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*痛い話 【投稿日 2006/04/08】 **[[カテゴリー-斑目せつねえ>http://www7.atwiki.jp/genshikenss/pages/48.html]] 「斑目…」 彼女の言葉が甘く耳をくすぐる。 口付けを交わす。熱い吐息。抱きしめる。柔らかな体。 彼女を全身で感じながら、自身の刻印を刻もうとして… 目が覚める。鳴り響く騒音。 とりあえず騒音の元である目覚ましを止めた。 周りを見渡すと、見慣れた自分の部屋。もちろん一人きり。 「ハァ…」 深くため息をつく。 (彼女と会わなくなって、一体何年経ったと思ってるんだよ…それに今日は、あの二人の…結婚式の日だろうが…何考えてるんだよ、俺…) うなだれて、自嘲する。 斑目と咲が疎遠になって久しい。もともと直接連絡を取るような関係でもなく、咲の卒業以来部室にめったに顔を出さなくなった今では、噂すら聞こえてこない。 そんな斑目に届いた唯一の情報は、高坂と咲の結婚式の招待状だった。 招待状が来た事はうれしかった。自分がまだ忘れられていない証拠だから。 しかし同時に、それは斑目にとって決断の時でもあった。 もうおぼろげにしか思い出せない顔、声、姿。 このまま会わなければ、やがて忘れてしまえるだろう。 姿も、想いも。 そう思っていた。 でも会いたかった。一目でも見たかった。今の彼女を知りたかった。 今更ながら斑目は思い知った。自分が彼女を忘れてなどいなかったと。 今でも自分が彼女を好きなことを。 早々に出席の返事を出し、その日を待った。 待って、待って、待ち望んだ。 斑目には待つことしかできなかった。あの時も、今も。 …そして、待ち望んだ日が来る。 その日斑目はひたすらに咲を見つめていた。 周りの声も、姿も、おぼろげにしかわからない。 ただその笑顔に、こぼす涙に、凛とした姿に見とれ、彼女がこちらを向いて、笑いながら小さく手を振る姿に心臓を飛び上がらせ、高坂と口付けを交わす姿に心を凍らせた。 そして溢れそうになる想いを飲み込む度に、ひたすら酒を飲み…潰れた。 数日後、斑目は『高坂 咲』の自宅に呼ばれた。 居間のソファに向かい合い、他愛のない世間話をする。 不意に咲が席を立ち、斑目の隣に座り直す。 慌てる斑目に、咲は硬い声で尋ねた。 「ねえ、斑目。私に何か言う事はない?」 「…何もないよ」 ぎこちない笑顔と共に返す。 咲はそんな斑目の顔を両手で掴み、真正面から見つめた。 「本当に?」 斑目の目の前に咲の顔がある。真剣に、まっすぐに、自分を見つめている。 彼女の瞳に自分が写る。今にも泣き出しそうな自分が。 無理にでも笑おうとする。 そんな斑目に咲は告げた。 「言って」 「…きです」 「聞こえない」 「好きです」 「もっとはっきり」 「好きです!!!」 叫ぶ。言葉と想いと涙が溢れる。 ぼやけた視界の向こうで、咲が優しく笑っていた。 彼女に抱きつく。彼女も優しく抱きしめる。 「ずっと好きだったんだ。ずっと前から、ずっと…好きで、好きで、好きで、どうしようもなくて…」 吐き出すように斑目は想いを告げた。泣きながら。 そんな斑目の頭を、咲は優しく撫で続けていた。 やがて斑目は咲から離れると、彼女を正面から見つめ、言った。 「愛しています」 「ごめんね…無理に言わせるような事して…」 咲は優しく微笑みながら謝る。そして真剣な表情に変わる。 「気持ちはうれしいけど…私はそれに応えられない。私にはすでに愛する人がいて…私は貴方を愛せない」 それが彼女の答え。 「どうして!?」 斑目が叫ぶ。 咲は悲しそうな顔をして、斑目に告げた。 