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*斑目放浪記名古屋編2 【投稿日 2006/10/20】 **[[斑目放浪記]] 大安吉日の秋、某日。尾張名古屋の駅近くでのこと。 「晴信、あなたこれからどうるすの?母さん達は茨城の  おばちゃん達と集まってまた観光するけど。」 「俺は一人でぶらぶらしとくわ。」 紋付や黒いスーツ、そして白いネクタイの集団。 その輪の中から斑目は独り、離れて歩き始めた。 今日、斑目は家族とともに従姉妹の姉ちゃんの結婚式に 呼ばれて、名古屋にやってきていた。 主賓やその友人たちは二次会への移動、親戚は集まって 名古屋観光となるようだ。 とはいえ、あーでもないこーでもないとガヤガヤ話は続き 場が動きそうにないので、斑目は先に一人でホテルに戻り 着替えることにしたのだった。 昼間から酒を飲んでけだるい足取りのままに、ふらりと 見知らぬ二度目の街に繰り出した。 地下鉄での移動。不案内な路線図を見て乗り換え、 一番の繁華街と聞いた栄の駅で降りる。 「何か観光でもするかな…。名古屋城しか見て無いし。」 午前中の式の直前、会場のすぐ近くの名古屋城を 家族と一緒に見て回ったのだった。 「そーいや夏に朽木君と来た時は何も見なかったなー。  つーか名物食ってねぇっての!(笑)。」 思い出し笑いをしつつ、改札を出ると地下街だった。 なかなかの人手と、両側に並んだ喫茶店、衣料店、すし屋 などなど。もちろん味噌煮込みうどん屋やうなぎ屋もある。 しかし披露宴で飲み食いしたばかりの斑目に食欲は無い。 斑目は人の流れに乗って、長く続く地下街を物珍しげに きょろきょろしつつ、かといって店にも入らず歩き続ける。 地下街の中の噴水広場に少しぎょっとしつつ、さらに歩くと 丸い吹き抜けの空間に出た。 「お、こんな所にジャプンショップ。」 ヲタセンサーが敏感に反応し、ドアをくぐる斑目。 (最近のジャプンはますますその、腐志向が…。) そう言いつつも、なんだかんだでジャプンは読んでるし、 一般人の人ごみに疲れていたのでオタ空間が心地よい。 奥の棚では女の子3人連れが801会話で盛り上がっている。 (そういやデスの音の映画また観んとなぁ。) そんなことを思いながら店を出ると、エレベーターが 気になったので乗ってみた。 家族連れに囲まれながら運ばれ、エレベータのドアが開くと ガラスと水の空中公園に出て、明るい日差しが目にまぶしい。 楕円に広がるガラスと流水から、飾りガラスのように下が ぼんやりと透けて見える。陽の光が反射して目が眩んだ。 しばらく呆っと眺めていた斑目だったが、ふと我に返り 気付くと周りは男女連ればかり。 さっき参加した結婚式の事も斑目の脳裏に浮かんでくる。 (何で俺、一人でこんな所に居るんだろう…。) 周りはと見ると、直線道路に挟まれた長い公園が続いてる。 100m道路、というものだ。斑目が歩いてきた地下街も この下に続いているし、まだまだ広がっている。 そして、両側にはデパートや様々なビルが立ち並び、 TVの電波等も塔も近くに見える。 (うーん、せっかくだからあの塔にでも登ってみるか。  東京に行って東京タワーに登るみたいなもんか?) このカップルや若夫婦の空間から、もっとベタな観光地 っぽいところへ移動したいとの判断が働いた。 東京タワーをこじんまりとしたような三角錐に惹かれて 地上に降りると、そちらに移動しようと横断歩道で信号が 変わるのを待つ。その時、携帯にメールの受信があった。 取り出してみるとスーと恵子からの2通で、お土産の 催促がそれぞれ来ている。 さらに名古屋名物を食べたら写真も送れ!と有る。 「あいつら、我がままお嬢か?(苦笑)」 笹原と高坂が卒業してから、一時は部室へ足も遠のきかけた が、いつのまにか恵子と疎らにメールのやりとりをするように なり、来日したスーからも、携帯を持つやいなやアドレス交換 を強制的にさせられ、電話や主にメールで、スーの日本語の 上達の一助となっているような状況だった。 特につきあう…といった感じには全くなく。斑目としては 手の掛かる妹が二人できたような感じに受け取っていた。 とはいえ、それがなければ夏以降の日々がいかに退屈で孤独 だったか。それを考えると二人には感謝していた。 「仕方ねぇな。」 そう言いながら、近くに見えたデパートの地下街で何か 土産物でも無いかと、電波塔ではない側の横断歩道に向かった。 (この俺が百貨店…デパートに入るとはねぇ(苦笑)。) 奇しくもこの辺りは、名古屋では4Mと呼ばれるデパート 密集地帯でもあった。 それから数時間後。