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*ガンバレあたし! 【投稿日 2006/06/19】 **[[カテゴリー-現視研の日常>http://www7.atwiki.jp/genshikenss/pages/49.html]] 「もう完全に怒った!だってそんじゃいつ会えるって言うのよ!」 そう愚痴りながら咲は大学への道を歩いていた。 高坂が朝は数少ない睡眠をとり、夜は会社に詰めていて、 直接には全然会えない日が続いていたからだ。 (もう完全に夜行性になってるしさあ、電話だって躊躇うっちゅーの) 訂正。直接ではなく電話ですら会えない日が続いたようだ。 彼女の研究室のゼミは三時から。それなのになぜこんな昼ごろに来てしまったかと言うと、 「怒りのせいでゆっくりしてもいられなかった」と言うのが正解らしい。 「はぁ…」 咲の足は、自然と部室棟へと向いていた。 万が一にでも高坂に会えるかも。 あるいは誰か怒りを誤魔化せる話を出来る相手が居るかも知れない。 その辺に当たりを付けたのか、それとも単なる習慣なのか。 「よぉ」 居たのは斑目だった。 眉毛がピクリと動く。 (はぁ…コイツか…まぁ良いけどね。高坂が本当に居るとは思ってなかったし。) 「ん…?どうした? …ああ、高坂なら今日は…いや今日もか。来てないぞ。」 尋ねてもいないのに答えられる。 「そっか…まぁそうだよな。納期がどうとか言ってたしな… 今のコーサカは、こんなオタサークルで時間の無駄遣いなんてしないよなあ。」 「…それは社会人の俺に対する挑戦か? そりゃー事務は暇ですけど~今居るのは昼休みだからだ。」 半分は嘘だ。割と無理やりに時間を作ってきている日もある。 理由は…まあ言うまでもないだろうが。今日はその意味で斑目にとってはラッキーデイだ。 「会えないのよ。」 はぁ~と息を吐き出す。 「誰と?ああ、高坂とか。いいじゃん、家にでも会いにでも行けば。 流石に予め約束しとけば、来られる事を嫌がるような奴じゃないだろ。」 今日の斑目の弁当は鮭弁。ふたを開けて先ずは鮭を一切れ箸で食べる。 「んー、まぁそうなんだけどね。」 …… 「そりゃそれは思ったけどさ。 最近コーサカ寝てないのよ。仕事が詰まっててさ。 学生でまだ本式に勤めてないんだから、そんなに詰めなくても良いと思うんだけど。」 すっと顔を下に向ける。 「数少ないフリーな時間は、せめて寝かせてあげたい…とか思うのよ。」 「はぁ。」 しかし、再び顔を上げると、どデカイ怒筋付きで声を張り上げた。 「でもさ!私に会いたいとか思わないの?!一緒に居たいとか思わないの?!あのバカは!」 …なんか咲は自分で言っていて、凄い矛盾しているような気がしてきた。 『会いたい』『寝かせてあげたい』 どこまでがわがままで、どこからがそうでないのかも全然分かんない位には。 そこで斑目にキュピーンと効果音が入った。…ような気がした。 「そっかー。つまりだ。春日部さんはこう思っているわけだ。 『自分のやりたいことはやっててもらいたい。 だってそうじゃないと高坂らしくないから。 でも会えないことは不満。っていうかナイガシロにされて居るようで納得がいかない。』 それを高坂じゃなくて俺にぶつける辺り、春日部さんらしいよなあ…」 (それだけ信頼されているのは嬉しいやらなにやら…) 自然と顔がにやける。 (しかしやっぱり高坂が一なんだろうな…) とは思ったが。 しかし咲はやや三白眼気味になる。 「あぁ?だれが冷静に私の性格を分析してくれなんか頼んだよ!? つーかニヤニヤすんな!」 斑目の襟を引っ掴んだ。 しかもそれが当たっているだけに余計に腹が立つ。 斑目は少しキョドった…が、そこは開き直った。 というかいまさら引けないと言うべきか。 冷や汗を一筋たらしながら… 「『「会いたい」「気を使いたい」「両方」やんなくっちゃあならないってのが「彼女」のつらいところだな。』」 決まった。…少なくとも斑目的には。 「はぁ?何それ? …あ、ひょっとしてまたオタワード?」 咲の目が元に戻り、手が少し緩んだ。 そしてゆっくり手が襟から離れた。 「あ、ああ、漫画…「ダダ」ってやつの五部…」 開放された斑目はカラカラになった喉を午後ティーで潤す。 …… また少し間があいた。 「あのさ斑目…」 「?」 「…もしかして…いやもしかしなくてもさ…」 「??」 「今の私って凄いブス?」 (は?何を言っているんだこの人はそんな口説いてるみたいなこと俺に言うってことは俺の気持ちを知っているのか ひょっとして脈でも有るって事なのかいやしかし高坂が居るからそれはないだろうっていうかあったらむしろ困るつーか なんだこのシチュエーションはありえねーだろってこういう痴話喧嘩って普通恋人同士とかでやるもんだろ普通はそうだ だったら高坂とっとと来て俺と代われというかいやむしろ代わらなくても良い俺的にはある意味おいしいし) 冷や汗がさっきの当社比2.5倍位だらだら流れる。 夏にそんなに汗を流すと脱水症状になるぞ斑目よ。 咲は座席の上の荷物を持って立ち上がり、ドアの方へ立ち上った。 そしてぼそりと。 「ゴメン。」 半分空の鮭弁と赤い缶の前で固まっている斑目を放置して、ドアは閉まった。 (ふぅ…なんか言うだけ言ったらスッキリした。 でもアイツの言っているように押しかけてみるってのもありかも。) 「うし、ガンバレあたし!」 小声で自分に言い聞かせるように咲は呟いた。 おわり。
*妄想会長Vオギウエ 【投稿日 2006/06/17】 **[[カテゴリー-現視研の日常>http://www7.atwiki.jp/genshikenss/pages/49.html]] 【2006年3月/現視研部室】 「さあ ほら」 「みなさん一度帰って着替えるんでしょう」 「ボーッとしてないで動く!」 現代視覚文化研究会5代目会長・荻上千佳の指示が飛ぶ。 賑やかに談笑しながら行動に移る仲間達。 この日、笹原完士、高坂真琴、春日部咲の3名が卒業式を迎えていた。 追い出しコンパに備えて、笹原の部屋で着替える予定だった荻上だが、皆と一緒にサークル棟を出たところで、ハッと自分の手元を見回した。 ハンドバックを部室に忘れていたのだ。 普通、そんなものを忘れるなんてありえないのだが、新会長就任で気持ちが舞い上がっていたのかと、荻上は自分を恥じた。 オロオロする彼女に、傍らの笹原が、「どうしたの?」と声を掛ける。 「ちょっと待っていて下さい。すぐに戻ります……」 1人で踵を返す荻上。何を忘れたのかは、マヌケで恥ずかしいので言えない。 笹原は、ふーんと考えたあと、ポンと手を叩いた。 「荻上さんも行方不明のお気に入り同人誌が…?」 「違いマス! てゆーか私はまだ卒業しませんから!」 笹原を置いてサークル棟に戻った荻上は、1人で部室に入った。 そっとドアを開ける。 もう陽は傾きかけていて、部室の中は薄暗い。 窓はトワイライトの綺麗な空の色を映し込んでいた。 2人で入った時とはまた違う感慨が浮かんできた。 ちょっと寂しい。 独りでこの時間の部室にいると、現視研に入りたてのころを思い出す。 (あのころの私は、寂しかった……) 誰も部室に来なかった時は、日が暮れるまでノートに妄想を描き込んでいた。 あのころの創作物は、妄想を止められないでいる自分を責めたり、自己嫌悪の気持ちが入り混ざり、叩き付けるようにペンを走らせていた。 独りで苦しんで、周りを突き放して……。 「なんてバカだったんだろ……。ほんと、言ってあげたいな……あのころの私に……」 ふと、我にかえる。 今ごろ笹原が、サークル棟の前でしびれを切らしていることだろう。 「帰ろう」 荻上がテーブル上のハンドバックを手にした時、背後で、ガチャリとドアの開く音がした。 「あ、すみません笹原さん、お待たせし……」 振り返りながら詫びた荻上だったが、途中で言葉が出なくなった。 そこに居たのは笹原ではなかった。 『……あれ? ……私?』 同じセリフを両者が呟く。開かれたドアを挟んで、2人の荻上が立ち尽くしていた。 【200?年?月/現視研部室】 現視研部室のドアを挟んで向き合った2人の荻上。 2人は確かに同一人物でありながら、雰囲気は全く違っていた。 “部室にいた荻上”は、瞳に輝きをたたえ、目元も柔らかく優しい印象を与えている。目を丸くして、もう一人の自分を見つめている。 いつもの筆頭を下ろして、女の子らしいシャツやミニスカートを身にまとい、大きく開けた首周りにはネックレスが光っている。 