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*30人いる!その5 【投稿日 2007/08/19】 **[[・・・いる!シリーズ]] 第5章 笹原恵子の覚醒 ゴジラが今日(厳密には2日に渡っているが)7回目の白骨化をして海に沈む頃、50レス近くにも及んだ恵子の長い長い回想は終わった。 とは言っても、7回目のゴジラを見ていなかった訳では無い。 さすがにうんざりして多少よそ見をしつつも、何故か画面から完全に目を外すことは出来なかった。 それは必ずしも義務感だけでは無かった。 かと言って、この歳になっていきなり特撮に目覚めてハマったという訳でも無い。 自分自身でも分からない「何か」に引き寄せられるように、恵子は見続けていた。 一方外人コンビは時差ボケのせいもあってか、さすがにウトウトとし始めた。 2人ほどでは無いが、国松も眠そうだ。 眠そうながらも押入れから予備の布団を出して敷く。 「はいはい、スーちゃんはベッドね。そしてアンジェラは、ベッド小さいから布団で我慢してね」 言いながら2人を誘導する。 恵子「お前も寝ていいぞ、千里」 国松「私はもうちょっとご一緒して解説しますよ」 恵子「いいから寝な。もう4回も聞いたから解説はいいよ。こっからはあたし1人で、あれこれ考えながら見るから。それにお前、明日朝から出かけるんだろ?」 国松「…分かりました」 納得した国松、押入れから寝袋を出した。 恵子「よくそんなの持ってるな。お前も登山か何かやるのか?」 国松「これは防災用ですよ。阪神大震災があった時に、父があれこれ防災用品を買ってきて家庭用の防災セットを作ったんです」 恵子「で、それをこっちにも持って来たと」 国松「そうです。あっ、もうひとつ出しときますから、恵子さんも眠くなったら使って下さい」 恵子「ふたつもあるのか?」 国松「スリーシーズン用と耐寒用です。私耐寒用使いますから、恵子さんスリーシーズン用使って下さい」 恵子「冬用じゃ暑いだろ?」 国松「チャック閉めずに前開けときますから大丈夫ですよ」 恵子「いいよあたしは寝ないから。暑くない方使っとけ」 国松「でも…」 恵子「いいから!どうしても眠くなったら、座布団全部借りるから。あとはでっけえバスタオルでも出しといてくれりゃいいよ」 結局恵子に押し切られる形で、国松はバスタオルを出して恵子に渡し、スリーシーズン用の寝袋で床に就いた。 早朝、国松は目を覚ました。 高校時代、柔道部のマネージャーをやってて朝練に参加してたせいもあって、国松はオタクには珍しい朝型人間である。 普段はこの時間、ランニングするのが習慣になっていた。 だが今朝は4人分の朝食を用意しなければならないので、さすがにそれは中止する。 そして朝食を用意すべく台所に向かおうとしたが、ふと恵子が気になって見に行く。 「ひっ?!」 思わず悲鳴を上げてしまう国松。 恵子は毛布代わりのバスタオルを肩から被り、テーブルに突っ伏していた。 だが眠ってはおらず、目は見開いていた。 ただしその目には黒目が見えず、白く光っているように国松には見えた。 国松の声に反応して恵子が声をかける。 「よっ、おはよ。もう起きたのか」 「おっ、おはようございます。朝御飯の用意しようと思って」 「すまねえな」 「あの、恵子先輩、10回見たんですか?」 「見たよ。もっとも10回目のはあんまし覚えてないから、ひょっとして寝ちまったかもな。そんで念の為もう1回見といたよ」 国松は自らの背筋がザワッと音を立てるのを感じた。 「1回余分に見たんですか?」 「まあ完全にじゃないけどな。気になるとこ中心に飛ばし飛ばしでな」 「…」 「いやあ久々にやると、徹夜も何か気持ちいいな。まあ昔は徹夜でカラオケとか渋谷徘徊とかやったけど、またそれとは違う気持ち良さだな」 「…」 「それにしても変な感じなんだよな。