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*26人いる!その7 【投稿日 2006/12/17】 **[[・・・いる!シリーズ]] 2006年夏コミ2日目。 現視研一行は椎応大学の最寄の駅から始発でやって来た。 今日は「やぶへび」の面々は漫研の会員たちと行動するので居ない。 女子会員たちは初日でお目当ての大半をゲットしたので、2日目は軽く巡回する程度で、さほど熱心に買い物する積りは無い。 男子会員たちも、本番の男性向け中心は3日目なので、2日目は軽く流す積りだ。 ただ1人目を爛々と光らせているのは国松だ。 特撮命の国松にとっては、特撮ネタの出てくる2日目こそがメインだからだ。 昨日急遽、会員たちの昼食と飲料水を管理するマネージャー役を買って出たので、国松もある程度大荷物になるはずだったが、そういう理由で国松の分は日垣と巴と台場が持った。 巴と台場はカートに括り付けたクーラーボックスを持ち、日垣は昨日よりも大型の本格的な登山用のリュック(浅田が急遽高校の後輩から借りてくれた)を背負った。 それだけの大荷物になったのは、ざっと25人分の昼食を作ったからだ。 どうせならと、コスプレする人だけでなく会員全員分の昼食を用意したのだ。 家が近かったこともあり、台場と巴も朝からやって来て昼食の用意を手伝った。 そして迎えに来た日垣と共に、巴と台場が昼食を持ったのだ。 そんな訳で必然的に、2日目の現視研の活動の焦点はコスプレとなった。 今日は初日とは別な意味で、会員たちの荷物は異様に多かった。 前述のような理由で、日垣、巴、台場は異様な大荷物だ。 コスの大半はロングコートタイプの軍服なので、コス組の荷物は昨日よりかさばる。 特にクッチーのコスはソリッドな着ぐるみなので、昨日のベム以上にかさばる。 荻上会長のコスも、金髪のヅラにロングコート、そして樹脂とプラ板で出来た義手なので、これまたかさばる。 昨日同様分担購入の割り当て(昨日ほど厳密では無く、大体この辺りが誰それという程度)を開場直前に確認し、入場すると各自散った。 当然のごとく、国松は特撮のエリア担当だ。 一緒に付いて行くのは、日垣と台場、そしてスーという変わった組み合わせだ。 ちなみに昼食を分担して持った巴は、この日は高校の時の知り合いのサークルの売り場に行くので別行動だ。 台場「スーちゃん特撮にも興味あるの?」 スー「押忍!」 台場「どんなのが好きなの?」 スー「(ナチュラルな英語の発音で)スパイダーマン」 台場「やっぱ向こうの人はアメコミ好きよね。サム・ライミ監督のやつ?」 スー「(スパイダーマン風の前傾姿勢から大声で)まーべらー!」 国松「そっちかい!」 台場「そっちって?」 国松「昔、70年代の終わり頃(正確には78年)に日本の東映が、アメリカのマーベルコミックスとキャラクター使用契約をして「スパイダーマン」の特撮ドラマ作ったのよ」 日垣「やっぱり壁登ったり糸出したりするの?」 国松「それはやってたけど、オリジナルと同じなのは名前と外見と能力だけよ」 台場「あとは違うの?」 国松「スパイダー能力は宇宙人から授かったし、レギュラー悪役は宇宙人の秘密結社だし、毎回終盤にマシーンベムっていう怪人が巨大化するし、殆ど別物の内容よ」 日垣「で、スパイダーマンどうやってその巨大化したやつと戦うの?」 国松「宇宙人にもらった宇宙船呼ぶの。それがマーベラーっていうのよ」 台場「で、その宇宙船で怪人と…」 国松「それにスパイダーマンが乗り込んで、さらにレオパルドンという巨大ロボットに変形して、巨大化したマシーンベムと戦うのよ」 日垣「何か戦隊シリーズみたいだね」 国松「そりゃそうよ。この番組が戦隊シリーズでお馴染みになったパターンのプロトタイプなんだから」 日垣「そうだったんだ」 国松「戦隊シリーズは、元祖の『秘密戦隊ゴレンジャー』と後番組の『ジャッカー電撃隊』の後、1年ちょっとブランクをはさんで『バトルフィーバーJ』から再開するんだけど…」 台場「そのバトル何とかがスパイダーマンの…」 国松「後番組じゃないけど、スパイダーマンの終了間際に始まるのよ、バトルフィーバー。そして今の戦隊シリーズの巨大ロボ路線は、バトルフィーバーから始まるのよ」 スー「押忍!ちなみにバトルフィーバーの元ネタは、マーベルコミックスの『キャプテン・アメリカ』であります!」 日垣「そうなの?」 国松「そうよ。だから企画段階の仮題は『キャプテン・ジャパン』って言うのよ」 日垣「国松さんはともかく、何でそんなのまで知ってるんだ、スーちゃん?」 台場もちょっとスーに質問してみることにした。 スーの趣味の幅が知りたいので、わざとメジャーだが古めの作品を挙げてみる。 台場「アメリカのアニメはどんなのが好き?やっぱ『ワッキーレース』とか『ファンタスティックフォー』とか?」 スー「押忍!『チキチキマシン猛レース』と『宇宙忍者ゴームズ』は大好きであります!ムッシュムラムラ!」 台場「だから何でそっちを知ってる!?」 察しのいい方は既に気付いているだろうが、台場が挙げた作品名はアメリカで制作されたオリジナル版タイトル、そしてスーが挙げたのはその日本語版タイトルである。 1970年前後の数年間、地上波で夜の7時台に海外のアニメを放送していた時期があった。 当時は海外との情報の行き来は少なく、著作権の意識も薄かったので、日本語版のタイトルやキャラクター名や台詞などは、語呂合わせやその場のノリやアドリブで決められた。 その結果、直訳どころか意訳にすらなっていないタイトルやキャラ名や台詞が横行した。 特に台詞は、当時の声優にはお笑い系の人(由利徹、牧伸二等)が多かったせいもあってか、アフレコと言うよりネタをやってるような人も多かった。 ちなみに「ムッシュムラムラ!」とは、「宇宙忍者ゴームズ」(ファンタスティックフォー)のキャラのガンロック(ベン・グリム)が、パンチ等で怪力を使う時のかけ声。 これは当時の日本語版スタッフの間でポーカーが流行ってて、関敬六(ガンロックの中の人)が最後にカードを見せる時のかけ声だったそうだ。 もちろんオリジナル版には、そんな台詞は無い。 その頃荻上会長は、またもや笹原とデート気分で買い物に勤しんでいた。 昨日は思わぬアクシデントに振り回されて、あっと言う間にデート気分が吹き飛ばされたので、今日はその分を取り返そうと意気込んでいた。 (とは言っても、どのみち昼までの限定的なデートだが) 笹原もその気のようだが、それでも時折取材の為に立ち止まり、他のお客さんに声をかけて写真を撮ったり、インタビューめいたことをやっていた。 入社してから買ったらしい、デジカメとワイヤレスマイク状の録音機を駆使して、次々と相手を変えて「簡略に」取材を繰り返す。 それは夏コミを楽しみに来たお客さんたちに手間を取らせまいとする、オタクならではの気配りからだった。 その一方で笹原は、取材一辺倒にならぬように荻上会長にも気を使っていた。 それが分かるだけに、荻上会長も文句は言えなかった。 『まあたまには、彼氏の仕事ぶりを間近に見るのもいいか…』 お客さんに対して、真剣だが穏やかでにこやかな顔で接する笹原の顔を、荻上会長は飽かずに眺めていた。 笹原「ごめんね荻上さん、ほったらかしにして」 荻上「しょうがないですよ、仕事なんだから」 笹原「昨日バタバタしてて、あんまし取材出来なかったから、つい熱中しちゃったよ。今日はこの辺にしとくよ。あとは1年の子たちに話聞けば何とかなるし」 再び歩き始める笹荻。 笹荻が2人組の男性とすれ違いかけた時、ふと笹原は立ち止まった。 1人は少々肥満気味で頭にバンダナを巻いており、もう1人は中途半端な長髪と無精髭でガリガリという、ありがちなオタコンビだ。 ただバンダナが普通のTシャツにGパンなのに対し、もう1人は薄手の作務衣を着ていたのが周囲の目を引いた。 バンダナは色の薄いサングラスを、作務衣はメガネをかけていた。 2人組は何故か、笹荻の方を見てうろたえた表情を浮かべていた。 いや正確には、笹原を見てうろたえていた。 ため息を付く笹原。 荻上「?」 笹原「『全く、メガネかけたら変装になると思ってるのか、この先生は?