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*第十五話・贖罪 【投稿日 2006/05/24】 **[[第801小隊シリーズ]] その日、マコト=コーサカは、ふとした違和感に気付いた。 皆の輪から外れ、一人MS格納庫のササハラと話をしに行こうとしていた矢先である。 テンプルナイツとの小規模な激突から約3日が経っていた。 遡ること3日前、丁度その戦闘が終了した矢先、一つの連絡が入った。 それは、マダラメらの過去の戦友、ヤナギサワ大尉からもたらされたものであった。 それらしい基地が発見され、地球圏により近い破棄された人工衛星群に紛れるように存在し、 今まさに活動をしようと活発に物資が運び込まれているという。 そこに目的の兵器、そして目的の人物がいる可能性が100%とはいえないが、 それしか手がかりがない以上、彼らは進路をそこに進めるしかなかった。 その行程は順調であり、特に問題もなかった。 ササハラはよく一人で訓練(正確にはシミュレート)を行っていたが、 マダラメは副官席で眠るフリをしていたり、 スーは一人様々な場所に出没しては人を驚かせたり。 サキやオーノ、タナカ、アンジェラ、ケーコなどは、 緊張感を紛らわすかのようによく談笑をしていた。 コーサカも、その輪の中によくいた。 緊張感が取れないのは誰もが同じであった。 その解決法が、人によって違うだけで。 このまま進めばあと24時間以内にはそこに到着するだろう。 徐々に高まる緊張感と高揚感。 そのためだろうか。 いつもより勘の冴えていたコーサカは、それに気付いた。 変哲もない、移動用ベルトのある廊下。 そこに、扉が隠されていることに気付いたのである。 だが、それが何なのかまでは掴めなかった。 彼は持ち前の好奇心と物怖じしない性格から、その扉を開けた。 その先には、彼が思いもしない光景が広がっていた。 扉を開けるまでは、彼自身思っていなかっただろう。 ・・・・・・運命とは、ちょっとしたきっかけで変わるもの。 彼は、一つの決心をすることになるのである。 「・・・ここは?」 コーサカは始めて見る情報集積回路に驚いていた。 「ここまでのものがこの船に・・・?」 自分が働いていたあの最先端のドッグにも、ここまでのものはなかった。 一面見渡す限りの機械群。それが、暗がりの中不気味に光を放っていた。 「・・・何のために・・・。」 疑問は尽きない。とりあえず、奥へと進む。 そこで見たのは大きなディスプレイであった。 地球を中心に、周囲のコロニーの所在、それに加え・・・。 「連盟、皇国の軍隊配備が全て載っている!?」 ディスプレイの前のマウスを操作し、カーソルを合わせると、細かな情報も現れた。 自分らのいる辺りには、『the 801st platoon(第801小隊)』の文字が現れていた。 「・・・これか。大隊長の情報源は。」 おそらく、あの基地にも存在していたのだろう。 正確には、存在していたものを積んでいるのであろう。 どういうルートでかは分からないが、あらゆる情報を収集していたのだ。 大隊長が、なぜああも自由に行動できたのかを理解した。 そのまま、情報の探索に移る。 ヤナギサワ隊のいる位置、そして、その近くにある基地の規模。 さらに、そこにある兵力の大きさ。 「・・・これは・・・!」 顔をしかめるコーサカ。 「・・・これは廃棄されたはずだったのでは・・・。」 予想だにしていなかった情報を得たのか。その顔は冴えない。 「・・・!これは!」 またもコーサカ驚愕の表情を浮かべる。 「まさか、ここまでの兵力を向わせているなんて・・・。」 「そうだね。」 コーサカがその声に振り向くと、そこには大隊長が立っていた。 暗がりの中、いつもと変わらない表情を浮かべながら。 「大隊長・・・。この機械群は・・・。いや、今はそんなことどうでもいい。  この情報は確かなんですか!?」 いつもの笑顔はすでにない。コーサカは少し語気を荒げながら話す。 「・・・確かだ。紛れもない、ね。」 「・・・どうするつもりですか。」 視線を離さず、コーサカは少し興奮している様子だ。 「・・・正直、どうしようか迷っていた。」 「迷う?」 「方法はある。これを切り抜けるためのね。・・・だが、それは痛みを伴う。コーサカ君・・・。」 「・・・なるほど。」 1を聞いて10を理解した、と言う様子でコーサカは視線を落とす。 大隊長の調子は相変わらずだ。 「・・・君が決めるといい。この方法は、君の意思によるんだ。」 「・・・・・・はは。選択権はないじゃないですか。」 「そんなことはない。皆で戦えばそれでも道は開けるかもしれない。」 「・・・そうですが・・・。それでも、おそらくそれよりは、今考えてる方法のほうが・・・。」 「その通りだ。だから、君が決めていい。」 静寂が訪れる。少しの間。機械の音が静かに鳴り響く。 コーサカは決心したように視線を上げる。 「やります。」 「・・・本当にいいんだね?」 「ええ。僕には・・・。罪があります。皆さんを欺いた罪が。」 「・・・知っていたよ。」 「もちろん、大隊長さんは・・・。」 「僕だけじゃない。マダラメ君も、タナカ君も、クガヤマ君も。  ササハラ君や、ケーコ君ぐらいだろう、気付いていないのは。」 「!!そんな・・・。」 