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*いくらハンターⅡ 【投稿日 2006/02/07】 **[[カテゴリー-笹荻>http://www7.atwiki.jp/genshikenss/pages/47.html]] 大学の帰り道、まだ明るい時間帯のこと。 荻上はコンビニに寄ると、またしても弁当コーナーに 「ミニいくら丼 395円」という新商品を発見した。 狼の目で手にとって真剣に眺める荻上だったが 『でも、まだ夕食時間じゃないし…ミニなら夜食かな?』 ちょっと名残惜しそうに棚に戻す。 なんだか前と同じ失敗をしそうな荻上だが…。 夜も更けて。今夜は、夏コミで本を買ってくれた人からの依頼で くじあん女性向けアンソロ本に寄稿することになって、 2ページ分の原稿に向かっていた。 冬コミではなく他のイベントでだが、マイナーな 盛り上がりに参加できるのは嬉しくも有った。しかし…。 「降りてこないナァ」 1枚物のイラストなのでアイデア勝負なのだが、今日に限って なかなかコレ!という萌えシチュエーションが降りてこなかった。 右側に描くものが決まらないので、左に描くピーな物の シチュエーションも決められない。 その時、携帯の着信メロディーが穏やかに鳴る。 BUMP OF KITCHEN(通称バンキチ)の「超新星」。 しみじみと良い曲で笹原への感謝を忘れないように という自戒の意味もある。 すぐにぱかっと携帯を開いて笹原のフォルダを開く。 「なんか原稿やるって言ってたよね?差し入れしに寄るよ。  あ、泊まらないから気を遣わないでね。邪魔しちゃ悪いし。  今からコンビニだから何か欲しいものあったら言ってね。」 「ありがとうございます。締め切りは遠いので気を遣わないで下さいね。  でも嬉しいです!それで…ミニいくら丼を買って来て貰えれば……。  笹原さんの好きなチャイと角砂糖の準備をして待ってますね。  寒いから気をつけてください。」 返信を送ると、気分転換になると思い、シナモンなど香辛料と茶葉を ごそごそと取り出しにかかる荻上だった。 しかし、なかなか笹原は来なかった。 30分ぐらいなら気にならないが、40分、50分となると不安が募る。 「夜に来る時は自転車で来る事も多いけんども、今日は歩きなんべか?  それとも交通事故とか…いやいや、心配性過ぎだナァ……」 などと考えていると呼び鈴の音。 荻上は返事もせず扉に走ると、覗き窓も見ないでそのまま扉を開ける。 「あ、ごめん。遅れちゃって……。  あと、もひとつゴメン!いくら丼探したけど無かったんだ」 荻上の憮然とした表情に、笹原は焦って言い訳を続ける。 「今日は自転車だったから4軒巡ったけどどこにもなくって―――」 「いいですから!」 笹原の冷えた手を、荻上の小さく温かい掌が包む。 「イクラ丼より笹原さんが来てくれたのが嬉しいんですよ」 「えっ、でも………」 「心配だったんですから。もう……入ってください」 とりあえず買ってきたミートソーススパ1つを机に置き、 まずは二人で熱いチャイを飲む。 「笹原さん、チャイだけは砂糖山盛りなんですよね」 「ん、まあね」 「それ、食べる時はレンジで温めるから言ってね。  原稿続けてよ。―――調子はどう?」 「やー…その……じょ、女性向け2Pなんですけど、どうも……」 「あ(汗)ひょっとして俺のせい? ほんとゴメン」 「いえ、その前からアイデア出てませんでしたから……」 しばし無言になる二人。 立ち上がると、スパゲティーをレンジに運ぼうとする笹原だったが 「あ―――、ちょっと」 「え?あぁ、ひょっとして…気分じゃない(苦笑)?」 「うぅ……ごめんなさい、せっかく買ってきてもらったのに」 ちょっとへこんで、へにゃっと潰れ気味になる荻上だった。 「いや、前にもいくらモードになると他の食べ物が入らなくなるって事が有ったし  ひょっとしてって思って、これ1つだけ買ったんだ(苦笑)。