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*アルバムを覗けば 【投稿日 2006/04/05】 **[[カテゴリー-笹荻>http://www7.atwiki.jp/genshikenss/pages/47.html]] それは何でもない普通の日。 強いて言えば、とても天気の良かった日のこと。 荻上はいつも真っ直ぐ前を見て歩く。 ちょっとだけ不機嫌そうに。 別に機嫌が悪いわけではない。地顔なのだ。 実は本人も結構気にしていて、いくらかでも変えようと、毎日鏡の前で百面相しているのは秘密だ。 その度にため息をついて、自分が「かわいく」ないことに落ち込んでしまうのも秘密だ。 ついでに鏡に向かっているときに、うっかり「完士さん♪」などと囁いてしまい、照れくささと恥ずかしさで一人で大暴れした事は、荻上にとって最大級の秘密だ。 それらは誰にも知られてはならないのだ。絶対に。 特に笹原に知られたら…間違いなく飛び降りようとするだろう。 閑話休題。 荻上はふと足を止め周りを見渡した。 どこからか漂ってくる、かすかな花の香り。 名前も知らない人の家の、小さな庭の片隅の潅木に咲いた小さな花々。 その花の名前を、荻上は知らない。 でもバラのように派手でもなく、ランのように官能的でなく、桜のように圧倒的でないその花を、荻上は好ましく思った。 少しだけうれしくなる。 再び歩き出す。 その顔はわずかに笑っていた。 それはとてもかわいらしく。 その日笹原は、大野から借りた本を返すため、部室を訪れた。 しかしそこには誰の姿もなく、仕方無しに返すはずの本で復習を始めた。 不意に扉が開いて荻上が入ってきた。 「やあ、荻上さん」 荻上の返事はない。彼女は部室を見渡し、向かいの児文研の部室を覗き、窓に背中を向ける。 それから軽く咳払いすると、満面の笑みを浮かべて言った。 「こんにちは、笹原さん」 この笑顔を見るたびに、笹原は照れてしまう。 「そこまで警戒しなくても…それに、荻上さんはかわいいんだから、もっと自信を持って笑えばいいと思うよ?」 照れ隠しに笑いながら、笹原は提案する。そう言いながら、その笑顔を独占したい自分に気付いて苦笑する。 「どっちもいやです」 荻上は不機嫌な顔で答えると、笹原の隣に座った。 「ところで、何を読んでいる…」 荻上はさっきまで笹原が読んでいた本を手にとって、絶句した。 机の上に置かれた紙袋の中身を確認する。 間違いない。荻上は確信する。なぜなら、その内のいくつかは、彼女も持っているから。 「笹原さん…?」 固く暗い声で荻上は笹原に詰め寄った。 「え~と…」 笹原はあらぬ方向を見ながら頬を掻いている。 「どうして笹原さんが801本を読んでるんですか!?嫌がらせですか!?…まさか、本当に801に目覚めた、なんて言う…んじゃ……目覚めて…」 (『ふふ、どうしたの斑目さん?こんなに体を硬くして…』『だって、荻上が見てる…』『そう?見られて興奮してるんじゃないの?ほら、ここもこんなに硬い』『ち、違う!ああっ!』) (『完士さま、私もどうか…』『だめだ。お前はそこで黙って見ていろ』『ああ、そんな…』) (そして二人は私の見ている前で愛欲の限りをつくし…) 「…えさん!…ぎうえさん!聞こえてる?荻上さーん!!」 「ハヒッ!?」 荻上は我に返る。どうやら軽くワープしていたようだ 「大丈夫?まだ顔が赤いよ?」 「大丈夫です!それより、これはなんなんですか!?」 心配する笹原に、荻上はむきになって食って掛かった。 「笹原さんはこんなもの読まなくていいんです!こんな不潔でいやらしくて、作者の恥ずかしい妄想を固めたようなもの!」 「でも荻上さんも書いてるよね?」 笹原の一言で、今まで沸騰していた荻上がみるみるしぼんでいく。 「ああ、ごめん!それを責めてるわけじゃないんだ。ただ、いままで俺はこういう世界を知らなかったから、少しでも知りたいと思って…」 「何のためですか」 すねたような表情をして、荻上は笹原を見上げた。 そんな荻上を正面から真剣に見つめ、笹原は言った。 「荻上さんの力になりたいから」 荻上はトマトやりんごもかくや、というほどに真っ赤になる。 「俺は男だから、完全に理解できる自信はないけど、それでも何かの役に立てればいいな、と思ったんだ。」 「実際あの時以来、荻上さん、俺にそういう原稿を見せてくれないし…」 「俺はそういう趣味ごと、荻上さんが好きなんだ。だから、協力させてください」 しばしの沈黙の後、荻上はうつむいて、搾り出すように答えた。 「…アリガトウゴザイマス。コチラコソヨロシク…」 その答えに、笹原は満面の笑みを浮かべて荻上を抱きしめる。 荻上は何度か躊躇ったあと、笹原のシャツの背中をしっかりと握り締めた。 二人で荻上の家に向かう。 ふと笹原が足を止める。 「どうしました?」 「いや、なんかいい香りがするな、と思って」 荻上は黙って庭の片隅の潅木を指す。小さな花々が咲いている。 「ああ、それだったんだ。すごいね、荻上さん。すぐにわかるなんて」 「違います」 「何が?」 怪訝そうな顔をする笹原。 「秘密です」 荻上はそう言って笹原に笑いかけた。 そして彼の手を取ると、先になって歩き出した。 それは何でもない普通の日。 強いて言えば、とても天気の良かった日のこと。 そして初めて荻上から手を繋いだ日。