「・・・彼らはね、それでも、君を信用したんだ。」 「・・・それなら、尚更です。」 「そうか・・・。」 「では、行って参ります!」 そういいながらコーサカはいつもの笑顔を取り戻し、外へ駆けていく。 「・・・すまん。無事を祈る。」 大隊長は寂しそうな顔をして、その後姿に敬礼を送った。 廊下を急ぐコーサカ。 「・・・急がなくちゃ。確か・・・。」 ブツブツ呟きながら移動するコーサカの前に、マダラメとサキが現れる。 「おう、どうしたよ、コーサカ。」 「・・・ええ、ちょっと。二人は?」 「え?いつもの検診さ。それよりも・・・なに、隠し事?」 言葉の詰まるコーサカに、怪訝な表情を浮かべる二人。 いつもならさらっとかわしそうなコーサカが、少し動揺している。 「・・・なんだ。なんか重要なことじゃねえだろうなあ?」 「いえ、何でもありませんよ。ちょっとササハラ君に呼び出されまして。  MS格納庫のほうに。」 とっさについた嘘。しかしもっともらしい内容だ。 「ふー・・・ん。でも、おかしくねえか?」 「何がですか?」 相変わらず怪訝な表情のマダラメは言葉を続けた。 「ササハラ、俺の事呼んでんだよ。『二人でシミュレートしましょう』って。」 その言葉に表情を少し変えるコーサカ。 「おい、本当に何でもねえのか?はっきりしろ。」 「ははは、何でもありませんよ、本当に。」 どうしてか、マダラメは妙に引っ掛かりを感じていた。 いつもと違うコーサカの雰囲気に気付いたのだろうか。 サキも、その雰囲気に気付いている様子だ。 「・・・おい、話せねえのか。」 「・・・何でもありませんから。」 そういいながら、立ちふさがるマダラメの横に移動する。 「・・・おい!コっ・・・。」 ドンッ!コーサカがマダラメのボディに拳を入れる。 「・・・すいません。・・・サキちゃんをよろしくお願いします。」 「・・・っな・・・、おま・・・。」 その耳元にコーサカが呟いた。そのまま落ちるマダラメ。 無重力のため、マダラメの体が宙に浮く。 「!!なにを!!」 そのコーサカの行動にサキは驚き、詰め寄る。 「何してんのさ!!」 コーサカの胸倉を掴む。 「・・・ごめん。こうするしかなかった。  隊長、変なところで勘がいいからさ。」 「何を言って・・・。」 「・・・サキちゃん、僕らがここに来た理由、覚えてる?」 「・・・・・・何をいまさら・・・。」 その言葉に顔を曇らせるサキ。 「・・・やっぱりサキちゃんがいってたことは間違いじゃなかったよ。  人を実験に使うなんて、まともじゃない。」 「でも、それは!」 サキが何かをいおうとするのを手で制し、首を振るコーサカ。 「うん。結果は良かった。でも、僕には罪がある。」 「それは私だって一緒だ!」 叫ぶサキ。しかし、コーサカは優しく微笑んだままサキを抱きしめる。 「サキちゃん。君がいてくれてよかった。」 「・・・なに、お別れみたいなこと言ってんのさ・・・。」 「君と再会できて、あの事件があって、この隊に来れて・・・。  もちろん、この隊の皆にも感謝はしてる。  だけど・・・。僕を一番助けてくれたのはやっぱりサキちゃんだ。」 そして、肩を持ち距離を置くと、そのままキスをした。 顔を離すと、コーサカはまた言葉を続けた。 「・・・きっと戻ってこれるとは思う。けど・・・、もしも・・・。」 「もしもってなんだよ!いつも勝手に話を進めて!  小さい頃からいつもそうだ!勝手だよ、勝手だよあんた!」 気付けばサキは泣いていた。 「・・・ごめん。幸せになってね、サキちゃん。」 コーサカはそういうと、サキの首に手刀を入れ、気絶させる。 「・・・バ・・・カ・・・。」 サキはコーサカの思い、そしてこの先するであろう行動に気付いたのだろう。 「・・・本当に、ごめんね・・・。」 優しくサキを横にすると、コーサカは再びMS格納庫へと進む。 「・・・馬鹿・・・。」 寝言だろうか。サキの呟きが聞こえた。 「まだかな、隊長・・・。」 いつものように、MS格納庫横の整備室にてシミュレーターをいじくるササハラ。 「一人で続けるのも限界あるしなあ・・・。  これにどの程度効果があるかもわかんないけど・・・。」 そろそろ来るはずなのに、来ないマダラメに、怪訝な表情をする。 「どうかしたのかな・・・。」 もう一度呼びにいこうとササハラが立ち上がると、コーサカが入ってきた。 「?コーサカ君?どうかした?」 「・・・いやなんでもないよ。マダラメ隊長待ってるんでしょ?」 「・・・まあ、そうだけど・・・。来るまで、ちょっとやらない?」 そういってシミュレーターを指差すササハラ。 「・・・いや、僕はちょっとMSに用事があってね。」 「そうなんだ。もうちょっと待てば来るかな?」 「うん、来るよ。」 そういって、笑顔を向けたままMS格納庫へ入っていくコーサカ。 そこで、ササハラは違和感に気付く。 「・・・なんでノーマルスーツ着てるんだ?」 ばっ、と格納庫のほうを見ると、 コーサカがガンダムに乗り込み、兵装を確認している。 「・・・な、なにしてるんだ、コーサカ君。」 そして、ササハラは気付いた。 この艦に搭載されている最強の兵器であるメガランチャー二門を、 コーサカのガンダムが担いでいることに。 そして、手動で宇宙への扉を開けていることに。その行動の意味を。 「・・・まさか!」 