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*カレーライス 【投稿日 2006/06/22】 **[[未来予想図]] クッチーは疲れていた。 4月からようやく始めた就職活動と大学の授業で、体力だけには自身があったのだがさすがに疲れていた。 朽「にょ~…。」 荻「…大丈夫ですか?」 夕方、朽木君は珍しく部室の机の上で伸びていた。 心配になった荻上さんが声をかける。 朽「む~。毎日色々考え過ぎて頭が痛い…。体は別に平気なんだけど~…。」 疲れすぎていつもの変な口調も出ないようだ。 朽「単位取らないと卒業できないし…。さすがに留年はまずいにょ…。」 荻「自業自得とは思いますが…でも、いつもの朽木先輩らしくなくてちょっと心配です。」 朽「うう…オギチンに心配って言って貰えると…早くいつものクッチーこと朽木学に復活しないと!!」 カラ元気を出し、がばっと起き上がる。 荻「いや復活しないでいいです。なんならずっと今くらい忙しくしてて下さい。」 荻上さんにバッサリ言われてしまう。 朽「にょ~~~…」 再びへたる朽木君。 荻「…でも先輩、最近本当によくやってると思いますよ。昔に比べれば。」 荻上さんがフォローを入れる。 荻「人の話落ち着いて聞けるようになったし。偉いモンですよ。」 朽「…小学生デスカ、ワタクシ。…いや、でも本当のことだからにょ…」 荻「それに、周りの空気を読めるようになったじゃないですか。一人で騒いだりしなくなったし。」 朽「え?」 それは疲れていて騒ぐ気力がないだけなのだが、荻上さんはこんな話をし始めた。 荻「朽木先輩と、以前の私は…似てるんですよ」 朽「…ほぇ!?どこがデスカ??全然似てないにょ。ボクチン、荻上さんみたいに目が大きくないにょ」 荻「いえ、顔じゃないですよ(汗)…現視研に来る経緯とか、似てると思ったんですよ。私も先輩も、前にいたサークルを半ば追い出されるようにしてここに来たじゃないですか。」 朽「む、ボクチンは追い出されてないにょ!アニ研じゃ誰も僕を分かってくれなくて、逆ギレ勝負を挑んだら丁重に他のサークルを薦められただけにょ!!」 荻「それを追い出されたって言うんですよ」 朽「む、そーなのか」 荻「…最近、あの頃の自分を振り返ってみるんです。そうしたら、なんとなく朽木先輩のことも分かったような気がして」 朽「?どーゆーことかにゃ?」 荻「…寂しかったんです」 朽「…?」 荻「ずっと、自分がいてもいいところを探してたんです。でも、私はコンプレックスや変なプライドや、不器用さから、どこにいってもうまくいかなかった。孤立して、でも孤立している時は寂しくない、平気だと自分に言い聞かせてたんです。 でも本当は辛かった。…だから、そのモヤモヤを周りにぶつけてたんです。周りを攻撃することで自分を守ってたんです。…そうやって、また周りと溝を作る。悪循環でした。」 朽「………………。」 荻「だから、現視研に来たときもなかなか素直になれなかった。 また攻撃的になって、周りを引かせるようなことばかり言ってました。…我ながらイタいヤツでした。 でも誰も私を追い出そうとしなかった。だからここにいた。 …そのうち、ここに入り浸るようになりました。それから春日部先輩や大野先輩と話せるようになりました。 他の先輩や、…そして笹原さんとも。 私は………。」 荻上さんはいったん言葉を切った。 荻「…私は、ずっと誰かに『かまって』欲しかったんです。自分がかまってもらうことばかり考えていた気がします。本当は。 誰かに受け入れてもらうことばかり…。 でも怖くて、素直になれなくて、逆に拒絶して、周りを振り回してました。 …でもある時、この場所が自分にとっていかに大事な場所になっていたか悟ったとき、なんだか自分が情けなくなりました。」 朽「…むむ?情けないって何デ?」 荻「…自分のことばっかり考えてて、他の人の気持ちとか、思いとか、考えてなかったんです。 だから平気で人を傷つけるようなことが言えたんです。 『オタクが嫌い』だとか…私にそんなこと言う資格なんかなかったのに………。」 荻上さんは俯いた。 荻「そう気づいて、自分が今いかに恵まれているか分かったんです。こんな自分でもいていい場所があって、大切な人たちがいて…。 だから、自分を変えたいと思いました。攻撃的で悲しい自分を変えて、もっと人を思いやれるようにならないと、 大切な人たちに申し訳ない気がして。 …そして、自分もそんな周りの人たちの役に立てるように。少しでも、受けた恩を返せるように。」 朽「………………フーン…。」 (オギチン、そんな風に思ってたのかぁ…。) 荻「…で、以前の私と朽木先輩が似てるってさっき言いましたけど」 朽「へ?」 荻「…朽木先輩もそうなのかなって思ったんです。誰かに『かまって』欲しいんだけど、自分がかまってもらうことばかり考えてたんじゃないのかな、って。 でもうまくいかなくて、周りを振り回してるんじゃないかって。 私は素直じゃなかったけど、朽木先輩は逆に素直すぎて駄目なんじゃないですかね?一方通行なんですよ。 自分のことばっかりで、他の人の気持ちとか考えてないから、うまくいかないんじゃないですか?」 朽「………………………。」 荻「もっと相手のことを知りたい、分かりたいって思ってたら、人の話を聞こうと思うようになります。 そうしてたら自然に相手の人と仲良くなってるモノなんですよ。」 朽「………………………。」 荻「…偉そうに言ってすいません。 でも、もし朽木先輩がこの場所を大事に思っているのなら、私たちを仲間と思っているのなら、一度そういう風に考えてみて欲しいんです。」 朽「………オギチンはどーゆー人なのかにゃ~??」 荻「え?」 朽木君はいきなり聞いた。 朽「オギチン、今言ったでしょ。相手のことを知りたかったら、話を聞けって。 で、オギチンはどーゆー人なの?」 荻「…ええ~~?い、いきなり聞かれても…、そ、そうですね。わたすっていつも偉そうっすよね、先輩相手に」 朽「そーだね!!もっとボクチンを敬うのダ!」 荻「無理です。ていうかもっと敬えるような人になって下さい。」 朽「うわ、キツいツッコミ!!アハハハハ!」 荻「…じゃあ、朽木先輩はどーゆー人なんスか」 朽「ボク??…ボクは自分のこと、よく分かってるつもりにょ~~。ちょっと個性的で前衛的なんで、ボクチンのナイスアドリブに世間がついてこれない! 周りが理解してくれない!」 荻「ちょっとどころじゃないッスよ。それに、裏を返せば朽木先輩がズレてるから世間を納得させられないだけじゃないスか」 拳をつくり力説する朽木君にツッコミを入れる荻上さん。 朽「オギチンはネガティブだにゃ~~。もっとポジティブに生きなヨ!!」 荻「度を越したポジティブは思考停止とどう違うんですか?」 朽「む?思考停止??それって駄目なの???」 荻「…もーちょっと考えたほうがいいと思いますよ。それに、思考停止して何かが好転するんですか?」 朽「考えすぎて悪いほーに転がってったんじゃないのカナ、オギチンは?」 荻「う、反論できね…(汗)」 朽「オギチンに理屈で勝ったにょ!ヒャッホウ!!」 荻「勝ったからどーだって言うんですか(怒)」 朽「う、そんな睨まないでにょ~…。ボクチンだって、色々考えてるんだにょ~」 荻「どんなこと考えてるんですか?」 朽「さっきオギチンが言ったみたいに、ボクチンだってこの場所が大事だと思ってるにょ。」 荻「…そうですか。」 朽「ボクチンみたいなちょこっと個性的な人がいてもいい場所があるのは助かってるし。 だから空気読むとか苦手なコトでも、苦手とか言ってられないって思ってるし。オギチンや大野先輩も大事な仲間だと思ってるし。」 荻「………そう、ですか。」 朽「だから、今さら…」 荻「良かったです」 朽「え??」 朽木君が荻上さんの顔を見ると、荻上さんは少し俯きがちになっていたが、口元が少し笑っていた。 荻「朽木先輩がそう思っていてくれて…良かったです。ホッとしました」 そう言って顔を上げた。少し赤くなった顔には笑みを浮かべていた。 朽「………………………………………………………。」 朽木君はびっくりしていた。 荻「…どーしたんですか?」 朽「へ!?…いや、オギチンが笑いかけてくれるのなんて初めてじゃないかナ??」 荻「そうですか?」 朽「いやそーでしょ。昔、顔合わせたとたん舌打ちされたことあるにょ!」 荻「…そんなことしましたっけ私」 朽「うわ、忘れてるにょ!?『チッ!!』て、聞こえよがしに舌打ちして出て行ったにょ!確か去年の新歓の時!!」 荻「…そんなコト言ったら、朽木先輩に私、初対面で殴られたんですけど!」 朽「ヘ??そんなことしたかにゃ?」 荻「しましたよ!!ていうか朽木先輩こそ忘れてるんですか!?他にも色々…盗撮されたり!