俺が食べるよ」 「なにから何までスミマセン…ありがとうございます」 ちょっと涙が滲みそうな雰囲気だが、流石にこんなことで泣けないと ぐっと表面張力で頑張る荻上だった。 『笹原さん、ありがとう……私って、けっこうワガママなんだな……』 笹原はそんな荻上の潤んだ瞳を見て一瞬顔を曇らせたが、次の瞬間 晴れやかな笑顔でこう告げた。 「じゃあさ、二人で探しに行こうか!」 「―――え?」 「だからさ、深夜のコンビニツアーに、探索の冒険に出立さ(笑)」 ちょっとおどけた笹原の口調。 『深夜…ツアー…探索…冒険』 そのキーワードと、笹原の楽しそうな様子につられて荻上にも笑顔が戻る。 「なんか、わくわくしてきました」 「夜明けを待たないで帆を張るんだよ」 「私達、愚かな夢見人ですね(笑)」 二人にしか通じない、歌詞の引用。バンキチの「船出の日」だ。 笹原はもう立ち上がるとコートを羽織り始めている。 荻上も、慌ててコートと手袋とマフラーを準備した。 外に出ると、真っ暗な闇夜に白く雪がきらめいている。 そして笹原が自転車に跨って振り返っている。 「さあ、乗ってよ」 「っはい!」 荻上の頬が少し赤いのは、寒さのせいではなく興奮しているせいだ。 後輪の軸のステップに足を掛けると、荻上はしっかりと笹原の胸に抱きつく。 前に二人乗りした時は、肩に手を付いて離れて不安定になったり、逆に 首を絞めてしまって大変な事になった経験が生かされている。 まあ、笹原もこれで心身ともに暖かくなるだろう。 二人乗りの自転車は重いダイナモの音を響かせながら 雪の夜道に旅立っていった。 「沿線の違うあっちの町に行ってみようか?」 「私、あっちの道は喫茶霊峰までしか行ったことありません」 二人で雪の深夜に出かける、そして探索の旅。そのことで高揚した二人は きっとすぐに目的のいくら丼と、楽しい記憶の財宝を手に入れるだろう。 荻上が深夜の自転車二人乗りのシチュエーションで原稿を仕上げたのは また後の話―――。
*いくらハンターⅢ 【投稿日 2006/04/21】 **[[カテゴリー-笹荻>http://www7.atwiki.jp/genshikenss/pages/47.html]] ある日曜のこと、画材の買出しを終えて、日も暮れて帰宅した 荻上が郵便受けを見ると、寿司のテイクアウトチェーン、 小象寿司の広告が目に留まった。 『特選北海セット(サーモン・かに・いくら丼)』 『特選海鮮セット(マグロ・サーモン・イカ・かつおタタキ丼)』 『特選いくらセット(いくらが山盛り丼)』 ―全品、本日限り680円!!― 「特選いくらセット!?」 思わず声が出る荻上。しまったという表情で赤面するが 玄関に買って来た荷物を放り込むと、急ぎ足で最寄の小象寿司へ向かう。 どんどん暗くなる道を、時々通りかかる車のライトに照らされ 長い影を伸ばしながら、荻上は急いだ。 道の向こうに、小象寿司の窓の明かりが見える。 『間に合った………。』 荻上が店内に入ると、特選品の棚には海鮮セットの丼が2つと、 いなり寿司や、バラ売りの手巻き寿司が数本有るだけだった。 『いや、焦るな、言えば作ってくれるはず。それは知ってるべ。』 レジの前には、おばさんと青年が2人並び、逆サイドでは座って 待っている、孫を連れたお爺さんが居る。 荻上は、品切れになっていない事を祈りながら列に並ぶ。 その時、前の青年が順番になり、オーダーを告げた。 「あ、俺、特選イクラ丼を―――。」 「申し訳ありません、本日もう品切れとなっております。」 笑顔で答える、店員のお姉さん。モンゴル出身の横綱に似ている。 「え?じゃあ北海セットは?」 「大変申し訳ありません、そちらも品切れに―――。」 前の客よりも早く、店員の返答を最後まで聞かずに、 うっすら涙目で踵を返す荻上だった……。 帰り道、スーパーに寄ってみるが、こちらも閉店間際。 今日はいくらはもう無くなっていた。 