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ヒグラシの啼く頃に」(2006/10/27 (金) 05:08:25) の最新版変更点

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*ヒグラシの啼く頃に 【投稿日 2006/10/21】 **[[カテゴリー-荻ちゅ関連>http://www7.atwiki.jp/genshikenss/pages/284.html]] 昔から一緒にいた私達だから、きっと分かり合えていると思っていた。 暑い夏が過ぎ、この地方の冷え込みは早く。 すでに長袖に変わった私達の制服は、その象徴でもあった。 「なぁ、中島ぁ。」 「ん?」 授業の合間に私のグループの一人であるおさげの少女は、 私に数枚のルーズリーフを渡してきた。 「これ、さ、荻上に挿絵頼もうかと思ってるんだけどぉ。」 「ふーん・・・?」 渡されたルーズリーフに興味もない私は、気のない返事をする。 この子の書く文章の稚拙さは分かっている。 いまさら読むまでもないのだ。 「・・・ほんだら、荻上にも見してみるよ。」 そういって、渡された紙束を机に押し込む。 「・・・そっか。よろしくお願いなぁ。」 その子はそろそろと自分の席に戻っていく。 放課後。 私はその紙束を燃え盛る焼却炉に放り込む。 あの子は気が小さいから、たぶん、こちらから何もいわない限り何もいわないだろう。 ・・・荻上はこんなもののために絵を描く必要はないのだ。 私は、あの子をもっと大切にしたい。 「・・・あ、あのさ、中島?」 一週間も過ぎたころ、件のあの子がやってきた。 「ん?」 「わ、わたしてくれた?」 「・・・ああ。」 「なんだって?」 「今他の描いてるから忙しいって。」 「え、そうなんだぁ。じゃあ・・・。」 「でも、後で描くかも知れないから、借りておくって。」 「そ、そうかぁ。わ、わかったぁ。」 このいいわけも考えておいた。 「・・・なぁ、中島?」 「ん?」 荻上がやってきた。 「なんか、頑張ってねぇ、言われたんけど、何か分かるかぁ?」 「・・・ああ、まぁ、特に考えなくていいんでねぇか?」 ははっ、と私は笑うと、前に座った荻上の肩に手をかけ、そっと抱きつく。 「なんだぁ、どうしたべさ、中島。」 「まぁ、いいでない。ちょっとこのままでさ・・・。」 私とこの子は分かり合ってる。 この子はきっと知らないモノがたくさんあるから。 私はこの子を守らねばならない。 しかし、三年になっての初夏。 彼女は、男と・・・付き合いだしたのだ。 私は思った。 これは、いけない。 私はどうするべきか考えた。 あの男は荻上と何も分かり合っちゃいない。 荻上の真の姿を見せればいい。 あとは行動に移すだけだった。 ・・・私のしたことは間違いだっただろうか。 いや、きっと間違いではないはずだ。 しかし荻上は教室で追い詰められることとなり・・・。 自殺未遂までするに至る。 私は・・・。 「んー、ナルホドっ。あなたは、何もしてはいないとぉ・・・。んーふっふっふっ。」 東京から来たという刑事が、この事件に興味を持ったらしい。 周りの情報を集めていることは私も耳にも入っていた。 数日前から付きまとっていたこの刑事が、なにを考えているのかは分からない。 「しかしですねぇ、中島さん?」 「はい?」 「あの本が出回る可能性があるのはあなたの所だけなんですよ。」 「なぜそういい切れるんですか?」 自信たっぷりのその口調が鼻につく。私も方便を抑えて返す。 「あの本の原稿が回収されたのは巻田君の家に投函されるつい3日前。  これは荻上千佳さんの証言からも確かです・・・。」 「はぁ。」 この刑事・・・なにを掴んだ? 「この原稿、他の部員さんは一応知ってはいたそうですが・・・。  肝心の中身自体は知らないと口をそろえていました。  荻上さんはあなたに渡した。他の部員は知らない。  ならだれがあの本を作れるというのでしょうか?」 