そんな作務衣なんか着てたら、余計目立つでしょうが』あの…こんなとこで何やってるんですか、B先生?」 B先生とは、笹原が担当している漫画家の1人だ。 ちなみに隣のバンダナは、B先生のアシスタントのM君である。 (彼は普段はメガネをかけている) 作務衣の男ことB先生は露骨にうろたえて自爆する。 漫B「知ったな!僕がプロになってからも毎年コミフェスに来てることを知ったな!」 よく見ると2人とも、けっこうな量の荷物を持っていた。 漫B「うわああああああああ!!!」 荷物を放り出して、泣きながら走り去るB先生。 M「あっ先生、待って下さい!」 M君は助けを求めるような顔で一瞬笹原を見ると、B先生を追いかける。 笹原「ヤバい!」 笹原も走り出した。 荻上会長も追って走り出す。 荻上「笹原さん!B先生って?」 笹原「俺が担当してる漫画家の先生だよ!あの人自殺癖があるから止めないとヤバい!」 荻上「自殺?」 笹原「まあ多分本気じゃないとは思うけど、もし成功しちゃったらヤバいから俺も止めに行って来るよ!悪い、後で連絡する!」 笹原はスピードを上げて走り去った。 もはや荻上会長には付いて行けない猛スピードだ。 1人取り残された荻上会長は悟った。 『これだったんだな。笹原さんが足速くなった理由は…』 笹原がB先生に追いついた時、B先生はコスプレ広場から飛び降りようとしており、M君はそれを必死に止めようとしていた。 笹原もM君に加勢して止めに入るが、結局もつれて3人とも落ちてしまう。 だが幸い彼らの下に、催し物のテントがあったので奇跡的に全員無傷で済んだ。 (さすがにテントは壊れたが) 笹原はポケットから気付け薬(B先生の前の担当の人から、常時持っておくようにと渡された)を出し、気絶したB先生の鼻先で開けて目を覚まさせる。 笹原「大丈夫ですか、先生?」 漫B「死んだらどうする!」 笹原・M『それは俺たちの台詞だろうが、全く…』 「うっしゃー!」 笹原がM君と共にため息を付いていた頃、国松は勝利の雄叫びを上げていた。 「ウルトラマンメビウス」ネタの同人誌を紙袋いっぱい買い込んだのだ。 国松「ねっ晴海、私の言った通りだったでしょ?」 台場「そうね、まさかリュウ、ここまで総受け状態とは思わなかったわ」 リュウとは「ウルトラマンメビウス」の怪獣攻撃チームGUYSのアイハラ・リュウ隊員のことである。 彼の親友でメビウスの正体でもあるミライ隊員、彼の慕うセリザワ元隊長はもちろん、他の男性キャラ全員がリュウ相手だと攻めとなった。 たまに女性隊員と絡んでるノーマルカップルのもあるが、それとて逆レイプっぽい。 粗暴で、偉そうで、巻き舌気味のダミ声で、言葉使いが荒くて、一部の2ちゃんねらーたちからはDQN呼ばわりされているリュウ隊員。 そんな彼は、一見ヤオイなら攻め系のキャラに見えるかも知れない。 だが彼はその一方で、涙もろくて、死んだ元上司に何時までも恋々とする女々しい、もとい乙女チックな一面も持ち合わせていた。 最近見始めた台場には分からなかったリュウの本質を、第1回からずっと見ていた国松は看破していた。 途中で会った大野さんが口を挟む。 大野「うーん、国松さんの薦めでメビウス見てみたけど、私も攻めっぽいと思ってたな…」 国松の表情が一変して鬼の形相と化した。 国松「受けですう~!絶対受けですう~!」 大野「!?」 国松「リュウさんは全身から受けオーラ出てますよ!総受けですよ総受け!分かってない!大野先輩、リュウさんのこと全っ然分かってない!」 大野「(冷や汗)ははは、ごめんなさい…『何か前に、これに似たこと誰かに言った覚えがあるんだけど…』」 ひと通り回り終わり、現視研の面々は昼食を済ませることにした。 日垣と国松が昼食を並べる。 国松の献立はシンプルだった。 主食もおかずも、おにぎりオンリーだ。 中身はかつおぶしと、梅干と、たらこの3種類。 あとは各自の好みに応じて付けられるように、ごま塩と味付け海苔が別添えになっている。 その代わりに、量は凄まじく多かった。 国松はざっと25人前用意したと言うが、軽く30人前以上はあった。 それにデザートに、1人3本ぐらいはありそうな大量のバナナを用意してある。 そして飲み物は、1ダースもの大型ペットボトルに入ったコーラだった。 神田「あれっ?スーちゃんとアンジェラは?」 大野「もう少し買い物の方粘ってから来るそうですよ。アメリカの友だちに頼まれた分が売ってるのが今日らしいんで」 国松「それじゃあ2人分取って置きますね」 国松は竹の皮を2枚取り出し、その上におにぎりを10個ずつ置いて包む。 恵子「そんなもんまで用意してたんだ…」 沢田「初めてリアルで見たわ、竹の皮でおにぎり包むのなんて」 有吉「僕も。時代劇でしか見たことない…」 豪田「つーか千里、アンジェラはともかくスーちゃんに10個は多過ぎない?」 国松「育ち盛りなんだから、無理してでも食べなきゃダメよ」 一同『スーの年齢、育ち盛りって想定してるんだ…』 食べ始める一同。 豪田「おいしい!でも何か変わった味の御飯ね。所々茶色いし」 国松「特性のブレンド米使ってるからね」 沢田「ブレンド米?」 巴「白米と、麦飯と、玄米と、もち米のブレンド米よ」 荻上「そりゃまた随分凝った組み合わせね」 国松「栄養とエネルギー効率と腹持ちの良さ最優先で考えましたから。と言ってもこれ実は、高校の時の柔道部の合宿のメニューの1つなんですけどね」 笹原「あれ?国松さん、このコーラ炭酸入ってないよ」 国松「それわざと炭酸抜いてあるんです。そうすると即エネルギーになりますから」 笹原「そうなの?」 国松「マラソンの選手には、炭酸抜きコーラを競技中の水分補給に使う選手も居るぐらいですから」 一同「へー」 斑目「もしかしてバナナも?」 国松「はいっ、即効性のエネルギー食です」 斑目「何かほんとに栄養とエネルギー本位だね、まあ美味いからいいけど」 国松「あと食事の後でいいですから、これ1人2~3錠ずつ飲んどいて下さい」 国松は錠剤がパッキングされた束を取り出した。 荻上「これは?」 国松「塩の錠剤です」 一同「塩?」 国松「浅田君がたくさん持ってたんで分けてもらったんです」 浅田「軍用の救急キットとかサバイバルキットなんかに少量入ってるんですけど、夏場は熱中症予防にたくさん使うんで、別口で大量にまとめ買いしといたんです」 朽木「それならおにぎりに塩ふって食べれば済むのでは?」 国松「それだと塩辛過ぎて、水余分に飲み過ぎちゃうから錠剤にしたんです。あっ、朽木先輩はこれだけ飲んどいて下さい」 国松は、ざっと20~30錠の塩の錠剤をクッチーに渡した。 朽木「隊長、いくら何でもこれは多過ぎるのでは?」 一同『隊長?』 周囲がその呼び方を奇異に感じてるのに対し、国松はそれを完全に流して続ける。 国松「これでも少ないぐらいです。朽木先輩はきくち英一さんをご存知ですか?」 朽木「菊地エリなら知ってるけど…いや、何でもないです。で、どなたですかな?」 20歳にも満たぬ女の子が、現在でも熟女もので活躍してるとは言え、80年代半ば頃の人気AV女優の名前を知る訳も無く、あっさりクッチーのボケを流して国松は解説する。 国松「帰ってきたウルトラマンに入ってた人です。彼は当時、サラダを食べる時にはサラダが見えなくなるぐらいの量の塩をふって食べていたそうです(作者注、本当です)」 朽木「もはやサラダというより生野菜の塩漬けですな」 国松「そんな食生活を送ってたきくちさんが、最終回の撮影後に精密検査に行った際に、塩分不足だと言われたそうです」 朽木「何ですと!」 国松「分かって頂けました?」 朽木「たいへんよく分かりました!(塩の錠剤をコーラで一気に流し込む)」 国松「今日はクーラーボックスで水やスポーツドリンクたくさん持って来てますから、塩の錠剤と一緒に小まめに補給して下さい。くれぐれも、ぶっ続けでやらないで下さい!」 朽木「GIG!」 食後のデザートのバナナを頬張る斑目。 それを傍らで見てニャマリと笑う台場。 その視線に気付く斑目。 斑目「?」 台場「なっ、何でもないですよ!」 斑目「?」 台場「ほんとですってば!