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*「どうしようもない」 【投稿日 2007/05/17】 **[[カテゴリー-斑目せつねえ>http://www7.atwiki.jp/genshikenss/pages/48.html]] ザワザワと賑わう居酒屋に、現視研のメンバーが集まっていた。 OBの笹原、斑目、田中、久我山、高坂、春日部と、現会員の大野、荻上、朽木、スザンナ達だ。 笹原達の追い出しコンパ以来、このメンバーが全員集まるのは久しぶりだった。 収集をかけたのは高坂と春日部。 「皆飲み物何にする?」 田中の言葉に皆が酒を注文する中、春日部が一人オレンジジュースを注文した。 「どうかしたんですか咲さん?」 いつもは飲まない物を注文した春日部に大野が聞く。 「私、今酒飲めないんだ」 困った様な春日部の言葉に、高坂を除く全員が目を丸くする。 しかし、大野と荻上は、すぐにその意味を理解した。 「まさか!」 「咲さん?」 全員の目が春日部に集中する。 「あー、うん。今妊娠してる。三ヶ月だって」 照れて赤くなりながら、春日部は自分の下腹を優しく撫でる。 「本当でありますか!?」 「やっぱり。おめでとうございます!」 口々に祝福の言葉が贈られた。 「どうかしましたか斑目さん?」 笹原が隣に座っている斑目に声をかける。 呆然としていた斑目は、我にかえると眉を寄せて苦笑した。 「ははっ、何かびっくりしちまってさ。」 「そうですよね。春日部さんがお母さんかぁ……」 感慨深気に言う笹原に「七ヶ月後だけどね」と春日部がツッコミを入れる。 その光景を見ながら、斑目は笑う自分をどこか遠くで見下ろしていた。 (この滑稽な男は何だろう) 諦められたつもりでいたのに、何故こんなにもショックなのか自分でも分からない。 (希望があるとでも思っていたのか? だからこんなに苦しいのか?) 「近い内に結婚式するから、皆来てね」 笑顔で言う高坂に、斑目は答えられなかった。 腹の底に、タールの様なドス黒い感情が溜っていく。 たった独り、斑目だけが二人を祝福出来ない。 自己嫌悪で今すぐここから逃げ出したくて堪らなくなる。 「トイレ行って来るわ」 いたたまれなくなった斑目は、そう言って席を立った。 (このまま帰る訳にはいかんか……) 用をたした斑目がトイレから出ると、出入口に春日部が立っていた。 どんな顔をして良いのか分からず、斑目は軽く手を上げて前を通り過ぎようとする。 そこに、春日部が声をかけた。 「あんた何変な顔してるの?」 春日部の言葉に、斑目は自分自身の醜さを見透かされた様でドキリとする。 「式絶対来てよ?これでも、皆には高坂の事で感謝してるんだから」 そう言って笑う春日部の笑顔が、斑目にはとても美しく見える。 (幸せそうな笑顔 俺の物では無い 高坂の笑顔) 「もちろん行くよ」 (笑え。笑え) 斑目は自分にそう言い聞かせ、辛うじて苦笑した。 「そ、良かった」 春日部が斑目の横を通り過ぎ、トイレへ入って行く。 斑目は笑顔を作ったまま、皆の元へと帰って行った。 (好きな人が幸せなら、もっと嬉しくてもいい筈だろ?) 独り帰路につきながら、斑目はゆっくりと下を向いて歩く。 かなり酒を飲んだのにも関わらず、まったく酔えなかった。 (そうだ、これで本当に手の届かない存在になったんじゃないか。諦められる!) (諦められる?) そこまで考えて、斑目は自分の胸をギュッと掴んだ。 (じゃあ、何でこんなに苦しいんだよ? 全然平気になんてなってないくせに!) 今までは、確に希望があった。 二人が別れるかもしれないと云う希望が。 しかし、今は違う。 二人の『絆』が確固たる形で体現される。 子供が産まれる事によって。 泣きたかった。 泣いて感情を吐き出してしまいたかった。 しかし、眼は渇くばかりで、腹にはタールが溜り続けている。 「春日部さん……」 斑目の呟きは、道路に落ちて、消えた。

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