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*『Million Films』【投稿日 2006/06/24】 **[[カテゴリー-その他>http://www7.atwiki.jp/genshikenss/pages/52.html]] 管理人注:これは『荻ラヴ』発祥のげんしけんセカンドジェネレーション      『双子症候群』の設定を基にしたSSです。 「えええええええ」 千里と万理は二人同時に感嘆の声をあげた。きっかけはたわいも無い会話からだった。 「ねえねえ、ぬぬ子ちゃん!! そのメガネ外してみせてよ!」 千里ははしゃぎながら言った。 「ええ?でもー」 ぬぬ子はモジモジしながら、顔を赤らめてうつむきながら恥ずかしそうに答えた。 「別にいいじゃない!! 転校してきた時もちらっと素顔見えたけど、よく見る機会無かったんだしさー。可愛かったよね、万理!」 「ええ、そうよね・・・。でもぬぬ子ちゃん嫌がってるんじゃない?」 と、思慮深い万理はぬぬ子の顔を覗きながら心配そうに答えた。 (ちさの無遠慮ぶりはいつものことだけどね・・・) 万理はそう内心で思ったが、口には出さなかった。千里は無遠慮だが人の嫌がる事をする子でないことは万理が一番よく知っていたからだ。 「えーー! ぬぬ子ちゃん、嫌なの・・・?」 千里は少しがっくりした表情を浮かべて、心配そうにぬぬ子の顔を見た。 「嫌じゃないけど・・・お母さんからもメガネを人前であんまり外しちゃ駄目って・・・」 「それはおかしいわね。母親がそんなことに口出しするなんて変だわ!」 今度は万理の方が憤慨して答えた。 (あちゃー、まりの変な癖が出たか?) 好奇心旺盛な千里だが物事にはこだわらず、すべてを軽く考えていた。 逆に万理は物事に無関心なくせに、変なところで理不尽な事や納得行かない事に出くわすとむきになる。 ぬぬ子はあわてて答えた。 「ううん!違うの!なるべく外すなって言うのはわたしがドジでよく、メガネを壊すからなの。じゃあ外すね・・・。」 ぬぬ子はそう言ってメガネに手をかけて、ゆっくりとメガネを外した・・・ はあーーという深いため息が千里と万理から思わずもれた。ぬぬ子は慌ててメガネをかけ直した。それでも二人は恍惚の余韻にひたった表情を浮かべたまま、うっとりとしてその場に立ちすくんでいた。 「???」 ぬぬ子は二人の様子を不思議そうに見た。 「・・・どうしたの?大丈夫」 ぬぬ子は心配そうに尋ねた。 「だっ大丈夫!!」 二人ははっと我に帰り、慌ててぬぬ子に返答した。 「ぬっぬぬ子ちゃん!! 絶対メガネやめて、コンタクトにした方がイイヨー。コンタクトはイイヨー!動きやすいし、視界は不便じゃないし!」 千里は大はしゃぎでぬぬ子に言った。 「ちさー!それは人の自由でしょ!自分がコンタクトが良いからって!メガネでもいいじゃない!でもそんな度の強い厚いレンズじゃなくても、今なら薄いお洒落なメガネもいっぱいあるわよ。」 「わたし・・・コンタクトは体質に合わないから、したことないの。レンズも無くしたり壊すことが多いから、安い厚いレンズで十分・・・。」 とぬぬ子は照れくさげに言った。 「ええー!! こんなに可愛いのに隠すなんて罪だよ!! オヂサンはね、オヂサンはね、ハアハア・・・」と千里はヨダレをジュルとぬぐいながら言った。 バシ!! 万理は千里の頭を思いっきり引っぱたいた。 「下品な事しないの!! 変態なんだから!!」 「ひっひでー、まりに言われたく無いね!あたしのどこが!!」 ギャアギャアと口喧嘩を始める二人に、ぬぬ子は遠慮深げに言った。 「あのー、喧嘩しないで・・・わたしのために・・・」 「ごっごめんなさい!」 先に冷静に我に返ったのは万理だった。 