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トンネル」(2006/07/30 (日) 02:44:01) の最新版変更点

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*トンネル 【投稿日 2006/06/28】 **[[未来予想図]] その日、いつものように定時に会社を出ようとした斑目は、同僚に呼び止められた。 「いま帰り?」 斑「あ、花本さん。そうです…珍しいすね、この時間に会社戻ってきてるの」 声をかけてきた同僚は花本という作業員だった。 いつもは外で水道管の点検作業をしているので、昼間以降はほとんど顔を合わすことがない。朝会社に出勤したときに挨拶くらいはする、という程度の間柄である。 花「うん、今日は珍しく早く終わってさ。そうだ、これから飲みいかないか?」 斑「え?」 花「何か用事でもある?」 斑「いや、特にないです。」 花「じゃあ行こう。うまい焼き鳥屋知ってるんだ。」 そう言ってさっさとドアを開けて行ってしまう。斑目は慌てて後を追った。 こうして飲みに誘われたのは久しぶりだった。入社したばかりの時は何度か上司に誘われて行ったのだが、緊張しすぎてあんまり飲めず、やたら高そうな料理の味もよく分からなかった。 上司以外の同僚に誘われたのは今日が初めてだ。でも飲み屋に向かって歩く間、思ったほど緊張はしてなかった。 花本さんは話しやすい人で、気さくな感じの人だった。わりととおっとりした話し方をする。 30半ばで、確かまだ独身だったはずだ。 花「最近はだいぶ忙しさも落ち着いてきたからホッとしてるよ。」 斑「そうですねー。4月はけっこう電話かかってきてましたよね。」 花「4月はなぁ。毎年そうなんだよ、春になるとウチは工事が増えるからなー。一時期はかなりキツかった」 斑「外行ってる人はホント大変そーっすよね。いつ見ても疲れた顔されてましたもん」 花「アハハ」 花本さんは苦笑した。 焼き鳥屋に着き、とりあえず生中を頼んだ。 斑「俺、会社の人と飲みに来たの久しぶりです」 花「そうなの?」 斑「何度か課長に連れてってもらったんですけど、なんか妙に高いとこで、緊張して何食ったか覚えてないんですよ」 花「ああー、課長って言ったら、あそこの料亭か。俺も入社したばっかの頃連れて行かれたなー。」 斑「そーなんすか?」 花「そうそう。課長、ワンパターンなんだよ。新入社員入るたびに連れて行ってんのさ。」 斑「へええ…。」 そんな話をしているうちにつき出しと生中2つが運ばれて来た。 花「じゃ、乾杯しますか。」 斑「あ、じゃあ。」 言われるままにジョッキを合わせる。 「乾杯!」 花本さんが半分ほどを一気飲みした。 花「ふう!」 斑「いい飲みっぷりっすね」 花「喉渇いてたからねー。今日、外はやたら暑かったし。」 斑「ああ、そうっすよね。昼休みに外に出たら、日差しがキツくてびっくりしました。 まだ5月なのに、ここんとこ夏みたいな気候ですよね」 花「…そーいやさ、君、昼休みはどこ行ってんの?」 斑「え?」 ドキッとする。 花「なんか噂になってたよ。入社したときから、斑目君はいつも昼休みにいなくなるって。 何?近所に恋人がいて、会いに行ってたとか?」 斑目は飲んでいたビールを噴きそうになった。 斑「げほっ、げほ…い、いやそんなんじゃねーっすよ!」 ………当たってはいないが、ちょっと近い。ほんのちょっとだが。 花「何?慌てて。まさか図星か?」 斑「え、いや違いま……」 花「顔が赤くなってるぞ」 斑「いや違いますって!…あのですね、大学が近いんで、在学中に所属してたサークルの後輩の顔見に行ってたんですよ。それだけです。」 言いながら、嘘は言ってねーな俺、と思った。 花「え?君、椎応大なの?」 