*普通の日 【投稿日 2006/04/10】 **[[カテゴリー-笹荻>http://www7.atwiki.jp/genshikenss/pages/47.html]] それは何でもない普通の日。 強いて言えば、とても天気の良かった日のこと。 荻上はいつも真っ直ぐ前を見て歩く。 ちょっとだけ不機嫌そうに。 別に機嫌が悪いわけではない。地顔なのだ。 実は本人も結構気にしていて、いくらかでも変えようと、毎日鏡の前で百面相しているのは秘密だ。 その度にため息をついて、自分が「かわいく」ないことに落ち込んでしまうのも秘密だ。 ついでに鏡に向かっているときに、うっかり「完士さん♪」などと囁いてしまい、照れくささと恥ずかしさで一人で大暴れした事は、荻上にとって最大級の秘密だ。 それらは誰にも知られてはならないのだ。絶対に。 特に笹原に知られたら…間違いなく飛び降りようとするだろう。 閑話休題。 荻上はふと足を止め周りを見渡した。 どこからか漂ってくる、かすかな花の香り。 名前も知らない人の家の、小さな庭の片隅の潅木に咲いた小さな花々。 その花の名前を、荻上は知らない。 でもバラのように派手でもなく、ランのように官能的でなく、桜のように圧倒的でないその花を、荻上は好ましく思った。 少しだけうれしくなる。 再び歩き出す。 その顔はわずかに笑っていた。 それはとてもかわいらしく。 その日笹原は、大野から借りた本を返すため、部室を訪れた。 しかしそこには誰の姿もなく、仕方無しに返すはずの本で復習を始めた。 不意に扉が開いて荻上が入ってきた。 「やあ、荻上さん」 荻上の返事はない。彼女は部室を見渡し、向かいの児文研の部室を覗き、窓に背中を向ける。 それから軽く咳払いすると、満面の笑みを浮かべて言った。 「こんにちは、笹原さん」 この笑顔を見るたびに、笹原は照れてしまう。 「そこまで警戒しなくても…それに、荻上さんはかわいいんだから、もっと自信を持って笑えばいいと思うよ?」 照れ隠しに笑いながら、笹原は提案する。そう言いながら、その笑顔を独占したい自分に気付いて苦笑する。 「どっちもいやです」 荻上は不機嫌な顔で答えると、笹原の隣に座った。 「ところで、何を読んでいる…」 荻上はさっきまで笹原が読んでいた本を手にとって、絶句した。 机の上に置かれた紙袋の中身を確認する。 間違いない。荻上は確信する。なぜなら、その内のいくつかは、彼女も持っているから。 「笹原さん…?」 固く暗い声で荻上は笹原に詰め寄った。 「え~と…」 笹原はあらぬ方向を見ながら頬を掻いている。 「どうして笹原さんが801本を読んでるんですか!?嫌がらせですか!?…まさか、本当に801に目覚めた、なんて言う…んじゃ……目覚めて…」 (『ふふ、どうしたの斑目さん?こんなに体を硬くして…』『だって、荻上が見てる…』『そう?見られて興奮してるんじゃないの?ほら、ここもこんなに硬い』『ち、違う!ああっ!』) (『完士さま、私もどうか…』『だめだ。お前はそこで黙って見ていろ』『ああ、そんな…』) (そして二人は私の見ている前で愛欲の限りをつくし…) 「…えさん!…ぎうえさん!聞こえてる?荻上さーん!!」 「ハヒッ!?」 荻上は我に返る。どうやら軽くワープしていたようだ 「大丈夫?まだ顔が赤いよ?」 「大丈夫です!それより、これはなんなんですか!?」 心配する笹原に、荻上はむきになって食って掛かった。 「笹原さんはこんなもの読まなくていいんです!こんな不潔でいやらしくて、作者の恥ずかしい妄想を固めたようなもの!」 「でも荻上さんも書いてるよね?」 笹原の一言で、今まで沸騰していた荻上がみるみるしぼんでいく。 「ああ、ごめん!それを責めてるわけじゃないんだ。ただ、いままで俺はこういう世界を知らなかったから、少しでも知りたいと思って…」 「何のためですか」 すねたような表情をして、荻上は笹原を見上げた。 そんな荻上を正面から真剣に見つめ、笹原は言った。 「荻上さんの力になりたいから」 荻上はトマトやりんごもかくや、というほどに真っ赤になる。 「俺は男だから、完全に理解できる自信はないけど、それでも何かの役に立てればいいな、と思ったんだ。」 「実際あの時以来、荻上さん、俺にそういう原稿を見せてくれないし…」 「俺はそういう趣味ごと、荻上さんが好きなんだ。だから、協力させてください」 しばしの沈黙の後、荻上はうつむいて、搾り出すように答えた。 「…アリガトウゴザイマス。コチラコソヨロシク…」 その答えに、笹原は満面の笑みを浮かべて荻上を抱きしめる。 荻上は何度か躊躇ったあと、笹原のシャツの背中をしっかりと握り締めた。 二人で荻上の家に向かう。 ふと笹原が足を止める。 「どうしました?」 「いや、なんかいい香りがするな、と思って」 荻上は黙って庭の片隅の潅木を指す。小さな花々が咲いている。 「ああ、それだったんだ。すごいね、荻上さん。すぐにわかるなんて」 「違います」 「何が?」 怪訝そうな顔をする笹原。 「秘密です」 荻上はそう言って笹原に笑いかけた。 そして彼の手を取ると、先になって歩き出した。 それは何でもない普通の日。 強いて言えば、とても天気の良かった日のこと。 そして初めて荻上から手を繋いだ日。

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