「それにわたし・・・自分の顔、はっきり見たことないの。幼い時から重度の近視で、外すとさっぱり見えなくて、五センチくらいでやっと見えるから、自分の顔がどんなだか、分からないし・・・。」 「ふーん」と二人は同時に声をあげた。 用務室で斑目は千里と万理と春奈とスーにコーヒーを入れてやりながら答えた。 「ふーん、そんなに美少女なんだ。一度見てみたいね。」 そう言いながら斑目は三人にコーヒーを手渡し、自分専用のくじあんキャラクターのマグカップでコーヒーをすすった。今日は千佳子は学級当番でいないが、放課後よくこのメンバーは用務員室に集まる。 もちろん、エコヒイキは好ましい事ではないし、色々問題ではあるから、スーが適当な名目をつけて部活活動と称している。 「美少女なんてもんじゃないのよ!!そりゃもちろん、学校にも美少女はたくさんいるわよ!芸能人にだっていっぱいいるし。でもそういうのとは全然違うの!」 こういう時、一番興奮して喋るのは千里だ。そういう趣味は無いのだが、妙に美少女にこだわる。誰に似たのかとクスクス笑いを堪えながら、斑目は千里の話を聞いた。 「・・・私も驚いた・・・。綺麗だからって別に興味無いんだけど、それでも私しばらく心ここにあらずになって、ほわーっとしちゃったの。」 万理もその時の印象を思い出して、ハーっとため息をついてぼんやりした。 「ははっ、まりちゃんにしては珍しく、抽象的な表現だね。」 斑目は笑いながら答えた。 「だって!!そういう表現しかできないんだもん!!」 むきになって万理は答えた。 斑目は優しい表情でうなずきながら、そばの本棚に手を伸ばした。 「最近、興味深い本を読んだよ。」 「へえ、どんな?斑目おじさん無駄な知識は多いって母さんも言ってたね。」 春奈は興味津々に体を乗り出して言った。 斑目はその表情にどきりとした。最近ますますお母さんに似てきたな・・・と目を細めて、昔を懐かしむ穏やかな表情で笑った。 「まあ、待ちなさい。ええと、この本によるとね、かいつまんで説明すると、昔から美人の基準というのは時代によって変化してきた。ほら、中世だとぽっちゃり瓜顔が美人だったりね。」 「それはよく聞くよね。」 春奈は答えた。 「でもそれは『平均化』の結果なんだそうな。つまり周りがそういう顔ばかりだったら、その平均値が美人の基準となる。」 「ふむふむ。」と千里、万理、春奈の三人は頷きながら聞いた。スーはコーヒーをすすりなから、あいかわらず無表情で話を聞いている。 「でもこの本の著者はそれだけじゃないと主張しているんだ。よく二次元のキャラは誇張されて描かれるよね。そしてそれが可愛いと感じる記号として表現される・・・。」 「うんうん。」 「つまり人間には原始的に、本能的に、顔に魔よけの刺青をしたみたいに、抽象的に記号化したものが深層心理に働きかけられているというんだ。」 「それがぬぬ子ちゃんとどう関係あんの?」 と千里は聞いた。 「それは特に眼力、目の力になって現れる。カリスマの持ち主はそれを本能的に使っているというんだ。ぬぬ子ちゃんにもひょっとしたら・・・」 「まさかあー。」 三人は笑い出した。 「そっそんなことないぞ。この著者の解説によるとしっかりした学者さんの学説を紹介しているということで、名前をええと、アッ、アンジェラ・バートン???」 本のタイトルと著者で選んだので、斑目は初めてその紹介された学者の名前に気付いて、スーの方を向いた。 スーはやはり無言でコクコクうなづくだけだった。 斑目の慌てふためいた様子と、その聞いた事の無い名前に不思議そうな顔を浮かべながら春奈は言った。 「じゃあ、斑目おじさんにも眼力があったりして。はずして見せてよ!」 「よっよーし、見てろ!」 斑目はメガネを外して、きりっとした表情で春奈の方を向いた。 