「第十二話・孤軍、奮闘」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
「第十二話・孤軍、奮闘」(2006/04/12 (水) 13:53:03) の最新版変更点
追加された行は緑色になります。
削除された行は赤色になります。
*第十一話・震える空 【投稿日 2006/03/12】
**[[第801小隊シリーズ]]
「結局兄貴はオギウエにお熱なわけね~。」
「はあ?何だよその言い方。」
「だってさ~、形見の渡しちゃったんでしょ~?」
ニヤニヤ笑いながら兄の方を見るケーコ。
「んー、あー、預けただけだって。」
ササハラは少し恥ずかしそうに妹から視線をそらす。
「はあ?なんでよ。」
「ん、大切に預かっといてって頼んであるんだ。
おまじないみたいなもん。もうオギウエさんが戦場に出てこないよう──。」
「ふーん。やっぱお熱なんじゃん。」
「あー、もういい。俺は行くよ。」
「あ、逃げんなよ~。」
笑いながら二人は食堂から出て行く。
ケーコは兄とした会話を思い出していた。
私、何にも出来なかった・・・。
オギウエを止めなけりゃいけなかったのに。
兄貴の気持ちわかってたつもりなのに。
いまだ押し寄せる異常な感覚に苦しみながらも、自分のした事を悔いた。
スパイなんて・・・なんて嫌な仕事なんだろう。
おそらく相手は自分の情報を下に待ち受けていたのだろう。
しかし、後悔をしてももはや遅い。
涙を流しながら、ケーコは唇をかんだ。
「畜生・・・。」
周りの人に、その言葉の真意は伝わらなかっただろう。
『・・・オギウエ様ですな?』
荒野の鬼は先ほどまでと打って変わって紳士的な言葉を紡ぐ。
ジムを弾き飛ばし助けた、ジムキャノンと黄色のグフは面と向き合い、睨みあう。
「?私の名前を知っている?もしかして・・・その声・・・ナカジマの家の・・・。」
聞いた事があった。ナカジマの家の執事さんは、歴戦の軍人でもあると。
父親が個人的に部下で置いておきたいがために使用人としても雇っているのだと。
その歴戦の相手が相手ということだ。そして、もう一つ。
「ナカジマがいるの?!」
オギウエは少し声を上ずらせ、叫ぶ。
『・・・そうでなければ私はここにはいないでしょう。
いや、それ以前にあなたはここにいたはずだ。お忘れで・・・?』
頭が痛む。
いつから記憶が途切れている?
そういえば、私はなぜあのMAに乗っていた?
配属された後の記憶が凄く曖昧になっている。
私はどこの基地で、どういう仕事をしていた?
「うっ・・・。」
呻き声をあげる。それを思い出さないよう何かがシャッターをかけている。
『・・・まあいいでしょう。お嬢様に会われればすべて思い出すでしょう。』
「ま、まさか、私が目的で・・・?」
『・・・・・・その通りです。帰りましょう。あなたの居場所はそこではない。』
そういって一歩グフは踏み出す。
「・・・いやです。この後あなた方は皆を殺すのでしょう?」
『・・・・・・そうですな。この基地の所在を知られた以上は。』
「・・・なら、私が守らなきゃいけないんです!私が原因ならなおさら!」
『いいでしょう!実力の違いを思い知るといい!』
叫ぶと、グフは勢いよくジムキャノンへと飛び出した。
中距離戦向きのキャノンでは、接近戦に分はない。
それは誰でもわかるMSの常識だ。
オギウエもその事は重々承知で、距離をとっていた。
しかしだ。
「は、速い!」
グフはブーストをかけたかのような突進力でキャノンへと迫る。
ゆうに200m以上あったはずの距離は一瞬で縮まる。
『これが、フライトタイプの技術応用ですぞ!』
脚部に内蔵されたフライトシステムを、突進力に変化させる。
荒野の鬼専用のグフはフライトタイプをベースとしたものだった。
その使用にはおそらく並でない技術と経験が必要だ。
そのままキャノンへと体をぶつけるグフ。
キャノンはそのまま吹っ飛ばされ、後ろにあった岩山へと激突する。
「ぐぁ・・・!」
呻き声をあげ、気絶しそうになるオギウエ。
しかし、何とか気力を振り絞り、意識を保つ。
「・・・な、なんて突進力だ!」
息を整えながら相手の動きに惑うオギウエ。
『少々手荒になりそうですが、勘弁していただきますぞ!』
「く、くそぉ!」
キャノンの砲台を構え、グフへと向けるオギウエ。
ドォン!ドォン!荒野に砲声が響く。
『ははは!当たるものですか!』
それをフライトシステムを応用しながらかわすグフ。
そして再び接近する。
ガシィ!
