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*千佳子の覚醒(後編) 【投稿日 2007/02/02】 **[[カテゴリー-その他>http://www7.atwiki.jp/genshikenss/pages/52.html]] ○第一幕その6 学校の外へ・・・ 斑目は用務員室に戻ると教材業者からの電話を受けた。千佳子が言っていた通り、発注をミスしたとの 連絡であった。ここまでは「予知」の通り。さてこれからどうする? ノートパソコンにメールが届いていた。アンからだった。テレビ電話を繋ぐとアンが起きていた。 斑目『そっちって夜中の三時じゃないのか?寝てないの?』 アンジェラ『ええ、たまった仕事があるから気にしないで』 (・・・嘘だな。すまん・・・。いっそ再会した時になじり倒してくれた方が良かったよ・・・。) 斑目はアンジェラに千佳子の様子を伝えて意見を聞いた。 アンジェラ『うーん、分からない。夢の出来事というのはレム睡眠時の短時間の間に見るものなの。 普通の夢は支離滅裂なんだけど、チカコちゃんの場合は正確な日常を知覚して、その短時間の 情報処理の誤差が「時間差」として認識された? いまいち自信の無い当て推量ね。』 斑目『その当て推量でも無いよりはましだよ。』 アンジェラ『いずれにしてもこれだけ正確な『予知』ができても、その『予知』を修正するにはどういう 行動を取ればいいか、さっぱり分からない。スージーがそばにいてくれないのは痛いわ。』 斑目『スージーを信頼してるんだね。でもいても変わらないよ。』 アンジェラ『いいえ。確かにスージーは非常識な行動を取ると見られる。でもスージーほど人間の 普遍的な常識に正確に対応して、不測の事態に正確無比に行動できる人はいないわ。』 斑目『前の「事件」の指揮のように?』 アンジェラ『ええ。そしてこんな「非常識」に至ってもスージーなら答えを見いだす・・・。私以上に!!』 斑目『そういや双子の母親からも変な話聞いてたな。「修羅場」になって周りが死にそうになってもスージー だけケロッとしてたとか。』 アンジェラ『スーらしいわ。彼女はあれで「巨大な意思と精神」で自分の行動を律してるのよ。』 斑目『そうは見えないけどね。連絡も取れないしー。タイムリープみたいに何回もやり直しできるか 分からないし。まあ何とかがんばってみますよ!!』 アンジェラ『気をつけてね』 通信を切ってからもしばらく斑目はスージーの事を考えた。 そもそも携帯で連絡できる状況にいても、携帯に出ないので有名なんだがなあ・・・。 スージーが誰よりも『常識』的ねえ・・・。でも担当の英語の受け持ち生徒の成績は良いんだよな・・・。 アニメの物まねで生徒の心わしづかみしてるし・・・。他の先生が仕事ぶり真似しようとして失敗してたっけ。 ああいう予測不可能な行動パターンは確かに真似できんわ・・・。 それとも全てを予測しているから、ああいう予測不能な突拍子も無い行動が取れるのか?俺には無理だ。 うーん、このピンチを切り抜ける自信が無くなってきたぞ・・・。 未来が分かっても意外と映画や創作のように上手くそれを活用できないもんだなと斑目は思った。 もっとも俺に限らず凡人ならそんなもんだとも思った。 とにかく外出しなければならない状況にあった。「事件」がたまたま「偶然」に居合わせただけであるなら、 むしろ今のうちに用件を片付けてしまう方が良策に思えた。 どう考えても自分が作為的に殺される理由が分からない。もっとも恨みを買わないように願っても、理不尽 な逆恨みを蒙るのも現実にはある。 (それに千佳子ちゃんを送らなきゃならんしな・・・。) むしろ千佳子を危機から遠ざけるには「運命の時間」が来る前に彼女を自分から遠ざけた方が良いと思えた。 いくら自分が「殺される」とはいえ学校を離れて業務を放り出して家に引きこもる訳にはいかなかったからだ。 