「ぷぷぷぷぷぷ」春奈はツボに入ったらしく、笑いを必死に堪えているようだった。 (親娘二代にわたって、バカ受けされてしまった・・・)とシクシク涙を浮かべて斑目は顔をそらした。 そこへ千佳子が当番を終えて、ぬぬ子と一緒に用務員室に入ってきた。 「おや?二人一緒だったの?」と春奈は答えた。 「ええ・・・」と何か言いにくげな様子で千佳子が答えた。そばではぬぬ子がうなだれている。 「何かあったの?」と千里が尋ねた。 「実は・・・ぬぬ子ちゃんが例のたちの悪いグループにからかわれていて。」 「何―。あいつらまた何か!!」千里はいきりたった。 「あいつだろー、リーダー格のあの女。昔はそんなじゃなかったのに・・・。」 春奈は答えた。 「たしか親が離婚調停で別居してから、急に荒み始めて、周りを扇動しはじてめるとか・・・。」と万理は心配そうに尋ねた。 「そうなのよ。だからしばらくぬぬ子ちゃんもわたしたちと一緒にいましょう。転校生だからよけい目をつけられてるし。」 「だな。」と春奈は答えた。 斑目はその様子を頼もしそうに、その様子を見ながらウンウンと頷いていた。 (皆の子は立派に成長してるな・・・) そしてスーの方を見た。スーは無関心に用務員室のテレビのアニメに夢中になっている。 「スー先生!学級の問題に何も口を出さないんですか?」 「マダラメ!大丈夫!生徒たちの自主性に任せる!」 (らしいといえば、らしい・・・)がくっと斑目はうなだれた。 子供たちが帰ってからスーと少し斑目は話をした。 「それにしてもぬぬ子ちゃんの転校の時期って変ですよね。前の学校で何かあったのかな?」 「さあ?でも前の学校の先生は問題は無いと言ってました。ただ・・・」 「ただ?」 「メガネは外させるなと・・・」 「は?」 「彼女に交友関係、成績、素行、性格、何も問題無いが、心に問題のある子が近くにいたら、恐ろしい事が起きると・・・。」 「そっそういうことは、早く言わなきゃ!!」 「大丈夫!大丈夫!」 『彼女』は今日も誰もいない自分のマンションに帰った。鍵をあけて誰もいない部屋にどさっと学校の鞄を投げ捨て、ソファーにごろりと制服を着替えもせずに横になった。 しばらくぼんやりとしていると、メールが入った。携帯をひらいて、メールチェックすると母親からだった。内容は分かりきっていたが、『彼女』はメールメッセージを開いてそれを見た。 「ごめんなさい。今日も仕事で遅くなります。食事はいつものように」 少女は唇をきゅっと噛み、黙って携帯を閉じてごろりと横になった。なにもかも憎らしい。いらいらする。本を読んでも映画を見てもつまらない。どんなものも『彼女』は心を動かすことは無かった。 『彼女』は家にじっとしている事に耐えられず、着替えて外に飛びだした。 少女は目的も無く町をふらふら徘徊した。そしてトコトコとのんきに歩いているぬぬ子の姿を見つけた。 (のんびりぼやぼや歩きやがって。あいつを見るといらいらする。あんな幸せそうにしてぼんやり生きてていいはずがない。世の中というのはそんなもんじゃない。あたしがそうだったように・・・。世の中というものはもっと汚いものなんだ。それを教えてあげよう・・・。) 少女はぬぬ子に駈け寄り、乱暴に肩をつかんで叫んだ。 「おい!」 ぬぬ子は驚いて、『彼女』の方を振り向いた。その拍子に彼女の厚底メガネが地面に落ちた。 そして『彼女』は見た。ぬぬ子の驚いたその表情を。『彼女』とぬぬ子は見つめ合った。そして見た。そのくもりの無い無垢の瞳を。 「あああああああ」 少女はその場にへなへなとへたり込み、はらはらと涙を流して崩れ落ちた。 次の日、ホームルーム前 「ぬぬ子ちゃんが少し心配よね。」と千佳子は言った。 「あたしたちが、目光らせときゃ大丈夫だろ?双子たちはまだ?」春奈は聞いた。 「あの子達はいつもぎりぎりよ。」 