斑目はデパートの紙袋を横に置き、 土産物だけでなくゲーセンのクレーンゲームのぬいぐるみも その中に入れ、漫画喫茶の一室でくつろいでいた。 ドリンクを飲みながら、古典漫画の長編シリーズを読みふけり 目の前のネットで気が向いた時に、気になる掲示板を チェックする。 (あー落ち着くわ…。) 靴も脱いで、すっかり気楽に過ごしていた。 やがて夜に差し掛かる頃、外に出た斑目は真っ暗になって いたので少し焦った。 漫画喫茶の充電器に入れていた携帯電話には、親からの 伝言メッセージが残っていて 「晩御飯は、そっちはそっちで食べて自由にホテルに  帰ってきたらいいから。」 ということだった。 「さて、何を食うかな…。」 通りの向こうには、食べなれたカレーチェーン店と、 牛丼のチェーン店が見える。 カレーチェーンの方は、名古屋が発祥なのだが、だから といって特別変わりがあるわけではない。 慣れというのは恐ろしいもので、自然に足が向いて、店に入り そうになってしまう。 「いかんいかん、せっかくだから俺は名古屋名物を食べるぜ!」 一人で食事をしやすいチェーン店やラーメン屋の誘惑を 振り切って、さらにキャバレーその他の呼び込みを避けつつ 夜の繁華街を歩き続ける斑目は、いつのまにか完全に道に 迷ってしまっていた。 ふと見ると、前方にとんかつ屋が見える。 「腹も減ってきたし、ここ味噌カツ屋か?入るかな…。」 飲み屋に一人で入るのよりは抵抗が少ない。 カウンターに座ると、隣の席では大きなとんかつに味噌タレが 掛かったものが運ばれてきた。 「わらじカツおまたせしました~。」 (うぉっ、でかっ!) それを見て斑目は、腹が減っているもののそこまで 食べられないと悟った。 「えーと、串カツと生ビール中でお願いします…。」 (手羽先か味噌煮込みうどんでも、名古屋駅の  近くで食べてからホテルに戻るかな。) とはいえ、まだ斑目は道に迷ったままなので、少し不安だ。 そこへ串カツと、よく冷えた生ビールが運ばれてきた。 テーブルの壷から味噌ダレをかけると、携帯カメラで撮影する。 珍しいものを食べたらいちいち携帯カメラで撮って送るなんて 行動は、熱々カップルか新婚夫婦のすることだと思うのだが 斑目は特に気にもせず、撮影している。 そして串カツを口に運ぶと、甘みのある、とんかつソース とは違った味噌の味と串カツの豚肉、衣を味わう。 (あー、これはこれで美味いな。毎日とは言わんが。) 手持ち不沙汰なので、さっきの写真を恵子とスーに送る。 道に迷った事も書いておくと、「美味そう!」の返信とともに 「清算の時に最寄駅までの道を聞いたら?」と恵子から書かれ (そりゃそうだ。迷ってると本人余裕無いんだなぁ。) と、苦笑いを浮かべた。 今日は胃が大きくなっているのか、串カツとビール1杯では まだまだ余裕のある斑目だったが、とりあえず店を出た。 支払いの時に、最寄の地下鉄乗り口もしっかり聞いたので 矢場町駅から名古屋駅まで、無事に帰りつくことが出来た。 名古屋駅から出るとそのまま下りエスカレーターで地下街に 降りた。衣料店は店じまいの雰囲気が漂っている。 (もう夜8時過ぎだしな。食べ物屋も有るけどもう終わりか?) そう思いながら歩くと、味噌煮込みうどん専門店「山元屋」 という暖簾の前を通りかかった。営業中の札が出ている。 手羽先で呑もうかとも思っていたが、酒より食事の気分になり 店に入ってみた斑目だった。 「あのー、まだ大丈夫ですか…?」 「はい、こちらどうぞー。」 ラストオーダー間近の店内に通され、味噌煮込みうどんを 頼むと、待ちながら焼酎水割り(レモン入り)をちびちび と呑む。周りの席の食べ方を見ると、土鍋の蓋を取り皿と して使っているようだ。 (ふーん、なるほどね…。) やがて、ぐつぐつと音を立てる土鍋が運ばれてきた。 ビールを追加で頼むと、斑目は土鍋の蓋を開ける。 味噌カツの時と違って甘いわけではない、味噌の匂いが 湯気とともに立ち上る。鍋の中はまだ沸騰していて いかにも熱そうだ。そしてまた写真を撮る。 (この、乗ってる卵どうするかな…。) そう考えながら蓋にうどんを取り始めると、うっかり 卵の黄身を割ってしまった。 「あぁ…。ま、これはこれで美味いかな。」 煮込み用の太いうどんと、トロリとした味噌のつゆが からまり、ずっしりと腹に溜まってくる。 口の中を火傷してそれをビールで冷やしながら、 額に汗を浮かべて食べきったのだった。 食べ終わって、地上に出るとホテルに向かいながら 歩きつつ、またしてもスーと恵子にメールを送る。 スーからすぐ返信が来るが、日本の食べ物の味はまだ 想像が付かないものが多いようだ。特に味噌味は。 『名古屋には、甘いパスタが有るそうだな?是非!』 