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*気付いた時が恋のはじまり 【投稿日 2007/01/15】 **[[カテゴリー-笹荻>http://www7.atwiki.jp/genshikenss/pages/47.html]] 気付いた時が恋のはじまり                   ~よくある歌の一節 105 :マロン名無しさん :2007/01/15(月) 22:20:26 ID:??? 梅雨直前のある日の事。 大学へ向かう途中で、荻上は道路に、おそらく子供が書いたのであろう落書きを見つけた。 ○×△□。 へのへのもへじ。 何処かの誰かの顔。 デフォルメの効いた人間像。 荻上は何となく微笑ましく思いながらそれらを眺める。 ふと自分の過去を振り返る。 家の前の道路に、親に呼ばれるまで好きに書き殴っていたあの頃。 落書き以下のあの絵を誉めてくれた、父親の笑顔を思い出す。 多分あの笑顔が、荻上にとっての原点だったのかもしれない。 ふと、その脇に描かれた○の連なりに気がつく。 (ああ、今でもこの遊びはあるんだ) 好奇心と懐かしさから、荻上はそれを踏む。 けんけんぱ けんけんぱ 踏むごとに、自分が昔に戻れるようで。 繰り返し、繰り返し、それを踏む。 そして唐突に足を止めると、 (わたしは何をやってるんだろう?) 自嘲する。 (あれだけの事をしておいて、昔に戻れる訳が…) 「あれ?荻上さん?」 聞こえた声が、荻上の思考を断ち切る。 荻上はゆっくりと振り返る。 そこにはコンビニの袋を下げた、笹原がいた。 (見 ら れ た !?) そう思った瞬間、荻上は駆け出していた。 大学ではなく、自宅へ向かって。 大学へ向かう途中で、笹原は荻上を見かけた。 その事にささやかな喜びを感じながら、思い切って声を掛ける。 「あれ?荻上さん?」 しかし、荻上はこちらを振り向くと、途端に駆け出して、角を曲がり、見えなくなってしまった。 (何だよ) (声を掛けただけで逃げ出されるほど、嫌われているのか、俺?) 笹原は少し落ち込みながら、歩みを再開する。少しだけ重くなった気がする足で。 (でも、何をしてたんだろ、荻上さん) (今度会ったら聞いてみようか…) 数日後、荻上は久しぶりに現視研の部室に向かった。 あの時のことを自分の中で整理するのに、それだけかかったからだった。 (大丈夫) (大した事じゃない) もう一度自分に言い聞かせると、ドアを開ける。 そこには今は一番会いたくない人がいた。 「やあ、荻上さん」 笹原は荻上の内心の動揺に全く気付かずに、いつもの声で、いつものように、彼女を見て挨拶する。 「どうも」 荻上は一瞬躊躇った後、それだけを口にすると、目を合わせないようにしながら、笹原から最も遠い席に座る。そしてノートを取り出してそれに向かう。 いつもの「私に話し掛けないで下さい」というポーズだった。 笹原はその様子を見ると、特に何も言うでもなく、さっきまで見ていたマガヅンの続きを読み始める。 部屋に荻上の鉛筆の立てる音と、笹原のめくるページの音が静かに響きあう。 読み終わった笹原がマガヅンを置く。その音は二人にはずいぶん大きく聞こえた。 荻上の鉛筆が止まる。 笹原は数度ためらった後、数日来の疑問を口にした。 「あ、あのさ、荻上さん。あの日はいったいどうしたの?」 「…何の事ですか」 荻上は笹原を見ずに固い口調で答える。 「いや、声を掛けたら急に駆け出すから、いったいどうしたのかなって思って…」 「…何でもありません」 「あ、そう 笹原の言葉は途中で途切れた。 荻上が泣いていたからだった。 ノートを睨みながら、拭うでもなく涙をこぼしつづける。 (私は何で泣いているんだろ) 荻上は他人事のように思いながら泣いていた。 そして泣きながら思う。 (見られたくなかった。聞かれたくなかった) (笹原さんの前では『変』じゃない、普通の女性でいたかった) (『それは何故?』) 気付きたくなかった。考えたくなかった。それを認めたら私はきっと許されない。許せない。 (私は…) 笹原は大混乱していた。どうして良いのか全くわからない。だが先輩として、男として、このまま放っておくのはいけないと思い、…ハンカチを差し出す。 荻上の目にそれが映る。慌てて自分のハンカチを取り出して涙を拭く。 