斑「そーです」 花「へえ、俺の知り合いにも椎応の奴がいてさあ。サークルって何のサークル?」 斑「…現視研っていうサークルです」 花「現視研??聞いたことないな。どんなサークル?」 斑「えーと…漫画とか、ゲームとか研究してるサークルですけど」 花「ん?漫研みたいなモン?」 斑「いや、漫研は別にあるんですけど。俺らはあんまり漫画描いたりしてなかったんで。 描きたい人だけ描くって感じで。ていうかずっと部室でゲームしたりして遊んでました。」 花「ふーん?よくわからんけど、楽しそうだなあ」 そう言ってるうちに注文していた料理が来た。 花「お、来た来た。ここのねぎまはでかいだろ」 斑「あ、ホントですねー」 …内心、話がそれたことにホッとしていた。 花「…ところでさ、サークルでどんな話してたの?」 斑「え?」 花「俺、学生の頃は漫研とか、あんまり縁がなかったからさ。オタクな人って、どんな話で盛り上がるのかと思ってさ」 斑「え、えーっと………そうですね。最近のアニメとか、漫画の話とか」 花「ふうん、最近のアニメ…?」 斑「いや、昔のアニメとかも。…ガンダムとか。」 花「ガンダム!!懐かしいなあ!」 花本さんは急に声が大きくなった。 花「子供のとき、すごい夢中で見てたんだよ!」 斑「ああ、花本さんはモロにガンダム世代ですもんね」 話が弾み始めた。そのうちにジョッキも空き、追加注文をする。 斑「やっぱ富野監督のガンダムっすよ!」 花「俺はファースト以外認めん!」 斑「…それは極端な意見っすね。Zも駄目っすか」 花「つーか、ファーストしか見てないから。あとガンダムの劇場版は見に行ったけど。」 斑「へえ、そりゃもったいないっすよ。面白いのに」 だんだん酒も進む。 花「にしても、そんな話でずっと盛り上がれていいなあ。ちょっと羨ましいな」 斑「ずーっと遊んでましたからね。皆で格闘ゲームで対戦したり。」 花「そりゃ、昼休みに部室に行きたくなるワケだ」 斑「………仕事なんて飾りです!偉い人にはそれがわからんのです!」 斑目は急に拳を握り、言い放った。 花「…おおーい、上司の前でそんな事言うなよ?(汗)」 斑「ジーク、ジオン!!」 花「斑目君、酔っ払ってる?」 斑「そんなことないっスよ~。…だがあえて言おう、酔っ払ってると!!」 花「どっちだよ(笑)」 …ちょっと飲みすぎたらしい。 斑「…でも、そろそろ行くのも止めなきゃいけないんですけどね………」 斑目は少し声のトーンを落として、言った。 斑「ずっと、遊んでばかりもいられないっつーか…。いい加減遊んでんなよ、って自分でも思うんですよ………」 花「そうかな?」 斑「え?」 斑目は花本さんの顔を見た。 花「いられる限り、そこにいたらいい。大事な場所があるのは幸せなことじゃないか? それがない人にとっちゃあ、羨ましくてたまらない状況だと思うよ」 花本さんはジョッキをテーブルに置きながら、そう言った。 花「すっかり遅くなっちまったな」 店員がラストオーダーを告げに来たので、店を出ることにした。 斑「なんか、すいません。話しこんじゃって」 花「いやいや、俺も面白かったし。斑目君があんなこと言う人だったなんてなー」 斑「!!………アレは忘れて下さい…(汗)」 花「あはは。まあここだけの秘密ってことでね。今度オゴってくれ」 斑「はい、喜んで……」 花「さて、タクシーでも拾うか。斑目君、確か家が会社の近くだったよな?」 斑「あ、そうです」 花「じゃあ…ここからだったら、俺んちに寄ってから、斑目君家までだな。俺先降りるから」 そう言って花本さんは手を挙げ、タクシーを一台つかまえる。 花「………じゃ、ここで降りるから」 斑「はい。今日はご馳走様でした。」 花「いやいや。あ、運転手さん、コレで。次の目的地まで足りるかな」 花本さんはそう言って万札を出す。 斑「あ!