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*26人いる!その3 【投稿日 2006/11/12】 **[[・・・いる!シリーズ]] 2006年の夏コミ初日。 現視研と「やぶへび」の面々は上野から始発に乗り、ビッグサイトに着いた。 とりあえず1度、全員で一般参加の行列に並ぶ。 一行は、いろんな意味で周囲の目を引いていた。 主な理由は三つあった。 一つ目は人数だ。 コミフェス参加サークルで、大手を除けば総勢22人という人数は、かなりの大人数の部類に入る。 二つ目はメンバーの外見だ。 先ず目を引くのが、巨乳とロリロリの金髪外人女性コンビだ。 あとのメンバーも、巨乳の女性が2人、身長180台のノッポが2人、肥満体の女性が2人、そしてロリ顔ロリ体型の女子たち(しかも1人は筆頭)等、多士済々な面々だ。 そして三つ目は、彼らの尋常ではない荷物の量だった。 多くの者のリュックは通常の物より大型で、しかも今から買い物するとは思えぬほど膨らんでいる物がいくつか見られる。 有吉、神田、巴のリュックには、サークルとして出品する同人誌におまけとして付ける、コピー本を3部ずつ袋詰めにしてパッキングしたものが、全部で200袋入っている。 サークルチケットを持って先乗りするのが、この3人だからだ。 1冊当り10ページ程度のペラい本とは言え、各200冊で計600冊ともなるとかなりの体積と重量になる。 完売するかどうかは分からないし、お客さん全員がおまけを欲しがるかどうかも分からないが、最悪余れば別のイベントに出品する覚悟で一応サークル参加の同人誌と同数揃えた。 コミフェスのサークル参加の経験回数が1番多い有吉と神田という、最も手馴れた2人で売り場のセッティングを行なおうという訳だ。 一方巴はコミフェス初参加であった。 彼女がベテラン2人とサークル入場するのはコピー本を運ぶ為であったが、真の任務は開場前行列に並ぶことだった。 あとの1年生の荷物には、同人誌の売り子用のコスが入っている。 この後、売り子の予定は次のようになっていた。 男子会員は入場後、コスに着替え次第売り場に向かい、神田・有吉と売り子を交代する。 (と言っても、浅田と岸野は神田と共に、一旦神田が別口で参加するサークルに向かうが) 1日目は女性向けの出品がメインだ。 だから午前中は男子会員が売り子のメインとなり、その間に女子会員は買い物を済ませる。 そして午後からは女子会員中心で売り子になるという流れだ。 ちなみにコスプレ組も昼から開始するので、午前中は買い物に費やす。 だから荻上会長もまた、午前中は買い物をしつつそれらの様子を見守る積りだ。 今回は笹原もA先生に頼まれたレポート作成の為の取材を兼ねての参加なので、2人であちこち回るにはちょうど良かった。 先乗り組の3人以外の面々の荷物も、かなり大きかった。 中でも伊藤、日垣、浅田、岸野、そしてクッチーのリュックサックは異様に大きかった。 伊藤は有吉の、日垣は神田(女の子のコスを持つのは交替の都合上)のコスも預かっているので、それぞれ2人分のコスを持っている。 有吉と神田の荷物がコピー本でいっぱいなので、伊藤と日垣が彼らの分のコスを持ってやることにしたのだ。 この2人は自分が着替え次第現視研の売り場に向かい、有吉と神田にコスを渡して売り子を交代するのだ。 (ちなみに巴は、リュックが大型の上に本人が力持ちなので、コピー本を他の2人より多目に持っているにも関わらず、自分用のコスもちゃんと持っていた) クッチーのリュックには、着ぐるみのベムが丸々入っているので、どうしてもかさばる。 浅田と岸野の本格的な登山用リュックは、それらをさらに上回って巨大だった。 その中には昨夜神田の家に寄った際に預かった、神田が現視研と別口で売るコピー本が入っている。 彼らは売り子のコスに着替え次第売り場に向かい、神田と共に彼女のコピー本を委託されたサークルまで運んでから、現視研の売り場の売り子を務める予定だ。 (神田が先乗りで現視研のコピー本を持って入ることが分かっていたので、別口のコピー本は全部浅田と岸野が持った) 当初みんなは、2人の荷物の尋常ではない大きさをそのせいだと思っていた。 だがそれだけが理由でないことが、みんなで並び始めてから分かった。 2人が座布団ほどの大きさのビニールの風呂敷の束を取り出してみんなに1枚ずつ渡し、列が停滞して動かない間はそれに座るように言ったからだ。 (しかも急遽合流したにも関わらず、「やぶへび」の面々の分まである!) 豪田「あんたらコミフェス初めてにしては、随分用意がいいわね」 浅田「まあ大体の状況は、みんなから聞いてるからね」 岸田「長時間並んで少しずつ列動くんならと、各自持って動けるようにわざと小さいビニールシートたくさん揃えたんだ」 浅田「本当は椅子持って来たかったんだけど、さすがにこの人数分は無理だったんで、せめてこれぐらいと思ってね」 巴「それにしてもよくそんなに入ったわね」 台場「そうよ、あなたたちもコス1着ずつ持ってるんでしょ?」 