両手を押さえ、動けないようにする。
『これで縛っておきますか・・・。』
ワイヤーを体から出し、キャノンを縛るグフ。
『これで、もう動けないでしょう。観念なさい。』
「く、くそぉおおおお!」
オギウエの叫びが荒野にこだまする。
ササハラはその光景を黙ってみてるしかなかった。
否、動こうとはしていた。
しかし、ササハラはその影響を長時間受けたため、
ものすごい脱力感、疲労感、倦怠感に見舞われていた。
視力、聴覚、味覚、嗅覚、触覚、全ての感覚が弱まっている。
頼りのシステムも、会長は狂いそうなほどの悲鳴を上げていた。
なんとかシステムをきる事は出来たが、それが精一杯であった。
しかし、目の前で捕まるオギウエを、黙ってみていられるはずもない。
「う、うあああああ!!」
叫びながらジムの操作管を握る。しかし、それに力が入る事はなかった。
「くそ、くそ、どうすれば・・・。」
大きな声を出しているつもりでも声は小さくしか出ない。
そのとき、目の前に黒いMSが現れた。
「コーサカ君!?」
コーサカは何とか動く事は出来た。
普段の何割も力を削られている事は実感できたが、この間も二機を撃破。
そして、この場に現れたのである。おそらく、会長の叫びを感知したのだろう。
「離してもらう!」
コーサカはそう叫びながらグフへと襲い掛かる。
『ほう!ガンダムタイプか!』
嬉々とした叫びが荒野にこだまする。
「グフ・・・フライトタイプ!」
その外観で相手のMSがどういうものかを見抜くコーサカ。
下手に離れると逆に危ない。
『ククク・・・よもやガンダムタイプと一戦交えられるとは!』
先ほどの紳士とは打って変わり、戦士の声に変わる荒野の鬼。
「くそ、思うように動かない・・・!」
兵器の影響は免れないコーサカは、苦悶に顔をゆがめる。
『とはいっても・・・、まともな勝負にはなりそうもないな。』
「・・・それはどうかはやってみましょうか!」
コーサカは叫ぶと、ガンダムの左腕から何かを取り出した。
「これで・・・。どうだ!」
ドオン、ドオン!
煙が上がる。どうやら取り出したのは煙幕のようなものらしい。
『ぬおお?』
一面が砂嵐に混じった煙幕によって視界がなくなる。
『しかし、それではお前も何も見えまい!』
視界のないその先に向かってグフから声が走る。
しかし、反応はない。少し、間が空く。戦場とは思えない奇妙な静寂。
ごう、ごうと砂嵐の音だけが響く。
じゃっ!
鎖のこすれあうような音が聞こえたと思うと、グフの前を一本の鎖が通過した。
『おおお?』
目の前に通過していく鎖を少しのけぞりつつかわす。
しかし、鎖の先は軌道を変え、グフを縛るよう回転を始める。
『なんとぉ!』
そのまま鎖は回転し、グフの動きを封じ込める。
「大体の場所がわかれば追尾可能なんですよ。」
そういいながら姿を現すガンダム。煙は収まってゆく。
鎖の先端に一種の金属探知機のようなものがついており、
それが反応するとそちらへ方向を変える。
後はうまく操作をすればこのようになるわけだ。
『なるほど・・・。しかしガンダムにしては小手先だな。やる事が。」
「なに?」
もうすでに勝利を確信していたコーサカに嫌な予感が走る。
『ほうりゃ!』
叫ぶと、鎖はあっさりと断ち切られる。
「馬鹿な!これはそんな簡単に・・・!」
『はははあ!普通のMSと一緒にしてもらっては困る!これは鬼なのだよ!』
そのまま千切れた鎖でコーサカにつながっているものをつかむと、思いっきり引っ張る。
「う、うわぁあああ!!」
そのまま引き寄せたガンダムをサーベルで真っ二つに破壊する荒野の鬼。
『終わりだな!ガンダム!まともな状況ならまた違ってたかもしれんがな・・・。』
ササハラはその様を見ているしか出来なかった。
コーサカ乗るガンダムは上半身が崩れ落ち、もはや機能していない。
コクピットのコーサカの生死も定かではない。
「くそ・・・何も出来ないのか・・・?」
歯を食いしばろうにも力が出ない。
この最中で動けていたコーサカはやはり何かが違うのだろう。
無気力さに、情けなさに顔をゆがめる。
その時。胸が青く光る。
「え・・・?」
不思議な光に胸をまさぐる。ペンダントが光っている。
そして、その後に。体が軽くなるのが分かる。
「どういうことだ・・・?」
しかし、この機会を逃す手はない。
システムを恐る恐るオンにするササハラ。
『・・・大丈夫ですか?!』
いつにない興奮した声を出す会長に、あくまで冷静に答える。
「・・・大丈夫です。・・・いけそうですか?」
『はい・・・。』
「では、行きますよ!」
そういうと、すぐさまグフへと向かうササハラ機。
ビームサーベルを構えながら突進し、振り下ろす。
『む!?』
少し油断していた荒野の鬼は、それをかわそうとするが、腕を破壊される。
『なんと、動けるのか!?・・・こやつら・・・。何者なのだ!?』
再三にわたる攻勢に、焦りだした荒野の鬼。
「はぁ、はぁ、オギウエさんを離せ!」
動けるようになったとはいえ、完全復調ではない。
息も荒いながらも、システムとの同調をしっかりと果たしていた。
『もう少しです!』
「はい!会長、お願いします!」
『はは!楽しませてくれる!』
心からの哄笑を言葉に含みながら、荒野の鬼は動く。
片手になった腕にヒートサーベルを持ちながら、ジムを迎え撃つ。
高速移動を巧みに行いながらジムへと接近する。
『右!』
その言葉に反応しながらグフの攻撃をかわすササハラ。
「そこぉ!」
サーベルを振るうササハラ、それを受け止めるグフ。
ヒートサーベルは切り落とされるが、それをあっさり手放す。
そして、左手の隠しマシンガンを放つ。
ドダダダダダダダ!!