…いやここは俺が」 花「いいから。じゃ、また明日。おやすみ!」 花「はい、ありがとうございました………」 花本さんは軽く手を挙げて、歩いていった。 (………………………。) タクシーのドアがバタンと閉まり、再び走り始める。 一人になると急に、疲れていることを自覚して頭がぼうっとなる。 さっき花山さんに言われたことを思い出した。 『いられる限り、そこにいたらいい。大事な場所があるのは幸せなことじゃないか? それがない人にとっちゃあ、羨ましくてたまらない状況だと思うよ』 (………………………。) (いられる限り、か………。俺はいつまでいていいんだろうな………。 もうあそこにいる理由がないんだ…。) 今までの『理由』について考えた。 (だいたい理由って言っても、自分にしか分からない理由で…。 たまに部室で顔を見れたらそれでいいやって………そんだけのことで。 どうにかしたいとさえ思わなかったんだ。ずっと。 どうにかしたいって思っても、どーにもなんねーって分かってたし………。) あの二人のことを思い出す。 (だってなあ…割りこむ隙もなかったし。あの関係を壊したいとも思わなかったし。 …壊す度胸がないからって言い訳してんのか?いや、そうじゃない。本当に壊れて欲しくなかったんだ。 ………なんでだろ??) (『幼馴染み』という最強の称号には敵わんのだ。…オタクっぽい考え方だなー、我ながら) 少しおかしくなり、笑いそうになった。 (…そうか。事あるごとに見せつけられるあの二人の強い絆が、羨ましかったのかも知れんなあ…。 だから別れて欲しいって思わなかったのかも…。 でもそれってあの人が好きって気持ちと矛盾してないか?…矛盾してるな。 矛盾してっけどどっちも本音なんだな。) (………もしかしたら) (もしかしたら俺は、…『絆』そのものに憧れてるんじゃないだろうか?) タクシーはトンネルに差し掛かった。 空気の音が低くゴーー…と鳴り始める。 耳の奥が痛くなる。 寂しいと思った。 唐突にそんなことを思った。 …いや、いつも心のすみに漠然とあったような気がする。でも見ないようにしてきた。 そんな風に考えても仕方ないから。考えたら何か変わるわけでもないから。 それでも、今までは平気だったはずだ。 何で今は平気でいられないのか、分からない。 喉の奥がつかえたように重い。 望んでも手に入らないからだろうか。 最初から分かっていたはずだ。なのにどうして。 …いや、と反論する。 そもそも今まで自分から手を伸ばそうともしてこなかったじゃないか。それは、手を伸ばしても得られないときの事を考えると怖かったからだ。 傷つくのが怖かったからだ。 だから手を伸ばす素振りもしなかったのだ。 だから今まで望みもしなかったのだ。 いや違う、望みはあった。でもそれを深く考えようとしなかったのだ。直視しないようにしてきたのだ。 望んでも叶わないから。 …今まではそれでも平気だった。それなのに。 何でこんなに苦しいのだろうか。 …もう会えなくなって2ヶ月経つ。 会いたいと思う。でもそれは無理だ。会うための理由も手段もない。 それに、二人の邪魔をしたいとも思ってないのだ。 さっきから堂々巡りだ。同じ言葉ばかりが頭を回る。 酒のせいだろうか。頭がうまく働かない。 結局何が言いたいんだ?と自分に問いかける。 結局…。 望んだ、という自覚があるから辛いのかもしれない。 駄目だと分かっていても、手を伸ばす素振りもできなかったことを後悔しているのかも知れない。 …でも、もし仮に手を伸ばしたとしても、元々駄目だと分かっていたことだ、傷ついてもっと辛かったに違いない。 いや、いっそのこと傷ついたほうが良かったのかも知れない。きっぱり振られたほうが、今のこの中途半端な状況よりもマシだったのかも知れない。 …通過儀礼として。 ………迷惑だと分かっているのに?