笹原は少し残念そうにハンカチを引っ込めた。 二人きりの部室に、気まずい沈黙と、荻上が小さく鼻をすすり上げる音が流れる。 やがて落ち着いた荻上は、やおら荷物を片付けると、そのまま部室を小走りに出て行こうとする。 そして荻上の足が椅子の足の一つに引っかかり、倒れそうになって、笹原は思わず手を伸ばし、抱きとめた。 「大丈夫?」 「はい…」 そのまま少し時が過ぎ、笹原が口を開く。 「…えっと、ごめん」 「!」 荻上は慌てて笹原から離れる。笹原はそのまま言葉を続ける。 「本当にごめん。何か聞いちゃいけない事聞いちゃったみたいで…」 「…何で」 「え?」 「何で謝るんですか!?笹原さんは全然悪くないのに!」 「いや、その…」 「私が泣いたって、何したって、笹原さんには関係ないでしょう!!」 荻上は言った瞬間に後悔した。そしてその言葉を聞いた笹原の、傷ついた表情を見て、何も考えられなくなり、部室のドアを開けて全速で逃げ出した。 その途中で擦れ違った女性が、不思議そうに見つめていたが、荻上は気付かなかった。 「笹原さんには関係ない、か…」 笹原は呟く。 「そうかよ。関係ないのかよ」 声に苛立ちが混じる。だが、何故こうまで苛付くのかわからない。わからないから、さらに苛付く。 「くそっ」 笹原はマガヅンを乱暴にゴミ箱に放り込むと、部室を出ようとノブに手を伸ばした。 瞬間、勝手にドアが開き、「こんちはー」という間延びした挨拶と供に、恵子が現れる。 「お、アニキ。高坂さん、いる?」 「いねーよ」 いつも通りの恵子の態度が、いやに能天気に見えて、笹原は苛立つ。 「あ、そう。…そういえば、さっきあの変な髪形の人を見かけたけど、何か泣いてなかった?」 「…」 「まさか、アニキが泣かせたのか?まさかね~、優しいだけがとりえのアニキにそんな事…」 「お前には関係ねーよ」 言い捨てると、恵子を押しのけて部室を出て行く。 「何だよ、それ…」 一人残された恵子が呟く。 「…あ、そう!そっちがそうならこっちだって勝手させてもらうからな!」 一声叫ぶと、恵子は携帯を取り出し、適当な男にかけようとして、やめた。 「…何だよ。アニキもやるこたやってんじゃん…」 その声は少しだけ寂しそうだった。 その夜。 荻上は布団の中で泣いていた。 (いつもそうだ) (優しくされて、調子に乗って、傷つけて、孤立して…) (笹原さんは悪くないのに。悪いのは私なのに。それなのに笹原さんを傷つけて) (ごめんなさい) (ごめんなさい笹原さん) やがてすすり泣きが寝息に変わる。 そして、いつもの浅い眠りの中で荻上は思った。 (何で私は泣いていたんだろう) (私が人を傷つけるのは、いつもの事じゃないか) (だから、後でちゃんと謝って、以前のように先輩後輩として…) (『以前のように』?以前って何?私はいま笹原さんをどう思って) (私は(考えるな)笹原さんを(駄目だ)○○(そんなはずはない)) その瞬間、荻上の脳裏にいつもの悪夢が蘇る。 ただ『自分』に屋上から突き落とされる『あの人』の姿が、笹原とダブって見えた。 荻上は慌てて飛び起きる。 荒い呼吸を何とか治めると、急に馬鹿らしくなった。 小声で呟く。 「私が人を好きになる訳ない」 「相手が笹原さんだってそう」 「だってあの人は…あの人は、”オタク”なんだから」 この答えは少しだけ荻上を安堵させた。 荻上は布団から出ると、机へ向かう。夜明けにはまだまだ早いが、もう一度眠る気にはなれなかった。 そして、もうこれ以上この事について考えたくなかった。 …時が過ぎ、季節は梅雨に入る。 笹原と荻上の二人にはぎこちない会話しか流れない。 そんな中、恵子が地雷を踏む。それには多少の嫉妬もあったかもしれない。 「…ねえ、もう二人ってつき合ってんでしょ?」 「…はあ?誰と誰が?」 「え?あれ…違うの?あんたとウチのアニキなんだけど…」 荻上が用意しておいた答えを返す。 「『私がオタクとつき合うわけないじゃないですか』」 笹原は笑う。笑うしかない。 (あの日以来、自分と彼女は『ただの先輩と後輩』だと自分を納得させてきたじゃないか) (それが裏付けられただけだろ) (だから、怒る事も悲しむ事もないさ) 自分に言い聞かせながら、笹原は、ただ、笑った。 その後、いくつかのやり取りの後で、高坂の就職が報告され、ドタバタとともに高坂と咲が去って、一人、また一人と席を立つ。 