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*30人いる!その11 【投稿日 2007/09/24】 **[[・・・いる!シリーズ]] 第8章 笹原恵子の休息 笹原は疲れて果てていた。 同じ派遣会社の編集者が過労で倒れ、本来の担当以外に新たに2人の漫画家の担当を臨時で兼任することになった。 それに加えて、本来担当していた3人の漫画家たちは、各々困ったちゃんと化していた。 A先生は、本格的に新連載の準備にかかっていた。 機銃掃射のように次々とネームを上げ、同時に上機嫌になったA先生は、毎日のように笹原に夕食を奢ってくれるのだが、これがありがた迷惑だった。 A先生が連れて行ってくれる夕食とは、完全に酒席とワンセットであり、しかも彼の旧友である裏社会の住人たちが同席することが多かった。 異常な量の酒を勧められる一方でその筋の客人に気を使う、そんな酒席での笹原は、まるで力道山の付き人をしてた当時のアントニオ猪木のような精神状態だった。 (まあみんな笹原を異常なほど可愛がってくれたので、殴られることは無かったが) あれほど手のかからなかったC先生は、最近ではスランプに入りネームも原稿も遅れがちになり、〆切日は毎回ギリギリの時間との戦いを強いられた。 そして1番の問題児のB先生は、この大変な時期にまたやってくれた。 弟子の漫画家の作品がアニメ化されたことが原因で、今回はかなり本気に近い自殺騒動に発展した。 マンションの自室から飛び降りようとして、本当に落ちた。 幸い足から落ちたので命に別状は無いが、両足の骨折で2ヶ月の入院を余儀なくされた。 しばらく休載かなと半分ホッとした笹原だったが、上司の小野寺はそれを許さなかった。 「足が折れただけで上半身は無事なんだろ?病院で原稿描いてもらえ!」 『鬼だ、この人…』 そんなこんなで、笹原はここ1週間ばかりまともに寝ていなかった。 移動の時間の居眠りを除いては、1日に2時間も寝てない。 荻上会長とも肉声での連絡は取れていなかった。 病院に居る時間が長かったり、ようやくフリーになった時間が夜中や早朝などの直接電話するには微妙な時間だったりのせいで、この1週間ほどの連絡は全てメールで行なった。 そのメールとて忙しかったり意識朦朧としてたりで、ちゃんと全部読んだ自信は無い。 そんな生活が今日ようやく終わった。 倒れていた編集者が復帰し、やっと休みがもらえた。 『本来ならすぐにでも荻上さんに会いに行くとこだけど、今日はとりあえず寝よう』 その一心で笹原は最後の力を振り絞って寝間着代わりのジャージに着替え、床に着いた。 その時玄関のチャイムが鳴った。 「誰だよ、こんな時間に!」 本来朝言うには不適切な台詞を不機嫌そうに吐きつつ、笹原は玄関に向かう。 いつもなら覗き窓から相手を確認しつつ誰何してドアを開ける笹原だが、今回ばかりはいきなり乱暴にドアを開ける。 新聞の勧誘かセールス相手なら、殴りかねない勢いだ。 ドアを開けると同時に、来客は笹原に向かって倒れ込んだ。 「恵子?!」 来客は恵子だったが、笹原が「?」を付けたのには、いきなりの訪問以外にも訳があった。 殴られて青タンが出来たような濃い目の下の隈、死人のような青白い肌、そして笹原の妹とは思えない痩せこけた頬と、一瞬恵子とは分からないほどの変わり様だった。 抱きかかえたその身体は、笹原が感覚的に記憶している恵子の体重よりも軽く感じられた。 「何があったんだ?」 笹原の腕の中で、恵子は目を覚ました。 とは言っても、意識は朦朧としているようだった。 「あっアニキか…すまね…家まで帰って寝る積りだったんだけ…ムリ…寝さし…」 ここまでで恵子は再び意識を失った。 笹原は恵子を部屋に運び込むと、彼女の置いていった恵子専用布団を出してやり、そこに寝かせてやった。 「まあ何があったか知らんけど、あとで起きてから聞いてやるか」 そう思い、再び床に着いた。 だが数分後、「バカヤロー!」という恵子の絶叫と共に飛び起きた。 「なっ、何だ?」 恵子は眠っていた。 「何だ寝言か?」 笹原が安心して再び床に着いた途端、恵子は寝言の続きを叫び始めた。 「何て下手くそな戦い方だ!周りを見てみやがれ!何も守れてねえじゃねえか!」 「これって、何かの台詞っぽいな、何だろ?」 再び床に着く笹原。 だが数分後。 「あすか~~~~~!!!!!!」 再び恵子の絶叫に笹原は叩き起こされた。 「何だ?エヴァ?種死?それともまさか、空手バカ一代?」 そのどれでも無かった。 「2月2日、飛鳥五郎という男を殺したのは貴様か!?」 「そっちかい!」 その後も恵子は、数分ごとに何かの台詞を絶叫した。 「切手のき!吉野のよ!田んぼのたに点々!」 「ば~れたか~!」 「ぬるい!砂糖も多い!ええいっ!」 「生命?生命とは何だ?分からない」 どうも感銘を受けた名台詞というより、印象に残った台詞らしい。 笹原が疲れてるのにすっかり目が冴えて途方に暮れていたその時、電話が鳴った。 国松からだった。 国松「笹原先輩ですか?朝早くすいません。そちらに恵子監督いらっしゃってませんか?」 笹原「恵子監督?どういうこと?」 