浅田「ああ、あれは堅く巻いて紐で縛ってあるから、これぐらいの大きさになってるよ」 浅田が両手で示した「これぐらい」とは、ヘアスプレーや殺虫剤などの一般的なスプレーの缶ほどの大きさだった。 沢田「うそっ、何でそんなに小さく出来るの?」 浅田「俺たちの高校の写真部って、年中いろんなとこへ撮影旅行やら合宿やら行ってたから、自然と荷作りの仕方が身に付いちゃったんだよ」 岸野「まあアームストロング少佐風に言うなら、『我が母校の写真部に代々伝わりし、芸術的荷作り法』ってとこかな」 浅田「それに、俺たち海やら山やらサバイバル前提に考えないといけない場所によく行ってたから、先の先まで必要な道具を想定する思考が自然に身に付いたってのもあるし」 岸野「おかげで俺たちの荷物には、今日に限らず3日ぐらいは生存可能な道具が常に入れてあるんだ」 開場までの暇つぶしも兼ねて、浅田と岸野は2人が普段持ち歩いているという、3日間生き残る為に最低限必要なグッズの数々を公開した。 神田「これってマッチなの?」 浅田「防水仕様のマッチだよ。風雨の中でも火が着く」 巴「これは懐中電灯?」 岸野「マグライトだよ。頑丈で明るいし、完全防水になってる」 台場「これもビニールシート?」 浅田「それは米軍仕様のポンチョだよ。2つ合わせると簡易テントになる」 岸野「まあ1つでも作れなくは無いけどね。当然居住性は劣るけど」 腐女子一同『浅田君と岸野君が2人でテントで…ハアハア…』 国松「これって、紐?」 浅田「パラシュートコードだよ。パラシュートの紐と同じ規格の紐で、200キロぐらいの重さにも耐えられる」 豪田「方位磁石と東京の地図…こんなもんまで持ってるんだ」 沢田「この畳んだアルミ薄みたいなのは?(広げかける)」 浅田「あっ広げないで。それ1回広げたら綺麗に畳めないから」 岸野「それはエマージェンシーブランケットだよ。まあ一種の簡易毛布さ」 弁当箱程度の大きさのポーチを開ける大野さん。 大野「あのう、これは?」 浅田「それは救急キットです。よほどの大怪我でなければ大抵のことは何とかなりますよ」 岸野「あと最小限だけど、一応食料と水も用意してるよ。カロリーメイト4個入りが3箱と浄水剤、それに塩をひと握り、これだけあれば何とか3日ぐらいは生きられるよ」 恵子「試したことあるのー?」 やや意地悪い口調で尋ねる恵子。 岸野「(真顔で平然と)夏山で遭難した時は、これだけで何とかなりました」 恵子「(冷や汗を流し)マジかよ…そうだ、水はどうすんだよ?浄水剤だけあっても入れもん無きゃ困るだろ?」 岸野は水筒を差し出した。 恵子「持ってるんだ、水筒…それ軍用か何か?えらくいかついけど」 岸野「米軍仕様です。これだとキャンティーン・カップ(水筒の下半分に被さってる、アルミ製の大型カップ)付きなんで湯も沸かせますから」 恵子「中身何?麦茶?」 岸野「1回沸かして冷ました水道水を冷やしたもんです。本当はミネラルウォーターにしたかったんですが、高いですから」 恵子「ただの水とは味気ねえなあ」 岸野「その代わり汎用性は高いですよ。料理の煮炊きにも、顔や体拭くのにも、怪我した時に傷口洗うのにも使えますから」 恵子「…お前ら何処へ戦争しに行く積りだよ」 浅田「あと普段ならビクトリノックスのスイスアーミーチャンピオン持ってるんですが、コミフェスに本格的なナイフはまずいと思って、今日はこれにしました」 浅田が出したのは、角ばった小さなニッパーと、四角い金属の板だった。 荻上「何この角ばったニッパーと鉄板?」 岸野「ニッパーの方は、レザーマンツールっていう万能工具です。ニッパーをベースにいろんな工具が組み込まれています」 浅田「で、板の方は俗にライフツールって呼ばれてるサバイバル工具で、この板1枚にいろんな工具が組み込まれています」 荻上「例えば?」 岸野「(ライフツールのあちこちを指さして)例えばこれが栓抜きで、こっちが缶切りです。で、こっちがマイナスドライバーで、こっちはナイフです」 浅田「あと例えば、釣りのルアー代わりとか、棒にくくり付けて鉈にしたりも出来ます」 岸野「まあ両方とも、言ってみれば10徳ナイフみたいなもんと思って頂ければいいです」 浅田「もっともこいつはものによって強度の差が大きくて、鉈代わりとかに使ったら曲がるかも知れないんで、かさばらないこともあって何枚か余分に持ってますが」 そう言いつつ、浅田は手に持ったライフツールを指でスッとトランプのように動かした。 すると扇状に数枚のライフツールが現れた。 浅田「まあこれだけの枚数があれば、たいがいの状況には対応出来ます」 荻上『この2人、サバイバル能力って点では現視研最強かも…』 やがてサークル入場の時間になり、有吉・神田・巴の3人と「やぶへび」の3人は、一緒にサークル入場の列に行く。 藪崎「うっしゃー!(両手で自分の頬を叩く)ほなな、オギー」 荻上「うん、頑張って!」 藪崎「おう!」 神田「それじゃあ会長、行ってきます」 荻上「うん、頑張ってね!」 台場「あのう会長、何かもちっとひと言、先乗りの3人に檄飛ばすようなひと言をお願い出来ませんか?」 