人のプライベートを!」 朽「まあまあ、あれは結果オーライじゃないかにゃ?どのみちそーゆー趣味があるってバレるのは時間の問題だったワケだしー」 荻「そーゆー問題ですか!盗撮自体に問題があるって言ってんですよ!!」 朽「む~。じゃあ今度は声かけてから撮るにょ」 荻「…撮らないで下さいって言ったら、引き下がってくれます?」 朽「そこで引いたら漢がすたるにょ!!」 荻「だから駄目なんですよ!(怒)」 朽「にょ~~~。人に合わせるのって、むずかしいにょ~~~…。」 荻「…でも、こうして朽木先輩と普通に話してるのって初めてッスよね。というかマトモに話せたんですね朽木先輩」 朽「…オギチンはボクを何だと思ってたんだにょ?」 荻「異性人…?」 朽「地球外生物扱い!?まさかそー来るとわ!!!(汗)」 荻「アハハハ…冗談ですよ、半分」 朽「なーんだアハハ…って半分本気!?オギチーン!!」 荻「あははは、はは…!」 荻上さんはずっと笑っていた。 その時、荻上さんの携帯が振動を始めた。 荻「あ、笹原さんから…」 荻上さんは通話ボタンを押した。 荻「はい、はい。………あ、そうなんですか?いえ…今日は遅くなるって聞いてたから。ああ、そうなんですか。 いえ大丈夫です。はい、はい、じゃまた後で………」 電話を切った。電話でのそっけない口調とは裏腹に、顔は少し緩んでいる。 朽「オギチン、帰るのかにょ?」 荻「ええ、笹原さんが今日は早く家に来れるようになったらしいんで。」 朽「フーン。」 荻「朽木先輩はどうします?もう出ますか?」 朽「いや、僕はもー少しここにいるにょ。」 荻「わかりました。最後カギかけといて下さいね。」 そう言って荻上さんは部室のドアを開け、出て行った。 恵「お、ちゅーす。」 荻「あ、…ども。」 荻上さんが帰ろうとして廊下に出た数分後、恵子とばったり会った。 相変わらず派手な格好をして、化粧も濃い。 恵「ん、今帰るとこなんだ?お姉ちゃん」 荻「…お姉ちゃんはやめて下さい。帰るトコです。」 恵「んーそっか、今部室に誰かいるー?」 荻「朽木先輩ならいますけど」 恵「あいつか…うーん、せっかく来たんだけどなー…」 恵子は考え込むように顔を横に向けた。 荻「…恵子さん、もう来ないと思ってました。高坂先輩とか春日部先輩が卒業したから」 恵「ん?それはもー部室に来んなってことっすか?」 荻「え、いや、そういう意味で言ったんじゃないっす。」 恵「あ、そー。まーいいけどさー。何でお姉ちゃん、敬語なの?年上なのにィー」 荻「いつものクセです。だからお姉ちゃんはやめてと…」 恵「ふーん。ていうかー、じゃあ何て呼んだらいいわけ??」 荻「えーと…ふ、普通に」 恵「普通?荻上ーとか?えーつまんねーなー。あっ、オギッペは?前に春日部ねーさんが呼んでたし」 荻「…どっちでもいいです。」 恵「じゃーオギッペね。ワタシのこともさ、恵子でいーし。呼び捨てでさ」 荻「え、よ、呼び捨てっすか?」 荻上さんの顔が少し赤くなる。 恵「えー何照れてんの、オギッペ。うわ、カワイーー!!」 荻「か、からかわねーで下さい!そんじゃわたすはこれで!」 焦ってなまりが出てしまう荻上さん。 ニヤニヤしながら、荻上さんの走ってゆく後姿を眺める恵子。 廊下を走りながら、荻上さんは考えていた。 (呼び捨てかァ………こういうのって中学生ん時以来だァ………) 口元がほころびそうになるのを必死で抑えていた。 部室では朽木君が、珍しく色々考え込んでいた。 (ウームム…他の人の気持ちを考えてないから、かあ………。一方通行かあ…。 ボクチンなりにちょっとは考えてたつもりなんですがのう?いつも読みが外れたりするにょ。 いや、うーん…そんなに深く考えてはなかったのかにょ? でもどーせ他人の思ってることなんてその本人にしかわからないしのう。 だいたいボクチンはそーゆーの苦手なんだよ。) (………って、さっきまではそう思ってたにょ。 でも………うーん………) さっき荻上さんが笑ったのを思い出した。 自分が思ってたことをそのまま言っただけなのだが、喜んでくれた。珍しいことだ。 (さっき何て言ったっけ?「大事な仲間」って言ったんだったっけ。 いやでも、あれ言ったのはオギチンが「私達を仲間と思ってくれているのなら…」って、言ったからにょ。) (んで、オギチンが「安心しました」って笑ってくれたんだにょ。 それで、何だか………。 