参考になんかしてませんから!」 その声に反応してシンとなる一同。 沈黙に耐えられなくなった台場、自ら墓穴を掘ってしまう。 台場「知ったな!斑目さんがバナナをくわえてるのを見て、私がピーをくわえてる図を想像してることを知ったな!」 斑目を筆頭に、バナナを食べていた者たちは思わずバナナを吹きかける。 固まる一同。 荻上「あの、誰もそこまで言ってないから、そんなハッキリ言わなくてもよかったのに…」 台場「うわあああああ!!!」 泣きながら走り去る台場。 荻上「もう、しょうがないなあ…」 立ち上がり、台場を追おうとする荻上会長。 それを神田が制する。 神田「大丈夫ですよ、会長。あれ最近私たちの間で流行ってるんです」 荻上「あれって『知ったな!』が?」 豪田「ああやれば大概の恥ずかしい場面は、笑ってごまかせますから」 荻上「あんまりごまかせてない気がするけど…」 斑目「むしろ却って傷口広げてるような気がするんですけど…」 食事が終わり、各自コスへの着替えタイムとなった。 例によってクッチーの更衣室には、国松と日垣がやって来た。 今日のアルのコスは、本物の鎧を参考に作ったから、構造は本物の鎧とほぼ同じだ。 だから基本的には1人でも着付けは出来る。 ただそれでも、やはり助手が居るに越したことは無い。 それに本物の鎧と違い、今日も機電を仕込んで目が光るようになっている。 鎧の目の部分は黒いメッシュが張られ、その上にLED球が付いている。 ベムの時と違い目の位置がクッチーの目の位置に近い為、クッチーは電球の脇からやや寄り目でのぞき見るような格好になる。 鎧を着込み終わったところに田中が入ってきた。 田中「着付けは終わったみたいだね。朽木君、ちょっと股間に手を入れてみて」 自分の股間に手を入れるクッチー。 国松・日垣「?」 田中「股間に何かつまみみたいな物があるの分かるかな?」 朽木「ありますなあ」 田中「それを捻ってみて」 つまみを捻るクッチー。 鎧の腰から股下にかけての部分が、パンツを前後に切ったようにパカッと外れ、クッチーのトランクスが丸見えになる。 朽木「にょ?田中さん、こりゃいったい?」 田中「昨夜ちょっと思い付いて改造したんだよ。(国松に)ごめん、夜中に急に思い付いたんで、連絡しないでやっちゃったよ」 国松「いえ、それは構わないですけど、これは何の為に?」 田中「朽木君のことだから、夢中になったらギリギリまでトイレ我慢しちゃうだろうと思って、最悪の場合鎧のままトイレに駆け込めるようにしたんだよ」 日垣「なるほどね」 国松「うーん…おっしゃる意図は分かるんですけど、トイレは出来るだけコス脱いでから 行って欲しいですね。休憩の意味も込めて」 日垣「国松さん、もちろん朽木先輩も田中先輩も、原則はそうされるお積りだよ。ただね、男性は女性に比べてトイレをかなり我慢出来るんだよ」 国松「???」 日垣「特に朽木先輩の場合、ノッてきたら我慢すると言うより忘れちゃうから、いざトイレとなると待った無し状態になりかねない。だからこういう非常手段は必要だと思うよ」 田中「日垣君の言う通り、これはあくまでも非常手段だから、なるべく使わないでね。(鎧の腰を元に戻しつつ)これ1回開けちゃうと、自分で元に戻すのは手間だから」 朽木「GIG!」 田中「すっかり気に入ったみたいだね、その返事の仕方。あと、ちょっと動いてみてくれるかな?」 昨日と違って、真面目に空手式のキックやパンチを放つクッチー。 鎧の可動範囲は意外と広いようで、軽々とハイキックや後ろ廻し蹴りを放てる。 朽木「良好であります!」 国松「あの田中先輩、ひょっとして関節も改良なさったんですか?」 田中「股間を改造するついでに、少し関節の可動範囲を拡げたんだ。よく分かったね」 国松「私の設計だと、あそこまでは動けないはずですから…」 国松が少し落ち込んだので、田中はフォローする。 田中「まあ国松さんの設計も、初めてにしては上出来だよ。普通に動く分にはあれで問題無いと思うよ。ただ朽木君の動きっぷりは普通じゃないからね」 朽木「いやーお手数をお掛けします」 田中「まあファーストで言えば、国松さんがテム・レイで、俺がモスク・ハンってとこかな。だから気にすんな」 実はファーストはひと通り見たものの、キャラクター名を完全には把握出来てない国松には、この田中の例えはピンと来なかった。 ただ最初に叩き台を作ったことを評価してくれたことは理解した。 だがそれでも田中と自分の差を思い知り、自省の念に駆られる。 国松「やっぱり田中先輩は凄いですね。私なんかまだまだですよ」 日垣「まあそう落ち込むなよ。田中先輩と国松さんじゃ、キャリアが全然違うんだから」 日垣は単純に、この間始めたばかりの初心者と、大学生活の殆どをコスにつぎ込んだOBとの差をイメージして言ったのだが、田中の話はそれを軽く凌駕した。 田中「あのさあ、俺が初めてコス作ったの、小学5年生の時なんだよ」 一同「えっ?!」 田中「まあ正確には学芸会の劇の衣装だけど、俺が衣装全部作る条件として、当時人気のあったアニメやゲームのキャラの衣装そのまんまのを作ったんだ」 一同「え~~~~!!!」 田中「まあ当時はファンタジー系のゲームが一般化し始めていた頃だったから、中世の話の衣装として使っても、さほど違和感無かったよ。けっこう好評だったし」 一同「…」 田中「だから国松さんも日垣君も、俺と比べてあれこれ悩むなよ。君らは始めてひと月も経ってない。俺はもう干支ひと周りしたんだ。それで同程度だったら、俺かわいそうだろ?」 国松「それもそうですね…(明るく)分かりました!」 田中「さてと、それじゃあ分かってもらえたようだし、朽木君の方はこれで良さそうだから、お2人はこちらに来てもらおうか」 国松・日垣「えっ?」 朽木「何をなさるのですかな?」 田中「まあそれは後のお楽しみということで」 現視研の面々は、コスプレ広場に集結した。 コスをする会員プラスOBだけでなく、コスをしない1年生たちも集まった。 姿を見せてないのはスー&アンジェラのコンビと伊藤、そして田中、大野さん、日垣、国松の新旧コスプレカップル(日垣と国松はそう言っていいかは微妙だが)だけだ。 荻上会長(エド),笹原(マスタング)、恵子(ホークアイ)、斑目(ヒューズ)、クッチー(アル)は、既にコス姿でスタンバっている。 豪田「わー荻様すてき!エドそのまんま」 巴「ほんと、オートメールもよく出来てるし」 荻上会長の髪や腕を撫で回す2人。 荻上「ちょっ、ちょっとやめて、くすぐったいから」 台場「よく出来てると言えば、朽木先輩のアルもよく出来てるわね」 沢田「ほんと、とてもプラスチックで出来てるようには見えないわね」 そう言いながら、クッチーの胸板を軽く叩く。 コンコンと、プラスチックの軽い音がする。 朽木「にょ~?」 沢田「すいません、見た目は金属みたいな質感なんでつい。何かもっと金物的な音がしそうな気がしたんで」 神田「恵子先輩も金髪似合いますね。春日部先輩みたい」 恵子「そう?」 まんざらでも無さそうな恵子。 豪田「ほんと、恵子先輩ステキ!」 恵子をハグする豪田。 恵子「ムギュッ、ちょっ、ちょっと離れろよ、重いし暑いから」 神田「笹原先輩も、その格好するとほんと大佐そっくりですね」 笹原「ハハハ…」 浅田「斑目先輩、今日は四角いメガネですね」 斑目「ああ、これ就活の時使ってたやつだよ。今日はヒューズのコスだから、それに合わせる為に久々に出したんだ」 岸野「ひょっとして、その不精ヒゲも?」 斑目「1週間ほど剃らなかった」 浅田・岸野「何て真面目な人なんだ…」 豪田「あれっ?有吉君、伊藤君知らない?」 有吉「何か昼からは、別口の知り合いと一緒に回るらしいよ」 そう言う有吉は、少し寂しそうだった。 豪田「どしたの?」 沢田「伊藤君の知り合いって、実は彼女らしいのよ」 1年女子一同「なっ、何だって~~~!!!?」 沢田「そんなMMRみたいな驚き方しちゃ伊藤君かわいそうよ」 豪田「マジなのそれ?」 沢田「私、伊藤君が女の子と並んで歩いてるの見たのよ。顔は見えなかったけど、ツインテールの女の子だったわ」 豪田「それで落ち込んでるのか、有吉君。