笹原も席を立つ。納得していたはずなのに、覚悟していたはずなのに、ついさっき聞いた言葉は笹原の心をざわめかせ、それは言葉になった。最低の捨て台詞だと自覚しながら。 「俺も遊んでるヒマはないな」 荻上の心が凍りつく。 (そうか。笹原さんには遊びなんだ。現視研も、漫画も…) 場を取り繕うような大野の声に返事を返しながら、荻上は思う。 (これでいい) (これで自分の思うとおりになった) (でも…) その夜、笹原は斑目から借りたエロゲーに向かっていた。 自分の趣味からはちょっとずれていたので、手を出しかねていた作品だった。 黙々と攻略を続ける。 そんな中でヒロインの姿が荻上とダブる。 笹原の手が止まる。 (何でだよ。あそこまで言われて、何で気になるんだよ?) (気にしなきゃいいだろうが。先輩と後輩、それで納得したんだろ?) (けど、俺は、もしかして…) 笹原は再びゲームに向かう。 それ以上考えないために。 おまけ 「笹原さん!そろそろコミフェスの打ち合わせをしましょう!」 「え、ああ、そうね」 「部室でやる、って手もあるでしょうけど…ここは荻上さんの部屋でやりましょう!」 「え!?」 「ちょっと待って下さい!なんで私の…!」 「だって無関係な人に見せたくない物だってあるでしょう?原稿とか表紙のラフとか…」 「だから何で見せなきゃならないんですか!?」 「え~。せっかく売り子をしてあげるんだから、少しぐらい見せてもいいじゃないですか」 「絶対嫌です!」 「と、言う事なので、笹原さん。今度の日曜日、空けておいてくださいね♪」 「はあ…」 「話を聞いてください!!」 「いいですか、荻上さん」 「な、何ですか」 「荻上さんはコミフェスに自作の同人誌を売りに行きます。つまりたくさんの人に見てもらう立場な訳です。ここまではいいですね?」 「…」 「それなら私達に見せてもいいでしょう?」 「だからといって嫌なものは嫌です!」 「…わかりました。そんなに見せたくないなら、」 「私達が勝手に見に行きますから♪」 「全然わかってないじゃないですか!」「あ~今度の日曜が楽しみですねえ」「だから人の話を…!」 ~次第にFO
*気付いた時が恋のはじまり 【投稿日 2007/01/15】 **[[カテゴリー-笹荻>http://www7.atwiki.jp/genshikenss/pages/47.html]] 気付いた時が恋のはじまり                   ~よくある歌の一節 梅雨直前のある日の事。 大学へ向かう途中で、荻上は道路に、おそらく子供が書いたのであろう落書きを見つけた。 ○×△□。 へのへのもへじ。 何処かの誰かの顔。 デフォルメの効いた人間像。 荻上は何となく微笑ましく思いながらそれらを眺める。 ふと自分の過去を振り返る。 家の前の道路に、親に呼ばれるまで好きに書き殴っていたあの頃。 落書き以下のあの絵を誉めてくれた、父親の笑顔を思い出す。 多分あの笑顔が、荻上にとっての原点だったのかもしれない。 ふと、その脇に描かれた○の連なりに気がつく。 (ああ、今でもこの遊びはあるんだ) 好奇心と懐かしさから、荻上はそれを踏む。 けんけんぱ けんけんぱ 踏むごとに、自分が昔に戻れるようで。 繰り返し、繰り返し、それを踏む。 そして唐突に足を止めると、 (わたしは何をやってるんだろう?) 自嘲する。 (あれだけの事をしておいて、昔に戻れる訳が…) 「あれ?荻上さん?」 聞こえた声が、荻上の思考を断ち切る。 荻上はゆっくりと振り返る。 そこにはコンビニの袋を下げた、笹原がいた。 (見 ら れ た !?) そう思った瞬間、荻上は駆け出していた。 大学ではなく、自宅へ向かって。 大学へ向かう途中で、笹原は荻上を見かけた。 その事にささやかな喜びを感じながら、思い切って声を掛ける。 「あれ?荻上さん?」 しかし、荻上はこちらを振り向くと、途端に駆け出して、角を曲がり、見えなくなってしまった。 (何だよ) (声を掛けただけで逃げ出されるほど、嫌われているのか、俺?) 笹原は少し落ち込みながら、歩みを再開する。少しだけ重くなった気がする足で。 (でも、何をしてたんだろ、荻上さん) (今度会ったら聞いてみようか…) 数日後、荻上は久しぶりに現視研の部室に向かった。 