なんて無茶な要望を送ってきているが、店の場所も 知らないので無理だと苦笑しつつ歩く斑目だった。 ちなみにスーは携帯メールだとそれなりに簡単な漢字も使う。 「あれ?ひょっとして斑目じゃない?」 斑目は不意に声を掛けられてビックリし、ビクンと 飛び上がってしまった。携帯を落としそうになる。 「わたたっ…!」 「あははは、オーバーだねぇ。」 忘れるわけが無い、間違えるわけが無い。 春日部咲その人だった。ちょっと地味目のドレスを着て 同じような女性数人グループから抜けて近寄ってきた。 (え?え?なんで?名古屋だったよな、ココ!?) 「斑目、なんで名古屋に居るの?」 「それはこっちの台詞だね!」 「えー、友達の結婚式だけど、早いよねぇ。同級生なんて。」 「あ、ああ、そう。大安吉日だもんな。」 「んで、斑目は?」 「俺は従姉妹の姉ちゃんが同じく結婚式でネ。」 「ふーん、斑目はどっか観光した?あたし名古屋初めてでさ。」 「したさ!名古屋城に、繁華街で食べ歩きさね!」 「なんかテンション高いなー。酔ってるね(笑)。」 ふふふと笑う春日部に合わせて斑目もはははと笑う。 「いーなー、なんか可愛いものとか有った?」 「俺に可愛いものを聞くかね?まあ名古屋城の掘には  鹿が居たね。親子で。」 「え?ホント!?写真とか無い?」 斑目は春日部の友人が去っているのに気付いた。 「あのー、ご友人が居なくなってますが?」 「ああ、いいのよ。」 その返事を聞きつつ、斑目は携帯写真データを探す。 「ほら、これ―。」 「あー、見して見して。」 ぐっと接近する、斑目と春日部。 (このあと、春日部さん予定無いのかな…?) (こんな遠くの地で偶然会った縁だし、一緒に飲むとか!) (てか、俺まだ振り切ってなかったのな!?) (あとで辛くなるからやめとけ!) (いや、あくまで友達としてだねぇ――。) 様々な想いが頭の中をぐるぐる回る。 その時、春日部が見ていた斑目の携帯に、メールの受信が 有った。表示で恵子からのものだとわかった春日部は ニヤリとしたあとホクホクと微笑むと、斑目に向き直る。 「あらー、斑目も隅に置けないねぇ。ほーほー。」 「え?ちょ!」 自分の携帯を手渡され、確認すると焦る斑目。 「やー、なるほどねぇ。お姉さんも安心だよ、うんうん。」 「ば、バカ言ってんじゃねえっての!スーとかあの辺の  現役会員とメールよくするようになってるだけだって!」 「まーまー、最初のきっかけは…そんなんだよねっ。」 春日部も酒が入っているのでノリノリである。 「あー、いい話もあったところで、せっかく名古屋で  会えたけど、私は帰るわ。明日も仕事なんで日帰り  なんだよねぇ。残念!!」 「あ――、ああ、そうなの?」 「東京でそのうち、根掘り葉掘り聞かせてもらうからね!」 「だーかーらー!違うっての!」 そうやって、さっぱりと別れていった春日部だった。 見送った斑目は、考えも良くまとまらないまま、とりあえず 恵子に「今偶然、結婚式で名古屋に来てた春日部さんに 会ってね、俺と恵子ちゃんが付き合ってると勘違いしてたよ。 さっき来たメールでね。また誤解だって言っといてよ。 まぁ迷惑かけるね。」と返信を送った。 とぼとぼろ暗い裏路地を歩いていると、メールでなく電話が 掛かってきた。もちろん恵子からだ。 「斑目、ごめん!ほんとゴメンね!」 「や、それ謝り過ぎだろ(苦笑)。」 「………うん、うん。でも――――。」 「ま、色んな偶然のタイミングだったなぁ。気にすんな。」 「うん、わかった。でもさぁ。でも…斑目が良かったら、  その勘違い、本当にしてみない?」 「……ぶっ!ははははは。あーはいはい、考えとくね。」 「もー、冗談だと思って(笑)。」 「冗談だと思ってだよ!(笑)。」 冗談ということにして二人は話を流してしまった。 電話を切って、ホテルに着くともう家族は戻っていた。 「晴信、大浴場が良かったぞ。入ってきたらどうだ?」 「あー、そうするわ。」 促されて、一人で大浴場に向かう。 体を洗いながら、春日部さんに会ったことや、恵子の 「その勘違い本当にしてみない?」の台詞を思い出す。 (俺が、恵子ちゃんと?ありえねぇっての(苦笑)。) そう思いながらも、大きな湯船につかり、湯の熱がびりびりと 体に染みてくるのを感じながら、何故か去年の軽井沢合宿で 目撃してしまった着替えを思い出す。 (あー、なんで俺、ドキドキしてんだろ…。) 窓の外にはビルの明かりが見える。 (酒呑んで風呂入ったら心臓に来るわな!そりゃ!) そういうことにして、名古屋の1日を終える斑目だった。

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