伊藤君が女の子に取られたって」 有吉「あの、僕と伊藤君って、そんなみんなが期待するような関係じゃないから」 豪田「じゃその落ち込み方は何なの?」 有吉「僕も伊藤君も、高校の3年間彼女無しで過ごしたからさ、ちと寂しいだけだよ」 豪田「伊藤君に裏切られたとか抜け駆けされたとか思ってるの?」 有吉「全然無いとまでは言い切らないけど、伊藤君には幸せになって欲しいとはマジで思ってるよ」 豪田「有吉君、いい人なんだね。まあそう落ち込みなさんな。現視研には彼氏募集中の女の子がたくさんいるし、ヤブさんに頼めば漫研の女の子にもつなぎ取れるだろうし」 有吉「ありがと…」 豪田「(そっぽを向き)何なら、私でもいいし…」 有吉「えっ?」 豪田「何でもない!」 笹原「荻上さん、田中さんと大野さんは?」 荻上「何でも日垣君と国松さんに、急遽コスしてもらうっておっしゃてましたよ」 笹原「そりゃまた急にどうして?」 荻上「2人とも今日はマネージャー役でコスプレ広場にずっと居るから、それならコス姿の方がいいって田中さんが言い出したそうです」 笹原「てことは、昨日いきなりコス用意したのかな、田中さん?」 荻上「大野さんの話では、昨夜の内に突貫工事で作ったらしいですよ」 そこへ問題の4人がやって来た。 田中「すまん遅くなって。ちょっと日垣君の方で手間取ってね」 ハゲヅラの田中が謝る。 大野さんのラストと田中のグラトニーについては心の準備が出来ていたので、感心はしてもさほど驚かなかった一同だったが、国松と日垣を見て呆然とする。 国松はチャイナ服風のシャツとズボンを身に着けていた。 髪は左右2つのお団子に束ね、その根元には弁髪状の髪の束を左右各3本ずつ下げている。 国松はさほど髪が長くないので、おそらくヅラであろう。 ブルース・リーがブームになった頃のカンフー映画で、カンフーをやるヒロインにありがちな格好だ。 その肩には、子猫ほどの大きさのパンダの縫いぐるみが、鷹匠の鷹のように立っていた。 もっと異様なのは日垣だ。 服装こそノースリーブのシャツに黒のジャージのズボンとありきたりな格好だが、上半身の皮膚は褐色に塗られ、頭のてっぺんには白髪のヅラを被っている。 しかも右腕には奇怪な模様の入れ墨があり、額から目にかけて×状の傷跡がある。 国松がちょっと嬉しそうなのに対し、日垣は恥ずかしそうだった。 豪田「スカー…なの?」 巴「なかなか似合ってるじゃない。日垣君背高いし体格いいから、ピッタシのキャスティングね」 浅田「国松さんのは…メイ・チャン?」 岸野「よくこんな短時間で用意したな、田中先輩」 グラトニー姿の田中が説明する。 田中「日垣くんのコスは彼の私物での間に合わせだよ。国松さんのは、前に荻上さん用に試作したものを改造したんだ」 荻上『私に何のコスさせる積りだったんだ、田中さん?…』 沢田「日垣君の肌の色はどうやったんです?」 国松「明日の絶望先生のコスで使うファンデーション使ったのよ」 台場「そう言えば千里、明日はマリア役だったわね」 国松「昔シャネルズが黒人メイクで使ってたやつよ」 台場「シャネルズって…ラッツ・アンド・スターのこと?」 斑目「この場合、オタ的には国松さんの言い方の方が正しいな」 台場「といいますと?」 斑目「昔『キン肉マン』の中で、キン肉マンが黒塗りメイクでサングラスかけてシャネルマンって名乗ったことがあっただろう?あれの名前の由来がシャネルズなんだよ」 台場「ああ、ありましたね、そんな話が」 国松「???」 台場「あんたの言い方の方が正しいって話よ」 斑目「まあ何にせよ、これだけは言えるな。(1拍間を置いて)田中恐るべし!」 一同「激しく同意…」 田中「しかし今日は、ほぼみんなコスプレ広場に集まったな。これならみんなの分のコスも作っときゃよかったな」 それを聞いた会計担当の台場の顔に影が差し、地獄の底から響くような低音で呟く。 台場「よさ~~~~~~~~~ん!」 田中「ひっ?」 台場「今回作ったコスだけで赤字なのに、よさ~~~~~~~~~ん!」 どこからともなく算盤を取り出し、まるで神社の巫女が鈴を鳴らすようにシャカシャカと算盤を鳴らす。 田中「落ち着け台場さん!あくまでもそうだったらいいなって話だから!」 台場「(急に普段の顔に戻り、算盤もどこかに仕舞い)ならいいです」 荻上『とりあえず会計は、引退まで台場さんに任せて大丈夫そうね…』 そこへ藪崎さんと加藤さんがやって来た。 藪崎「うわー、こりゃまた化けたなオギー」 加藤「よく似合ってるわよ、荻上さん」 荻上「ありがとうございます。今日は漫研の方はどうです?」 加藤「まあ可も無く不可も無くってとこかしら」 藪崎「不可です!甘いこと言うてたらあきません、加藤さん!」 加藤「でもさっきのあれは、ちょっと言い過ぎよ」 荻上「あれ?」 加藤「藪崎ね、さっきうちの女子たち泣かしちゃったのよ」 藪崎「人聞きの悪いこと言わんといて下さい!私は正論を言うただけです!」 荻上「何言ったの?」 加藤「うちの同人誌見て、絵が型通りだのコマ割が在り来たりだのと滅多切りにしたのよ」 荻上「うわー容赦無いなー」 藪崎「あんたはあの同人誌見てないから、そない言えるんや。あとで1冊持って来たるから見てみい。絶対文句言いたなるわ」 荻上「そんなに酷いの?」 藪崎「絵えそのものは悪うないんや。けどな、漫画の入門書でも見ながら描いたみたいに全て型通りで、描いた本人の個性とか主張とかが全然無いんや」 加藤「まあ確かに、藪崎の評は間違ってないわ」 藪崎「要するに、夏コミで出品出来る枠があるから描いてみたみたいな、その程度のノリなんや。現視研みたいに、今回で終わりかも知れんちゅう切迫感があらへんのや」 加藤「だからって、今回の絵描きの子が泣いちゃったのに、それにさらに追い討ちかけちゃやり過ぎよ」 荻上「追い討ち?」 藪崎「ちょっ、ちょっとやめて下さいよ加藤さん、みっともない!」 構わずに加藤さんは続けた。 加藤「藪崎はこう言ったのよ。『その涙は何や!あんたの涙でええ同人誌が作れんのか!完売出来んのか!』って」 そこへ国松が割り込んできた。 国松「藪崎先輩って、まるでモロボシ・ダンみたいですね」 藪崎「出たな特撮娘。モロボシ・ダンって『ウルトラセブン』の人やろ。どういうことや?」 国松「ダンは『ウルトラマンレオ』ではMACの隊長やってるんですよ。それでレオに変身するオオトリ・ゲンにいろいろ特訓するんです」 藪崎「特訓?何の?」 国松「もちろん怪獣倒す為の特訓ですよ。それが厳しくてゲンが泣いちゃった時に、ダン隊長が言うんですよ。『その涙は何だ?お前の涙で怪獣が倒せるのか?』って」 藪崎「…『ああ喋らせるんやなかった』」 国松「ダメですよ藪崎先輩、後輩の人たちに無茶な特訓させちゃ」 藪崎「せえへん!」 国松「ジープで追い回したりしちゃダメですよ」 藪崎「するかい!て言うか、それ何の特訓やねん?」 ちなみにジープで追い回すとは、突進して来て肩の角で突くのを必殺技にしているカーリー星人なる宇宙人に勝つ為の特訓である。 特撮系の2ちゃんねらーの間では、レオと言えばジープと言われるほど有名なエピソードである。 これはまた後の話だが、「ウルトラマンメビウス」の11月の放送の際にレオが登場した。 レオことオオトリ・ゲンはミライに対し、かつてダンに言われた「その涙で~」の台詞をまんま言い放ち、ジープで追い回す特訓こそ無かったが空手の特訓を命じる。 2ちゃんねるのメビウススレは祭状態と化し、当然国松も翌朝までスレに参加した。 月曜になっても興奮冷めやらぬ国松は、現視研でも何か特訓をやろうと言い出した。 体育会系の巴と特訓大好きのクッチー、そして今や国松の舎弟状態の日垣もそれに乗った。 そこへ更に、野外でのサバイバル経験の豊富な浅田・岸野コンビが、どうせやるなら冬の雪山でサバイバル訓練をやろうと言い出し、他の会員たちも賛同しかけた。 荻上会長が部室に来た頃には、行き先は八甲田山(明治時代、帝国陸軍が行軍訓練中に遭難し、ほぼ全滅しかけたことで有名な難所)で具体的に話が進みかけていた。 さすがにまずいと判断した荻上会長、会長就任以来初の強権発動を断行し、特訓をかろうじて止めさせた。 [[26人いる! その6]]