「うわあ!」
ササハラは予測できなかった隠し武器に驚き、回避する。
脚部の付け根に当たり、関節の動きが悪くなる。
「くっ!」
しかし、悠長な事はいってられない。そのままサーベルを持ちかぶりを振る。
『いけない!!』
その目の前には、グフが突進してきていた。そのまま衝撃を受けるササハラ。
『ははぁ。楽しませてくれる・・・。ぐぅ・・・。』
しかし、彼の方もかなり兵器の影響を受け、かなり疲労が蓄積していた。
『そろそろ片をつけんとな・・・。』
腰から落ちているジムに向かって、最後の攻撃を仕掛けようとする。
隠し持っていたヒートロッドを左手で持ち、接近する。
「うわああああ!!」
ヒートロッドの先がササハラのジムへと向かう。間一髪、かわすが頭部が破壊される。
センサーが破壊され、ディスプレイには何も映らなくなる。
「くそ!くそ!」
歴戦の猛者であろう相手に、何かの影響はあるにせよまるでかなわない。
悔しさに歯噛みするササハラ。腕で、コクピットの前板をはがし、視界を広げる。
『もうその辺にしておけ。何がお前をそうさせるのかは分からんが・・・。』
「・・・それでも!守りたいものがあるんだ!」
ササハラのジムは何とか立ち上がる。しかし、動く事は出来なかった。
「・・・そうか・・・。」
もはや動く事もままならないジムへと最後の一太刀を浴びせようと荒野の鬼は動く。
そこに連絡が入る。
『じい。捕獲はできたか?そろそろ上がらないと上の連中がうるさくなってきた。』
ナカジマである。上がるというのは宇宙へ、ということだ。
「・・・今すぐですか?他に生き残ってる兵もおりますが・・・。」
『安心しろ、大体戻ってきている。』
いっている事が本当なのかは分からない。
自分がそういうことを気にするだろうと嘘をついているのかもしれない。
しかし、逆らうわけにもいかず、疑うわけにもいかない。
「・・・了解いたしました。」
そういうと、捕捉してあるジムキャノンを肩に担ぐと、動けないジムを一瞥する。
「・・・・・・面白かったよ、貴様らと戦えた事は。もう二度と会う事もないだろうがな。」
『な、なに!?』
大きな駆動音が響く。上空には巨大な輸送船。あのとき、兵器を回収したあの船だ。
「我々はこのまま宇宙へと上がる。それが可能なのだよ。」
重力圏離脱すら可能というその艦船は、空に振動を響かせながら降下してきた。
「それではな。」
二本のワイヤーが降りてくる。それにジムキャノン、そして自機をくくりつける。
『ササハラさん、ササハラさん!!』
オギウエの叫びは先ほどからずっと響いていた。
それでも、やめるわけにはいかなかった。私は・・・。あの方にお仕えする身なのだから。
例え・・・何かしらに歪んでいるとしても。それは関係はない。
『オギウエさん、オギウエさん!!』
しかし、少しの自己嫌悪が走る。これでいいのか?よかったのか?
ジムの叫びを聞きながら、そのまま引き上げられる二機。
そして、二機を収納した後、艦船は徐々に、徐々に上昇していく。
ササハラは叫ぶ。空を震わすほどの大きな声で。
「ああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
何が守るだ!何が戦場へ出さないだ!
兵器の影響がなくなった荒野に、慟哭が響いた。
「・・・そうだ!コーサカ君!」
少し呆然とした後、あの攻撃を受けたコーサカに意識が移る。
とりあえず生死を・・・、いや、きっと生きてるはずだ。
コクピットから飛び降りると、崩れ落ちたガンダムのほうへと向かう。
「コーサカ君!コーサカ君!」
「だ、大丈夫・・・。」
声が漏れる。その声の元へ近づくと。
どうやら、間一髪コクピットの直撃は免れ、下半分の方に彼は座っていた。
とはいえ、破片でぶつけたのか頭から血が出ていた。
「コーサカ君!」
「大丈夫、軽いよ。それよりも途中で反応が消えたらしい隊長の方が心配だ・・・。」
すると、機能の生きていた通信機器に連絡が入る。
『お前らこれるか!?』
その声の主はタナカだった。非常に緊迫した声だった。
「は、はい!」
『あの船がいなくなって、あの変な感覚がなくなったってことは終わったんだな!
はやくこい!マダラメがやばい事になってる!』
ザクのところに走ってたどり着いた二人が見たのは無残にもコクピットがつぶれた光景だった。
クガヤマはガンタンクⅡで乗り付け、すでにタナカと共に作業をしていた。
「ま、マダラメさんは!?」
「わからん!早くこじ開けんと!」
そういったタナカは作業用の道具をあれこれ渡し、すぐに全員で捜索に移る。
「くそ、くそ!」
この上、死者まで出たら!その感情をぶつけながらひしゃげた金属を引き剥がしていく。
「どうだ!?いないか!?」
コクピットの椅子が見えてきたにもかかわらず、姿が見えない。
「ゥ・・・。」
「声が!!」
よく見ると、コクピットのしたのスペースにマダラメががもぐりこんでいる。
おそらくあの瞬間に体を滑り込ませたのだろう。しかし・・・。
「手が!」
右手が金属の破片に挟まってしまい、ひじ下から潰れていた。かなりの出血だ。
他にも破片が体に埋まり、全身が血で覆われていた。
「速く!速く医務室へ!!」
田中が叫ぶ。そこに、丁度第801小隊の母艦が到着した。
「・・・大丈夫です。容態は安定してます。」
あの後、すぐさま担ぎ込まれたマダラメは、腕の縫合、輸血と治療が施された。
しかし、腕の方は元には戻らないだろうと、オーノはいった。
医務室の前の廊下にて、皆は沈んだ表情になる。完全な敗北。そういってもいい。
様々なものを失ってしまったのだ。
「あの状態だと・・・。あと2、3日目を覚まさないと思います・・・。」
オーノは悲しそうな表情で皆に伝えた。
「・・・ちゃんとした治療受けさせないとな・・・。」
タナカが苦い表情で呟く。
「・・・なんなんだよ、あの変なのは!!」
皆が思っていた怒りを吐露するサキ。
「・・・・・・おそらくあのMAに搭載されていた兵器だよ。
オギウエさんが大丈夫だった理由もここにあったのかもしれないね・・・。
パイロットである彼女だけには耐性があるのかもしれない・・・。」
きわめて冷静に、コーサカはおそらく当たっているだろう予想を述べた。
「・・・そういうことか。あいつらがオギウエさん狙った理由は・・・。」
ササハラが悔しそうに壁を叩く。その姿に皆は目を伏せるしかない。
「でも、ササハラ君、動けてたよね。何で?」
「え・・・。ああ、これ。オギウエさんからもらったの。これが光ったら・・・。」
「それって・・・。」
そのペンダントをまじまじ見るコーサカ。
「・・・これ、借りてもいい?大丈夫、ちゃんと返す。」
「・・・うん。」
いつにない真剣な表情を浮かべるコーサカに、それを渡すササハラ。
ガチャ。
閉まっていたはずの医務室の扉が開いた。
「ま、マダラメさん!」
「何をしてるんですか!安静にしててください!」
「お、お前ら・・・戦況は・・・。」
オーノの制止を振り切り、マダラメは青い顔で睨みを利かせる。
「・・・ガンタンクⅡを除き三機全壊。
また、ジムキャノンで出撃した・・・オギウエさんがそれごと拉致されました。」
ササハラがすぐに報告を行う。オギウエの事を言う瞬間に少しためらいがあったが。
「死者は・・・?」
「一番危ないのは隊長です!安静にしててください!」
そう叫ぶササハラ。しかし、マダラメはさらに睨みを利かす。
「・・・おとなしくしてられるか・・・!拉致、されたんだろう!