そこへぬぬ子が教室に入ってきた。そばには例の『彼女』がニコニコした表情でそばにつきそっていた。ぬぬ子は少し戸惑った表情をしている。 「てめえ!ぬぬ子にちょっかいだしてきたのか?」 ガタッと椅子を後ろに倒して、春奈は立ち上がった。 「いやねえ、そんなことあるわけないじゃない!ねえ、ぬぬ子ちゃん!」 優しい穏やかな表情でその少女は答えた。 「こんなに世界が美しいなんて知らなかったわ・・・。ほら今日もこんなに天気がいい・・・。青い空のなんて清らかなのかしら・・・」 うっとりした表情で少女は喋りつづけている。 二人はすっかり、顔を青ざめてドン引きしてその様子を見ていた。 「だっ大丈夫か?こいつ?何か変な宗教にはまった表情してるぞ?」 そこへぼんやりしてそばに立っているぬぬ子の髪を男子が引っ張っていたずらし始めた。 「あううう」ぬぬ子は困った顔をして顔を赤らめた。 「あはは、やっぱこいつ面白れえ!アニメのキャラみたいな声だすんだもの!」 その瞬間、少女は鬼のような表情に変貌した。 ドコッ!!! その男子は少女に突き飛ばされて吹っ飛んだ。そして男の子はべそをかきながら逃げ出した。 「てめえ!あたしのぬぬ子ちゃんに何しやがる!!」 「あうううう。あたしのために乱暴なことしないでえーー」 ぬぬ子は困った表情でオロオロしている。 「何があった?一体何をした?」春奈は訳がわからず立ちすくむだけであった。 「なにがなんだか・・・」 春奈と千佳子はその場から逃げ出したい衝動にかられていた。 「やった!!ぎりぎりセーフ!!」 「毎朝、毎朝!ちさのせいでこんな思いするんですからね!」 とギャアギャア騒ぎながら、千里と万理はゼイゼイ息を切らせて駆け込んだ。 「ん?どしたの?なんかあったの?」 のんきそうに千里が聞く。 「頭痛え・・・・」 双子の他にも頭痛の種が増えた事を春奈はその朝確信したのでした。
*ぬぬ子の秘密 【投稿日 2006/07/03】 **[[カテゴリー-その他>http://www7.atwiki.jp/genshikenss/pages/52.html]] 管理人注:これは『荻ラヴ』発祥のげんしけんセカンドジェネレーション      『双子症候群』の設定を基にしたSSです。 「えええええええ」 千里と万理は二人同時に感嘆の声をあげた。きっかけはたわいも無い会話からだった。 「ねえねえ、ぬぬ子ちゃん!! そのメガネ外してみせてよ!」 千里ははしゃぎながら言った。 「ええ?でもー」 ぬぬ子はモジモジしながら、顔を赤らめてうつむきながら恥ずかしそうに答えた。 「別にいいじゃない!! 転校してきた時もちらっと素顔見えたけど、よく見る機会無かったんだしさー。可愛かったよね、万理!」 「ええ、そうよね・・・。でもぬぬ子ちゃん嫌がってるんじゃない?」 と、思慮深い万理はぬぬ子の顔を覗きながら心配そうに答えた。 (ちさの無遠慮ぶりはいつものことだけどね・・・) 万理はそう内心で思ったが、口には出さなかった。千里は無遠慮だが人の嫌がる事をする子でないことは万理が一番よく知っていたからだ。 「えーー! ぬぬ子ちゃん、嫌なの・・・?」 千里は少しがっくりした表情を浮かべて、心配そうにぬぬ子の顔を見た。 「嫌じゃないけど・・・お母さんからもメガネを人前であんまり外しちゃ駄目って・・・」 「それはおかしいわね。母親がそんなことに口出しするなんて変だわ!」 今度は万理の方が憤慨して答えた。 (あちゃー、まりの変な癖が出たか?) 好奇心旺盛な千里だが物事にはこだわらず、すべてを軽く考えていた。 逆に万理は物事に無関心なくせに、変なところで理不尽な事や納得行かない事に出くわすとむきになる。 ぬぬ子はあわてて答えた。 「ううん!違うの!なるべく外すなって言うのはわたしがドジでよく、メガネを壊すからなの。