頭ん中いろんなシーンがずーと動き回ってて、なかなか止まんねえんだよ。受験勉強の時だって、こんなに頭動かんかったのにな」 「…朝御飯、用意しますね」 『何だろう、この感じ?もうDVD止めたのに、頭ん中じゃずっと再生されっ放しだ。それも多分、全部の場面がいっぺんに…』 恵子自身は気付いていないが、彼女の脳内では今、猛烈な勢いで脳内麻薬エンドルフィンが分泌されていた。 エンドルフィンは人間が苦痛を無視して運動や苦行を続けると、その脳内で分泌されて苦痛を快楽に変えてしまう。 俗に言う、ランナーズハイとか悟りを開くとかがそれである。 恵子の場合は、エンドルフィンが脳そのものを活性化させたのだ。 ただ脳を使い慣れていない為に上手く制御出来ず、脳の回転に思考や感情が追いつかない状態なのだ。 「なあ千里、お前んちにはケロロ軍曹のビデオ、全部あんのか?」 4人で朝食の食卓を囲む中、恵子が切り出した。 国松「ありますよ。途中から見出したんで、最初の方の分はDVDですけど」 恵子「全部で何話ぐらいあるんだ?」 国松「えーと、確か今で2年と半年足らずぐらいだから…」 スー「押忍!次の放送で123話であります!」 国松「だからスーちゃん何で知ってるの?大野さんリアルタイムで送ってるのかな?」 恵子「んなことより123話っつーと、全部見るのに何時間かかる?」 国松「えーと、まともに見れば60時間ぐらいですけど、CMやオープニングやエンディング飛ばせば50時間ぐらいで見れると思いますよ」 恵子「ざっと丸2日ちょっとか…次の制作会議って2日後だったな」 アンジェラ「ひょっとしてケイコ、ぶっ通しで見るつもりあるか?」 恵子「時間が無いんでね」 スー「ナリフリ構ッテランナイノヨ!」 国松「そんな…恵子先輩、昨夜寝てないんでしょ?」 恵子「でーじょーぶだよ。これでもあたし、最高で5日連続で徹夜したことあんだから」 国松「恵子先輩…」 恵子「そういう訳で、スマンけどあと2日ばかし泊めてくんないか?まあビデオ借りてってもいいんだけど、かさばるし行き来する時間がもったいないからな」 国松「(笑顔で)分かりました!」 珍しくマジ顔の恵子のお願いを国松は快諾した。 朝食後、スーとアンジェラは帰国の途に着き、国松も出かける準備を始めた。 今日は日垣と一緒に、ケロロ小隊の着ぐるみの材料を探しに行くのだ。 その為かリュックは、いつも使ってる小さなものではなく、やや大きめのものだった。 その中にスケッチブックやノートやペンケースを入れた。 さらに「ケロロ軍曹」の単行本も持って行こうとして、途中で手を止める 国松「これ持って行っちゃまずいですね。恵子先輩も読みながら見るかも知れないし」 恵子「いいよ、持って行きな。こちとらアニメの方を片付けるのでいっぱいいっぱいだから、漫画の方まで読んでる余裕なんてねえよ」 国松「よろしいですか?でもケロロって同じ話でも、漫画とアニメで微妙に違うから、見比べた方が…」 恵子「安心しな。アニメ全部見たら漫画の方も読むからさ。ただ、いっぺんには出来ねえから今は読まねえだけだよ」 国松「上手く今日材料買えたら、今晩からでもいろいろ試してみようと思います」 恵子「ここでやるのか?それならテープ持ってどっかにふけるけど」 国松「多分日垣君のうちでやると思います。おそらく大半の荷物は彼が持ってくれるでしょうから、うちまで運んでもらうのも気の毒ですし」 恵子「そうか…(ニヤリと笑い)何なら泊まって来てもいいぞ」 国松「(無邪気に微笑み)まさか、今日はまだそこまで本格的にはやりませんよ。材料が上手く見つかるかにもよりますし。夕方には戻って晩御飯作りますから」 恵子『こいつらお互いに意識はしてるみたいだけど、まだそういう方にまでは考えてないみたいだな。敵わねえな、無邪気なやつらには』 こうして国松は、恵子の昼飯と合鍵を残して出かけた。 国松は近所で日垣と待ち合わせをし、電車で都心に出た。 