あの時のことを自分の中で整理するのに、それだけかかったからだった。 (大丈夫) (大した事じゃない) もう一度自分に言い聞かせると、ドアを開ける。 そこには今は一番会いたくない人がいた。 「やあ、荻上さん」 笹原は荻上の内心の動揺に全く気付かずに、いつもの声で、いつものように、彼女を見て挨拶する。 「どうも」 荻上は一瞬躊躇った後、それだけを口にすると、目を合わせないようにしながら、笹原から最も遠い席に座る。そしてノートを取り出してそれに向かう。 いつもの「私に話し掛けないで下さい」というポーズだった。 笹原はその様子を見ると、特に何も言うでもなく、さっきまで見ていたマガヅンの続きを読み始める。 部屋に荻上の鉛筆の立てる音と、笹原のめくるページの音が静かに響きあう。 読み終わった笹原がマガヅンを置く。その音は二人にはずいぶん大きく聞こえた。 荻上の鉛筆が止まる。 笹原は数度ためらった後、数日来の疑問を口にした。 「あ、あのさ、荻上さん。あの日はいったいどうしたの?」 「…何の事ですか」 荻上は笹原を見ずに固い口調で答える。 「いや、声を掛けたら急に駆け出すから、いったいどうしたのかなって思って…」 「…何でもありません」 「あ、そう 笹原の言葉は途中で途切れた。 荻上が泣いていたからだった。 ノートを睨みながら、拭うでもなく涙をこぼしつづける。 (私は何で泣いているんだろ) 荻上は他人事のように思いながら泣いていた。 そして泣きながら思う。 (見られたくなかった。聞かれたくなかった) (笹原さんの前では『変』じゃない、普通の女性でいたかった) (『それは何故?』) 気付きたくなかった。考えたくなかった。それを認めたら私はきっと許されない。許せない。 (私は…) 笹原は大混乱していた。どうして良いのか全くわからない。だが先輩として、男として、このまま放っておくのはいけないと思い、…ハンカチを差し出す。 荻上の目にそれが映る。慌てて自分のハンカチを取り出して涙を拭く。 笹原は少し残念そうにハンカチを引っ込めた。 二人きりの部室に、気まずい沈黙と、荻上が小さく鼻をすすり上げる音が流れる。 やがて落ち着いた荻上は、やおら荷物を片付けると、そのまま部室を小走りに出て行こうとする。 そして荻上の足が椅子の足の一つに引っかかり、倒れそうになって、笹原は思わず手を伸ばし、抱きとめた。 「大丈夫?」 「はい…」 そのまま少し時が過ぎ、笹原が口を開く。 「…えっと、ごめん」 「!」 荻上は慌てて笹原から離れる。笹原はそのまま言葉を続ける。 「本当にごめん。何か聞いちゃいけない事聞いちゃったみたいで…」 「…何で」 「え?」 「何で謝るんですか!?笹原さんは全然悪くないのに!」 「いや、その…」 「私が泣いたって、何したって、笹原さんには関係ないでしょう!!」 荻上は言った瞬間に後悔した。そしてその言葉を聞いた笹原の、傷ついた表情を見て、何も考えられなくなり、部室のドアを開けて全速で逃げ出した。 その途中で擦れ違った女性が、不思議そうに見つめていたが、荻上は気付かなかった。 「笹原さんには関係ない、か…」 笹原は呟く。 「そうかよ。関係ないのかよ」 声に苛立ちが混じる。だが、何故こうまで苛付くのかわからない。わからないから、さらに苛付く。 「くそっ」 笹原はマガヅンを乱暴にゴミ箱に放り込むと、部室を出ようとノブに手を伸ばした。 瞬間、勝手にドアが開き、「こんちはー」という間延びした挨拶と供に、恵子が現れる。 「お、アニキ。高坂さん、いる?」 「いねーよ」 いつも通りの恵子の態度が、いやに能天気に見えて、笹原は苛立つ。 「あ、そう。…そういえば、さっきあの変な髪形の人を見かけたけど、何か泣いてなかった?」 「…」 「まさか、アニキが泣かせたのか?まさかね~、優しいだけがとりえのアニキにそんな事…」 「お前には関係ねーよ」 言い捨てると、恵子を押しのけて部室を出て行く。 「何だよ、それ…」 一人残された恵子が呟く。 「…あ、そう!そっちがそうならこっちだって勝手させてもらうからな!」 一声叫ぶと、恵子は携帯を取り出し、適当な男にかけようとして、やめた。 「…何だよ。アニキもやるこたやってんじゃん…」 その声は少しだけ寂しそうだった。 その夜。 荻上は布団の中で泣いていた。 (いつもそうだ) (優しくされて、調子に乗って、傷つけて、孤立して…) (笹原さんは悪くないのに。悪いのは私なのに。それなのに笹原さんを傷つけて) (ごめんなさい) (ごめんなさい笹原さん) やがてすすり泣きが寝息に変わる。 そして、いつもの浅い眠りの中で荻上は思った。 (何で私は泣いていたんだろう) (私が人を傷つけるのは、いつもの事じゃないか) (だから、後でちゃんと謝って、以前のように先輩後輩として…) (『以前のように』?以前って何?私はいま笹原さんをどう思って) (私は(考えるな)笹原さんを(駄目だ)○○(そんなはずはない)) その瞬間、荻上の脳裏にいつもの悪夢が蘇る。 ただ『自分』に屋上から突き落とされる『あの人』の姿が、笹原とダブって見えた。 荻上は慌てて飛び起きる。 荒い呼吸を何とか治めると、急に馬鹿らしくなった。 小声で呟く。 「私が人を好きになる訳ない」 「相手が笹原さんだってそう」 「だってあの人は…あの人は、”オタク”なんだから」 この答えは少しだけ荻上を安堵させた。 荻上は布団から出ると、机へ向かう。夜明けにはまだまだ早いが、もう一度眠る気にはなれなかった。 そして、もうこれ以上この事について考えたくなかった。 …時が過ぎ、季節は梅雨に入る。 笹原と荻上の二人にはぎこちない会話しか流れない。 そんな中、恵子が地雷を踏む。それには多少の嫉妬もあったかもしれない。 「…ねえ、もう二人ってつき合ってんでしょ?」 「…はあ?誰と誰が?」 「え?あれ…違うの?あんたとウチのアニキなんだけど…」 荻上が用意しておいた答えを返す。 「『私がオタクとつき合うわけないじゃないですか』」 笹原は笑う。笑うしかない。 (あの日以来、自分と彼女は『ただの先輩と後輩』だと自分を納得させてきたじゃないか) (それが裏付けられただけだろ) (だから、怒る事も悲しむ事もないさ) 自分に言い聞かせながら、笹原は、ただ、笑った。 その後、いくつかのやり取りの後で、高坂の就職が報告され、ドタバタとともに高坂と咲が去って、一人、また一人と席を立つ。 笹原も席を立つ。納得していたはずなのに、覚悟していたはずなのに、ついさっき聞いた言葉は笹原の心をざわめかせ、それは言葉になった。最低の捨て台詞だと自覚しながら。 「俺も遊んでるヒマはないな」 荻上の心が凍りつく。 (そうか。笹原さんには遊びなんだ。現視研も、漫画も…) 場を取り繕うような大野の声に返事を返しながら、荻上は思う。 (これでいい) (これで自分の思うとおりになった) (でも…) その夜、笹原は斑目から借りたエロゲーに向かっていた。 自分の趣味からはちょっとずれていたので、手を出しかねていた作品だった。 黙々と攻略を続ける。 そんな中でヒロインの姿が荻上とダブる。 笹原の手が止まる。 (何でだよ。あそこまで言われて、何で気になるんだよ?) (気にしなきゃいいだろうが。先輩と後輩、それで納得したんだろ?) (けど、俺は、もしかして…) 笹原は再びゲームに向かう。 それ以上考えないために。 おまけ 「笹原さん!そろそろコミフェスの打ち合わせをしましょう!」 「え、ああ、そうね」 「部室でやる、って手もあるでしょうけど…ここは荻上さんの部屋でやりましょう!」 「え!?」 「ちょっと待って下さい!なんで私の…!」 「だって無関係な人に見せたくない物だってあるでしょう?原稿とか表紙のラフとか…」 「だから何で見せなきゃならないんですか!?」 「え~。せっかく売り子をしてあげるんだから、少しぐらい見せてもいいじゃないですか」 「絶対嫌です!」 「と、言う事なので、笹原さん。今度の日曜日、空けておいてくださいね♪」 「はあ…」 「話を聞いてください!!」 「いいですか、荻上さん」 「な、何ですか」 「荻上さんはコミフェスに自作の同人誌を売りに行きます。つまりたくさんの人に見てもらう立場な訳です。ここまではいいですね?」 「…」 「それなら私達に見せてもいいでしょう?」 「だからといって嫌なものは嫌です!」 「…わかりました。そんなに見せたくないなら、」 「私達が勝手に見に行きますから♪」 「全然わかってないじゃないですか!」「あ~今度の日曜が楽しみですねえ」「だから人の話を…!」 ~次第にFO

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