相手にとっては困るだけなのに? そうだ、そう思ったから結果としては正しかったのだ。 …分かっている。分かっているけど。 どっちにしても駄目なのなら、寂しいのが変わらないなら、言わなくて良かったんだ。きっと。 そのとき車がトンネルを抜けた。 トンネルを抜けても、今の自分には何も見えてこなかった。 ……………………… 次の日の昼休み、今日も斑目は大学に来ていた。 サークル棟の階段を上り始めたとき、後ろから声をかけられる。 朽「おぉうう!斑目先輩!!コニョニョチハ~~~!」 斑「…おう。今日も元気だネ、朽木君」 朽「僕はいつも元気100倍ですにょ!………と、言いたいとこですケド~~~、 最近はちょ~~~っとキツいです~…。就職活動に追われてるにょ………」 斑「ハハ、まー頑張れ。ていうか今のうちに頑張っとかねーと苦労するぞー、俺みたいに(笑)」 朽「おぉう、斑目先輩の二の舞。それだけはカンベン!!」 斑「………朽木君はいつも正直だネ。時々その首絞めたくなるな」 朽「それだけはカンベン!!」 …さて、部室では荻上さんと大野さんが何やら話し合っていた。 荻「………だから、斑目先輩は総受けなんですよ!」 大「う~~~ん、そうですねえ………確かにここ最近の斑目さんを見ていると、否定できないですねえ………」 荻「メガネ君は受けだからこそいいんです!エロエロな顔で苦痛に顔を歪めてるのがいいんです!!」 大「…でも、笹原さんを強気攻めにするのって、やっぱ彼氏だからなんでしょ~?キャーーー!!」 荻「ちっ、違います!わ、わたすがメガネ受けが基本だからです!」 斑・朽「………………………………………(汗)」 男二人は部室のすぐ外で固まっていた。 斑「…は、入りづら~~~………(汗)」 朽「斑目先輩、何だかモテモテにょ」 斑「こーゆーのはモテてるって言わない」 斑目は手に持っている弁当を見て、ため息をついた。 斑「…はあ。どうすっかなー。近くの公園で食うか………」 朽「斑目先輩が遠慮することないにょ、ボクチンがガツンと言ってくるにょー!」 何をガツンと言うんだ、と言おうとしたとき、朽木君は目の前の部室のドアをおもいきり勢いよく開けた。 バターン!!! 朽「そこのオフタリサン!斑目先輩をネタにするのはやめるにょ!セクハラだにょ!!」 斑「うわーーー!!(汗)」 大・荻「!!!!!!!!」 しばらくの沈黙。 斑「………や、やあ…。コンチハ………」 大「こ、こ、こんにちは!え、えーとえーと………(//////)」 荻「あっその、す、すいませ………………(//////)」 斑「え?な、何が?何喋ってたか全然聞こえんかったよー」 「………………………………」 再び沈黙。 (…やべ、外した) 全然フォローになっていないのであった。 朽「斑目さん何言ってるにょ??荻上さんと大野さんが、斑目先輩を総受け…」 斑「うん、いいから、空気読もうぜ朽木君」 荻「あのその、す、スイマセン」 斑「いやいや………」 気まずい空気のまま、弁当をごそごそ広げる斑目であった。                   END  続く。 おまけ4コマ的な。 【振ってみただけだから】 部室での微妙な空気を変えようと話題を振る斑目。 斑「そ、そういえば大野さんって就職、旅行会社とかで探してるんだっけ?」 大「え、ええ。あとは空港関係とか…。」 斑「………………朽木君は?」 朽「ボクチンですか?………秘密だにょ!!」 斑「…あっそういいけど別に」 朽「そんなに知りたいなら教えちゃうにょ~!」 斑「いやホントいいから、どうでも」 その2。 【足がついてないじゃないか】 会社にて。 花「斑目君、おはよう」 斑「あ、おはようございます。」 花「…ぷっ、クククク…………」 斑「? どーしたんスか?」 花「『仕事なんて飾り…』」 斑「わーーーーーーーー!!(汗)」 花「ハハハハ、ごめんごめん」 斑「もー、勘弁してくださいよーー(汗)」