斑目は保健室に戻ってベットで休んでいる千佳子に声をかけた。 「千佳子ちゃん、送ってくよ。調子は大丈夫?」 「ええ大丈夫・・・。小父さんは?」 「俺は大丈夫。『例の事件』の時間までには学校に戻れるよ。それで何とかやり過ごせるさ。」 斑目はいつもの弱々しげな自信無げな顔で千佳子に笑いかけた。 「それで・・・大丈夫ならいいんだけど・・・。」 「さあ、俺の車で送ろう。」 斑目は千佳子を連れて業務上の必要から学校にあるバンで学校を出た。もっぱら最近は先生よりも自分が 使う事が多い。 「こんなの学校にあったんだ・・・。」 「まあね、色々先生方も外出する用事もあるし、通勤以外の目的で勤務中に自家用車を使用するのは 色々問題だしねえ・・・。この前なんか給食費の未納、先生と一緒に回収にいったよ!!」 「ええ、小父さんがあ? 取立て~」 今日やっと初めて千佳子が笑顔を見せて、斑目はほっとした。 「なあ!!何で俺が取り立てまでしなきゃいけないんだ? なあ、納得イカンヨ。」 「ホント、クスクス」 「ねえ、この車、千佳子ちゃんのマンションの契約駐車場に止めてもいいかな?」 「いいよ、どうせパパたちいないし・・・」 「そう、悪いね。業者の会社近くなんだけど、車止められないんだよ。 この前、駐禁とられて点数ヤバイんだよ・・・。」 「しょうがないねえ。あら、この携帯のストラップ、見たことないキャラ・・・。」 「あれ? そう? くじあんってアニメのキャラなんだけど、知らない?」 「ううん、あんまりー。駄目よ、小父さん。こんなのにばっかりお金かけているんでしょう?」 「ははっ 千佳子ちゃんにはかなわないなあ。そうか、昔のアニメだし知らないか・・・、ガックリ。」 その斑目の様子を可笑しそうに見て、すっかり和んだ様子の千佳子の姿を見て、千佳子の幼い頃の 事を思い出した。あの当時から、大人ぶって斑目の頭を小さな手で、「いけまちぇん」と叩いたのを 思い出す。 (・・・・はやく、この子だけは危険から遠ざけないとな・・・。) 「あら、着信。」 突然、車の座席の間のフォルダーに入れていた携帯が鳴り出す。 「あれ、誰だろう? 千佳子ちゃん、ちょっと渡してくれない?」 「駄目です!! 運転中の携帯の使用は!!」 そう言って千佳子は携帯を手にとって握りしめた。 「おお、怖い。その通りです。」 「私が出る?」 「いや、いい。どうせ留守電に切り替わるし、急用かかえた身でもないし、後で確認しても遅くない。」 ○第一幕その7 運命の岐路 2026年 x月二十一日 午後1時13分 二人の乗る車は千佳子のマンションにたどり着いた。 そして契約駐車場に車を止めると斑目は言った。 「じゃあ、止めさせてもらうね。管理人さんに一言、言って置けばいいのかな?」 「うん・・・。一応、防犯の為に管理人さんに言っておく規則になってるから。あの管理人さん 規則にうるさいの。」 二人はオートロックの扉を抜けて管理人室を覗いたが管理人は不在だった。 「あれ?見回りに出たのかな?お昼休みかな?」 と千佳子は言った。 「しょうがない・・・。念の為、鍵を預けていくよ。問題があったらそれを管理人さんに渡して。」 「わかった・・・。用事が済んだらすぐ戻ってきて・・・。」と千佳子は心配そうな表情で鍵を預かった。 「心配無いって!! じゃあ、また後で・・・。」 千佳子は誰もいないマンションの自分の部屋のベットに倒れこんだ。 「ふー、大丈夫よ、大丈夫よね。」 千佳子は寝転がってポケットに何か感触を感じた。触ってみると斑目の携帯だった。 (うっかりしてた!! 斑目小父さんも携帯に出ないスー先生の事、言えないよね。携帯忘れたままなんだもの。) 千佳子は運転中に携帯に出ようとする斑目から取り上げた携帯を預かったままだった。 (留守電もほったらかしで・・・。? 日本の携帯番号じゃない?) うっかり触った拍子にディスプレイに表示された携帯番号に千佳子は驚いた。 (・・・・・・・。何か関係あるのかも・・・。特別な状況だし・・・後から小父さんに謝れば・・・。) 千佳子は携帯の留守録を聞いた。留守録の相手は外国人では無く日本語で話した。 『あんた!!斑目か!? あのクソゲー落札した馬鹿は!! もしそのクソゲー受け取ったら、即座にその ゲーム持って警察に駆け込め!! 俺は台湾マフィアの潜入捜査官だ!!そのクソゲーには偽造電子 マネーの・・・』 留守録は途中で途切れた・・・。千佳子は震えながらその留守録を聞いた。すべての分岐点はここだった。 偶然では無かったのだ・・・。『理由』はすでに存在していたのだ。背景は大体飲み込めた。 連絡手段の限られた潜入捜査官は犯罪の証拠品をネットオークションを装って日本に送るつもりだったのだ。 おそらく誰も欲しいとは思わないゲームを隠れ蓑にして・・・。それを小父さんは落札した。相手も連絡員 と勘違いして、小父さんの指定するコンビニ宛に『証拠品』を送ったのだ。 そして『前日』にも何らかの理由で小父さんは携帯のメッセージを聞き漏らした・・・。 千佳子はベットから飛び降りた。まだ小父さんはゲームを手に入れていない。マフィアは小父さんには目も くれずにコンビニのゲームを差し押さえただろうか? いや証拠品は押さえても小父さんは犯罪の内容を 携帯で知ったと思われている。潜入捜査官はすでにマフィアに捕まったに違いない。何故なら通じないの なら、もう一度かけてもおかしくないのに携帯に電話しようとしないからだ。 そして・・・気付くべきだった・・・。『昨日』の晩の身元不明の死体も何か関係があったのだと・・・。 千佳子の足がカクカクと震えた。まだ間に合う・・・間に合う・・・。まずする事は・・・、電話!! 警察に電話!! 『もしもし、緊急なんです・・・』 千佳子は自分の指名を名乗り、狙われる斑目の氏名とその事情、そして場所を警察に電話した。 (でもこれで十分なんだろうか・・・。誰にも頼れない・・・。) 後になって思えば、これから自分が行おうとする事がどれだけ馬鹿げているか理解できるはずだ。 でも、その時にはこれっぽっちも思わなかった。「無意識」のうちに千佳子はその行動を取った。 千佳子は衣装ケースから『何か』を持ち出して、カバンにそれを詰め込んで、マンションを飛び出した。 ○第一幕その8 美少女戦士 セーラ・セレス!! 2026年 x月二十一日 午後1時48分 「なっ何だ?! お前ら?!」 斑目は業者の会社に向かうために、マンションから近くの公園を通り抜けようとしていた。 そこで人相のあやしい数人の男たちに取り囲まれた。 「かっ金なら無いぞ!! 自慢じゃないが自分の趣味に金つぎ込んでる身なんでな!!」 強盗だと思った斑目はそう叫んだ。しかし、リーダーと思しき男が斑目の横腹に見えないように拳銃を 突きつけた時に、ただの強盗とは違うと悟った。 「あんちゃん、あんまり手間かけないでもらいたんや。大人しく俺たちの車についてきてや。」 大阪弁を真似ているようだが、その発音はどこかおかしかった。明らかにアジア系の外国人のようだった。 斑目は青ざめた。何が何だか分からないが、ついて行ったら最後だとは分かった。そして抵抗しても終わ りだということも・・・。 ゴクリ・・・。 斑目は唾を飲み込んで黙って頷いた。 その時・・・、斑目は目を疑った。その目の前にいて仮装している女性が誰であるかはすぐに分かった。 覆面で顔を隠していたからといって、分からないはずが無かった。その女性は叫んだ。 「その手をお離しなさい!! 悪事はこのセーラ・セレスが天に代わってお仕置きです!!」 ならず者たちはポカンとした顔をして、その「キャラ」を見た。 斑目は思った・・・。(終わった・・・。)(涙) 2026年 x月二十一日 午後2時11分 「・・・なあ、ねえちゃん、仮装大会なら他でやってくんねえかな?」 