行き先は池袋の東急ハンズだ。 今日のところは、先ずは材料をいろいろ見て回るつもりだ。 そうなると専門的な店に行って、あれこれ見せてもらうのもチト気が引けるし、第一あちこち回ると時間がかかる。 そこでとりあえずハンズで広く浅く見て回ろうという訳だ。 2人は素材売り場であれこれ見て回り、結局ウレタンや布地を数種類買い込んだ。 先ずはそれで試作してみて、使えそうな分を次回は大量に買い込んで本格的に着ぐるみを作ろうというのだ。 2人の間で、ケロロ小隊の着ぐるみの大体の構想は出来ていた。 体は長袖のシャツとタイツをベースに、手足は薄くウレタンを貼り、胴体は厚くウレタンを貼り、全体を着色する。 頭部は古いヘルメットをベースに、ウレタンを貼って着色する。 ある程度頭を大きくしてケロン人ぽくする為と同時に、安全確保の為である。 今回の着ぐるみは単なるコスプレではなく、殺陣を前提にしたスーツだからだ。 それに何と言ってもケロン人に入るスーツアクターは、全員平均より小柄な女の子なのだ。 嫁入り前の娘たちを傷物にする訳には行かない。 ただ、その嫁入り前の娘に自分はカウントしてない(あくまでも気持ちの問題で、自分の分のスーツにもヘルメットは入れるつもりだが)ところが、国松の国松たる所以だ。 ひと通り素材を買い、引き上げようとした2人は、人混みの中に見慣れた人影を見つけた。 田中だった。 国松「こんにちは、田中先輩」 日垣「ちわっす」 田中「ああ君たちか。えらい大荷物だね、今日はどうしたの?」 国松も日垣も、ともにリュックは大きく膨れ、手提げ袋も持っていた。 日垣「見た目は大荷物だけど、実は大半はウレタンなんで案外軽いですよ」 田中「ウレタン?」 2人は田中に、映画のことについて説明し、着ぐるみの材料を買いに来たことを説明した。 田中「前に聞いた話より本格的になってるね。何か困ったことや手伝って欲しいことあったら相談しろよ」 日垣・国松「ありがとうございます!」 国松「そう言えば田中先輩、帰ってらしたんですか、旅行から?」 田中「今日東京に戻って来たとこだよ」 国松「(キョロキョロし)ひょっとして大野先輩もご一緒で?」 田中「うん、今トイレ行ってる」 その後3人は映画の内容について詳しいことを30分近く話し込んだ。 だが大野さんは戻って来なかった。 田中「遅いな大野さん。途中で買い物でもしてるのかな?」 国松「(反射的に腕時計を見て)いけない、もうこんな時間!帰らなきゃ!」 田中「何か他にも用事あるの?」 国松「恵子先輩の夕食の用意しなきゃいけないんです」 田中「あっそう言やさっき泊まってるって言ってたね、恵子ちゃん」 日垣「(腕時計を見て)えーとうちに寄って荷物置いて、軽く材料いろいろ試したら、まあそんな時間だろうね。そんじゃ田中先輩、俺たちはこれで」 国松「大野先輩によろしくお伝え下さい、それじゃ」 立ち去る2人を優しい笑顔で見送る田中。 不意に背後に殺気に似た気配を感じ、素早く振り返る。 そこには全身から妙なオーラを放ち、陽炎でぼやけそうになった大野さんが立っていた。 田中「(一瞬怯え)おっ、大野さん、どこ行ってたの?遅かったじゃない」 大野「ごめんなさい、実はだいぶ前から田中さんの後ろの物陰に居たんだけど、つい話を聞くのに夢中になっちゃって…」 大野さんの放つオーラが、闘気に似たものに変わった。 田中「あの、大野さん?」 大野「私たちが旅行に行ってる間に、こんな面白そうな話が進行していたなんて…フフッ、フフフフフフフフ…」 どうやら現視研の映画制作プロジェクトは、大野さんのコスプレ魂に火を点けてしまったようだ。 次回予告 (長いなあ前フリ、と思わず自己ツッコミ) 遂に内なる監督回路が作動し始めた恵子。 果たして彼女が仕切る、次回の制作会議の行方は? そしていよいよ、不死身のあいつが帰って来る! [[30人いる!その7]]に続く