*トンネル 【投稿日 2006/06/28】 **[[未来予想図]] 五月  *** その日、いつものように定時に会社を出ようとした斑目は、同僚に呼び止められた。 「いま帰り?」 斑「あ、花本さん。そうです…珍しいすね、この時間に会社戻ってきてるの」 声をかけてきた同僚は花本という作業員だった。 いつもは外で水道管の点検作業をしているので、昼間以降はほとんど顔を合わすことがない。朝会社に出勤したときに挨拶くらいはする、という程度の間柄である。 花「うん、今日は珍しく早く終わってさ。そうだ、これから飲みいかないか?」 斑「え?」 花「何か用事でもある?」 斑「いや、特にないです。」 花「じゃあ行こう。うまい焼き鳥屋知ってるんだ。」 そう言ってさっさとドアを開けて行ってしまう。斑目は慌てて後を追った。 こうして飲みに誘われたのは久しぶりだった。入社したばかりの時は何度か上司に誘われて行ったのだが、緊張しすぎてあんまり飲めず、やたら高そうな料理の味もよく分からなかった。 上司以外の同僚に誘われたのは今日が初めてだ。でも飲み屋に向かって歩く間、思ったほど緊張はしてなかった。 花本さんは話しやすい人で、気さくな感じの人だった。わりととおっとりした話し方をする。 30半ばで、確かまだ独身だったはずだ。 花「最近はだいぶ忙しさも落ち着いてきたからホッとしてるよ。」 斑「そうですねー。4月はけっこう電話かかってきてましたよね。」 花「4月はなぁ。毎年そうなんだよ、春になるとウチは工事が増えるからなー。一時期はかなりキツかった」 斑「外行ってる人はホント大変そーっすよね。いつ見ても疲れた顔されてましたもん」 花「アハハ」 花本さんは苦笑した。 焼き鳥屋に着き、とりあえず生中を頼んだ。 斑「俺、会社の人と飲みに来たの久しぶりです」 花「そうなの?」 斑「何度か課長に連れてってもらったんですけど、なんか妙に高いとこで、緊張して何食ったか覚えてないんですよ」 花「ああー、課長って言ったら、あそこの料亭か。俺も入社したばっかの頃連れて行かれたなー。」 斑「そーなんすか?」 花「そうそう。課長、ワンパターンなんだよ。新入社員入るたびに連れて行ってんのさ。」 斑「へええ…。」 そんな話をしているうちにつき出しと生中2つが運ばれて来た。 花「じゃ、乾杯しますか。」 斑「あ、じゃあ。」 言われるままにジョッキを合わせる。 「乾杯!」 花本さんが半分ほどを一気飲みした。 花「ふう!」 斑「いい飲みっぷりっすね」 花「喉渇いてたからねー。今日、外はやたら暑かったし。」 斑「ああ、そうっすよね。昼休みに外に出たら、日差しがキツくてびっくりしました。 まだ5月なのに、ここんとこ夏みたいな気候ですよね」 花「…そーいやさ、君、昼休みはどこ行ってんの?」 斑「え?」 ドキッとする。 花「なんか噂になってたよ。入社したときから、斑目君はいつも昼休みにいなくなるって。 何?近所に恋人がいて、会いに行ってたとか?」 斑目は飲んでいたビールを噴きそうになった。 斑「げほっ、げほ…い、いやそんなんじゃねーっすよ!」 ………当たってはいないが、ちょっと近い。ほんのちょっとだが。 花「何?慌てて。まさか図星か?」 斑「え、いや違いま……」 花「顔が赤くなってるぞ」 斑「いや違いますって!…あのですね、大学が近いんで、在学中に所属してたサークルの後輩の顔見に行ってたんですよ。それだけです。」 言いながら、嘘は言ってねーな俺、と思った。 花「え?君、椎応大なの?」 斑「そーです」 花「へえ、俺の知り合いにも椎応の奴がいてさあ。サークルって何のサークル?」 斑「…現視研っていうサークルです」 花「現視研??聞いたことないな。どんなサークル?」 