こっちもホッとしたんだにょ。) (ふむ、これが「他の人の気持ちをナントカ」ってやつなんですかね? ムム、そーかあ………。) そこまで考えたとき、部室のドアがノックされずにいきなり開いた。 恵「ちわ!」 朽「あ、笹原先輩の妹サンだ」 恵「…そーだけど。笹原の妹はやめろよなー。恵子って名前があるんだからさ。ていうかー、アイサツしてんだからアイサツで返せば?」 急に不機嫌になる恵子。 朽「はあ。恵子サン」 恵「何?」 朽「1回呼んでみただけにょ」 恵「あっそう」 恵子は近くの椅子に座った。まだ機嫌は直らない。 恵「あーあー、つまんねー!せっかく来たのに、オギッペ帰っちゃうしさー。あんたしかいないしさー」 朽「大野先輩は就職活動で忙しいにょ。ボクチンもだけど」 恵「フーン………あんた就職活動してんだ」 朽「してるにょ」 恵「………ワタシもなんだけどさぁ」 朽「そーなんデスカ??」 恵「専門学校、去年の秋に中退しちゃったからさー。勉強つまんなかったし、いいんだけどー! でもそろそろさぁ、仕事探さないとさー。このままバイトっつーのもさー…」 恵子は小さくため息をついた。 朽「何かバイトしてるのかにょ?」 恵「今は居酒屋のバイトしてるけど。でもずっとそこってワケにはいかないしィ。 あーもう、考えるのめんどくせー!」 そう叫んで机にガバッと伏せた。 朽「考えるのめんどくさいのはボクチンもにょ~~。エントリーとかイチイチめんどくさいにょ!何で面接が3次まであるにょ! いっぺんで終わらせて欲しいにょ!何で不採用の通知に1週間もかかるにょ~!」 恵「へー、そーなんだ…」 朽「ム、就職活動やったことないにょ??」 恵「そーゆーちゃんとしたのはやったことない。バイトの面接だったらもっと簡単だしィ」 朽「フーン」 恵「でもなかなか決まらないんでしょー?兄貴も大変そうだったしー」 朽「まだまだ就職難ですからにょ……」 恵「あーもう、働きたくねー!」 朽「働きたくねーーー!」 恵「でもプーもヤなんだよねー」 朽「ボクチンも就職浪人は嫌だにょ!」 ………妙なところで息が合った二人であった。 (…とは言っても。ホントにどーしよ…) 恵子は悩んでいた。部室を後にし、兄貴の家に向かっているところだった。 兄貴に連絡したら、「今日は俺、荻上さんのとこに行くから好きに使え」…とメールで返信が来たのだった。 普段兄貴や周りの人に将来のことを聞かれたときには軽く受け流していたが、これからの自分のこと、将来のことについてやっぱり不安がある。 今まで好きなようにやってきて、深く考えずに行動していた過去の自分。 …いや、考えないといけないことをずっと先延ばしにしてきたのだった。 最近、たまに家帰ると、放任主義の親にもさりげなく聞かれる。「どうするつもりなのか」…と。 (『どうするつもりか』って………。わかんねーよ。そんなんこっちが聞きたいっつの。どーしたらいい?って。 どーせ自分のことは自分で考えろ、とかありきたりなことしか言われねーんだろーけどさー………。) (………………………) (特に何がしたい、ってのがないから困るんじゃん………。具体的なモンがないから………。) 春日部ねーさんのことを考える。 (…ねーさんはカッコいいよなあー…。自分のやりたいことがあって、それに対してサクサク行動してさー。 自分の店まで持っちゃってさー。あんなカッコいい彼氏までいてさー。) 高坂さんのことは今でも好きだが(やっぱ男は顔でしょ) …でも今はむしろ、春日部ねーさんと仲良くなれたことの方が良かったと思える。 (そだ、春日部ねーさんに会いいこっかな。ねーさんならちゃんと話きーてくれそーだし。うん。店行ってみよー。 閉店してからなら話す時間あるっしょ。) 心を決めたときの恵子の行動は早い。さっさと目的地を変更して、駅から新宿行きの切符を買ったのだった。 END  続く。 オマケ 荻上さん宅にて。 笹「こんばんは。」 荻「こんばんは。…どうぞ。」 笹「あ、ごはん作ってくれたんだね。」 荻「ええまあ、待ってる間時間があったんで…」 笹「………またカレー…(ぼそり)」 荻「…嫌なら食べなくていーです」 笹「え、い、嫌だなんて!俺カレー好きだし!ありがとう荻上さん!」 荻「…言い方がわざとらしいです」 笹「いやホントに!………………この前の肉じゃがよりは………………」 荻「何か言いました?」 笹「え?いや何でもないよ?あははは………」