コーサカの行動に、ササハラは、自分もノーマルスーツを着込むために部屋を出た。 ガンダムは宇宙へ降り立った。目標は、この艦を後ろから狙っている一個大隊。 「・・・どこまでやれるかな・・・。」 用意したのはメガランチャー二門と、エネルギータンク一個。 そこに、近づく一機のMS・・・。 「ササハラ君・・・。」 「何をしてるんだよ!勝手に出撃だなんて!」 通信を通して、お互いの顔を確認する二人。 「・・・これは僕の罪滅ぼしなんだよ。」 「・・・・・・何を言ってるのか分からないよ!」 叫ぶササハラ。 「君は、僕がなぜこの部隊に来ることになったのか・・・分かるかい?」 「・・・いや・・・。」 少し、コーサカは微笑むと、言葉を続けた。 「君と離れた後、僕もある部隊へと配属された。  そこでちょっと戦果を挙げすぎてね。NTじゃないか、と噂になった。  軍は、僕をあの研究所に送ったんだよ。サキちゃんと再会したのもそこだ。  NTの実験と称して様々なことをされた。」 遠い目をするコーサカ。 「サキちゃん、乱暴なように見えて面倒見いいから、よく助けてくれたよ。  彼女の実験も手伝ったりしたこともあったな・・・。それなりにうまくやっていたんだ。  だけど・・・。僕は根っから束縛が嫌いみたいで。そこから出たくて仕方がなかった。  そしてある日、事件が起こった。  NTを模したOSシステムの開発。その実験の最中、あるNTの少女が意識を失った。」 ササハラはその言葉にはっとする。 「まさか・・・。」 「そう、君の使っているそのシステム。それだよ。  その少女がその場に居合わせたのは全くの偶然だった。  しかも、その子は軍幹部の娘さんだった・・・。」 顔を伏せるコーサカに、ササハラは言葉が見つからない。 「その子の意識を戻す方法が見つかった。  それはシステムを限界まで使い、使用者と完全に同調させること。  しかし、それには研究室の実験では無理だった。」 そこまで聞いて、ササハラもようやく理解した。 「つまり・・・。実戦を用いた実験だったってこと?」 「そう・・・。不完全なシステムを、使ったね。  危険性も把握した上で、僕はこの機会を利用し、自由になることを考えた。  ・・・その部隊へ赴き、システムの運用を見守ること。  それが僕らの目的だったんだよ。」 「でも!」 ササハラは叫ぶ。コーサカがこの後言うであろう言葉を感じて。 「・・・そう、うまくいった。  よもや君がパイロットに選ばれてるとは思ってなかったけどね。驚いたよ。  NTでは反発が起こるだろうから、よほどそれらしくない人を選んだんだろうけど・・・。」 そういって、コーサカは少し笑う。 「ひどいなあ・・・。」 「ごめん。でも、NTなんていいことないよ。僕はそれを知った。  そのために他人を犠牲にしようと考えていたんだ・・・。  僕はその罪を償わなければならない。」 コーサカの顔が引き締まる。 「この隊にこれてよかった。戦争で戦う事や、自分がNTである意義・・・。  そういうものを、初めて肯定できた気がした。  だから・・・。君達には生き残って欲しいんだ。」 「まさか、コーサカ君!」 「僕らの艦を、後ろから一個大隊が狙っている。  それを・・・僕が抑えてくる。」 ササハラの顔が青ざめる。一個大隊といったら、艦船は5隻以上だ。 MSの数もゆうに20機は越えるだろう。 「無理だ!せめて、俺だけでも!」 「君にはやらなければならないことがあるでしょ?」 コーサカはにっこり笑う。 「でも!!」 「・・・早く戻るんだ。追いつけなくなるよ?」 「・・・力づくでも止める!!」 「・・・そういうと思ったよ。君は昔から変わらないね・・・。」 「コーサカ君もさ。覚えてる?学校の時の・・・。」 「覚えてるよ。先輩に仲間がいじめられた時に、一人僕は仕返しに行こうとした。」 「・・・それを僕は止めた。一人で行っても駄目だって・・・。」 二人は懐かしそうに遠くを見つめる。 「あの時は僕が勝ったんだよね。」 「・・・うん。それで先輩やっつけてたけどね・・・。」 「・・・あの時と、違うかな?」 「・・・・・・ああはうまくいかないよ!止めて見せる!」 ササハラのジムが動く。軌道をこまめにかえ、予測をさせないように。 「・・・うまいね!」 コーサカのガンダムは煙幕をまく。白い煙が一面にたちこめる。 「・・・なんの!会長!!」 『・・・相手は・・・?何故?』 「一人で・・・無茶しようとしてるので!」 『止めるわけですね!』 会長はササハラとの同調で思考を読めるまでになっていた。 同調率が上がる。煙幕の中でも、ガンダムが見える。 「見える!!」 叫ぶササハラ。ガンダムに向って、サーベルを振るう。目標は腕と足。 戦闘力さえ剥げば、向わないだろうという判断からだ。 「当たらないよ!」 コーサカは、すぐさまかわす。こちらも見えている。 「くそ!」 「こっちの番だね!」 そういうと、コーサカはいつものチェーンを繰り出す。 「当たるもんか!」 コーサカのガンダムにどこまでギミックがあるのかは知らないが、 チェーンの使い道は知っている。伸びてくるチェーン。 回転し絡み付こうとするチェーンをかわしたと思ったのだが・・・。 ガチィン! 「!?」 一瞬何が起こったのか分からなかった。 チェーンが、なぜかジムの横腹に引っ付いている。 「・・・なんで!?」 