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*「居場所」 【投稿日 2007/06/30】 **[[カテゴリー-斑目せつねえ>http://www7.atwiki.jp/genshikenss/pages/48.html]]  *註 この作品は[[「どうしようもない」]][[「結婚行進曲」]]の続きです。そちらを読まれたほうがより楽しめます。 コンコン。 軽いノックの音に反応して、部屋の中から「どうぞー。」と声が聞こえる。 斑目は、ごくりと唾を呑み込むと、その白いドアを開いた。 『居場所』 「こんにちは。」 ゆっくりと部屋の中へと足を踏み入れた斑目の目に、ベットに座る咲が映る。そして、その横の小さなベットには、産まれたばかりの小さな命が眠っていた。 「来てくれたんだ。ありがと。」 心持ち小さな声で咲が言う。 その顔は、少し憔悴している様に見えるが、幸せそうに輝いている。 「高坂は?」 「家に荷物取りに行ってるよ。」 恐る恐る赤ん坊のベットを覗き込みながら、斑目が聞く。 「昨日産まれたんだって?」 「正確には今日の2時。」 「へぇ……。」 まじまじと赤ん坊の顔を見る斑目。 「えーと、男?女?」 「女の子だよ。名前は今考えてる所。」 感慨深い様な、それでいて苦しい様な感情が、一瞬斑目の心に沸き上がった。 「どうかした?」 斑目の表情が揺れるのを見た咲が訪ねる。 「あー、いや、何か変な感じだと思ってさ。」 焦った斑目が、咲から目を反らしながら言う。 「何が?」 「だってさ、この前まで大学生だと思ってたら、いつの間にか春日部さんが“お母さん”で高坂が“お父さん”なんだぜ?」 「私も今は高坂だけどな。」 ツッコミを入れると、咲はクスリと笑った。 「私も全然実感無かったよ。自分が母親になるなんてさ。 でも……。」 そこで言葉を切ると、咲は優しい微笑みを浮かべて赤ん坊を見つめる。 「この子を産んで、抱いた時に、凄く感動してね。」 誇らし気な咲の横顔を見ながら、斑目は胸がチクリと痛むのを感じた。 我ながらしつこいものだと苦笑する。 「二人に似たら凄い美人になるよな。あ、でも高坂ばりの濃いおたくになったりして?」 ニヤリと笑う斑目の言葉に、咲がギョッとした。 「言うな!私もそれが一番怖いんだ!」 頭を抱える咲を見ながら、斑目はホッと息を吐く。 (普通に話せるじゃないか、俺。) 本当は、まだ怖かったのだ。 自分の気持ちが。 咲への想いが。 「私さ、あんたに合えて良かったよ。」 「へ?」 唐突な咲の言葉に、斑目の動きが止まる。 「真琴とここまでつき合ってこられたのも、あんたと色々言い合って来たおかげだと思ってるからさ。」 「口喧嘩、よくしたよな。」 「うん、真琴には聞けない事も、あんたなら聞けたからね。」 「……。」 斑目は自分の顔が赤くなっていくのを感じた。 そんな風に思っているとは、そんな風に言ってくれるとは考えてもいなかったからだ。 「ま、おたくの友人が出来るなんて、真琴とつき合う前は思ってもいなかったけどね。」 「俺も、別の星の住人と友人になるとは思っていなかったデスヨ。」 「うっわ、おたくくさーっ。」 そう言って、二人で笑う。 斑目は、この心地良いと思える瞬間が、咲にとってもそうである様にと願った。 「うーっ。」 もぞっと動いた赤ん坊が、目を開く。 そして、近くにいた斑目をじっと見つめる。 「起きちゃったか。」 ひょいっと咲が赤ん坊を抱き上げたが、その目は斑目に釘付けだ。 「何?そんなに珍しい顔してるか?」 斑目はそっと赤ん坊の柔らかな頬に触れた。 「あっ。」 その指を、赤ん坊がギュッと握り締める。 思いの外強く握られた手から、暖かさが伝わって来た。 どれ位そうしていただろう。 赤ん坊は突然指を離すと、咲にしがみついた。 「お腹空いたのかな。」 そう言って、咲はチラッと斑目を見る。 「?」 「えーと、母乳をあげたいんだけど……。」 「ああ……。」 暫くの沈黙。 (母乳をあげたいって、母乳……。胸……。) そこまで考えて、斑目はくるりと後ろを向いた。 「じゃあ、俺、これで帰るわ!」 「外で待ってれば?もうすぐ真琴も来るし。」 「いーって、又皆と合いに来るから。」 斑目はそう言って手を振ると、ドアを開く。外へと踏み出しながら、彼は少し立ち止まった。 「春日部さん。」 「高坂だ。」 「俺も、“高坂”さんに合えて良かったよ。」 パタンッと音を立ててドアが閉まる。 残された咲は、少し驚いた顔をして、クスリと笑った。 斑目は真っ赤になった顔をして、早足に病院を後にする。 (言えて良かった……。) ドキドキしていた心臓が落ち着いてきた所で、斑目は立ち止まり、右手を見た。 さっき赤ん坊に握られた指が、まだ熱を持っている様に感じる。 友人だと、言ってくれた。 何の実りも無いと思っていたこの咲への想いの与えてくれた、咲との『居場所』。 それが、此処だと言うのなら、案外幸せな事なのかもしれない。 そう思い、ギュッと右手を握ると、斑目は又歩き出す。 口元に、微笑みを浮かべながら。 終わり

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