*カレーライス 【投稿日 2006/06/22】 **[[未来予想図]] 四月  *** クッチーは疲れていた。 4月からようやく始めた就職活動と大学の授業で、体力だけには自身があったのだがさすがに疲れていた。 朽「にょ~…。」 荻「…大丈夫ですか?」 夕方、朽木君は珍しく部室の机の上で伸びていた。 心配になった荻上さんが声をかける。 朽「む~。毎日色々考え過ぎて頭が痛い…。体は別に平気なんだけど~…。」 疲れすぎていつもの変な口調も出ないようだ。 朽「単位取らないと卒業できないし…。さすがに留年はまずいにょ…。」 荻「自業自得とは思いますが…でも、いつもの朽木先輩らしくなくてちょっと心配です。」 朽「うう…オギチンに心配って言って貰えると…早くいつものクッチーこと朽木学に復活しないと!!」 カラ元気を出し、がばっと起き上がる。 荻「いや復活しないでいいです。なんならずっと今くらい忙しくしてて下さい。」 荻上さんにバッサリ言われてしまう。 朽「にょ~~~…」 再びへたる朽木君。 荻「…でも先輩、最近本当によくやってると思いますよ。昔に比べれば。」 荻上さんがフォローを入れる。 荻「人の話落ち着いて聞けるようになったし。偉いモンですよ。」 朽「…小学生デスカ、ワタクシ。…いや、でも本当のことだからにょ…」 荻「それに、周りの空気を読めるようになったじゃないですか。一人で騒いだりしなくなったし。」 朽「え?」 それは疲れていて騒ぐ気力がないだけなのだが、荻上さんはこんな話をし始めた。 荻「朽木先輩と、以前の私は…似てるんですよ」 朽「…ほぇ!?どこがデスカ??全然似てないにょ。ボクチン、荻上さんみたいに目が大きくないにょ」 荻「いえ、顔じゃないですよ(汗)…現視研に来る経緯とか、似てると思ったんですよ。私も先輩も、前にいたサークルを半ば追い出されるようにしてここに来たじゃないですか。」 朽「む、ボクチンは追い出されてないにょ!アニ研じゃ誰も僕を分かってくれなくて、逆ギレ勝負を挑んだら丁重に他のサークルを薦められただけにょ!!」 荻「それを追い出されたって言うんですよ」 朽「む、そーなのか」 荻「…最近、あの頃の自分を振り返ってみるんです。そうしたら、なんとなく朽木先輩のことも分かったような気がして」 朽「?どーゆーことかにゃ?」 荻「…寂しかったんです」 朽「…?」 荻「ずっと、自分がいてもいいところを探してたんです。でも、私はコンプレックスや変なプライドや、不器用さから、どこにいってもうまくいかなかった。孤立して、でも孤立している時は寂しくない、平気だと自分に言い聞かせてたんです。 でも本当は辛かった。…だから、そのモヤモヤを周りにぶつけてたんです。周りを攻撃することで自分を守ってたんです。…そうやって、また周りと溝を作る。悪循環でした。」 朽「………………。」 荻「だから、現視研に来たときもなかなか素直になれなかった。 また攻撃的になって、周りを引かせるようなことばかり言ってました。…我ながらイタいヤツでした。 でも誰も私を追い出そうとしなかった。だからここにいた。 …そのうち、ここに入り浸るようになりました。それから春日部先輩や大野先輩と話せるようになりました。 他の先輩や、…そして笹原さんとも。 私は………。」 荻上さんはいったん言葉を切った。 荻「…私は、ずっと誰かに『かまって』欲しかったんです。自分がかまってもらうことばかり考えていた気がします。本当は。 誰かに受け入れてもらうことばかり…。 でも怖くて、素直になれなくて、逆に拒絶して、周りを振り回してました。 …でもある時、この場所が自分にとっていかに大事な場所になっていたか悟ったとき、なんだか自分が情けなくなりました。」 朽「…むむ?情けないって何デ?」 荻「…自分のことばっかり考えてて、他の人の気持ちとか、思いとか、考えてなかったんです。 だから平気で人を傷つけるようなことが言えたんです。 『オタクが嫌い』だとか…私にそんなこと言う資格なんかなかったのに………。」 荻上さんは俯いた。 荻「そう気づいて、自分が今いかに恵まれているか分かったんです。こんな自分でもいていい場所があって、大切な人たちがいて…。 だから、自分を変えたいと思いました。攻撃的で悲しい自分を変えて、もっと人を思いやれるようにならないと、 大切な人たちに申し訳ない気がして。 …そして、自分もそんな周りの人たちの役に立てるように。