じゃあ外すね・・・。」 ぬぬ子はそう言ってメガネに手をかけて、ゆっくりとメガネを外した・・・ はあーーという深いため息が千里と万理から思わずもれた。ぬぬ子は慌ててメガネをかけ直した。それでも二人は恍惚の余韻にひたった表情を浮かべたまま、うっとりとしてその場に立ちすくんでいた。 「???」 ぬぬ子は二人の様子を不思議そうに見た。 「・・・どうしたの?大丈夫」 ぬぬ子は心配そうに尋ねた。 「だっ大丈夫!!」 二人ははっと我に帰り、慌ててぬぬ子に返答した。 「ぬっぬぬ子ちゃん!! 絶対メガネやめて、コンタクトにした方がイイヨー。コンタクトはイイヨー!動きやすいし、視界は不便じゃないし!」 千里は大はしゃぎでぬぬ子に言った。 「ちさー!それは人の自由でしょ!自分がコンタクトが良いからって!メガネでもいいじゃない!でもそんな度の強い厚いレンズじゃなくても、今なら薄いお洒落なメガネもいっぱいあるわよ。」 「わたし・・・コンタクトは体質に合わないから、したことないの。レンズも無くしたり壊すことが多いから、安い厚いレンズで十分・・・。」 とぬぬ子は照れくさげに言った。 「ええー!! こんなに可愛いのに隠すなんて罪だよ!! オヂサンはね、オヂサンはね、ハアハア・・・」と千里はヨダレをジュルとぬぐいながら言った。 バシ!! 万理は千里の頭を思いっきり引っぱたいた。 「下品な事しないの!! 変態なんだから!!」 「ひっひでー、まりに言われたく無いね!あたしのどこが!!」 ギャアギャアと口喧嘩を始める二人に、ぬぬ子は遠慮深げに言った。 「あのー、喧嘩しないで・・・わたしのために・・・」 「ごっごめんなさい!」 先に冷静に我に返ったのは万理だった。 「それにわたし・・・自分の顔、はっきり見たことないの。幼い時から重度の近視で、外すとさっぱり見えなくて、五センチくらいでやっと見えるから、自分の顔がどんなだか、分からないし・・・。」 「ふーん」と二人は同時に声をあげた。 用務室で斑目は千里と万理と春奈とスーにコーヒーを入れてやりながら答えた。 「ふーん、そんなに美少女なんだ。一度見てみたいね。」 そう言いながら斑目は三人にコーヒーを手渡し、自分専用のくじあんキャラクターのマグカップでコーヒーをすすった。今日は千佳子は学級当番でいないが、放課後よくこのメンバーは用務員室に集まる。 もちろん、エコヒイキは好ましい事ではないし、色々問題ではあるから、スーが適当な名目をつけて部活活動と称している。 「美少女なんてもんじゃないのよ!!そりゃもちろん、学校にも美少女はたくさんいるわよ!芸能人にだっていっぱいいるし。でもそういうのとは全然違うの!」 こういう時、一番興奮して喋るのは千里だ。そういう趣味は無いのだが、妙に美少女にこだわる。誰に似たのかとクスクス笑いを堪えながら、斑目は千里の話を聞いた。 「・・・私も驚いた・・・。綺麗だからって別に興味無いんだけど、それでも私しばらく心ここにあらずになって、ほわーっとしちゃったの。」 万理もその時の印象を思い出して、ハーっとため息をついてぼんやりした。 「ははっ、まりちゃんにしては珍しく、抽象的な表現だね。」 斑目は笑いながら答えた。 「だって!!そういう表現しかできないんだもん!!」 むきになって万理は答えた。 斑目は優しい表情でうなずきながら、そばの本棚に手を伸ばした。 「最近、興味深い本を読んだよ。」 「へえ、どんな?斑目おじさん無駄な知識は多いって母さんも言ってたね。」 春奈は興味津々に体を乗り出して言った。 斑目はその表情にどきりとした。最近ますますお母さんに似てきたな・・・と目を細めて、昔を懐かしむ穏やかな表情で笑った。 「まあ、待ちなさい。ええと、この本によるとね、かいつまんで説明すると、昔から美人の基準というのは時代によって変化してきた。