追いかけるぞ!どこにいったんだ奴らは!」
「上・・・です。」
そう、コーサカは呟く。
「上・・・?宇宙、か!?」
マダラメは驚愕の表情を浮かべる。
「まさか、重力圏からの離脱が可能なのか?」
「ええ、敵の輸送艦は可能だったようです・・・。そのまま上に・・・。」
「くそ!」
動く手の方で扉を叩くマダラメ。そこに、サキが口を挟む。
「・・・宇宙には、いけないの?」
「・・・無理だな。我々にはその手段がない。・・・・・・本部からの許可が出ない限り。」
重力圏からの離脱、というのは口で言うほど生易しいものではない。
普通ならば、シャトル台、HLVというものを使う必要性がある。
そのようなものは、今現在宇宙への侵攻が進んでいる現在易々と借りられるはずもない。
「・・・無理じゃないよ。」
ビクゥ!とその場にいた全員が驚く。声がした方にはいつもの大隊長。
「だ、大隊長!いつの間に!」
驚きのあまりに口をパクパクさせるマダラメに、大隊長はにっこり笑う。
「君はとりあえず寝てなさい。」
「ど、どういうことですか?」
もう、大隊長がなぜいるかはどうでもいい。
ササハラにとって「宇宙にいける」事実の方が重要だった。
「うんそう、我々は宇宙に行くんだ。」
ササハラの焦る顔に大隊長はいつもの飄々とした言葉使いで返す。
「え、それって・・・。」
「とりあえず西の砂漠、ニッポリシャトル基地へ向かおう。
細かい事は道々、ね。あ、そうそう、マダラメ君。」
「はい!なんでしょう!」
何かの指示かと緊張した面持ちで敬礼するマダラメ。
「早く寝なさい。」
そういうと、大隊長はゆったりとしたペースで去っていく。
その言葉に緊張の意図が切れたのか、がっくりと崩れ落ちるマダラメ。
「早く戻りましょう!」
「ああ・・・。すまん・・・。」
オーノとタナカに抱えられ、マダラメは医務室へと戻っていく。
そして、他の皆は大隊長の後についていくしかなかった。
「フフフ・・・久しぶりだね、オギウエ。」
「ナカジマ・・・!!あんた・・・。」
後ろ手を縛られたままオギウエはナカジマの前につれてこられた。
すでに艦は宇宙へと達しており、今、皇国の本隊へと移動しつつあった。
「フフ・・・。話に聞いたよ?記憶、飛んでるそうだね。
これでも思い出さないかな・・・?『お帰り、チカ』。」
「・・・ああ!ああああああああ!!」
オギウエの顔が驚愕、そして悲痛な表情に変わる。
「記憶、やっぱり封印されてたんだね。博士、やってくれる・・・。」
そうはいうものの、その顔は笑みで歪む。
「博士は!マキタ博士はどうした!?」
そう叫ぶと、オギウエはナカジマを睨む。
「安心しな?一番心の休まる場所に行ってもらったからね?
あんたを兵器ごと逃がしたその日にね。相棒も一緒に・・・ね。」
「ま、まさか・・・!」
「フフフ・・・。あと、向こうの連中に変なこと吹き込まれたみたいだね?
大丈夫だよ、貴方の望む貴方にしてあげるから・・・。」
そういうと、オギウエを抱きしめるナカジマ。
涙ぐむオギウエは、力も入らない。
「さあ、この子を研究室へ。遠慮はいらない。この子が望んでいるのだから。」
そう、部下に冷酷な表情に変え指令を出すナカジマ。
オギウエには解っていた。このあと何が起こるのかも。
しかし、それは他人を犠牲にしてまで戦いから逃げようとした自分の罪なのかもしれない。
それでも。
「ササハラさ・・・ん・・・。助けて・・・。」
オギウエの胸元では、ペンダントが揺れていた。
次回予告
砂漠のシャトル基地へとたどり着いた第801小隊を待っていたのは
なかなか発射しないシャトルだった。
ようやく発射が迫るころ、皇国軍『砂漠サソリ』の襲撃が始まる。
基地の防衛隊がやられていく。
その最中、唯一動くガンタンクⅡでクガヤマは飛び出す。
次回、「孤軍、奮闘」
お楽しみに。
*第十二話・孤軍、奮闘 【投稿日 2006/04/11】
**[[第801小隊シリーズ]]
「うあああああああああああああああ!!」
暗い機械だらけの部屋の中に、ガラス越しに隔離されたオギウエが座っている。
電流が流されているのか、光のほとばしりにあわせて苦悶に顔が歪む。
「・・・これ以上は、命に危険が・・・。」
「そうか。・・・意外に時間が掛かっているな。」
白衣をきた研究者と思わせる男がナカジマに進言する。
それに答えながら少しナカジマは顔をしかめる。
「はぁ・・・、はぁ・・・。」
電流の放電が収まり、オギウエは荒く息をつく。
オギウエはこれを前に体験した事がある。前は自ら望んでだったが。
ナカジマはオギウエのいる部屋に入ってくる。
「・・・どうしたの?オギウエ。前はああもあっさり受け入れたのに。」
「・・・私は・・・もう・・・。」
戦う気はない。そう、暗に示す顔をする。
それに顔を歪めながら激昂するナカジマ。
「何をいってるの!?あの時私にいった言葉は全て嘘!?