少しでも、受けた恩を返せるように。」 朽「………………フーン…。」 (オギチン、そんな風に思ってたのかぁ…。) 荻「…で、以前の私と朽木先輩が似てるってさっき言いましたけど」 朽「へ?」 荻「…朽木先輩もそうなのかなって思ったんです。誰かに『かまって』欲しいんだけど、自分がかまってもらうことばかり考えてたんじゃないのかな、って。 でもうまくいかなくて、周りを振り回してるんじゃないかって。 私は素直じゃなかったけど、朽木先輩は逆に素直すぎて駄目なんじゃないですかね?一方通行なんですよ。 自分のことばっかりで、他の人の気持ちとか考えてないから、うまくいかないんじゃないですか?」 朽「………………………。」 荻「もっと相手のことを知りたい、分かりたいって思ってたら、人の話を聞こうと思うようになります。 そうしてたら自然に相手の人と仲良くなってるモノなんですよ。」 朽「………………………。」 荻「…偉そうに言ってすいません。 でも、もし朽木先輩がこの場所を大事に思っているのなら、私たちを仲間と思っているのなら、一度そういう風に考えてみて欲しいんです。」 朽「………オギチンはどーゆー人なのかにゃ~??」 荻「え?」 朽木君はいきなり聞いた。 朽「オギチン、今言ったでしょ。相手のことを知りたかったら、話を聞けって。 で、オギチンはどーゆー人なの?」 荻「…ええ~~?い、いきなり聞かれても…、そ、そうですね。わたすっていつも偉そうっすよね、先輩相手に」 朽「そーだね!!もっとボクチンを敬うのダ!」 荻「無理です。ていうかもっと敬えるような人になって下さい。」 朽「うわ、キツいツッコミ!!アハハハハ!」 荻「…じゃあ、朽木先輩はどーゆー人なんスか」 朽「ボク??…ボクは自分のこと、よく分かってるつもりにょ~~。ちょっと個性的で前衛的なんで、ボクチンのナイスアドリブに世間がついてこれない! 周りが理解してくれない!」 荻「ちょっとどころじゃないッスよ。それに、裏を返せば朽木先輩がズレてるから世間を納得させられないだけじゃないスか」 拳をつくり力説する朽木君にツッコミを入れる荻上さん。 朽「オギチンはネガティブだにゃ~~。もっとポジティブに生きなヨ!!」 荻「度を越したポジティブは思考停止とどう違うんですか?」 朽「む?思考停止??それって駄目なの???」 荻「…もーちょっと考えたほうがいいと思いますよ。それに、思考停止して何かが好転するんですか?」 朽「考えすぎて悪いほーに転がってったんじゃないのカナ、オギチンは?」 荻「う、反論できね…(汗)」 朽「オギチンに理屈で勝ったにょ!ヒャッホウ!!」 荻「勝ったからどーだって言うんですか(怒)」 朽「う、そんな睨まないでにょ~…。ボクチンだって、色々考えてるんだにょ~」 荻「どんなこと考えてるんですか?」 朽「さっきオギチンが言ったみたいに、ボクチンだってこの場所が大事だと思ってるにょ。」 荻「…そうですか。」 朽「ボクチンみたいなちょこっと個性的な人がいてもいい場所があるのは助かってるし。 だから空気読むとか苦手なコトでも、苦手とか言ってられないって思ってるし。オギチンや大野先輩も大事な仲間だと思ってるし。」 荻「………そう、ですか。」 朽「だから、今さら…」 荻「良かったです」 朽「え??」 朽木君が荻上さんの顔を見ると、荻上さんは少し俯きがちになっていたが、口元が少し笑っていた。 荻「朽木先輩がそう思っていてくれて…良かったです。ホッとしました」 そう言って顔を上げた。少し赤くなった顔には笑みを浮かべていた。 朽「………………………………………………………。」 朽木君はびっくりしていた。 荻「…どーしたんですか?」 朽「へ!?…いや、オギチンが笑いかけてくれるのなんて初めてじゃないかナ??」 荻「そうですか?」 朽「いやそーでしょ。昔、顔合わせたとたん舌打ちされたことあるにょ!」 荻「…そんなことしましたっけ私」 朽「うわ、忘れてるにょ!?『チッ!!』て、聞こえよがしに舌打ちして出て行ったにょ!確か去年の新歓の時!!」 荻「…そんなコト言ったら、朽木先輩に私、初対面で殴られたんですけど!」 朽「ヘ??そんなことしたかにゃ?」 荻「しましたよ!!ていうか朽木先輩こそ忘れてるんですか!?他にも色々…盗撮されたり!人のプライベートを!」 朽「まあまあ、あれは結果オーライじゃないかにゃ?