*30人いる!その6 【投稿日 2007/08/19】 **[[・・・いる!シリーズ]] 第5章 笹原恵子の覚醒 ゴジラが今日(厳密には2日に渡っているが)7回目の白骨化をして海に沈む頃、50レス近くにも及んだ恵子の長い長い回想は終わった。 とは言っても、7回目のゴジラを見ていなかった訳では無い。 さすがにうんざりして多少よそ見をしつつも、何故か画面から完全に目を外すことは出来なかった。 それは必ずしも義務感だけでは無かった。 かと言って、この歳になっていきなり特撮に目覚めてハマったという訳でも無い。 自分自身でも分からない「何か」に引き寄せられるように、恵子は見続けていた。 一方外人コンビは時差ボケのせいもあってか、さすがにウトウトとし始めた。 2人ほどでは無いが、国松も眠そうだ。 眠そうながらも押入れから予備の布団を出して敷く。 「はいはい、スーちゃんはベッドね。そしてアンジェラは、ベッド小さいから布団で我慢してね」 言いながら2人を誘導する。 恵子「お前も寝ていいぞ、千里」 国松「私はもうちょっとご一緒して解説しますよ」 恵子「いいから寝な。もう4回も聞いたから解説はいいよ。こっからはあたし1人で、あれこれ考えながら見るから。それにお前、明日朝から出かけるんだろ?」 国松「…分かりました」 納得した国松、押入れから寝袋を出した。 恵子「よくそんなの持ってるな。お前も登山か何かやるのか?」 国松「これは防災用ですよ。阪神大震災があった時に、父があれこれ防災用品を買ってきて家庭用の防災セットを作ったんです」 恵子「で、それをこっちにも持って来たと」 国松「そうです。あっ、もうひとつ出しときますから、恵子さんも眠くなったら使って下さい」 恵子「ふたつもあるのか?」 国松「スリーシーズン用と耐寒用です。私耐寒用使いますから、恵子さんスリーシーズン用使って下さい」 恵子「冬用じゃ暑いだろ?」 国松「チャック閉めずに前開けときますから大丈夫ですよ」 恵子「いいよあたしは寝ないから。暑くない方使っとけ」 国松「でも…」 恵子「いいから!どうしても眠くなったら、座布団全部借りるから。あとはでっけえバスタオルでも出しといてくれりゃいいよ」 結局恵子に押し切られる形で、国松はバスタオルを出して恵子に渡し、スリーシーズン用の寝袋で床に就いた。 早朝、国松は目を覚ました。 高校時代、柔道部のマネージャーをやってて朝練に参加してたせいもあって、国松はオタクには珍しい朝型人間である。 普段はこの時間、ランニングするのが習慣になっていた。 だが今朝は4人分の朝食を用意しなければならないので、さすがにそれは中止する。 そして朝食を用意すべく台所に向かおうとしたが、ふと恵子が気になって見に行く。 「ひっ?!」 思わず悲鳴を上げてしまう国松。 恵子は毛布代わりのバスタオルを肩から被り、テーブルに突っ伏していた。 だが眠ってはおらず、目は見開いていた。 ただしその目には黒目が見えず、白く光っているように国松には見えた。 国松の声に反応して恵子が声をかける。 「よっ、おはよ。もう起きたのか」 「おっ、おはようございます。朝御飯の用意しようと思って」 「すまねえな」 「あの、恵子先輩、10回見たんですか?」 「見たよ。もっとも10回目のはあんまし覚えてないから、ひょっとして寝ちまったかもな。そんで念の為もう1回見といたよ」 国松は自らの背筋がザワッと音を立てるのを感じた。 「1回余分に見たんですか?」 「まあ完全にじゃないけどな。気になるとこ中心に飛ばし飛ばしでな」 「…」 「いやあ久々にやると、徹夜も何か気持ちいいな。まあ昔は徹夜でカラオケとか渋谷徘徊とかやったけど、またそれとは違う気持ち良さだな」 「…」 「それにしても変な感じなんだよな。頭ん中いろんなシーンがずーと動き回ってて、なかなか止まんねえんだよ。