荻上「檄?」 台場「だってほら、周りの人はいろいろやってるじゃないですか」 確かに周りを見渡すと、どうも今年は体育会系ノリのサークルが多いらしく、いろんなことをやっていた。 円陣を組んで「にしうらーぜオー!」などと叫んでる者たち。 仲間たちに「すまんがみんなの命をくれ」などとのたまう者。 「あえて言おう、カスであると」とギレン総帥の演説をやってる者等々。 荻上「…んじゃ、うちもやるか。えーと…(姿勢を正し)今さら言うことは何もない!思う存分暴れてこい!」」 有吉・神田・巴「(姿勢を正して敬礼し)了解!」 入り口に向かう3人。 豪田「あのう荻様、あとの2人はともかく、マリアに思う存分暴れさせたらまずいですよ」 荻上「(青ざめて)あっ…(遠ざかる3人に)戦闘は可能な限り避けてね~!」 台場「可能な限りですか…」 沢田「半分あきらめてますね」 笹原「何かうちも随分カラー変わったね」 荻上「もともと現視研は型にはまらない、ヌルオタのサークルですよ。その時その時の会員が、オタクとしてやりたいようにやる。私はそれでいいと思います」 笹原「まあそれには俺も賛成だけどね」 現視研の売り場に着いた有吉、神田、巴の3人は、ただちに準備にかかった。 先ずはそれぞれの荷物から、同人誌のおまけのコピー本を出す。 次いでレイアウトにかかる。 いや正確には、殆ど神田が1人でテキパキとレイアウトしていく。 それを巴と有吉が呆然と見つめる。 夏コミ初参加の巴はともかく、有吉は高校の頃から毎年参加している。 サークル参加の経験もあるし、コミフェス以外のイベント経験も豊富だ。 その有吉が、まるで割り込む隙が無い。 いつの間にかほぼレイアウトが完成した。 最後に予め用意したらしい、「おまけコピー本付き特装版あります」の貼り紙を机の前に貼る。 レイアウトが済んだ直後、開場前行列が出来始めた。 巴「そんじゃ私、行くわ」 神田・有吉「がんばってね」 次の瞬間2人は、巴の背後に炎に似たオーラを見た。 神田・有吉「ひっ?」 巴「(闘志をたぎらせた顔で)ふふふ、こわっぱどもめ、蹴散らしてくれるわ!」 有吉「あの、巴さん、冷静にね。ラフプレーはダメだからね」 巴「大丈夫よ、朽木先輩にこれもらって予習してきたから」 巴はポケットから手書きらしい小冊子を出して、2人に渡した。 有吉「(表紙を見て)開場前行列入門?(ページを開き)何々、考えるな、人の隙間を感じ取れ?」 神田「(ページをめくり)とにかく押す時は押し、引く時も押せ?何か相撲の入門書みたい」 巴「もう丸暗記したし、本番になったら読んでるヒマないから預かってて。(大声で)巴マリア!行きま~~~~す!!!!!」 猛スピードで開場前行列にダッシュする巴。 有吉「速っ!」 神田「確かマリア、100メートル10秒台らしいわよ」 有吉「何でそんな逸材が現視研に…?」 コミフェス開催宣言の放送から約10分後、早くも1冊目が売れた。 初めてのお客さんは、清楚で大人しそうな、お下げ髪の女性だった。 (以下、便宜上このお客さんを「お下げさん」と呼称する) お下げ「あの、すいません、ここ椎応大学の現代視覚文化研究会の売り場ですよね?」 有吉「あっ、はいそうですが」 お下げ「あのう…こちらに於木野先生が所属していると聞いたのですが…(辺りを見回す)」 有吉「おぎの?」 神田「会長の同人ネームよ」 お下げ「会長になられたんですか、於木野先生?」 神田「はいっ、おぎう…於木野先輩が今の会長です」 お下げ「そうですか…それじゃあ今年も於木野先生が?」 ここまでの話しぶりで神田はもちろん有吉にも、お下げさんのお目当てが荻上会長作の同人誌であることが分かった。 有吉「あいにくですが、今年のは我々1年生の合作です」 お下げ「そうですか…」 お下げさんの反応に落胆の色を感じた神田は、彼女を慰める意味も込めてフォローした。 神田「会長は春夏秋冬賞で審査員特別賞を受賞されたのがきっかけで、秋から月刊デイアフターで正式に連載が決まったので、今年はその原稿執筆に専念されてたんです」 お下げ「春夏秋冬賞?ひょっとして…『傷つけた人々へ』ですか?」 神田「そうです。よく分かりましたね、あの作品の時はペンネーム違ってたのに」 お下げ「絵柄とか構図とかが似てましたし、ペンネームも荻野だし」 有吉「なるほど…」 お下げ「そうですか、あの方デビューされるんだ、凄いなあ…あなた方って先生から漫画について、ご指導受けてらっしゃるんですか?」 神田「漫画そのものについては、指導というほどのものは受けてないです。会長は我々の自主性や個性を尊重してくださいますから。でも、影響は大きいですよ」 有吉「特に四天王の4人は凄いですよ」 お下げ「四天王?」 有吉「うちの女子の絵描き4人がそう呼ばれてるんです」 神田「正確には腐女子四天王って言いまして、4人とも会長を崇拝してて、会長を追ってうちの大学に来たんです。この同人誌の漫画の主な部分は、彼女たちの担当です」 神田は四天王の4人の、人となりを説明し始めた。 