「あの、密林のときのザクが使ってたものを参考にしてみたんだ。」 思い出がまざまざと蘇る。 「く、こんなもの!」 言うが早く、ジムが引きちぎろうと動く。 しかし、コーサカはすでに次の行動に移っていた。 「少し苦しいけど、ごめんね!」 チェーンをもったままガンダムを回転させ始めるコーサカ。 「なっ!」 驚いて一瞬の躊躇がいけなかった。回転が軌道に乗ってしまった。 ウォン!ウォン! 回転音がコクピットに響く。遠心力が体に響く。 「ウ・・・ぐぁあああ!!」 宇宙には重力がないため、遠心力がモロに横に掛かる。 そのG(重力単位)は壮絶な値にまで上昇する。 ササハラはコクピットに押されたまま、息が出来なくなる。 「くっ、はぁっ!くそぉおおお!!」 叫びが木霊する。ササハラはそのまま意識を失った。 「ごめん・・・。」 ササハラが気絶したのを見定め、コーサカは回転を止めた。 「・・・頑張ってね。」 そういうと、コーサカはチェーンを外し、艦の進行方向の逆へ踵を返した。 『・・・さん!サ・・ハラ・・ん!ササハラさん!』 会長の声で、意識を戻すササハラ。目を見開き、宇宙を見渡す。 「・・・コーサカ君は!」 しかし、視界にはただ宇宙が広がるのみ。椅子に力なくもたれ呟いた。 「・・・また負けた・・・か・・・。」 コーサカは、一人宇宙を駆けていた。そして、ある位置で停止した。 メガランチャー二門を抱え、一つの方向に狙いを定める。 「情報によれば全部で八隻・・・これで四隻落とせれば勝機はある・・・!!」 その方向には、皇国の一個大隊が進軍しているである。 ランチャーから粒子砲が放たれる。宇宙に、光がきらめいた。 メガランチャーを手放すと、エネルギータンクを接続する。 二発分のエネルギーが元に戻り、ガンダムは息を吹き返す。 「・・・孫子、拙速を尊ぶ・・・。ここが勝機だ。いくぞ!」 ガンダムのテールランプが宇宙に閃いた。 『三隻大破!二隻が中破・・・。』 「何が起こっているんだ!」 コージ=イバト少将は困惑していた。 一隻の艦を後方から攻める任務、簡単なものと安心していたのだ。 旧知の仲である男からの依頼、特にする任務もなかった彼は、 二つ返事で引き受けていた。この事態は予想だにしていなかった。 「気をつけろ・・・とはいわれていたがな・・・。  ・・・しかし、まだMSは15機以上残っているのだ・・・!  すぐに追撃が来る!MS隊出撃せよ!」 叫ぶが早く、周囲にはリック・ドムの部隊が出動する。 少し沈黙が続く。イバトがふと目を横のドムに写す。 「・・・なんだ!!」 その瞬間、一機のドムが大破する。目に見えぬ何かに壊されたかのように・・・。 この後の様子を後にイバト少将はこう語っている。 『黒い何かに、次々とMSが壊されていくんだ・・・。  体中から何かが飛び出してきて・・・。翻弄されてるうちに・・・。  もちろん、奴にダメージを与えられなかったわけじゃない・・・。  ・・・私たちは全滅した。私は・・・。何とか逃げ出すのがやっとだった。  ・・・あれはまるで悪魔だった。黒い、悪魔だった。  ・・・気付くとその姿は無くなっていた・・・。  あれがなんだったのか、いまだによく分からないんだ・・・。』 艦がササハラを拾い・・・気付いたマダラメとサキに状況を説明した後・・・。 一人笹原はコクピットでうなだれていた。 「・・・止められなかった・・・。」 もちろん、止めれば危険は増したかもしれない。 だから、こうなった以上はこのまま進む以外にない。 時間はない。それは、大隊長も言っていたことだ。 「だけど・・・。」 納得は出来なかった。戦争に犠牲はつき物だ。 しかし、コーサカの場合は、何とかならなかったんだろうか。 『ササハラさん・・・。』 「え!?」 スイッチは切っているはずだった。しかし、声が聞こえた。 『徐々に・・・。覚醒しているみたいです。  スイッチが入ってないときでも、意識を外に出すことが出来るようになりました』 「・・・そうですか・・・。」 『コーサカさんが・・・。私に話しかけてくれました。』 「え?」 意外な言葉に、体を起こすササハラ。 『あの後・・・。私はコーサカさんに呼びかけました。彼はこう答えました。  多分、あと少しであなたも解放されます。  もうすぐ自由になれますが、もう少しだけお願いしますね、と。  そして、私の本名を教えてくださいました。』 そこで一旦会長は言葉を切る。 ササハラは言葉を待つ。 『最後に・・・、ササハラ君に、ありがとうと伝えてください、と。』  そういって、あの方は去ってしまいました・・・。』 「・・・コーサカ君。」 『ササハラさん。あなたの目的がなされるまでは共にいます。  ・・・コーサカさんの、願いでもありますから。』 「はい・・・。会長、お願いします・・・。」 拳を握り締めたササハラの目に、再び意思が宿った。 「全滅だと!」 召喚した一個大隊の全滅を聞き、声を荒げる荒野の鬼。 「・・・くそう・・・。なんなんだ・・・。奴らは・・・。」 苦虫を噛み潰したような顔をする男に、女が近づく。 「・・・中佐、ナカジマが呼んでる。」 「オギウエか・・・。」 その言葉に、怪訝な顔をしつつも、鬼はオギウエと共に移動する。 「・・・何をつけている?」 オギウエの胸にぶら下がっているペンダントに興味を持つ鬼。 触ろうとするが、手を強くはじかれる。 「触るな!」 「・・・何なのだ、それは。」 「・・・分からない・・・。けど・・・。うぅ・・・。」 頭を抱えるオギウエに、 「・・・まあ、いい。」 二人はそのまま廊下を進み、どこかの部屋へと消えた。 次回予告 大きな犠牲を払い基地へとたどり着いた第801小隊。 そこで彼らが見たのは巨大なレーザー砲だった。 マダラメは呟く。昔見た光景を思い出すように声を震わせながら。 「あんなもの蘇らせやがったのかよ・・・。」 第801小隊は大量の虐殺を止める事が出来るのか。 次回「蘇る悪夢」