ならず者たちは笑いながらそう言った。体の大きい千佳子を中学生と気付いている者はいないようだった。 少し頭のおかしい女が紛れ込んできたとしか思ってないようだった。 「俺、知ってますよ。あれ昔はやったアニメのキャラですよ。たしかプルートが惑星から脱落したんですよ。」 「セレスなんていたか? あれ惑星とは認められなかったんじゃ?」 「中々、博識じゃねえか、おめえ」 男たちは笑いながら話をしている。千佳子は思った。 (とにかく・・・警察が来るまで、時間稼ぎできれば・・・) その時、リーダーと思しき男が部下の一人を裏拳で殴りつけた。 「ボケが!! 元はと言えばお前のミスの尻拭いしてやってんやで!! 調子に乗るんじゃないわ!!」 鼻血を流しながら若い男は謝った。 「すっすいません」 斑目はその流れる血の匂いにクラクラきた。明らかに「暴力」を商売にしている人種だと理解した。 千佳子もその血なまぐさい光景に青ざめた。そして自分の行為を後悔した。何故こんなことを・・・。 「アニメか・・・。そうやな、思えばイニシャルGを観たのが運のツキやったなあ・・・。アレ観て車オシャカに して・・・。ヤバイとこから金借りて・・・。儲かる仕事があるからと先輩に誘われて・・・。」 「兄貴?」 リーダー格の男はまた若い男を殴りつけた。 「何でもないわ!! さっさと連れてくで!!」 「そっそうですね。変な女には構わず早く行きましょう!!」 斑目は観念した。こうなれば危険から千佳子を遠ざけるのが先決である。 「なんや? 急に素直になったやないけ?」 (小父さん・・・) 千佳子は泣きそうな顔で斑目を見つめた。 斑目は表情で合図を送って答えた。 (いいから、いいから。) こんな最後も悪くないな・・・。かっこいいじゃないか、こういう最後も・・・。斑目は穏やかな表情で頷いた。 その時、部下の一人でスキンヘッドの男が斑目を顔を赤らめてジーと見つめている事に気付いた。 「?」 斑目はその視線に嫌な予感がした。 「なあ、兄貴・・・、こいつ始末する前に頂いてもいいですか?」 「ああ? いつもの癖か? まあええわ。」 「ブッーーーーーーーー」 斑目は噴出した。 (ほっホンモノでつかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ) 「ムショで悪いもん覚えてからに・・・。まあ、あんちゃん、慣れると○×が&☆@して、潤滑に×△ 自主規制―――――――――――。」 「ちょっと、まった!!!! やっぱり前言撤回!! 断固、拒否する!!! そういうかっこ悪い最後は 断る!! 俺は生きる!! 俺は生きるぞぉぉぉぉぉぉぉ」 斑目はジタバタ暴れまくった。 「なっなんやこいつ、往生際の悪いやっちゃ おい、大人しくさせい!!」 斑目の眼前に拳銃のグリップが振り下ろされた。斑目は目をつぶってそれに堪えた。 (やっばり駄目か?) しかし、拳銃は斑目の頭上に下ろされる事は無かった。ソーと目を恐る恐る開けると、拳銃を握った男の 手がひん曲がって、男が苦痛に転げまわっているのが見えた。 そしてその前には、見知らぬ「誰か」が立っていた。 いや・・・。目の前にいるのは良く知っている人である。だが・・・、斑目には分かった。良く知るその人の姿 をしているが、自分の目の前にいるのは「その人」では決して無いということを・・・。しかし「誰か」かどうか さえ分からなかった。人間かどうかさえ分からないかもしれなかったのだ。 千佳子は・・・、いやセーラ・セレスは・・・、静かな表情で斑目の方を向いた。 小雨がパラパラと降ってきた。お天気雨に濡れながら「それ」は立っていた。 「あなたは誰でつか?」 ○第一幕その9 千佳子の覚醒 「何だ? てめえ・・・」 リーダー格の男は最後までそのセリフを言う事ができなかった。「それ」は人の目にとまらない高速で 動き出し、姿が消えたかと思うと、次の瞬間にはマフィアたちは地面に気を失って倒れていた。 