それを聞くお下げさんの表情は明るく、楽しそうだった。 お下げさんの表情に、現視研同人誌への興味を感じた有吉は押してみることにした。 有吉「あの、よろしかったら見ていって下さい」 お下げさんはマジ顔で同人誌を読んだ。 読み終わった彼女に、脈有りと見たか神田がたたみ掛けるように感想を訊いた。 神田「どうですか?」 お下げ「絵柄は随分違うけど、確かに先生のリアルでハードコアなスピリッツは引き継がれてますね」 有吉「スピリッツ?」 お下げ「従来のヤオイみたいにヤオイ穴なんてぼかした表現せず、位置関係や角度から言って明らかにピーをピーに入れてるあたり、妥協無き於木野イズムは伝承されてますね」 女性に面と向かってピーだのピーだのとはっきり口頭で言われ、赤面する有吉。 有吉「妥協無きって…うちの会長はカール・ゴッチですか」 神田「じゃあ合格ですか、うちの本?」 にっこり笑うお下げさん。 お下げ「1冊下さい」 有吉「ありがとうございます!あとうちの同人誌には、おまけコピー本付きの特装版と、おまけ無しの通常版があります。値段はどちらも同じですが、どちらになさいますか?」 お下げ「じゃあ特装版でお願いします」 立ち去り際にお下げさんが尋ねた。 お下げ「ひょっとして、私がお客さん第1号ですか?」 神田「そうです」 嬉しそうに微笑むお下げさん。 神田・有吉「???」 お下げ「実は去年の夏コミの時もそうだったらしいんです」 神田「そうなんですか?」 お下げ「立ち去り際に於木野先生と彼氏らしい男の人の会話が聞こえたんです。初めてって明言した訳じゃないけど、話しぶりから多分そうだと思います」 有吉「そうだったんですか。いやあ、何か初っ端から縁起がいいなあ」 神田「お客さんにも、きっと何かいいことありますよ」 お下げ「ありがとうございます。それじゃあ、連載始まったら読ませて頂きますんで、於木野先生によろしくお伝え下さい」 立ち去るお下げさん。 神田「ほんとに何かいいことありそうね、有吉君」 有吉「うん、こりゃ完売いけるかも知れないね」 神田「でも今のって…言ってみれば会長の顔で売れたようなものよね」 有吉「そうだね。これからだよね、僕たちの力が試されるのは」 改めて気を引き締める2人だった。 それから20分ほど後、ハルヒの高校の制服コスに着替えた伊藤、日垣、浅田、岸野の4人が売り場にやって来た。 日垣、浅田、岸野のブレザーの着こなしがぎこちないのに対し、伊藤の着こなしがさまになってるのは、元々この制服が有吉と伊藤の高校の制服だからだ。 ぎこちない3人が着てるのは、2人が元同級生や後輩から借りてきた物だ。 一方伊藤の制服は(そして後で着替えてくる有吉も)3年間着て高校生活を過ごした自前の物だ。 ただ胸ポケットには、後から簡単に外せるように加減して、田中作のハルヒの高校のエンブレムを付けてある。 日垣「お待たせ、(コスの入った袋を差し出し)はいこれ、神田さんのコス」 伊藤「(同じくコスの入った袋を差し出し)で、これは有吉君のだニャー」 浅田「どう、調子は?」 神田「(コスを受け取って、自分の荷物に仕舞いながら)とりあえず5冊売れたわ」 岸野「特装版はどう?」 有吉「(コスを受け取って、自分の荷物に仕舞いながら)売れた分は5冊とも特装版だよ」 日垣「やっぱり効果あったのかな、おまけ付きの?」 神田「まだ始まって30分かそこらだから分からないわよ。でも、特装版あることと、どっちでも値段一緒だってことトークしたら迷わず特装版にしてたわ、どのお客さんも」 有吉「だからトーク忘れないようにね」 伊藤「了解したニャー」 神田「うーん…伊藤君、その猫喋り、自分の意思で止められるんならなるべく…」 伊藤「売り子やってる間はやめときますニャー、あっ(両手で口ふさぐ)」 神田「しょうがないなあ。(自分の荷物をゴソゴソし)念の為これ着けてて。それなら不自然じゃないでしょ、猫喋りでも」 神田が差し出した物は猫耳だった。 浅田『何でそんなもん持ってるんだ…?』 岸野『そりゃまあ、こういう場だからそういうのもアリかも知れんけど…』 日垣『このブレザーでそれ着けてる方が不自然でしょうが…』 猫耳を見た途端に固まってしまった、そんな3人の思いに関係無く、伊藤は上機嫌でそれを着ける。 伊藤「うん、これなら猫語でも問題無いニャー!ありがとう、神田さん!」 浅田・岸野・日垣『問題無いのか!?』 ちなみに有吉は、そんな伊藤の奇行に慣れてるせいか、平然としていた。 日垣「しかしこのブレザー、暑いね」 伊藤「まあ冬服だからしょうがないニャー」 神田「でもなるべく上着脱がないでね。上着無しじゃ何のコスか分かんないから」 浅田「そうだ、ちょっと待って」 自分の荷物をゴソゴソする浅田。 浅田は自分の荷物の中から、小型の扇風機を出した。 浅田「(売り場の机の上に扇風機を置き)これ使って。(さらに荷物をゴソゴソし)あとこれ電池式だから、予備の電池出しとくね」 そう言って机の上に乾電池を並べる。 日垣「ありがと…」 有吉「そんなもんまで持ってたんだ…」 [[26人いる! その4]]