*26人いる!その7 【投稿日 2006/12/17】 **[[・・・いる!シリーズ]] 2006年夏コミ2日目。 現視研一行は椎応大学の最寄の駅から始発でやって来た。 今日は「やぶへび」の面々は漫研の会員たちと行動するので居ない。 女子会員たちは初日でお目当ての大半をゲットしたので、2日目は軽く巡回する程度で、さほど熱心に買い物する積りは無い。 男子会員たちも、本番の男性向け中心は3日目なので、2日目は軽く流す積りだ。 ただ1人目を爛々と光らせているのは国松だ。 特撮命の国松にとっては、特撮ネタの出てくる2日目こそがメインだからだ。 昨日急遽、会員たちの昼食と飲料水を管理するマネージャー役を買って出たので、国松もある程度大荷物になるはずだったが、そういう理由で国松の分は日垣と巴と台場が持った。 巴と台場はカートに括り付けたクーラーボックスを持ち、日垣は昨日よりも大型の本格的な登山用のリュック(浅田が急遽高校の後輩から借りてくれた)を背負った。 それだけの大荷物になったのは、ざっと25人分の昼食を作ったからだ。 どうせならと、コスプレする人だけでなく会員全員分の昼食を用意したのだ。 家が近かったこともあり、台場と巴も朝からやって来て昼食の用意を手伝った。 そして迎えに来た日垣と共に、巴と台場が昼食を持ったのだ。 そんな訳で必然的に、2日目の現視研の活動の焦点はコスプレとなった。 今日は初日とは別な意味で、会員たちの荷物は異様に多かった。 前述のような理由で、日垣、巴、台場は異様な大荷物だ。 コスの大半はロングコートタイプの軍服なので、コス組の荷物は昨日よりかさばる。 特にクッチーのコスはソリッドな着ぐるみなので、昨日のベム以上にかさばる。 荻上会長のコスも、金髪のヅラにロングコート、そして樹脂とプラ板で出来た義手なので、これまたかさばる。 昨日同様分担購入の割り当て(昨日ほど厳密では無く、大体この辺りが誰それという程度)を開場直前に確認し、入場すると各自散った。 当然のごとく、国松は特撮のエリア担当だ。 一緒に付いて行くのは、日垣と台場、そしてスーという変わった組み合わせだ。 ちなみに昼食を分担して持った巴は、この日は高校の時の知り合いのサークルの売り場に行くので別行動だ。 台場「スーちゃん特撮にも興味あるの?」 スー「押忍!」 台場「どんなのが好きなの?」 スー「(ナチュラルな英語の発音で)スパイダーマン」 台場「やっぱ向こうの人はアメコミ好きよね。サム・ライミ監督のやつ?」 スー「(スパイダーマン風の前傾姿勢から大声で)まーべらー!」 国松「そっちかい!」 台場「そっちって?」 国松「昔、70年代の終わり頃(正確には78年)に日本の東映が、アメリカのマーベルコミックスとキャラクター使用契約をして「スパイダーマン」の特撮ドラマ作ったのよ」 日垣「やっぱり壁登ったり糸出したりするの?」 国松「それはやってたけど、オリジナルと同じなのは名前と外見と能力だけよ」 台場「あとは違うの?」 国松「スパイダー能力は宇宙人から授かったし、レギュラー悪役は宇宙人の秘密結社だし、毎回終盤にマシーンベムっていう怪人が巨大化するし、殆ど別物の内容よ」 日垣「で、スパイダーマンどうやってその巨大化したやつと戦うの?」 国松「宇宙人にもらった宇宙船呼ぶの。それがマーベラーっていうのよ」 台場「で、その宇宙船で怪人と…」 国松「それにスパイダーマンが乗り込んで、さらにレオパルドンという巨大ロボットに変形して、巨大化したマシーンベムと戦うのよ」 日垣「何か戦隊シリーズみたいだね」 国松「そりゃそうよ。この番組が戦隊シリーズでお馴染みになったパターンのプロトタイプなんだから」 日垣「そうだったんだ」 国松「戦隊シリーズは、元祖の『秘密戦隊ゴレンジャー』と後番組の『ジャッカー電撃隊』の後、1年ちょっとブランクをはさんで『バトルフィーバーJ』から再開するんだけど…」 台場「そのバトル何とかがスパイダーマンの…」 国松「後番組じゃないけど、スパイダーマンの終了間際に始まるのよ、バトルフィーバー。そして今の戦隊シリーズの巨大ロボ路線は、バトルフィーバーから始まるのよ」 スー「押忍!ちなみにバトルフィーバーの元ネタは、マーベルコミックスの『キャプテン・アメリカ』であります!」 日垣「そうなの?」 国松「そうよ。だから企画段階の仮題は『キャプテン・ジャパン』って言うのよ」 日垣「国松さんはともかく、何でそんなのまで知ってるんだ、スーちゃん?」 台場もちょっとスーに質問してみることにした。 スーの趣味の幅が知りたいので、わざとメジャーだが古めの作品を挙げてみる。 台場「アメリカのアニメはどんなのが好き?やっぱ『ワッキーレース』とか『ファンタスティックフォー』とか?」 スー「押忍!『チキチキマシン猛レース』と『宇宙忍者ゴームズ』は大好きであります!ムッシュムラムラ!」 台場「だから何でそっちを知ってる!?」 察しのいい方は既に気付いているだろうが、台場が挙げた作品名はアメリカで制作されたオリジナル版タイトル、そしてスーが挙げたのはその日本語版タイトルである。 1970年前後の数年間、地上波で夜の7時台に海外のアニメを放送していた時期があった。 当時は海外との情報の行き来は少なく、著作権の意識も薄かったので、日本語版のタイトルやキャラクター名や台詞などは、語呂合わせやその場のノリやアドリブで決められた。 その結果、直訳どころか意訳にすらなっていないタイトルやキャラ名や台詞が横行した。 特に台詞は、当時の声優にはお笑い系の人(由利徹、牧伸二等)が多かったせいもあってか、アフレコと言うよりネタをやってるような人も多かった。 ちなみに「ムッシュムラムラ!」とは、「宇宙忍者ゴームズ」(ファンタスティックフォー)のキャラのガンロック(ベン・グリム)が、パンチ等で怪力を使う時のかけ声。 これは当時の日本語版スタッフの間でポーカーが流行ってて、関敬六(ガンロックの中の人)が最後にカードを見せる時のかけ声だったそうだ。 もちろんオリジナル版には、そんな台詞は無い。 その頃荻上会長は、またもや笹原とデート気分で買い物に勤しんでいた。 昨日は思わぬアクシデントに振り回されて、あっと言う間にデート気分が吹き飛ばされたので、今日はその分を取り返そうと意気込んでいた。 (とは言っても、どのみち昼までの限定的なデートだが) 笹原もその気のようだが、それでも時折取材の為に立ち止まり、他のお客さんに声をかけて写真を撮ったり、インタビューめいたことをやっていた。 入社してから買ったらしい、デジカメとワイヤレスマイク状の録音機を駆使して、次々と相手を変えて「簡略に」取材を繰り返す。 それは夏コミを楽しみに来たお客さんたちに手間を取らせまいとする、オタクならではの気配りからだった。 その一方で笹原は、取材一辺倒にならぬように荻上会長にも気を使っていた。 それが分かるだけに、荻上会長も文句は言えなかった。 『まあたまには、彼氏の仕事ぶりを間近に見るのもいいか…』 お客さんに対して、真剣だが穏やかでにこやかな顔で接する笹原の顔を、荻上会長は飽かずに眺めていた。 笹原「ごめんね荻上さん、ほったらかしにして」 荻上「しょうがないですよ、仕事なんだから」 笹原「昨日バタバタしてて、あんまし取材出来なかったから、つい熱中しちゃったよ。今日はこの辺にしとくよ。あとは1年の子たちに話聞けば何とかなるし」 再び歩き始める笹荻。 笹荻が2人組の男性とすれ違いかけた時、ふと笹原は立ち止まった。 1人は少々肥満気味で頭にバンダナを巻いており、もう1人は中途半端な長髪と無精髭でガリガリという、ありがちなオタコンビだ。 ただバンダナが普通のTシャツにGパンなのに対し、もう1人は薄手の作務衣を着ていたのが周囲の目を引いた。 バンダナは色の薄いサングラスを、作務衣はメガネをかけていた。 2人組は何故か、笹荻の方を見てうろたえた表情を浮かべていた。 いや正確には、笹原を見てうろたえていた。 ため息を付く笹原。 荻上「?」 笹原「『全く、メガネかけたら変装になると思ってるのか、この先生は?そんな作務衣なんか着てたら、余計目立つでしょうが』あの…こんなとこで何やってるんですか、B先生?」 