全体的に女性らしい温和な感じがある。 しかし、“後から入ってきた荻上”の瞳に光は射していない。 目そのものが、あらゆるものを拒絶するかのようにキツくつり上がり、無愛想なまなざしが鋭く相手を凝視している。 髪型はいつもの筆頭、しかし左右のブレードアンテナはやや下がり目である。 顔の輪郭も鋭さを感じさせる。体の線も細いが、それを隠すかのようにブカブカのパーカーとジーンズを着ている。 洒落っ気や女の子らしさということを意識していない印象だ。 2人の荻上は、しばらくの沈黙の後で同時に、『誰?』とだけ呟いた。 だが、2人は向き合った瞬間すでに、「私の前に居るのは私」だと直感していた。 それは本能というべきか、魂の共鳴というべきか、それとも、説明描写を避けたがっているというべきか……。 髪を下ろした方の荻上は、去年の夏に見た「悪夢」を思い出した。 (※SS「せんこくげんしけん」参照)。 あの時の夢は、自分が入学する前の椎応大学に迷い込み、当時の笹原に出会うというものだった。 (これも夢なのか?)と考えあぐねている中、「筆頭」の方が無表情と冷静さを装いながら尋ねた。 「私……だよねあなた? 何で私のくせにそんな格好してるの?」 根本の問題に触れるのは難儀なので、最初はごく普通の質問が投げかけられたようだ。 髪を下ろした方の荻上は、あっ、と自分の服に目を移した。 「こ、これね。今日、笹原さんたちの卒業式だったから……」 「ええっ? あなた、いつの私なの?」 「に……2006年……」 筆頭はよろよろと倒れそうになって、何とか踏み止まった。 「私は、……2004年だども。やっぱコレって夢だよね?」 同意を求められた2006年の荻上も、「うん、私も夢だと思いたい」と呟いた。 「荻上06」と「荻上04」は、再びお互いを凝視したまま沈黙した。 (夢なら早く覚めてほしい)と、同じことを考えていたが、再び、荻上04が話しかけた。 04「夢なら夢でいいけど、あなたナニをしに来たの?」 06「な、何をしにって……あなたが部室に来たんじゃない」 荻上06は反論するが、その時ふと、卒業式の後で笹原に告げた一言を思い出した。  「入学当初の私に……」  「言ってやりたいです“笹原さんとつき合うんだよ”って」  「絶対信じませんよ」 (あんな事を言ったから、こんな夢を見てるのかな) そう思った荻上06は、意を決して話しかけることにした。 夢よ早く覚めろと願いながら。 06「あ、あのね、伝えたいことがあるんだけど」 04「なんですか?」 無愛想な荻上04の瞳が、まっすぐに荻上06をとらえる。 荻上06は、過去の自分の姿に躊躇した。 (私ってこんなキャラだったんだ……) (ああ、でもやっぱり恥しくて言えないよォ) 荻上06は両手で真っ赤になった顔を隠す。 目を閉じたまま、一気に言い放った。 06「わ、わたしね……さっ…笹原さんと…つき合うんだよ」 04「え、ええエエェーーーっ!」 さすがの荻上04も驚きを隠せない。 だが、歯を食いしばるように口を真一文字に結び、ツンの表情を維持した。 06「やっぱり、い、意外…だよね?」 04「ぜっ、絶対信じませんッ!」 06「つ、ついでに言うと、私同人誌作って、笹原さんと一緒に売るんだよ」 04「ええエエェーーーっ!」 荻上04はがく然としながらも、一拍置いて真顔で尋ねた。 04「あの~、PNは於木野鳴雪ですか?」 荻上06は(ツンケンしたってやっぱりオタクじゃない……)と呆れながらも簡潔に答えた。 06「Yes.」 04「ひ…評論本?」 06「No.」 04「い…イラスト集?」 06「No.」 04「じゅ… 18禁女性向けですかあああ~」 06「Yes.」 04「もしかして麦×千ですかーッ!?」 06「Yes.Yes.Yes.Yes.Yes.Yes.Yes.Yes.Yes.Yes.Yes.!」 オタ嫌いホモ嫌いのプライドが打ち砕かれ、がっくりと肩を落とす荻上04。 ぼつりと、「そっ、そんなっ……。しかも笹原さんごく普通のオタクじゃないですか……」と呟いた。 06「失礼ね。……でも笹原さん、優しいじゃないですか?」 04「優しくったってオタクじゃないですか! 私はッ……」 06「うん……オタクが嫌いなんだよね。