どのみちそーゆー趣味があるってバレるのは時間の問題だったワケだしー」 荻「そーゆー問題ですか!盗撮自体に問題があるって言ってんですよ!!」 朽「む~。じゃあ今度は声かけてから撮るにょ」 荻「…撮らないで下さいって言ったら、引き下がってくれます?」 朽「そこで引いたら漢がすたるにょ!!」 荻「だから駄目なんですよ!(怒)」 朽「にょ~~~。人に合わせるのって、むずかしいにょ~~~…。」 荻「…でも、こうして朽木先輩と普通に話してるのって初めてッスよね。というかマトモに話せたんですね朽木先輩」 朽「…オギチンはボクを何だと思ってたんだにょ?」 荻「異性人…?」 朽「地球外生物扱い!?まさかそー来るとわ!!!(汗)」 荻「アハハハ…冗談ですよ、半分」 朽「なーんだアハハ…って半分本気!?オギチーン!!」 荻「あははは、はは…!」 荻上さんはずっと笑っていた。 その時、荻上さんの携帯が振動を始めた。 荻「あ、笹原さんから…」 荻上さんは通話ボタンを押した。 荻「はい、はい。………あ、そうなんですか?いえ…今日は遅くなるって聞いてたから。ああ、そうなんですか。 いえ大丈夫です。はい、はい、じゃまた後で………」 電話を切った。電話でのそっけない口調とは裏腹に、顔は少し緩んでいる。 朽「オギチン、帰るのかにょ?」 荻「ええ、笹原さんが今日は早く家に来れるようになったらしいんで。」 朽「フーン。」 荻「朽木先輩はどうします?もう出ますか?」 朽「いや、僕はもー少しここにいるにょ。」 荻「わかりました。最後カギかけといて下さいね。」 そう言って荻上さんは部室のドアを開け、出て行った。 恵「お、ちゅーす。」 荻「あ、…ども。」 荻上さんが帰ろうとして廊下に出た数分後、恵子とばったり会った。 相変わらず派手な格好をして、化粧も濃い。 恵「ん、今帰るとこなんだ?お姉ちゃん」 荻「…お姉ちゃんはやめて下さい。帰るトコです。」 恵「んーそっか、今部室に誰かいるー?」 荻「朽木先輩ならいますけど」 恵「あいつか…うーん、せっかく来たんだけどなー…」 恵子は考え込むように顔を横に向けた。 荻「…恵子さん、もう来ないと思ってました。高坂先輩とか春日部先輩が卒業したから」 恵「ん?それはもー部室に来んなってことっすか?」 荻「え、いや、そういう意味で言ったんじゃないっす。」 恵「あ、そー。まーいいけどさー。何でお姉ちゃん、敬語なの?年上なのにィー」 荻「いつものクセです。だからお姉ちゃんはやめてと…」 恵「ふーん。ていうかー、じゃあ何て呼んだらいいわけ??」 荻「えーと…ふ、普通に」 恵「普通?荻上ーとか?えーつまんねーなー。あっ、オギッペは?前に春日部ねーさんが呼んでたし」 荻「…どっちでもいいです。」 恵「じゃーオギッペね。ワタシのこともさ、恵子でいーし。呼び捨てでさ」 荻「え、よ、呼び捨てっすか?」 荻上さんの顔が少し赤くなる。 恵「えー何照れてんの、オギッペ。うわ、カワイーー!!」 荻「か、からかわねーで下さい!そんじゃわたすはこれで!」 焦ってなまりが出てしまう荻上さん。 ニヤニヤしながら、荻上さんの走ってゆく後姿を眺める恵子。 廊下を走りながら、荻上さんは考えていた。 (呼び捨てかァ………こういうのって中学生ん時以来だァ………) 口元がほころびそうになるのを必死で抑えていた。 部室では朽木君が、珍しく色々考え込んでいた。 (ウームム…他の人の気持ちを考えてないから、かあ………。一方通行かあ…。 ボクチンなりにちょっとは考えてたつもりなんですがのう?いつも読みが外れたりするにょ。 いや、うーん…そんなに深く考えてはなかったのかにょ? でもどーせ他人の思ってることなんてその本人にしかわからないしのう。 だいたいボクチンはそーゆーの苦手なんだよ。) (………って、さっきまではそう思ってたにょ。 でも………うーん………) さっき荻上さんが笑ったのを思い出した。 自分が思ってたことをそのまま言っただけなのだが、喜んでくれた。珍しいことだ。 (さっき何て言ったっけ?「大事な仲間」って言ったんだったっけ。 いやでも、あれ言ったのはオギチンが「私達を仲間と思ってくれているのなら…」って、言ったからにょ。) (んで、オギチンが「安心しました」って笑ってくれたんだにょ。 それで、何だか………。 こっちもホッとしたんだにょ。) (ふむ、これが「他の人の気持ちをナントカ」ってやつなんですかね? ムム、そーかあ………。) そこまで考えたとき、部室のドアがノックされずにいきなり開いた。 