B先生とは、笹原が担当している漫画家の1人だ。 ちなみに隣のバンダナは、B先生のアシスタントのM君である。 (彼は普段はメガネをかけている) 作務衣の男ことB先生は露骨にうろたえて自爆する。 漫B「知ったな!僕がプロになってからも毎年コミフェスに来てることを知ったな!」 よく見ると2人とも、けっこうな量の荷物を持っていた。 漫B「うわああああああああ!!!」 荷物を放り出して、泣きながら走り去るB先生。 M「あっ先生、待って下さい!」 M君は助けを求めるような顔で一瞬笹原を見ると、B先生を追いかける。 笹原「ヤバい!」 笹原も走り出した。 荻上会長も追って走り出す。 荻上「笹原さん!B先生って?」 笹原「俺が担当してる漫画家の先生だよ!あの人自殺癖があるから止めないとヤバい!」 荻上「自殺?」 笹原「まあ多分本気じゃないとは思うけど、もし成功しちゃったらヤバいから俺も止めに行って来るよ!悪い、後で連絡する!」 笹原はスピードを上げて走り去った。 もはや荻上会長には付いて行けない猛スピードだ。 1人取り残された荻上会長は悟った。 『これだったんだな。笹原さんが足速くなった理由は…』 笹原がB先生に追いついた時、B先生はコスプレ広場から飛び降りようとしており、M君はそれを必死に止めようとしていた。 笹原もM君に加勢して止めに入るが、結局もつれて3人とも落ちてしまう。 だが幸い彼らの下に、催し物のテントがあったので奇跡的に全員無傷で済んだ。 (さすがにテントは壊れたが) 笹原はポケットから気付け薬(B先生の前の担当の人から、常時持っておくようにと渡された)を出し、気絶したB先生の鼻先で開けて目を覚まさせる。 笹原「大丈夫ですか、先生?」 漫B「死んだらどうする!」 笹原・M『それは俺たちの台詞だろうが、全く…』 「うっしゃー!」 笹原がM君と共にため息を付いていた頃、国松は勝利の雄叫びを上げていた。 「ウルトラマンメビウス」ネタの同人誌を紙袋いっぱい買い込んだのだ。 国松「ねっ晴海、私の言った通りだったでしょ?」 台場「そうね、まさかリュウ、ここまで総受け状態とは思わなかったわ」 リュウとは「ウルトラマンメビウス」の怪獣攻撃チームGUYSのアイハラ・リュウ隊員のことである。 彼の親友でメビウスの正体でもあるミライ隊員、彼の慕うセリザワ元隊長はもちろん、他の男性キャラ全員がリュウ相手だと攻めとなった。 たまに女性隊員と絡んでるノーマルカップルのもあるが、それとて逆レイプっぽい。 粗暴で、偉そうで、巻き舌気味のダミ声で、言葉使いが荒くて、一部の2ちゃんねらーたちからはDQN呼ばわりされているリュウ隊員。 そんな彼は、一見ヤオイなら攻め系のキャラに見えるかも知れない。 だが彼はその一方で、涙もろくて、死んだ元上司に何時までも恋々とする女々しい、もとい乙女チックな一面も持ち合わせていた。 最近見始めた台場には分からなかったリュウの本質を、第1回からずっと見ていた国松は看破していた。 途中で会った大野さんが口を挟む。 大野「うーん、国松さんの薦めでメビウス見てみたけど、私も攻めっぽいと思ってたな…」 国松の表情が一変して鬼の形相と化した。 国松「受けですう~!絶対受けですう~!」 大野「!?」 国松「リュウさんは全身から受けオーラ出てますよ!総受けですよ総受け!分かってない!大野先輩、リュウさんのこと全っ然分かってない!」 大野「(冷や汗)ははは、ごめんなさい…『何か前に、これに似たこと誰かに言った覚えがあるんだけど…』」 ひと通り回り終わり、現視研の面々は昼食を済ませることにした。 日垣と国松が昼食を並べる。 国松の献立はシンプルだった。 主食もおかずも、おにぎりオンリーだ。 中身はかつおぶしと、梅干と、たらこの3種類。 あとは各自の好みに応じて付けられるように、ごま塩と味付け海苔が別添えになっている。 その代わりに、量は凄まじく多かった。 国松はざっと25人前用意したと言うが、軽く30人前以上はあった。 それにデザートに、1人3本ぐらいはありそうな大量のバナナを用意してある。 そして飲み物は、1ダースもの大型ペットボトルに入ったコーラだった。 神田「あれっ?スーちゃんとアンジェラは?」 大野「もう少し買い物の方粘ってから来るそうですよ。アメリカの友だちに頼まれた分が売ってるのが今日らしいんで」 国松「それじゃあ2人分取って置きますね」 国松は竹の皮を2枚取り出し、その上におにぎりを10個ずつ置いて包む。 恵子「そんなもんまで用意してたんだ…」 沢田「初めてリアルで見たわ、竹の皮でおにぎり包むのなんて」 有吉「僕も。時代劇でしか見たことない…」 豪田「つーか千里、アンジェラはともかくスーちゃんに10個は多過ぎない?」 国松「育ち盛りなんだから、無理してでも食べなきゃダメよ」 一同『スーの年齢、育ち盛りって想定してるんだ…』 食べ始める一同。 豪田「おいしい!でも何か変わった味の御飯ね。所々茶色いし」 国松「特性のブレンド米使ってるからね」 沢田「ブレンド米?」 巴「白米と、麦飯と、玄米と、もち米のブレンド米よ」 荻上「そりゃまた随分凝った組み合わせね」 国松「栄養とエネルギー効率と腹持ちの良さ最優先で考えましたから。と言ってもこれ実は、高校の時の柔道部の合宿のメニューの1つなんですけどね」 笹原「あれ?国松さん、このコーラ炭酸入ってないよ」 国松「それわざと炭酸抜いてあるんです。そうすると即エネルギーになりますから」 笹原「そうなの?」 国松「マラソンの選手には、炭酸抜きコーラを競技中の水分補給に使う選手も居るぐらいですから」 一同「へー」 斑目「もしかしてバナナも?」 国松「はいっ、即効性のエネルギー食です」 斑目「何かほんとに栄養とエネルギー本位だね、まあ美味いからいいけど」 国松「あと食事の後でいいですから、これ1人2~3錠ずつ飲んどいて下さい」 国松は錠剤がパッキングされた束を取り出した。 荻上「これは?」 国松「塩の錠剤です」 一同「塩?」 国松「浅田君がたくさん持ってたんで分けてもらったんです」 浅田「軍用の救急キットとかサバイバルキットなんかに少量入ってるんですけど、夏場は熱中症予防にたくさん使うんで、別口で大量にまとめ買いしといたんです」 朽木「それならおにぎりに塩ふって食べれば済むのでは?」 国松「それだと塩辛過ぎて、水余分に飲み過ぎちゃうから錠剤にしたんです。あっ、朽木先輩はこれだけ飲んどいて下さい」 国松は、ざっと20~30錠の塩の錠剤をクッチーに渡した。 朽木「隊長、いくら何でもこれは多過ぎるのでは?」 一同『隊長?』 周囲がその呼び方を奇異に感じてるのに対し、国松はそれを完全に流して続ける。 国松「これでも少ないぐらいです。朽木先輩はきくち英一さんをご存知ですか?」 朽木「菊地エリなら知ってるけど…いや、何でもないです。で、どなたですかな?」 20歳にも満たぬ女の子が、現在でも熟女もので活躍してるとは言え、80年代半ば頃の人気AV女優の名前を知る訳も無く、あっさりクッチーのボケを流して国松は解説する。 国松「帰ってきたウルトラマンに入ってた人です。彼は当時、サラダを食べる時にはサラダが見えなくなるぐらいの量の塩をふって食べていたそうです(作者注、本当です)」 朽木「もはやサラダというより生野菜の塩漬けですな」 国松「そんな食生活を送ってたきくちさんが、最終回の撮影後に精密検査に行った際に、塩分不足だと言われたそうです」 朽木「何ですと!」 国松「分かって頂けました?」 朽木「たいへんよく分かりました!(塩の錠剤をコーラで一気に流し込む)」 国松「今日はクーラーボックスで水やスポーツドリンクたくさん持って来てますから、塩の錠剤と一緒に小まめに補給して下さい。くれぐれも、ぶっ続けでやらないで下さい!」 朽木「GIG!」 食後のデザートのバナナを頬張る斑目。 それを傍らで見てニャマリと笑う台場。 その視線に気付く斑目。 斑目「?」 台場「なっ、何でもないですよ!」 斑目「?」 台場「ほんとですってば!参考になんかしてませんから!」 その声に反応してシンとなる一同。 沈黙に耐えられなくなった台場、自ら墓穴を掘ってしまう。 