斑「えーと…漫画とか、ゲームとか研究してるサークルですけど」 花「ん?漫研みたいなモン?」 斑「いや、漫研は別にあるんですけど。俺らはあんまり漫画描いたりしてなかったんで。 描きたい人だけ描くって感じで。ていうかずっと部室でゲームしたりして遊んでました。」 花「ふーん?よくわからんけど、楽しそうだなあ」 そう言ってるうちに注文していた料理が来た。 花「お、来た来た。ここのねぎまはでかいだろ」 斑「あ、ホントですねー」 …内心、話がそれたことにホッとしていた。 花「…ところでさ、サークルでどんな話してたの?」 斑「え?」 花「俺、学生の頃は漫研とか、あんまり縁がなかったからさ。オタクな人って、どんな話で盛り上がるのかと思ってさ」 斑「え、えーっと………そうですね。最近のアニメとか、漫画の話とか」 花「ふうん、最近のアニメ…?」 斑「いや、昔のアニメとかも。…ガンダムとか。」 花「ガンダム!!懐かしいなあ!」 花本さんは急に声が大きくなった。 花「子供のとき、すごい夢中で見てたんだよ!」 斑「ああ、花本さんはモロにガンダム世代ですもんね」 話が弾み始めた。そのうちにジョッキも空き、追加注文をする。 斑「やっぱ富野監督のガンダムっすよ!」 花「俺はファースト以外認めん!」 斑「…それは極端な意見っすね。Zも駄目っすか」 花「つーか、ファーストしか見てないから。あとガンダムの劇場版は見に行ったけど。」 斑「へえ、そりゃもったいないっすよ。面白いのに」 だんだん酒も進む。 花「にしても、そんな話でずっと盛り上がれていいなあ。ちょっと羨ましいな」 斑「ずーっと遊んでましたからね。皆で格闘ゲームで対戦したり。」 花「そりゃ、昼休みに部室に行きたくなるワケだ」 斑「………仕事なんて飾りです!偉い人にはそれがわからんのです!」 斑目は急に拳を握り、言い放った。 花「…おおーい、上司の前でそんな事言うなよ?(汗)」 斑「ジーク、ジオン!!」 花「斑目君、酔っ払ってる?」 斑「そんなことないっスよ~。…だがあえて言おう、酔っ払ってると!!」 花「どっちだよ(笑)」 …ちょっと飲みすぎたらしい。 斑「…でも、そろそろ行くのも止めなきゃいけないんですけどね………」 斑目は少し声のトーンを落として、言った。 斑「ずっと、遊んでばかりもいられないっつーか…。いい加減遊んでんなよ、って自分でも思うんですよ………」 花「そうかな?」 斑「え?」 斑目は花本さんの顔を見た。 花「いられる限り、そこにいたらいい。大事な場所があるのは幸せなことじゃないか? それがない人にとっちゃあ、羨ましくてたまらない状況だと思うよ」 花本さんはジョッキをテーブルに置きながら、そう言った。 花「すっかり遅くなっちまったな」 店員がラストオーダーを告げに来たので、店を出ることにした。 斑「なんか、すいません。話しこんじゃって」 花「いやいや、俺も面白かったし。斑目君があんなこと言う人だったなんてなー」 斑「!!………アレは忘れて下さい…(汗)」 花「あはは。まあここだけの秘密ってことでね。今度オゴってくれ」 斑「はい、喜んで……」 花「さて、タクシーでも拾うか。斑目君、確か家が会社の近くだったよな?」 斑「あ、そうです」 花「じゃあ…ここからだったら、俺んちに寄ってから、斑目君家までだな。俺先降りるから」 そう言って花本さんは手を挙げ、タクシーを一台つかまえる。 花「………じゃ、ここで降りるから」 斑「はい。今日はご馳走様でした。」 花「いやいや。あ、運転手さん、コレで。次の目的地まで足りるかな」 花本さんはそう言って万札を出す。 斑「あ!…いやここは俺が」 花「いいから。じゃ、また明日。おやすみ!」 花「はい、ありがとうございました………」 花本さんは軽く手を挙げて、歩いていった。 (………………………。) タクシーのドアがバタンと閉まり、再び走り始める。 