*26人いる!その3 【投稿日 2006/12/03】 **[[・・・いる!シリーズ]] 2006年の夏コミ初日。 現視研と「やぶへび」の面々は上野から始発に乗り、ビッグサイトに着いた。 とりあえず1度、全員で一般参加の行列に並ぶ。 一行は、いろんな意味で周囲の目を引いていた。 主な理由は三つあった。 一つ目は人数だ。 コミフェス参加サークルで、大手を除けば総勢22人という人数は、かなりの大人数の部類に入る。 二つ目はメンバーの外見だ。 先ず目を引くのが、巨乳とロリロリの金髪外人女性コンビだ。 あとのメンバーも、巨乳の女性が2人、身長180台のノッポが2人、肥満体の女性が2人、そしてロリ顔ロリ体型の女子たち(しかも1人は筆頭)等、多士済々な面々だ。 そして三つ目は、彼らの尋常ではない荷物の量だった。 多くの者のリュックは通常の物より大型で、しかも今から買い物するとは思えぬほど膨らんでいる物がいくつか見られる。 有吉、神田、巴のリュックには、サークルとして出品する同人誌におまけとして付ける、コピー本を3部ずつ袋詰めにしてパッキングしたものが、全部で200袋入っている。 サークルチケットを持って先乗りするのが、この3人だからだ。 1冊当り10ページ程度のペラい本とは言え、各200冊で計600冊ともなるとかなりの体積と重量になる。 完売するかどうかは分からないし、お客さん全員がおまけを欲しがるかどうかも分からないが、最悪余れば別のイベントに出品する覚悟で一応サークル参加の同人誌と同数揃えた。 コミフェスのサークル参加の経験回数が1番多い有吉と神田という、最も手馴れた2人で売り場のセッティングを行なおうという訳だ。 一方巴はコミフェス初参加であった。 彼女がベテラン2人とサークル入場するのはコピー本を運ぶ為であったが、真の任務は開場前行列に並ぶことだった。 あとの1年生の荷物には、同人誌の売り子用のコスが入っている。 この後、売り子の予定は次のようになっていた。 男子会員は入場後、コスに着替え次第売り場に向かい、神田・有吉と売り子を交代する。 (と言っても、浅田と岸野は神田と共に、一旦神田が別口で参加するサークルに向かうが) 1日目は女性向けの出品がメインだ。 だから午前中は男子会員が売り子のメインとなり、その間に女子会員は買い物を済ませる。 そして午後からは女子会員中心で売り子になるという流れだ。 ちなみにコスプレ組も昼から開始するので、午前中は買い物に費やす。 だから荻上会長もまた、午前中は買い物をしつつそれらの様子を見守る積りだ。 今回は笹原もA先生に頼まれたレポート作成の為の取材を兼ねての参加なので、2人であちこち回るにはちょうど良かった。 先乗り組の3人以外の面々の荷物も、かなり大きかった。 中でも伊藤、日垣、浅田、岸野、そしてクッチーのリュックサックは異様に大きかった。 伊藤は有吉の、日垣は神田(女の子のコスを持つのは交替の都合上)のコスも預かっているので、それぞれ2人分のコスを持っている。 有吉と神田の荷物がコピー本でいっぱいなので、伊藤と日垣が彼らの分のコスを持ってやることにしたのだ。 この2人は自分が着替え次第現視研の売り場に向かい、有吉と神田にコスを渡して売り子を交代するのだ。 (ちなみに巴は、リュックが大型の上に本人が力持ちなので、コピー本を他の2人より多目に持っているにも関わらず、自分用のコスもちゃんと持っていた) クッチーのリュックには、着ぐるみのベムが丸々入っているので、どうしてもかさばる。 浅田と岸野の本格的な登山用リュックは、それらをさらに上回って巨大だった。 その中には昨夜神田の家に寄った際に預かった、神田が現視研と別口で売るコピー本が入っている。 彼らは売り子のコスに着替え次第売り場に向かい、神田と共に彼女のコピー本を委託されたサークルまで運んでから、現視研の売り場の売り子を務める予定だ。 (神田が先乗りで現視研のコピー本を持って入ることが分かっていたので、別口のコピー本は全部浅田と岸野が持った) 当初みんなは、2人の荷物の尋常ではない大きさをそのせいだと思っていた。 だがそれだけが理由でないことが、みんなで並び始めてから分かった。 2人が座布団ほどの大きさのビニールの風呂敷の束を取り出してみんなに1枚ずつ渡し、列が停滞して動かない間はそれに座るように言ったからだ。 (しかも急遽合流したにも関わらず、「やぶへび」の面々の分まである!) 豪田「あんたらコミフェス初めてにしては、随分用意がいいわね」 浅田「まあ大体の状況は、みんなから聞いてるからね」 岸田「長時間並んで少しずつ列動くんならと、各自持って動けるようにわざと小さいビニールシートたくさん揃えたんだ」 浅田「本当は椅子持って来たかったんだけど、さすがにこの人数分は無理だったんで、せめてこれぐらいと思ってね」 巴「それにしてもよくそんなに入ったわね」 台場「そうよ、あなたたちもコス1着ずつ持ってるんでしょ?」 浅田「ああ、あれは堅く巻いて紐で縛ってあるから、これぐらいの大きさになってるよ」 浅田が両手で示した「これぐらい」とは、ヘアスプレーや殺虫剤などの一般的なスプレーの缶ほどの大きさだった。 