台場「知ったな!斑目さんがバナナをくわえてるのを見て、私がピーをくわえてる図を想像してることを知ったな!」 斑目を筆頭に、バナナを食べていた者たちは思わずバナナを吹きかける。 固まる一同。 荻上「あの、誰もそこまで言ってないから、そんなハッキリ言わなくてもよかったのに…」 台場「うわあああああ!!!」 泣きながら走り去る台場。 荻上「もう、しょうがないなあ…」 立ち上がり、台場を追おうとする荻上会長。 それを神田が制する。 神田「大丈夫ですよ、会長。あれ最近私たちの間で流行ってるんです」 荻上「あれって『知ったな!』が?」 豪田「ああやれば大概の恥ずかしい場面は、笑ってごまかせますから」 荻上「あんまりごまかせてない気がするけど…」 斑目「むしろ却って傷口広げてるような気がするんですけど…」 食事が終わり、各自コスへの着替えタイムとなった。 例によってクッチーの更衣室には、国松と日垣がやって来た。 今日のアルのコスは、本物の鎧を参考に作ったから、構造は本物の鎧とほぼ同じだ。 だから基本的には1人でも着付けは出来る。 ただそれでも、やはり助手が居るに越したことは無い。 それに本物の鎧と違い、今日も機電を仕込んで目が光るようになっている。 鎧の目の部分は黒いメッシュが張られ、その上にLED球が付いている。 ベムの時と違い目の位置がクッチーの目の位置に近い為、クッチーは電球の脇からやや寄り目でのぞき見るような格好になる。 鎧を着込み終わったところに田中が入ってきた。 田中「着付けは終わったみたいだね。朽木君、ちょっと股間に手を入れてみて」 自分の股間に手を入れるクッチー。 国松・日垣「?」 田中「股間に何かつまみみたいな物があるの分かるかな?」 朽木「ありますなあ」 田中「それを捻ってみて」 つまみを捻るクッチー。 鎧の腰から股下にかけての部分が、パンツを前後に切ったようにパカッと外れ、クッチーのトランクスが丸見えになる。 朽木「にょ?田中さん、こりゃいったい?」 田中「昨夜ちょっと思い付いて改造したんだよ。(国松に)ごめん、夜中に急に思い付いたんで、連絡しないでやっちゃったよ」 国松「いえ、それは構わないですけど、これは何の為に?」 田中「朽木君のことだから、夢中になったらギリギリまでトイレ我慢しちゃうだろうと思って、最悪の場合鎧のままトイレに駆け込めるようにしたんだよ」 日垣「なるほどね」 国松「うーん…おっしゃる意図は分かるんですけど、トイレは出来るだけコス脱いでから 行って欲しいですね。休憩の意味も込めて」 日垣「国松さん、もちろん朽木先輩も田中先輩も、原則はそうされるお積りだよ。ただね、男性は女性に比べてトイレをかなり我慢出来るんだよ」 国松「???」 日垣「特に朽木先輩の場合、ノッてきたら我慢すると言うより忘れちゃうから、いざトイレとなると待った無し状態になりかねない。だからこういう非常手段は必要だと思うよ」 田中「日垣君の言う通り、これはあくまでも非常手段だから、なるべく使わないでね。(鎧の腰を元に戻しつつ)これ1回開けちゃうと、自分で元に戻すのは手間だから」 朽木「GIG!」 田中「すっかり気に入ったみたいだね、その返事の仕方。あと、ちょっと動いてみてくれるかな?」 昨日と違って、真面目に空手式のキックやパンチを放つクッチー。 鎧の可動範囲は意外と広いようで、軽々とハイキックや後ろ廻し蹴りを放てる。 朽木「良好であります!」 国松「あの田中先輩、ひょっとして関節も改良なさったんですか?」 田中「股間を改造するついでに、少し関節の可動範囲を拡げたんだ。よく分かったね」 国松「私の設計だと、あそこまでは動けないはずですから…」 国松が少し落ち込んだので、田中はフォローする。 田中「まあ国松さんの設計も、初めてにしては上出来だよ。普通に動く分にはあれで問題無いと思うよ。ただ朽木君の動きっぷりは普通じゃないからね」 朽木「いやーお手数をお掛けします」 田中「まあファーストで言えば、国松さんがテム・レイで、俺がモスク・ハンってとこかな。だから気にすんな」 実はファーストはひと通り見たものの、キャラクター名を完全には把握出来てない国松には、この田中の例えはピンと来なかった。 ただ最初に叩き台を作ったことを評価してくれたことは理解した。 だがそれでも田中と自分の差を思い知り、自省の念に駆られる。 国松「やっぱり田中先輩は凄いですね。私なんかまだまだですよ」 日垣「まあそう落ち込むなよ。田中先輩と国松さんじゃ、キャリアが全然違うんだから」 日垣は単純に、この間始めたばかりの初心者と、大学生活の殆どをコスにつぎ込んだOBとの差をイメージして言ったのだが、田中の話はそれを軽く凌駕した。 田中「あのさあ、俺が初めてコス作ったの、小学5年生の時なんだよ」 一同「えっ?!」 田中「まあ正確には学芸会の劇の衣装だけど、俺が衣装全部作る条件として、当時人気のあったアニメやゲームのキャラの衣装そのまんまのを作ったんだ」 一同「え~~~~!!!」 田中「まあ当時はファンタジー系のゲームが一般化し始めていた頃だったから、中世の話の衣装として使っても、さほど違和感無かったよ。けっこう好評だったし」 一同「…」 田中「だから国松さんも日垣君も、俺と比べてあれこれ悩むなよ。君らは始めてひと月も経ってない。俺はもう干支ひと周りしたんだ。それで同程度だったら、俺かわいそうだろ?」 国松「それもそうですね…(明るく)分かりました!」 田中「さてと、それじゃあ分かってもらえたようだし、朽木君の方はこれで良さそうだから、お2人はこちらに来てもらおうか」 国松・日垣「えっ?」 朽木「何をなさるのですかな?」 田中「まあそれは後のお楽しみということで」 現視研の面々は、コスプレ広場に集結した。 コスをする会員プラスOBだけでなく、コスをしない1年生たちも集まった。 姿を見せてないのはスー&アンジェラのコンビと伊藤、そして田中、大野さん、日垣、国松の新旧コスプレカップル(日垣と国松はそう言っていいかは微妙だが)だけだ。 荻上会長(エド),笹原(マスタング)、恵子(ホークアイ)、斑目(ヒューズ)、クッチー(アル)は、既にコス姿でスタンバっている。 豪田「わー荻様すてき!エドそのまんま」 巴「ほんと、オートメールもよく出来てるし」 荻上会長の髪や腕を撫で回す2人。 荻上「ちょっ、ちょっとやめて、くすぐったいから」 台場「よく出来てると言えば、朽木先輩のアルもよく出来てるわね」 沢田「ほんと、とてもプラスチックで出来てるようには見えないわね」 そう言いながら、クッチーの胸板を軽く叩く。 コンコンと、プラスチックの軽い音がする。 朽木「にょ~?」 沢田「すいません、見た目は金属みたいな質感なんでつい。何かもっと金物的な音がしそうな気がしたんで」 神田「恵子先輩も金髪似合いますね。春日部先輩みたい」 恵子「そう?」 まんざらでも無さそうな恵子。 豪田「ほんと、恵子先輩ステキ!」 恵子をハグする豪田。 恵子「ムギュッ、ちょっ、ちょっと離れろよ、重いし暑いから」 神田「笹原先輩も、その格好するとほんと大佐そっくりですね」 笹原「ハハハ…」 浅田「斑目先輩、今日は四角いメガネですね」 斑目「ああ、これ就活の時使ってたやつだよ。今日はヒューズのコスだから、それに合わせる為に久々に出したんだ」 岸野「ひょっとして、その不精ヒゲも?」 斑目「1週間ほど剃らなかった」 浅田・岸野「何て真面目な人なんだ…」 豪田「あれっ?有吉君、伊藤君知らない?」 有吉「何か昼からは、別口の知り合いと一緒に回るらしいよ」 そう言う有吉は、少し寂しそうだった。 豪田「どしたの?」 沢田「伊藤君の知り合いって、実は彼女らしいのよ」 1年女子一同「なっ、何だって~~~!!!?」 沢田「そんなMMRみたいな驚き方しちゃ伊藤君かわいそうよ」 豪田「マジなのそれ?」 沢田「私、伊藤君が女の子と並んで歩いてるの見たのよ。顔は見えなかったけど、ツインテールの女の子だったわ」 豪田「それで落ち込んでるのか、有吉君。伊藤君が女の子に取られたって」 有吉「あの、僕と伊藤君って、そんなみんなが期待するような関係じゃないから」 豪田「じゃその落ち込み方は何なの?」 