・・・ああそうか。向こうで何かされたね?そうに決まってる。」
そういって口の端を不気味に上げて笑みを浮かべる。
「・・・これは?」
オギウエの首に掛かっているロケットに気付くナカジマ。
「・・・触るな!」
手に取り中を見ようとするナカジマに対し、オギウエは声を荒げる。
中を見たナカジマは怪訝な表情を浮かべるしかなかった。
「・・・女?よく分からないが・・・。まあ、いい。」
そういうと、ペンダントから手を離し、研究員に向かいって叫ぶ。
「死なない程度に続けていけ。」
「・・・了解いたしました。」
「ナカジマぁ・・・。」
オギウエは去っていくナカジマの背に向かって弱弱しい声をかけた。
彼女を歪めたのはきっと自分。これは、罪。それでも・・・。
「ササハラさん・・・。」
ペンダントが、少し光ったように見えた。
「だから、急いでるって言ってるだろ!」
ケーコの叫びが基地内に木霊した。
ここは砂漠のニッポリ基地。シャトル発射場のある連盟の要だった所。
現在は主要軍隊の宇宙発射はほぼ終了しており、閑古鳥が鳴いている。
「何度言わせれば分かるの?肝心のシャトルの準備にまだ掛かるといってるでしょう?」
そういいながら、PCへ向かい黙々と処理を続ける一人の女性。視線すらもケーコに向けない。
かけた眼鏡が、一見したクールな印象をより強めている。
「・・・ケーコちゃん。待とう。しょうがない。」
「・・・でも・・・。」
ケーコはコーサカにそういわれ、しぶしぶその部屋から出て行く。
「・・・すまんね。キタガワ中尉。」
「・・・・・・マダラメ中尉、こちらこそ申し訳ないです。」
そういって初めてキタガワはこちらを向き、頭を下げた。
マダラメは手を始め全身に包帯を巻いていた。痛々しい。
「いや・・・。こっちも急に来てるんだ。頑張ってくれているのは分かってます。
我々もいろいろあっていらいらしてる部分もあってね。」
「・・・・・・戦争は嫌なものですね。」
「・・・ああ。早く終わるといいですな・・・。」
そういって二人は苦笑いした。
外に出たケーコは、サキとオーノになだめられていた。
「ケーコ、焦るのは分かるけど・・・。」
「そうです。一番焦ってるはずのササハラさんが落ち着いてるんです。
他の人がそうしてもしょうがないでしょう?」
「・・・落ち着いてる?兄貴が?そんなわけ無いじゃん。」
そのケーコの言葉にサキとオーノは驚いた顔をした。
「落ち着いてるのは表面だけ。分かるんだ。昔からああなんだよ。
怒りとかそういう感情を・・・。心に溜めて、いつかバクハツさせるんだ。」
サキとオーノは顔を見合わせる。
「だから急がないと・・・。兄貴、壊れちゃうよ・・・。」
ケーコはそういって肩を落とした。
ササハラはというと、一人、砂漠をガラス越しに見つめていた。
どこまでも続く砂漠。地平線は砂煙にぼやけてよく見えなくなっている。
「・・・くそっ!」
人のいる前では決して見せない表情を浮かべ、拳をガラスに叩きつける。
思い浮かぶのあの瞬間。連れ去られていくジムキャノン。
「何が・・・。守るだ・・・。」
約束は守る事が出来なかった。その自分が不甲斐なくてたまらない。
おそらく殺されている事は無いだろう。あそこまでして連れ戻したのだ。
パイロットとしての利用価値が高いのだろう。人を殺させるための。
ササハラは大隊長の話を思い出した。
「ということは、あの兵器は人の神経を犯す、と・・・。」
「そういうことだね。ある施設に侵入していた工作員が調べたところによると、
ミノフスキー粒子の振動を利用した精神兵器の開発したところがあるそうだ。
その調書によると・・・。君らが受けたのはおそらく・・・そのレベル2だ。」
「レベル2?まだ上があるって事ですか・・・?」
「うん。最高のレベル5になると・・・。神経がいかれる。死と同然になる。」
「そんな兵器・・・!」
「使う方にも影響はある。だからこそその防御システムの開発こそが重要だったらしい。」
「オギウエさんは・・・。」
「その使用者として耐性がつけられたんだろう。」
「だから・・・、連れ戻したと。」
「それが大きいとは思うんだけどね・・・。また作ればいいという考えもある。
・・・何か他に理由があったのかもしれない。」
砂漠を見ながら思うことは唯一つ。
「絶対に助ける。いや・・・。君に人殺しはもうさせない。」
人を殺すのが戦争。だけどそれをむやみに行う必要なんてないはずだ。
大量殺人兵器。それを起動させるわけにはいかない。
握りすぎた拳から血がにじむ。その目には決意が込められた。
「しっかしまあ、宇宙に初めから行かせるつもりだったとはね。」
タナカは必要な部品だけを分ける作業を基地の人員を借りて行っていた。