仕方なく子持ちししゃもを買って帰るのだった。 翌週の土曜日、笹原とデートの荻上だが、脳内は既にディナーに飛んでいた。 『笹原さんのことだ、きっと「何が食べたい?」って訊いてくるはず!  そしたら私は「回転寿司にしましょう」って答えるんだ……。  よし!「回転寿司にしましょう」「回転寿司にしましょう」うん!  返事のシミュレーションもばっちりだ、私!』 でれでれと歩く笹原の横では、目の中に炎を灯して歩く荻上の姿が見られた。 そして日も暮れて…。 「今日の晩御飯だけど、これから……。」 その台詞を待っていた荻上の目がギラリと光る。 『よし来た!「回転寿司にしましょう!」さーこい!』 「この先の、イタリア料理店予約してみたんだ。」 「かい…え?ええ~っ!?」 荻上は笹原の方を2度見してしまうほどの吃驚っぷりである。 「あれ?ダメだった、荻上さん(汗)?」 「え?いえ!……そ、そんなこと無いデスヨ!?」 「ひょっとして、嫌いだったかな?」 顔に縦線を浮かべながら冷や汗もたらしている笹原。 「違うんです、笹原さん。気のせいです、気のせい。」 そんな笹原を見て焦り気味の荻上。 「ただ、そんなお洒落っぽいお店を予約するのが意外だったというか――。」 「はは、そうだね、オタクが、俺がお洒落を気取っても駄目だよね………。」 思わず失言が飛び出した荻上と、どんどん落ち込んでいく笹原。 二人の空回りは、この日は修復不能であった。 食事はしたけどみかんは無しで別れる二人だった。 とはいえ、すぐに何事も無かったように、デレっとしたり感激したりする、 この時期の二人は翌週までには雨降って地固まる状態である。 翌週末の深夜、オンリーイベント向けの原稿のネームを切っている 荻上の部屋を訪ねる笹原の姿があった。 手にはコンビニのビニール袋が提げられている。差し入れのようだ。 「こんばんは~。荻上さん、差し入れ持って来たよ。」 「こんばんは、ありがとうございます。」 言葉は素っ気無いが、笹原の来訪が何よりの嬉しい差し入れだ といった様子が、嬉しそうな目元に表れている荻上だったが……。 差し入れの中には、苺の生クリームカステラ挟み260円と、 手巻き寿司(いくら)150円。 「あ!いくら巻き新発売ですか。今日からでしょうかねぇ。」 「うん、どうだろ…そうかもねぇ。」 いくらに過剰反応する荻上だった。 そしてそのまま包みを開き、オレンジの粒を確認すると海苔をスライドさせ ロール状の酢飯を巻いて行く。 「ありがとうございます。いただきます。」 笹原の方にぺこりと軽く会釈してからパクリと巻き寿司を いや、いくらを口に運ぶ荻上。 『………?』 嬉しそうに見守る笹原の視線を感じて、平静を装う荻上だったが 内心は、打ち寄せる波が高くなってきていた。 『いくらの味はどこ?あの粒々の感触はどこ!?  ………くっ!酢飯の味しかしないっすよ、笹原サン!』 思わず笹原を恨みそうになる荻上だったが、愛しい人の姿が 目の端に留まって思い直す。 『いや、笹原さんは悪くない…。半端な物売りやがって!7-トゥエルブめ!!』 にこやかに食べ終わると、すぐにもう1品もぺろりと平らげ、 会話もそこそこに机に向かう荻上だった。 その様子に不審がる笹原だったが、原稿の邪魔はすまいと 横に積んであったハレガンを読み始めるのだった。 荻上は鉛筆を片手にネームを書こうと唸っていた。 『大事な人がすぐ近くに居るのに、満たされないこの気持ち……。  なんと人間とは業が深いものか。む!?これだ!』 何かテーマを思いついたようで、荻上の鉛筆が紙の上を走り始める。 『それにしても、いくら……求めれば求めるほど逃げていく……。  そんなに求めなくても食べれそうな物なのに、何故に―――。』 偶然に翻弄され、我が身の不運を嘆く荻上の夜は更けて行った。

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