発砲した者もいたが、その物理的限界を超えた高速の速度に当てる事は不可能だった。 高速の動きが止まるとやはり静かな表情で斑目を「それ」は見つめていた。 「誰? いつから? 何故?」 斑目はそんな質問しか繰り返す事ができなかった。 「それ」はフーとけだるそうにため息をつくと初めて口を開いた。 「『僕』はその三つの質問に答えなければならない義務があるのかな? 最初の質問は自我を証明 しなければならず、次の質問は因果律を証明しなければならず、最後の質問にいたっては価値判断 からの自由を証明しなければならない。」 「 ? 『僕』? 君は男か? まさかオギーポップ?」と斑目は有名なライトノベルのタイトルを言った。 「 ? その名詞はこのターミナルの情報にはインプットされていない。『限定条件』がやっとそろったのだ。 『現象』は『現象』であってそれ以上でもそれ以下でも無い。かつてそう呼ばれた『現象』があったのか? もういいだろう。『帰らせてくれ』」 「セーラ・セレス」は立ち去ろうした。そしてふと斑目の顔を珍しそうな顔で見た。 「ターミナルの損害は皆無。『修正』も最小限。『僕』は十分な『使命』を果たした。・・・なるほど(以下、斑目の 認識不能な発音を『僕』が発したので表記不能)からか。」 不思議な言葉を残して「セーラ・セレス」は高速でその場を立ち去った。そこへ警察が駆け込んできた。 どこから聞きつけたのか、報道陣も一部駆けつけてきた。 斑目は悄然としているだけだった。 2026年 x月二十一日 午後2時38分 千佳子は息を切らせながら女性専用の有料公衆トイレに駆け込んだ。 数十年前から人気の少ない所での公衆トイレの劣化から女性の使用が敬遠されていたが、有料でも需要 があるとみた民間企業が少しずつこうした有料の公衆トイレを増やしていた。使用目的から監視カメラも 無く、支払いも携帯に内蔵された電子マネー決済だったので、防犯予防も含めて増設が奨励されていた。 千佳子はその個室に駆け込んだ。個室といっても、有料な分内装は立派で広く、化粧直しとか着替えとか 用途は広かった。防災、防犯、防音効果も高く、必要なら簡易シャワーも使えた。 千佳子はそこでへたり込んだ。 (『あれ』は・・・『あれ』は何だったのか・・・。) 千佳子の体が『あれ』に乗っ取られてからも、千佳子の意識は存在してた。そう、ちょうど千佳子の背後から もう一人の自分を見つめていた。 斑目の頭に拳銃が振り下ろされそうになった瞬間、千佳子の意識は体から引き剥がされた。そしてあらゆる ものがゆっくりとした動きをする事に気付いた。 雨が降り出していた・・・。雨は一粒、一粒がゆっくりと落ちてくる。空では太陽が煌き水滴を虹色に 輝かせていた。「セーラ・セレス」は宙に舞い、滑らかな動きでならず者たちをなぎ倒していく。 拳銃を構えて発砲した者がいた。拳銃から発砲された弾丸はものすごいスピードで、だが目に止まらない ほどではない速度で螺旋回転しながら雨を弾き飛ばして弾道の軌跡を作っていた。 まるで映画のワンシーンのようだった。 そして『あれ』は振り向いた。長い髪をなびかせながら・・・。私を見た・・・。すべてを見透かすような目で・・・。 そう・・・あれはずっと見ていたのだ・・・。私のことを・・・。ずっと、ずっと見透かしていたのだ。 父の事、母の事、小父さんの事・・・。私は理解した。もう私が以前の私でいられない事を・・・。 私の中で世界が目覚めた。 「見られていた・・・。」 千佳子はあえぎながらそう呟いた。 そして、千佳子は右手を下腹部に忍び込ませた。体が火照り、体が汗ばんでくる。千佳子は黙りこくって 息を押し殺しながら、手を動かした。そして体をびくつかせながらその場に崩れ去った・・・。 ○第二幕 それでもやはり斑目晴信の不運 2026年 x月二十二日  いつもの朝だった。