ほら、中世だとぽっちゃり瓜顔が美人だったりね。」 「それはよく聞くよね。」 春奈は答えた。 「でもそれは『平均化』の結果なんだそうな。つまり周りがそういう顔ばかりだったら、その平均値が美人の基準となる。」 「ふむふむ。」と千里、万理、春奈の三人は頷きながら聞いた。スーはコーヒーをすすりなから、あいかわらず無表情で話を聞いている。 「でもこの本の著者はそれだけじゃないと主張しているんだ。よく二次元のキャラは誇張されて描かれるよね。そしてそれが可愛いと感じる記号として表現される・・・。」 「うんうん。」 「つまり人間には原始的に、本能的に、顔に魔よけの刺青をしたみたいに、抽象的に記号化したものが深層心理に働きかけられているというんだ。」 「それがぬぬ子ちゃんとどう関係あんの?」 と千里は聞いた。 「それは特に眼力、目の力になって現れる。カリスマの持ち主はそれを本能的に使っているというんだ。ぬぬ子ちゃんにもひょっとしたら・・・」 「まさかあー。」 三人は笑い出した。 「そっそんなことないぞ。この著者の解説によるとしっかりした学者さんの学説を紹介しているということで、名前をええと、アッ、アンジェラ・バートン???」 本のタイトルと著者で選んだので、斑目は初めてその紹介された学者の名前に気付いて、スーの方を向いた。 スーはやはり無言でコクコクうなづくだけだった。 斑目の慌てふためいた様子と、その聞いた事の無い名前に不思議そうな顔を浮かべながら春奈は言った。 「じゃあ、斑目おじさんにも眼力があったりして。はずして見せてよ!」 「よっよーし、見てろ!」 斑目はメガネを外して、きりっとした表情で春奈の方を向いた。 「ぷぷぷぷぷぷ」春奈はツボに入ったらしく、笑いを必死に堪えているようだった。 (親娘二代にわたって、バカ受けされてしまった・・・)とシクシク涙を浮かべて斑目は顔をそらした。 そこへ千佳子が当番を終えて、ぬぬ子と一緒に用務員室に入ってきた。 「おや?二人一緒だったの?」と春奈は答えた。 「ええ・・・」と何か言いにくげな様子で千佳子が答えた。そばではぬぬ子がうなだれている。 「何かあったの?」と千里が尋ねた。 「実は・・・ぬぬ子ちゃんが例のたちの悪いグループにからかわれていて。」 「何―。あいつらまた何か!!」千里はいきりたった。 「あいつだろー、リーダー格のあの女。昔はそんなじゃなかったのに・・・。」 春奈は答えた。 「たしか親が離婚調停で別居してから、急に荒み始めて、周りを扇動しはじてめるとか・・・。」と万理は心配そうに尋ねた。 「そうなのよ。だからしばらくぬぬ子ちゃんもわたしたちと一緒にいましょう。転校生だからよけい目をつけられてるし。」 「だな。」と春奈は答えた。 斑目はその様子を頼もしそうに、その様子を見ながらウンウンと頷いていた。 (皆の子は立派に成長してるな・・・) そしてスーの方を見た。スーは無関心に用務員室のテレビのアニメに夢中になっている。 「スー先生!学級の問題に何も口を出さないんですか?」 「マダラメ!大丈夫!生徒たちの自主性に任せる!」 (らしいといえば、らしい・・・)がくっと斑目はうなだれた。 子供たちが帰ってからスーと少し斑目は話をした。 「それにしてもぬぬ子ちゃんの転校の時期って変ですよね。前の学校で何かあったのかな?」 「さあ?でも前の学校の先生は問題は無いと言ってました。ただ・・・」 「ただ?」 「メガネは外させるなと・・・」 「は?」 「彼女に交友関係、成績、素行、性格、何も問題無いが、心に問題のある子が近くにいたら、恐ろしい事が起きると・・・。」 「そっそういうことは、早く言わなきゃ!!」 「大丈夫!大丈夫!」 『彼女』は今日も誰もいない自分のマンションに帰った。