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現聴研・第三話」(2006/04/11 (火) 23:33:23) の最新版変更点

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*現聴研・第二話 【投稿日 2006/04/07】 **[[現聴研]] いつものように部室では、笹原がギター専門誌をパラパラと眺めている。 別に買いたいわけではない。彼は演奏ができない。 興味がないわけではない。はじめてこの部室に来た時には、退室したフリをした斑目たちにドッキリを仕掛けられ、誰も居ない部室で「エアギター」を弾いているところを目撃されている……。 傍らで自分のギターをいじっていた荻上は笹原に、「現聴研にはほかにも楽器のできる人はいないんですか?」と尋ねた。 「ああ、いるよ。久我山さんと高坂くんができるでしょ……」 「高坂さんは何でもできそうですものね」 「うーん、でも彼はね……天然だから」 「はあ……」    ※    ※ 荻上が入部するずっと前の2002年。現聴研部室に、斑目、田中、久我山、笹原がいつものようにタムロしていた。 斑目は部室のコンポで、10年以上昔の打ち込み系テクノバンド「ソフトバレー」のファーストアルバム「アース・バーン」を流して聞き入っている。 傍らでは久我山が自分のギターを持ち込んで何度もコードを練習している。しかし、彼が実際に一曲弾いたところはまだ誰も見たことがない。 田中は笹原に、LPレコードのジャケットを手にもって、ウンチクを垂れていた。海外の有名バンド「女王」の代表作「世界に告げる」だ。 「どうだ笹原、このSF小説のような世界観を感じさせる絵柄! ピングーフロイドの“原始心母”のように、不可解なジャケットから物語を感じないか?」 「でも女王はメジャーでしょう。うちはマイナーな音楽が専門じゃないんですか?」 「一般人が存在を知っていても、その奥深いところにも目を向けるのが俺らみたいな人種だよ」 「でも田中さんCDも持ってましたよね?」 「LPジャケットは一幅の絵なんだよね~、質感が違うんだよ。……見比べてみる?」 カタンとデスクの上に同じ絵柄のCDが置かれた。 斑目は音楽を止めて、「え~第245回、ソフトバレー復活ライブ見に行きたいな会議~」とおもむろに会議を招集した。 笹「この夏に復活したばかりなのに、そんなに回数重ねてるんですか?」 田「そこは流せ」 斑「いやまあ、あの3人が再結成するとは夢にも思わなかったけどなあ」 久「あ、ひょっとしてモダンチェキチェキズと共演したりして。夫婦つながりで……」 田「ありえねえ!方向性違い過ぎ」 そんな中、ガチャリと部室のドアが開き、春日部さんがやってきた。「うお」「何だ?」春日部さんは驚く彼らを一瞥した後、笹原を手招きした。 「ササヤンちょっと相談あるんだけど」 「え、俺っすか?」 「うん、あんたが一番まともそうだから……ってなんで敬語なのよ。タメでいいよ」と語り、聞き耳を立てる他3人をにらみ付けてから、本題に入った。 「高坂の部屋で、“椎菜へきる”って奴のCDが散乱してるのに気付いたんだよ……」    ※    ※ 荻「椎菜……へきる……ですか……」 笹原の話を聞いて、さすがに荻上も微妙な顔をした。    ※    ※ 舞台は再び2002年。 笹「あー、椎菜へきる。声優ね」 春「いやデパートは関係ないよ」 (それは西友だろ)と心の中で突っ込む斑目。春日部さんは、周りの4人の反応が鈍いのを見て憤る。 「何?あんたらの世界ではフツーなのそれ? エムネミとかザザンとか平井拳を聞かないの?」 田「俺らも一応ヒットチャートは押さえるよ」 久「は 始ちとせは、いいと思うな……」 しかし斑目は、「俺聞いたことねーよ。ここ数年の巷のヒット曲なんて」と、ボリボリとケツをかきながら呟いた。思わず固まる周囲。    ※    ※ 荻上は、「なんか、高坂さんがどうとかって話じゃないですね、もう……」と汗を拭う。笹原も、はははと情けなく笑うしかなかった。 (この現聴研部室に集う人間は、みな一癖も二癖もあるのだ)荻上は、この世界はまだまだ奥が深そうだと感じた。