「あ、あの作戦の後に宇宙に行って最終戦に参加する予定だったとはね・・・。」
クガヤマはそれを手伝いながら、汗を拭く。
「だから俺とかコーサカに宇宙用の設計なんかさせてたんだなあ。」
「そ、そんなことしてたの?」
「ああ。ただの道楽だと思ってたんだけど。」
そういって少し手を休めて苦笑いを浮かべるタナカ。
「じ、じゃあ、それが今宇宙で作られてるのかな?」
「らしいよ。最初の行き先もフェスト社の宇宙ドッグ「ビッグサイト」だと。
あそこは連盟のお抱えだからね。だからあまり持っていく必要もない。」
「そ、そうか~・・・。そ、そうなるとこいつとはおさらばかな~。」
そういってクガヤマはとなりにあったガンタンクⅡを見上げた。
「そうだなあ。宇宙じゃこいつは役立たずだからな。」
「だ、だよなあ。け、結構気に入ってたんだけど。」
「おまえ、戦車好きだもんな。」
「ああ。き、キャタピラのあるMS大好きなんだよね。」
「タンクしかないじゃないか!」
そういって笑うタナカ。
「ははは。そ、そうだなあ。・・・う、宇宙か・・・。」
「行きたくないか、やっぱり。」
「ん・・・。お、俺は・・・まあ・・・。大丈夫だけどな。」
「・・・いい思い出は無いからなあ。俺らは。」
そういって、視線を窓から覗く空へと向けるタナカ。
満点の青空の向こうには、暗い宇宙が広がっているのだろう。
「タナカ殿~、これはこっちでいいでありますか~。」
クチキの大きな声にタナカは振り返る。
「おう、いいぞ~。・・・まあ、頑張ろうぜ。」
「だ、だな・・・。」
「これでよし、と。」
サキは医務室でマダラメの手を見ていた。
「・・・すまんね。しかし驚いたな。カスカベさんの研究が人工器官関係だったとはね。」
「まあ、医療系って言えば確かにそうなんだけど。オーノがやっているのとはまた毛色が違うから。」
「・・・・・・動くようになるかな?」
「・・・私の開発した義手ならきっと動くとは思う。だからいま私が診てる訳だし。
宇宙にそれがあるらしいから、後は向こういってからだね。」
「・・・・・・すまん。」
「あやまんなよ!あんたはしっかり戦ってきたんだろ。・・・私はやれる事をやるだけだ。」
医療用の道具をしまいながらサキは立ち上がる。
「・・・だけどカスカベ二等兵。なんで軍人嫌いだったの?」
「・・・・・・今も嫌いだよ。あんたらは軍人の中でも特殊な方だろ?」
「それはそうかもしれない。」
「・・・負傷兵がよく送られてきた。私の研究にうまくフィットする患者ばかりだったよ。
最初はそれを不思議とも思わず一生懸命働いてた。治したかったのもあるしね。
でもね。ある日聞いちゃったんだ。わざと、その箇所を壊して送ってきてるって。
・・・ありえないだろ?こっちは治す為に一生懸命やってるのにさ・・・。
それに気付けなかった私自身も、それを指揮した軍人も恨んだ。」
「・・・・・・なるほどね。」
「・・・一時は全部捨てようかと思ってたんだ。ここに来た頃は。
でもね。それじゃあせっかく傷ついたあの人たちが無駄になっちまう。
過去に戻る事が出来ないなら、それを今に使うのが一番なんじゃないかって。
あんたらを見てそう思ったんだ。」
サキはマダラメを見て笑う。
「あんたの腕は必ず動くようにしてやる。安心しな!」
「・・・ああ。期待してるよ。」
一足先に医務室から出て行くサキ。
「・・・・・・過去に戻る事は出来ない、か。」
サキの過去とその言葉に自分を照らし合わせて考え込む。
目を細め虚空を見つめ、動かない自分の手へと視線を動かし、止めた。
「というわけで、シャトルの方へ。」
キタガワがシャトルの準備完了を知らせに来たのは次の日の午後であった。
「は、早いですね!」
「・・・まあ、急ぎ、ということでしたから。」
目のしたにはクマがある。徹夜での作業だったのだろう。
「・・・無理を言ってすいませんでした。」
ササハラがキタガワに向かって頭を下げる。
「・・・・・・別にあなた方のために急いだわけではないですよ。
戦争が広がる原因を止めたいのは私達も一緒だということです。」
「キタガワ中尉・・・。」
「ご武運を祈ります。頑張って下さい。」
そういうと敬礼をこちらに向けて行う。小隊員一同でそれに返すために敬礼を行った。
「そう・・・、お願いもあるんです。ドッグの連盟指揮官にこれを。」
キタガワが取り出した手紙を、サキが受け取る。
「・・・分かりました。」
「お願いね。」
皆が荷物をまとめ、シャトルへと向かう。
「ササハラ君。」
その最中、コーサカがササハラに声をかけた。
「これ、返しておくね。」
例の青いペンダントを取り出しササハラに渡すコーサカ。
「あ・・・。これ、なんだか分かったの?」
「うん。それはね・・・。」
プククッ!プククッ!プククッ・・・!!