鍵をあけて誰もいない部屋にどさっと学校の鞄を投げ捨て、ソファーにごろりと制服を着替えもせずに横になった。 しばらくぼんやりとしていると、メールが入った。携帯をひらいて、メールチェックすると母親からだった。内容は分かりきっていたが、『彼女』はメールメッセージを開いてそれを見た。 「ごめんなさい。今日も仕事で遅くなります。食事はいつものように」 少女は唇をきゅっと噛み、黙って携帯を閉じてごろりと横になった。なにもかも憎らしい。いらいらする。本を読んでも映画を見てもつまらない。どんなものも『彼女』は心を動かすことは無かった。 『彼女』は家にじっとしている事に耐えられず、着替えて外に飛びだした。 少女は目的も無く町をふらふら徘徊した。そしてトコトコとのんきに歩いているぬぬ子の姿を見つけた。 (のんびりぼやぼや歩きやがって。あいつを見るといらいらする。あんな幸せそうにしてぼんやり生きてていいはずがない。世の中というのはそんなもんじゃない。あたしがそうだったように・・・。世の中というものはもっと汚いものなんだ。それを教えてあげよう・・・。) 少女はぬぬ子に駈け寄り、乱暴に肩をつかんで叫んだ。 「おい!」 ぬぬ子は驚いて、『彼女』の方を振り向いた。その拍子に彼女の厚底メガネが地面に落ちた。 そして『彼女』は見た。ぬぬ子の驚いたその表情を。『彼女』とぬぬ子は見つめ合った。そして見た。そのくもりの無い無垢の瞳を。 「あああああああ」 少女はその場にへなへなとへたり込み、はらはらと涙を流して崩れ落ちた。 次の日、ホームルーム前 「ぬぬ子ちゃんが少し心配よね。」と千佳子は言った。 「あたしたちが、目光らせときゃ大丈夫だろ?双子たちはまだ?」春奈は聞いた。 「あの子達はいつもぎりぎりよ。」 そこへぬぬ子が教室に入ってきた。そばには例の『彼女』がニコニコした表情でそばにつきそっていた。ぬぬ子は少し戸惑った表情をしている。 「てめえ!ぬぬ子にちょっかいだしてきたのか?」 ガタッと椅子を後ろに倒して、春奈は立ち上がった。 「いやねえ、そんなことあるわけないじゃない!ねえ、ぬぬ子ちゃん!」 優しい穏やかな表情でその少女は答えた。 「こんなに世界が美しいなんて知らなかったわ・・・。ほら今日もこんなに天気がいい・・・。青い空のなんて清らかなのかしら・・・」 うっとりした表情で少女は喋りつづけている。 二人はすっかり、顔を青ざめてドン引きしてその様子を見ていた。 「だっ大丈夫か?こいつ?何か変な宗教にはまった表情してるぞ?」 そこへぼんやりしてそばに立っているぬぬ子の髪を男子が引っ張っていたずらし始めた。 「あううう」ぬぬ子は困った顔をして顔を赤らめた。 「あはは、やっぱこいつ面白れえ!アニメのキャラみたいな声だすんだもの!」 その瞬間、少女は鬼のような表情に変貌した。 ドコッ!!! その男子は少女に突き飛ばされて吹っ飛んだ。そして男の子はべそをかきながら逃げ出した。 「てめえ!あたしのぬぬ子ちゃんに何しやがる!!」 「あうううう。あたしのために乱暴なことしないでえーー」 ぬぬ子は困った表情でオロオロしている。 「何があった?一体何をした?」春奈は訳がわからず立ちすくむだけであった。 「なにがなんだか・・・」 春奈と千佳子はその場から逃げ出したい衝動にかられていた。 「やった!!ぎりぎりセーフ!!」 「毎朝、毎朝!ちさのせいでこんな思いするんですからね!」 とギャアギャア騒ぎながら、千里と万理はゼイゼイ息を切らせて駆け込んだ。 「ん?どしたの?なんかあったの?」 のんきそうに千里が聞く。 「頭痛え・・・・」 双子の他にも頭痛の種が増えた事を春奈はその朝確信したのでした。

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