「だから前もお話したでしょう?  一回ためしに製本したあと、私の手元からなくなったって・・・。」 「そこです。」 「はい?」 「発見された原稿、いつ製本されました?」 「そりゃ、もらってすぐ・・・。」 「んー、ん、ん、ん、おかしいですねぇ。」 「なにがですか?」 「この近所でコピーを扱ってる場所は無い。  あなたの家にはPCはあれどもスキャナは無い。  となると、学校のコピー機しかありえません。」 「・・・。」 「しかも、その原稿が渡された日は学校のコピー機は修理中でした・・・。  となるとまず、その日には出来ませぇん。その上ですねぇ・・・。  あなたがコピーをしている姿を、見ている方がいたんですよ。」 「え?」 「んー、ふっふっふっ・・・。しかも、その投函された当日にね。」 「あー・・・。間違えました。そうです、その日に・・・。」 「・・・なるほどぉ。」 「だから・・・その日のうちに盗まれて・・・。」 「そこがおかしいっ!」 「え?」 「あなたがコピー機前で見かけられているのは夕方三時。  投函され、発見されているのがなんと夕方五時なんですよ?  明らかに早すぎます。これはどう考えても・・・。」 「しかし、そうとも限らない。」 「そうですねぇ。  しかし、この状況だと、仮にあなたではないとすると、行きずりの犯行ということになる。」 「そうなんじゃないんですか?」 「・・・となるとおかしいんですよねぇ。」 そういいながら、あごに手を当てる刑事。 「え・・・?」 「指紋ですよ。指紋、あなたと・・・巻田君のご家族のしか付いてないんです。」 「!!」 「行きずりの悪戯をしようとする中学生が、わざわざ指紋を気にするとお思いですか?  それは無いですよねぇ、どう考えてもおかしい!  やはり、どう考えてもあなたが犯人でないとおかしいんですっ!  ・・・お認めなられてはいかがですか・・・?んーふっふっふっふっ・・・。」 ここまでいい捲くし立てられ、私は何も言えなくなった。 ・・・そういうことか。 この人は全てを知った上でここに来て、私を論破するつもりだったのだ。 「そうですね・・・。」 「やったことは悪戯です。しかし・・・やりすぎです。」 眉を顰め、指を額に当てる刑事。 たぶん、この人は勘違いしてる。 「やった事を認め、反省するのがいいと思いますが・・・。」 この人は、私がここまで言われれば自供すると思っている。 私を、ただの中学生だと思っている。 反省をすると思っている。 人気が無いところを選んだのは、私への配慮だろう。 しかし・・・それが仇になる・・・。 「刑事さん?」 私は、懐に隠していたナイフを取り出し・・・。 「ん?・・・ちょっとお待ちなさい・・・。」 「私ね、自分のやったことに反省なんかしてないんですよ?」 「なにを・・・。」 「荻上はね、あんなのと付き合ってちゃいけなかったんですよ。」 「・・・待ちなさい。」 じわりじわりと刑事との間合いを詰める私。 一歩進むと、刑事は一歩下がる。 「だから、あなたは死ななきゃ。これはばれちゃいけないんですよ。」 刑事の顔が歪む。私は・・・満面の笑みを浮かべて・・・。 「男だから、苦しまずに逝かせてあげますね。」 ザシュッ。 「ねえ、聞いた、中島ぁ。」 藤本が私に話しかけてくる。 「東京から来てた刑事さん、行方不明だってさぁ。」 「へぇ・・・。」 「何か掴んだ風だったんだけども。」 「まぁ、忙しいから帰っちゃったんじゃねぇの?」 「でも、東京の他の刑事さんとかやってきてたよ?」 「まぁ、私達には関係ないべさ。」 「そうなんかな・・・。」 相変わらず、荻上は自分の席で音楽を聞き続けてる。 自殺未遂した時の怪我も癒えてきているようだ。 ・・・これでよかったのかな。 外には夏の終わりを告げるセミの声が聞こえている。 まるで、季節よ早く変われと急かすように。

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