「それは貴方自身がわかってるでしょ?」 そのまま立ち上がり、背を向ける。 「帰って…もう二度と、会わない」 呆然とする斑目を残し、咲は居間を出て行った。 272 :痛い話 :2006/04/08(土) 19:22:45 ID:??? 「これでよかったの?」 とぼとぼと帰路につく斑目を遠くに見つめながら、咲が高坂に問いかける。 「ごめん…嫌なことをさせて…でも、これ以上あんな斑目先輩を見てられなかったんだ…」 高坂の声も暗い。 「これしかなかったの?」 咲の声が震えている。 「…ごめん」「謝らないで!」 涙を流しながら、咲は高坂を睨みつけた。 「…そうだね。もう謝らない」 そう言って高坂は咲を抱きしめた。そのまま彼女に語りかける。 「僕は貴方を愛します。世界中の誰よりも。永遠に、貴方だけを…」 彼女の返事はない。ただ、咲は高坂をきつく、きつく抱きしめた。 斑目は自宅で一人、ぼんやりとしていた。 涙がこぼれる。慌てて手でぬぐう。 でも、涙は次から次へと溢れ出す。 「あは…」 不意に笑いがこみ上げる。 「あは、あはは!あははははははは!!はーはははは!!!…」 泣きながら大声で笑い続ける。そのまま机から封筒を取り出す。 中にはあの時の、彼女がコスプレした時の写真。 震える手で切り裂く。何度も、何度も。 そして泣き続け、笑い続けた。いつしか眠りに落ちるまで。 翌朝、目が覚めると斑目は自分が酷い状態だと思った。 目と喉が痛い。全身の筋肉が硬直している。熱っぽく、吐き気がする。 昨日を思い出す。心が痛む。自分が完全に振られたことに。 それなのになぜか心が軽くなった気がした。 (そうか。簡単な事だったんだ) 何がなのかは斑目にもわからない。ただ、そう思った。 ある日、高坂夫婦のもとに一通の手紙が届いた。送り主の住所が書かれていない手紙には、「ありがとう」とだけ記されていた。 その後の斑目を二人は知らない。
*痛い話 【投稿日 2006/04/08】 **[[カテゴリー-斑目せつねえ>http://www7.atwiki.jp/genshikenss/pages/48.html]] 「斑目…」 彼女の言葉が甘く耳をくすぐる。 口付けを交わす。熱い吐息。抱きしめる。柔らかな体。 彼女を全身で感じながら、自身の刻印を刻もうとして… 目が覚める。鳴り響く騒音。 とりあえず騒音の元である目覚ましを止めた。 周りを見渡すと、見慣れた自分の部屋。もちろん一人きり。 「ハァ…」 深くため息をつく。 (彼女と会わなくなって、一体何年経ったと思ってるんだよ…それに今日は、あの二人の…結婚式の日だろうが…何考えてるんだよ、俺…) うなだれて、自嘲する。 斑目と咲が疎遠になって久しい。もともと直接連絡を取るような関係でもなく、咲の卒業以来部室にめったに顔を出さなくなった今では、噂すら聞こえてこない。 そんな斑目に届いた唯一の情報は、高坂と咲の結婚式の招待状だった。 招待状が来た事はうれしかった。自分がまだ忘れられていない証拠だから。 しかし同時に、それは斑目にとって決断の時でもあった。 もうおぼろげにしか思い出せない顔、声、姿。 このまま会わなければ、やがて忘れてしまえるだろう。 姿も、想いも。 そう思っていた。 でも会いたかった。一目でも見たかった。今の彼女を知りたかった。 今更ながら斑目は思い知った。自分が彼女を忘れてなどいなかったと。 今でも自分が彼女を好きなことを。 早々に出席の返事を出し、その日を待った。 待って、待って、待ち望んだ。 斑目には待つことしかできなかった。あの時も、今も。 …そして、待ち望んだ日が来る。 その日斑目はひたすらに咲を見つめていた。 周りの声も、姿も、おぼろげにしかわからない。 