有吉「僕も伊藤君も、高校の3年間彼女無しで過ごしたからさ、ちと寂しいだけだよ」 豪田「伊藤君に裏切られたとか抜け駆けされたとか思ってるの?」 有吉「全然無いとまでは言い切らないけど、伊藤君には幸せになって欲しいとはマジで思ってるよ」 豪田「有吉君、いい人なんだね。まあそう落ち込みなさんな。現視研には彼氏募集中の女の子がたくさんいるし、ヤブさんに頼めば漫研の女の子にもつなぎ取れるだろうし」 有吉「ありがと…」 豪田「(そっぽを向き)何なら、私でもいいし…」 有吉「えっ?」 豪田「何でもない!」 笹原「荻上さん、田中さんと大野さんは?」 荻上「何でも日垣君と国松さんに、急遽コスしてもらうっておっしゃてましたよ」 笹原「そりゃまた急にどうして?」 荻上「2人とも今日はマネージャー役でコスプレ広場にずっと居るから、それならコス姿の方がいいって田中さんが言い出したそうです」 笹原「てことは、昨日いきなりコス用意したのかな、田中さん?」 荻上「大野さんの話では、昨夜の内に突貫工事で作ったらしいですよ」 そこへ問題の4人がやって来た。 田中「すまん遅くなって。ちょっと日垣君の方で手間取ってね」 ハゲヅラの田中が謝る。 大野さんのラストと田中のグラトニーについては心の準備が出来ていたので、感心はしてもさほど驚かなかった一同だったが、国松と日垣を見て呆然とする。 国松はチャイナ服風のシャツとズボンを身に着けていた。 髪は左右2つのお団子に束ね、その根元には弁髪状の髪の束を左右各3本ずつ下げている。 国松はさほど髪が長くないので、おそらくヅラであろう。 ブルース・リーがブームになった頃のカンフー映画で、カンフーをやるヒロインにありがちな格好だ。 その肩には、子猫ほどの大きさのパンダの縫いぐるみが、鷹匠の鷹のように立っていた。 もっと異様なのは日垣だ。 服装こそノースリーブのシャツに黒のジャージのズボンとありきたりな格好だが、上半身の皮膚は褐色に塗られ、頭のてっぺんには白髪のヅラを被っている。 しかも右腕には奇怪な模様の入れ墨があり、額から目にかけて×状の傷跡がある。 国松がちょっと嬉しそうなのに対し、日垣は恥ずかしそうだった。 豪田「スカー…なの?」 巴「なかなか似合ってるじゃない。日垣君背高いし体格いいから、ピッタシのキャスティングね」 浅田「国松さんのは…メイ・チャン?」 岸野「よくこんな短時間で用意したな、田中先輩」 グラトニー姿の田中が説明する。 田中「日垣くんのコスは彼の私物での間に合わせだよ。国松さんのは、前に荻上さん用に試作したものを改造したんだ」 荻上『私に何のコスさせる積りだったんだ、田中さん?…』 沢田「日垣君の肌の色はどうやったんです?」 国松「明日の絶望先生のコスで使うファンデーション使ったのよ」 台場「そう言えば千里、明日はマリア役だったわね」 国松「昔シャネルズが黒人メイクで使ってたやつよ」 台場「シャネルズって…ラッツ・アンド・スターのこと?」 斑目「この場合、オタ的には国松さんの言い方の方が正しいな」 台場「といいますと?」 斑目「昔『キン肉マン』の中で、キン肉マンが黒塗りメイクでサングラスかけてシャネルマンって名乗ったことがあっただろう?あれの名前の由来がシャネルズなんだよ」 台場「ああ、ありましたね、そんな話が」 国松「???」 台場「あんたの言い方の方が正しいって話よ」 斑目「まあ何にせよ、これだけは言えるな。(1拍間を置いて)田中恐るべし!」 一同「激しく同意…」 田中「しかし今日は、ほぼみんなコスプレ広場に集まったな。これならみんなの分のコスも作っときゃよかったな」 それを聞いた会計担当の台場の顔に影が差し、地獄の底から響くような低音で呟く。 台場「よさ~~~~~~~~~ん!」 田中「ひっ?」 台場「今回作ったコスだけで赤字なのに、よさ~~~~~~~~~ん!」 どこからともなく算盤を取り出し、まるで神社の巫女が鈴を鳴らすようにシャカシャカと算盤を鳴らす。 田中「落ち着け台場さん!あくまでもそうだったらいいなって話だから!」 台場「(急に普段の顔に戻り、算盤もどこかに仕舞い)ならいいです」 荻上『とりあえず会計は、引退まで台場さんに任せて大丈夫そうね…』 そこへ藪崎さんと加藤さんがやって来た。 藪崎「うわー、こりゃまた化けたなオギー」 加藤「よく似合ってるわよ、荻上さん」 荻上「ありがとうございます。今日は漫研の方はどうです?」 加藤「まあ可も無く不可も無くってとこかしら」 藪崎「不可です!甘いこと言うてたらあきません、加藤さん!」 加藤「でもさっきのあれは、ちょっと言い過ぎよ」 荻上「あれ?」 加藤「藪崎ね、さっきうちの女子たち泣かしちゃったのよ」 藪崎「人聞きの悪いこと言わんといて下さい!私は正論を言うただけです!」 荻上「何言ったの?」 加藤「うちの同人誌見て、絵が型通りだのコマ割が在り来たりだのと滅多切りにしたのよ」 荻上「うわー容赦無いなー」 藪崎「あんたはあの同人誌見てないから、そない言えるんや。あとで1冊持って来たるから見てみい。絶対文句言いたなるわ」 荻上「そんなに酷いの?」 藪崎「絵えそのものは悪うないんや。けどな、漫画の入門書でも見ながら描いたみたいに全て型通りで、描いた本人の個性とか主張とかが全然無いんや」 加藤「まあ確かに、藪崎の評は間違ってないわ」 藪崎「要するに、夏コミで出品出来る枠があるから描いてみたみたいな、その程度のノリなんや。現視研みたいに、今回で終わりかも知れんちゅう切迫感があらへんのや」 加藤「だからって、今回の絵描きの子が泣いちゃったのに、それにさらに追い討ちかけちゃやり過ぎよ」 荻上「追い討ち?」 藪崎「ちょっ、ちょっとやめて下さいよ加藤さん、みっともない!」 構わずに加藤さんは続けた。 加藤「藪崎はこう言ったのよ。『その涙は何や!あんたの涙でええ同人誌が作れんのか!完売出来んのか!』って」 そこへ国松が割り込んできた。 国松「藪崎先輩って、まるでモロボシ・ダンみたいですね」 藪崎「出たな特撮娘。モロボシ・ダンって『ウルトラセブン』の人やろ。どういうことや?」 国松「ダンは『ウルトラマンレオ』ではMACの隊長やってるんですよ。それでレオに変身するオオトリ・ゲンにいろいろ特訓するんです」 藪崎「特訓?何の?」 国松「もちろん怪獣倒す為の特訓ですよ。それが厳しくてゲンが泣いちゃった時に、ダン隊長が言うんですよ。『その涙は何だ?お前の涙で怪獣が倒せるのか?』って」 藪崎「…『ああ喋らせるんやなかった』」 国松「ダメですよ藪崎先輩、後輩の人たちに無茶な特訓させちゃ」 藪崎「せえへん!」 国松「ジープで追い回したりしちゃダメですよ」 藪崎「するかい!て言うか、それ何の特訓やねん?」 ちなみにジープで追い回すとは、突進して来て肩の角で突くのを必殺技にしているカーリー星人なる宇宙人に勝つ為の特訓である。 特撮系の2ちゃんねらーの間では、レオと言えばジープと言われるほど有名なエピソードである。 これはまた後の話だが、「ウルトラマンメビウス」の11月の放送の際にレオが登場した。 レオことオオトリ・ゲンはミライに対し、かつてダンに言われた「その涙で~」の台詞をまんま言い放ち、ジープで追い回す特訓こそ無かったが空手の特訓を命じる。 2ちゃんねるのメビウススレは祭状態と化し、当然国松も翌朝までスレに参加した。 月曜になっても興奮冷めやらぬ国松は、現視研でも何か特訓をやろうと言い出した。 体育会系の巴と特訓大好きのクッチー、そして今や国松の舎弟状態の日垣もそれに乗った。 そこへ更に、野外でのサバイバル経験の豊富な浅田・岸野コンビが、どうせやるなら冬の雪山でサバイバル訓練をやろうと言い出し、他の会員たちも賛同しかけた。 荻上会長が部室に来た頃には、行き先は八甲田山(明治時代、帝国陸軍が行軍訓練中に遭難し、ほぼ全滅しかけたことで有名な難所)で具体的に話が進みかけていた。 さすがにまずいと判断した荻上会長、会長就任以来初の強権発動を断行し、特訓をかろうじて止めさせた。 [[26人いる! その8]]

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