*第十六話・蘇る悪夢 【投稿日 2006/05/31】 **[[第801小隊シリーズ]] 「やめろ!」 俺は叫ぶ。・・・いつもの悪夢だ。 「・・・ククク・・・。止めるなら、その引き金を引けばいいじゃないか。」 「う・・・うう・・・。」 銃口が震える。照準が定まらない。 妙な起動装置の前で、その爺さんは・・・何かをいじくっている。 また止められないのか。俺は何度この悪夢を繰り返せばいい? 「う・・・うわああああああ!!」 俺がようやく打つ決意を固め、銃をしっかりと構えなおした時。 「遅いわ!!」 光が迸る。何かが・・・動いた。 「外を見ろ!!綺麗だろう!!これが私の生み出した光の槍だ!!」 「う・・・うあ・・・。」 まさに、光の槍が連盟、皇国が戦う空間へと突き出していく。 小さな爆発が多数生じ・・・。宇宙には静寂がおとずれた。 「あはははははは!!ひゃはははははっはははは!!」 爺さんが狂気じみた笑い声を上げる。それを見ながら、俺はがっくりと膝を落とした。 「貴様も・・・共犯だな・・・。仲間も・・・殺した。」 爺さんが俺に呟く。いやな笑いを浮かべて。 そんなことはない。そんなことはない。 俺は俺は俺は俺は・・・・!! 「隊長、仲間を犠牲にするのはつらいですね。」 はっとして気付くと、目の前にはコーサカが居た。 「お前!」 「・・・大丈夫ですよ、僕は。サキちゃんを・・・お願いします。」 コーサカが消える。 「待て!待てよ!」 そこで、がばっと体を起こす。夢から覚めたようだ。 いつもの部屋のベッドの上。 「コーサカよう・・・。俺はどうすればいいよ?」 しかし、それに返ってくる言葉はない。 「・・・やるだけやるしかねえ、か・・・。」 『・・・というわけで、奴らの基地の活動は徐々に活発になってるわけよ・・・。』 少しけだるそうな話し方をするヤナ隊長。 ブリッジにて発見したヤナ隊と通信で会話する第801小隊メンバー。 「早く到着したがよさそうですね。」 『そうね。そうしてくれればこっちとしても助かるよ。』 ディスプレイにうつったヤナの顔が苦笑いする。 『俺達だけじゃ手に負えないのは分かってるんだけど・・・。  どうもうちの隊の面々は血の気が多くてね・・・。』 「そりゃ大変だな。」 マダラメが同じように苦笑いして返す。 『まあ・・・。もう少しでしょ?』 「ああ。あと5時間以内には確実に着く。」 『りょーかい。じゃあな。』 プツン、と通信が切れる、 「まあ・・・あの精神兵器だけなら何とかなるだろ。」 「ですね・・・。あとはどうやってオギウエさんを救出するか・・・。」 ササハラが送られてきた基地の画像を眺めながら呟く。 「ああ・・・。まあ、何とかなるだろ。」 「・・・はい。」 そこまで話してマダラメは少し間を置いたあと呟いた。 「あー・・・。ちょっとトイレ行くわ。」 「・・・はあ。」 そういって廊下の方へと出るマダラメ。 「隊長どうしたんでしょか?」 クチキがササハラに向って話す。 「・・・カスカベさんのところに行くのかな?」 「ああ・・・姉さん、沈んだままだね・・・。」 「・・・私たちが何言っても無駄って感じがします・・・。」 ケーコとオーノが口々に言葉を発した。 「・・・・・・あのコーサカがなぁ・・・。あそこまでするとは思ってなかったよ。」 タナカが少し悔しそうに呟いた。 一同、沈んだ顔をするしかなかった。 「カスカベさん、ちょっといいかな?」 「・・・いいよ。」 サキの部屋の前。マダラメは少々緊張しながら扉を開ける。 「あー・・・。食事くらいには来ようよ。」 「・・・ごめん。動けなかった。」 「あー・・・。」 かける言葉が出てこないとはまさにこういうことなんだろう。 戦闘でかける言葉ならいくらでも出てくるのに。 こういう状況に弱いことを自覚するマダラメだった。 サキがうずくまるベッドの縁に腰掛ける。 「・・・コーサカね、幸せに、って言ったんだ。」 「うん。」 「でもさ、私にとっての幸せって・・・。あいつと過ごす事になってた。  前は・・・仕事とかあったけど・・・。それも今またやろうと思えるようになったのは・・・。  あいつが・・・無駄にいつも笑ってくれてたおかげだって分かってるんだ・・・。」 「・・・うん。」 「勝手だよ・・・。あいつ勝手だよ・・・。」 涙をこぼすサキに、少しの静寂が訪れる。 「それはあいつにとってもそうだったんだろうなあ・・・。」 マダラメがぼそりといった言葉にサキははっとする。 「だから、少しでも安全な策をとりたかった。安全度はこっちの方が明らかに高いからな。」 「・・・でも・・・。」 「ササハラに罪滅ぼしなんていってたらしいが・・・。  俺たちゃ・・・何も責める事なんて考えていなかったのにな・・・。」 「・・・。」 「それに・・・。