一人になると急に、疲れていることを自覚して頭がぼうっとなる。 さっき花山さんに言われたことを思い出した。 『いられる限り、そこにいたらいい。大事な場所があるのは幸せなことじゃないか? それがない人にとっちゃあ、羨ましくてたまらない状況だと思うよ』 (………………………。) (いられる限り、か………。俺はいつまでいていいんだろうな………。 もうあそこにいる理由がないんだ…。) 今までの『理由』について考えた。 (だいたい理由って言っても、自分にしか分からない理由で…。 たまに部室で顔を見れたらそれでいいやって………そんだけのことで。 どうにかしたいとさえ思わなかったんだ。ずっと。 どうにかしたいって思っても、どーにもなんねーって分かってたし………。) あの二人のことを思い出す。 (だってなあ…割りこむ隙もなかったし。あの関係を壊したいとも思わなかったし。 …壊す度胸がないからって言い訳してんのか?いや、そうじゃない。本当に壊れて欲しくなかったんだ。 ………なんでだろ??) (『幼馴染み』という最強の称号には敵わんのだ。…オタクっぽい考え方だなー、我ながら) 少しおかしくなり、笑いそうになった。 (…そうか。事あるごとに見せつけられるあの二人の強い絆が、羨ましかったのかも知れんなあ…。 だから別れて欲しいって思わなかったのかも…。 でもそれってあの人が好きって気持ちと矛盾してないか?…矛盾してるな。 矛盾してっけどどっちも本音なんだな。) (………もしかしたら) (もしかしたら俺は、…『絆』そのものに憧れてるんじゃないだろうか?) タクシーはトンネルに差し掛かった。 空気の音が低くゴーー…と鳴り始める。 耳の奥が痛くなる。 寂しいと思った。 唐突にそんなことを思った。 …いや、いつも心のすみに漠然とあったような気がする。でも見ないようにしてきた。 そんな風に考えても仕方ないから。考えたら何か変わるわけでもないから。 それでも、今までは平気だったはずだ。 何で今は平気でいられないのか、分からない。 喉の奥がつかえたように重い。 望んでも手に入らないからだろうか。 最初から分かっていたはずだ。なのにどうして。 …いや、と反論する。 そもそも今まで自分から手を伸ばそうともしてこなかったじゃないか。それは、手を伸ばしても得られないときの事を考えると怖かったからだ。 傷つくのが怖かったからだ。 だから手を伸ばす素振りもしなかったのだ。 だから今まで望みもしなかったのだ。 いや違う、望みはあった。でもそれを深く考えようとしなかったのだ。直視しないようにしてきたのだ。 望んでも叶わないから。 …今まではそれでも平気だった。それなのに。 何でこんなに苦しいのだろうか。 …もう会えなくなって2ヶ月経つ。 会いたいと思う。でもそれは無理だ。会うための理由も手段もない。 それに、二人の邪魔をしたいとも思ってないのだ。 さっきから堂々巡りだ。同じ言葉ばかりが頭を回る。 酒のせいだろうか。頭がうまく働かない。 結局何が言いたいんだ?と自分に問いかける。 結局…。 望んだ、という自覚があるから辛いのかもしれない。 駄目だと分かっていても、手を伸ばす素振りもできなかったことを後悔しているのかも知れない。 …でも、もし仮に手を伸ばしたとしても、元々駄目だと分かっていたことだ、傷ついてもっと辛かったに違いない。 いや、いっそのこと傷ついたほうが良かったのかも知れない。きっぱり振られたほうが、今のこの中途半端な状況よりもマシだったのかも知れない。 …通過儀礼として。 ………迷惑だと分かっているのに?相手にとっては困るだけなのに? そうだ、そう思ったから結果としては正しかったのだ。 …分かっている。分かっているけど。 どっちにしても駄目なのなら、寂しいのが変わらないなら、言わなくて良かったんだ。