す。軽井沢なので涼しいし 泥酔していると体温調整もあまりされていない。 荻上の頬に触れると、しっかりと温かい。大丈夫なようだ。 笹原『俺は、彼女の趣味を、全て受け入れられるだろうか…。』    『俺が会った荻上さんは、801好きで、過去に傷つけた事に傷ついて…。』 荻上の寝顔を見つめる笹原の表情には、決意と少しの自信が覗えた。 笹原『恋愛経験、付き合った経験は無いから、何が不安かすら実感無いけどね。』    『でも、俺も荻上さんが好きなんだ!これからもずっと…。』 結局、トイレに2回ほど起きただけで、荻上は夕方まで寝っぱなしだった。 荻上は夢のことはぼんやりとしか覚えて居ないし、笹原と会話したとは思ってなかった。 翌日の飲み会では荻上はもちろん禁酒だった。 しかし早朝に咲が見た時のような影はもう無い。 荻上「あー、もう今日はお酒は要りませんよ。」 一同「あたりまえだ!!」 そして大野や咲に、隅の方でひそひそ話しに引き込まれては責められる笹原の姿が有った。 大野「もう、笹原さん、介抱だけって…!弱すぎですよ!」ヒソヒソ 笹原「え、いや、だってずっと寝てたし…!」ヒソヒソ 前日までは笹原を避けていたが、今日も距離は遠い。 いや、今日は笹原を見ている。その眼差しは和らいでいるようにも 何かの決意があるようにも見えることに、咲は気付いた。 咲「ふふ~ん。」   「ま、じれったいけど、なんとかなるかな…?」 少し微笑むと、咲は高坂傍に座りなおすのだった。

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