よっと。コーサカが死んだとは限らん。  それなら・・・俺らが生き残らなきゃ生きてあいつに合わす顔がねえだろ。まさにな。」 立ち上がりながら話すマダラメのその言葉に、サキがプッと噴出す。 「・・・何いってんのよ、こんな時に。」 「その顔。その顔でいねえと。生き残れねえって。」 「・・・ありがと。」 その言葉に、マダラメは胸に熱いものがこみ上げる・・・が、それを必死に抑えた。 「・・・ごめん。」 「サキさん、大丈夫なんですか。」 何時間かぶりにようやく出てきたサキを、オーノが心配する。 ブリッジは、少しの安息がおとずれる。 「ああ・・・。生きて合わす顔がなくなっちゃうからね。」 そういって、満面の笑顔で通信席に座る。 「・・・?でも、元気になってよかったです。」 「よし、第801小隊!いくぞ!もうすぐ敵の制宙圏だ!  MS隊はコクピットについとけ!!」 マダラメの掛け声と共に、パイロットメンバーが立ち上がる。 「「「了解!!」」」 アンジェラ、スー、ササハラ、そしてマダラメがMS格納庫へと向う。 『よーし、早く来い!今回のチューンは完璧だ!』 通信から聞こえるタナカの声が響く。 「クチキ君、十分注意してね。」 「了解であります!」 操舵を握るクチキの手に汗が滲む。 「ミノフスキー粒子、散布。敵はもう一個厄介なものを抱えてる。  重々注意するよう。  ・・・これは僕らのケジメでもあるんだよ・・・マダラメ君。頑張ってくれ。」 大隊長はぼそりと呟く。その声を捕らえられたものは居なかった。 「敵基地がレーダーに映ったよ!目的地まであと1時間!」 ケーコの声が響く。 「・・・コーサカ、生きてるんだろ?だから、私も生きるよ。  ・・・・・・生きて帰れたら、また一緒にご飯食べよ。とびっきりの作ってやるからさ。」 サキの目に光が宿る。皆の緊張が徐々に高まっていく。 誰がどう考えても最後の戦い。そして、今迄で一番つらい戦い。 いままでのように艦船に攻撃が及ばないことはないだろう。 「・・・・・・大丈夫。我々には女神がついている。  第100特殊部隊に居たあの女神がね・・・。」 大隊長のメガネがきらりと光った。 第801小隊の艦船は、敵基地へ全速力で向っていた。 『ササハラ・・・緊張してるか?』 マダラメの声が聞こえる。 「当然でしょう。・・・正直どうなるか分からないんですから・・・。」 『ははっ、まあそうだよなあ。』 まだ発信の合図が出ない格納庫で皆静かに時を待つ。 「隊長も、緊張してるんでしょう?」 『まあなあ。・・・なんかいやな予感もするしな。』 「いやな予感?」 ディスプレイに映っているマダラメの顔が少し沈む。 『・・・ここんとこ昔の夢をよく見るんだよ。』 「昔?」 『隊長さん、昔何かあったの?』 そこにアンジェラが割って入る。 『・・・・・・前よ、俺がいた隊の話は聞いたろ?』 「・・・ええ、あの大量虐殺の起こった・・・。」 『あの時な、俺はその兵器の起動室にいた。』 「ええ!!?」 驚きを隠せないササハラ。 『俺はまだ入隊したばかりで血の気も多くてな。  任務でその兵器に攻撃を仕掛けてたんだが、一人で単身突入した。  MSから降りて、起動室を発見したまさにその時。  起動しようとしている瞬間だった。』 遠い目をして思い出すように話すマダラメ。 『妙なじいさんがな、なんかいじくってるわけよ。  俺は銃をかまえて撃とうとした・・・だが撃てなかった。  直接人を殺す度胸がなかったんだな。MSではいくらでも出来てたっていうのにな。  結果、そいつは起動し・・・多くの人命が失われた。』 『それ、まさか、カリフォルニア・コロニー宙域の・・・!!』 アンジェラの顔が変わる。スーも、めったに変えない顔が変わる。 『・・・そうだ。あのコロニーの被害もそれが原因だよ。  多くの人が死んだ。皇国も連盟も関係なくな。  ・・・・・・俺はそれを手伝っちまったようなもんだ。』 沈黙が続く。 「そのときの夢を・・・見るって事ですか?」 『ああ・・・。それ以来、俺は人を殺すことに抵抗が出来た。  あの時出来なくてなぜ今出来る?ってな・・・。』 宇宙に来てから特に酷くなった。あの夢が。 何か警告を与えるように・・・。 『状況が似てるせいかも知れない・・・な。』 宇宙。大量殺戮兵器。そこへ攻撃を仕掛ける隊。 『・・・隊長さん、それは違うよ。』 アンジェラが声をかける。 『違う?』 『あんたは何も悪くない。撃てなかったのは・・・後悔するべきかもしれないけど。  やっぱり、作って使った奴が悪いのさ。手伝ったなんて、言わないでよ。』 「その通りですよ。・・・隊長。今回は、同じようにはなりませんよ。」 『・・・大丈夫、貴男なら出来るわ。』 スーがぼそりと呟く。 『・・・そうだな。』 ふう、と溜息をつき、席にもたれ、目を瞑る。 「隊長・・・。」 『だから、これはけじめになるかもしれん。俺の、過去へのな。』 目を見開き、ニヤリと笑うマダラメ。 『それでこそ隊長さん。頑張りましょう!』 『やるのだ!我々の手で!』 「・・・そろそろですね。」 ササハラも目を見開き、システムを起動させる。 『・・・いよいよですね。』 「・・・はい。何か、感じますか。」 『・・・・・・今は何も。もう少し近付かないと・・・・・・。』 時は迫る。緊張が高まる。 『・・・よし。基地が目の前だ!!』 