きっと。 そのとき車がトンネルを抜けた。 トンネルを抜けても、今の自分には何も見えてこなかった。 ……………………… 次の日の昼休み、今日も斑目は大学に来ていた。 サークル棟の階段を上り始めたとき、後ろから声をかけられる。 朽「おぉうう!斑目先輩!!コニョニョチハ~~~!」 斑「…おう。今日も元気だネ、朽木君」 朽「僕はいつも元気100倍ですにょ!………と、言いたいとこですケド~~~、 最近はちょ~~~っとキツいです~…。就職活動に追われてるにょ………」 斑「ハハ、まー頑張れ。ていうか今のうちに頑張っとかねーと苦労するぞー、俺みたいに(笑)」 朽「おぉう、斑目先輩の二の舞。それだけはカンベン!!」 斑「………朽木君はいつも正直だネ。時々その首絞めたくなるな」 朽「それだけはカンベン!!」 …さて、部室では荻上さんと大野さんが何やら話し合っていた。 荻「………だから、斑目先輩は総受けなんですよ!」 大「う~~~ん、そうですねえ………確かにここ最近の斑目さんを見ていると、否定できないですねえ………」 荻「メガネ君は受けだからこそいいんです!エロエロな顔で苦痛に顔を歪めてるのがいいんです!!」 大「…でも、笹原さんを強気攻めにするのって、やっぱ彼氏だからなんでしょ~?キャーーー!!」 荻「ちっ、違います!わ、わたすがメガネ受けが基本だからです!」 斑・朽「………………………………………(汗)」 男二人は部室のすぐ外で固まっていた。 斑「…は、入りづら~~~………(汗)」 朽「斑目先輩、何だかモテモテにょ」 斑「こーゆーのはモテてるって言わない」 斑目は手に持っている弁当を見て、ため息をついた。 斑「…はあ。どうすっかなー。近くの公園で食うか………」 朽「斑目先輩が遠慮することないにょ、ボクチンがガツンと言ってくるにょー!」 何をガツンと言うんだ、と言おうとしたとき、朽木君は目の前の部室のドアをおもいきり勢いよく開けた。 バターン!!! 朽「そこのオフタリサン!斑目先輩をネタにするのはやめるにょ!セクハラだにょ!!」 斑「うわーーー!!(汗)」 大・荻「!!!!!!!!」 しばらくの沈黙。 斑「………や、やあ…。コンチハ………」 大「こ、こ、こんにちは!え、えーとえーと………(//////)」 荻「あっその、す、すいませ………………(//////)」 斑「え?な、何が?何喋ってたか全然聞こえんかったよー」 「………………………………」 再び沈黙。 (…やべ、外した) 全然フォローになっていないのであった。 朽「斑目さん何言ってるにょ??荻上さんと大野さんが、斑目先輩を総受け…」 斑「うん、いいから、空気読もうぜ朽木君」 荻「あのその、す、スイマセン」 斑「いやいや………」 気まずい空気のまま、弁当をごそごそ広げる斑目であった。                   END  続く。 おまけ4コマ的な。 【振ってみただけだから】 部室での微妙な空気を変えようと話題を振る斑目。 斑「そ、そういえば大野さんって就職、旅行会社とかで探してるんだっけ?」 大「え、ええ。あとは空港関係とか…。」 斑「………………朽木君は?」 朽「ボクチンですか?………秘密だにょ!!」 斑「…あっそういいけど別に」 朽「そんなに知りたいなら教えちゃうにょ~!」 斑「いやホントいいから、どうでも」 その2。 【足がついてないじゃないか】 会社にて。 花「斑目君、おはよう」 斑「あ、おはようございます。」 花「…ぷっ、クククク…………」 斑「? どーしたんスか?」 花「『仕事なんて飾り…』」 斑「わーーーーーーーー!!(汗)」 花「ハハハハ、ごめんごめん」 斑「もー、勘弁してくださいよーー(汗)」

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