そのタイミングで警報が鳴り出した。
「敵襲!?」
放送が流れる。
『敵襲です。防衛隊はすぐさま出撃準備を。第801小隊の方々はシャトルの方へ。
・・・必ず、安全に飛ばしてみせます。」
キタガワの強い言葉に、ササハラとコーサカは話をやめ、シャトルへの歩を早めた。
「あれが鬼が言ってた連中のいる基地か?あいかわらず奴は情報収拾がうまいな。」
ドムが三機、連なりながらニッポリ基地へと接近してゆく。
「らしいな。・・・そいつらが宇宙へ来るのを阻止しろ・・・か。」
「奴が恐れるくらいの連中だ・・・。フフ、久々に楽しめそうだ・・・。」
「敵機は三機。こちらは五機。止められないはずがないわ!」
キタガワは司令室にてジム隊へ作戦指示をしていた。
「頼むわよ。キムラ准尉を中心にうまく展開。機体数の有利を守るのよ!」
『了解!』
司令室に響くMS隊の声。その言葉に、キタガワは強く頷いた。
この基地は砂漠の真っ只中にある。
シャトルの発射は散乱物がでるため、人のいないところに基地が作られる。
その砂漠に、五機のジムが敵の出現を待ち構えていた。
砂が風に舞い上がる。視界が悪くなる。
そして、それは唐突に現れた。
グワシャアアアア!!
一機のジムが上下真っ二つになる。友軍機の急な撃沈に動揺が走る防衛隊。
その隙を見逃すドム隊ではなかった。
彼らは、「砂漠サソリ」と呼ばれる皇国軍きっての熟練小隊であった。
「なに!?三機撃墜!!?」
恐ろしいほどの速度で防衛隊がおとされている事が報告され、キタガワの顔に動揺が走る。
「く、なんとか、何とかシャトル発射まで持ちこたえなさい!」
シャトルの発射はすでに十分を切っていた。
「彼らを・・・なんとしても飛ばすのよ!」
キタガワは叫び声を上げたあと、歯を強くかみ締めた。
「・・・あと八分。」
サキが発射予定時刻までの時間を呟く。
801小隊の面々はすでにシャトルにて発射を待つ身であった。
「大丈夫かな・・・。襲撃は・・・。」
「数的には有利だし何とか・・・。うおぁ!」
衝撃がシャトル内に伝わる。どうやら流れ弾が基地の方に当たったようだ。
「おい、こりゃやべーんじゃねえのか!!?キタガワ中尉!!?」
マダラメが叫ぶ。それに答え、キタガワが通信で答える。
『大丈夫です!何とか持ちこたえます!この機会を逃すと次はいつになるか!』
延期をすればいいというものでもない。シャトルの発射には何かと手間が掛かるのである。
すでに余剰エネルギーを溜めている状態であり、ここでの停止は危険でもある。
「・・・り、了解した!・・・どうせ、加勢にも行けませんしな!」
加勢に行きたいものの、彼らに動かせるMSは無い。そう、一機を除いて・・・。
「・・・あれ?そういえば、クガヤマさんは・・・?」
ササハラのその言葉に、先ほどまでいた一番存在感がある男が消えてる事に皆が気付いた。
「ま、まさかクガヤマのヤロウ・・・!!」
「あいつ、一人で加勢に行ったのか!!?」
マダラメとタナカが口々にクガヤマの行動を見抜いた。
「そ、そんな!俺も・・・!!」
「バカヤロウ!俺達が行ってもどうせ動かせるMSは無いんだ!」
ササハラが自分も、と席から立ち上がるが、それをマダラメが制す。
「・・・クガヤマに、頑張ってもらうしかねえ。」
「なーに、大丈夫さ。あいつだって、この戦争生き抜いてきたんだ。」
マダラメとタナカが、ニヤッと笑ってそういった。
「し、しかし・・・。」
「それとも何か?信用できねえか?」
「・・・そんな事はありません。」
「よし。・・・信じてまとう。」
シャトル発射まであと六分。
「なんだ、手ごたえの無い・・・。」
ドムはたった今破壊し、ちぎっていた四機目のジムの右手を投げた。
「あとは、一機、そしてシャトルか。」
ドムが動く。ジムは徹底抗戦の構えだ。
「あの一機だけがいい動きをしていたがな。期待はずれだ。」
三機のドムは一列に並ぶ。そして、そのままジムへと向かう。
ジムの視点からは一機しか見えないように見えるドム。
スプレーガンが放たれる。かなり良い精度で狙っている。
しかし三機はそれをうまく、見事に同調しながら交わしていく。
「ははぁ!!『トリプラー』の威力思い知れぇ!」
ジムの目の前に来た時、後ろの二機は左右に展開。
ジムは先頭のドムへと切りかかるが、それを読んでいたのか後ろへ後退していた。
そして、二機のドムが左右からジムへと襲い掛かる。
ドォン!!
その瞬間である。大きな砲台の音が砂漠に響き渡った。
その音を察知したドムは、ジムから離れ、距離をとる。
「なんだ?新手か?」
「戦車・・・?」
「違うな・・・。ガンタンクだな。ほほう、面白い。」
三機のドムが遠方に鎮座するガンタンクⅡの方へと視線を向ける。
「遠距離から攻撃されるのが一番厄介だな。」
「奴から破壊するか。」
「よし、『トリプラー』、仕掛けるぞ。」
距離をとられたジムはすでにタンクのほうへと身を寄せていた。
ガンタンクⅡは、静かに相手の出方を待つように佇んでいる。
「いくぞ!」
「おう!」
「はは!!」
『クガヤマ少尉!』
「き、キタガワ中尉、お、俺に構わずシャトル飛ばしてください。」
『・・・加勢、感謝します。了解しました。』
ガンタンクⅡのコクピットで、クガヤマはドムの方を睨んでいた。
急いできたため、汗がにじむ。そして、向かい来るドムに、緊張が走る。
『クガヤマ少尉、どうしましょう!?』
ジムの方から通信が入る。小隊長のキムラ准尉だ。
「・・・あ、あの戦法、は、端から見てると間抜けだけど・・・。」
『正直、錯覚で敵が一機にしか見えません。
寸前で横に展開されるため、避けようが無いのです・・・。皆あの戦法で・・・。』
キムラは少し弱気な声を出した。
「す、寸前・・・。よ、横に展開・・・。い、一列・・・。」
ぼそぼそとキーワードを羅列するクガヤマ。
「そ、そうか・・・。これなら・・・。」
『な、なにかいい方法が!!?』
「う、うまくいくかは分からないけど・・・。やってみる価値はある・・・。」
クガヤマはガンタンクを旋回すると、ドムと逆方向へ移動する。
『しょ、少尉?』
逃げるような状況になり、思わず上ずった声を出すキムラ。
「じ、准尉、奴らをうまく誘導してくれ。」
『どのように・・・。』
「お、俺の機体の前方直線ラインに奴らが来るように・・・。」
『わ、分かりましたが、その後は?』
ニヤ、とクガヤマは笑う。
「さ、作戦がうまくいくよう、祈っといてくれる?」
『はぁ?・・・分かりました・・・。』
いいながらクガヤマはガンタンクⅡを停止させた。ドムと十分な距離。
シャトル発射まであと二分。
「停止した?」
「構わん。行くぞ。」
「おう。」
ガンタンクⅡに迫るドム。その距離が徐々に近づく。
ジムは巧みにドムに向かって発砲を続ける。位置が、うまく移動していく。
彼らの位置が丁度ガンタンクⅡの砲台一直線上に並ぶ。
「・・・この距離から・・・。1・2・・・。」
ぶつぶつとコクピットで数を数えるクガヤマ。
直前まで接近。ドムが左右に展開する。
その瞬間、上半身を180回転させて、その動きを牽制する。
キュキュキュ・・・!!