マダラメのこれが響く。 『第801小隊、出撃する!全員、生きて帰れ!これで・・・最後だ!』 「お嬢・・・いや、ナカジマ大佐。あの兵器を利用すると?」 荒野の鬼はナカジマに向って尋ねる。 「ああ・・・。だが目的は連盟の部隊殲滅ではない。  それだけなら、ミノフスキーウェーブで十分だ。」 「・・・では、なぜ。」 ナカジマはニヤリと笑うと、親指を立て、下に向けた。 「・・・地球を燃やすのさ。奴らの故郷を、無くしてやる。」 「馬鹿な!!そんな事!!」 荒野の鬼は目をかっと見開き、狼狽する。 「なぜ、悪い?奴らは私達の故郷を消滅させたんだぞ?」 「・・・それは・・・。」 「コロニーも地球もない。やられたらやり返す。それだけさ。」 そういって、笑うナカジマに、荒野の鬼は下唇を噛み、震える。 (私がいけないのか・・・。私が望むままに・・・。) 「ナカジマ大佐、準備できましたぞ、ほっ、ほっ。」 一人の老人がそこに現れる。 「おお、博士。完璧か?」 「もちろんでございますよ。射出量もカリフォルニアのときの3倍。  ここまでの支援、ありがたく感じます。」 そういってお辞儀をする老人。 「・・・お前を宇宙でかくまったことに恩義を感じているのなら当然だ。」 「私としても、この兵器の完成が夢でございますからなあ・・・。」 ニヤニヤ笑いながら言葉を続ける老人。 ブーブーブーブー・・・。 そこに警報が入る。荒野の鬼は、部屋の外に出て行く。 『連盟の部隊が攻撃を仕掛けてきました!』 「・・・爺、頼むぞ。オギウエと共に出てくれ。二つの兵器だけは守らねばならん。」 「・・・・・・了解しました。」 背中でその声を受けながら、歩を進める荒野の鬼。その姿が闇に消えた。 『オギウエ、準備はいいか。』 「もちろんだ。・・・連盟軍は皆殺しだ。」 そういいながらコクピットでディスプレイに映る荒野の鬼を見る。 『・・・まあ、無理はするなよ。貴様の乗ってるMAには大切な兵器が積んであるんだ。』 「なに、これを使えば動けなくなる。無理のしようもないさ。」 そういいながら、操縦桿を握る荻上。生まれる感情は憎悪と怒り。 心が冷えているように感じる。 しかし、その時無重力の中で、ペンダントが浮かび上がる。 「・・・これ・・・なんなんだ・・・。」 捨てようとしても捨てられない。見ると何かが疼く。 中には覚えのない女性。しかし、何かが・・・。 『オギウエ?』 「・・・なんでもない。いくぞ。」 『・・・了解。MS隊出るぞ。一機たりとも近づけさせるな!!』 「あれは・・・!?」 廃棄衛星を利用して作られた基地の横には、見た覚えのある巨大な射出装置。 体に震えがこみ上げる。その形、大きさ、全てが悪夢の再現のように・・・。 「・・・・・・あんなもの蘇らせやがったのかよ・・・。」 『隊長、あれは?』 宇宙で併走する4機のMS。ササハラから通信が入る。 「さっき話した奴だよ・・・。」 『まさか!!?』 『とんでもない隠し玉だね!また!!』 『・・・くやしいけど、これが戦争なのよね・・・。』 マダラメは震える体を強引にいきり立たせる。そして、一つの事実に気付く。 「あの兵器・・・射出方向を地球に向けてる!?」 『狙いは・・・地球なのか!!?』 ササハラが驚愕の声を上げる。 『その通りだ。皆、奴らの狙いは連盟軍の殲滅だけでない。地球そのものだ。』 大隊長から連絡が入る。その言葉に、誰も声が出なかった。 『全く・・・冗談じゃねえぞ・・・。』 ようやくマダラメは呟く。 『隊長・・・どうする?』 『・・・くそ、敵さんがきやがった。』 アンジェラの問いにマダラメが答えるに早く、敵が現れた。 黄色いゲルググを中心に、リック・ドムによる編隊である。 そして、一機、大きなMAが後ろに続いていた。 「・・・まさかあれに?」 『・・・いやっ!』 ササハラの頭に、会長の声が響く。 「どうしました!!?」 『強烈な悪意と・・・憎悪・・・なんてつめたい意識・・・。  でも・・・あれがあなたの大切な人・・・。』 MAを指差す会長のイメージ。同時に、スーが声を上げた。 『・・・感じる・・・。感じる・・・。あの大きいのに私に似た人がいる・・・。』 NTという存在をようやく信じ始めていたマダラメは、 スーの言葉から、ひとつのことを察知した。 『そういうことか!・・・ササハラ、お前の役目は、分かるな。』 「・・・いいんですか、隊長。」 ササハラが、マダラメに申し訳なさそうに尋ねる。 『馬鹿野郎。別に気遣って言ってるわけじゃねえ。  精神攻撃を止められりゃ、ヤナ隊だって動けるんだ。  お前の役目はあれを止めて来ることだ。いいな!』 「了解!」 言うが早く、ササハラは宇宙を駆ける。 『よし、俺らはササハラを援護するぞ!  ・・・あの黄色いのは借りがある。俺がやる。  あとの雑魚は任せた、二人なら大丈夫だ!』 『・・・ふふ、了解!任せてよ!』 『・・・・・・出てこなければやられなかったのに・・・。』 スーがビットを大量に放出させていく。 それが敵編隊に降り注ぐ。戦闘開始の合図となった。 ビットの強襲に、編隊を乱すリック・ドム部隊。 「く、玉遊びなぞに!!」 叫ぶが早く、荒野の鬼は敵を認識する。 「・・・きたか、あの赤いのだな!!」 急速接近するマダラメのゲルググ。 『借りを・・・返させて貰うぜ・・・荒野の鬼さんよ!!』 