沢田「うそっ、何でそんなに小さく出来るの?」 浅田「俺たちの高校の写真部って、年中いろんなとこへ撮影旅行やら合宿やら行ってたから、自然と荷作りの仕方が身に付いちゃったんだよ」 岸野「まあアームストロング少佐風に言うなら、『我が母校の写真部に代々伝わりし、芸術的荷作り法』ってとこかな」 浅田「それに、俺たち海やら山やらサバイバル前提に考えないといけない場所によく行ってたから、先の先まで必要な道具を想定する思考が自然に身に付いたってのもあるし」 岸野「おかげで俺たちの荷物には、今日に限らず3日ぐらいは生存可能な道具が常に入れてあるんだ」 開場までの暇つぶしも兼ねて、浅田と岸野は2人が普段持ち歩いているという、3日間生き残る為に最低限必要なグッズの数々を公開した。 神田「これってマッチなの?」 浅田「防水仕様のマッチだよ。風雨の中でも火が着く」 巴「これは懐中電灯?」 岸野「マグライトだよ。頑丈で明るいし、完全防水になってる」 台場「これもビニールシート?」 浅田「それは米軍仕様のポンチョだよ。2つ合わせると簡易テントになる」 岸野「まあ1つでも作れなくは無いけどね。当然居住性は劣るけど」 腐女子一同『浅田君と岸野君が2人でテントで…ハアハア…』 国松「これって、紐?」 浅田「パラシュートコードだよ。パラシュートの紐と同じ規格の紐で、200キロぐらいの重さにも耐えられる」 豪田「方位磁石と東京の地図…こんなもんまで持ってるんだ」 沢田「この畳んだアルミ薄みたいなのは?(広げかける)」 浅田「あっ広げないで。それ1回広げたら綺麗に畳めないから」 岸野「それはエマージェンシーブランケットだよ。まあ一種の簡易毛布さ」 弁当箱程度の大きさのポーチを開ける大野さん。 大野「あのう、これは?」 浅田「それは救急キットです。よほどの大怪我でなければ大抵のことは何とかなりますよ」 岸野「あと最小限だけど、一応食料と水も用意してるよ。カロリーメイト4個入りが3箱と浄水剤、それに塩をひと握り、これだけあれば何とか3日ぐらいは生きられるよ」 恵子「試したことあるのー?」 やや意地悪い口調で尋ねる恵子。 岸野「(真顔で平然と)夏山で遭難した時は、これだけで何とかなりました」 恵子「(冷や汗を流し)マジかよ…そうだ、水はどうすんだよ?浄水剤だけあっても入れもん無きゃ困るだろ?」 岸野は水筒を差し出した。 恵子「持ってるんだ、水筒…それ軍用か何か?えらくいかついけど」 岸野「米軍仕様です。これだとキャンティーン・カップ(水筒の下半分に被さってる、アルミ製の大型カップ)付きなんで湯も沸かせますから」 恵子「中身何?麦茶?」 岸野「1回沸かして冷ました水道水を冷やしたもんです。本当はミネラルウォーターにしたかったんですが、高いですから」 恵子「ただの水とは味気ねえなあ」 岸野「その代わり汎用性は高いですよ。料理の煮炊きにも、顔や体拭くのにも、怪我した時に傷口洗うのにも使えますから」 恵子「…お前ら何処へ戦争しに行く積りだよ」 浅田「あと普段ならビクトリノックスのスイスアーミーチャンピオン持ってるんですが、コミフェスに本格的なナイフはまずいと思って、今日はこれにしました」 浅田が出したのは、角ばった小さなニッパーと、四角い金属の板だった。 荻上「何この角ばったニッパーと鉄板?」 岸野「ニッパーの方は、レザーマンツールっていう万能工具です。ニッパーをベースにいろんな工具が組み込まれています」 浅田「で、板の方は俗にライフツールって呼ばれてるサバイバル工具で、この板1枚にいろんな工具が組み込まれています」 荻上「例えば?」 岸野「(ライフツールのあちこちを指さして)例えばこれが栓抜きで、こっちが缶切りです。で、こっちがマイナスドライバーで、こっちはナイフです」 浅田「あと例えば、釣りのルアー代わりとか、棒にくくり付けて鉈にしたりも出来ます」 岸野「まあ両方とも、言ってみれば10徳ナイフみたいなもんと思って頂ければいいです」 浅田「もっともこいつはものによって強度の差が大きくて、鉈代わりとかに使ったら曲がるかも知れないんで、かさばらないこともあって何枚か余分に持ってますが」 そう言いつつ、浅田は手に持ったライフツールを指でスッとトランプのように動かした。 すると扇状に数枚のライフツールが現れた。 浅田「まあこれだけの枚数があれば、たいがいの状況には対応出来ます」 荻上『この2人、サバイバル能力って点では現視研最強かも…』 やがてサークル入場の時間になり、有吉・神田・巴の3人と「やぶへび」の3人は、一緒にサークル入場の列に行く。 藪崎「うっしゃー!(両手で自分の頬を叩く)ほなな、オギー」 荻上「うん、頑張って!」 藪崎「おう!」 神田「それじゃあ会長、行ってきます」 荻上「うん、頑張ってね!」 台場「あのう会長、何かもちっとひと言、先乗りの3人に檄飛ばすようなひと言をお願い出来ませんか?」 荻上「檄?」 