それでも昨日の朝とは違う朝だった。昨日の事件はテレビでも一部報道されていた。 千佳子の父は事件を聞いて前の夜に旅行から母と一緒に帰っていた。千佳子の父は、わずかに撮影 された謎のヒロインの姿を新聞を広げながらテレビで一瞥し、細い目をさらに細めて、首をかしげながら 新聞に目を戻した。 千佳子はそんな父の様子を横目に通り過ぎ、照れくさげに顔を赤らめながら、そそくさと家を出た。 そして雨上がりの晴れ渡った空を駆け足で学校に向かった。  **************************************** 斑目は用務員室でノートパソコンに向かっている。 斑目『心配かけました!!』 アンジェラ『無事で何よりだったね』 斑目『警察には「またあんたか!!」って言われたよ。もちろん説明不能の事は黙ってたけどね。』 アンジェラ『まあ、それがベストね。』 斑目『アンジェラには説明がつく?』 アンジェラ『うーん、聞いた限りの話ではねー。少なくとも高速で動いたという現象は「相対性」で 説明できそう。』 斑目『つまり?』 アンジェラ『聞いた話では、チカコちゃんの「中の人」と世界の時間差は十倍以上あったはずね。 仮に時速二十キロで移動しても、相手には時速二百キロの運動量の物体がぶつかったと同じ 事になるわね。百キロなら音速を超えるわね。逆に弾丸は時速百キロくらいに見えるから、 距離の離れた所から、撃つところを見れば避けれなくはないわね。』 斑目『でもそれじゃあ、千佳子ちゃんだって運動量の衝撃で無事じゃすまないんじゃ?』 アンジェラ『チカコちゃんにとっては時速二十キロの運動量しか反作用は起きないのね。逆に たとえピンポン玉でも至近距離で時速二、三百キロでぶつかれば相手はタダじゃすまない。』 斑目『うわー、考えたくない。結局、『彼』?は何者だったんだろう?』 アンジェラ『彼?自身が言った言葉にしか答えは見つけられない。彼は「現象」だと自分の事を 言ったというわね。誰、何時、何故、それらの問いかけは無意味だと・・・。私にも答えられないわ。』 斑目『もう、現れないんだろうなあ。俺に言った言葉の意味はなんだったんだろう?』 アンジェラ『そうね・・・。たぶん表現する概念の無い断絶した認識の壁なのかも。まあ、要するに 「くじびき」でハズレばっかり引くのも一つの才能って事なのかしら。』 斑目『なぬ?ちょっとまて!! それはどういう・・・』 アンジェラ『あら? そっそれじゃあ、今度の冬コミにはアレックと一緒に行くから案内宜しくねー。 ホホホホホホ(汗)』 斑目『あ!! ちょっと待った!! あ!! 回線切った!!』 斑目の後ろではスージーがゴロゴロして漫画を読んでいる。 そして二人のそんなやり取りをかったるそうな様子で見ながら呟いた。 「アンタバカー」  **************************************** 千佳子は教室で忘我の表情でひじをついてボーとしていた。 教室では昨日の事件の話題で盛り上がっていた。もちろん謎のヒロインの事で持ちきりだった。 双子たちはぼんやりしている千佳子が面白く、ほっぺたをひっぱって遊んでいた。 「千佳子ちゃんどうしたのー? うわー、面白いー。ほっぺがこんなに伸びるー。」 それでも千佳子はボーとしている。 春奈は言った。 「それにしてもさー、あんな格好するなんて、ゼッテー変態だよねー。」 その言葉に千佳子はピクッと肩を震わせた。 そして、驚いた顔で千佳子を見上げている双子をよそに、すっと立ち上がり振り向いた。 そして、きょとんとする春奈の前に、父親のように目を細めて、制するように手のひらを向けて言った。 「春奈さん お待ちなさい それは違います!! やってみればわかります!! やってみれば!!」 <END>

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