両手のナギナタを振り回しつつ、突撃をするマダラメ。 「なにを!・・・性能は互角か!」 それを間一髪で交わすが、そこにビットが降り注ぐ。 「くそ!邪魔だ!」 ビットを切り払いつつ、サーベルを振り回す鬼のゲルググ。 『・・・お前ら、何を企んでやがる・・・。  地球を火の海にでもするつもりか!!?』 「その通りだ!」 叫びながらぶつかり合う二機のMS。 『そんなことをすれば・・・!!皇国だって地球を支配したいんだろうが!』 「そんなことは関係ない!!私はただお嬢様の意志を貫かせる手伝いをするだけだ!!」 ライフルがマダラメを狙う。それをかわしながら、再びマダラメは接近する。 『てめえ、それでも!』 「私には守らなければならない存在がいる!」 再び切り結ぶ二機。火花が散るのが見える。 『・・・それは俺だって同じだ!大切な・・・大切な仲間がなあ!!』 再び離れる二機。少し牽制するように動きが止まる。 「・・・止めたければ私を倒せばいい!」 『そうさせてもらうわ!・・・今回はあんなことにはならねえからよ!』 再び戦闘体制に入る二機。 宇宙を自由に駆けながら、一進一退の攻防は続いた。 『お嬢さまだかなんだか知らねえが、俺らは生きる為に、自分の為に戦ってんだ!  大した忠誠心かも知れねえけどな、そんな奴に負けるもんかよ!』 「うるさい!貴様に私の何が分かる!」 『分からないね!分かりたくもねえよ!』 アンジェラは、一機のドムを落としていた。 「まったくわらわらと出てきて・・・!」 しかし、妙なほど数のいるドムに、後手後手に回ってしまう。 『アンジェラ、あせらない!ササハラがあのMA止めるまでの辛抱だよ!』 サキから檄が飛ぶ。 「サキ、OKだよ!」 その声に笑顔で答え、ジムを動かす。 「避けるだけなら・・・!!」 ドムの編隊からビーム・キャノンが一斉放射される。 「くっ!」 それを体を回転させながらかわす。 そこにドムからの追撃が入る。上からビームサーベルがアンジェラを狙う。 「ちぃ!」 かわしようがなくなったアンジェラを、スーのビットが助ける。 ドムがビットの直撃を受け、姿勢を崩す。 「そこだね!」 バズーカ砲がドムを直撃する。 「スー、サンキュ!」 『・・・遊びでやってんじゃないんだよ。』 しかし、そのスーを、ドムが狙う。ビーム・バズーカがスーを照準に入れる。 「スー!」 だがスーはそれを予想していたようにあっさりかわす。 『・・・・・・見える。』 その様子を見て胸をなでおろすアンジェラ。 スーを狙っていたドムを、粒子砲の光が包む。 『スー、アンジェラ、気をつけて!』 艦船からの支援攻撃であった。 「・・・ササハラ君。早く。君に掛かっているんだ・・・。」 大隊長が呟く。目の前で手を組み、上目遣いにディスプレイを見る。 「大隊長!ドムがこちらにも!!」 「弾幕を広げるんだ。オートで動くようにしてある。・・・ここが堪えどころだ。」 ササハラは一直線にMAに接近する。 途中邪魔をするドムを二機ほど撃墜しながらである。 自分でも、不思議なほどMSの扱いがうまくなっている事に気付く。 「・・・これも会長との同調率が上がっている証拠なのか?」 『ええ。貴方の見ている世界がよく分かります。』 「俺もですよ!」 叫びながら、もう一機、ドムを切り払う。 「出てくるからっ!」 爆発を背に感じながら、ササハラは進む。 「死にたくなければ出てくるな!!・・・あまり殺したくはないんだ!!」 叫ぶササハラのMSから、光が発せられ始めていた。 『来ますよ!本命のお出ましです!』 会長の声と共に、目の前にMAが現れた。 中心にメガ粒子砲を装備し、左右と上にアンテナを装備している。 「・・・オギウエさん!!」 『・・・なんでここまで・・・。心を操作されている可能性があります・・・。』 感じる冷たい思念波に、会長は少し震える。 「そんな!」 メガ粒子砲がササハラのジムを襲う。 「くっ!分からないのか!?俺だよ!」 通信をつなげようとするが、繋がらない。 『来る!』 「くそ!近寄るしかない・・・けど!」 しかし、MAからの砲撃がやまない。周辺をドムが囲み、自由に動けない。 「どうすれば・・・どうすればいいんだ!」 『・・・答えて!答えて!』 会長は叫ぶ。オギウエに向って、思念を飛ばす。 「・・・くそ!」 襲ってきたドムを切り払う。 四面楚歌の状態になりつつ、ササハラはそれでも希望を捨てていない。 「・・・まだだ、まだいける!」 「・・・え?」 声が聞こえた気がする。 聞き覚えがある・・・優しい声・・・。 しかし、それを思う出そうとすると、頭が痛む。 「原因は貴様かああ!!」 目の前にいるジムに向って、激昂するオギウエ。 照準をつけ、メガ粒子砲を放つ。・・・が、かわされる。 「なら!これを起動させるまでだ!・・・動けなくなれえ!!」 ミノフスキーウェーブが起動する。見えない振動が宇宙に広がる。 ・・・戦いは激化していく。 次回予告 出会ったのが悪かったのか。 出会わなければよかったのか。 無常の宇宙で、彼らの思いはすれ違う。 ・・・どこで狂ってしまったのだろうか。 でも。それなら。 元に戻せばいい。 そう信じて。 次回 『シンデレラ・チカ』 お楽しみに

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