分かるよ、私もそうだったもん」 04「『そうだった』……?」 荻上04はかたくなに「強い自分」を維持していたが、次第に、光の射さない瞳に涙が溢れ出した。 彼女はそれを拭おうともせず、未来の自分を睨み据えた。 04「……未来のあなたは、過去の私を許せるの?……大事な人を不幸にしたことを忘れたの?」 忘れるわけがない。 自分を慕ってくれた牧田を、自分の妄想の玩具にしてしまい、彼の心に深い傷を負わせてしまった。 それは消えることのない十字架だ。 06「……忘れるわけない。今でも思い出すと体が震えるもの……すべてが奇麗に終わるわけないじゃない」 睨んでいた荻上04がギョッとするような、抑揚のない冷たい言葉が荻上06の口から放たれた。 荻上04は、(やっぱりそうだ。この先も背負い続けるんだ)と思うと、呑気に洒落た服を着て立っている未来の自分が腹立たしくなってきた。 (お前も同じじゃないか)という憤りを言葉にして叩き付ける。 04「結局どんなに着飾ったって、男を作ったって、逃れることなんて出来ないじゃない!」 06「!!!」 04「……それなのにオタクだなんて、同人誌だなんて……。だから私はアンタが、自分が嫌いなんだ!」 荻上06はその言葉をまっすぐに受け止めた。 一瞬、唇をかみしめて苦しそうな表情をしたが、苦悶はすぐにフッと消えた。 柔らかい口調で、言葉を返す。 06「ごめんね。……でもね……私、最近結構好きなんだ……あなた(昔の私)のこと」 04「はあッ?」 意外なセリフに、荻上04の鋭かった目がまあるく見開かれた。 荻上06は、恥ずかしそうにちょっとうつむき気味になり、やや上目遣いに04を見つめて話しかけた。 「だって、『オタクは嫌い』と言いつつ、どうしようもなくオタクなところとか。それを隠そうとして失敗するとことか……」 荻上06が口にしたのは、大野が自分を好きだと言ってくれた時の言葉、そのものだった。 (大野先輩は、そんな私を認めてくれた) (そう、今の私には、みんながいるもの) 彼女は再確認した。今の自分には、かけがえの無い人達との「つながり」があることを。 オタクとして共感を持ってくれる人がいる。 親身になって心配してくれた人がいる。 そして、妄想も心の闇も含めて、すべてを受け入れてくれた愛しい人がいる。 荻上06の脳裏に、大野、咲、そして笹原の笑顔が浮かんだ。 直後に何故か恵子と朽木の笑顔も浮かんだが、ぶるぶると頭を振ってそのビジョンを振り払った。 荻上04は真っ赤になってワナワナと震え出した。 04「わ、わだすは、失敗などしねえ!」 06「してたでねか! 都産貿のスラダンイベント行った時、朽木先輩に盗撮されたでねーか!」 一瞬の間が空く。 04「……朽木先輩、許せないですよね」 06「……んだ。2年経った今もなお許せねえ」 2人の荻上は時を超えて共感し合った。 朽木の話題でひと呼吸置いたおかげで、部室は静かになった。 荻上06は、あらためて過去の自分を見つめ直した。 (傷は残っているけれど、それを包んでくれる人たちがきっと現れる) (……彼女は、これから作るんだね、みんなとの絆を……) (いま言い聞かせても、理解できるわけないわ) (……彼女は、これからだもの……) 未来の荻上は、不器用にもがいている過去の自分が愛おしかった。 一歩二歩と近づいて、スッと荻上04を抱きしめた。 「!!」驚く04。 目を閉じてもう一人の自分を感じる06。 2人は頬を合わせ、ドキドキと波打つ鼓動を確かめた。 圧迫や抵抗感が感じられない薄い胸には、お互いに嫌気がさしたが……。 06が優しく言葉を掛ける。 「ま……あんたなりに頑張って……」 2人は体を離すと、同じタイミングでフゥとため息をついた。 荻上04は頬を真っ赤に染めていたが、「だども……わだす信じないから!」とツンとした口調で言った。 04「わ……私は私。誰を嫌いになろうが好きになろうが、私の勝手だから!」 06「うん」 04「これはきっと悪い夢。私は今まで通り、自分がオタクとか腐女子だなんて絶対認めない!」 06「うん」 04「笹原さんだって、オタクはオタク。嫌いです!」 06「うん」 04「お、おしゃれなんか…、あなたみたいな気取った服なんか絶対に着ないし!」 