台場「だってほら、周りの人はいろいろやってるじゃないですか」 確かに周りを見渡すと、どうも今年は体育会系ノリのサークルが多いらしく、いろんなことをやっていた。 円陣を組んで「にしうらーぜオー!」などと叫んでる者たち。 仲間たちに「すまんがみんなの命をくれ」などとのたまう者。 「あえて言おう、カスであると」とギレン総帥の演説をやってる者等々。 荻上「…んじゃ、うちもやるか。えーと…(姿勢を正し)今さら言うことは何もない!思う存分暴れてこい!」」 有吉・神田・巴「(姿勢を正して敬礼し)了解!」 入り口に向かう3人。 豪田「あのう荻様、あとの2人はともかく、マリアに思う存分暴れさせたらまずいですよ」 荻上「(青ざめて)あっ…(遠ざかる3人に)戦闘は可能な限り避けてね~!」 台場「可能な限りですか…」 沢田「半分あきらめてますね」 笹原「何かうちも随分カラー変わったね」 荻上「もともと現視研は型にはまらない、ヌルオタのサークルですよ。その時その時の会員が、オタクとしてやりたいようにやる。私はそれでいいと思います」 笹原「まあそれには俺も賛成だけどね」 現視研の売り場に着いた有吉、神田、巴の3人は、ただちに準備にかかった。 先ずはそれぞれの荷物から、同人誌のおまけのコピー本を出す。 次いでレイアウトにかかる。 いや正確には、殆ど神田が1人でテキパキとレイアウトしていく。 それを巴と有吉が呆然と見つめる。 夏コミ初参加の巴はともかく、有吉は高校の頃から毎年参加している。 サークル参加の経験もあるし、コミフェス以外のイベント経験も豊富だ。 その有吉が、まるで割り込む隙が無い。 いつの間にかほぼレイアウトが完成した。 最後に予め用意したらしい、「おまけコピー本付き特装版あります」の貼り紙を机の前に貼る。 レイアウトが済んだ直後、開場前行列が出来始めた。 巴「そんじゃ私、行くわ」 神田・有吉「がんばってね」 次の瞬間2人は、巴の背後に炎に似たオーラを見た。 神田・有吉「ひっ?」 巴「(闘志をたぎらせた顔で)ふふふ、こわっぱどもめ、蹴散らしてくれるわ!」 有吉「あの、巴さん、冷静にね。ラフプレーはダメだからね」 巴「大丈夫よ、朽木先輩にこれもらって予習してきたから」 巴はポケットから手書きらしい小冊子を出して、2人に渡した。 有吉「(表紙を見て)開場前行列入門?(ページを開き)何々、考えるな、人の隙間を感じ取れ?」 神田「(ページをめくり)とにかく押す時は押し、引く時も押せ?何か相撲の入門書みたい」 巴「もう丸暗記したし、本番になったら読んでるヒマないから預かってて。(大声で)巴マリア!行きま~~~~す!!!!!」 猛スピードで開場前行列にダッシュする巴。 有吉「速っ!」 神田「確かマリア、100メートル10秒台らしいわよ」 有吉「何でそんな逸材が現視研に…?」 コミフェス開催宣言の放送から約10分後、早くも1冊目が売れた。 初めてのお客さんは、清楚で大人しそうな、お下げ髪の女性だった。 (以下、便宜上このお客さんを「お下げさん」と呼称する) お下げ「あの、すいません、ここ椎応大学の現代視覚文化研究会の売り場ですよね?」 有吉「あっ、はいそうですが」 お下げ「あのう…こちらに於木野先生が所属していると聞いたのですが…(辺りを見回す)」 有吉「おぎの?」 神田「会長の同人ネームよ」 お下げ「会長になられたんですか、於木野先生?」 神田「はいっ、おぎう…於木野先輩が今の会長です」 お下げ「そうですか…それじゃあ今年も於木野先生が?」 ここまでの話しぶりで神田はもちろん有吉にも、お下げさんのお目当てが荻上会長作の同人誌であることが分かった。 有吉「あいにくですが、今年のは我々1年生の合作です」 お下げ「そうですか…」 お下げさんの反応に落胆の色を感じた神田は、彼女を慰める意味も込めてフォローした。 神田「会長は春夏秋冬賞で審査員特別賞を受賞されたのがきっかけで、秋から月刊デイアフターで正式に連載が決まったので、今年はその原稿執筆に専念されてたんです」 お下げ「春夏秋冬賞?ひょっとして…『傷つけた人々へ』ですか?」 神田「そうです。よく分かりましたね、あの作品の時はペンネーム違ってたのに」 お下げ「絵柄とか構図とかが似てましたし、ペンネームも荻野だし」 有吉「なるほど…」 お下げ「そうですか、あの方デビューされるんだ、凄いなあ…あなた方って先生から漫画について、ご指導受けてらっしゃるんですか?」 神田「漫画そのものについては、指導というほどのものは受けてないです。会長は我々の自主性や個性を尊重してくださいますから。でも、影響は大きいですよ」 有吉「特に四天王の4人は凄いですよ」 お下げ「四天王?」 有吉「うちの女子の絵描き4人がそう呼ばれてるんです」 神田「正確には腐女子四天王って言いまして、4人とも会長を崇拝してて、会長を追ってうちの大学に来たんです。この同人誌の漫画の主な部分は、彼女たちの担当です」 神田は四天王の4人の、人となりを説明し始めた。 それを聞くお下げさんの表情は明るく、楽しそうだった。 お下げさんの表情に、現視研同人誌への興味を感じた有吉は押してみることにした。 