受験勉強の時だって、こんなに頭動かんかったのにな」 「…朝御飯、用意しますね」 『何だろう、この感じ?もうDVD止めたのに、頭ん中じゃずっと再生されっ放しだ。それも多分、全部の場面がいっぺんに…』 恵子自身は気付いていないが、彼女の脳内では今、猛烈な勢いで脳内麻薬エンドルフィンが分泌されていた。 エンドルフィンは人間が苦痛を無視して運動や苦行を続けると、その脳内で分泌されて苦痛を快楽に変えてしまう。 俗に言う、ランナーズハイとか悟りを開くとかがそれである。 恵子の場合は、エンドルフィンが脳そのものを活性化させたのだ。 ただ脳を使い慣れていない為に上手く制御出来ず、脳の回転に思考や感情が追いつかない状態なのだ。 「なあ千里、お前んちにはケロロ軍曹のビデオ、全部あんのか?」 4人で朝食の食卓を囲む中、恵子が切り出した。 国松「ありますよ。途中から見出したんで、最初の方の分はDVDですけど」 恵子「全部で何話ぐらいあるんだ?」 国松「えーと、確か今で2年と半年足らずぐらいだから…」 スー「押忍!次の放送で123話であります!」 国松「だからスーちゃん何で知ってるの?大野さんリアルタイムで送ってるのかな?」 恵子「んなことより123話っつーと、全部見るのに何時間かかる?」 国松「えーと、まともに見れば60時間ぐらいですけど、CMやオープニングやエンディング飛ばせば50時間ぐらいで見れると思いますよ」 恵子「ざっと丸2日ちょっとか…次の制作会議って2日後だったな」 アンジェラ「ひょっとしてケイコ、ぶっ通しで見るつもりあるか?」 恵子「時間が無いんでね」 スー「ナリフリ構ッテランナイノヨ!」 国松「そんな…恵子先輩、昨夜寝てないんでしょ?」 恵子「でーじょーぶだよ。これでもあたし、最高で5日連続で徹夜したことあんだから」 国松「恵子先輩…」 恵子「そういう訳で、スマンけどあと2日ばかし泊めてくんないか?まあビデオ借りてってもいいんだけど、かさばるし行き来する時間がもったいないからな」 国松「(笑顔で)分かりました!」 珍しくマジ顔の恵子のお願いを国松は快諾した。 朝食後、スーとアンジェラは帰国の途に着き、国松も出かける準備を始めた。 今日は日垣と一緒に、ケロロ小隊の着ぐるみの材料を探しに行くのだ。 その為かリュックは、いつも使ってる小さなものではなく、やや大きめのものだった。 その中にスケッチブックやノートやペンケースを入れた。 さらに「ケロロ軍曹」の単行本も持って行こうとして、途中で手を止める 国松「これ持って行っちゃまずいですね。恵子先輩も読みながら見るかも知れないし」 恵子「いいよ、持って行きな。こちとらアニメの方を片付けるのでいっぱいいっぱいだから、漫画の方まで読んでる余裕なんてねえよ」 国松「よろしいですか?でもケロロって同じ話でも、漫画とアニメで微妙に違うから、見比べた方が…」 恵子「安心しな。アニメ全部見たら漫画の方も読むからさ。ただ、いっぺんには出来ねえから今は読まねえだけだよ」 国松「上手く今日材料買えたら、今晩からでもいろいろ試してみようと思います」 恵子「ここでやるのか?それならテープ持ってどっかにふけるけど」 国松「多分日垣君のうちでやると思います。おそらく大半の荷物は彼が持ってくれるでしょうから、うちまで運んでもらうのも気の毒ですし」 恵子「そうか…(ニヤリと笑い)何なら泊まって来てもいいぞ」 国松「(無邪気に微笑み)まさか、今日はまだそこまで本格的にはやりませんよ。材料が上手く見つかるかにもよりますし。夕方には戻って晩御飯作りますから」 恵子『こいつらお互いに意識はしてるみたいだけど、まだそういう方にまでは考えてないみたいだな。敵わねえな、無邪気なやつらには』 こうして国松は、恵子の昼飯と合鍵を残して出かけた。 国松は近所で日垣と待ち合わせをし、電車で都心に出た。 行き先は池袋の東急ハンズだ。 今日のところは、先ずは材料をいろいろ見て回るつもりだ。 