06「あ~、ひょっとしてあなた失敗したばかりでしょ。店員に言いくるめられて……」 04「!!!」 言葉に詰まった荻上04は、間を置いて、恥ずかしそうに未来の自分に尋ねた。 04「み、未来からきて、そこまで知ってるなら、ちょっと聞きたいんだども……わ、私が……この先ハマるカップリングって、どんなの?」 06「……」 この質問には、荻上06も躊躇した。腕を組んでう~んと唸る。 (もう~、腐女子嫌いを公言しながら……しかし教えるべきか、黙っているべきか……) 荻上06は荻上04を手招きした。 2人きりしか居ない部室だが、声に出すのも恥ずかしいので、そっと耳打ちする。 06「悪い夢だと思っているんだったら、教えてあげるけど……」 ゴニョゴニョと、自分が何ページも書きためたカップリングを教える。 04「…………ッ!!」 直後、荻上04はウルウルと涙目になってガクガク震え出す。 ドカッ! いきなり机を弾き飛ばすように窓に向けてダッシュする04。飛びつく06。 06「ここは3階だーっ!」 サークル棟の外にまで、現視研部室からガタガタンと、もみあう音が聞こえてくる。 「ウソだー!」「だどもホントなんだもん!」 夕闇が辺りを包み始めたサークル棟の屋上で、騒ぎに耳を傾ける人影があった。 「入部当初の荻上さんを刺激しようと思ったけれど……少し薬が効きすぎたかな」 一人は初代会長だった。 「でも、おかげで“今の荻上さん”にも“昔の荻上さん”にも、いい影響が出ますよ」 初代の後ろにいた人影が応える。 その姿はハッキリとは見えない。 振り返った初代は、その影に礼を述べた。 「そうだね。君もご苦労様だったね……」 【2006年3月/現視研部室】 …………ハッ!? 荻上06は目を覚ました。 部室のテーブルに突っ伏して寝ていたらしい。 「いけね時間!」 携帯電話を取り出してモニタに目をやると、部室にハンドバッグを取りに来てまだ5分も経っていなかった。 「夢……だったの?」 荻上06が呆けていると、ガチャっとドアが開き、隙間から笹原が顔を出した。 「荻上さん、大丈夫?」 荻上は慌てて立ち上がり、「だっ、大丈夫デス!」と答えた。 そして、笹原の手を取って歩き出し、「さ、行きましょ」と、そそくさと部室を出て行った。 サークル棟の廊下を歩きながら、荻上06は笹原に詫びる。 「すみません、遅くなっちゃって……」 「いやいや、全然ダイジョーブだよ」 いつもの優しい笑顔を返す笹原。それを見て荻上は癒される思いがした。 早く昔の私も気付けばいいのにと、さっきの「夢」に出てきた自分を思い起こす。 「やっぱり信じてもらえませんでした……」 「え、何のこと?」 「何でもないです。スミマセン」 荻上は頬を染めながら、ニコリと笑顔を浮かべた。 【2004年6月/現視研部室】 …………ハッ!? 荻上04は目を覚ました。 部室のテーブルに突っ伏して寝ていたらしい。 「いけね寝ちまったのか?」 携帯電話を取り出してモニタに目をやると、部室に入った時間から、まだ5分も経っていなかった。 「夢……だったの?」 荻上04が呆けていると、ガチャっとドアが開き、隙間から笹原が顔を出した。 「あ、荻上さん、こんにちは」 荻上は慌てて立ち上がり、「こっ、コンニチハ!」と答えた。 そして、赤い顔を伏せて隠れるように歩き、「私はこれで失礼します」と、笹原と入れ替わるようにドアを出て行った。 後日のこと、荻上04が部室のドアを開けると、斑目と笹原がいた。 この日、コミックフェスティバルの当選通知が届いたのである。 「……やあ荻上さん、こんにちは」 そそくさとスケッチブックをたたみ、頬を赤らめている2人。 「………」 荻上04は、過日の「悪夢」を思い出した。 将来ハマるカップリング。 未来の自分が耳打ちしたのは……笹×斑……。 この時ばかりは、さすがに全力で自分の妄想を否定した。 さらに後日、荻上は咲に、「じゃ笹原みたいなタイプは?」と聞かれることになる。笹原がハラグーロを撃退した時のことだ。 「どんなタイプでもオタクはオタク」「嫌いです」 とは言うものの、荻上は、ほんの少しずつ笹原を意識しはじめていた。 <おわり>

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