有吉「あの、よろしかったら見ていって下さい」 お下げさんはマジ顔で同人誌を読んだ。 読み終わった彼女に、脈有りと見たか神田がたたみ掛けるように感想を訊いた。 神田「どうですか?」 お下げ「絵柄は随分違うけど、確かに先生のリアルでハードコアなスピリッツは引き継がれてますね」 有吉「スピリッツ?」 お下げ「従来のヤオイみたいにヤオイ穴なんてぼかした表現せず、位置関係や角度から言って明らかにピーをピーに入れてるあたり、妥協無き於木野イズムは伝承されてますね」 女性に面と向かってピーだのピーだのとはっきり口頭で言われ、赤面する有吉。 有吉「妥協無きって…うちの会長はカール・ゴッチですか」 神田「じゃあ合格ですか、うちの本?」 にっこり笑うお下げさん。 お下げ「1冊下さい」 有吉「ありがとうございます!あとうちの同人誌には、おまけコピー本付きの特装版と、おまけ無しの通常版があります。値段はどちらも同じですが、どちらになさいますか?」 お下げ「じゃあ特装版でお願いします」 立ち去り際にお下げさんが尋ねた。 お下げ「ひょっとして、私がお客さん第1号ですか?」 神田「そうです」 嬉しそうに微笑むお下げさん。 神田・有吉「???」 お下げ「実は去年の夏コミの時もそうだったらしいんです」 神田「そうなんですか?」 お下げ「立ち去り際に於木野先生と彼氏らしい男の人の会話が聞こえたんです。初めてって明言した訳じゃないけど、話しぶりから多分そうだと思います」 有吉「そうだったんですか。いやあ、何か初っ端から縁起がいいなあ」 神田「お客さんにも、きっと何かいいことありますよ」 お下げ「ありがとうございます。それじゃあ、連載始まったら読ませて頂きますんで、於木野先生によろしくお伝え下さい」 立ち去るお下げさん。 神田「ほんとに何かいいことありそうね、有吉君」 有吉「うん、こりゃ完売いけるかも知れないね」 神田「でも今のって…言ってみれば会長の顔で売れたようなものよね」 有吉「そうだね。これからだよね、僕たちの力が試されるのは」 改めて気を引き締める2人だった。 それから20分ほど後、ハルヒの高校の制服コスに着替えた伊藤、日垣、浅田、岸野の4人が売り場にやって来た。 日垣、浅田、岸野のブレザーの着こなしがぎこちないのに対し、伊藤の着こなしがさまになってるのは、元々この制服が有吉と伊藤の高校の制服だからだ。 ぎこちない3人が着てるのは、2人が元同級生や後輩から借りてきた物だ。 一方伊藤の制服は(そして後で着替えてくる有吉も)3年間着て高校生活を過ごした自前の物だ。 ただ胸ポケットには、後から簡単に外せるように加減して、田中作のハルヒの高校のエンブレムを付けてある。 日垣「お待たせ、(コスの入った袋を差し出し)はいこれ、神田さんのコス」 伊藤「(同じくコスの入った袋を差し出し)で、これは有吉君のだニャー」 浅田「どう、調子は?」 神田「(コスを受け取って、自分の荷物に仕舞いながら)とりあえず5冊売れたわ」 岸野「特装版はどう?」 有吉「(コスを受け取って、自分の荷物に仕舞いながら)売れた分は5冊とも特装版だよ」 日垣「やっぱり効果あったのかな、おまけ付きの?」 神田「まだ始まって30分かそこらだから分からないわよ。でも、特装版あることと、どっちでも値段一緒だってことトークしたら迷わず特装版にしてたわ、どのお客さんも」 有吉「だからトーク忘れないようにね」 伊藤「了解したニャー」 神田「うーん…伊藤君、その猫喋り、自分の意思で止められるんならなるべく…」 伊藤「売り子やってる間はやめときますニャー、あっ(両手で口ふさぐ)」 神田「しょうがないなあ。(自分の荷物をゴソゴソし)念の為これ着けてて。それなら不自然じゃないでしょ、猫喋りでも」 神田が差し出した物は猫耳だった。 浅田『何でそんなもん持ってるんだ…?』 岸野『そりゃまあ、こういう場だからそういうのもアリかも知れんけど…』 日垣『このブレザーでそれ着けてる方が不自然でしょうが…』 猫耳を見た途端に固まってしまった、そんな3人の思いに関係無く、伊藤は上機嫌でそれを着ける。 伊藤「うん、これなら猫語でも問題無いニャー!ありがとう、神田さん!」 浅田・岸野・日垣『問題無いのか!?』 ちなみに有吉は、そんな伊藤の奇行に慣れてるせいか、平然としていた。 日垣「しかしこのブレザー、暑いね」 伊藤「まあ冬服だからしょうがないニャー」 神田「でもなるべく上着脱がないでね。上着無しじゃ何のコスか分かんないから」 浅田「そうだ、ちょっと待って」 自分の荷物をゴソゴソする浅田。 浅田は自分の荷物の中から、小型の扇風機を出した。 浅田「(売り場の机の上に扇風機を置き)これ使って。(さらに荷物をゴソゴソし)あとこれ電池式だから、予備の電池出しとくね」 そう言って机の上に乾電池を並べる。 日垣「ありがと…」 有吉「そんなもんまで持ってたんだ…」 [[26人いる! その4]]

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