そうなると専門的な店に行って、あれこれ見せてもらうのもチト気が引けるし、第一あちこち回ると時間がかかる。 そこでとりあえずハンズで広く浅く見て回ろうという訳だ。 2人は素材売り場であれこれ見て回り、結局ウレタンや布地を数種類買い込んだ。 先ずはそれで試作してみて、使えそうな分を次回は大量に買い込んで本格的に着ぐるみを作ろうというのだ。 2人の間で、ケロロ小隊の着ぐるみの大体の構想は出来ていた。 体は長袖のシャツとタイツをベースに、手足は薄くウレタンを貼り、胴体は厚くウレタンを貼り、全体を着色する。 頭部は古いヘルメットをベースに、ウレタンを貼って着色する。 ある程度頭を大きくしてケロン人ぽくする為と同時に、安全確保の為である。 今回の着ぐるみは単なるコスプレではなく、殺陣を前提にしたスーツだからだ。 それに何と言ってもケロン人に入るスーツアクターは、全員平均より小柄な女の子なのだ。 嫁入り前の娘たちを傷物にする訳には行かない。 ただ、その嫁入り前の娘に自分はカウントしてない(あくまでも気持ちの問題で、自分の分のスーツにもヘルメットは入れるつもりだが)ところが、国松の国松たる所以だ。 ひと通り素材を買い、引き上げようとした2人は、人混みの中に見慣れた人影を見つけた。 田中だった。 国松「こんにちは、田中先輩」 日垣「ちわっす」 田中「ああ君たちか。えらい大荷物だね、今日はどうしたの?」 国松も日垣も、ともにリュックは大きく膨れ、手提げ袋も持っていた。 日垣「見た目は大荷物だけど、実は大半はウレタンなんで案外軽いですよ」 田中「ウレタン?」 2人は田中に、映画のことについて説明し、着ぐるみの材料を買いに来たことを説明した。 田中「前に聞いた話より本格的になってるね。何か困ったことや手伝って欲しいことあったら相談しろよ」 日垣・国松「ありがとうございます!」 国松「そう言えば田中先輩、帰ってらしたんですか、旅行から?」 田中「今日東京に戻って来たとこだよ」 国松「(キョロキョロし)ひょっとして大野先輩もご一緒で?」 田中「うん、今トイレ行ってる」 その後3人は映画の内容について詳しいことを30分近く話し込んだ。 だが大野さんは戻って来なかった。 田中「遅いな大野さん。途中で買い物でもしてるのかな?」 国松「(反射的に腕時計を見て)いけない、もうこんな時間!帰らなきゃ!」 田中「何か他にも用事あるの?」 国松「恵子先輩の夕食の用意しなきゃいけないんです」 田中「あっそう言やさっき泊まってるって言ってたね、恵子ちゃん」 日垣「(腕時計を見て)えーとうちに寄って荷物置いて、軽く材料いろいろ試したら、まあそんな時間だろうね。そんじゃ田中先輩、俺たちはこれで」 国松「大野先輩によろしくお伝え下さい、それじゃ」 立ち去る2人を優しい笑顔で見送る田中。 不意に背後に殺気に似た気配を感じ、素早く振り返る。 そこには全身から妙なオーラを放ち、陽炎でぼやけそうになった大野さんが立っていた。 田中「(一瞬怯え)おっ、大野さん、どこ行ってたの?遅かったじゃない」 大野「ごめんなさい、実はだいぶ前から田中さんの後ろの物陰に居たんだけど、つい話を聞くのに夢中になっちゃって…」 大野さんの放つオーラが、闘気に似たものに変わった。 田中「あの、大野さん?」 大野「私たちが旅行に行ってる間に、こんな面白そうな話が進行していたなんて…フフッ、フフフフフフフフ…」 どうやら現視研の映画制作プロジェクトは、大野さんのコスプレ魂に火を点けてしまったようだ。 次回予告 (長いなあ前フリ、と思わず自己ツッコミ) 遂に内なる監督回路が作動し始めた恵子。 果たして彼女が仕切る、次回の制作会議の行方は? そしていよいよ、不死身のあいつが帰って来る! [[30人いる!その7]]に続く

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