ただその笑顔に、こぼす涙に、凛とした姿に見とれ、彼女がこちらを向いて、笑いながら小さく手を振る姿に心臓を飛び上がらせ、高坂と口付けを交わす姿に心を凍らせた。 そして溢れそうになる想いを飲み込む度に、ひたすら酒を飲み…潰れた。 数日後、斑目は『高坂 咲』の自宅に呼ばれた。 居間のソファに向かい合い、他愛のない世間話をする。 不意に咲が席を立ち、斑目の隣に座り直す。 慌てる斑目に、咲は硬い声で尋ねた。 「ねえ、斑目。私に何か言う事はない?」 「…何もないよ」 ぎこちない笑顔と共に返す。 咲はそんな斑目の顔を両手で掴み、真正面から見つめた。 「本当に?」 斑目の目の前に咲の顔がある。真剣に、まっすぐに、自分を見つめている。 彼女の瞳に自分が写る。今にも泣き出しそうな自分が。 無理にでも笑おうとする。 そんな斑目に咲は告げた。 「言って」 「…きです」 「聞こえない」 「好きです」 「もっとはっきり」 「好きです!!!」 叫ぶ。言葉と想いと涙が溢れる。 ぼやけた視界の向こうで、咲が優しく笑っていた。 彼女に抱きつく。彼女も優しく抱きしめる。 「ずっと好きだったんだ。ずっと前から、ずっと…好きで、好きで、好きで、どうしようもなくて…」 吐き出すように斑目は想いを告げた。泣きながら。 そんな斑目の頭を、咲は優しく撫で続けていた。 やがて斑目は咲から離れると、彼女を正面から見つめ、言った。 「愛しています」 「ごめんね…無理に言わせるような事して…」 咲は優しく微笑みながら謝る。そして真剣な表情に変わる。 「気持ちはうれしいけど…私はそれに応えられない。私にはすでに愛する人がいて…私は貴方を愛せない」 それが彼女の答え。 「どうして!?」 斑目が叫ぶ。 咲は悲しそうな顔をして、斑目に告げた。 「それは貴方自身がわかってるでしょ?」 そのまま立ち上がり、背を向ける。 「帰って…もう二度と、会わない」 呆然とする斑目を残し、咲は居間を出て行った。 「これでよかったの?」 とぼとぼと帰路につく斑目を遠くに見つめながら、咲が高坂に問いかける。 「ごめん…嫌なことをさせて…でも、これ以上あんな斑目先輩を見てられなかったんだ…」 高坂の声も暗い。 「これしかなかったの?」 咲の声が震えている。 「…ごめん」「謝らないで!」 涙を流しながら、咲は高坂を睨みつけた。 「…そうだね。もう謝らない」 そう言って高坂は咲を抱きしめた。そのまま彼女に語りかける。 「僕は貴方を愛します。世界中の誰よりも。永遠に、貴方だけを…」 彼女の返事はない。ただ、咲は高坂をきつく、きつく抱きしめた。 斑目は自宅で一人、ぼんやりとしていた。 涙がこぼれる。慌てて手でぬぐう。 でも、涙は次から次へと溢れ出す。 「あは…」 不意に笑いがこみ上げる。 「あは、あはは!あははははははは!!はーはははは!!!…」 泣きながら大声で笑い続ける。そのまま机から封筒を取り出す。 中にはあの時の、彼女がコスプレした時の写真。 震える手で切り裂く。何度も、何度も。 そして泣き続け、笑い続けた。いつしか眠りに落ちるまで。 翌朝、目が覚めると斑目は自分が酷い状態だと思った。 目と喉が痛い。全身の筋肉が硬直している。熱っぽく、吐き気がする。 昨日を思い出す。心が痛む。自分が完全に振られたことに。 それなのになぜか心が軽くなった気がした。 (そうか。簡単な事だったんだ) 何がなのかは斑目にもわからない。ただ、そう思った。 ある日、高坂夫婦のもとに一通の手紙が届いた。送り主の住所が書かれていない手紙には、「ありがとう」とだけ記されていた。 その後の斑目を二人は知らない。

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