*現聴研・第三話 【投稿日 2006/04/09】 **[[現聴研]] 「ラブソングが嫌いな荻上です」 「どーしてそんなに盛ってるんですか」 入会の際に荻上さんが発した第一声はこれだった。 春日部さんがフォローに入る。 「おいおい、それだとマイナーかメジャーに関わらず邦楽聴けんでしょ。  キミも聴くんでしょ?」 「私は硬派ですから、人生や友情や他にもテーマあるじゃないですか」 笹原は半笑いで場を取り繕うとする。 「まあ、そんなスタイルもありじゃないの(苦笑)」 しかし大野は勢いよく立ち上がり 「ラブソングが嫌いな女子なんて居ません!」 と叫ぶのだった。 そんなことが有って、笹やんの前でのギター披露があった次の週。 一人で部室で、荻上はギターを抱えていた。 今日はワインレッドのセミアコースティックギターの弦の張替え中だ。 外した弦は、飲み終わった紅茶の缶にぐいぐい入れる。 そして弦の巻き器をペグにつけ、右手で弦を引っ張りながら 左手でぐるぐるペグを回す。糸巻きに綺麗に弦が巻きついて その様子に荻上自身が納得したようで、満足げだった。 「♪フンフ~ン」 チューナのマイククリップをギターのヘッドにつけて調音をしながら 軽く鼻歌がもれる。 3回調音を繰り返すと、音程を確かめるようにゆっくりと演奏を始めた。 「♪明日の、シャツに迷ってるだけで、もう~」 宇佐実森、中期の名曲「日記」だが、これは会えない日々を綴った 切ない、ラブソングの部類に入る曲で。。。 しかし部室で一人、悦に入って荻上は熱唱している。 続いて荻上は、銀色の筒を左手薬指にはめ込んだ。いわゆるボトルネックだ。 カントリーやハワイアンなんかで使用される、あれである。 特徴あるミューンという音を響かせ演奏が始まる。 セミアコースティックなので、アンプに繋がなくてもそれなりに 音は響いている。まあ近々、アンプやエフェクターも持ち込みそうだ。 「♪恋でしょうか~ 街がにじんできた~」 どうやらこれも宇佐実森の同じアルバムに収録されている、 ベタなラブソング「恋カシラね?」だ。 「♪頷いてしまったら~ 今度からどんな顔を見たら良いのよ~」 歌い終えて一息ついて満足げに、ギターを机に横たえたその時。 ガチャリ。 「ちーす」 春日部さんが入ってきた。 焦って直立不動になる、挙動不審な荻上。 「さっき何か歌ってなかった?私は知らない曲だったけど」 「…はあ、いえ、その」 赤面しつつ、しどろもどろで返す荻上。 そこへ大野がやって来る。 「こんにちは―」 憮然とした気持ちを顔に出さないように努めている。 もっと興が乗って絶唱してるところへ静かに扉を開けて微笑む… そんな計画を立てていたところへ、春日部が入ってしまったので 今日の計画は中止になったのだ。 「こにゃにゃちわ~~~」 空気を読まない良い勢いで、そこへ朽木が登場した。 「あ!荻チンにょー。ちょーどよかった!」 嬉しげにmp3プレイヤーを取り出す朽木。 「こないだ夜、秋葉の路上で弾き語りしてたよね~心打たれたよー」 「ひへっ!?」 再生を始めたそこには、雑音交じりでは有るが確かに荻上の歌声。 どうやらアコギ1本で弾き語りしているようだ。 (♪恋は激しく、やさしい 海みたい~ 切ないね…) 「もー、荻ちん、宇佐なんてマニアックだったのに、お客さん多かったね~(笑)  でもほら、カカオは名曲だし~」 そして携帯を取り出すと 「ほら、動画もあるよ」 追い打ちをかける。 (♪切ないよ~夢だけが~ ほろ苦く~ 終わったの~) 荻上はいたたまれなくて身をよじる。 ニヤニヤする大野。 春日部さんは 「ま、まあ待て、これそんな恥ずかしくないだろ?」 「あ、あの、その…弟が……弟に、彼女が出来てお祝いに…」 かなり苦しい言い訳をするが、大野が横で新たに 朽木のレコーダから曲を流し始める。 (♪あなたの声が 聞えるように~ いつも窓を 開けています~) これまた宇佐の中期名曲「露草」だ。切ない慕情曲で、恥ずかしがるようなものではない。 しかし、何やらトラウマがあるようで、春先のフォーク研究会での 飛び降り事件のように突発的に窓へ奪取する荻上。 「ここは3階だ!!」 必死で止める春日部さん。 「えーと、何が起こってるのかな?」 斑目や笹原もやってきたが、部室は阿鼻叫喚の様相を呈した。

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