キャタピラが大きな音を立てて旋回し、後方へとガンタンクⅡを移動させる。
左右に飛び出たドムはその移動に、攻撃する先を失ってしまった。
「く、何がしたいのだ!」
三機のドムが、標的を近場にいたジムへと変える。
油断していたジムは、彼らの胸部拡散ビーム砲の一斉射撃を受ける。
下半身の付け根辺りに直撃を受け、ジムは沈黙した。
「・・・キムラ准尉!」
クガヤマがコクピットで叫ぶ。
『大丈夫です!しかし、もはや動けません・・・。』
「・・・あ、あとは祈るしかないね。や、奴らがまた同じ事をしてくる事を・・・。」
『え?』
言うが早く、クガヤマは再びある一定の距離をとってドムに対峙する。
「・・・なんだ、あいつは。」
「フン。逃げ回ってるだけだろう。」
「時間稼ぎか。厄介だな。しかし・・・。次は逃げられんぞ!」
再びドムが三機並んでガンタンクへと迫る。接近してくるドム。
「・・・1・2・・・・・・。」
ある一定距離から再び数を数えるクガヤマ。
再びドムの攻撃が始まるかというその矢先。
ドォン!ドォン!
シャトルは発射された。
砂漠では、ドムが、三機まとめて吹っ飛んでいた。
『な、何が・・・』
「・・・さ、左右に展開する直前に砲撃した。それだけ。」
一回目の時、クガヤマはあるポジションから展開までの時間を計測していた。
そして二回目。その時間に合わせて引き金を引く。三機まとめて吹っ飛んだ、というわけだ。
油断し、展開に気を使っているだろうその瞬間をうまく狙ったのだ。
荒く息をつきながら、クガヤマは手に汗の滲んでいるのを感じていた。
『は、はあ。・・・うまくシャトル飛んでいけましたね。』
「う、うん・・・。次のシャトルで追いかけないとなあ・・・。」
『ははっ。すぐに追いつけますよ。』
「そ、そうだね・・・。」
クガヤマはコクピットから降りた。
「ふぅ~~~~。」
空を見上げる。少し、そうした後、ガンタンクⅡの方に向き直る。
ガンタンクⅡのキャタピラに手を当てて、ポンポン、と叩く。
「あ、ありがとうな、今まで。短い付き合いだったけど・・・。」
少しの沈黙。
パァン!
痛みが背中に走る。
「なっ・・・。」
振り返ると、そこには皇国軍の軍服を来た男が一人、銃を持っていた。
「よ、よくもやってくれたじゃねえか・・・。他の二人は逝っちまったよ・・・。」
頭から血を流した男は、さらに銃をクガヤマに撃とうとする。
クガヤマは逃げようとするが、血が口からあふれ、体が動かない。
バァン!
再び銃声。その音の元には銃を構えたキタガワがいた。労おうとクガヤマの下に来ていたのだ。
男は倒れる。クガヤマにキタガワは銃をしまいながら駆け寄る。
「クガヤマ少尉!・・・早く救護班!!」
クガヤマはその場に仰向けに倒れた。口から言葉が漏れる。
「・・・ご、ごめん、行けそうにない・・・。み、皆頑張れよ・・・。
そ、宇宙は・・・どう?変わってる?変わってなんか・・・ないだろうなあ。」
「・・・ん?」
宇宙に飛び立ったシャトルの中で、宇宙初体験のケーコは物珍しそうに外を見ていた。
そんな中で、マダラメも窓から地球を見る。
「どうかしましたか?」
ササハラがそのマダラメの様子を怪訝そうに見つめる。
「いや・・・。クガヤマの声が聞こえた気がしてね・・・。」
「へ?」
「ン・・・。空耳だろうさ。すぐに次のシャトルで追いかけてくるさ。」
少し口の端をゆがめるマダラメ。
「そうですね・・・。」
『あと一時間でドッグ艦に到着します。』
アナウンスが、響きわたった。
ササハラはその言葉を聞いて、顔をいっそう引き締めた。
次回予告
フェスト社ドッグ艦「ビッグサイト」にて新しいMS、
そして艦船の引渡しを受ける801小隊。
様々な面で彼らに最適にチューンされた新兵器たち。
彼らの最後の戦いが始まろうとしていた。
次回、「廻る宇宙」
お楽しみに