国松「あの笹原先輩、失礼ですけど恵子先輩が今度うちで作る映画の監督やることになったって話、お聞きになってないんですか?」 笹原「この1週間ほど、荻上さんともメールでしか話してないからね。それも全部ちゃんと読めてる自信無いし…」 国松「そんなにお忙しかったんですか?」 笹原「かくかくしかじかな事情で、マジで忙しかったよ。今日やっと休みもらえて、これから寝るとこ」 国松「そうだったんですか…すいません」 笹原「それはそうと、恵子なら今うちで寝てるよ。何か様子がおかしいんだけど、何があったの?」 国松は事情を話し始めた。 恵子は部室での制作会議の日から、結局ぶっ通しで10日間徹夜でビデオを見続けた。 「ゴジラ」10回鑑賞会の後は、延々と「ケロロ軍曹」を見続けた。 しかもそれと並行して、ケロロの劇中のパロディの元ネタの作品や、休憩中に国松との雑談で出た主要な特撮作品、さらには他の会員推薦のアニメ作品までもクリアして行った。 当初恵子は国松の部屋に無い作品については、国松が他の会員たちのとこへ借りに行ったり、他の会員たちが持って来たりしていた。 だがその内それも面倒になり、自分で見に行った方が早いとばかりに、恵子自らビデオの持ち主の家に出向き、時間によってはそのまま泊まる、そんな生活を繰り返した。 そして今日の早朝、遂に「ケロロ軍曹」を全話見終った。 (ちなみにこの時点で123話!) 国松「大丈夫ですか、監督?このままうちで休んでいかれては?」 そう言わざるを得ないほど、恵子は衰弱した様子だった。 恵子「ありがとよ。でも今日は帰るよ。たまには自分の部屋でゆっくり寝たいしな。まあもし途中でヤバいと思ったら、アニキんちにでも泊まるさ」 そう言って恵子は引き上げたが、その有線ロケット弾の弾道のようにヒョロヒョロと進む足取りを見送る内に不安になり、念の為電話してきたのだ。 「あの恵子がそこまで頑張るなんて…」 笹原は今回ばかりは素直に感心した。 何事にも根気が無く、怠け者で飽きっぽい恵子。 「(恵子の寝顔を見つつ)そんなこいつが、何でこんなになるまで…何がこいつをそこまで駆り立てたんだ?」 国松「これは私の個人的な推測なんですけど」 笹原「何?」 国松「もしかしたら恵子先輩は、現視研に自分が居たという足跡を残したかったんじゃないでしょうか?」 笹原「足跡?」 国松「恵子先輩は椎応の学生じゃないから、公の記録には名前は残りません。今回の総監督就任は、先輩にとって現視研に名を残すチャンスと考えたんじゃないでしょうか?」 笹原は絶句した。 お気楽で、軽くて、何事にも深く関わろうとしない、そんな風に笹原が捉えていた恵子像が覆されたからだ。 『こいつの中で現視研は、そこまで重い存在になっていたのか?…』 その後笹原は、国松から恵子の寝言の元ネタを聞き出し(全部特撮の台詞だった)、恵子が世話になったことに礼を言って電話を切った。 恵子は先程までよりはペースが落ちたものの、相変わらず何かの台詞を叫んでいた。 特撮の台詞だけでなく、アニメの台詞も混じり始めていた。 『まあ今のところ、こいつが何考えてんのか分かんないけど、とにかく夢中になって頑張ってんなら、純粋に応援してやるか』 そんなことを思いつつ、笹原は恵子の寝顔を見つめた。 恵子は昨夜風呂に入ってメイクを落としてから朝までそのままだったらしく、珍しくスッピンだった。 『考えてみれば、こいつのメイク無しの顔見るの、久しぶりだな』 厳密には恵子の入試の時他、笹原の部屋に恵子が泊まった日には見ているのだが、ここまでしげしげと眺めることは無かったので、彼にはえらく久しぶりに感じられた。 『ちょっと…可愛いかな…』 一瞬そう感じた笹原、慌てて自分の中でそれを否定した。 『ばっ馬鹿な、俺が妹萌えなんて、そんなのあり得ねえ!』 「お兄ちゃん…」 そんな笹原の気持ちを見透かしたかのごとくタイミングで、恵子が寝言を呟いた。 飛び上がりそうになって驚く笹原。 「何だ寝言か、脅かすなよ」 そう言いつつも笹原、一瞬ちょっと胸キュンぽい気持ちになった。 『こいつも昔は俺のこと、お兄ちゃんって呼んでたんだよな。確か小学生ぐらいまでだったかな?』 笹原の脳内に幼い恵子の記憶が蘇り、ちょっとノスタルジックな気持ちになる。 だが次の瞬間、恵子の寝言が笹原のノスタルジーを木っ端微塵にした。 「亜美、飛んじゃう…」 珍しくガターンとギャグ漫画のようなコケ方をする笹原。 「そっちかい!て言うか1年の子たち、どういう基準で恵子にビデオ薦めたんだ?あれはさすがにケロロのネタには無いだろう…」 その後も笹原は、恵子が相変わらず台詞の絶叫を繰り返す為に眠れなかった。 「あっ荻上さん?俺、笹原。久しぶり…実はかくかくしかじかな事情で、泊めて」 結局笹原は荻上会長に連絡し、恵子に合鍵と置手紙を残して荻ルームへと避難した。 そんなささやかな戦果を知ることもなく、恵子は眠り続けた。 次回予告 何時になったらクランクインするんじゃい、ゴラァ! というお叱りの声もそろそろ出そうな今日この頃。 次回は気になる映画の準備状況をお知らせします。 (と言うことは、次回でまだ撮影始まらないのね…) [[30人いる!その12]]に続く

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