恵「ちわ!」 朽「あ、笹原先輩の妹サンだ」 恵「…そーだけど。笹原の妹はやめろよなー。恵子って名前があるんだからさ。ていうかー、アイサツしてんだからアイサツで返せば?」 急に不機嫌になる恵子。 朽「はあ。恵子サン」 恵「何?」 朽「1回呼んでみただけにょ」 恵「あっそう」 恵子は近くの椅子に座った。まだ機嫌は直らない。 恵「あーあー、つまんねー!せっかく来たのに、オギッペ帰っちゃうしさー。あんたしかいないしさー」 朽「大野先輩は就職活動で忙しいにょ。ボクチンもだけど」 恵「フーン………あんた就職活動してんだ」 朽「してるにょ」 恵「………ワタシもなんだけどさぁ」 朽「そーなんデスカ??」 恵「専門学校、去年の秋に中退しちゃったからさー。勉強つまんなかったし、いいんだけどー! でもそろそろさぁ、仕事探さないとさー。このままバイトっつーのもさー…」 恵子は小さくため息をついた。 朽「何かバイトしてるのかにょ?」 恵「今は居酒屋のバイトしてるけど。でもずっとそこってワケにはいかないしィ。 あーもう、考えるのめんどくせー!」 そう叫んで机にガバッと伏せた。 朽「考えるのめんどくさいのはボクチンもにょ~~。エントリーとかイチイチめんどくさいにょ!何で面接が3次まであるにょ! いっぺんで終わらせて欲しいにょ!何で不採用の通知に1週間もかかるにょ~!」 恵「へー、そーなんだ…」 朽「ム、就職活動やったことないにょ??」 恵「そーゆーちゃんとしたのはやったことない。バイトの面接だったらもっと簡単だしィ」 朽「フーン」 恵「でもなかなか決まらないんでしょー?兄貴も大変そうだったしー」 朽「まだまだ就職難ですからにょ……」 恵「あーもう、働きたくねー!」 朽「働きたくねーーー!」 恵「でもプーもヤなんだよねー」 朽「ボクチンも就職浪人は嫌だにょ!」 ………妙なところで息が合った二人であった。 (…とは言っても。ホントにどーしよ…) 恵子は悩んでいた。部室を後にし、兄貴の家に向かっているところだった。 兄貴に連絡したら、「今日は俺、荻上さんのとこに行くから好きに使え」…とメールで返信が来たのだった。 普段兄貴や周りの人に将来のことを聞かれたときには軽く受け流していたが、これからの自分のこと、将来のことについてやっぱり不安がある。 今まで好きなようにやってきて、深く考えずに行動していた過去の自分。 …いや、考えないといけないことをずっと先延ばしにしてきたのだった。 最近、たまに家帰ると、放任主義の親にもさりげなく聞かれる。「どうするつもりなのか」…と。 (『どうするつもりか』って………。わかんねーよ。そんなんこっちが聞きたいっつの。どーしたらいい?って。 どーせ自分のことは自分で考えろ、とかありきたりなことしか言われねーんだろーけどさー………。) (………………………) (特に何がしたい、ってのがないから困るんじゃん………。具体的なモンがないから………。) 春日部ねーさんのことを考える。 (…ねーさんはカッコいいよなあー…。自分のやりたいことがあって、それに対してサクサク行動してさー。 自分の店まで持っちゃってさー。あんなカッコいい彼氏までいてさー。) 高坂さんのことは今でも好きだが(やっぱ男は顔でしょ) …でも今はむしろ、春日部ねーさんと仲良くなれたことの方が良かったと思える。 (そだ、春日部ねーさんに会いいこっかな。ねーさんならちゃんと話きーてくれそーだし。うん。店行ってみよー。 閉店してからなら話す時間あるっしょ。) 心を決めたときの恵子の行動は早い。さっさと目的地を変更して、駅から新宿行きの切符を買ったのだった。 END  続く。 オマケ 荻上さん宅にて。 笹「こんばんは。」 荻「こんばんは。…どうぞ。」 笹「あ、ごはん作ってくれたんだね。」 荻「ええまあ、待ってる間時間があったんで…」 笹「………またカレー…(ぼそり)」 荻「…嫌なら食べなくていーです」 笹「え、い、嫌だなんて!俺カレー好きだし!ありがとう荻上さん!」 荻「…言い方がわざとらしいです」 笹「いやホントに!………………この前の肉じゃがよりは………………」 荻「何か言いました?」 笹「え?いや何でもないよ?あははは………」

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